(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5734501
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】水中摺動部材
(51)【国際特許分類】
C10M 107/00 20060101AFI20150528BHJP
C10M 107/04 20060101ALI20150528BHJP
C10M 107/32 20060101ALN20150528BHJP
C10M 107/44 20060101ALN20150528BHJP
C10M 107/38 20060101ALN20150528BHJP
C10M 107/46 20060101ALN20150528BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20150528BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20150528BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20150528BHJP
C10N 50/08 20060101ALN20150528BHJP
【FI】
C10M107/00
C10M107/04
!C10M107/32
!C10M107/44
!C10M107/38
!C10M107/46
C10N30:00 Z
C10N30:06
C10N40:02
C10N50:08
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-261610(P2014-261610)
(22)【出願日】2014年12月25日
【審査請求日】2014年12月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 貴裕
【審査官】
馬籠 朋広
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭51−046668(JP,A)
【文献】
国際公開第2004/046285(WO,A1)
【文献】
国際公開第2008/029510(WO,A1)
【文献】
特開2013−234270(JP,A)
【文献】
特開2012−092241(JP,A)
【文献】
特開平07−102277(JP,A)
【文献】
特開平09−071704(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動面を有する金属基体と潤滑プラグとを備える水中摺動部材であって、
前記金属基体には、前記摺動面に開口する複数の孔または凹部が形成され、該孔または凹部に前記潤滑プラグが埋設されており、
前記潤滑プラグが、
フェノール、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリオキシベンゾイルから選ばれる1種以上の樹脂を0〜20体積%と、
着色剤を0〜1体積%と
を含み、残部がポリエチレンからなることを特徴とする水中摺動部材。
【請求項2】
前記ポリエチレンの分子量が20万以上であることを特徴とする請求項1に記載された水中摺動部材。
【請求項3】
前記金属基体は、内周面が前記摺動面である円筒形状を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載された水中摺動部材。
【請求項4】
前記金属基体が平板形状であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された水中摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダムの水門の摺動部や排水ポンプなどの用途において水中で用いられる水中摺動部材に関するものであり、詳細には、金属基体に潤滑プラグが埋設された水中摺動部材に係るものである。
【背景技術】
【0002】
水中摺動部材は、ダムの水門の摺動部や排水ポンプなどの低速、高負荷の条件下で用いられ、例えばシャフトなどの相手材が水に浸漬しており、水中摺動部材がそのシャフト等を支持するために用いられる。このような水中摺動部材として、金属基体に複数の孔または凹部を形成し、この孔または凹部に潤滑プラグを埋設したものが知られている。
【0003】
特許文献1には、金属基体に埋め込んで使用される潤滑プラグ(ペレット)の構造として、黒鉛よりなるペレット母体部に凹部を設け、パラフィン、黒鉛などの固体潤滑剤およびポリエチレンの混合物を充填させたものが記載されている。黒鉛は、水を物理的に吸着し、黒鉛自身の劈開強さが弱くなって摩擦係数が低下すると考えられている。また、この水中摺動部材は、使用時に摩擦によって摺動面の温度が上昇すると、潤滑プラグを構成するポリエチレンおよびパラフィンが熱膨張し、さらにパラフィンは固相から液相となり体積膨張することで、混合物が摺動面から突出し相手材の表面に押し付けられ、摺動面間に黒鉛などの固体潤滑剤が供給され易くなっていると記載する。
【0004】
また、特許文献2では、黒鉛を含む潤滑プラグを用いた摺動部材は摺動面での被膜の形成能が不十分だとし、黒鉛に代えて、メラ
ミンシアヌレートを含有させた、ポリエチレンとワックスとメラ
ミンシアヌレートからなる潤滑プラグが提案されている。メラ
ミンシアヌレートは、黒鉛等と同じく層状構造であり劈開性を有すると考えられ、摺動部材の耐摩耗性を向上させる作用を有すると記載されている。
【0005】
他方、水中で用いられる摺動部材に用いられる潤滑プラグではないが、特許文献3は、黒鉛を含むことなく、潤滑油と、超高分子量ポリエチレンと、該超高分子量ポリエチレンよりも高融点である熱可塑性樹脂とを混合し、熱可塑性樹脂は、複数の空孔部を有し、この空孔部に潤滑油および該潤滑油を含有する高分子量ポリエチレンを包含する潤滑プラグが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭51−46668号公報
【特許文献2】国際公開第2004/046285号
【特許文献3】特開2012−92241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の摺動部材は、水中での使用時に、摺動部材の摺動面の潤滑プラグ(すなわち、パラフィン、固体潤滑剤およびポリエチレンの混合物)の表面が損傷し摺動特性が低下する問題がある。摺動部材は、使用前には固体潤滑剤の摺動面が金属基体の摺動面と面一の状態であるが、使用時の摩擦によって摺動面の温度が上昇すると、潤滑プラグが熱膨張し、金属基体に埋設された潤滑プラグが摺動面から突出し相手材の表面に押し付けられるようになる。相手材と潤滑プラグとの摺動により、金属基体の表面よりも突出した部分にはその表面に平行な方向の力が加わり変形が起こる。この変形により、まず、潤滑プラグの内部に存在する黒鉛粉末(固体潤滑剤)にも劈開(せん断)が起こり、さらに、黒鉛粉末を保持していたポリエチレンにもせん断が起こる。このせん断により、表面近傍の潤滑プラグが取りさられる。あるいは、金属基体の表面(摺動面)よりも突出した潤滑プラグの部分と、金属基体の孔部に拘束される部分との境界付近で応力集中が起こり、この境界付近の黒鉛粉末に劈開(せん断)が起こり、さらに、黒鉛粉末を保持していたポリエチレンにもせん断が起こり、これにより潤滑プラグが取りさられる損傷が起こる。
【0008】
また、特許文献1の潤滑プラグは、使用時に摺動面の温度が上昇すると含有するパラフィンが固相から液相となるが、このパラフィンの液相化が潤滑プラグの強度低下を引き起こすことも、潤滑プラグの表面の損傷が起きやすくなる要因の一つであると考えられる。潤滑プラグの損傷が起きた場合、装置の運転が停止して摺動部材の温度が低下すると、潤滑プラグの表面は金属基体の表面(摺動面)よりも内部に位置するようになる。そうすると運転を再開時に金属基体の表面には潤滑プラグがないために、金属基体の表面と相手部材の表面が、直接に接触して焼付が発生しやすくなる。
【0009】
特許文献2の潤滑プラグは、メラ
ミンシアヌレートを含有するが、メラ
ミンシアヌレートは、黒鉛と同じく、層状構造であり劈開性を有するので容易にせん断されやすく、黒鉛を含有する潤滑プラグと同じ機構で潤滑プラグの摺動面となる表面が損傷を起こしやすい。
【0010】
特許文献3の潤滑プラグは、水中摺動部材には適用できない。水中摺動部材にこの潤滑プラグを適用しても、摺動部材の摺動面と相手材の表面との間に水が存在するので、潤滑プラグが含有する潤滑油は摺動面に供給されない。また、この潤滑プラグは、潤滑油を含有するための空孔部を有するので強度が弱く、使用時に潤滑プラグの摺動面となる表面が損傷しやすい。
【0011】
本発明は、上記の従来技術の問題を解決して、使用中に潤滑プラグの摺動面となる表面の損傷が起こりにくい水中摺動部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る水中摺動部材は、摺動面を有する金属基体と、潤滑プラグとを含む。金属基体には、摺動面に開口する複数の孔または凹部が形成されており、この孔または凹部に潤滑プラグが埋設されている。本発明においては、潤滑プラグが、ポリエチレンからなることを特徴とする。
【0013】
このポリエチレンの分子量は、20万以上であることが好ましい。
【0014】
また、潤滑プラグは、フェノール、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリオキシベンゾイルから選ばれる1種以上の樹脂を20体積%以下で含有し、残部がポリエチレンであることができる。
【0015】
また、潤滑プラグは、1体積%以下の着色剤をさらに含有することもできる。
【0016】
金属基体は、内周面が摺動面である円筒形状であっても、平板形状であってもよい。
【0017】
本発明の他の目的、特徴及び利点は添付図面に関する以下の本発明の実施例の記載から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る水中摺動部材の一具体例の斜視図
【
図3】本発明に係る水中摺動部材の他の具体例の摺動面近傍の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明に係る水中摺動部材の一具体例の斜視図を示す。
水中摺動部材1は、円筒形状の金属基体2と、金属基体2の内周面と外周面との間の壁厚を貫通する複数の円筒形状の孔3と、この孔3に埋設された円柱形状の潤滑プラグ4を有する。金属基体2の内周面が摺動部材の摺動面5となる。金属基体2の組成は、特に限定されないが、銅合金、鉄合金等の各種合金を用いることができ、焼結または鋳造により製造することができる。
【0020】
金属基体2のサイズ(内径、外径、幅)に限定はなく、水中摺動部材1が用いられる装置の摺動部の寸法に応じて設定できる。摺動部材1の摺動面5における孔3の径は3〜30mm程度であればよく、摺動面5における複数の孔3の開口の面積率(潤滑プラグの面積率)が10%〜50%とすればよいが、この寸法および面積率に限定されることなく、変更することもできる。
【0021】
潤滑プラグ4は、ポリエチレン樹脂からなる。潤滑プラグ4は、原材料であるポリエチレン樹脂の粉末を円柱形状に射出成型して作製できるが、潤滑プラグの作製方法は、これに限定されないで、押出成形、圧縮成形等の他の方法でもよい。
潤滑プラグ4の寸法および形状は、金属基体2の孔3の径および形状に整合するように作製される。潤滑プラグ4は、金属基体2の孔3に埋設されたのち、金属基体2の内周面に切削、研削等の加工が施され、金属基体
2の表面と潤滑プラグ4の表面が面一、すなわち段差のない状態となった摺動面5が形成される。なお、金属基体2の内周面を切削、研削等の加工を施すことなく、摺動面5とすることもできる。
【0022】
ポリエチレン樹脂は、吸水率が低く変形能が高いので、本発明の水中用摺動部材の潤滑プラグとして使用する。摺動時に摺動部材1の摺動面5の温度が上昇するとポリエチレン樹脂からなる潤滑プラグ4が熱膨張して摺動部材1の摺動面5(金属基体2の表面)から突出して相手材の表面と接触する。金属基体2の摺動面5と相手材の表面は、それらの面の間に隙間が形成されることで、その隙間に水膜が形成され、金属基体2と相手材とが直接接触することが防がれる。
潤滑プラグ4は、ポリエチレン樹脂からなる単相の組織であり、摺動時に相手材と接触し変形してもせん断が起き難い。
【0023】
この潤滑プラグ4は、従来技術の潤滑プラグに含有されていた黒鉛などのように劈開性を有する物質を含まないために、相手材との摺動により摺動面5から突出した潤滑プラグ4に負荷が加わり変形しても、潤滑プラグにはせん断が起きがたい。
また、ポリエチレン樹脂の単相組織であるために、相手材との摺動による潤滑プラグ4が変形しても内部に応力集中する部位が形成されない。
従来技術のようにポリエチレン樹脂に、ポリエチレン樹脂の変形抵抗とは異なる変形抵抗を有する物質(黒鉛等)を分散させた構成であると、潤滑プラグに変形が起こった場合には、ポリエチレン樹脂とは異なる変形抵抗を有する物質相とポリエチレン樹脂相との間でせん断応力が発生してせん断が起きやすくなる。
【0024】
さらに、本発明の潤滑プラグ4は、水中摺動部材1の摺動面5に温度上昇がおこると潤滑プラグ4が熱膨張するが、ポリエチレン樹脂の単相組織であるので、潤滑プラグ4の内部には熱膨張量の差によるせん断応力が発生しない。従来技術のようにポリエチレン樹脂にポリエチレン樹脂の熱膨張係数とは異なる熱膨張係数の物質(黒鉛等)を分散させた構成であると、摺動部材の摺動面の温度上昇により、ポリエチレン樹脂相と、熱膨張係数が異なる物質相との界面に、熱膨張量の差によるせん断応力が発生するのでせん断が起こりやすい。
【0025】
なお、本発明の潤滑プラグ4は、ポリエチレン樹脂に、フェノール、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリオキシベンゾイルから選ばれる1種以上の樹脂を0体積%を超え20体積%以下の範囲で添加して、潤滑プラグ4の強度等を調整することもできる。とりわけ、水中摺動部材1の使用中に相手材との摩擦により潤滑プラグ4の温度が上がった場合でも強度を保つことができる。
【0026】
これらの選択添加樹脂の熱膨張係数とポリエチレン樹脂の熱膨張係数との差は、黒鉛等の各種無機化合物とポリエチレン樹脂の熱膨張係数との差に比べれば小さいものの、それでもポリエチレン樹脂相と選択添加樹脂相とに界面では熱膨張量の差による僅かなせん断応力が発生する。ポリエチレン樹脂と、選択樹脂との熱膨張係
数の差によるせん断応力の影響を少なくするために、潤滑プラグ4が含有するこれら選択樹脂の量は20体積%以下にすべきであり、より望ましくは10体積%以下にすべきである。
【0027】
ポリエチレン樹脂は、一般に市販される各種のポリエチレン樹脂を用いることができる。さらに、ポリエチレン樹脂は、分子量が20万以上であるものが好ましい。その理由は、潤滑プラグの強度が高くなり、摺動時に潤滑プラグの表面の摩耗量を少なくできるからである。この分子量が20万以上であるポリエチレン樹脂としては例えば以下のものを用いることができる。
三井化学(株)製 商品名ハイゼックスミリオン(登録商標)(分子量50万以上)
三井化学(株)製 商品名リュブマー(登録商標)(分子量20万以上)、
旭化成ケミカルズ(株)製 商品名サンファイン(登録商標)UH(分子量350万以上)
【0028】
潤滑プラグ2に、任意の着色を施すために1体積%以下の着色剤を含有させることもできる。着色剤としては、樹脂の着色のために用いられている一般的なものであればよく、カーボンブラック、酸化鉄、酸化クロム等を用いることが可能である。しかし、着色剤はこれに限定されないで、一般市販される各種の着色剤を用いることができる。なお、カーボンブラックは黒鉛と異なり劈開性を有しないため、せん断応力の発生は限定される。
【0029】
図3に本発明に係る水中摺動部材の他の具体例の摺動面近傍の断面図を示す。
この例では、金属基体2には、貫通孔の代わりに、摺動面5にのみ開口し外周面には開口しない凹部3’が形成され、この凹部3’に潤滑プラグ4’が埋設される。金属基体2に孔に代えて凹部3’が形成される以外の構成については、
図1および
図2に記載した具体例と同じであり、
図1および
図2に関して説明した通りである。
【0030】
本発明の水中摺動部材は、
図1〜
図3に示す構成に限定されないで、他の変形が可能である。例えば、水中摺動部材の金属基体は、円筒形状に限定されないで、半円筒形状や平板形状や、その他の形状であってもよい。金属基体の孔または凹部は、円柱形状に限定されないで、楕円柱や角柱形状とすることも可能である。当然、潤滑プラグは、金属基体の孔または凹部に整合した形状とされる。
【0031】
なお、本発明とは異なり、金属基体2に孔3を形成しないで、金属基体2の平滑な内周面の全面に単にポリエチレン樹脂層被覆した水中摺動部材は、摺動時に金属基体2の表面とポリエチレン樹脂層との界面でせん断が起こるという問題がある。
【実施例】
【0032】
以下の工程により実施例1〜3および比較例1〜4の各摺動部材を作製した。
金属基体の作製
実施例および比較例の金属基体は同じものを用いた。この金属基体は以下のように作製した。すなわち、Cu−25質量%Zn−6質量%Al−3質量%Fe―3質量%Mnの組成を有する銅合金を溶解して内径20mm、外径28mm、幅20mmの円筒体に鋳造した。次に円筒体の外周面と内周面を貫通する複数の円筒形状の孔を形成した。孔の径は4mmで、金属基体の摺動面となる内周面における複数の孔の開口面積率を25%とした。
【0033】
潤滑プラグの作製
実施例および比較例の潤滑プラグは、表1に示す組成の原材料を、射出成型して径が4mm、長さが4mmの円柱形状を得た。なお、ポリエチレン樹脂は、三井化学(株)製 商品名リュブマー(登録商標
)(分子量50万)を用いた。
実施例3の潤滑プラグは、着色剤であるカーボンブラックを1体積%含有させたものである。カーボンブラックは、三菱化学(株)製、商品名:RCF♯44を用いた。比較例3の潤滑プラグの組織は、ポリエチレン樹脂相と、多孔質ポリアミド樹脂相と、多孔質ポリアミド相の空孔部に含まれる潤滑油とからなるようにした。
【0034】
【表1】
【0035】
準備した潤滑プラグを、金属基体の孔に埋設し、金属基体の摺動面となる内周面側に研磨加工を施して、金属基
体の内周面と潤滑プラグの表面とが面一となるようにして、実施例1〜3および比較例1〜4の摺動部材を得た。
【0036】
評価
実施例1〜3および比較例1〜4の摺動部材について、表2に示す条件の摺動試験を行い、摺動面における潤滑プラグの表面の損傷の有無を評価した。
具体的な評価方法は、表2に示す条件で試験を行った実施例、比較例の摺動部材の摺動面を、形状測定器(粗さ測定器)を用いて、金属基体の摺動面と潤滑プラグの表面との間で0.1mm以上の段差(摺動部材の径方向段差)が確認された場合は、潤滑プラグ2の表面が損傷したと判断した。その結果を表1の「損傷の有無」欄に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
実施例1〜3の摺動部材は、いずれも潤滑プラグの表面と金属基体の摺動面との間に、ほとんど段差は形成されなかった。潤滑プラグの表面は、相手材との摩擦の痕跡が確認できたが平滑な面を維持していた。
【0039】
比較例1〜4の摺動部材は、いずれも潤滑プラグの表面に損傷が起こり、それらの表面は不規則な凹凸面となっており、潤滑プラグの表面付近の内部からせん断された形態であることが確認された。
比較例1の潤滑プラグは劈開性を有する黒鉛を含み、比較例2の潤滑プラグは劈開性を有するメラ
ミンシアヌレートを含む。比較例3の潤滑プラグは、潤滑油を含み、潤滑油を含有させるための空孔部を含む。このために、先行技術の問題点として上記に説明したように摺動時に、比較例1〜3の潤滑プラグの表面付近の内部でせん断が起こったと考えられる。
【0040】
実施例2および比較例4の潤滑プラグは、ポリエチレン樹脂とフェノール樹脂とからなり、組織は、ポリエチレン相とフェノール樹脂相との混合組織となる。
潤滑プラグの温度が上昇すると、フェノール樹脂相とポリエチレン相との界面では、熱膨張量の差により僅かなせん断応力が発生する。比較例4のように、フェノール樹脂の含有量を多くすると潤滑プラグの内部でのせん断応力が高くなりすぎて、相手軸との摺動により加えられる外力により潤滑プラグの損傷が起こると考えられる。
ポリエチレン樹脂とフェノール樹脂との熱膨張係
数の差によるせん断応力の影響を少なくするために、実施例4のように潤滑プラグが含有するフェノール樹脂の量は20体積%以下にすべきである。
【0041】
なお、実施例4では、ポリエチレン樹脂に、選択成分としてフェノール樹脂を添加した例を示したが、フェノール以外の選択成分として、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリオキシベンゾイルから選ばれる一種以上を添加させる場合、選択成分の添加量を20体積%以下とすれば、比較例4と同じく潤滑プラグの表面は損傷しないことは摺動試験にて確認できた。
【符号の説明】
【0042】
1 水中摺動部材
2 金属基体
3 孔
3’凹部
4 潤滑プラグ
5 摺動面
【要約】
【課題】使用中に潤滑プラグの摺動面となる表面に損傷が起こりにくい水中摺動部材の提供。
【解決手段】水中摺動部材は、摺動面を有する金属基体と潤滑プラグとを含み、金属基体には、摺動面に開口する複数の孔または凹部が形成され、孔または凹部に潤滑プラグが埋設されており、潤滑プラグが、ポリエチレンからなる。ポリエチレンの分子量は20万以上であることが好ましい。潤滑プラグは、フェノール、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリオキシベンゾイルから選ばれる1種以上の樹脂を20体積%以下、着色剤を1体積%以下をさらに含有することもできる。
【選択図】
図1