特許第5733880号(P5733880)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5733880抗癌剤に不応な腫瘍の治療及び化学感作のためのCK2阻害剤の使用
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  • 特許5733880-抗癌剤に不応な腫瘍の治療及び化学感作のためのCK2阻害剤の使用 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5733880
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】抗癌剤に不応な腫瘍の治療及び化学感作のためのCK2阻害剤の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/282 20060101AFI20150521BHJP
   A61K 31/337 20060101ALI20150521BHJP
   A61K 31/407 20060101ALI20150521BHJP
   A61K 31/475 20060101ALI20150521BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20150521BHJP
   A61K 31/513 20060101ALI20150521BHJP
   A61K 31/5377 20060101ALI20150521BHJP
   A61K 31/675 20060101ALI20150521BHJP
   A61K 31/7028 20060101ALI20150521BHJP
   A61K 33/24 20060101ALI20150521BHJP
   A61K 36/24 20060101ALI20150521BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20150521BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20150521BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   A61K31/282
   A61K31/337
   A61K31/407
   A61K31/475
   A61K31/506
   A61K31/513
   A61K31/5377
   A61K31/675
   A61K31/7028
   A61K33/24
   A61K35/78 P
   A61K37/02ZNA
   A61P35/00
   A61P43/00 111
   A61P43/00 121
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2008-556646(P2008-556646)
(86)(22)【出願日】2007年2月28日
(65)【公表番号】特表2009-528306(P2009-528306A)
(43)【公表日】2009年8月6日
(86)【国際出願番号】CU2007000010
(87)【国際公開番号】WO2007098719
(87)【国際公開日】20070907
【審査請求日】2010年2月23日
【審判番号】不服2013-13479(P2013-13479/J1)
【審判請求日】2013年7月12日
(31)【優先権主張番号】2006-0049
(32)【優先日】2006年2月28日
(33)【優先権主張国】CU
(73)【特許権者】
【識別番号】304012895
【氏名又は名称】セントロ デ インジエニエリア ジエネテイカ イ バイオテクノロジア
(73)【特許権者】
【識別番号】513122738
【氏名又は名称】バイオレック ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペレア ロドリゲス、シルビオ、エルネスト
(72)【発明者】
【氏名】ペレラ ネグリン、ヤッサー
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス ウリョア、アリエリス
(72)【発明者】
【氏名】ギル バルデス、ヘオバニス
(72)【発明者】
【氏名】ラモス ゴメス、ヤッセル
(72)【発明者】
【氏名】カステヤノス セーラ、リラ、ロサ
(72)【発明者】
【氏名】ベタンクール ヌニェス、ラザロ、ハイラム
(72)【発明者】
【氏名】サンチェス プエンテ、アニエル
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンデス デ コシーオ ドルタ デュケ、ホルヘ
(72)【発明者】
【氏名】アセベド カストロ、ボリス、エルネスト
(72)【発明者】
【氏名】ゴンザレス ロペス、ルイス、ハビエル
(72)【発明者】
【氏名】ベサダ ペレス、ウラジーミル
(72)【発明者】
【氏名】アロンソ、ダニエル、フェルナンド
(72)【発明者】
【氏名】ゴメス、ダニエル、エドゥアルド
【合議体】
【審判長】 内藤 伸一
【審判官】 齋藤 恵
【審判官】 田村 明照
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−525090(JP,A)
【文献】 Cancer Research,2004年,Vol.64, No.19,p.7127−7129
【文献】 メルクマニュアル 第17版 日本語版,日経BP社,1999年,p.985−990,「化学療法」欄
【文献】 Drug Delivery System,2006年 1月,第21巻,第1号,p.18−23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K45/00-08
A61K31/00-80
A61K33/00-44
PubMed
医薬中央雑誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
適切な賦形剤と混合した、白金化合物、パクリタキセル又はドセタキセル、ツルニチニチソウ属由来のアルカロイド、5−フルオロウラシル、ドキソルビシン、シクロホスファミド、マイトマイシンC、ボルテゾミブ、ゲフィチニブ、及びイマチニブからなる群から選ばれる、薬剤として許容できる細胞増殖抑制剤とともに、CK2基質上のリン酸化部位の阻害剤として、P15ペプチド(CWMSPRHLGTC)を含む、薬剤として許容できる細胞増殖抑制剤に対する充実性腫瘍及び造血系腫瘍の化学療法耐性を回避するための、同時又は逐次投与のための組合せ薬剤。
【請求項2】
前記白金化合物が、カルボプラチン又はシスプラチンである、請求項1に記載の組合せ薬剤。
【請求項3】
前記ツルニチニチソウ属由来のアルカロイドが、ビンクリスチン又はビンブラチンである、請求項1に記載の組合せ薬剤。
【請求項4】
前記P15ペプチドが、DNAベクター内で発現する、請求項1からのいずれか一項に記載の組合せ薬剤。
【請求項5】
薬剤として許容できる細胞増殖抑制剤に対する充実性腫瘍及び造血系腫瘍の化学療法耐性を回避するための医薬の製造のための、請求項1から4までのいずれか一項に記載の組合せ薬剤の使用であって、該組合せ薬剤が同時に投与されるか、又は該組合せ薬剤が逐次的に投与され、該P15ペプチドが該細胞増殖抑制剤よりも前に投与される上記使用。
【請求項6】
細胞増殖抑制剤に対して化学療法耐性の腫瘍の治療薬を調製するための、白金化合物、パクリタキセル又はドセタキセル、ツルニチニチソウ属由来のアルカロイド、5−フルオロウラシル、ドキソルビシン、シクロホスファミド、マイトマイシンC、ボルテゾミブ、ゲフィチニブ、及びイマチニブからなる群から選ばれる、薬剤として許容できる細胞増殖抑制剤と併せた、CK2基質上のリン酸化部位の阻害剤としてのP15ペプチド(CWMSPRHLGTC)の使用。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の組合せ薬剤を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子及び実験腫瘍学の分野、とくに従来の細胞増殖抑制剤に不応な腫瘍の治療及び/又は化学感作を目的とする薬剤の組合せの記載に関する。
【背景技術】
【0002】
過去30年間において、癌治療用の細胞増殖抑制剤として化学薬剤を用いることが、一部の充実性腫瘍及び造血系腫瘍の第1選択治療として選択肢の1つを構成する。癌治療用にもっとも高頻度で用いられる化学薬剤は、とりわけ、シスプラチン、タキソール、ツルニチニチソウ属由来のアルカロイド、ドキソルビシン、5−フルオロウラシル、シクロホスファミドである(Jackman A.L.、Kaye S.、Workman P.(2004)「殺細胞療法と分子標的療法との組合せは可能であるか(The combination of cytotoxic and molecularly targeted therapies−can it be done?)」Drug Discovery Today 1:445〜454)。しかし、臨床試験からの結果は、患者において高毒性プロファイルをともなう不十分な治療的有益性の観察されることが立証する通り、癌治療におけるこの種の薬剤について低い治療指数を示す(Schrader C.ら、(2005)「転移性卵巣癌患者におけるパクリタキセル(タキソール)による化学療法が引き起こす急性心筋虚血の症状及び兆候(Symptoms and signs of an acute myocardial ischemia caused by chemotherapy with paclitaxel(taxol)in a patient with metastatic ovarian carcinoma.)」Eur J Med Res 10:498〜501)。例えば、シスプラチンが肺癌の第1選択治療を構成することに、多くの著者が同意するが、臨床症状及び6週間の延命においてほとんど改善をみない、わずかな効果が観察されることが多い(Grillo R.、Oxman A.、Julian J.(1993)「進行性非小細胞肺癌のための化学療法(Chemotherapy for advanced non−small cell lung cancer.)」J Clin Oncol 11:1866〜1871;Bouquet P.J.、Chauvin F.ら、(1993)「進行性非小細胞肺癌における多剤併用化学療法:メタ分析(Polychemotherapy in advanced non−small cell lung cancer:a meta−analysis.)」Lancet 342:19〜21)。したがって、最適の治療的有益性を達するための現行の戦略は、分子標的療法とともに従来の細胞増殖抑制剤に基づく薬剤の組合せに焦点を当てる。現行の抗癌剤の一部は、癌標的化療法に分類され、とりわけ、慢性骨髄性白血病の発現において基本的な役割を果たすAblキナーゼを標的とするグリベック(イマチニブ)(Giles J.F.、Cortes J.E.、Kantarjian H.M.(2005)「慢性骨髄性白血病患者におけるBCR−ABL融合タンパク質のキナーゼ活性の標的化(Targeting the Kinase Activity of the BCR−ABL Fusion Protein in Patients with Chronic Myeloid Leukemia.)」Current Mol Med 5:615〜623)のほか、上皮成長因子(EGF)受容体に関連するチロシンキナーゼを標的とするイレッサ(Onn A.、Herbst R.S.(2005)「肺癌のための分子標的化療法(Molecular targeted therapy for lung cancer.)」Lancet 366:1507〜1508)及びプロテアソーム機構を標的とすることでタンパク質分解を遮断するベルケイド(ボルテゾミブ)(Spano J.P.ら、(2005)「プロテアソーム阻害:悪性腫瘍治療のための新方法(Proteasome inhibition:a new approach for the treatment of malignancies.)」Bull Cancer 92:E61〜66)の例がある。従来の化学療法剤の非特異的機構が細胞有糸分裂の破棄に集中することを考慮すると、新規の癌標的化療法剤の使用は、抗腫瘍効果の相乗効果を生みだす薬剤の組合せを達するための有望な見通しを与える。
【0003】
一方、化学療法剤を用いる場合、薬剤耐性現象が、癌治療失敗の主要原因として認識されている。腫瘍環境においては、最適未満の薬剤濃度が薬剤耐性に影響を及ぼしうる一方で、細胞起源など他の因子が、多くの腫瘍の化学療法耐性において本質的な役割を果たす。薬剤耐性は、細胞内解毒、細胞応答の変化、ストレスへの耐性、及びアポトーシスシグナル伝達経路における欠損を含む多数の独立した機構に依拠する多因子現象である(Luqmani A.(2005)「癌化学療法における薬剤耐性機構(Mechanisms of drug resistance in cancer chemotherapy.)」Med Princ. Pract 14:35〜48)。P−糖タンパク質及びグルタチオンS−トランスフェラーゼが、癌における薬剤耐性現象と連関した細胞内解毒プロセスを媒介する主要なタンパク質である(Saeki T.、Tsuruo T.、Sato W.、Nishikawa K.(2005)「乳癌化学療法における薬剤耐性(Drug resistance in chemotherapy for breast cancer.)」Cancer Chemother Pharmacol 56:84〜89)(Hara T.ら、(2004)「グルタチオンS−トランスフェラーゼP1がカンプトテシンに抗する細胞生存能力に保護的効果を有する(Gluthathione S−transferase P1 has protective effects on cell viability against camptothecin.)」Cancer Letters 203:199〜207)。ベータ−チューブリンなどの他のタンパク質が薬剤耐性現象に関与し、そのレベルがパクリタキセルに対する腫瘍耐性と直接的に相関することが報告されている(Orr G.A.ら、(2003)「微小管に関連するタキソール耐性の機構(Mechanisms of Taxol resistance related to microtubules.)」Oncogene 22:7280−7295.)。これとは別に、T−プラスチン(Hisano T.ら、(1996)「シスプラチン耐性のヒト癌細胞におけるT−プラスチン遺伝子の発現増大:mRNA差次的発現による同定(Increased expression of T−plastin gene in cisplatin−resistant human cancer cells:identification by mRNA differential display.)」FEBS Letteers 397:101〜107)、熱ショックタンパク質(HSP70及びHSP90)(Jaattela M.(1999)「細胞死の回避:癌における生存タンパク質(Escaping cell death:survival proteins in cancer.)」Exp Cell Res 248:30〜43)、及び転写因子YB1(Fujita T.ら、(2005)「パクリタキセルを前投与した乳癌におけるP−糖タンパク質の上方制御をともなう転写因子Y−ボックス結合タンパク質の核局在化の増大(Increased nuclear localization of transcription factor Y−box binding protein accompanied by up−regulation of P−glycoprotein in breast cancer pretreated with paclitaxel.)」Clin Cancer Res 11:8837〜8844)など各種タンパク質の過剰発現が、シスプラチン耐性に影響を及ぼすことが報告されている。さらに、解糖経路及びピルビン酸経路の悪化が、腫瘍細胞において観察される化学療法耐性現象において基本的な役割を果たすことが報告されている(Boros L.G.ら、(2004)「標的化抗癌剤設計における代謝経路フラックス情報の使用(Use of metabolic pathway flux information in targeted cancer drug design.)」Drug Disc. Today 1:435〜443)。
【0004】
様々な研究グループからの報告が、腫瘍細胞に対してアポトーシスを阻害する又は細胞を延命させることで腫瘍の化学療法耐性現象に寄与する一連のタンパク質の存在を示している。該タンパク質の例の1つが、細胞周期の促進、アポトーシスの阻害において中心的な役割を果たすヌクレオフォスミンタンパク質であり、癌の予後不良のマーカーと考えられている(Ye K.(2005)「アポトーシスを調節しうる多機能的タンパク質ヌクレオフォスミン/B23(Nucleophosmin/B23, a multifunctional protein that can regulate apoptosis.)」Cancer Biol Ther 4:918〜923)。同様に、CK2酵素が、細胞生存及びアポトーシスに対する腫瘍細胞耐性において重要な役割を果たす(Tawfic S.、Yu S.、Wang H.、Faust R.、Davis A.、Ahmed K.(2001)「腫瘍におけるタンパク質キナーゼCK2シグナル(Protein kinase CK2 signal in neoplasia.)」Histol. Histopathol. 16:573〜582)。既往の知見は、上皮充実性腫瘍において、CK2活性が、正常組織と比べて3〜7倍上昇することを明らかにしている(Tawfic S.、Yu S.ら、(2001)「腫瘍におけるタンパク質キナーゼCK2シグナル(Protein kinase CK2 signal in neoplasia.)」Histol. Histopathol.16:573〜582;Faust R.A.、Gapany M.ら、(1996)「頭部腫瘍及び頸部腫瘍のクロマチンにおけるタンパク質キナーゼCK2活性の上昇:悪性形質転換との関連性(Elevated protein kinase CK2 activity in chromatin of head and neck tumors:association with malignant transformation.)」Cancer Letters 101:31〜35)。さらに、CK2活性は、悪性形質転換にとって重要な細胞事象であり、腫瘍進行マーカーを構成する(Seldin D.C.、Leder P.(1995)「カゼインキナーゼIIαトランス遺伝子誘発マウスリンパ腫:ウシにおけるタイレリア病との関連(Casein kinase IIα transgene−induced murine lymphoma:relation to theileriosis in cattle.)」Science 267:894〜897)。CK2リン酸化が、腫瘍細胞をアポトーシスから保護するための強力なシグナルを表すという事実は、該酵素を、細胞生理における抗アポトーシス性メディエーターとみなす考えを導く(Ahmed K.、Gerber D.A.、Cochet C.(2002)「細胞生存小集団への参入:タンパク質キナーゼCK2の新たな役割(Joining the cell survival squad:an emerging role for protein kinase CK2.)」Trends Cell Biol、12:226〜229;Torres J.、Rodriguez J.ら、(2003)「カスパーゼ−3による腫瘍サプレッサーPTENのリン酸化調節開裂:タンパク質安定性及びPTEN−タンパク質間相互作用の制御への含意(Phosphorylation−regulated cleavage of the tumor suppressor PTEN by caspase−3:implications for the control of protein stability and PTEN−protein interactions.)」J Biol Chem、278:30652〜60)。
【0005】
以上まとめると、CK2リン酸化が、癌治療の潜在的標的を表す生化学的事象であり、該事象の特異的な阻害剤は、癌管理の見通しを与える薬剤候補物質となりうるであろう。
【0006】
様々な研究グループが、以下の2つの独立した方法を用いて、CK2リン酸化を阻害するための各種戦略を展開している。a)CK2アルファ触媒サブユニットの直接的な阻害、b)CK2基質上における酸性ドメインの直接的な標的化(特許国際公開第03/054002号及びPerea S.E.ら、(2004)「タンパク質キナーゼCK2によるリン酸化を阻害する新規アポトーシス促進ペプチドの抗腫瘍効果(Antitumor effect of a novel proapoptotic peptide impairing the phosphorylation by the protein kinase CK2.)」Cancer Res.64:7127〜7129)。以上の方法をともに用いることで、著者らは、CK2の阻害が腫瘍細胞におけるアポトーシスをもたらす、という原理の証明を示している。これらの知見は、CK2が抗癌剤を開発するための好適な標的であることの実験的検証を裏付ける。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
分子生物学の発展とともに、比較プロテオミクス研究が、細胞の悪性形質転換及び腫瘍の化学療法耐性のいずれにも関与する分子機構の理解を部分的に可能にしている。したがって、癌治療レジメンは、毒性を大幅に低減し、化学療法耐性の発生可能性をも低下させる有効な薬剤の組合せの達成に焦点を絞るべきである。こうして、癌治療における今日の主要目標の一つは、現行の細胞増殖抑制剤が示す有効用量及び内因性毒性の低減により、この種の薬剤の治療指数を上昇させることである。他の現行の戦略は、従来の細胞増殖抑制剤に対する腫瘍の化学療法耐性を回避することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、CK2リン酸化阻害剤(P15ペプチド)及び薬剤として許容できる細胞増殖抑制剤の2つの要素を含む薬剤の組合せを提供することで、上述の課題を解決する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、「薬剤として許容できる細胞増殖抑制剤」とは、充実性腫瘍及び造血器由来の腫瘍いずれに対する癌化学療法でも用いるすべての細胞増殖抑制化合物を指す。好ましい細胞増殖抑制剤は、適切な賦形剤と混合したシスプラチン及びカルボプラチン、パクリタキセル及びドセタキセル、ビンクリスチン及びビンブラスチン、5−フルオウラシル、ドキソルビシン、シクロホスファミド、エトポシド、マイトマイシンC、イマチニブ、イレッサ、並びにベルケイド(ボルテゾミブ)である。
【0010】
本発明において、「CK2リン酸化の阻害」という概念は、基質又は酵素そのもののいずれかを遮断する任意の化学的又はペプチド性化合物をも含む。状況に応じ、本薬剤の組合せの有効成分は、同時、個別、又は逐次に投与することができる。本薬剤の組合せの投与は、全身、局所、又は経口の各経路により実施することができる。本発明は、ヒトにおいて発現する不応性腫瘍における化学療法耐性を、上述の薬剤の組合せを用いて治療すること及び/又は回避することをも指す。
【0011】
同様に、本発明は、化学療法不応性腫瘍を治療し、本発明において引用する細胞増殖抑制剤の抗腫瘍効果を高める薬剤を調製するために、本薬剤の組合せの成分を用いることをも指す。
【0012】
実施例1(表1)は、本発明に記載する薬剤の組合せが、in vitroにおいて、相乗的な抗腫瘍効果を生じることを示す。こうして、シスプラチン、パクリタキセル、ドキソルビシン、ビンクリスチン、エトポシド、マイトマイシンC、5−フルオウラシル、イマチニブ、又はイレッサとともに、P15ペプチドからの最適未満用量を同時に併用することは、本発明で言及する各細胞増殖抑制剤の有効用量を10〜100分の1に低下させる。有効用量とは、in vitroでの増殖アッセイにおいて50%阻害濃度(IC50)とも呼ばれる、抗腫瘍効果の50%を達する用量である。本発明では、「最適未満用量」とは、IC50未満の用量を指す。
【0013】
実施例2は、シスプラチン(図1A)、シクロホスファミド(図1B)、及びマイトマイシンC(図1C)とともにP15ペプチドを含む本薬剤の組合せを用いることにより、in vivoにおける抗腫瘍効果を強化することを示す。この薬剤の組合せは、ヌードマウスに異種移植したヒト腫瘍において見られる腫瘍退縮と同様、該当の動物モデルにおいても完全な腫瘍退縮をもたらす。しかし、本薬剤の組合せの成分の使用は、単剤療法と同様に、プラセボ群で観察される効果と比べ、腫瘍成長のわずかな遅延を生じるにとどまった。
【0014】
本薬剤の組合せからの成分の逐次投与は、P15投与が、in vitro及びin vivoのいずれにおいても腫瘍の化学療法耐性を回避することを示す。本発明において、「腫瘍の化学療法耐性の回避又は化学感作」とは、P15ペプチドの前投与後において、抗腫瘍効果の50%を生じるために必要な薬剤用量が低減する事象を指すと理解される。実施例3は、腫瘍細胞の化学感作におけるP15ペプチド前投与の効果を示し、該前投与は、有効薬剤用量を10〜100分の1に低減する。同様に、表3に示すデータは、該薬剤の組合せの逐次的投与が、in vitroにおける腫瘍細胞の内因性化学療法耐性を回避することを表す。本発明においては、IC50値が濃度1000μMよりも高値に達する場合を、in vitroの化学療法耐性と考える。
【0015】
in vitroでの結果と同様、P15ペプチドの前投与は、in vivoにおいても、腫瘍の内因性化学療法耐性を回避する(実施例4)(図2A、2B、2C)。
【0016】
P15ペプチド成分(アミノ酸配列CWMSPRHLGTC)は、既に、CK2阻害剤として報告されている(Perea S.E.ら、(2004)「タンパク質キナーゼCK2によるリン酸化を阻害する新規アポトーシス促進ペプチドの抗腫瘍効果(Antitumor effect of a novel proapoptotic peptide impairing the phosphorylation by the protein kinase CK2.)」Cancer Res.64:7127〜7129)。しかし、この本ペプチドは、腫瘍細胞上の一群のタンパク質を予測外に調節し(表4)、このことが、P15ペプチドの前投与がもたらす化学感作に加え、該薬剤の組合せ中の該成分の相乗的な抗腫瘍効果を裏付け、説明する。例えば、P15が調節するタンパク質は、腫瘍細胞増殖及びアポトーシスの制御において基本的な役割を果たし、これらの機構は、本薬剤の組合せからの残りの成分、とりわけ、本発明において好ましい細胞増殖抑制剤が誘発する機構と同一ではない。
【0017】
同様に、成分P15が調節する他のタンパク質は、本発明において好ましい細胞増殖抑制剤に対する腫瘍の化学療法耐性の分子的機構に関与するタンパク質である。以上の予測外の結果は、該成分を逐次的に投与する場合、本薬剤の組合せがもたらす腫瘍の化学感作の分子的基礎を構成する。
【0018】
本発明の特質は、該薬剤の組合せにおける細胞増殖抑制剤の有効濃度が、該細胞増殖抑制剤を単剤で使用する場合の有効用量と比べて10〜100分の1に低減される事実である。この事実は、CK2阻害剤と本発明において好ましい細胞増殖抑制剤との間に相乗的な相互作用が生じることを意味する。実用的な観点からは、この相乗的相互作用は、本薬剤の組合せに基づく薬剤毒性が、単剤の細胞増殖抑制剤について観察される毒性よりもはるかに低いことを意味する。
【0019】
同様に、本薬剤の組合せからの成分を逐次的に投与した後に腫瘍の化学感作が誘導されたことは、充実性腫瘍及び造血器由来の腫瘍において高頻度で観察される化学療法耐性の治療を可能とすることから、大きな利点を示す。
【0020】
一般的手順:
細胞培養:H−125細胞系は、ヒト非小細胞肺癌(NSCLC)から発生させ、SW948細胞系は、ヒト結腸癌から発生させた。いずれの細胞系とも、10%ウシ胎仔血清及びゲンタマイシン(50μg/ml)を添加したRPMI 1640(Gibco社製)培養培地中で保存した。細胞培養液のインキュベーションは、5%CO中、37℃で実施した。
【0021】
細胞生死判別アッセイ:この目的のために、20μlのテトラゾリウム(MTS)(Promega社製)を、各プレート上の細胞に添加した。37℃で2時間後、492nmにおける吸光度を測定した。最後に、「CurveExpert」ソフトウェアを用いて、各用量反応曲線からIC50値を推定した。
【0022】
癌動物モデル:本発明で用いる動物モデルは、ヌードマウス(Nu/Nu、BalBC)へのヒト腫瘍の移植を基にした。略述すると、5×10個のH−125細胞を、リン酸緩衝液(PBS)中に懸濁させ、皮下接種した。腫瘍発現(約30mm)後、本発明に記載の薬剤の組合せを用いて、投与を開始した。該薬剤の組合せの抗腫瘍効果を評価するため、腫瘍塊体積を測定し、以下の式を用いて該体積を計算した:V=幅×長さ/2。
【0023】
細胞抽出物上におけるタンパク質プロファイルの分析:H−125細胞を、本発明で記載する薬剤の組合せのP15ペプチド成分により、40分間にわたり処理するか又は非処理とした。次いで、細胞単層をPBSで洗浄し、表面から細胞を廃棄した。冷PBSによるさらに2回の洗浄後、細胞ペレットを、10mMトリスHCl(pH7.5)、0.25Mスクロース、1mM EGTA+プロテアーゼ阻害剤カクテル中に再懸濁させ、既報(Gonzalez L.J.ら、(2003)「非小細胞肺癌細胞系H82の核タンパク質の同定:銀染色タンパク質分析のための改良プロトコール(Identification of nuclear proteins of small cell lung cancer cell line H82:An impromved protocol for the analysis of silver stained proteins.)」Electrophoresis 24:237〜252)に述べた通りに、核タンパク質画分を得た。P15が調節するタンパク質を分析するために、代替法として、該当する核タンパク質抽出物を、2D二次元ゲル(pH4〜7)及び/又は質量分析器と組み合わせた液体クロマトグラフィー(ナノHPLC)により分離した。
【実施例】
【0024】
本発明は、以下の実施例により説明される。
【0025】
(実施例1)
P15ペプチド+従来の細胞増殖抑制剤の併用の相乗効果
以下の実験条件において、各種細胞増殖抑制剤と併用したP15ペプチド成分の抗腫瘍相乗効果を評価した。H−125細胞を96ウェルプレートに播種し、各プレートに10及び50μMでP15ペプチドを添加した。同時に、本発明において好ましい各細胞増殖抑制剤を、1〜2000nMの範囲の用量で添加し、同じ条件下で72時間インキュベーションを続けた。最後に、本発明に上述した通りに、細胞生死判別及びIC50値を判定した。表1に示した結果は、10又は50μMで該成分P15を同時に併用すると、各細胞増殖抑制剤のIC50値が、10〜100分の1に低下することを示す。以上の結果は、P15ペプチド及び本発明における成分として好ましい細胞増殖抑制剤を含む薬剤の組合せによる抗腫瘍効果の強化を明白に示す。
【0026】
表1.この薬剤の組合せの成分の同時投与による相乗的な抗腫瘍相互作用
【表1】
【0027】
(実施例2)
癌動物モデルにおける薬剤の組合せによる抗腫瘍効果の強化
この目的のため、5×10個のH−125腫瘍細胞を、本発明において前述した通りに、6〜8週齢のBalBCヌードマウスに移植した。腫瘍発現後、薬剤の組合せの成分を以下の通りに投与した。生理食塩溶液中のP15ペプチドを、0.5mg/kg/日で5日間、腹膜内投与した。同時に、シスプラチン(図1A)、又はシクロホスファミド(図1B)、又はマイトマイシンC(図1C)の腹膜内注射を、1mg/kg/日で同頻度により実施した。細胞増殖抑制剤も、生理食塩溶液中に溶解させた。腫瘍体積は、本発明において前述した様に記録した。図1A、1B、及び1Cに示す結果は、成分を同時に投与すると、該薬剤の組合せが抗腫瘍効果を強化することを示し、この強化は完全な腫瘍退縮により観察された。これとは別に、成分を単剤療法として投与すると、プラセボ群に対してわずかな抗腫瘍効果が観察されるのみであった。こうして、本発明者らは、さらに、優れた前臨床癌モデルにおいて、本薬剤の組合せの成分間における相乗的相互作用を示す。
【0028】
(実施例3)
in vitroにおける化学療法耐性の回避におけるP15ペプチドの効果
本アッセイにおいて、本発明者らは、成分を逐次的に投与する場合の、化学療法耐性現象の回避における該薬剤の組合せの効果を評価した。この目的のため、96ウェルプレートに2000個/ウェルでH−125細胞を播種し、24時間後に20μMのP15ペプチドを添加した。P15ペプチド成分による16時間のインキュベーション後、細胞単層を生理食塩溶液により2回洗浄した。最後に、本発明において好ましい細胞増殖抑制剤を、1〜2000nMの範囲の濃度で添加し、72時間インキュベーションを続けた。該終了時に、本発明において前述した通りに、各細胞増殖抑制剤につき細胞生死判別及びIC50値を判定した。表2に示した結果は、P15ペプチド成分による腫瘍細胞の前処理が、本発明において好ましい各細胞増殖抑制剤に対するこれら細胞の感受性を増大させることを示す。さらに、本発明者らは、細胞増殖抑制剤の効果に対して内因的に耐性である、SW948細胞に対するP15前処理の効果を評価した。結果は、P15ペプチド成分が、内因性の薬剤不応性腫瘍細胞をも、本発明において好ましい細胞増殖抑制剤に感受性である細胞に転換することを示した(表3)。
【0029】
本発明者らのデータは、本発明において好ましい細胞増殖抑制剤に対して、P15ペプチド成分を逐次的に投与すると、該薬剤の抗腫瘍効果に対する腫瘍細胞の感作を生じることを示す。
【0030】
表2.in vitroにおける本薬剤の組合せの成分の逐次的投与による化学感作
【表2】
【0031】
表3.in vitroにおける本薬剤の組合せの成分の逐次的投与による内因性薬剤不応性腫瘍細胞に対する化学感作
【表3】
【0032】
本発明で用いる腫瘍細胞において観察される薬剤調節タンパク質プロファイルが、P15ペプチド成分の化学感作に対する効果をさらに確認する。この目的のため、P15ペプチド成分で処理した又は非処理のH−125細胞由来の核タンパク質抽出物を、本発明において前述した通りに分析した。表4は、P15ペプチド成分により既知の機能ゆえに調節される一群のタンパク質を示す。この結果は、本発明の薬剤の組合せにおいてこのペプチドがもたらす、腫瘍の化学感作の分子的基礎を裏付ける。
【0033】
表4.P15が調節するタンパク質のプロファイル
【表4】
【0034】
(実施例4)
P15ペプチド成分がもたらすin vivoにおける化学感作
この目的のため、本発明において前述した通りに、5×10個のSW948細胞をヌードマウスに移植した。腫瘍発現後、薬剤の組合せの成分を以下の通りに逐次的に投与した。まず、P15ペプチド成分を、0.5mg/kg/日で5日間、腹膜内投与した。次いで、シスプラチン(図2A)、パクリタキセル(図2B)、及びドキソルビシン(図2C)を、5mg/kg/日でさらに5日間投与した。本実施例の結果は、in vivoにおけるP15前処理が、化学療法不応性の腫瘍表現形を転換して、本発明において好ましい細胞増殖抑制剤に対して応答性としうることを示す。以上の知見は、成分を逐次的に投与するとき、本発明における薬剤の組合せが、高頻度で観察される内因性腫瘍耐性を回避できるという証拠をも提示する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】癌動物モデルにおける薬剤の組合せによる抗腫瘍効果の強化を示す図である。(A)は、シスプラチン+P15の間の相乗作用を表し、(B)は、シクロホスファミド+P15の相乗作用を表し、(C)は、マイトマイシンC+P15のin vivoにおける相乗作用を表す。
図2】in vivoにおけるP15ペプチドによる腫瘍の化学感作効果を示す図である。(A)は、シスプラチンに対する化学療法耐性の回避を表し、(B)は、パクリタキセルに対する化学療法耐性の回避を表し、(C)は、ドキソルビシンに対する化学療法耐性の回避を表す。
図1
図2