特許第5733861号(P5733861)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5733861
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】機械加工性改善組成物
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20060101AFI20150521BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   B22F1/00 V
   B22F1/00 J
   C22C33/02 103A
【請求項の数】11
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2011-542053(P2011-542053)
(86)(22)【出願日】2009年12月21日
(65)【公表番号】特表2012-513538(P2012-513538A)
(43)【公表日】2012年6月14日
(86)【国際出願番号】SE2009000532
(87)【国際公開番号】WO2010074627
(87)【国際公開日】20100701
【審査請求日】2012年12月21日
(31)【優先権主張番号】0802656-9
(32)【優先日】2008年12月22日
(33)【優先権主張国】SE
(31)【優先権主張番号】61/193,841
(32)【優先日】2008年12月30日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509020295
【氏名又は名称】ホガナス アクチボラグ (パブル)
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アンデルソン、オロフ
(72)【発明者】
【氏名】フー、ボー
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−183701(JP,A)
【文献】 特開2000−160307(JP,A)
【文献】 特開平01−255604(JP,A)
【文献】 特開平08−144028(JP,A)
【文献】 特開2004−115847(JP,A)
【文献】 特開平02−061014(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/013145(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00〜8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄をベースとした粉末に加えて、粉末状の機械加工性改善添加剤を含む鉄をベースとした粉末組成物であって、
前記機械加工性改善添加剤が、白雲母であり、この白雲母の含量が、鉄をベースとした粉末組成物の0.5重量%未満であり、
前記機械加工性改善添加剤の粒径X99が50μm未満である、鉄をベースとした粉末組成物。
【請求項2】
鉄をベースとした粉末に加えて、粉末状の機械加工性改善添加剤を含む鉄をベースとした粉末組成物であって、
前記機械加工性改善添加剤が、白雲母であり、この白雲母の含量が、鉄をベースとした粉末組成物の0.5重量%未満であり、
前記機械加工性改善添加剤の粒径X50が15μm未満である、鉄をベースとした粉末組成物。
【請求項3】
鉄をベースとした粉末に加えて、粉末状の機械加工性改善添加剤を含む鉄をベースとした粉末組成物であって、
前記機械加工性改善添加剤が、ベントナイトでありこのベントナイトの含量が、鉄をベースとした粉末組成物の0.05〜1重量%であり、
前記機械加工性改善添加剤の粒径X99が50μm未満である、鉄をベースとした粉末組成物。
【請求項4】
鉄をベースとした粉末に加えて、粉末状の機械加工性改善添加剤を含む鉄をベースとした粉末組成物であって、
前記機械加工性改善添加剤が、ベントナイトであり、このベントナイトの含量が、鉄をベースとした粉末組成物の0.05〜1重量%であり、
前記機械加工性改善添加剤の粒径X50が15μm未満である、鉄をベースとした粉末組成物。
【請求項5】
機械加工性改善添加剤の含量が、鉄をベースとした粉末組成物の0.05〜0.5重量%である、請求項1から4までのいずれか一項に記載の鉄をベースとした粉末組成物。
【請求項6】
鉄をベースとした粉末が、10重量%未満の合金化元素を含む、請求項1から5までのいずれか一項に記載の鉄をベースとした粉末組成物。
【請求項7】
鉄をベースとした粉末組成物における機械加工性改善添加剤としての、0.5重量%未満の含量での白雲母の使用であって、
前記機械加工性改善添加剤の粒径X99が50μm未満であり、及び/又は、前記機械加工性改善添加剤の粒径X50が15μm未満である、上記使用
【請求項8】
鉄をベースとした粉末組成物における機械加工性改善添加剤としての、1重量%未満の含量でのベントナイトの使用であって、
前記機械加工性改善添加剤の粒径X99が50μm未満であり、及び/又は、前記機械加工性改善添加剤の粒径X50が15μm未満である、上記使用
【請求項9】
鉄をベースとした粉末組成物を調製する方法であって、
鉄をベースとした粉末を供給すること、及び
鉄をベースとした粉末を、鉄をベースとした粉末組成物の0.5重量%未満の含量の機械加工性改善添加剤としての白雲母と混合すること
を含む、鉄をベースとした粉末組成物を調製する方法であって、
前記機械加工性改善添加剤の粒径X99が50μm未満であり、及び/又は、前記機械加工性改善添加剤の粒径X50が15μm未満である、上記方法
【請求項10】
鉄をベースとした粉末組成物を調製する方法であって、
鉄をベースとした粉末を供給すること、及び
鉄をベースとした粉末を、鉄をベースとした粉末組成物の1重量%未満の含量の機械加工性改善添加剤としてのベントナイトと混合すること
を含む、鉄をベースとした粉末組成物を調製する方法であって、
前記機械加工性改善添加剤の粒径X99が50μm未満であり、及び/又は、前記機械加工性改善添加剤の粒径X50が15μm未満である、上記方法
【請求項11】
請求項1から6までのいずれか一項に記載の鉄をベースとした粉末組成物を調製すること、
鉄をベースとした粉末組成物を400〜1200MPaの圧縮成形圧で圧縮成形すること、
圧縮成形部品を1000〜1300℃の温度で焼結すること、及び
場合により、焼結部品を熱処理することを含む、
改善された機械加工性を有する鉄をベースとした焼結部品を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末金属部品(powder metal parts:焼結部品)の製造用の粉末金属組成物、並びに改善された機械加工性を有する粉末金属部品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
部品の粉末冶金による製造の主要な利点の1つは、圧縮成形及び焼結により、最終的形状の又は最終的形状に非常に近い半製品(blanks)を製造することが可能になることである。しかし、その後の機械加工が必要な場合がある。例えば、高許容差要求(high tolerance demands)のため又は最終部品が直接プレスすることはできないが、焼結後に機械加工を必要とするような形状を有するため、これが必要である場合がある。より具体的には、圧縮成形方向に対して横方向の穴、アンダーカット及びネジ山などの形状は、後の機械加工を必要とする。
【0003】
より高い強度の、ひいては硬度もより高い、新たな焼結鋼を継続的に開発することにより、機械加工は、部品の粉末冶金による製造における主要な問題の1つになっている。粉末冶金による製造が部品を製造する最も費用対効果が高い方法であるかどうかを評価するとき、機械加工は制限要因であることが多い。
【0004】
今日、焼結後の成分の機械加工を容易にするために鉄をベースとした粉末混合物に添加される多くの公知の物質が存在する。最も一般的な粉末添加剤は、例えば、焼結鋼の機械加工性がそのような粉末の混合によってどのように改善されるかを記載しているEP0183666に言及されている、MnSである。
【0005】
米国特許第4927461号は、焼結後の機械加工性を改善するための鉄をベースとした粉末混合物への0.01及び0.5重量%の六方晶BN(窒化ホウ素)の添加を記載している。
【0006】
米国特許第5631431号は、鉄をベースとした粉末組成物の機械加工性を改善するための添加剤に関する。この特許によれば、添加剤は、粉末組成物の0.1〜0.6重量%の量で含まれているフッ化カルシウム粒子を含む。
【0007】
特願平08−095649号は、機械加工性向上剤を記載している。該向上剤は、Al−SiO−CaOを含み、灰長石(アノルタイト)又はゲーレナイト結晶構造を有する。アノルタイトは、6〜6.5のモース硬度を有する長石群に属するテクトケイ酸塩であり、ゲーレナイトは、5〜6のモース硬度を有するソロケイ酸塩である。
【0008】
米国特許第7300490号は、硫化マンガン粉末(MnS)及びリン酸カルシウム粉末又はヒドロキシアパタイト粉末の組合せからなるプレスされた焼結部品を製造するための粉末混合物を記載している。
【0009】
WO公開2005/102567は、機械加工向上剤として用いられる六方晶窒化ホウ素及びフッ化カルシウム粉末の組合せを開示している。
【0010】
硫黄と組み合わせた酸化ホウ素、ホウ酸又はホウ酸アンモニウムなどのホウ素含有粉末は、米国特許第5938814号に記載されている。
【0011】
機械加工添加剤として用いられる粉末の他の組合せは、EP1985393A1に記載されており、該組合せは、タルク及びステアタイト及び脂肪酸から選択される少なくとも1つを含む。
【0012】
機械加工向上剤としてのタルクは、特開平1−255604号公報に言及されている。タルクは、水酸化マグネシウム八面体層を取り囲むケイ素四面体層からなるフィロケイ酸塩の群に属する。
【0013】
出願EP1002883は、金属部品、特に弁座インサートを製造するための粉末状金属ブレンド混合物を記載している。記載されたブレンドは、低い摩擦及び滑り摩耗、並びに機械加工性の改善を得るために0.5〜5%の固体潤滑剤を含む。実施形態の1つにおいて、雲母が固体潤滑剤として記載されている。耐摩耗性及び高温安定部品の製造に用いられるこれらの種類の粉末混合物は、高い含量、一般的に約10重量%超の合金化元素(alloying elements)、及び典型的には炭化物である硬質相を常に含む。
【0014】
米国特許第4,274,875号は、圧縮成形及び焼結の前に粉末状雲母を0.5〜2重量%の量で金属粉末に加えるステップを含む、粉末冶金によるEP1002883に記載されているものと同様な物品の製造の方法を教示している。具体的には、任意の種類の雲母を用いることができることが開示されている。
【0015】
さらに、特開平10−317002号公報は、低い摩擦係数を有する粉末又は焼結圧縮成形体を記載している。粉末は、1〜10重量%の硫黄、3〜25重量%のモリブデン及び残余鉄の化学組成を有する。さらに、固体潤滑剤及び硬質相物質が添加されている。
【0016】
プレスされた焼結部品の機械加工は、非常に複雑であり、部品の合金化系の種類、部品の焼結密度、並びに部品のサイズ及び形状などのパラメーターによる影響を受ける。機械加工操作の種類及び機械加工の速度が、機械加工操作の結果に対して大きな重要性を有するパラメーターであることも明らかである。粉末冶金組成物に加えられる提案された機械加工向上剤の多様性は、PM機械加工技術の複雑な性質を反映している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、焼結鋼の機械加工性を改善するための新規な添加剤を開示する。特に10重量%未満の合金化元素の含量を有し、硬質相物質を含まない低合金焼結鋼向けである。新規な添加剤は、ドリル穴あけ、旋削、フライス研削及びねじ切りなどの切りくず除去操作にかけられるそのような焼結鋼の機械加工性を改善するために設計されている。さらに新規な添加剤は、高速度鋼、炭化タングステン、サーメット、セラミック及び立方晶窒化ホウ素などのいくつかの種類の工具材料により機械加工される部品に用いることができ、工具は、被覆することもできる。
【0018】
したがって、本発明の目的は、機械加工性を改善するための粉末金属組成物用の新規な添加剤を提供することである。
【0019】
本発明の他の目的は、様々な種類の焼結鋼の様々な機械加工操作で用いられるそのような添加剤を提供することである。
【0020】
本発明の他の目的は、プレスされた焼結部品の機械的特性に対する影響を全く有さない又はごくわずかな影響を有する新規な機械加工性向上物質を提供することである。
【0021】
本発明の他の目的は、新規な機械加工性向上添加剤を含む粉末冶金組成物、並びにこの組成物から圧縮成形部品を調製する方法を提供することである。
【0022】
定義された特殊な種類のケイ酸塩を含む機械加工性向上剤を粉末組成物に含めることにより、様々な微細構造及び焼結密度を有する焼結部品の機械加工性の驚くほどに大きな改善が達成されることが、今回発見された。さらに、機械加工性に対する正の効果が非常に低い添加量でさえ得られ、それにより、追加の物質を添加することによる圧縮性に対する負の影響は、最小限となる。添加されたケイ酸塩による機械的特性に対する影響は許容できることも示された。
【0023】
したがって、本発明は、鉄をベースとした粉末に加えて、より少ない量の機械加工性改善添加剤(machinability improving additive)を含み、前記添加剤がフィロケイ酸塩の群からの少なくとも1つのケイ酸塩を含む、鉄をベースとした粉末組成物を提供する。本発明はまた、鉄をベースとした粉末組成物における機械加工性改善剤としてのフィロケイ酸塩の使用を提供する。本発明はさらに、上のような鉄をベースとした粉末組成物を調製するステップ、鉄をベースとした粉末組成物を400〜1200MPaの圧縮成形圧で圧縮成形するステップ、圧縮成形部品を1000〜1300℃の温度で焼結するステップ、及び、場合により、焼結部品を熱処理するステップを含む、改善された機械加工性を有する鉄をベースとした焼結部品を製造する方法を提供する。
【0024】
本発明によれば、上の目的、並びに下の考察から明らかな他の目的の少なくとも1つは、本発明の様々な態様により達成される。
【0025】
本発明の一態様によれば、鉄をベースとした粉末に加えて、より少ない量の粉末状の機械加工性改善添加剤を含み、前記添加剤がフィロケイ酸塩からなる群からの少なくとも1つのケイ酸塩を含む、鉄をベースとした粉末組成物が提供される。
【0026】
フィロケイ酸塩は、例えば、ベントナイト、カオリナイト及びスメクタイトなどの粘土鉱物のうちから、緑泥石のうちから、又は金雲母、白雲母、黒雲母及び真珠雲母などの雲母のうちから選択することができる。
【0027】
本発明の他の態様によれば、鉄をベースとした粉末組成物における機械加工性改善添加剤に含まれるフィロケイ酸塩の使用が提供される。
【0028】
本発明の他の態様によれば、鉄をベースとした粉末を提供すること、及び鉄をベースとした粉末を、少なくとも1つのフィロケイ酸塩を含む粉末状の機械加工性改善添加剤と混合することを含む、鉄をベースとした粉末組成物を調製する方法が提供される。
【0029】
本発明の他の態様によれば、上の態様による鉄をベースとした粉末組成物を調製すること、鉄をベースとした粉末組成物を400〜1200MPaの圧縮成形圧で圧縮成形すること、圧縮成形部品を1000〜1300℃の温度で焼結すること、及び場合により、焼結部品を熱処理することを含む、改善された機械加工性を有する鉄をベースとした焼結部品を製造する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】機械加工性指数、例えば、1、3、4、5、7及び8を得るためのインサートカッティングエッジ(cutting edge)の摩耗、すなわち、図中の2つの矢印の間の距離をどのように測定するかの概略図である。
図2】相対的機械加工性改善指数に対するそれぞれ機械加工性改善剤である白雲母及び金雲母の平均粒径の効果を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
機械加工性向上剤は、5未満、好ましくは4未満のモース硬度を有することを特徴としうるフィロケイ酸塩として分類される、定義されたケイ酸塩を含む。フィロケイ酸塩は、水酸化物の八面体構造の層と結合したケイ素四面体の層を含む薄片結晶構造を有する。好ましくは四面体におけるケイ素原子のいくつかがアルミニウム原子などの他の原子により置換されていてよく、したがって、該ケイ酸塩は、アルミン酸ケイ酸塩と表される。或いは、アルミニウム原子が八面体構造に存在するか、又はアルミニウム原子が両方の構造に存在する。
【0032】
新規な機械加工性向上添加剤に含めることができるケイ酸塩の例は、以下の通りである。
以下のような雲母:
金雲母 KMg(OH,F)[AlSi10]、
白雲母 KAl(OH)[AlSi10]、
黒雲母 K(Mg,Fe)(OH)[AlSi10]及び
真珠雲母 CaAl(OH)[AlSi10];
緑泥石群に属するケイ酸塩;
以下のような粘土鉱物:
カオリナイト Al(OH)[Si];
以下のようなスメクタイト群に属する粘土鉱物:
アルイエット石 Ca0.2Mg(Si,Al)20(OH)*4HO、
バイデライト(Na,Ca0.50.3Al(Si,Al)10(OH)*nHO、
ヘクトライト Na0.3(Mg,Li)Si10(OH,F)
モンモリロナイト(Na,Ca)0.33(Al,Mg)Si10(OH)*nHO、
ノントロナイト Na0.3Fe(Si,Al)10(OH)*nHO、
サポナイト Ca0.25(Mg,Fe)(Si,Al)10(OH)*nHO、
ステベンサイト(Ca,Na)MgSi10(OH)
ボルコンスコアイト Ca0.3(Cr,Mg,Fe)(Si,Al)10(OH)*4HO及び、
ヤコントバイト(Ca,Na)0.5(Cu,Mg,Fe)Si10(OH)*3HO。
【0033】
通常、ケイ酸塩鉱物は、天然で定義済みの鉱物の組合せとして存在し、したがって、商業的にはモンモリロナイトを含む様々な種類のベントナイトなどの化学的に定義されたケイ酸塩又はそれらの中間体の様々な組合せとして存在する。本発明は、単一の特定の構造により定義されるケイ酸塩に限定されるものでなく、上述のケイ酸塩の組合せ及び中間体も含む。
【0034】
本発明により使用されるケイ酸塩がモース尺度による5未満、好ましくは4未満の硬度を有していてよく、層状構造を有していてよい理由は、そのようなケイ酸塩がより固いケイ酸塩と比較して焼結体の機械加工時に相対的低い温度でさえも機械加工特性に寄与することが今回発見されたことである。したがって、機械加工時に発生した熱によりもたらされる工具に対する負の影響は、避けることができる。より高い硬度を有するケイ酸塩は、圧縮成形及び型からの圧縮成形体の排出時の潤滑に寄与しない可能性がある。添加されるケイ酸塩の低い硬度は、ひいては、その層状結晶構造と相まって好適であり、潤滑特性を向上させ、それにより、従来の潤滑剤の添加量の低下を可能にし、より高い圧粉体密度(green densities:未焼結密度)が達成されることを可能にする。
【0035】
さらに、特定の理論に束縛されることなく、ケイ酸塩中のアルミニウム原子の存在が、機械加工される部品の金属組織にかかわりなく、機械加工特性に対する正の効果を有し、良好な機械加工特性に寄与する可能性があると考えられる。
【0036】
新規な添加剤は、硫化マンガン、六方晶窒化ホウ素、他のホウ素含有物質及び/又はフッ化カルシウムなどの他の公知の機械加工向上添加剤を含んでいてよく、又はそれらと混合されていてよい。
【0037】
鉄をベースとした粉末組成物中の添加剤の量は、0.05重量%から1.0重量%の間、好ましくは0.05%から0.5%の間、好ましくは0.05%から0.4%の間、好ましくは0.05%から0.3%の間、より好ましくは0.1重量%から0.3重量%の間であってよい。より低い量は、機械加工性に対する意図する効果をもたらさない可能性があり、より高い量は、機械的特性に負の影響を及ぼす可能性がある。したがって、鉄をベースとした粉末組成物に添加する機械加工性改善剤の量は、0.5重量%未満、好都合には0.49重量%以下、好ましくは0.45重量%以下、より好ましくは0.4重量%以下、例えば0.3重量%以下など、又は0.2重量%以下、又は0.15重量%以下であってよい。
【0038】
本発明による新規な添加剤の粒径X99は、50μm未満、好ましくは30μm未満、より好ましくは20μm未満、例えば15μm以下などであってよい。対応する平均粒径X50は、20μm未満、好ましくは15μm未満、より好ましくは10μm以下、例えば5μm以下などであってよい。粒径X99は、本質的に少なくとも1μmであってよい。粒径が1μm未満である場合、均一な粉末混合物を得ることが困難である可能性がある。50μm超の粒径は、機械加工性及び機械的特性に負の影響を及ぼす可能性がある。
【0039】
本発明の機械加工性改善添加剤の機械加工性改善効果は、機械加工される部品がマルテンサイト構造、又はマルテンサイト構造を含む不均一構造を有する場合に特に顕著でありうる。
【0040】
鉄をベースとした粉末組成物
粉末の種類
この新規な機械加工性改善粉末は、鉄を含む本質的にいかなる粉末組成物にも用いることができる。したがって、鉄をベースとした粉末は、噴霧鉄粉末、還元粉などの純粋鉄粉末であってよい。また、部分的に合金化された鋼粉末と同様に、Ni、Mo、Cr、V、Co、Mn、Cuなどの合金化元素を含むプレアロイ化粉末(pre−alloyed powders)も用いることができる。もちろん、これらの粉末は、混合物で用いることができる。
【0041】
機械加工性改善添加剤は、組成物中に粉末状で存在する。添加剤粉末粒子は、例えば、遊離粉末粒子として鉄をベースとした粉末と混合するか、又は例えば、結合剤により鉄をベースとした粉末粒子に結合させることができる。
【0042】
他の添加剤
本発明による粉末組成物は、黒鉛、結合剤及び潤滑剤などの他の添加剤、並びに他の従来の機械加工性改善剤も含んでいてよい。潤滑剤は、0.05〜2重量%、好ましくは0.1〜1重量%で添加することができる。黒鉛は、0.05〜2重量%、好ましくは0.1〜1重量%で添加することができる。
【0043】
方法
本発明による部品の粉末冶金による製造は、従来の方法で、すなわち、次の方法により実施することができる:鉄をベースとした粉末、例えば、鉄又は鋼粉末をニッケル、銅、モリブデン及び場合により炭素などの任意の所望の合金化元素、並びに本発明による粉末状の機械加工性改善添加剤と混合することができる。合金化元素は、鉄をベースとした粉末へプレアロイ化され若しくは拡散合金化され、又は、混合合金化元素、拡散合金粉末若しくはプレアロイ粉末間の組合せとして添加することもできる。この粉末混合物は、圧縮成形の前に従来の潤滑剤、例えば、ステアリン酸亜鉛又はアミドワックスと混合してもよい。混合物中のより微細な粒子は、結合物質により鉄をベースとした粉末に結合させることができる。その後、粉末混合物をプレス工具で圧縮成形して、最終の形状に近い圧粉体(green body:未焼結体)として知られているものを得ることができる。圧縮成形は、一般的に400〜1200MPaの圧力で行われる。圧縮成形後、圧縮成形体を1000〜1300℃の温度で焼結し、その最終強度、硬度、伸長等が与えられる。場合により、焼結部品をさらに熱処理することができる。
【実施例】
【0044】
本発明を、以下の非限定的な実施例において例示する。
【0045】
機械加工性向上剤
以下の物質を、本発明による機械加工性向上剤の例として用いた。
【0046】
本質的に20μm未満の粒径X99及び以下により酸化物重量%として表した化学組成を有する白雲母含有粉末:
SiO 48.0
Al 33.3
O 10.1
FeO 2.8
MgO 0.3
強熱減量(loss on ignition) 5.5
【0047】
約18μmの平均粒径X50及び本質的に45μm未満の粒径X99、並びに以下により酸化物重量%として表した化学組成を有する金雲母含有粉末:
SiO 39.5
Al 10.3
O 12.8
FeO 10.3
MgO 22.7
CaO 0.5
強熱減量 3.0
【0048】
本質的に20μm未満の粒径X99及び以下により酸化物重量%として表した化学組成を有するスメクタイト群に属する鉱物を含む粉末:
SiO 68.2
Al 10.9
O 0.3
FeO 1.3
MgO 17.0
CaO 1.1
NaO 1.2
強熱減量(強熱減量を測定せず、強熱減量を除外した場合に計算した化学分析)
【0049】
本質的に15μm未満の粒径X99及び以下により酸化物重量%として表した化学組成を有するカルシウムベントナイト含有粉末:
SiO 55.1
Al 23.3
O 2.9
FeO 1.6
MgO 2.9
CaO 4.7
NaO 1.9
強熱減量 9.5
【0050】
例1
(旋削操作により実施された、焼結されたままのPM材料に関する機械加工性の検討)
ベントナイト粉末を金属粉末、すなわちHoganas AB(スウェーデン)から入手可能な水噴霧鉄粉末AHC100.29と混合した。金属粉末は、2重量%の銅粉末、潤滑剤としての0.8%のエチレンビスステアラミド及び黒鉛0.8重量%とも混合した。
【0051】
表1による金属粉末混合物を、ISO3325に準拠した標準化TRS棒及び55mmの外径、35mmの内径、20mmの高さを有するリングに、6.9g/cmの圧粉体密度まで圧縮成形した。
【0052】
TRS棒及びリングを、実験用メッシュベルト炉で10%水素及び90%窒素の混合物中にて1120℃で20分間焼結した。試料の得られた微細構造は、パーライトであった。焼結TRS棒は、ISO3325に準拠した横破断強度(transversal rupture strength)を決定するために用い、焼結リングは、表2でわかるように機械加工性指数を決定するための旋削試験に用いた。
【0053】
機械加工性指数は、バイト(turning tool)上の逃げ面摩耗(flank wear:側面摩耗)、すなわち、インサートカッティングエッジから除去された物質として定義される。図1は、この摩耗をどのように測定するかを開示する。旋削は、炭化タングステンインサートを用いて、冷却剤を用いずに一定の主軸速度と一定の送り(feed)でリングの外径に対して行った。
【0054】
表1は、圧縮成形リングの機械的特性が添加ベントナイトによる影響をほとんど受けないことを示す。しかし、ベントナイトが添加されたリングについて、機械加工性の著しい改善が図2に示されている事実である。ベントナイトを含むリングの機械加工性指数は、同じ切削距離について、この添加剤を含まないリングと比較してほぼ50%減少した(すなわち、インサートカッティングエッジの摩耗が減少した)。
【表1】

【表2】
【0055】
例2
(ドリル穴あけ操作により実施された、焼結されたままのPM材料に関する機械加工性の検討)
白雲母及び金雲母粉末を、0.5%のMo、4%のNi及び1.5%のCuと拡散合金化した純鉄であるHoganas AB(スウェーデン)から入手可能な金属粉末Distaloy AEと混合した。金属粉末は、潤滑剤である0.8重量%のEBS(エチレンビスステアラミド)及び0.5重量%の黒鉛とも混合した。
【0056】
表3における材料混合物を、ISO2740に準拠した標準化引張試験棒及び80mmの直径、12mmの高さを有するディスクに、7.10g/cmの圧粉体密度まで圧縮成形した。引張棒及びディスクを、実験用メッシュベルト炉で10%水素及び90%窒素の混合物中にて1120℃で30分間焼結した。試料の得られた微細構造は、フェライト、ニッケルに富むオーステナイト、パーライト、ベイナイト及びマルテンサイトを含む不均一なものであった。
【0057】
ディスクは、表4でわかるように機械加工性指数を決定するためのドリル試験に用いた。この指数は、ドリルが完全に磨滅する前、すなわち、ドリルの完全な破損の前に機械加工することができる1本のドリル当たりの穴の数として定義される。ドリル穴あけは、直径φ3.5の高速度鋼ドリルを用いて、冷却剤を用いずに一定の速度と一定の送りで実施した。
【0058】
表3は、白雲母及び金雲母の雲母粉末を添加する場合、機械的特性のわずかな偏差が認められることを示す。機械加工性は、表4に示すように金雲母により顕著に改善され、白雲母によりさらに並はずれて改善されている(すなわち、かなりより多くの穴をドリルであけることができた)。
【表3】

【表4】
【0059】
例3
(旋削操作により実施された、焼結し、焼入れし、焼もどしたPM材料に関する機械加工性の検討)
ベントナイト粉末を、金属粉末、すなわちHoganas AB(スウェーデン)から入手可能な水噴霧鉄粉末AHC100.29と混合した。金属粉末は、2重量%の銅粉末、潤滑剤としての0.8重量%のEBS(エチレンビスステアラミド)及び黒鉛0.8重量%とも混合した。
【0060】
表5による材料混合物を、55mmの外径、35mmの内径、20mmの高さを有するリングに、6.9g/cmの圧粉体密度まで圧縮成形した。リングを、実験用メッシュベルト炉で10%水素及び90%窒素の混合物中にて1120℃で20分間焼結した。焼結後、リングを980℃で30分間熱処理し、次いで、油中で焼入れした。油焼入れの直後に、リングを空気中にて200℃に1時間で焼もどした。得られた微細構造は、完全にマルテンサイトであった。
【0061】
リングは、表6でわかるように機械加工性指数を決定するための旋削試験に用いた。機械加工性指数は、バイト上の逃げ面摩耗、すなわちインサートカッティングエッジから除去された物質として定義される。図1は、この摩耗をどのように測定するかを開示する。旋削は、窒化ケイ素セラミックインサートを用いて、冷却剤を用いずに一定の主軸速度と一定の送りでリングの外径に対して行った。
【0062】
表5は、熱処理済みのリングの硬度が添加ベントナイトによる影響を受けないことを示す。しかし、機械加工性は、表6に示すようにベントナイトを用いる場合に著しく改善される。ベントナイトを含むリングの機械加工性指数は、同じ切削距離について、この添加剤を含まないリングと比較して50%超減少した(すなわち、インサートカッティングエッジの摩耗が減少した)。
【表5】

【表6】
【0063】
例4
(旋削操作により実施された、焼結硬化PM材料に関する機械加工性の検討)
ベントナイト粉末を、金属粉末、すなわち1.9%Ni及び0.55%Moとプレアロイ化させたHoganas AB(スウェーデン)から入手可能な水噴霧鋼粉末Astaloy Aと混合した。金属粉末は、2重量%の銅粉末、潤滑剤としての0.8重量%のEBS(エチレンビスステアラミド)及び黒鉛0.8重量%とも混合した。
【0064】
表7による材料混合物を、55mmの外径、35mmの内径、20mmの高さを有するリングに、6.9g/cmの圧粉体密度まで圧縮成形した。リングを、生産炉で10%水素及び90%窒素の混合物中にて1120℃で20分間焼結硬化させ、冷却速度を2.2℃/秒とした。焼結硬化後、リングを空気中にて200℃で30分間焼きもどした。得られた微細構造は、完全にマルテンサイトであった。
【0065】
リングは、表8でわかるように機械加工性指数を決定するための旋削試験に用いた。機械加工性指数は、バイト上のすくい面摩耗(face wear)、すなわち、インサートカッティングエッジから除去された物質として定義される。図1は、この摩耗をどのように測定するかを開示する。旋削は、窒化ケイ素セラミックインサートを用いて、冷却剤を用いずに一定の主軸速度と一定の送りでリングの外径に対して行った。
【0066】
表7は、熱処理済みのリングの硬度が添加量のベントナイトによりわずかに硬くなっていることを示す。機械加工性は、表8に示すようにベントナイトを用いる場合に著しく改善される。ベントナイトを含むリングの機械加工性指数は、同じ切削距離について、この添加剤を含まないリングと比較して約60%減少した(すなわち、インサートカッティングエッジの摩耗が減少した)。
【表7】

【表8】
【0067】
例5
(旋削操作により実施された、焼結硬化PM材料に関する機械加工性の検討)
ベントナイト粉末を、金属粉末、すなわちHoganas AB(スウェーデン)から入手可能な水噴霧鋼粉末Astaloy CrL、1.5%Cr及び0.2%Moを有するプレアロイ化粉末と混合した。金属粉末は、2重量%の銅粉末、潤滑剤としての0.8重量%のEBS(エチレンビスステアラミド)及び黒鉛0.75重量%とも混合した。
【0068】
表9による混合物を、55mmの外径、35mmの内径、20mmの高さを有するリングに、6.9g/cmの圧粉体密度まで圧縮成形した。リングを、生産炉で10%水素及び90%窒素の混合物中にて1120℃で20分間焼結硬化させ、冷却速度を2.2℃/秒とした。焼結硬化後、リングを空気中にて200℃で30分間焼きもどした。得られた微細構造は、完全にマルテンサイトであった。
【0069】
リングは、表10でわかるように機械加工性指数を決定するための旋削試験に用いた。機械加工性指数は、バイト上のすくい面摩耗、すなわち、インサートカッティングエッジから除去された物質として定義される。図1は、この摩耗をどのように測定するかを開示する。旋削は、窒化ケイ素セラミックインサートを用いて、冷却剤を用いずに一定の主軸速度と一定の送りでリングの外径に対して行った。
【0070】
表9は、熱処理済みのリングの硬度が添加量のベントナイトによりわずかに硬くなっていることを示す。機械加工性は、表10に示すようにベントナイトを用いる場合に著しく改善される。ベントナイトを含むリングの機械加工性指数は、同じ切削距離について、この添加剤を含まないリングと比較して約75%減少した(すなわち、インサートカッティングエッジの摩耗が減少した)。
【表9】

【表10】
【0071】
例6
(ドリル穴あけ操作により実施された、焼結硬化PM材料に関する機械加工性の検討)
白雲母金雲母及びスメクタイト粉末を、金属粉末、すなわち3%のCr及び0.5%のMoとプレアロイ化した鉄であるHoganas AB(スウェーデン)から入手可能な水噴霧鋼粉末Astaloy CrMと混合した。金属粉末は、潤滑剤である0.8重量%のEBS(エチレンビスステアラミド)及び0.55重量%の黒鉛とも混合した。
【0072】
表11における材料混合物を、ISO2740に準拠した標準化引張試験棒及び80mmの直径、12mmの高さを有するディスクに、7.10g/cmの圧粉体密度まで圧縮成形した。引張棒及びディスクを、実験用メッシュベルト炉で10%水素及び90%窒素の混合物中にて1120℃で30分間焼結硬化させ、冷却速度を2.2℃/秒とした。焼結硬化後、TS棒及びディスクを、空気中にて200℃で30分間焼きもどした。得られた微細構造は、完全にマルテンサイトであった。
【0073】
ディスクは、表12でわかるように機械加工性指数を決定するためのドリル試験に用いた。この指数は、臨界切削速度(critical cutting speed)として定義される。ドリルが、ドリルの完全な破損なしに特定の切削速度で1つのディスク上の全量の穴(216個)を生じさせることができた場合、新たなドリルを、切削速度を増加させつつ用いて次の試験を実施すべきである。ドリル穴あけは、直径φ3.5の固体カーバイドドリルを用いて、冷却剤を用いずに一定の送りで実施した。
【0074】
表11は、白雲母、金雲母又はスメクタイトを添加する場合、機械的特性のいくつかのわずかな偏差が認められることを示す。機械加工性は、表12に示すように白雲母、金雲母又はスメクタイトにより顕著に改善し、ドリルの破損なしに主軸速度の増加が可能である。
【表11】

【表12】
【0075】
例7
(旋削操作により実施された、焼結硬化PM材料に関する機械加工性の検討)
白雲母金雲母及びスメクタイト粉末を、例6と同様に金属粉末、すなわち水噴霧鋼粉末Astaloy CrMと混合した。金属粉末は、潤滑剤である0.8重量%のEBS(エチレンビスステアラミド)及び0.55重量%の黒鉛とも混合した。
【0076】
表13における混合物を、ISO2740に準拠した標準化引張試験棒及び64mmの外径、35mmの内径、25mmの高さを有するリングに、7.10g/cmの圧粉体密度まで圧縮成形した。引張棒及びリングを、実験用メッシュベルト炉で10%水素及び90%窒素の混合物中にて1120℃で30分間焼結硬化させ、冷却速度を2.2℃/秒とした。得られた微細構造は、完全にマルテンサイトであった。
【0077】
焼結硬化後、TS棒及びリングを空気中で200℃で30分間焼きもどした。リングは、表14でわかるように機械加工性指数を決定するための旋削試験に用いた。機械加工性指数は、バイト上の逃げ面摩耗、すなわち、インサートカッティングエッジから除去された物質として定義される。図1は、この摩耗をどのように測定するかを開示する。旋削は、立方晶窒化ホウ素インサートを用いて、冷却剤を用いずに一定の切削速度と一定の送りでリングの端面に対して行った。
【0078】
表13は、白雲母、金雲母又はスメクタイト粉末を加える場合、機械的特性のいくつかのわずかな偏差が認められることを示す。
【0079】
機械加工性は、表14に示すように白雲母、金雲母又はスメクタイトを用いることにより顕著に改善する。各種添加剤を含むリングの機械加工性指数は、同じ切削距離について、これらの添加剤を含まないリングと比較してかなり減少した(すなわち、インサートカッティングエッジの摩耗が減少した)。
【表13】

【表14】
【0080】
例8
(旋削操作により実施された、焼結硬化PM材料に関する機械加工性の検討)
ベントナイト粉末を、例6と同様に金属粉末、すなわち水噴霧鋼粉末Astaloy CrMと混合した。金属粉末は、潤滑剤である0.8重量%のEBS(エチレンビスステアラミド)及び黒鉛0.6重量%とも混合した。
【0081】
表15による混合物を、55mmの外径、35mmの内径、20mmの高さを有するリングに、6.9g/cmの圧粉体密度まで圧縮成形した。リングを、生産炉で10%水素及び90%窒素の混合物中にて1120℃で20分間焼結硬化させ、冷却速度を2.2℃/秒とした。焼結硬化後、リングを空気中にて200℃で30分間焼きもどした。得られた微細構造は、完全にマルテンサイトであった。
【0082】
リングは、表16でわかるように機械加工性指数を決定するための旋削試験に用いた。機械加工性指数は、バイト上の逃げ面摩耗、すなわち、インサートカッティングエッジから除去された物質として定義される。図1は、この摩耗をどのように測定するかを開示する。旋削は、窒化ケイ素セラミックインサートを用いて、冷却剤を用いずに一定の主軸速度と一定の送りでリングの外径に対して行った。
【0083】
表15は、熱処理済みのリングの硬度が添加量のベントナイトによりわずかに硬くなっていることを示す。機械加工性は、表16に示すようにベントナイトを用いる場合に著しく改善される。ベントナイトを含むリングの機械加工性指数は、同じ切削距離について、この添加剤を含まないリングと比較して約70%減少した(すなわち、インサートカッティングエッジの摩耗が減少した)。
【表15】

【表16】
【0084】
例9
(ドリル穴あけ操作により実施された、焼結されたままのPM材料に関する機械加工性の検討)
表17でわかるように、異なる粒径分布を有する白雲母及び金雲母粉末を、方法Fraunhofer App.ISO13320−1:1999に従ってレーザー回折装置(Sympatec GmbH)を用いて測定した。
【表17】
【0085】
白雲母及び金雲母粉末を、0.5%のMo、4%のNi及び1.5%のCuと拡散合金化した純鉄であるHoganas AB(スウェーデン)から入手可能な金属粉末Distaloy AEと混合した。金属粉末は、潤滑剤である0.8重量%のEBS(エチレンビスステアラミド)及び0.5重量%の黒鉛とも混合した。
【0086】
表18における材料混合物(重量パーセントとして表した)を、ISO2740に準拠した標準化引張試験棒及び80mmの直径、12mmの高さを有するディスクに、7.10g/cmの圧粉体密度まで圧縮成形した。引張棒及びディスクを、実験用メッシュベルト炉で10%水素及び90%窒素の混合物中にて1120℃で30分間焼結した。試料の得られた微細構造は、フェライト、ニッケルに富むオーステナイト、パーライト、ベイナイト及びマルテンサイトを含む不均一なものであった。
【表18】
【0087】
ディスクは、表19でわかるように機械加工性指数を決定するためのドリル試験に用いた。この指数は、ドリルが完全に磨滅する前、すなわち、ドリルの完全な破損の前に機械加工することができる1本のドリル当たりの穴の数として定義される。ドリル穴あけは、直径φ3.5の高速度鋼ドリルを用いて、冷却剤を用いずに一定の速度と一定の送りで実施した。
【0088】
機械加工性は、より粗い白雲母(M1)を除いて、表19に示すように金雲母により改善され、白雲母によりさらにより大きく改善されている(すなわち、かなりより多くの穴をドリルであけることができた)。
【表19】
【0089】
相対的機械加工性指数をドリルの完全な破損の前のドリル穴の平均数とドリルの完全な破損の前の添加剤を含まない材料におけるドリル穴の平均数との比として定義することにより、図2でわかるように、機械加工性と白雲母の粒径分布(X50)との相関が明らかになる。
【0090】
白雲母については粒径(X50)が減少するにつれて機械加工性に対する影響は著しく、機械加工性を増加させる効果が高くなるが、金雲母についてはより低い増加効果が認められ得る。
【0091】
図2から明らかなように、平均粒径X50は、好都合には20μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、特に5μm以下である。
【0092】
例えば、白雲母について示した、添加した機械加工性剤の量は、表20でわかるように、寸法変化、機械的特性及び硬度に対して影響を及ぼす。
【表20】


本発明の諸態様は、以下のとおり要約される。
[1].鉄をベースとした粉末に加えて、粉末状のより少ない量の機械加工性改善添加剤を含み、前記添加剤がフィロケイ酸塩からなる群からの少なくとも1つのケイ酸塩を含む、鉄をベースとした粉末組成物。
[2].フィロケイ酸塩が、粘土鉱物からなる群から選択される、上記1項に記載の鉄をベースとした粉末組成物。
[3].粘土鉱物が、カオリナイト、スメクタイト及びベントナイトからなる群から選択される、上記2項に記載の鉄をベースとした粉末組成物。
[4].フィロケイ酸塩が、ベントナイトからなる群から選択される、上記3項に記載の鉄をベースとした粉末組成物。
[5].機械加工性改善添加剤の含量が、鉄をベースとした粉末組成物の重量で0.05〜1%、好都合には0.05〜0.5%、好ましくは0.05〜0.3%、より好ましくは0.05〜0.2%である、上記1から4項までのいずれか一項に記載の鉄をベースとした粉末組成物。
[6].フィロケイ酸塩が雲母からなる群から選択され、機械加工性改善添加剤の含量が、0.5重量%未満、好ましくは0.4重量%以下、例えば、0.3重量%以下、又は0.2重量%以下である、上記1項に記載の鉄をベースとした粉末組成物。
[7].フィロケイ酸塩が白雲母である、上記6項に記載の鉄をベースとした粉末組成物。
[8].機械加工性改善添加剤の粒径X99が、50μm未満、好ましくは30μm未満、より好ましくは20μm未満である、上記1から7項までのいずれか一項に記載の鉄をベースとした粉末組成物。
[9].機械加工性改善添加剤の平均粒径X50が、20μm未満、好ましくは15μm未満、より好ましくは10μm未満、最も好ましくは5μm未満である、上記1から8項までのいずれか一項に記載の鉄をベースとした粉末組成物。
[10].フィロケイ酸塩が、5未満、好ましくは4未満のモース硬度を有する、上記1から9項までのいずれか一項に記載の鉄をベースとした粉末組成物。
[11].フィロケイ酸塩がアルミニウムを含む、上記1から10項までのいずれか一項に記載の鉄をベースとした粉末組成物。
[12].鉄をベースとした粉末が、10重量%未満の合金化元素を含む、上記1から11項までのいずれか一項に記載の鉄をベースとした粉末組成物。
[13].鉄をベースとした粉末組成物における機械加工性改善添加剤に含まれるフィロケイ酸塩の使用。
[14].鉄をベースとした粉末を供給すること、及び
鉄をベースとした粉末を、少なくとも1つのフィロケイ酸塩を含む粉末状の機械加工性改善添加剤と混合すること
を含む、鉄をベースとした粉末組成物を調製する方法。
[15].上記1から12項までのいずれか一項に記載の鉄をベースとした粉末組成物を調製すること、
鉄をベースとした粉末組成物を400〜1200MPaの圧縮成形圧で圧縮成形すること、
圧縮成形部品を1000〜1300℃の温度で焼結すること、及び
場合により、焼結部品を熱処理することを含む、
改善された機械加工性を有する鉄をベースとした焼結部品を製造する方法。
図1
図2