特許第5734591号(P5734591)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5734591
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】回転電機のステータ及び回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/34 20060101AFI20150528BHJP
   H02K 21/14 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   H02K3/34 DZHV
   H02K21/14 M
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-162767(P2010-162767)
(22)【出願日】2010年7月20日
(65)【公開番号】特開2012-29354(P2012-29354A)
(43)【公開日】2012年2月9日
【審査請求日】2013年4月16日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】特許業務法人 サトー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 正克
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 洋一
(72)【発明者】
【氏名】花井 隆
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 渉
【審査官】 松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−005464(JP,A)
【文献】 特開2008−141921(JP,A)
【文献】 特開平07−298530(JP,A)
【文献】 特開2007−143354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/34
H02K 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコアと、
このステータコアに巻装され、複数の単位コイルが連結されて前記ステータコアの径方向に並んで配置されている複数相のステータコイルと、
前記ステータコアの軸方向の両端部において、当該ステータコアの径方向の内周側に配置されている異相の前記ステータコイルの単位コイルのコイルエンド間に配置された複数の異相間絶縁紙と、
前記異相間絶縁紙と一体に形成され、ステータコアのスロットに挿入された状態で両端部に配置された一対の異相間絶縁紙を連結する連結条部と、を具備し、
前記異相間絶縁紙の端部が同相の単位コイルのコイルエンド間に挿入されて同相間絶縁紙とされ、
各相のステータコイルの複数の単位コイルは、二分されて第1直列回路と第2直列回路とに形成され、各直列回路の一方の端子は電源端子に接続され且つ他方の端子は中性点端子に接続されて隣極接続または隔極接続とされ、
前記同相間絶縁紙とされる前記異相間絶縁紙は、内周側の相の第1直列回路の第1単位コイルのコイルエンド及び第2直列回路の第1単位コイルのコイルエンドと外周側の相の単位コイルのコイルエンドとの間を絶縁し、その端部は、前記第1直列回路および前記第2直列回路の各々について、前記ステータコアの径方向の内周側に配置されている同相の単位コイルのうち隣極接続または隔極接続において分担電圧が最も大きい前記第1直列回路の第1単位コイルのコイルエンド及び第2直列回路の第1単位コイルのコイルエンドとこれらに周方向に隣接する同相の単位コイルのコイルエンドとの間に挿入されていることを特徴とする回転電機のステータ。
【請求項2】
複数の異相間絶縁紙の1つの異相間絶縁紙は、内周側の相の第1直列回路の第1単位コイルのコイルエンド及び第2直列回路の第1単位コイルのコイルエンドと外周側の相の単位コイルのコイルエンドとの間を絶縁し、前記異相間絶縁紙の中央部は、内周側に折り曲げられて第1直列回路の第1単位コイルと第2直列回路の第1単位コイルとのコイルエンド間に挿入されていることを特徴とする請求項1記載の回転電機のステータ。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか一項記載のステータを備えたことを特徴とする回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、回転電機のステータ及び回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車やハイブリッド自動車等の車両に用いられる回転電機たる電動機として、複数相、例えばU相、V相、W相の三相をなすステータコイルをステータコアに巻装して構成されるインバータ駆動方式の永久磁石型の電動機(以下、永久磁石電動機という)が知られている。このような永久磁石電動機では、各ステータコイルのコイルエンド間(U相−V相間、V相−W相間。以下、異相間という)に異相間絶縁紙が挿入され、ステータコイルのコイルエンドが互いに接触しないように構成されている。
【0003】
ところで、このような各相ステータコイルは、一般に直列に接続された複数の単位コイルから構成されており、異相間だけでなく、同相のステータコイル内においても隣接する単位コイルのコイルエンド間(以下、同相間という)が接触する場合がある。特に、車両用の永久磁石電動機のように、高出力化のために駆動電圧が高電圧化され、又、インバータ駆動による立ち上がりが急峻なインバータサージ電圧が印加されると、同相のステータコイル内の分担電圧、即ち各単位コイルの分担電圧の差が大きくなり、単位コイルのコイルエンド間に部分放電が発生する虞がある。そのため、各単位コイルのコイルエンド間に絶縁紙(同相間絶縁紙)を挿入することにより、単位コイルのコイルエンド間を確実に絶縁することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しなしながら、構造が複雑、且つ、ステータコイルの相毎に形状が異なる複数種類の絶縁紙を個別に各単位コイルのコイルエンド間に挿入する場合には、絶縁紙を挿入する作業時間が大幅に増加するという問題がある。又、全ての単位コイルのコイルエンド間に絶縁紙を挿入すると、材料費が上昇し、コストの大幅な増加を招くという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−223063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、簡単な構成の異相間絶縁紙を利用して同相の単位コイルのコイルエンド間を絶縁することができ、作業工数や材料費の増加に伴うコストの大幅な増加を抑制することができる回転電機のステータ及び回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態の回転電機のステータによれば、ステータコアと、このステータコアに巻装され、複数の単位コイルが連結されてなる複数相のステータコイルと、前記ステータコアの軸方向の両端部において、前記複数相のステータコイルにおける異相の単位コイルのコイルエンド間に配置された複数の異相間絶縁紙とを具備する。そして、前記異相間絶縁紙の端部が同相の単位コイルのコイルエンド間に挿入されて同相間絶縁紙とされる。
本実施形態の回転電機によれば、上述したステータを備えたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施形態によるステータの一部を拡大して示す図
図2】ステータを概略的に示す図
図3】三相のステータコイルの等価回路を示す図
図4】第1単位コイルと第2単位コイルの巻回状態を模式的に示す図
図5】(a)は異相間絶縁紙を示す図、(b)は異なる異相間絶縁紙を示す図
図6】V相のステータコイルの組込み前の図1相当図
図7】第2の実施形態による図1相当図
図8】第3の実施形態による図1相当図
図9図2相当図
図10】第4の実施形態による図1相当図
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1の実施形態)
以下、電気自動車やハイブリット自動車等に用いられるインバータ駆動方式の永久磁石電動機に適用した第1の実施形態について、図1ないし図6に基づいて説明する。
図2に示すように、永久磁石電動機のステータ1は、ステータコア2に複数相例えば三相のステータコイル(即ち後述するU相コイル3、V相コイル4、W相コイル5)を巻装して構成されている。ステータコア2は、例えば電磁鋼板をプレスなどにより円環状に打ち抜いて形成された複数枚のコア片が積層された円筒をなしており、その内周側に、これらのステータコイル(U相コイル3、V相コイル4、W相コイル5)が挿入されるスロット6が複数個、例えば48個形成されている。各ステータコイル(U相コイル3、V相コイル4、W相コイル5)は、例えば銅線に絶縁被覆を施したエナメル線等の素線、或いはこの素線を複数本束ねたリッツ線等を巻回することにより構成されている。この実施形態では、ステータコア2には、径方向外周側から内周側に向かってU相コイル3、V相コイル4、W相コイル5が順に装着されている。以下、U相コイル3、V相コイル4、W相コイル5に共通の事項を説明する場合には、符号を付さず、単に各相のステータコイルという。
【0010】
図3は、各相のステータコイルの等価回路を示している。各相のステータコイルは、複数個例えば8個の単位コイルからなり、これらの各8個の単位コイルは二分されている。具体的には、U相コイル3は、4個の単位コイル(3a1、3a2、3a3、3a4)が直列に接続(連結)された第1直列回路3aと、同じく4個の単位コイル(3b1、3b2、3b3、3b4)が直列に接続(連結)された第2直列回路3bとから構成されている。同様に、V相コイル4は、4個の単位コイル(4a1、4a2、4a3、4a4)が直列に接続された第1直列回路4aと、4個の単位コイル(4b1、4b2、4b3、4b4)が直列に接続された第2直列回路4bとから構成され、W相コイル5は、4個の単位コイル(5a1、5a2、5a3、5a4)が直列に接続された第1直列回路5aと、4個の単位コイル(5b1、5b2、5b3、5b4)が直列に接続された第2直列回路5bとから構成されている。尚、以下の説明においては、各相のステータコイルにおいて電源端子(後述するU相電源端子7、V相電源端子8、W相電源端子9)に最も近い位置に設けられている単位コイルから順に第1単位コイル、第2単位コイル、第3単位コイル、第4単位コイルという。又、各直列回路3a、3b、4a、4b、5a、5bについて共通の事項を説明する場合には、符号を付さず、単に各直列回路という。
【0011】
各相の各直列回路3a、3b、4a、4b及び5a、5bの一方の端子は、各相の電源端子であるU相電源端子7、V相電源端子8及びW相電源端子9に接続されている。又、各直列回路3a、4a、5aの各電源端子(7、8、9)と反対側の他方の端子は、中性点Naに接続され、同様に、各直列回路3b、4b、5bの各電源端子(7、8、9)と反対側の他方の端子は中性点Nbに接続されている。つまり、ステータコア2には、各相の電源端子間に第1直列回路3a、4a、5a及び第2直列回路3b、4b、5bが並列に接続(ダブルスター接続)されたステータコイルが設けられている。尚、第1直列回路3a、4a、5aと第2直列回路3b、4b、5bは、隣極接続である。
【0012】
ここで、ステータコア2に設けられている各相のステータコイルの巻装工程について簡単に説明する。
ステータコア2のスロット6には、その内壁に絶縁紙等を貼付することにより、スロット6に巻装される各相のステータコイルとステータコア2(スロット6の内壁)との間を絶縁するためのスロット絶縁が施される。スロット絶縁が施されたスロット6には、まずU相コイル3が、スロット6の最も奥側(ステータコア2の外周側)に位置して巻装される。続いて、U相コイル3のコイルエンドと次に挿入されるV相コイル4のコイルエンドとの間を絶縁するための複数個の異相間絶縁紙10が、ステータコア2の周方向全域にU相コイル3のコイルエンドに沿って配設される。この異相間絶縁紙10は、電気的な絶縁特性を有する、例えば全芳香族ポリアミド等の所謂アラミド紙で形成されている。
【0013】
異相間絶縁紙10が配設されると、U相コイル3との電気角が120°ずれるようにして、U相コイル3が巻装されたのとは別のスロット6に、V相コイル4が巻装される。続いて、V相コイル4のコイルエンドとW相コイル5のコイルエンドとの間を絶縁するための複数個の異相間絶縁紙10が挿入され、その後、V相コイル4との電気角が120°ずれるように位置してW相コイル5が巻装される。
【0014】
図5(a)に示すように、異相間絶縁紙10は、長尺な一対の絶縁紙本体11と、この絶縁紙本体11を繋ぐ複数本の連結条部12とから構成されている。一対の絶縁紙本体11は、ステータコア2のコア片の積層方向(以下、軸方向という)の両端部に配置される。連結条部12は、絶縁紙本体11と一体に形成されており、ステータコア2の軸方向の長さ(積層方向の厚み)とほぼ同じ長さを有する帯状に形成されている。つまり、連結条部12がステータコア2の内周側からスロット6に挿入されると、一対の絶縁紙本体11は、ステータコア2の軸方向の両端部端面から突出する状態になる。
【0015】
このように、ステータコア2には、その軸方向の両端部において、各ステータコイルのコイルエンド間(異相間)の絶縁を図るための異相間絶縁紙10が設けられている。ところで、実運転時において、駆動電圧、特に、急峻なインバータ駆動電圧が印加されると、各相のステータコイル内の各単位コイルの分担電圧に差が生じ、隣接する単位コイルのコイルエンド間に部分放電が発生する虞がある。そこで、この第1の実施形態では、異相間絶縁紙10に、各相のステータコイルの単位コイルのコイルエンド間(同相間)を絶縁する同相間絶縁紙の機能をもたせる。
【0016】
即ち、U相コイル3のコイルエンドと次のV相コイル4のコイルエンドとの間を絶縁するための複数個の異相間絶縁紙10のうちの1つを異相間絶縁紙10Aとし、V相コイル4のコイルエンドとW相コイル5のコイルエンドとの間を絶縁するための複数個の異相間絶縁紙10のうちの1つを異相間絶縁紙10Bとすると、異相間絶縁紙10A、10Bは、図5(b)に示すように、絶縁紙本体11の長手方向寸法が異相間絶縁紙10のそれよりも大に設定されていて、絶縁紙本体11の両端部に折曲部11aが形成されている。
【0017】
而して、図1に示すように、異相間絶縁紙10Aは、V相コイル4の第1直列回路4aの第1単位コイル4a1及び第2直列回路4bの第1単位コイル4b1のコイルエンドとその外周側のU相コイル3の第1直列回路3aの第1単位コイル3a1、第2直列回路3bの第1単位コイル3b1及び第2単位コイル3b2のコイルエンドとの間を絶縁するように配置される。そして、異相間絶縁紙10Aの両端部の折曲部11aは、内周側に曲成されて、V相コイル4の第1直列回路4aの第1単位コイル4a1とこれに周方向に隣接する第2単位コイル4a2とのコイルエンド間及び第2直列回路4bの第1単位コイル4b1とこれに周方向に隣接する第2単位コイル4b2とのコイルエンド間に挿入され、以て、同相の第1単位コイル4a1、第2単位コイル4a2のコイルエンド間及び第1単位コイル4b1、第2単位コイル4b2のコイルエンド間を絶縁する同相間絶縁紙として機能する。
【0018】
又、異相間絶縁紙10Bは、図1に示すように、W相コイル5の第1直列回路5aの第1単位コイル5a1及び第2直列回路5bの第1単位コイル5b1のコイルエンドとその外周側のV相コイル4の第1直列回路4aの第1単位コイル4a1、第2直列回路4bの第1単位コイル4b1及び第2単位コイル4b2のコイルエンドとの間を絶縁するように配置される。そして、異相間絶縁紙10Bの両端部の折曲部11aは、内周側に曲成されて、W相コイル5の第1直列回路5aの第1単位コイル5a1とこれに周方向に隣接する第2単位コイル5a2とのコイルエンド間及び第2直列回路5bの第1単位コイル5b1とこれに周方向に隣接する第2単位コイル5b2とのコイルエンド間に挿入され、以て、同相の第1単位コイル5a1、第2単位コイル5a2のコイルエンド間及び第1単位コイル5b1、第2単位コイル5b2のコイルエンド間を絶縁する同相間絶縁紙として機能する。
【0019】
次に、上記した構成の同相間絶縁紙10A、10Bの作用について説明する。
上記した各相のステータコイルは、素線をスロット6に直接巻回するのではなく、予め単位コイルを形成し、その単位コイルをスロット6に挿入する所謂インサート方式でステータコア2に巻装される。このとき、各単位コイルは、作業効率を改善するために単位コイルが挿入されるスロット6間の距離(この実施形態では6スロット分)よりも若干大きく形成されているため、ステータコア2の両端部において、特にU相コイル3より内周側に位置するV相コイル4及びW相コイル5の隣接する同相の単位コイルのコイルエンドが接触する虞がある。そこで、単位コイルのコイルエンド間に上記した同相間絶縁紙10A、10Bの折曲部11aを挿入することにより、ステータコイルの各単位コイルのコイルエンド間を絶縁することが可能になる。
【0020】
ところで、複数の単位コイルが連結されたステータコイル(図3参照)の場合、実運転時に各単位コイルにかかる分担電圧の大きさは、同相のステータコイル内においても、夫々異なっている。例えば、この第1の本実施形態のようなインバータ駆動方式の場合、電源端子(7、8、9)に近い単位コイルほど分担電圧が大きくなっている。
【0021】
図4は、V相コイル4の第1直列回路4aの第1単位コイル4a1と第2単位コイル4a2とを模式的に示す図である。第1単位コイル4a1と第2単位コイル4a2との間には、第1単位コイル4a1の巻き始めである第1ターン部(Ts1、Ts2)と、第1単位コイル4a1とは逆向きに巻装されている第2単位コイル4a2の巻き終わりである第2ターン部(Te1、Te2)が存在している。このとき、第1ターン部(Ts1、Ts2)にはV相電源端子8からの電圧が直接印加されており、第2ターン部(Te1、Te2)との間に、単位コイル2個分の分担電圧の差が生じることになる。つまり、最V相電源端子8側に設けられている第1単位コイル4a1と、この第1単位コイル4a1に隣接して設けられている第2単位コイル4a2との間は、V相コイル4内における電位差が最も大きくなり、部分放電が最も生じ易い部位と言える。以上のような事態は、V相コイル4の第2直列回路4bの第1単位コイル4b1、第2単位コイル4b2間及びW相コイル5の第1直列回路5aの第1単位コイル5a1、第2単位コイル5a2間及び第2直列回路5bの第1単位コイル5b1、第2単位コイル5b2間においても、同様に発生する。尚、U相コイル3については、後述する。
【0022】
そのため、第1の実施形態では、図1に示すように、V相コイル4及びW相コイル5の単位コイルのうち、最も部分放電が生じる可能性の高い第1単位コイルと第2単位コイルとのコイルエンド間に同相間絶縁紙10A、10Bの折曲部11aが挿入されて、同相間絶縁紙として機能する。
【0023】
尚、U相コイル3においても、その第1単位コイルと第2単位コイルとのコイルエンド間に最も大きな電位差が生じる。しかしながら、円筒状をなすステータコア2の最外周に位置するU相コイル3の場合には、単位コイル相互間(コイルエンド間)の距離を充分に確保することができるので、特には、第1単位コイルと第2単位コイルとのコイルエンド間に同相間絶縁紙を設ける必要はない。
【0024】
ところで、この第1の実施形態においては、ステータコア2に設けられている各相のステータコイルの巻装工程で次のような操作が行なわれる。これについて、図6を参照して説明する。
ステータコア2のスロット絶縁が施されたスロット6には、まずU相コイル3が、スロット6の最も奥側(ステータコア2の外周側)に位置して巻装される。続いて、U相コイル3のコイルエンドと次に挿入されるV相コイル4のコイルエンドとの間を絶縁するための複数個の異相間絶縁紙10が、ステータコア2の周方向全域にU相コイル3のコイルエンドに沿って配置される。この異相間絶縁紙10のうちの異相間絶縁紙10Aは、その両端部の折曲部11aが外周側に折り曲げられた状態で配置される。次に、U相コイル3が巻装されたのとは別のスロット6に、V相コイル4が巻装されるが、このV相コイル4の巻装後に、異相間絶縁紙10Aの一方の端部の折曲部11aは、図示しない工具により第1単位コイル4a1の反時計方向側の隅部に沿って内周側に曲成されて第1単位コイル4a1と第2単位コイル4a2とのコイルエンド間に挿入され、異相間絶縁紙10Aの他方の端部の折曲部11aは、図示しない工具により第1単位コイル4b1の時計方向側の隅部に沿って内周側に曲成されて第1単位コイル4b1と第2単位コイル4b2とのコイルエンド間に挿入される。このように、異相間絶縁紙10Aの両端部の折曲部11aを予め外周側に折り曲げておくと、これらを第1単位コイル4a1と第2単位コイル4a2とのコイルエンド間及び第1単位コイル4b1と第2単位コイル4b2とのコイルエンド間に挿入する操作(作業)が簡単になる。続いて、V相コイル4のコイルエンドとW相コイル5のコイルエンドとの間を絶縁するための異相間絶縁紙10が挿入されるが、この場合、異相間絶縁紙10Bの両端部の折曲部11aを予め外周側に折り曲げておく。その後、V相コイル4との電気角が120°ずれるように位置してW相コイル5が巻装され、異相間絶縁紙10Bの両端部の折曲部11aも異相間絶縁紙10Aの折曲部11aと同様に操作される。
【0025】
以上説明した第1の実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
各相のステータコイルの単位コイルのコイルエンド間を絶縁する異相間絶縁紙10のうちの異相間絶縁紙10A、10Bの両端部の折曲部11aを、U相コイル3より内周側のV相コイル4及びW相コイル5の第1単位コイルと第2単位コイルとのコイルエンド間に同相間絶縁紙として挿入するようにしたので、実運転時に部分放電が発生する可能性の高い部位を効率的に絶縁することができる。又、異相間絶縁紙10A、10Bは、他の異相間絶縁紙10より若干寸法を大にして、その一部により同相間絶縁を行なわせるので、絶縁紙の材料費を低減することができ、コストの大幅な上昇を招くことがない。
又、第1の実施形態のステータ1によれば、単位コイル間に接触等の絶縁異常がなく、部分放電が生じるおそれが低減された高品質な永久磁石電動機を製造することができる。
【0026】
(第2の実施形態)
図7は第2の実施形態であり、第1の実施形態の図1と同一部分には同一符号を付して示す。
この第2の実施形態においては、異相間絶縁紙10Aは、第1の実施形態より長手方向の寸法が大に設定されていて、その途中部位に、外周側に突出する折曲部11bが形成され、この折曲部11bがU相コイル3の第1単位コイル3b1とその周方向側に隣接する第2単位コイル3b2とのコイルエンド間に同相間絶縁紙として挿入されている。又、異相間絶縁紙110Aと反時計方向周側に隣接する異相間絶縁紙10Cは、他の異相間絶縁紙10よりも名が手方向の寸法が大に設定されていて、その途中部位に、外周側に突出する折曲部11bが形成され、この折曲部11bがU相コイル3の第1単位コイル3a1とその周方向側に隣接する第2単位コイル3a2とのコイルエンド間に同相間絶縁紙として挿入されている。
【0027】
この第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果が得られ、特に、最外周側のU相コイル3の第1単位コイルと第2単位コイルとのコイルエンド間にも異相間絶縁紙10A、10Cの折曲部11bを同相間絶縁紙として挿入するようにしたので、絶縁性能が一層向上する。
【0028】
(第3の実施形態)
図8及び図9は第3の実施形態であり、第1の実施形態の図1及び図2と同一部分には同一符号を付して示す。
この第3の実施形態においては、図9に示すように、U相コイル3の8個の単位コイル3a1〜3a8、V相コイル4の8個の単位コイル4a1〜4a8及びW相コイル5の8個の単位コイル5a1〜5a8は夫々直列に接続され、且つその直列回路の各一方の端子は、各相の電源端子に接続され、他方の端子は、中性点端子に接続され、以て、全体としてスター接続されている。尚、U相コイル3の8個の単位コイル3a1〜3a8、V相コイル4の8個の単位コイル4a1〜4a8及びW相コイル5の8個の単位コイル5a1〜5a8は、図4に示すものと同様に、隣接するもの同士は逆極性になるように巻装されている。
【0029】
この第3の実施形態においても、U相コイル3の単位コイルとV相コイル4の単位コイルとのコイルエンド間及びV相コイル4の単位コイルとW相コイル5の単位コイルとのコイルエンド間は、夫々複数個の異相間絶縁紙10により絶縁されるようになっている。
そして、U相コイル3の単位コイルとV相コイル4の単位コイルとのコイルエンド間を絶縁する複数個の異相間絶縁紙10のうちの1つの異相間絶縁紙10Dは、V相コイル4の第1単位コイル4a1とその外周側のU相コイル3の単位コイルとのコイルエンドを絶縁するようになっており、両端部に形成された折曲部11aは、第1単位コイル4a1のコイルエンドとこれに周方向の両側に位置する第8単位コイル4a8及び第2単位コイル4a2のコイルエンドと間に挿入されて、同相間絶縁紙として機能する。
【0030】
又、V相コイル4の単位コイルとW相コイル5の単位コイルとのコイルエンド間を絶縁する複数個の異相間絶縁紙10のうちの1つの異相間絶縁紙10Eは、W相コイル5の第1単位コイル5a1とその外周側のV相コイル4の単位コイルとのコイルエンドを絶縁するようになっており、両端部に形成された折曲部11aは、第1単位コイル5a1のコイルエンドとこれに周方向の両側に位置する第8単位コイル5a8及び第2単位コイル5a2のコイルエンドと間に挿入されて、同相間絶縁紙として機能する。
【0031】
第3の実施形態のように、U相コイル3の8個の単位コイル3a1〜3a8、V相コイル4の8個の単位コイル4a1〜4a8及びW相コイル5の8個の単位コイル5a1〜5a8は夫々直列に接続され、且つ全体としてスター接続されている構成においては、V相コイル4の第1単位コイル4a1のコイルエンドとこれに周方向両側に位置する第8単位コイル4a8及び第2単位コイル4a2のコイルエンドとの間並びにW相コイル5の第1単位コイル5a1のコイルエンドとこれに周方向両側に位置する第8単位コイル5a8及び第2単位コイル5a2のコイルエンドとの間に大きな電位差を生じる。
【0032】
第3の実施形態によれば、電位差が大きく生じる第1単位コイル4a1のコイルエンドと第8単位コイル4a8及び第2単位コイル4a2のコイルエンドとの間並びに第1単位コイル5a1のコイルエンドと第8単位コイル5a8及び第2単位コイル5a2のコイルエンドとの間に異相間絶縁紙10D並びに10Eの両端部の折曲部11aを挿入したので、第1の実施形態と同様の効果を奏する。尚、最外周側のU相コイル3については、第1の実施形態にて述べた理由で同相間絶縁紙は設けられていない。
【0033】
(第4の実施形態)
図10は第4の実施形態であり、第3の実施形態の図8と同一部分には同一符号を付して示す。
この第4の実施形態では、U相コイル3の単位コイルとV相コイル4の単位コイルとのコイルエンド間を絶縁する複数個の異相間絶縁紙10のうちの1つの異相間絶縁紙10Fは、V相コイル4の第1単位コイル4a1及び第2単位コイル4a2のコイルエンドとその外周側のU相コイル3の単位コイルのコイルエンドとの間を絶縁するようになっており、両端部に形成された折曲部11aは、第1単位コイル4a1及び第2単位コイル4a2のコイルエンドとこれに周方向の両側に位置する第8単位コイル4a8及び第2単位コイル4a3のコイルエンドとの間に挿入され、途中部位たる中央部に内周側に折り曲げて形成された折曲部11cは、第1単位コイル4a1及び第2単位コイル4a2のコイルエンド間に挿入されて、同相間絶縁紙として機能する。
【0034】
又、V相コイル4の単位コイルとW相コイル5の単位コイルとのコイルエンド間を絶縁する複数個の異相間絶縁紙10のうちの1つの異相間絶縁紙10Gは、W相コイル5の第1単位コイル5a1及び第2単位コイル5a2のコイルエンドとその外周側のV相コイル4の単位コイルとのコイルエンドとの間を絶縁するようになっており、両端部に形成された折曲部11aは、第1単位コイル5a1及び第2単位コイル5a2のコイルエンドとこれに周方向の両側に位置する第8単位コイル5a8及び第3単位コイル5a3のコイルエンドと間に挿入され、途中部位たる中央部に内周側に折り曲げて形成された折曲部11cは、第1単位コイル5a1及び第2単位コイル5a2のコイルエンド間に挿入されて、同相間絶縁紙として機能する。
【0035】
この第4の実施形態によれば、第3の実施形態と同様の効果が得られ、特に、比較的電位差の大きな第2単位コイル4a2、5a2のコイルエンドと第3単位コイル4a3、5a3のコイルエンドとの間に異相間絶縁紙10F、10Gの折曲部11aを挿入したので、絶縁性能が一層向上する。
【0036】
(その他の実施形態)
第1及び第2の実施形態では、ステータコイルの単位コイルを隣極接続するようにしたが、代わりに、隔極接続するようにしてもよい
上記実施形態では、インバータ駆動方式の三相の永久磁石型電動機に適用した例を示したが、相数や駆動方式などはこれに限定されない。例えば、インナーロータ型だけでなくアウターロータ型電動機や誘導電動機、或いは発電機など、回転電機全般に適用することができる。もちろん、車両用以外の目的に用いられる回転電機に適用してもよい。
【0037】
以上のように本実施形態によれば、ステータコアと、このステータコアに巻装され、複数の単位コイルが連結されてなる複数相のステータコイルと、前記ステータコアの軸方向の両端部において、前記複数相のステータコイルにおける異相の単位コイルのコイルエンド間に配置された複数の異相間絶縁紙とを具備し、前記異相間絶縁紙の端部が同相の単位コイルのコイルエンド間に挿入されて同相間絶縁紙とされるので、簡単な構成の異相間絶縁紙を利用して同相の単位コイルのコイルエンド間を絶縁することができ、作業工数や材料費の増加に伴うコストの大幅な増加を抑制することができる。
以上説明したステータ及び回転電機は、本実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0038】
図面中、1はステータ、2はステータコア、3はU相コイル(ステータコイル、最外周ステータコイル)、4はV相コイル(ステータコイル)、5はW相コイル(ステータコイル)、3a、4a及び5aは第1直列回路、3b、4b及び5bは第2直列回路、3a1、4a1、5a1、3b1、4b1、5b1は第1単位コイル、3a2、4a2、5a2、3b2、4b2、5b2は第2単位コイル、3a3、4a3、5a3、3b3、4b3、5b3は第3単位コイル、3a4、4a4、5a4、3b4、4b4、5b4は第4単位コイル、7はU相電源端子(電源端子)、8はV相電源端子(電源端子)、9はW相電源端子(電源端子)、10、10A、10B、10C、10D、10E、10F、10Gは異相間絶縁紙、11aは折曲部(端部)、11b、11cは折曲部を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10