特許第5734572号(P5734572)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5734572化学パルプ工場の蒸解缶プラントにおけるスチーム発生法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5734572
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】化学パルプ工場の蒸解缶プラントにおけるスチーム発生法
(51)【国際特許分類】
   D21C 11/00 20060101AFI20150528BHJP
   D21C 11/10 20060101ALI20150528BHJP
   D21C 1/02 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   D21C11/00 B
   D21C11/10
   D21C1/02
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-24129(P2010-24129)
(22)【出願日】2010年2月5日
(65)【公開番号】特開2010-180523(P2010-180523A)
(43)【公開日】2010年8月19日
【審査請求日】2012年12月21日
(31)【優先権主張番号】20090039
(32)【優先日】2009年2月9日
(33)【優先権主張国】FI
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502278600
【氏名又は名称】アンドリッツ インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100080850
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 静男
(72)【発明者】
【氏名】ペトリ ティッカ
(72)【発明者】
【氏名】ジャルモ カイラ
【審査官】 中尾 奈穂子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/073333(WO,A1)
【文献】 特開平01−314796(JP,A)
【文献】 特開昭62−006991(JP,A)
【文献】 特表2001−510510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00− 1/38
D21C 1/00−11/14
D21D 1/00−99/00
D21F 1/00−13/12
D21G 1/00− 9/00
D21H 11/00−27/42
D21J 1/00− 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学パルプ工場の蒸解缶プラントにおいてスチームを発生させるための方法において、
a)黒液を蒸解缶システムで生成するステップ、
b)黒液の第一流を蒸解缶から抽出し、これを、加熱媒体としての新鮮なスチームを使用して蒸発に付し、蒸発に付された後の黒液の乾燥固体濃度を増加させるステップ、
c)ステップb)の蒸発で得られたスチームを蒸解缶での繊維材の加熱にのみ使用するステップ、
d)蒸解缶から抽出された黒液の第二流をフラッシュして、フラッシュされた黒液とフラッシュ蒸気とを生成させ、フラッシュ蒸気を少なくとも一種の熱交換器に導入し、クリーンな蒸発可能の液と間接的に熱交換させ、クリーンなスチームを製造するステップ、
e)ステップd)からのクリーンなスチームをチップのスチーム処理に使用するステップ、および
f)ステップd)からのフラッシュされた黒液をさらに蒸発工程に導くステップを含み、
ステップd)が、ステップb)からの蒸発された黒液と、蒸解缶から抽出された黒液の第二流とが、フラッシュ操作の前またはフラッシュ操作の間に一緒に混合されるように行われることを特徴とするスチームの発生方法。
【請求項2】
ステップb)からの蒸発された黒液が、ステップd)からのフラッシュされた黒液よりも高い乾燥固体含有量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップd)で使用されるクリーンな蒸発可能の液が、蒸発器凝縮液である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
新鮮なスチームが、ステップb)の蒸発操作で凝縮され、得られた新鮮なスチーム凝縮液が、パルプ工場の回収ボイラープラントに導かれ、そこでボイラー給水として使用される、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップd)においてフラッシュ蒸気が導入される熱交換器が再沸器である請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学パルプ工場の蒸解缶プラントの黒液からスチームを発生させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現行の技術では、チップビン(貯槽)を備えるファイバーライン装置が使用され、先ず、木材チップまたは他のセルロース材のスチーム処理が行われ、液が添加されてスラリーが形成され、その後にスラリーの加圧が行われ(この部分は供給システムとも称される)、一基または複数基の処理槽(浸透槽あるいは予備加水分解槽などでもよい)に供給され、次いで蒸解缶に送られる(この部分は蒸解システムとも称される)。現在、少なくとも一つの黒液流(普通は110〜150℃)がこの蒸解システムから抜き出される。抽出された一基または複数基の黒液流は、白液、他の黒液流、および/または供給システムや蒸解システムに送られる他の液流を「予熱」するための熱源として使用される。抽出された一基または複数基の黒液流は、次いで、プレ蒸発システム、例えば、二基以上のフラッシュタンクに送られ、ここで高温の黒液からスチームが発生され、液は、普通約95〜110℃の温度に冷却される。この点で、黒液は回収域の蒸発システムに送られる。そのように生成されたフラッシュスチームは、パルプ化プロセスの他の箇所に使用し得る。例えば、フラッシュスチームは、蒸解に先だってチップを前もってスチーム処理するのに直接使用し得る。
【0003】
上記のフラッシュ法は、従来の連続蒸解缶に成功裡に採用されてきたけれども、得られたスチームが、木材チップの予備スチーム処理には望ましくない硫黄化合物のような揮発性化合物を含んでいるという欠点があった。普通、木材チップは、大気圧またはそれより僅かに高い圧力でスチーム処理され、木材チップに吸収されなかった残留ガスは、捕集し、処理しなければならない。この処理は、普通、パルプ工場の非凝縮性ガス(NCG)システムで燃焼することによって行われる。しかし、この捕集・処理システムは、使用されるスチームが硫黄化合物のような揮発性化合物を含んでいるときは特に重大になってくる。何故ならば、硫黄化合物は毒性のある臭気に加えて環境面に望ましくないインパクトを与えるからである。従って、揮発性化合物のスチーム処理プロセスへの導入を最小限に抑え、あるいは皆無とするスチーム源を使用することが好ましい。
【0004】
スチームは、また、蒸解缶の蒸気相で蒸解温度に繊維材を加熱するのにも必要である。既知のシステムでは、普通、パルプ工場のタービンプラントから得られる中圧スチームがこの目的には使用される。エネルギーコストの問題で、化学パルプ工場のエネルギー効率のさらなる向上が求められている。
【0005】
米国特許第4,944,840号明細書が開示するプロセスでは、蒸解缶から排出された廃液が、多段の蒸発工程で蒸発される。蒸発工程で発生された蒸気は、繊維材の加熱目的で蒸解缶の浸透領域と蒸解領域に直接導入される。
【0006】
スェーデン特許第453,673号明細書には、蒸解缶の頂部にスチームを送りつつ、繊維材を蒸解液で蒸解する方法が開示されており、蒸解缶で繊維材と液が連続的に流れ、そして分離され、蒸解液がリサイクルされる。この方法に従えば、蒸解液の一部が蒸解缶から抽出され、スチームコンバーターに導かれてスチーム製造が行われる。このスチームは、導入された繊維材を所望の温度に加熱するために蒸解缶に導入される。
【0007】
純スチームを黒液から製造するシステムが、米国特許第6,722,130号明細書に開示されている。黒液の圧力が先ず減少され、高濃度の第二黒液と黒液からの蒸気が製造される。この蒸気は凝縮され、凝縮液となり、この凝縮液が、第一黒液で加熱され、膨張、蒸発されて純スチームが発生し、この純スチームはチップビンに使用される。
【0008】
チップビンに使用される純スチームを製造するシステムが、米国特許第6,176,971号明細書に開示されている。実質的にクリーンな使用可能なスチームが、高温の廃処理液(例えば、黒液)から、廃液を再沸器に送り、次いで再沸器から排出されるクリーンなスチームを(例えば、エダクターやファンや圧縮機で)加圧することによって製造される。製造されるクリーンなスチームの量は、スチーム駆動エゼクターを備えるスチームコンバーターの純スチーム側を負圧に維持することによって増加させられる。純スチーム側の圧力を下げると、より多い熱が黒液から引き出され、それ自体でより多い量のスチームが得られ、一方、エゼクターに供給されるスチームも、より多いスチームを得るのに寄与する。しかし、この場合、得られたスチームは、プロセス流体から排出された純スチームとパルプ工場のスチーム供給ネットワークからエゼクター駆動用に取り出されたスチームとの混合物からなる。
【0009】
チップビンへの使用目的で純スチームを発生させる別のプロセスが、米国特許第6,306,252号明細書に開示されている。ここでは、蒸解缶からの黒液が、熱交換器に導かれ、純プロセス水が加熱され、その後、加熱されたプロセス水の圧力が低下され、その結果純スチームが発生される。
【0010】
米国特許公開第2007/0131363号公報には、蒸解缶システムで黒液を生成するステップと、プレ蒸発システムを用いないで蒸発システムに黒液を送るステップと、蒸発システムで黒液をフラッシュさせてスチームを得るステップと、そのスチームの少なくとも一部分をチップビンでのチップのスチーム処理に使用したり、蒸解缶システムに使用される白液および/または濾液を予熱するために蒸解缶システムの間接熱交換器に供給したりするステップとから成る方法が開示されている。
【0011】
国際特許公開第2007/073333号公報には、化学セルロースパルプを製造するための蒸解缶プラントでスチームを発生させる装置と方法が開示されている。蒸解缶からの高温の加圧された黒液の圧力が、第一ステップで低下され、黒液スチームが生成され、得られたスチームは第二の予熱ステップにおけるチップの予備スチーム処理に使用される。第一予熱ステップで行われるチップの予備スチーム処理用の純スチームは、最終の圧力低下を行う前に低下させていた圧力を有する黒液を再加熱することによって発生される。量が増加している黒液スチームは、スチームコンバーターに導かれ、純スチームが発生される。
【0012】
国際特許公開第2008/057040号公報には、浸透槽において、チップを浸透工程にかけ、次いでチップを輸送流体で以降の蒸解缶に供給する方法が開示されている。黒液の抜き出しは、蒸解缶から行われ、抜き出された黒液は浸透槽の底部に導かれ、そこでチップが加熱され、その後にチップは浸透槽から取り出される。輸送液の抜き出しは、蒸解缶の頂部から行われ、輸送液は、浸透槽における浸透液として作用する位置に導かれる。蒸解缶の頂部から抜き出された輸送液の少なくとも一部は、間接熱交換器を通過し、ある温度で蒸解缶の頂部から抜き出された輸送液は、第一流体と間接的に熱交換されるが、これは第一流体からスチームを製造するためである。製造されたスチームは、次いで、浸透プロセス上流の予備スチーム処理位置に導かれ、予備スチーム処理位置でチップが加熱される。
【0013】
以上の既知の諸技術により、蒸解缶プラントの加熱必要性を満たす、よりクリーンなスチームを製造し、パルプ工場のエネルギー経済を向上させる種々のシステムが提供されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、黒液の熱を利用することによって木材チップの予備スチーム処理のためのクリーンなスチームを製造するとともに、蒸解缶で繊維材を加熱するために黒液からスチームを製造するための改良された方法を提供することである。さらなる目的は、黒液からスチーム/蒸気を発生させて、処理された黒液が、パルプ工場の回収域でさらなる処理を受けるに当たって、より優れた特性を有するようにすることである。さらに他の目的は、パルプ工場全体のエネルギー経済を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、化学パルプ工場の蒸解缶プラントにおいてスチームを発生させるための方法に関し、この方法は、
a)黒液を蒸解缶システムで生成するステップ、
b)黒液の第一流を蒸解缶から抽出し、これを、加熱媒体としての新鮮なスチームを使用して蒸発に付し、蒸発に付された後の黒液の乾燥固体含有量を増加させるステップ、
c)ステップb)の蒸発で得られたスチームを蒸解缶での繊維材の加熱に使用するステップ、
d)蒸解缶から抽出された黒液の第二流をフラッシュして、フラッシュされた黒液とフラッシュ蒸気とを生成させ、フラッシュ蒸気を少なくとも一種の熱交換器、好ましくは再沸器に導入して、クリーンな蒸発可能の液と間接的に熱交換させ、クリーンなスチームを製造するステップ、
e)ステップd)からのクリーンなスチームをチップのスチーム処理に使用するステップ、および
f)ステップd)からのフラッシュされた黒液をさらに蒸発工程に導くステップを含む。
【0016】
好ましい態様に従えば、ステップd)を行うに当たって、ステップb)からの蒸発された黒液と蒸解缶から抽出された黒液の第二流は、フラッシュ操作の前またはフラッシュ操作の間に混合するようにする。普通、ステップb)からの蒸発された黒液は、ステップd)からのフラッシュされた黒液よりも高い乾燥固体含有量を有する。
【0017】
ステップd)におけるクリーンな蒸発可能の液は、蒸発器凝縮液、脱ミネラル水、ボイラー供給水または十分にクリーンな水フラクションでよい。
【0018】
ステップf)を行うに当たっては、ステップd)からのフラッシュされた黒液が、ステップb)からの蒸発された黒液と一緒になるように導かれ、さらに蒸発工程に付されるのが好ましい。
【0019】
本発明の基本的アイデアは、次の通りである。すなわち、
1)蒸解缶頂部へ送る必要のある蒸気は、新鮮なスチームを加熱媒体として使用して一段または多段の蒸発器における抽出黒液を蒸発することによって製造される。
2)チップの予備スチーム処理のための臭気のないスチームは、抽出液をフラッシュさせ、フラッシュ蒸気を再沸器(複数を含む)で凝縮させるに当たって、熱を凝縮液または十分に純粋な水と間接的に交換させて臭気のないスチームを製造することによって、発生させられる。このように製造されたスチームは、次に、保持槽および/またはスチーム処理槽に至る予備スチーム処理位置に導かれる。
【発明の効果】
【0020】
本発明には、少なくとも以下の利点を備える。
1)パルプ工場全体の熱経済が向上する。パルプ工場の蒸発プラントに導かれる抽出液中の乾燥固体含有量が増加するからである。乾燥固体含有量の増加は、抽出液のフラッシング操作と、蒸解缶槽の中でスチームを直接的に使用することはないという事実との結果である。その結果、蒸発プラントにおけるスチーム消費量と能力要求が減少する。
2)蒸発プラントの投資コストが減少する。能力要求が低下するからである。
3)新鮮なスチームの凝縮液の戻りが増加し、その結果、パルプ工場全体の蒸気消費量が減少する。
4)パルプ工場全体のシステムのメタノール回収率が向上する。黒液から発生する最初の留出物を専用熱交換器(蒸発器と再沸器)で凝縮させるからである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に基づくシステムの概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、蒸解缶プラントでスチームを発生させ、蒸解プロセスの熱効率が向上するように黒液を処理するための装置を示す。このファイバーライン装置は、チップビン10を備え、ここで木材チップまたは他のセルロース材のスチーム処理が、ライン2からのスチームで行われ、液が添加されてスラリーが形成され、その後にスラリーの加圧が行われ(この部分は供給システムとも称される)、さらにその後に連続式蒸解缶の操作が行われる(この部分は蒸解プロセスとも称される)。蒸解缶の前に、スラリーを必要に応じて一基または複数基の処理槽(浸透槽、予備加水分解槽など、但し図示せず)に送り、ここで処理を行うことができる。チップと蒸解液のスラリーは、ライン3経由で蒸解缶5の頂部に供給される。本発明に重要なコンポーネント(部材)のみが図面には示されているだけなので、他のタイプのチップスチーム処理や供給循環系や蒸解缶循環系も、もちろんのこと、蒸解缶システムには存在することができる。少なくとも一つの黒液流(普通、温度は120〜160℃、乾燥固体含有量は12〜17%)が、蒸解缶5からライン4経由で抜き出され、さらにライン5経由で蒸発器6に導入される。必要に応じて、加圧式ファイバーフィルター7を蒸解缶5と蒸発器6との間のライン5aに位置させ、黒液流から繊維分をフィルター7出口で約40ppmのレベルにまで除去することが可能である。フィルター7から除去された繊維は、スラリー状になっており、これは蒸解缶5または供給システムに戻される。
【0023】
本発明によれば、黒液は蒸発器6で蒸発に付される。新鮮なスチーム(スチーム圧力は普通、6〜17バール(ゲージ)で、このスチームはタービンからの抽気スチームとして得られる)がライン8経由で熱交換要素9に供給される。蒸発器6は、普通、複数のプレートまたはチューブ式熱交換エレメントを備えている落下液膜型蒸発器である。蒸発される黒液、換言すれば、蒸解缶から排出される黒液は、熱交換エレメント9の外側表面に沿って流れるようになっている。蒸発器6で発生された二次蒸気は、ライン11経由で蒸解缶5の頂部に向けて送られ、加熱蒸気として使用される。この蒸気は、普通、蒸解温度を超える温度を有しているので、繊維材は、この蒸気で蒸解温度まで加熱される。蒸気は、蒸発器6の蒸気空間と連結している蒸解缶蒸気入口開口経由で導き入れられる。黒液は、また、二基以上の蒸発器または多段の蒸発器で蒸発させ得るし、相異なる温度を有する蒸気を発生させ、蒸解缶の繊維材を加熱するのに使用もし得る。黒液の乾燥固体含有量は、全蒸発が蒸発器(複数基を含む)で行われる限りは増加させられる。新鮮なスチームは、蒸発器6で凝縮されるが、新鮮なスチームを凝縮してこのように得られた液は、純粋であるので、ライン12経由でパルプ工場の回収ボイラープラントまで導くことができ、ここで、何ら精製プロセスに付すことなくボイラー給水として使用できる。
【0024】
蒸発されるべき黒液の量は、蒸解缶で必要とされるスチーム流に依存する。新鮮なスチームによる蒸発で過剰な黒液蒸気を発生させるのは有利ではない。パルプ工場の熱経済を悪化させることになるからである。
【0025】
繊維材を加熱するために、黒液蒸発器から得たスチームを蒸解缶で使用することによって、より優れた熱経済が達成される。何故ならば、蒸解缶に新鮮なスチームを導入することにより、黒液が希釈されないからである。
【0026】
蒸解缶から抽出された高温の黒液は、普通、120〜160℃の温度と、12〜17%の乾燥固体含有量を有するが、この黒液は、また、ライン14,13経由でフラッシュタンク15に導かれ、フラッシュタンク15では、液の圧力が低下され、普通、100〜130℃の温度を有するフラッシュ蒸気とフラッシュされた黒液が得られる。フラッシュされた黒液の乾燥固体含有量は、フラッシュ操作で2〜4%だけ増加し得る。好ましくは、蒸解缶から1個または複数個の出口を出てライン4,14経由で抜き出された一つまたは複数の黒液流は、蒸発器6からの蒸発された黒液と一緒に混合される。蒸発された黒液流の量(kg/sベース)は、普通、蒸解缶からフラッシュタンクに直接に行く黒液の量より少ない。蒸発された黒液をパルプ工場の蒸発プラントに直接送ることは可能ではあるが、これを未蒸発の黒液と混合することが好ましい。利用可能な熱を合理的な温度レベルで有効利用可能だからである。フラッシュされた黒液は、ライン18経由でパルプ工場の蒸発プラントに送られ、この蒸発プラントで黒液は高乾燥固体含有量に濃縮され、その後回収ボイラーで燃焼処理される。
【0027】
ライン16中のフラッシュ蒸気のエネルギーは、再沸器17で回収され、ここで、フラッシュ蒸気は、揮発性化合物を含まない「クリーン」液体と間接熱交換関係で流れ、液体を沸点またはフラッシュ温度以上に加熱して、揮発性化合物を含まない無臭のスチームを製造する。クリーン液体は、ライン21経由で供給される。クリーン液体は、普通、蒸発器凝縮液、脱ミネラル水、ボイラー供給水または十分にクリーンな水フラクションである。再沸器で生成されたクリーンスチームは、直接黒液フラッシュ法で生成されたスチームよりも実質的に少ない非凝縮性ガスを含む。好ましくは、ライン2のクリーンスチームは、例えば、チップビン10においてスチームで木材チップを前処理するのに使用される。チップ処理に使用するとき、このスチームは予備スチーム処理プロセスに揮発性化合物を持ち込むことがないので、パルプ工場のNCGシステムで捕集し、処理しなければならない揮発性化合物の負荷を少なく抑えることができる。
【0028】
黒液フラッシュタンク15からのフラッシュ蒸気は、硫黄化合物のような揮発性化合物を含有している。これらの化合物は、再沸器17において悪臭のある凝縮液の流れと濃縮された非凝縮性ガス(CNCG)の流れとに二分される。悪臭凝縮液は、ライン19経由で再沸器から蒸発器プラントに送られ、それ自体公知の方法で処理される。CNCGの流れは、ライン20経由で凝縮器、例えば、蒸解缶に附帯する凝縮器(図示せず)に導かれる。
【符号の説明】
【0029】
2,3,4,5,8,11,12,13,14,16,18,19,20,21・・・ライン、5・・・蒸解缶、6・・・蒸発器、7・・・濾過器、9・・熱交換要素、10・・・チップビン、15・・・フラッシュタンク、17・・・再沸器。
図1