【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2、3によるサイクロイド噴流や、キャビティション噴流は、注入ロッド内で発生させてから噴射するもので、そのままの直接的な効果が期待できない。また、ノズルを近接して設定し近傍噴流の相互干渉によって渦流及びキャビテーションを発生させる方法は、2つのノズルから同一方向に噴射するため高圧噴射による負荷が一方に片寄ることによる施工時におけるロッドのぶれや、造成した硬化材注入層の均質について問題を残している。
【0007】
そこで本願発明は、硬化材噴流をエアーで包合して保護し到達距離を伸長する重合噴射ノズルを中心として、これを背向設定することによりバランスを保つと共に、2つのノズル設定位置に2〜8cm程度の段差を設けるようにしたが、背向するエアー包合噴流が先端において拡散残留し、回動してきた下段重合噴射ノズルからの噴射流に干渉して噴射エネルギーを減衰させる問題がある。
【0008】
硬化材を高圧噴射した時のジェット噴流の噴射流径は、噴射ノズルから1.5m程度離れた位置で、通常5〜10cm程度であり、ノズルから離れるに従って拡散し流径が大きくなる。改良体の造成径は噴射エネルギー量で決定され、同じ位置で多数回噴射しても、3回程度以上になると掘削径が拡径されることはなく、改良体品質も大きく改善されることはないとされており、重合する多数回噴射は、むしろ硬化材使用量のロスと排泥量の増量により廃棄物処理量が大きくなり、環境負荷の拡大につながるものとされる。
【0009】
また、本願発明は背向設定し位置段差を設けた重合噴射ノズルからの硬化材吐出量に較差を設けて較差界面に生ずるキャビテーションの破砕エネルギーによって硬化材噴流の到達距離伸長を図るものであるが、上記のように重合する多数回噴射は、むしろ硬化材使用量のロスと排泥量の増量により廃棄物処理量が大きくなる問題があり、エアーの使用と硬化材吐出量の調整による過剰スライムの排出をしなければならない問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題に対応してこれを解決するため、注入ロッドの先端部側壁に、2〜8cm程度の段差をもって背向して対をなす、核ノズルと囲周ノズルから成る重合噴射ノズルを、1又は複数対設定した注入ロッドを対象地盤に挿入し、各重合噴射ノズルの囲周ノズルからエアーを噴出しながら、対の上段重合噴射ノズルの核ノズルから硬化材を高圧噴射し、同時に、下段重合噴射ノズルの核ノズルから、上段重合噴射ノズルの核ノズルから噴射される硬化材の
1.5〜2倍程度高い吐出量による硬化材を高圧噴射しつつ、注入ロッドの回動及び上昇作動を行って硬化材注入層を造成するように構成した。
【0011】
即ち、硬化材噴流をエアーで包合して保護し到達距離を伸長する重合噴射ノズルを中心として、これを背向設定することによりバランスを保つと共に、2つのノズル設定位置に2〜8cm程度の段差を設けるように構成すると共に、上段重合噴射ノズルの核ノズルから硬化材を高圧噴射し、同時に、対になっている下段重合噴射ノズルの核ノズルから、上段重合噴射ノズルの核ノズルから噴射される硬化材の
1.5〜2倍程度高い吐出量による硬化材を高圧噴射しつつ、注入ロッドの回動及び上昇作動を行って硬化材注入層を造成するようにした。
【0012】
出願人は、上下で対となる噴射ノズルの吐出量に差をつける比例噴射について、高圧噴射によるジェットエネルギーの有効活用について検証するため、地盤中での硬化材層造成実験を行っている。この実験によれば、ポンプ吐出量が400リットル/分の噴射において、A、Bノズルで各200リットル/分の同吐出量で噴射したケースでは、造成径が4.6メートルであったが、Aノズル160リットル/分、Bノズル240リットル/分の吐出量で噴射したケースでは、5.0メートルの造成径が得られている。
【0013】
その結果、上下位置をずらして背向設定したノズルよりの硬化材噴射量を変化させることにより高圧噴射エネルギーを有効に活用することができ、一次切削(先行切削)及び二次切削(仕切り切削)により地盤改良層造成径の拡大が可能であることが確認できた。
【0014】
さらに、この改良体からコア採取した供試体の次表の圧縮試験結果より、改良体の外周付近においても強度低下は認められず、十分な攪拌混合が行われていることが確認できた。
【表1】
この効果を用いれば、異なる地盤強度の地盤における造成を同じ噴射時間で行うことも可能にする。従来工法では、地盤強度が大きくなった場合には、噴射時間を長くすることで同一の造成径を得る設計が行われているが、全体の噴射量を変えずに上下位置をずらして背向設定したノズルよりの硬化材噴射量を変化させることにより、同じ噴射時間で同一の造成径を得ることがてきる。
【0015】
例えば、(ア)N値が0から30までの砂質土でA対Bの吐出量の比を1対1、(イ)N値が30から50までの砂質土でA対Bの吐出量の比を1対1.5、(ウ)N値が50から100までの砂質土でA対Bの吐出量の比を1対2、(エ)粘着力Cが0から50キロニュートン/平方メートルまでの粘性土でA対Bの吐出量の比を1対1、(オ)粘着力Cが50から100キロニュートン/平方メートルまでの粘性土でA対Bの吐出量の比を1対1.5、(カ)粘着力Cが100キロニュートン/平方メートル以上の粘性土でA対Bの吐出量の比を1対2と設定する。
【0016】
図8は、上記実験において、背向設定した2つのノズルの合計吐出量を同量として上下位置をずらさず段差のない部位に背向設定したノズルと、上下位置をずらして段差をつけた部位に背向設定したノズルよりの噴流により、一次切削(先行切削)が行われた後に二次切削(仕切り切削)が行われる場合の噴流到達距離の変化、更に、二次切削ノズルの吐出量を一次切削ノズルの吐出量の1.5倍とした場合の上半分或いは下半分の部分で重合する噴流軌跡の状况と噴流到達距離の変化を示す噴流軌跡半径部分を、それぞれ比較する縦断側面図として示したものである。
【0017】
図
8の(一の1)は段差のない背向設定したノズル1ステップ25ミリで先行ノズルによる先行切削が行われた後、後行ノズルによる仕切り切削が行われる2回切削により、各ノズル200リットル/分(合計400リットル/分)の吐出量で、1回転で同じ部位について2回切削が行われて25ミリだけステップアップされる行程が4回繰り返されている。
【0018】
(一の2)は(一の1)と同じく段差のないノズルにより、先行ノズルによる先行切削を160リットル/分、後行ノズルによる仕切り切削を240リットル/分(合計400リットル/分)の吐出量で1回転で同じ部位について2回切削が行われて25ミリだけステップアップされる行程を4回繰り返した噴流軌跡図である。
【0019】
(二の1)は25ミリ程度の段差をつけて背向設定したノズルにより、1ステップ50ミリで上段ノズルによる先行切削が行われた後、下段ノズルによる仕切り切削が行われ、2回切削により、各ノズル200リットル/分(合計400リットル/分)の吐出量で2回転で同じ部位について上下位置をずらして2回切削が行われて50ミリだけステップアップされる行程が2回繰り返される。
【0020】
(二の2)は(二の1)と同じく25ミリ程度の段差をつけて背向設定したノズルにより、1ステップ50ミリで上段ノズルによる先行切削が行われた後、下段ノズルによる仕切り切削が行われ、先行ノズルによる先行切削を160リットル/分、後行ノズルによる仕切り切削を240リットル/分(合計400リットル/分)の吐出量で2回転で同じ部位について2回切削が行われて50ミリだけステップアップされる行程が2回繰り返されている。
【0021】
段差のないノズルによるが、後行ノズルの吐出量を先行ノズルの1.5倍とした(一の2)は(一の1)と比較して後行ノズルによる仕切り切削噴流の到達距離が明らかに伸長している。更に、段差をつけて背向設定したノズルにより上段ノズルと下段ノズルの吐出量を同量とした(二の1)は段差のない(一の1)と到達距離において略同一であるが、段差をつけ後行ノズルの吐出量を先行ノズルの1.5倍とした(二の2)は後行ノズルの噴流到達距離が、他の各ケースと比較して明らかに伸長している。
【0022】
このことから、段差をつけて背向設定したノズルにより下段ノズルの吐出量を上段ノズルの1.5倍とすることにより、硬化材噴流の到達距離を大きく伸長させることができることを確認することができた。このことにより、地盤改良工法を前記背向して上下段差を設けた対のノズルによる噴射を基本構成としたものである。
【0023】
また、背向するエアー包合噴流が先端において拡散残留し、回動してきた下段重合噴射ノズルからの噴射流に干渉して噴射エネルギーを減衰させる問題に対応して、重合噴射ノズルの外側周囲を、円筒状遮蔽体で囲み、或いは隣接する重合噴射ノズルの間に、注入ロッドの外周壁軸方向に沿って遮蔽板を設定して、重合噴射ノズルから噴射される噴流の拡散と干渉を防止するように構成した。
【0024】
更に、重合噴射ノズルからの硬化材吐出量に較差を設けて較差界面に生ずるキャビテーションの破砕エネルギーによって硬化材噴流の到達距離伸長を図るものであるが、エアーの使用と硬化材吐出量の調整による過剰スライムの発生が避けられないことに対応して、その過剰スライムの排出を積極的に図るため、隣接する重合噴射ノズルの間に、注入ロッド外周壁面に沿ってオーガー翼状に張出する掘削排出翼を設定して、スライムの破砕と揚出を行うように構成した。