【実施例】
【0022】
(実施例1)
本発明の実施例にかかる力率改善装置につき、
図1〜
図6を用いて説明する。
図1に示すごとく、本発明の力率改善装置1は、交流電源15と負荷17との間に設けられている。力率改善装置1は、交流電源15から負荷17へ供給する交流電力の力率を改善する。
力率改善装置1は、交流電力を整流する整流回路10と、リアクトル11と、スイッチング素子12と、平滑コンデンサ13と、電流検出手段14と、制御部2と、ゼロクロス検出回路3とを備える。
リアクトル11は、負荷17に直列接続されている。スイッチング素子12及び平滑コンデンサ13は、負荷17に並列接続されている。電流検出手段14は、リアクトル11に流れるリアクトル電流I
Lを検出する。制御部2は、スイッチング素子12のスイッチング動作を制御する。ゼロクロス検出回路3は、交流電源15の入力電圧波形51(
図2参照)のゼロクロスポイントV
Z1を検出する。
【0023】
制御部2は、基準電流算出手段20(
図4参照)及び位相調節手段21を備える。基準電流算出手段20は、リアクトル電流I
Lの目標になる基準電流波形50(
図3参照)を、ゼロクロス検出回路3が検出したゼロクロスポイントV
Z2(
図2参照)に基づいて算出する。基準電流波形50は、入力電圧波形51と周波数が等しくかつ交流電源15から供給する電力量に応じた振幅Ipを有する正弦波の絶対値からなる電流波形を有する。
【0024】
位相調節手段21は、リアクトル電流I
Lと基準電流波形50(
図3参照)との位相差φに応じて、該位相差φが小さくなるように基準電流波形50を進相または遅相させる。
制御部2は、位相調節後の基準電流波形50とリアクトル電流I
Lとの電流差が小さくなるように、スイッチング素子12のスイッチング動作を制御する。
【0025】
図1に示すごとく、交流電源15と力率改善装置1の間には、ローパスフィルタ19が設けられている。交流電源15は、ローパスフィルタ19を通して交流電力を整流回路10へ送っている。
整流回路10は、4個のダイオードからなるフルブリッジ回路である。整流回路10と負荷17との間は、正側電力ライン101および負側電力ライン102によって接続されている。正側電力ライン101には上記リアクトル11が設けられ、負側電力ライン14には電流検出手段14が設けられている。電流検出手段14は、例えばホール素子やシャント抵抗からなる。電流検出手段14は、制御回路2に接続している。
【0026】
また、正側電力ライン101と負側電力ライン102との間には、スイッチング素子2と平滑コンデンサ13とが接続されている。本例では、スイッチング素子2としてIGBT素子を使用している。スイッチング素子2(IGBT素子)のコレクタ端子は正側電力ライン101に接続し、エミッタ端子は負側電力ライン102に接続している。また、スイッチング素子2のゲート端子は制御回路2に接続している。スイッチング素子2のエミッタ端子とコレクタ端子との間には、フリーホイールダイオード120が逆並列接続している。
【0027】
スイッチング素子2と正側電力ライン101との接続点121と、平滑コンデンサ13と正側電力ライン101との接続点131との間には、放電防止用ダイオード18が設けられている。放電防止用ダイオード18のアノード端子はリアクトル11側に接続しており、カソード端子は平滑コンデンサ13側に接続している。放電防止用ダイオード18は、スイッチング素子12をオンした際に、平滑コンデンサ13に蓄えられた電荷がスイッチング素子12を通って放電することを防止している。
【0028】
本例の負荷17は、DC−DCコンバータである。この負荷17と、力率改善装置1とによって、充電装置100を構成している。充電装置100は、電気自動車やハイブリッド車に搭載されたバッテリー(図示しない)を、家庭に配された商用電源(交流電源15)を使って充電するための装置である。上記バッテリーには電圧センサ105が取り付けられている。電圧センサ105は、制御回路2に接続している。
【0029】
また、
図1に示すごとく、交流電源15とフィルタ回路19との間には、入力電流Isを測定するための入力電流測定手段4が設けられている。入力電流測定手段4は、制御回路2に接続している。
【0030】
また、交流電源15にはゼロクロス検出回路3が接続している。ゼロクロス検出回路3は、発光ダイオード31と受光素子32とからなるフォトカプラ30と、整流ダイオード33と、抵抗34とを備える。整流ダイオード33と抵抗34と発光ダイオード31とは直列接続されている。整流ダイオード33のアノード端子は、交流電源15のホット端子に接続している。また、発光ダイオード31のカソード端子は、交流電源15のコールド端子に接続している。
【0031】
交流電源15の入力電圧波形51と、フォトカプラ30の出力電圧波形54を
図2に示す。同図に示すごとく、入力電圧波形51はサインカーブを描く。入力電圧波形51が正の値をとる場合、すなわち交流電源15のホット端子の電位がコールド端子の電位よりも高い場合は、発光ダイオード31が発光し、受光素子32がオンになって、矩形状の出力電圧が発生する。
発光ダイオード31は、閾電圧Vthを印加しないと発光しないため、入力電圧波形51のゼロクロスポイントV
Z1と、フォトカプラ30の出力電圧波形54のゼロクロスポイントV
Z2との間には、位相差φがある。フォトカプラ30の出力電圧は、制御回路2に入力される。
【0032】
制御回路2は、
図4に示すごとく、マイコン22と、ゲート駆動回路23とを備える。マイコン22は、CPU24と、ROM25と、RAM26と、I/O27と、これらを接続する配線28とを備える。ROM25には、プログラム250と、後述する数値テーブル251が記憶されている。CPU24がプログラム250を読み出して実行することにより、上述した基準電流算出手段20と、位相調節手段21とが実現される。
【0033】
マイコン22は、リアクトル電流I
Lの目標となる基準電流波形50(
図3参照)を算出する。基準電流波形50は、交流電源15の入力電圧波形51(
図2参照)と周波数が同じ正弦波の絶対値からなる電流波形を有する。
基準電流波形50を生成する際には、マイコン22は、ROM25に記憶されている数値テーブル251(
図6参照)を用いる。数値テーブル251は、時間tと、|sinωt|との関係をテーブルにしたものである。本例では、ω=2πf=120πとした。
【0034】
基準電流波形50は、交流電源15から負荷17に供給する電力量に応じて、電流の振幅Ipを変えるようになっている。すなわち、マイコン22は、上記電圧センサ105(
図1参照)からのセンサ信号等に基づいて、負荷17が必要とする電力量を算出する。そして、この電力量に対応した入力電流Isの振幅Ipを求め、この振幅Ipを数値テーブル251の|sinωt|の数値欄にそれぞれ乗ずる。そして、乗じた結果(Ip|sinωt|)の開始時点を、フォトカプラ30の出力電圧波形54のゼロクロスポイントV
Z2に一致させる。これにより、基準電流波形50を算出する。
【0035】
一方、
図3に示すごとく、リアクトル電流I
Lは、入力電圧波形51(
図2参照)と同期しているため、基準電流波形50よりも位相が進んでいる。位相がずれた状態で、スイッチング素子12をスイッチング動作させて、基準電流波形50にリアクトル電流I
Lを合わせると、入力電流波形52(
図7参照)に歪み8が発生する。マイコン22は、この歪み8が小さくなるように、基準電流波形50の位相を調節する。位相調節は、マイコン22が上記プログラム250を実行することにより行う。
【0036】
図5に、プログラム250のフローチャートを示す。プログラム250は、ステップS1から始まって、各ステップSを順に処理し、再びステップS1に戻るループを、入力電圧波形51の1周期に1回、マイコン22に割り込み処理を行うことにより行う。
プログラム250を開始すると、まずステップS1を行う。ここでは、前回の割り込み時に遅相処理を行ったか、又は初めての処理かを判断する。初めてステップS1を処理する場合にはYesとなり、ステップS2に移る。
【0037】
ステップS2では、入力電流波形52に歪み8(
図7参照)が発生しているか否かを判断する。ここで歪み8がない(No)と判断した場合はステップS3に移り、割り込み処理を終了する。
ステップS2で歪み8がある(Yes)と判断した場合は、ステップS4に移る。ここでは、前回の割り込み時よりも入力電力波形52の波形が改善されているか(歪み8が減少したか否か)を判断する。初めてステップS4を処理する場合はNoと判断し、ステップS6に移る。ここでは、基準電流波形50を、数値テーブル251(
図5参照)の最小時間幅tmである20μsだけ進相させる。
【0038】
次の割り込み処理が開始すると、ステップS1を再び処理する。上述したように、ステップS1では、前回の割り込み時に遅相処理をしたか否かを判断する。遅相処理をしていない場合はNoとなり、ステップS7に進む。ステップS7では、入力電流波形52に歪み8があるか否かを判断する。歪み8が無い(No)と判断した場合はステップS8に進み、割り込み処理を終了する。また、ステップS7において、入力電流波形52に歪み8がある(Yes)と判断した場合は、ステップS9に進む。
【0039】
ステップS9では、前回の割り込み時よりも入力電流波形52が改善されているか(歪み8が減少したか否か)を判断する。ここで、入力電流波形52が改善されていない(No)と判断した場合はステップS11に進み、基準電流波形50を数値テーブル251(
図5参照)の最小時間幅tmである20μsだけ遅相させる。また、ステップS9で、入力電流波形52が改善されている(Yes)と判断した場合はステップS10に進み、基準電流波形50を20μsだけ進相させる。
【0040】
このように、前回の割り込み時に進相処理をした場合(ステップS1でNoと判断した場合)であって、かつステップS9でYes(入力電流波形52が改善されている)と判断した場合は、更に進相処理を行う。これにより、入力電流波形52の歪み8を更に減少させるようにしている。また、前回の割り込み時に進相処理をした場合(ステップS1でNoと判断した場合)であって、かつステップS9でNo(入力電流波形52が改善されていない)と判断した場合は、遅相処理を行う。すなわち、入力電流波形52が改善されない場合は、前回の割り込み時とは反対側に位相をずらすようにしている。
【0041】
ステップS10,S11を処理した後、次の割り込み時に、再びステップS1を処理する。ステップS1でYesと判断し、次いでステップS2でYesと判断すると、ステップS4に移る。ここでは、前回の割り込み時よりも入力電流波形52が改善されているか否か(歪み8が減少したか否か)を判断する。ステップS4でYes(歪み8が減少した)と判断した場合は、ステップS5に進み、基準電流波形50を遅相させる。また、ステップS4でNo(歪み8が減少していない)と判断した場合は、ステップS6に進み、基準電流波形50を進相させる。
【0042】
このように、前回の割り込み時に遅相処理をした場合(ステップS1でYesと判断した場合)であって、かつステップS4でYes(入力電流波形52が改善されている)と判断した場合は、更に遅相処理を行う。これにより、入力電流波形52の歪み8を更に減少させるようにしている。また、前回の割り込み時に遅相処理をした場合(ステップS1でYesと判断した場合)であって、かつステップS4でNo(入力電流波形52が改善されていない)と判断した場合は、進相処理を行う。すなわち、入力電流波形52が改善されない場合は、前回の割り込み時とは反対側に位相をずらすようにしている。
【0043】
本例の作用効果について説明する。
本例では、リアクトル電流I
Lと基準電流波形50との位相差φに応じて、該位相差φが小さくなるように基準電流波形50を進相または遅相させている(
図5参照)。また、本例の制御部2は、位相調節後の基準電流波形50とリアクトル電流I
Lとの電流差が小さくなるように、スイッチング素子12のスイッチング動作を制御する。
このようにすると、基準電流波形50の進相量または遅相量を、位相差φに応じて変えることができるため、リアクトル電流I
Lと基準電流波形50の位相を一致させやすい。そのため、これらリアクトル電流I
Lと基準電流波形50との位相が一致した状態で、制御部2によってスイッチング素子12の制御を行うことができる。これにより、交流電源15の入力電流波形52の歪み8を抑制でき、電力の力率を向上させることが可能となる。
【0044】
また、力率改善装置1を使用する国や地域が変わると、交流電源15の電圧や周波数が変わることがあり、これに伴って、ゼロクロス検出回路3によって検出するゼロクロスポイントV
Z2が変化して、基準電流波形50とリアクトル電流I
Lとの位相差φが変化する場合があるが、本例の力率改善装置1によれば、変化後の位相差φに応じて、基準電流波形50を進相または遅相させることができる。そのため、基準電流波形50とリアクトル電流I
Lとの位相を一致させることができ、入力電流波形52の歪み8を抑制できる。
【0045】
また、力率改善装置1は、制御部2に含まれるマイコン22内部の演算処理によって、基準電流波形50を進相または遅相できる。そのため、基準電流波形50の位相調節をするために専用の部品を別途設ける必要がなくなり、力率改善装置1の製造コストの上昇を抑制できる。
【0046】
また、デジタル制御により入力電流を制御する場合、マイコン内でゼロクロス取得処理に要する時間とスイッチング素子のduty計算時間とによる制御遅れが生じ、相対的に位相がさらに遅れることがあるが、本例によれば、基準電流波形50を進相させることができるので、このような問題が生じにくい。
【0047】
また、本例では、制御部2はマイコン22を備え、位相調節手段21は、予め定められた最小時間幅tm(
図5参照)の整数倍、基準電流波形50を進相または遅相できるよう構成されている。最小時間幅tmは、マイコン22の制御周期よりも短い。
この場合には、最小時間幅tmは制御部2の制御周期よりも短いので、基準電流波形50の位相を微調整することができる。そのため、基準電流波形50とリアクトル電流I
Lの位相を一致させやすくなり、入力電流波形52の歪み8を抑制しやすくなる。
【0048】
以上のごとく、本発明によれば、入力電流波形の歪みを抑制しやすく、製造コストを低減できる力率改善装置を提供することができる。
【0049】
(実験例)
本例の効果を確認するための実験を行った。まず、
図11に示す従来の力率改善装置を作成し、比較例としてのサンプル1にした。また、
図11に示す力率改善装置1を作成し、本発明に係るサンプル2にした。
各サンプルを交流電源15に接続し、負荷17としてDC−DCコンバータを用いた状態で、入力電圧波形51及び入力電流波形52を測定した。交流電源15の周波数は60Hzであり、入力電圧Vsの実効値は200Vであった。また、入力電流Isの実効値は15Aであった。比較例(サンプル1)についての測定結果を
図7に示し、本発明(サンプル2)についての測定結果を
図9に示す。
【0050】
また、各サンプルを交流電源15に接続し、負荷17としてDC−DCコンバータを用いた状態で、入力電流Isの高調波電流を測定した。比較例についての測定結果を
図8に示し、本発明についての測定結果を
図10に示す。
図8、
図10のグラフは、高調波次数Nが2〜40までの高調波電流の測定値を、法令による規制値と共に表したものである。
【0051】
比較例のサンプルは、
図7に示すごとく、入力電流波形52のゼロクロスポイント付近に歪み8が発生していることが分かる。すなわち、入力電流波形52が理想的な正弦波からずれており、交流電力の力率が低いことが分かる。
また、比較例のサンプルは、
図8に示すごとく、高調波電流が全体的に高く、高調波次数Nによっては法令による規制値を超えていることが分かる。
【0052】
これに対して本発明に係るサンプルは、
図9に示すごとく、入力電流波形52のゼロクロスポイント付近に歪み8が発生していない。そのため、入力電流波形52が理想的な正弦波に近く、交流電力の力率が高いことが分かる。
また、本発明に係るサンプルは、
図10に示すごとく、高調波電流が全体的に低く、全ての高調波次数Nにおいて高調波電流が法令による規制値を下回っていることが分かる。