特許第5734232号(P5734232)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5734232
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】モータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 9/19 20060101AFI20150528BHJP
【FI】
   H02K9/19 Z
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-77931(P2012-77931)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-208024(P2013-208024A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 泰三
(72)【発明者】
【氏名】中崎 修
(72)【発明者】
【氏名】池上 雅人
【審査官】 下原 浩嗣
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−083139(JP,A)
【文献】 特開2011−120402(JP,A)
【文献】 特開2002−034189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 9/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力軸を有するロータと、コイルが巻回されたステータと、前記ロータおよび前記ステータを収容し冷却液が封入されたケーシングと、を備え、ロータおよびステータの少なくとも一方にスキューが形成されたモータであって、
前記出力軸内に軸方向に延びる中空部が形成されており、
前記中空部は、前記出力軸の反負荷側端面で前記ケーシング内に開口するとともに、前記出力軸の負荷側端部の近傍にケーシング内と連通する開口部を有し、
前記ロータの回転と前記スキューとによって、前記ロータの両側での冷却液の液面高さに差が生じ、反負荷側での液面高さの方が高くなったときに、前記冷却液が、前記出力軸の反負荷側端面の開口から前記中空部内に流入し、液面高さの低い負荷側へ搬送されることを特徴とするモータ。
【請求項2】
前記中空部は、前記出力軸の両端面で前記ケーシング内に開口していることを特徴とする請求項1に記載のモータ。
【請求項3】
前記出力軸の負荷側端部の近傍に、前記中空部から前記出力軸の径方向に延び該出力軸の側面に前記開口部を有する貫通穴が形成されることを特徴とする請求項1または2に記載のモータ。
【請求項4】
前記出力軸に連結される減速機を有し、
前記ケーシング内の空間と前記減速機内の空間とが連通しており、前記中空部内に流入し負荷側へ搬送された冷却液が前記減速機内に供給されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のモータ。
【請求項5】
当該モータは車両の車輪駆動装置に組み込まれ、
前記車両が前進するときに、冷却液の反負荷側での液面高さの方が負荷側の液面高さよりも高くなるように、前記スキューが形成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のモータ。
【請求項6】
前記中空部の中に、冷却液を液面の高い方から低い方へと誘導する誘導手段が形成されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のモータ。
【請求項7】
前記誘導手段が、前記出力軸の内周面に形成され前記スキューの捻り方向と逆向きの螺旋溝であることを特徴とする請求項6に記載のモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却液を使用するモータに関する。
【背景技術】
【0002】
モータおよび減速機を互いに連通する空間内に密封し、空間内で潤滑油を循環させる構造の油浴式モータが知られている。例えば、特許文献1には、モータの回転軸を中空にし、外部の冷却流体供給部から回転軸の穴を通してハウジング内のロータ収容空間にオイル含有冷媒を吹き出すように構成された回転電気が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−41861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、冷却流体供給部を用いて冷媒を循環させる必要がある。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ポンプ等の外部装置を用いることなくモータが収容された閉鎖空間内で冷却液を循環させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、出力軸を有するロータと、コイルが巻回されたステータと、ロータおよびステータを収容し冷却液が封入されたケーシングと、を備え、ロータおよびステータの少なくとも一方にスキューが形成されたモータである。出力軸内に軸方向に延びる中空部が形成されており、中空部は、ロータの回転によって冷却液の液面が高くなる側の出力軸の端面でケーシング内に開口するとともに、該端面と反対側の出力軸の端部の近傍にケーシング内と連通する開口部を有する。
【0007】
この態様によると、ロータの回転とスキューによって生じるロータの両側での冷却液の液面差を利用して、出力軸端面の開口を通して中空部内へと冷却液を導き、中空部を通して液面の高い側から低い側へと冷却液を搬送することができる。したがって、ポンプ等の外部の装置を用いることなく、ロータ両側での液面差を軽減して冷却液を各部に行き渡らせることができる。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ポンプ等の外部装置を用いることなくモータが収容された閉鎖空間内で冷却液を循環させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】フォークリフトの車輪に組み込まれた、本発明の一実施形態に係るモータを使用する動力伝達装置の構成を示す図である。
図2】モータ停止時の冷却液の液面を示す図である。
図3】モータ出力軸に貫通穴が形成されていない従来の構造のモータにおける、モータ運転時の液面変化の様子を示す図である。
図4】本実施形態に係るモータの運転時の液面変化の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、フォークリフトの車輪に組み込まれた、本発明の一実施形態に係るモータを使用する動力伝達装置100の構成を示す。図1は、動力伝達装置100の中心軸を含む鉛直面で切断したときの断面図である。
【0012】
動力伝達装置100は、減速機10、IPM(Interior Permanent Magnet)モータ12、ブレーキ機構14から構成され、作業車両の車輪50を片方ずつ独立して駆動するために用いられる。
【0013】
減速機10は、偏心揺動噛合型と呼ばれる遊星歯車減速機の一種である。入力軸16は、後述する外歯歯車24、26の半径方向中央に配置されている。入力軸16には、該入力軸16と軸心のずれた2つの偏心体18、20が一体に形成されている。2つの偏心体18、20は、互いに180度の位相差を有して偏心している。なお、偏心体18、20は、入力軸16と別体で構成された上で、キー等によって入力軸に固定されたものであってもよい。
【0014】
各偏心体18、20の外周には、ころ軸受21、23を介して二枚の外歯歯車24、26が揺動可能に外嵌されている。外歯歯車24、26は、それぞれ内歯歯車28に内接噛合している。
【0015】
内歯歯車28は、内歯を構成する円筒状の内歯ピン28A、28Bと、内歯ピン28A、28Bを貫通してこれを回転自在に保持する保持ピン28Cと、保持ピン28Cを回転自在に支持するとともに、ケーシング30と一体化された内歯歯車本体28Dとで、主に構成されている。
【0016】
外歯歯車24、26の軸方向車体側には車体フレーム(図示せず)に固定される第1キャリア体34が配置され、軸方向反車体側にはキャリアボルト36およびキャリアピン42を介して第1キャリア体34と一体化された第2キャリア体38が配置されている。第2キャリア体38には、内ピン40が一体に形成されている。
【0017】
外歯歯車24には、その軸心からオフセットされた位置に12個の同径の貫通穴が等間隔に形成されている。そのうち、120度の等間隔で配置された3つの孔にはキャリアピン42が挿通され、残りの9つの孔には内ピン40が挿通される。外歯歯車24の外周には波形の歯が形成されており、この歯が内歯歯車28の内歯ピン28A上を接触しつつ移動することで、中心軸を法線とする面内で外歯歯車24が揺動できるようになっている。外歯歯車24に対して180度の位相差がある点以外は外歯歯車26も同様である。
【0018】
減速機10のケーシング30は、一対の主軸受46、47を介して、車体フレームに固定された第1キャリア体34および第2キャリア体38に回転自在に支持されている。ケーシング30の軸方向反車体側の端面には、ボルト49によってホイール部材48が連結され、このホイール部材48にフォークリフト(図示せず)のタイヤ50が装着される。減速機10は、タイヤ50の軸方向範囲内(図1の二点鎖線の範囲内)に収められている。
【0019】
減速機10の入力部材である入力軸16は、正面合わせで配置された一対のアンギュラ玉軸受52、54を介して、第1キャリア体34および第2キャリア体38に回転自在に支持されている。
【0020】
なお、減速機10内の主軸受46、47、およびアンギュラ玉軸受52、54は開放型の軸受であり、後述するようにケーシング内に封入された冷却液によって潤滑される。
【0021】
IPMモータ12は、共に積層鋼板で構成されたステータ64およびロータ66を備える。ロータ66の積層鋼板には軸方向に延びる空隙66Aが複数形成されており、この空隙内に永久磁石76A、76Bが埋め込まれている。永久磁石がロータ内に埋め込まれているIPMモータは、永久磁石がロータの表面に貼り付けられているSPMモータに比べて効率が高く、フォークリフトの駆動用モータとして適している。ロータ66を構成している積層鋼板は、ボルト67によって一体化され、図示しない係合部を介してモータ出力軸70と一体化されている。モータ出力軸70の車体側は、軸受82を介して、モータケーシング60から内側に延出する延出部60Aに回転自在に支持されている。モータ出力軸70の反車体側は、スプライン70Aを介して減速機10の入力軸16と連結される。
【0022】
ステータ64は、モータケーシング60に固定されている。ステータ64には、磁場を形成するためのコイルが所定回数巻回されている。コイルの巻回のための折り返しの部分が、コイルエンド68A、68Bとして、ステータ64の両端から軸方向に突出している。
【0023】
図示していないが、ロータ66と対面するステータ64の内周面には、電圧波形の改善やコギングトルクの低減を目的としてスキューが形成されている。なお、ステータ64ではなく、ステータ64と対面するロータ66の外周面にスキューが形成されていてもよいし、ステータ64の内周面とロータ66の外周面の両方にスキューが形成されていてもよい。後者の場合、ステータとロータのスキューの捻り方向は同一である。
【0024】
ロータ66の軸方向両端面には、ロータ内に埋め込まれた永久磁石が回転中に飛びなさないようにするための端板72、74がそれぞれ取り付けられている。端板は例えばステンレスまたはアルミ製である。
【0025】
モータ出力軸70の内部には、軸方向に延びる中空部90が形成されている。中空部90の車体側端部は、開口部96で空間80Lと連通しており、中空部90の反車体側端部には、上述のように減速機10の入力軸16が挿入されている。さらに、モータ出力軸70には、ロータ66の両端の端板72、74に隣接して、径方向に延び出力軸70の側面に開口する貫通穴92、94がそれぞれ形成されており、中空部90と空間80L、80Rとを連通している。貫通穴92、94はそれぞれ、モータ出力軸70の周方向に少なくとも2つ、好ましくは回転対称的に3つ以上設けられるが、1つのみであってもよい。貫通穴92、94は、軸方向において、出力軸70の側面上の開口が、ステータ64の両端に延びるコイルエンド68A、68Bの径方向内側にそれぞれ位置するように設けられる。
【0026】
図示しないが、出力軸70の内周面には、ステータ内周面またはロータ外周面のスキューの捻り方向とは逆向きの螺旋溝が形成されている。詳細は後述するが、この螺旋溝は開口部96を通って中空部90内に侵入した冷却液を車体側(空間80L側)から反車体側(空間80R側)に誘導する手段として機能する。
【0027】
ブレーキ機構14は、モータ出力軸70の回転を制動する。ブレーキ機構14は、ステータ64に巻回されているコイルのコイルエンド68Aの半径方向内側に収められており、複数の摩擦板を有する多板式制動部78を備える。多板式制動部78の摩擦板は、複数(図示の例では4枚)の固定摩擦板78Aと、複数(図示の例では3枚)の回転摩擦板78Bとで構成されている。
【0028】
固定摩擦板78Aは、IPMモータ12のモータケーシング60の後端を塞ぐように配置されたブレーキピストン84と、ケーシング60の延出部60Aとの間で、図示しない貫通ピンによって円周方向に固定されるとともに、貫通ピンに沿って軸方向に移動可能とされている。
【0029】
一方、回転摩擦板78Bは、ロータ66と一体的に回転するモータ出力軸70側に組み込まれ、出力軸70と一体的に回転可能である。出力軸70の外周には、軸方向に沿ってスプライン70Bが形成されており、回転摩擦板78Bの内周端がスプライン70Bと係合している。これにより、回転摩擦板78Bは、出力軸70とスプライン70Bを介して円周方向に一体化されると共に、出力軸70の軸方向に沿って移動可能となっている。回転摩擦板78Bの表面には、摩擦シート(図示せず)が接着されている。
【0030】
ブレーキピストン84は、油路86を介して図示しない油圧機構と連通するシリンダ内で摺動するように配置されている。フォークリフトの作業者が制動操作を行うと、油圧機構から油路86を介してシリンダ内に圧油が供給され、車体側に最も近い固定摩擦板78Aをブレーキピストン84が軸方向に押圧するように構成されている。
【0031】
IPMモータ12のロータ66、出力軸70、ブレーキ機構14の摩擦板78A、78B、減速機10の入力軸16、減速機10の出力軸であるケーシング30、およびホイール部材48は、全て同軸に配置される。
【0032】
IPMモータ12およびブレーキ機構14は、共に湿式で構成され、かつ減速機10、IPMモータ12、およびブレーキ機構14の内部空間は密閉された一続きの空間となっている。この空間内に冷却液が封入されており、冷却液が空間内を流通可能となっている。この冷却液は、IPMモータのロータ66およびステータ64の冷却のみならず、減速機とモータ内の軸受および摺動部の潤滑液の役割も同時に果たしている。
【0033】
以下、IPMモータ12の駆動時の動力伝達装置100の作用を説明する。
【0034】
フォークリフトの作業者が所定の前進または後進操作を行うと、IPMモータ12のステータ64に対してロータ66および出力軸70が回転し、出力軸70の回転がスプライン70Aを介して減速機10の入力軸16に伝達される。入力軸16が回転すると、偏心体18、20の外周が偏心運動を行い、ころ軸受21、23を介して外歯歯車24、26が揺動する。この揺動により、外歯歯車24、26の外歯と内歯歯車28の内歯ピン28A、28Bとの噛合位置が順次ずれてゆく現象が生じる。
【0035】
外歯歯車24、26と内歯歯車28との歯数差は、「1」に設定されており、また、各外歯歯車24、26の自転は、車体フレームに固定された第1キャリア体34に固定された内ピン40によって拘束されている。このため、入力軸16が一回回転する毎に、自転の拘束されている外歯歯車24、26に対して内歯歯車28が歯数差に相当する分だけ自転(回転)することになる。この結果、入力軸16の回転により、1/(内歯歯車の歯数)に減速された回転速度にて内歯歯車本体28Dと一体化されているケーシング30が回転する。ケーシング30の回転により、ケーシング30にボルト49によって固定されているホイール部材48を介してフォークリフトのタイヤ50が回転する。
【0036】
続いて、ブレーキ機構14による動力伝達装置100の制動作用を説明する。
【0037】
フォークリフトの作業者が所定の制動操作を行うと、油圧機構から油路86を介してシリンダ内に圧油が供給され、ブレーキピストン84がシリンダ内を反車体側(図中の右方向)に移動する。この結果、最も車体側に位置する固定摩擦板78Aがブレーキピストン84に押されて反車体側に移動する。すると、複数の固定摩擦板78Aと回転摩擦板78Bが次々に強い力で接触する。上述したように、固定摩擦板78Aは貫通ピンを介して円周方向に固定されており、回転摩擦板78Bは、出力軸70に組み込まれているスプライン70Bを介して出力軸70と円周方向に一体化されている。そのため、固定摩擦板78Aと回転摩擦板78Bが、回転摩擦板78Bに接着された摩擦シートを介して強く接触することによって、出力軸70の制動作用が発生する。
【0038】
作業者が制動操作を止めると、シリンダ内の圧油の供給が停止されるため、延出部60Aとブレーキピストン84の間に介在されたばね84Aの復元力により、ブレーキピストン84が車体側に戻り、各固定摩擦板78Aが元の軸方向位置に復帰する。これに伴って回転摩擦板78Bも元の軸方向位置に復帰し、固定摩擦板78Aと回転摩擦板78Bの接触が解かれて制動作用が消滅する。
【0039】
図2は、モータ停止時の冷却液(潤滑油)の液面を示す図である。図中の網掛け部が冷却液を表している。図示するように、本実施形態では、中心軸が水平になった状態で、IPMモータ12の軸受82、減速機10のころ軸受21、23、およびアンギュラ玉軸受52、54の一部が浸かる程度の量の冷却液がケーシング30および60内に封入されている。
【0040】
図3は、モータ軸に貫通穴が形成されていない従来の構造のモータにおける、モータ運転時の液面変化の様子を示す図である。ロータが回転すると、冷却液はその粘性のためにロータ表面に引きずられ、ロータの回転方向と同じ方向に流れ出す。特に、ロータとステータ間のギャップに存在する冷却液は、ステータの内周面またはロータの外周面に形成されているスキューによって、スキューの傾斜している側へと軸方向に押し出される。軸方向車体側に向かう流れが生じるようにスキューの傾斜方向を定めた場合、この作用のために、図3に示すように、車体側の空間80Lと反車体側の空間80Rとで液面の高さが異なる現象が発生する。この現象が発生すると、図3に示すように、減速機10内のころ軸受21、23やアンギュラ玉軸受52、54が冷却液に浸からない状態になり、十分な潤滑性能が確保できないおそれがある。
【0041】
また、冷却液が少ない状態では、モータの主たる発熱源であるコイルのうち、下半分ほどのみが冷却液に浸かった状態になるので、上半分のコイルの冷却ができず、放熱性能が不足する。
【0042】
モータの冷却性能を高めるには、上半分のコイルへの冷却液の接触量を増加させる必要がある。そのため、ケーシング内に封入する冷却液の量を増加させる手法を採用すると、冷却液の粘性抵抗によるロータの回転負荷が増大し、モータ効率が低下してしまうという問題がある。
【0043】
本実施形態では、中空部を有するモータ出力軸に、出力軸の径方向に延びその側面に開口する貫通穴を形成することで、上記の問題を解決している。
【0044】
図4は、本実施形態に係るモータの運転時の液面変化の様子を示す図である。図中の矢印は、冷却液の流れと出力軸の回転方向とを示している。ステータとロータ間の電磁気的作用によってロータ66が回転すると、図3と同様に、冷却液はその粘性のためにロータ表面に引きずられ、ロータの回転方向と同じ方向に流れ出す。ロータとステータ間のギャップに存在する冷却液は、ステータの内周面またはロータの外周面に形成されているスキューによって、スキューの傾斜している側へと軸方向に押し出される。
【0045】
ロータの回転数が大きくなり、車体側の空間80Lにおける冷却液の液面がモータ出力軸70の開口部96の下端を上回ると、中空部90内に冷却液が流れ込む。出力軸の内周面に形成された螺旋溝の回転によって、車体側の開口部96から反車体側の軸端に向けて内周面上を移動する冷却液の流れが発生する。
【0046】
出力軸70の内周面上を移動する冷却液の一部は、出力軸70に働く遠心力によって、貫通穴92、94を通り貫通穴92、94の上方に位置するコイルエンド68A、68Bに向けて飛散する。貫通穴92、94から飛散した冷却液はコイルエンド68A、68Bに付着し、コイルから熱を奪い取り、重力によって液面に落下する。また、貫通穴94から飛散した冷却液は、出力軸70の外側を通って減速機側に供給される。冷却液の残りは、スプライン70Aの隙間を通って減速機10側に供給される。
【0047】
また、中空部90による冷却液の搬送作用によって、車体側の空間80Lの液面が反射体側の空間80Rの液面よりも極端に大きくならず、左右の液面が均一に近づく。この結果、減速機10内のころ軸受21、23や、アンギュラ玉軸受52、54等の摺動部も冷却液に浸かるようになり、潤滑性能を確保することができる。
【0048】
図4では、中空部90の内径が一定であることが示されているが、例えば車体側端面から反車体側端面に向けて内径が小さくなるなど、内径が一定でなくてもよい。
【0049】
また、径方向に延びる貫通穴92、94も、その内径が一定であるように描かれているが、側面側の開口よりも内周側の開口の方が大きくなるように貫通穴を形成してもよい。この場合、貫通穴からの冷却液の飛散速度を高めることができる。
【0050】
また、貫通穴92、94は中心軸に対して直交する方向に延びるのではなく、傾斜して延びるように設けられてもよい。これにより、側面側の開口の真上以外のコイルエンド部分にも冷却液を飛散させることができる。貫通穴92、94がそれぞれ複数個ずつ設けられる場合、貫通穴毎に傾斜角度が異なっていてもよい。これにより、コイルエンドの広範囲に冷却液を飛散させることができる。
【0051】
ロータの両側の空間80L、80Rのいずれの液面が高くなるかは、ロータの回転方向とステータ内周面またはロータ外周面のスキューの傾斜方向とによって決まる。本実施形態では、開口部96を通して中空部90内に冷却液を導入するために、空間80Lの液面が空間80Rよりも高くなることが必須であるため、使用頻度の高いロータの回転方向に合わせて空間80Lに向かう冷却液の流れが生じるように、ステータ内周面またはロータ外周面の傾斜方向を定めることが好ましい。動力伝達装置100でフォークリフトを駆動する場合、使用頻度の高いロータの回転方向は、フォークリフトの前進に対応する回転方向である。
【0052】
また、ロータが所定の回転速度(好ましくは、使用頻度の高い高回転時)で運転しているときのロータ両側の空間80Lと80Rでの液面の偏りを測定し、この運転時でも減速機側に適切な量の冷却液が存在するように、ケーシング30、60内に封入する冷却液の量を最適設計することが好ましい。
【0053】
なお、図4では、モータ出力軸70の反車体側端部が減速機10の入力軸16とスプライン70Aを介して接続されているが、減速機10の入力軸16を他の方法で(例えばカップリング等を用いて)モータ出力軸70と接続することで、モータ出力軸70の反車体側端部をより大きく開口させてもよいし、または反車体側端部を完全に塞ぐように入力軸16と接続させてもよい。後者の場合でも、貫通穴94から飛散した冷却液が出力軸70の外側を通って減速機10側に供給されるので、減速機10側の冷却液が不足することはない。また、モータ出力軸70と減速機10の入力軸16とをスプラインで接続する場合にも、ほとんど隙間のないスプライン、あるいは締まりばめとすることにより、モータ出力軸の反車体側端部を塞ぐ態様とすることもできる。
【0054】
また、モータ出力軸70の内周面に螺旋溝を形成せずに平滑面としてもよい。ロータの両端で冷却液の液面差が生じた場合、車体側の空間80Lと反車体側の空間80Rにおける液面の位置エネルギーの差によって、螺旋溝がなくても、車体側から反車体側に向けて中空部90を通して冷却液が搬送されるからである。螺旋溝を形成する代わりに、またはこれに加えて、中空部90内にインペラを設置して、車体側から反車体側に向けた冷却液の流れを生み出すようにしてもよい。
【0055】
以上説明したように、本実施形態によれば、ロータの回転とステータ内周面またはロータ外周面のスキューとによって生じるロータの両側での冷却液の液面差を利用して、出力軸端面の開口を通して中空部内へと冷却液を導き、中空部を通して液面の高い側から低い側へと冷却液を搬送することができる。したがってポンプ等の外部装置を用いることなく、ロータの両端での液面差を軽減して冷却液をモータおよび減速機の摺動部に行き渡らせることができる。
【0056】
また、出力軸に働く遠心力によって、中空部に形成された貫通穴から冷却液をコイルエンドに向けて飛散させるので、ケーシング内に封入される冷却液の量が少なくても(例えば、出力軸が水平な状態でロータの下側の一部が浸漬する程度の量であっても)、コイルエンドの冷却を効率的に行うことができる。したがって、冷却液の増量による、ロータ回転時の攪拌抵抗の増加を抑制することができる。
【0057】
以上、本発明の実施の形態について説明した。これらの実施の形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0058】
実施の形態では、IPMモータの車体側にブレーキ機構が配置された構成を例に説明したが、減速機とIPMモータの間にブレーキ機構が配置されている構成であっても本発明を適用することができる。また、これ以外の構成でも、軸受等の摺動部の潤滑油とモータの冷却液とが共通化される任意の構造の油浴式モータに本発明を適用することができる。
【0059】
実施の形態では、減速機の減速機構として揺動内接噛合型の減速機構を採用することを述べた。しかしながら、本発明に係るモータと共に用いられる減速機の減速機構はこれに限定されず、例えば単純遊星歯車減速機構などの他の減速機であってもよい。また、入力軸と出力軸が同軸である一段の減速機構でなく、多軸または多段の減速機構であってもよい。
【0060】
実施の形態では、入力軸(偏心体軸)16が内歯歯車28の中心に配置されるタイプの偏心揺動噛合型の遊星歯車減速機と共に本発明に係るモータを用いることを説明した。しかしながら、このタイプの減速機に限らず、例えば、内歯歯車の中心からオフセットした位置に複数本の偏心体軸が配置されるタイプの遊星歯車減速機と共に、本発明に係るモータを用いることができる。
【0061】
実施の形態では、第1キャリア体34および第2キャリア体38を固定し、ケーシング30から回転を出力するように、偏心揺動噛合型の遊星歯車減速機を構成することを述べた。しかしながら、ケーシング30を固定し、第1キャリア体34および第2キャリア体38から回転を出力するように遊星歯車減速機を構成してもよい。この場合、外歯歯車24、26の自転成分が、内ピン40を介して第1キャリア体34および第2キャリア体38に伝達される。
【0062】
本発明に係るモータは、フォークリフト等の作業車両の車輪駆動装置に組み込まれる用途に限られず、任意の用途に適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
10 減速機、 12 IPMモータ、 21、23 ころ軸受、 30、60 ケーシング、 46、47 主軸受、 52、54 アンギュラ玉軸受、 64 ステータ、 66 ロータ、 70 モータ出力軸、 82 軸受、 90 中空部、 92 貫通穴、 96 開口部、 100 動力伝達装置。
図1
図2
図3
図4