(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を、図を基に説明する。
なお、以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称及び機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
図1に、本実施形態に係る工程不良検出装置が適用される金属帯板90の製造ラインの一例を示す図である。
図1において、熱延工程10において熱延された金属帯板90は、冷延工程20において、所定厚みの薄板に冷間状態で延ばされる。次に、焼鈍工程30で連続焼鈍を施され、その後、スケール除去のために酸洗工程40で酸洗され、さらには、表面処理工程50で表面処理され、最終検査工程60を経て製品として金属帯板90が出荷される。
【0016】
図1において、表面検査装置70により表面検査が行なわれるのは、熱延工程10、冷延工程20、焼鈍工程30、酸洗工程40、表面処理工程50の各工程であり、各工程を構成する設備毎に
図2に示すような表面検査装置70が取り付けられている。表面検査装置70の出力は、制御装置80に転送され、制御装置80にて、表面疵や汚れ等の不良(以降、単に不良と呼ぶ)の有無などの判定が行われる。
なお、本実施形態では、各工程は1つの設備から構成されているものとする。例えば、熱延工程は、1つの熱間圧延機で構成されていることとする。
【0017】
図2には、本実施形態に係る金属帯板90の製造ラインの一部、及びこの製造ラインを構成する各工程毎に設けられた表面検査装置70(検査部)の概略構成の一例が示されている。
この図において、表面検査装置70は、金属帯板90を検査光を照射する照明部71と、照明部71により金属帯板90を照射することによって得られる反射光を撮像する撮像部72とを有している。
照明部71は、ハロゲンランプやレーザ光発生装置から構成された発光機構と集光レンズなどの集光機構とを有し、発光機構から出射される光が集光レンズで線状に集光されることにより、金属帯板90の表面がその幅方向でライン状に照明される。
【0018】
撮像部72は、例えばCCDカメラであり、照明部71により金属帯板90の表面に照射されたライン光を撮像して画像信号を生成する機能を有する。生成された画像信号は制御装置80へ送信される。
なお、本実施形態においては、表面検査装置70は、金属帯板90の下流側に(金属帯板90の流れに対向するように)照明部71を配置して、金属帯板90の上流側に撮像部72を配置しているが、この配置には限定されない。
一方、製造ラインは、前述した如く、熱延工程10、冷延工程20、焼鈍工程30、酸洗工程40、表面処理工程50の複数の工程(5工程)を有しているが、
図2には、その中の3つの工程(冷延工程20、焼鈍工程30、酸洗工程40)を例示的に示している。
【0019】
本実施形態の場合、冷延工程20の巻き取りリールは金属帯板90を上巻き取りしており、焼鈍工程30においては、巻き出し側のリールが下出しであって、巻き取り側のリールが上巻きである。酸洗工程40では、巻き出しリールから金属帯板90が上巻き出しとなっている。
このような製造ラインにおいて、リールに巻き取られている金属帯板90は、各工程毎に、金属帯板90の先端(トップ)と後端(ボトム)とが必ず反対になる。これは、前工程での巻き取り終端部が、現工程での巻き出し先端部と対応するからである。したがって、焼鈍工程30(この場合での現工程)でX=Lの位置に存在した表面疵などの不良が、冷延工程20(この場合での前工程)で発生したものならば、X=AL−Lの位置に存在することになる、なお、
図2に示す金属帯板90の長手方向の座標が座標Xであって、ALはこの金属帯板90の全長である。
【0020】
熱延工程10や冷延工程20などの圧延工程においては、圧延に伴いALが伸びることとなるが、ALの伸び量は、金属帯板90の弾性率や変形抵抗、圧延機の圧下率などのファクタを基に計算にて求めることができる。
また、コイル状に巻き取られている金属帯板90は、前工程と現工程とでは、金属帯板90の幅方向が反対になる場合もある。それは、巻き取り時におけるコイルの「左右」が、巻き出し時には反転して「右左」になるからである。例えば、酸洗工程40(この場合での現工程)において、Y=Wの位置に存在する不良が、焼鈍工程30(この場合での前工程)において発生したものならば、Y=AW−Wの位置に存在することになる、なお、
図2に示す金属帯板90の幅方向の座標が座標Yであり、AWはこの金属帯板90の全幅である。
【0021】
さらに、コイル状の金属帯板90は、前工程と現工程とでは、金属帯板90の表裏方向が反対になる場合もある。例えば、巻き取り時に上巻き取りで巻いたコイルを、次の工程で下巻き取りで巻き出した場合に、表裏方向が反対になる。つまり、
図2の焼鈍工程30(この場合での現工程)でZ(1)面に存在する不良が、冷延工程20(この場合での前工程)において発生したものならば、Z(2)面に存在することとなる。
まとめるならば、前工程でのコイル巻き取り姿勢(金属帯板90の巻き取り状況)と現工程でのコイル巻き出し姿勢(金属帯板90の巻き出し状況)とにより、不良の位置が異なるため、それらを考慮して、前工程での不良位置と現工程での不良位置とを対応させる必要がある。
【0022】
図3は、本実施形態に係る工程不良検出装置を実現する制御装置80の制御構成を示す制御ブロック図である。
本実施形態の制御装置80は、撮像部72が撮像した通板時の表面状態の画像データを基に、表面疵などの不良を特定する表面検査部200(検査部)を有する。表面検査部200は、撮像部72からのデータを画像処理する画像処理部(図示せず)と、この画像処理部の結果を基に金属帯板90の表面の不良を検出する不良検出部(図示せず)とを有する。不良検出部は、公知の画像処理技術(2値化、パターンマッチングなど)を用いることで表面疵などの不良を抽出し、得られた検査結果は、品質不良データとなりデータベース部700に記憶される。
【0023】
また、制御装置80は、現工程において表面検査部200で不良が検出された際に、前工程でのコイル巻き取り姿勢と現工程でのコイル巻き出し姿勢とを基に、検出された不良の位置情報を前工程における位置情報に変換する変換部600を有する。
さらには、制御装置80は、変換部600で変換された位置情報を基に、前工程での品質不良データと、現工程での品質不良データとを比較し、工程の不良を判定する不良判定部300を有する。加えて、不良判定部300により前工程の不良が無いと判定されると、検出された不良が現工程で発生したものと判定する工程判定部400を有する。
【0024】
制御装置80は、工程判定部400の結果を基に、現工程を停止する工程停止部500も有する。
図7は、本実施形態に係る工程不良検出装置において、工程不良を判定する際に実行される処理のフローチャートである。以下、このフローチャートを用いて制御装置80において実行される判定処理について説明する。
S100(ステップをSと記載する)にて、この制御装置80は、各工程において表面検査装置70を用いて金属帯板90の表面を撮影し、得られた画像データは表面検査部200へ送られる。
【0025】
S101にて、表面検査部200は、取得した画像データから金属帯板90における表面疵などの品質不良データ(不良の種別、ランク)を作成する。
表面検査部200で作成された品質不良データには、どの工程で、どの金属帯板90のどの位置(XYZ座標)に、どのような不良があったかが記憶されている。すなわち、不良の情報として、工程を特定する工程コード、金属帯板90を特定するコイル番号、重大な不良であるか軽微な不良であるかなど不良の種別を区分けしたもの(不良種別)、不良の長手方向の位置、不良の幅方向の位置、不良の表裏位置、不良のランク(詳細は後述する)などが含まれる。これらの情報は、例えば、
図6に示す検査情報データベースの形にまとめられ、データベース部700に記録される。
【0026】
S102にて、検査対象となっている金属帯板90の前工程における品質不良データを検査情報データベースから取得する。
前工程のデータに関しては、
図4に示すような製造実績データベースがデータベース部700に保存されており、このような製造実績データから、金属帯板90を特定するためのキーであるコイル番号での検索を行なう。コイル番号を照合することで、前工程での金属帯板90の情報を、
図6のような検査情報データベースから抽出する。S102の処理は、不良判定部300で行われる。
【0027】
ところで、金属帯板90の表面検査結果は、検査が行われた工程における位置情報で表現されているが、金属帯板90のように通板時に巻き出し及び巻き取りが発生すると、そのたびに長手方向の先端部(トップ)と後端部(ボトム)とが入れ替わる。また、工程によっては、巻き出す方向、巻き取る方向について上側から行なうか、下側から行なうかが異なっており、それによってコイルの表面と裏面とが入れ替わる。金属帯板90の幅方向が反対になる場合もある。したがって、現工程と前工程における品質不良データを比較する場合、以上のような姿勢変化を補正した座標で比較する必要がある。
【0028】
そこで、S102にて、現工程と前工程とのコイルの相対的な姿勢変化を算出し、検査情報データベースに記憶されている表裏情報(Z方向)、長手方向位置(X方向)、幅方向位置(Y方向)を、現工程のものを前工程に対応するように変換する。この変換にあたり、
図5に示す設備定義データベースを用いる。S102で行われる処理は、制御装置80内の変換部600にて行われる。
具体的には、現工程でX=Lの位置に存在した表面疵などの不良は、前工程において、X=AL−Lの位置に存在すると変換する。なお、ALはこの金属帯板90の全長である。工程が熱延工程10や冷延工程20などの圧延工程においては、圧延に伴いALが伸びることとなるが、ALの伸び量は、金属帯板90の弾性率や変形抵抗、圧延機の圧下率などのファクタを基に計算にて求めることができる。
【0029】
また、前工程と現工程とでコイル配置が左右反転する場合には、現工程においてY=Wの位置に存在した不良が、前工程においてY=AW−Wの位置に存在するように変換する。なお、AWはこの金属帯板90の全幅である。
さらに、前工程と現工程とでコイル巻き出しが異なる場合(例えば、前工程:上巻き取り、現工程:下巻き出し)は、現工程でZ(1)面に存在した不良が、前工程においてZ(2)面に存在するものと変換する。
なお、この変換部600の処理は、金属帯板90上の任意の点に設けられた基準点を基にして行われ、本実施形態の場合、最初の工程における金属帯板90の巻き始め端のドライブサイド側を基準点としている。
【0030】
次に、S103にて、工程判定部400は、前工程の品質不良データと、変換後の現工程の品質不良データとを比較して、「現工程に不良が存在するものの、それに対応する前工程の不良が見当たらない」ことが判明した場合、検出した不良を「現工程にて新規に発生した不良」として抽出する。
S104にて、工程判定部400は、新規に抽出された不良において重大不良とされているものがあるか否かを判定する。新規に抽出された不良において重大不良があると判定されると(S104にてYES)、処理はS105へ移される。もしそうでないと(S104にてNO)、処理はS106へ移される。
【0031】
S105にて、工程判定部400は、不良が検出された金属帯板90上における不良の分布の特徴を算出する。その後、処理はS107へ移される。
一方、S106にて、工程判定部400は、新規に抽出された不良において軽微不良とされているものがあるか否かを判定する。新規に抽出された不良において軽微不良があると判定されると(S106にてYES)、処理はS105へ移されて、軽微な不良が検出された金属帯板90上における不良の分布の特徴を算出される。もしそうでないと(S106にてNO)、この処理は終了する。ここで、一般的に、軽微な不良についてのデータ数が多くなる傾向があり、先に重大な不良を処理することで演算負荷を軽減することが図れる。
【0032】
S107にて、工程判定部400は、算出された不良の発生状況(例えば、分布状況)に基づいて、現工程で検出された不良が、工程に起因する不良であるか否かを判定する。
なお、重大不良と考えられるものには、金属帯板90上の全面に周期的に疵が発生している場合などであり、圧延ロールや搬送ロールに起因する疵である可能性が高い。また、重大不良としては、疵以外に穴あきや押し込みが該当する。軽微不良と考えられるものには、汚れや変色が該当する。
しかしながら、これら不良種別が本当に重大であるか否かは、不良の分布状態や不良が検出された工程に依存する部分が大きく、その判断のために、
図6に示すような「ランク(不良のランク)」という指標が用いられている。例えば、「変色」は前述の如く軽微不良であるものの、製造ラインの下工程で発生した場合は、製品に近いものであって、見逃せない不良と考えるべきであり、その場合、ランクの値を大きなものとしている。
【0033】
このように、不良の種別やランクを調べることによって、工程に起因する不良であるか否かを判断可能となる。特に、ランク(この場合、異常度に相当)の値から見逃せない不良が発生しているか否かを判断できる。
なお、検出された不良が、金属帯板90の先端部の一部、又は尾端部の一部にのみ存在するようであれば、製造プロセスを構成する工程に起因する不良ではなく、例えば、金属帯板90の前工程から現工程への移送中に発生した人的作業による不良と考えるように設定されている。なぜならば、工程間の移送では金属帯板90はコイル状となっており、かかるコイルをぶつけるなどして疵などの不良を発生させた場合、その不良は金属帯板90の先端部の一部にのみ存在するからであり、工程に起因する不良とは区別することが望ましいと考えるからである。
【0034】
ところで、このS107では、不良の分布状態に拘わらず、表面疵が存在した場合には「工程に起因する不良」であると判断するようにしても何ら問題はない。
不良が工程に起因する不良であってその異常度(ランク)が大きいものであると判定されると(S107にてYES)、処理はS108へ移される。もしそうでないと(S107にてNO)、この処理は終了する。
なお、異常度を「ランク」のみで規定されるものとせず、不良種別、工程、それ以外のパラメータ(例えば、ユーザの要求)を複合的に使用して、製造工程や製造ライン毎に設定されるものであってもよい。
【0035】
S108にて、工程停止部500は、異常度が大、つまり工程に起因する不良が発生していると判定されたので、その工程を停止するようにプロセスコンピュータに停止要求信号を送信する。
以上述べたように、本実施形態に係る工程不良検出装置は、金属帯板の表面疵などの不良を検知することで、当該金属帯板の品質を管理するに留まらず、金属帯板の不良の原因となった工程を絞り込み、その工程のメンテナンスを行う又は停止させる等の迅速な対応を取ることができるようになる。ひいては、金属帯板の生産性向上に寄与することになる。
【0036】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
例えば、本実施形態では、1つの工程は1つの設備で実現されているとしたが、1つの工程が複数の設備を有するものであっても何ら問題はない。その場合、表面検査装置70は各設備に取り付けられることが好ましく、工程停止部500により「工程」を停止させるのではなく、問題のある(不良の原因となっている)「設備」のみを停止させるとよい。
【0037】
また、本実施形態では、金属帯板90の表面のみを検査する表面検査装置70を例示しているが、裏面検査でもよく、表裏二面の同時検査を行うものであってもよい。