【実施例】
【0039】
1.電池の製造
(実施例1)
(1)正極の作製
ニッケルに対して亜鉛3重量%、コバルト1重量%、マグネシウム0.4重量%となるように、硫酸ニッケル、硫酸亜鉛、硫酸コバルト及び硫酸マグネシウムの混合水溶液を攪拌しながら、この混合水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を徐々に添加して反応させ、ここでの反応中、pHを13〜14に安定させて、亜鉛、コバルト及びマグネシウムを固溶した水酸化ニッケルの複合粒子を析出させた。
得られた複合粒子を10倍の量の純水で3回洗浄した後、脱水、乾燥することにより、正極活物質36としての水酸化ニッケル粒子を作製した。
【0040】
次に、作成した水酸化ニッケル粒子100重量部に、10重量部の水酸化コバルト、40重量部のHPC(ヒドロキシプロピルセルロース)のディスバージョン液及び0.3重量部の酸化亜鉛(正極添加材38)を混合して正極合剤スラリーを調製し、この正極合剤スラリーを正極基板としての発泡ニッケルシートに塗着及び充填した。正極合剤スラリーが付着した発泡ニッケルシートを乾燥後、ロール圧延して裁断し、正極を得た。ここで、得られた正極中の正極合剤は、正極添加材と粉末状の導電剤とが正極活物質間に存在する態様をなしている。
【0041】
(2)水素吸蔵合金及び負極の作製
先ず、20重量%のランタン、40重量%のプラセオジム、40重量%のネオジムを含む希土類成分を調製した。得られた希土類成分、マグネシウム、ニッケル、アルミニウムを秤量して、これらがモル比で0.85:0.15:3.15:0.25の割合となる混合物を調製した。得られた混合物は、誘導溶解炉で溶解され、インゴットとされた。次いで、このインゴットに対し、温度1000℃のアルゴン雰囲気下にて10時間加熱する熱処理を施し、その組成が(La
0.20Pr
0.40Nd
0.40)
0.85Mg
0.15Ni
3.15Al
0.25となる水素吸蔵合金のインゴットを得た。この後、このインゴットを不活性雰囲気中で機械的に粉砕して篩分けし、400メッシュ〜200メッシュの間に残る水素吸蔵合金粒子からなる粉末を選別した。得られた水素吸蔵合金の粉末に対しレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置によりその粒度分布を測定した結果、水素吸蔵合金の粉末の重量積分50%にあたる粒子の平均粒径は45μmであった。
【0042】
得られた水素吸蔵合金の粉末100重量部に対し、ポリアクリル酸ナトリウム0.4重量部、カルボキシメチルセルロース0.1重量部、スチレンブタジエンゴム(SBR)のディスバージョン(固形分50重量%)1.0重量部(固形分換算)、カーボンブラック1.0重量部、および水30重量部を添加して混練し、負極合剤スラリーを調製した。
【0043】
この負極合剤スラリーを負極基板としての鉄製の孔あき板の両面に均等、且つ、厚さが一定となるように塗布した。なお、この孔あき板は60μmの厚みを有し、その表面にはニッケルめっきが施されている。
スラリーの乾燥後、水素吸蔵合金の粉末が付着した孔あき板を更にロール圧延して裁断し、負極1枚あたりの水素吸蔵合金量が9.0gとなるAAサイズ用の負極26を作成した。
【0044】
(3)ニッケル水素二次電池の組み立て
得られた正極24及び負極26をこれらの間にセパレータ28を挟んだ状態で渦巻状に巻回し、電極群22を作製した。ここでの電極群22の作製に使用したセパレータ28はポリプロピレン繊維製不織布から成り、その厚みは0.1mm(目付量40g/m
2)であった。
【0045】
有底円筒形状の外装缶10内に上記電極群22を収納するとともに、リチウム、カリウムを含有した30重量%の水酸化ナトリウム水溶液から成る8N(規定度)のアルカリ電解液を注液した。この後、蓋板14等で外装缶10の開口を塞ぎ、公称容量が2000mAhのAAサイズのニッケル水素二次電池2を組み立てた。このニッケル水素二次電池を電池A1と称する。
【0046】
(実施例2〜4)
正極を作製する際に、正極合剤スラリーに混合する酸化亜鉛の量を表1に示すように0.5、1.0、1.5重量部としたこと以外は、実施例1の電池A1と同様なニッケル水素二次電池(電池B1、C1、D1)を組み立てた。
【0047】
(比較例1〜6)
正極を作製する際に、正極合剤スラリーに混合する酸化亜鉛の量を表1に示すように0、0.1、0.2、2.0、3.0、5.0重量部としたこと以外は、実施例1の電池A1と同様なニッケル水素二次電池(電池E1、F1、G1、H1、I1、J1)を組み立てた。
【0048】
(比較例7〜17)
正極を作製する際に、水酸化ニッケルにマグネシウムを固溶させずに正極活物質を作製し、且つ、正極合剤スラリーに混合する酸化亜鉛の量を表1に示すように0、0.1、0.2、0.3、0.5、1.0、1.5、2.0、3.0、5.0、9.0重量部としたこと以外は、実施例1の電池A1と同様なニッケル水素二次電池(電池K1、L1、M1、N1、O1、P1、Q1、R1、S1、T1、U1)を組み立てた。
【0049】
(実施例5〜9)
正極を作製する際に正極合剤スラリーに酸化亜鉛を混合させず、負極を作製する際に負極合剤スラリーに酸化亜鉛を混合し、当該負極合剤スラリーに混合する酸化亜鉛の量を水素吸蔵合金100重量部に対して表2に示すように0.2、0.3、0.5、1.0、1.5重量部としたこと以外は、実施例1の電池A1と同様なニッケル水素二次電池(電池A2、B2、C2、D2、E2)を組み立てた。
【0050】
(比較例18〜22)
負極を作製する際に、負極合剤スラリーに混合する酸化亜鉛の量を表2に示すように0、0.1、2.0、3.0、5.0重量部としたこと以外は、実施例5の電池A2と同様なニッケル水素二次電池(電池F2、G2、H2、I2、J2)を組み立てた。
【0051】
(比較例23〜33)
正極を作製する際に、水酸化ニッケルにマグネシウムを固溶させずに正極活物質を作製し、且つ、負極合剤スラリーに混合する酸化亜鉛の量を表2に示すように0、0.1、0.2、0.3、0.5、1.0、1.5、2.0、3.0、5.0、9.0重量部としたこと以外は、実施例5の電池A2と同様なニッケル水素二次電池(電池K2、L2、M2、N2、O2、P2、Q2、R2、S2、T2、U2)を組み立てた。
【0052】
2.ニッケル水素二次電池の評価
(1)初期活性化処理
電池A1〜U1及び電池A2〜U2に対し、温度25℃の下にて、0.1Cの充電電流で16時間の充電を行った後に、0.2Cの放電電流で電池電圧が0.5Vになるまで放電させる初期活性化処理を2回繰り返した。
【0053】
(2)放置後の作動電圧低下量
初期活性化処理済みの電池A1〜U1及び電池A2〜U2に対し、25℃の雰囲気下にて、1.0Cの電流で1時間充電し、その後、同一の雰囲気下にて1.0Cの電流で電池電圧が0.8Vになるまで放電させたときの電池の放電容量測定を行い、このときの全放電時間の中間時点での電池の電圧を初期作動電圧として求めた。
【0054】
更に、各電池について、25℃の雰囲気下にて、1.0Cの電流で1時間充電し、その後、60℃の雰囲気下にて1ヶ月間保存(室温で1年間保存した状態に相当)した後、当該電池を25℃の雰囲気下にて、1.0Cの電流で電池電圧が0.8Vになるまで放電する放電容量測定を行い、このときの全放電時間の中間時点での電池の電圧を放置後作動電圧として求めた。そして、(II)式で示される放置後作動電圧低下量(単位:mV)を求めた。
放置後作動電圧低下量=(放置後作動電圧)−(初期作動電圧)・・・(II)
得られた結果を放置後作動電圧低下量として表1及び表2に示した。
【0055】
また、正極にマグネシウムが固溶されている(水酸化ニッケル粒子にマグネシウムが固溶されている)電池A1〜J1と、正極にマグネシウムが固溶されていない(水酸化ニッケル粒子にマグネシウムが固溶されていない)電池K1〜U1とにおいて、正極添加剤としての酸化亜鉛の添加量と作動電圧低下量との関係を表1の結果を基にして求め、その結果を
図2に示した。
【0056】
更に、正極にマグネシウムが固溶されている(水酸化ニッケル粒子にマグネシウムが固溶されている)電池A2〜J2と、正極にマグネシウムが固溶されていない(水酸化ニッケル粒子にマグネシウムが固溶されていない)電池K2〜U2とにおいて、負極添加剤としての酸化亜鉛の添加量と作動電圧低下量との関係を表2の結果を基にして求め、その結果を
図3に示した。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
(3)表1及び
図2の結果について
表1及び
図2から以下のことが明らかである。即ち、正極(水酸化ニッケル)へのマグネシウムの固溶がある電池の場合、正極への酸化亜鉛の添加による放置後の作動電圧の低下抑制効果は、水酸化ニッケル100重量部に対する酸化亜鉛の添加量を0.3〜1.5重量部としたところで顕著に現れている。
【0060】
これは、正極の水酸化ニッケルにマグネシウムが固溶されていると、負極の水素吸蔵合金からのマグネシウムの溶出が抑制され、更に、正極へ添加された酸化亜鉛(正極添加材)との相乗効果で、水素吸蔵合金表面での水酸化マグネシウムの形成が抑制されているためであると考えられる。
【0061】
これに対し、正極(水酸化ニッケル)へのマグネシウムの固溶がない電池の場合、正極への酸化亜鉛の添加による放置後の作動電圧の低下抑制効果は、水酸化ニッケル100重量部に対する酸化亜鉛の添加量を2.0〜5.0重量部としたところでみられるが、十分なものではない。
【0062】
これは、正極の水酸化ニッケルにマグネシウムが固溶されていないと、水素吸蔵合金から電解液中にマグネシウムが優先的に溶出してしまう。そして、正極に酸化亜鉛(正極添加材)は添加されているものの、この添加材で電解液中に溶出したマグネシウムを捕捉しきれていないので、水素吸蔵合金の表面で水酸化マグネシウムが形成されていると考えられる。その結果、電池の作動電圧は低下してしまい、作動電圧の低下抑制効果はあまり発揮されていないものと考えられる。
【0063】
(4)表2及び
図3の結果について
次に、表2及び
図3から以下のことが明らかである。即ち、正極(水酸化ニッケル)へのマグネシウムの固溶がある電池の場合、負極への酸化亜鉛の添加による放置後の作動電圧の低下抑制効果は、水素吸蔵合金100重量部に対する酸化亜鉛の添加量を0.2〜1.5重量部としたところで顕著に現れている。
【0064】
これは、正極の水酸化ニッケルにマグネシウムが固溶されていると、負極の水素吸蔵合金からのマグネシウムの溶出が抑制され、更に、負極へ添加された酸化亜鉛(負極添加材)との相乗効果で、水素吸蔵合金の表面で水酸化マグネシウムの形成が抑制されているためであると考えられる。
【0065】
ここで、負極への酸化亜鉛の添加が効果を発揮する下限の量(0.2重量部)は、正極への酸化亜鉛の添加が効果を発揮する下限の量(0.3重量部)より少ないことがわかる。これは、通常ニッケル水素二次電池においては、負極の容量を正極より大きくする電池構成をとるために、負極の水素吸蔵合金量は正極の活物質量より多くなる。このため、正極及び負極に実際に添加される添加材の量が同じでも、極板に占める添加材の割合は負極の方が少なくなるためと考えられる。
【0066】
次いで、正極(水酸化ニッケル)へのマグネシウムの固溶がない電池の場合、負極への酸化亜鉛の添加による放置後の作動電圧の低下抑制効果は、水素吸蔵合金100重量部に対する酸化亜鉛の添加量を2.0〜5.0重量部としたところでみられるが、十分なものではない。
【0067】
これは、正極の水酸化ニッケルにマグネシウムが固溶されていないと、水素吸蔵合金から電解液中にマグネシウムが優先的に溶出してしまう。そして、負極に酸化亜鉛(負極添加材)は添加されているものの、この添加材で電解液中に溶出したマグネシウムを捕捉しきれていないので、水素吸蔵合金の表面で水酸化マグネシウムが形成されていると考えられる。その結果、作動電圧は低下してしまい、作動電圧の低下抑制効果はあまり発揮されていないものと考えられる。
【0068】
(5)以上のように、本発明のニッケル水素二次電池は、正極の水酸化ニッケルにマグネシウムを固溶させていることと、正極あるいは負極に添加材としての酸化亜鉛を添加していることとの相乗効果で、正極の水酸化ニッケルにマグネシウムが固溶していない電池に比べ、より少ない酸化亜鉛の添加量で大きな作動電圧低下抑制効果を得ることができ、その工業的価値は極めて高い。
【0069】
なお、本実施例では、正極及び負極のうちの一方に添加材としての酸化亜鉛を添加したが、正極及び負極の両方に酸化亜鉛を添加しても同様の効果が得られる。
【0070】
また、本実施例では、添加材として酸化亜鉛を用いたが、添加材としては、亜鉛(金属亜鉛)や炭酸亜鉛、硫酸亜鉛、水酸化亜鉛を用いても同様の効果が得られる。これは、これら亜鉛や亜鉛化合物がアルカリ電解液中に溶解することで効果を発現するため、初期の添加形態には影響されないからである。
【0071】
また、本発明は、上記した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能であり、例えば、ニッケル水素二次電池は、角形電池であってもよく、機械的な構造は格別限定されることはない。