【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的は、独立請求項の特徴によって達成される。さらなる実装形態は従属請求項、明細書の記述および図面から明白である。
【0008】
本発明は、多チャンネル時間スケーリング処理の間に多チャンネル・オーディオ信号の空間的手がかりを保存することが空間的知覚を保存するという知見に基づく。空間的手がかりは、チャンネル間時間差(ITD)、チャンネル間レベル差(ILD)、チャンネル間コヒーレンス/チャンネル間相互相関(ICC)その他といった、多チャンネル信号の空間的情報である。
【0009】
本発明を詳細に説明するため、以下の用語、略語および記法が使用される。
【0010】
ITD: チャンネル間時間差(Inter-channel Time Difference)、
ILD: チャンネル間レベル差(Inter-channel Level Difference)、
ICC: チャンネル間コヒーレンス(Inter-Channel Coherence)、
IC: チャンネル間相互相関(Inter-channel Cross Correlation)、
相互AMDF: 相互平均絶対値差関数(Cross Average Magnitude Difference Function)、
WSOLA: 波形類似性に基づく同期された重複加算(Waveform-similarity-based Synchronized Overlap-Add)、
IP:インターネット・プロトコル(Internet Protocol)、
VoIP: インターネット・プロトコルを通じた音声(Voice over Internet Protocol)。
【0011】
第一の側面によれば、本発明は、多チャンネル・オーディオ信号を処理する方法であって、前記多チャンネル・オーディオ信号は複数のオーディオ・チャンネル信号を担持し、当該方法は:前記複数のオーディオ・チャンネル信号を使って時間スケーリング位置を決定する段階と;前記時間スケーリング位置に従って前記複数のオーディオ・チャンネル信号の各オーディオ・チャンネル信号を時間スケーリングして複数の時間スケーリングされたオーディオ・チャンネル信号を得る段階とを含む、方法に関する。
【0012】
前記時間スケーリング位置は、空間的情報を保持するために異なるオーディオ・チャンネル信号を同期させることを許容する。ジッタ・バッファ管理機構を含む多チャンネルVoIPアプリケーションの場合、多チャンネル・オーディオ・コーデックがデュアル/マルチ・モノ・モードで動作するモノ・コーデックに基づいているとき、すなわち一つのモノ・エンコーダ/デコーダが各チャンネルについて使用されるとき、各チャンネルについての時間スケーリング・アルゴリズムの独立な適用を使っても、品質劣化につながらない。各チャンネルについての時間スケーリングが時間スケーリング位置によって同期され、よって空間的手がかりが、よって空間的音像が保存されるからである。ユーザーは多チャンネル・オーディオ信号の著しいよりよい知覚をもつ。
【0013】
オーディオ/ビデオ放送およびポストプロダクション・アプリケーションでは、共通の時間スケーリング位置を用いて別個に各チャンネルを時間スケーリングすることは、ビデオとオーディオの間の同期を保持し、空間的手がかりが変化しないことを保証する。
【0014】
空間的知覚についての最も重要な空間的手がかりはチャンネル間のエネルギー差、チャンネル間の時間差もしくは位相差およびチャンネル間のコヒーレンスもしくは相関である。時間スケーリング位置を決定することによって、これらの手がかりは保存され、もとの手がかりと異ならなくなる。ユーザー知覚が改善される。
【0015】
前記第一の側面に基づく方法の第一の可能な実装形態では、本方法は:前記複数のオーディオ・チャンネル信号から第一の組の空間的手がかりパラメータを抽出する段階であって、前記第一の組の空間的手がかりパラメータは、前記複数のオーディオ・チャンネル信号と前記複数のオーディオ・チャンネル信号の少なくとも一つから導出される基準オーディオ・チャンネル信号との間の差の差指標(difference measure)に関係する、段階と;前記複数の時間スケーリングされたオーディオ・チャンネル信号から第二の組の空間的手がかりパラメータを抽出する段階であって、前記第二の組の空間的手がかりパラメータは、前記第一の組の空間的手がかりパラメータが関係するのと同じ型の差指標に関係し、前記第二の組の空間的手がかりパラメータは、前記複数の時間スケーリングされたオーディオ・チャンネル信号と、前記複数の時間スケーリングされたオーディオ・チャンネル信号の少なくとも一つから導出される基準の時間スケーリングされたオーディオ・チャンネル信号との間の差に関係する、段階と;前記第二の組の空間的手がかりパラメータが、前記第一の組の空間的手がかりパラメータに関してある品質基準を満足するかどうかを判定する段階とを含む。
【0016】
前記差指標は、式(5)、(1)、(8)および(6)によって定義され、
図2に関して下記で説明する相互相関(cc: cross-correlation)、規格化された相互相関(cn: normalized cross-correlation)および相互平均絶対値差関数(ca)のうちの一つであってもよい。前記品質基準は、最適化基準であってもよく、前記第二の組の空間的手がかりパラメータと前記第一の組の空間的手がかりパラメータとの間の類似性に基づいていてもよい。前記基準信号は、たとえば、前記オーディオ・チャンネル信号のうちの一つまたは前記複数のオーディオ・チャンネル信号の一部または全部から導出されるダウンミックス信号であることができる。時間スケーリングされたオーディオ・チャンネル信号についても同様である。
【0017】
前記第一の側面の前記第一の実装形態に基づく前記方法の第二の可能な実装形態では、前記第一の組の空間的手がかりパラメータのうちのある空間的手がかりパラメータの抽出は、前記複数のオーディオ・チャンネル信号のうちのあるオーディオ・チャンネル信号と前記基準オーディオ・チャンネル信号との相関を調べることを含み;前記第二の組の空間的手がかりパラメータのうちのある空間的手がかりパラメータの抽出は、前記複数の時間スケーリングされたオーディオ・チャンネル信号のうちのある時間スケーリングされたオーディオ・チャンネル信号と前記基準オーディオ・チャンネル信号との相関を調べることを含む。
【0018】
前記基準オーディオ・チャンネル信号は、前記複数のオーディオ・チャンネル信号のうち、そのスペクトル成分、そのエネルギーおよびその発話音に関して他のオーディオ・チャンネル信号と同様の振る舞いを示すものであってもよい。前記基準オーディオ・チャンネル信号は、モノ・ダウンミックス信号であってもよく、該モノ・ダウンミックス信号は、Mチャンネル全部の平均として計算されてもよい。ダウンミックス信号を多チャンネル・オーディオ信号についての基準として使うことの利点は、無音信号(silent signal)を基準信号として使うことを避けるということである。実際、ダウンミックスは全チャンネルのエネルギーの平均を表し、よって無音である可能性が少なくなる。同様に、時間スケーリングされたオーディオ・チャンネル信号は、前記複数の時間スケーリングされたオーディオ・チャンネル信号のうち、そのスペクトル成分、そのエネルギーおよびその発話音に関して他の時間スケーリングされたオーディオ・チャンネル信号と同様の振る舞いを示すものであってもよい。前記基準の時間スケーリングされたオーディオ・チャンネル信号は、モノ・ダウンミックス信号であってもよく、該モノ・ダウンミックス信号は、M個の時間スケーリングされたチャンネル全部の平均であり、よって無音である可能性が少なくなる。
【0019】
前記第一の側面の前記第一または第二の実装形態に基づく前記方法の第三の可能な実装形態では、本方法は、抽出された第二の組の空間的手がかりパラメータが前記品質基準を満足しない場合、以下の段階を含む:あるさらなる時間スケーリング位置に従って前記複数のオーディオ・チャンネル信号の各オーディオ・チャンネル信号を時間スケーリングして、さらなる複数の時間スケーリングされたオーディオ・チャンネル信号を得る段階であって、前記さらなる時間スケーリング位置は前記複数のオーディオ・チャンネル信号を使って決定される、段階と;前記さらなる複数の時間スケーリングされたオーディオ・チャンネル信号から第三の組の空間的手がかりパラメータを抽出する段階であって、前記第三の組の空間的手がかりパラメータは、前記第一の組の空間的手がかりパラメータが関係するのと同じ型の差指標に関係し、前記第三の組の空間的手がかりパラメータは、前記さらなる複数の時間スケーリングされたオーディオ・チャンネル信号と、前記さらなる複数の時間スケーリングされたオーディオ・チャンネル信号の少なくとも一つから導出されるさらなる基準の時間スケーリングされたオーディオ・チャンネル信号との間の差に関係する、段階と;前記第三の組の空間的手がかりパラメータが、前記第一の組の空間的手がかりパラメータに関して前記品質基準を満足するかどうかを判定する段階と;前記第三の組の空間的手がかりパラメータが前記品質基準を満足する場合、前記さらなる複数の時間スケーリングされたオーディオ・チャンネル信号を出力する段階。
【0020】
前記品質基準は厳しいものであって、それにより高品質の前記組の空間的手がかりパラメータを与えてもよい。
【0021】
前記第一の側面の前記実装形態のいずれか一つに基づく前記方法の第四の可能な実装形態では、それぞれの組の空間的手がかりパラメータは、該それぞれの組の空間的手がかりパラメータがある空間的手がかりパラメータ範囲内にある場合に、前記第一の組の空間的手がかりパラメータに関して前記品質基準を満足する。前記空間的手がかりパラメータ範囲によって、ユーザーは、本方法によって与えられるべき品質のレベルを制御しうる。それぞれの組の空間的手がかりパラメータがいずれも前記品質基準を満足していない場合には、前記範囲は逐次的に拡大されてもよい。一つの空間的手がかりパラメータだけでなく、組全体が前記パラメータ範囲内である必要がある。
【0022】
前記第一の側面自身に基づくまたは前記第一の側面の前記実装形態のいずれか一つに基づく前記方法の第五の可能な実装形態では、それぞれの組の空間的手がかりパラメータは以下のパラメータの一つを含む:チャンネル間時間差(ITD)、チャンネル間レベル差(ILD)、チャンネル間コヒーレンス(ICC)およびチャンネル間相互相関(IC)。これらのパラメータについての定義は、ILDについては式(11)、ITDについては式(12)、ICおよびICCについては式(13)で与えられる。これについては
図2との関連で後述する。
【0023】
前記第一の側面自身に基づくまたは前記第一の側面の前記実装形態のいずれか一つに基づく前記方法の第六の可能な実装形態では、時間スケーリング位置を決定する段階は:前記複数のオーディオ・チャンネル信号のそれぞれについて、パラメータとして候補時間スケーリング位置をもつチャンネル相互相関関数を決定する段階と;候補時間スケーリング位置に依存して前記複数のチャンネル相互相関関数を累積することによって累積相互相関関数を決定する段階と;前記累積相互相関関数の最大の累積相互相関値に関連付けられている時間スケーリング位置を選択して前記時間スケーリング位置を得る段階とを含む。
【0024】
前記品質基準を満足する時間スケーリング位置がみつからない場合、最大の相互相関(cc)、規格化された相互相関(cn)または相互平均絶対値差関数(ca)をもつ時間スケーリング位置が選ばれてもよい。少なくとも、どんな場合でもより劣った時間スケーリング位置はみつけることができる。二番目に大きい累積相互相関値に関連付けられているさらなる時間スケーリング位置が選択されてもよい。三番目、四番目などに大きい累積相互相関値に関連付けられているさらなる時間スケーリング位置が選択されてもよい。
【0025】
前記第一の側面の第六の実装形態に基づく前記方法の第七の可能な実装形態では、それぞれの相互相関関数は、以下の相互相関関数の一つである:相互相関関数、規格化された相互相関関数および相互平均絶対値差関数(Cross-AMD F)これらの関数は
図2に関して説明する式(2)、(3)および(4)によって与えられる。
【0026】
前記第一の側面の第六または第七の実装形態に基づく前記方法の第八の可能な実装形態では、前記方法はさらに:前記複数のオーディオ・チャンネル信号の各オーディオ・チャンネル信号について、空間的手がかりパラメータから重み付け因子を決定する段階であって、前記空間的手がかりパラメータは前記オーディオ・チャンネル信号および前記複数のオーディオ・チャンネル信号のうちの少なくとも一つから導出される基準オーディオ・チャンネル信号に基づいて抽出され、前記空間的手がかりパラメータは特にチャンネル間レベル差である、段階と;そのオーディオ・チャンネル信号について決定された重み付け因子により各チャンネル相互相関関数に個々に重み付けする段階とを含む。
【0027】
重み付け因子の決定は、
図2に関して述べるように、式(7)においておよび代替的に式(9)において定義されるようなものである。
【0028】
重み付け因子は、前記第一の組の空間的手がかりパラメータのうちのある空間的手がかりパラメータであることができる空間的手がかりパラメータから、あるいは少なくとも同じ型から決定されるが、別の型の空間的手がかりパラメータであることもできる。たとえば、前記第一の組はITDを空間的手がかりパラメータとして使うが、重み付け因子はILDに基づく。
【0029】
前記第一の側面自身に基づくまたは前記第一の側面の前記実装形態のいずれかに基づく前記方法の第九の可能な実装形態では、本方法はさらに、前記複数のオーディオ・チャンネル信号の各オーディオ・チャンネル信号を時間スケーリングするのに先立って前記複数のオーディオ・チャンネル信号をバッファリングすることを含む。前記バッファはメモリ・セル、RAMまたは他の任意の物理的メモリであってもよい。前記バッファは、
図5に関して後述するジッタ・バッファであることができる。
【0030】
前記第一の側面自身に基づくまたは前記第一の側面の前記実装形態のいずれかに基づく前記方法の第十の可能な実装形態では、前記時間スケーリングは、同じオーディオ・チャンネル信号の諸オーディオ・チャンネル信号部分を重複させて加算することを含む。重複および加算は、波形類似性に基づく同期された重複加算(WSOLA)アルゴリズムの一部であることができる。
【0031】
前記第一の側面自身に基づくまたは前記第一の側面の前記実装形態のいずれかに基づく前記方法の第十一の可能な実装形態では、前記多チャンネル・オーディオ信号は、複数のエンコードされたオーディオ・チャンネル信号を含み、前記方法は:前記複数のエンコードされたオーディオ・チャンネル信号をデコードして前記複数のオーディオ・チャンネル信号を得ることを含む。
【0032】
デコーダが、発話信号であってもよい前記多チャンネル・オーディオ信号を圧縮解除するために使われる。前記デコーダは、IPを通じた音声システムとの相互運用性を維持するために、標準的なデコーダであってもよい。前記デコーダは、オープンな発話コーデック、たとえば標準化されたITU-Tまたは3GPPコーデックを利用してもよい。前記デコーダのコーデックは、G.711、G.722、G.729、G.723.1およびAMR-WBであるVoIPのための標準化されたフォーマットの一つまたはSpeex、SilkおよびCELTである独自フォーマットの一つを実装していてもよい。エンコードされた発話信号はパケット化され、IPパケットの形で送信される。これは、現場で使われている標準的なVoIPアプリケーションとの相互運用性を保証する。
【0033】
前記第一の側面の第十一の実装形態に基づく前記方法の第十二の可能な実装形態では、前記方法はさらに:単一のオーディオ信号パケットを受領する段階と;受領された単一のオーディオ信号パケットから前記複数のエンコードされたオーディオ・チャンネルを抽出する段階とを含む。前記多チャンネル・オーディオ信号は単一のIPパケット内にパケット化されることができ、それにより各オーディオ・チャンネル信号によって同じジッタが経験される。これは、多チャンネル・オーディオ信号についてサービス品質(QoS: quality of service)を維持することを助ける。
【0034】
前記第一の側面の第十一の実装形態に基づく前記方法の第十三の可能な実装形態では、前記方法はさらに:複数のオーディオ信号パケットを受領する段階であって、各オーディオ信号パケットは、前記複数の別個にエンコードされたオーディオ・チャンネルのあるエンコードされたオーディオ・チャンネルおよびそれぞれのエンコードされたオーディオ・チャンネルを示すチャンネル・インデックスを含む、段階と;前記受領された複数のオーディオ信号パケットから前記複数のエンコードされたオーディオ・チャンネルを抽出する段階と;受領されたチャンネル・インデックスに基づいて前記複数のエンコードされたオーディオ・チャンネルを整列させる段階とを含む。
【0035】
前記チャンネル・インデックスによって、エンコードされた多チャンネル・オーディオ信号内のそれぞれのエンコードされたオーディオ・チャンネルの時間位置が受信機に提供されることができ、それにより、受信機内のジッタ・バッファ制御機構がそれぞれのチャンネルの厳密な位置を再構成しうる。諸オーディオ信号フレームがネットワークを通じて異なる仕方で送信され、それにより異なる遅延を経験する場合には、ジッタ・バッファ機構が異なる伝送経路の遅延について補償してもよい。そのようなジッタ・バッファ機構は、
図5との関連で後述するジッタ・バッファ管理装置において実装される。
【0036】
第二の側面によれば、本発明は、多チャンネル・オーディオ信号を処理するオーディオ信号処理装置であって、前記多チャンネル・オーディオ信号は複数のオーディオ・チャンネル信号を含み、当該オーディオ信号処理装置は:前記複数のオーディオ・チャンネル信号を使って時間スケーリング位置を決定するよう適応された決定器と;前記時間スケーリング位置に従って前記複数のオーディオ・チャンネル信号の各オーディオ・チャンネル信号を時間スケーリングして複数の時間スケーリングされたオーディオ・チャンネル信号を得るよう適応された時間スケーリング器とを有する、装置に関する。
【0037】
前記時間スケーリング位置は、空間的情報を保存するために異なるオーディオ・チャンネル信号を同期させることを許容する。ジッタ・バッファ管理機構を含む多チャンネルVoIPアプリケーションの場合、多チャンネル・オーディオ・コーデックがデュアル/マルチ・モノ・モードで動作するモノ・コーデックに基づいているとき、すなわち一つのモノ・エンコーダ/デコーダが各チャンネルについて使用されるとき、各チャンネルについての時間スケーリング・アルゴリズムの独立な適用を使っても、品質劣化につながらない。各チャンネルについての時間スケーリングが時間スケーリング位置によって同期され、よって空間的手がかりが、よって空間的音像が保存されるからである。ユーザーは多チャンネル・オーディオ信号の著しいよりよい知覚をもつ。
【0038】
オーディオ/ビデオ放送およびポストプロダクション・アプリケーションでは、共通の時間スケーリング位置を用いて別個に各チャンネルを時間スケーリングすることは、ビデオとオーディオの間の同期を保持し、空間的手がかりが変化しないことを保証する。空間的知覚についての最も重要な空間的手がかりはチャンネル間のエネルギー差、チャンネル間の時間差もしくは位相差およびチャンネル間のコヒーレンスもしくは相関である。時間スケーリング位置を決定することによって、これらの手がかりは保存され、もとの手がかりと異ならなくなる。ユーザー知覚が改善される。
【0039】
前記第二の側面に基づくオーディオ信号処理装置の第一の可能な実装形態では、前記多チャンネル・オーディオ信号は、複数のエンコードされたオーディオ・チャンネル信号を含み、前記オーディオ信号処理装置は:前記複数のエンコードされたオーディオ・チャンネル信号をデコードして前記複数のオーディオ・チャンネル信号を得るよう適応されたデコーダを有する。
【0040】
前記デコーダは、
図5に関して後述するように、前記オーディオ信号処理装置の外部に実装されていてもよい。前記デコーダは、IPを通じた音声システムとの相互運用性を維持するために、標準的なデコーダであってもよい。前記デコーダは、オープンな発話コーデック、たとえば標準化されたITU-Tまたは3GPPコーデックを利用してもよい。前記デコーダのコーデックは、G.711、G.722、G.729、G.723.1およびAMR-WBであるVoIPのための標準化されたフォーマットの一つまたはSpeex、SilkおよびCELTである独自フォーマットの一つを実装していてもよい。エンコードされた発話信号はパケット化され、IPパケットの形で送信される。これは、現場で使われている標準的なVoIPアプリケーションとの相互運用性を保証する。
【0041】
前記第二の側面自身に基づくまたは前記第二の側面の第一の実装形態に基づくオーディオ信号処理装置の第二の可能な実装形態では、本オーディオ信号処理装置は:前記複数のオーディオ・チャンネル信号から第一の組の空間的手がかりパラメータを抽出するよう適応された抽出器であって、前記第一の組の空間的手がかりパラメータは、前記複数のオーディオ・チャンネル信号と前記複数のオーディオ・チャンネル信号の少なくとも一つから導出される基準オーディオ・チャンネル信号との間の差の差指標(difference measure)に関係し、前記抽出器はさらに、前記複数の時間スケーリングされたオーディオ・チャンネル信号から第二の組の空間的手がかりパラメータを抽出するよう適応されており、前記第二の組の空間的手がかりパラメータは、前記第一の組の空間的手がかりパラメータが関係するのと同じ型の差指標に関係し、前記第二の組の空間的手がかりパラメータは、前記複数の時間スケーリングされたオーディオ・チャンネル信号と、前記複数の時間スケーリングされたオーディオ・チャンネル信号の少なくとも一つから導出される基準の時間スケーリングされたオーディオ・チャンネル信号との間の差に関係する、抽出器と;前記第二の組の空間的手がかりパラメータが、前記第一の組の空間的手がかりパラメータに関してある品質基準を満足するかどうかを判定する処理器とを有する。
【0042】
前記差指標は、式(1)、(5)、(6)および(8)によって定義され、
図2に関して下記で説明する相互相関(cc: cross-correlation)、規格化された相互相関(cn: normalized cross-correlation)および相互平均絶対値差関数(ca)のうちの一つであってもよい。前記品質基準は、最適化基準であってもよく、前記第二の組の空間的手がかりパラメータと前記第一の組の空間的手がかりパラメータとの間の類似性に基づいていてもよい。
【0043】
前記基準オーディオ・チャンネル信号は、前記複数のオーディオ・チャンネル信号のうち、そのスペクトル成分、そのエネルギーおよびその発話音に関して他のオーディオ・チャンネル信号と同様の振る舞いを示すものであってもよい。前記基準オーディオ・チャンネル信号は、Mチャンネル全部の平均であるモノ・ダウンミックス信号であってもよい。ダウンミックス信号を多チャンネル・オーディオ信号についての基準として使うことの利点は、無音信号(silent signal)を基準信号として使うことを避けるということである。実際、ダウンミックスは全チャンネルのエネルギーの平均を表し、よって無音である可能性が少なくなる。同様に、時間スケーリングされたオーディオ・チャンネル信号は、前記複数の時間スケーリングされたオーディオ・チャンネル信号のうち、そのスペクトル成分、そのエネルギーおよびその発話音に関して他の時間スケーリングされたオーディオ・チャンネル信号と同様の振る舞いを示すものであってもよい。前記基準時間スケーリングされたオーディオ・チャンネル信号は、モノ・ダウンミックス信号であってもよく、該モノ・ダウンミックス信号は、M個の時間スケーリングされたチャンネル全部の平均であり、よって無音である可能性が少なくなる。
【0044】
前記第二の側面自身に基づくまたは前記第二の側面の前記実装形態のいずれか一つに基づく前記オーディオ信号処理装置の第三の可能な実装形態では、前記決定器は、前記複数のオーディオ・チャンネル信号のそれぞれについて、諸候補時間スケーリング位置に依存してチャンネル相互相関関数を決定し、前記諸候補時間スケーリング位置に依存して前記複数のチャンネル相互相関関数を累積することによって累積相互相関関数を決定し;前記累積相互相関関数の最大の累積相互相関値に関連付けられている時間スケーリング位置を選択して前記時間スケーリング位置を得るよう適応されている。
【0045】
前記品質基準を満足する時間スケーリング位置がみつからない場合、最大の相互相関(cc)、規格化された相互相関(cn)または相互平均絶対値差関数(ca)をもつ時間スケーリング位置が選ばれてもよい。少なくとも、どんな場合でもより劣った時間スケーリング位置はみつけることができる。
【0046】
第三の側面によれば、本発明は、多チャンネル・オーディオ信号を処理するためのプログラム可能に構成されたオーディオ信号処理装置に関係し、前記多チャンネル・オーディオ信号は複数のオーディオ・チャンネル信号を含み、当該プログラム可能に構成されたオーディオ信号処理装置は、前記第一の側面自身に基づくまたは前記第一の側面の実装形態のいずれかに基づく方法を実行するためのコンピュータ・プログラムを実行するよう構成されているプロセッサを有する。
【0047】
プログラム可能に構成されたオーディオ信号処理装置は、前記第三の側面の第一の可能な実装形態によれば、前記プロセッサ上で走るソフトウェアまたはファームウェアを含み、種々の環境において柔軟に使用されることができる。エラーが見出されるまたはよりよいアルゴリズムまたはアルゴリズムのよりよいパラメータが見出される場合、オーディオ信号処理装置のパフォーマンスを改善するために、ソフトウェアはプログラムし直されることができる、あるいはファームウェアは前記プロセッサ上にロードし直されることができる。プログラム可能に構成されたオーディオ信号処理装置は、現場で早期にインストールされ、問題があった場合にはプログラムし直され、あるいはロードし直され。それにより、市場投入までの時間を加速し、遠隔通信事業者の設置されている基盤を改善することができる。
【0048】
本発明は、デジタル電子回路において、あるいはコンピュータ・ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェアまたはそれらの組み合わせにおいて実装されることができる。
【0049】
本発明のさらなる実施形態は、以下の図面に関して記述される。