(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内径面に8個のトラック溝が形成された外側継手部材と、外径面に外側継手部材のトラック溝と対をなす8個のトラック溝が形成された内側継手部材と、外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に介在してトルクを伝達する8個のボールと、外側継手部材の内径面と内側継手部材の外径面との間に介在してボールを保持するポケットを有するケージとを備え、外側継手部材のトラック溝の曲率中心と外側継手部材の内径面の曲率中心の軸方向のオフセットと、内側継手部材のトラック溝の曲率中心と内側継手部材の外径面の曲率中心の軸方向のオフセットとを0とし、外側継手部材のトラック溝及び内側継手部材のトラック溝をそれぞれ軸線に対して傾斜させるとともに、周方向に隣合うトラック溝の傾斜方向を相反させ、かつ外側継手部材のトラック溝とこれに対向する内側継手部材のトラック溝を軸線に対して反対方向に傾斜させた固定式等速自在継手であって、
前記ケージのポケットの周方向長さを、外側継手部材に対してケージを所定角度だけ傾斜させて2つのポケットを外側継手部材から露出させた状態にてこの2つのポケットへの同時ボール組み込みを可能とする長さとし、
前記ケージのポケットの周方向長さを、ボールを2個同時に組み込む場合におけるポケット内でのボールの最大の周方向移動量である位相角157.5°での周方向移動量に合わせ、
前記ケージのポケットの周方向長さは、ボールを1個ずつ組み込む場合におけるポケット内でのボールの最大の周方向移動量である位相角135°での周方向移動量よりも小さいことを特徴とする等速自在継手。
前記外側継手部材の端面は、トラック溝の軸方向開口端間距離が大である第1部とトラック溝の軸方向開口端間距離が小である第2部が周方向に沿って交互に配設され、同時のボールの組み込みを可能とする2つのポケットのポケット間が第1部に対向することを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手。
前記外側継手部材の端面は、トラック溝の軸方向開口端間距離が大である第1部とトラック溝の軸方向開口端間距離が小である第2部が周方向に沿って交互に配設され、同時のボールの組み込みを可能とする2つのポケットのポケット間が第2部に対向することを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手。
外側継手部材の内径面を円筒面とするとともに、開口部に開口端に向かって縮径するテーパ部を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の等速自在継手。
外側継手部材の内径面が球面形状であり、この内径面とケージの外球面との間に隙間が形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の等速自在継手。
外側継手部材の内径面が楕円形状であり、この内径面とケージの外球面との間に隙間が形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の等速自在継手。
内側継手部材の外径面が球面形状であり、この外径面とケージ内球面との間に隙間が形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の等速自在継手。
内側継手部材の外径面が楕円形状であり、この外径面とケージの内球面との間に隙間が形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の等速自在継手。
外側継手部材のトラック溝の曲率中心と内側継手部材のトラック溝の曲率中心とは、継手中心に対して径方向にオフセットしていることを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のエンジンから車輪に回転力を等速で伝達する手段として使用される等速自在継手の一種に固定式等速自在継手がある。この固定式等速自在継手は、駆動側と従動側の二軸を連結してその二軸が作動角をとっても等速で回転トルクを伝達し得る構造を備えている。一般的に、前述した等速自在継手としては、バーフィールド型(BJ)やアンダーカットフリー型(UJ)が広く知られている。
【0003】
また、近年では、高負荷時や高速回転時に円滑に作動し、発熱を抑え、耐久性を向上させるために、トルク伝達部材としのボールを8個とし、トラック溝の曲率中心の軸方向オフセットを0とし、隣り合うトラック溝を傾斜させたものがある(特許文献1及び特許文献2)。すなわち、この等速自在継手は、
図33に示すように、内径面1に複数のトラック溝2を形成した外側継手部材3と、外径面4に複数のトラック溝5を形成した内側継手部材6と、外側継手部材3のトラック溝2と内側継手部材6のトラック溝5とで協働して形成されるボールトラックに配された複数のボール7と、ボール7を収容するためのポケット8を有するケージ9とで主要部が構成されている。
【0004】
また、外側継手部材3のトラック溝2の曲率中心と外側継手部材3の内径面の曲率中心の軸方向のオフセットと、内側継手部材6のトラック溝5の曲率中心と内側継手部材6の外径面の曲率中心の軸方向のオフセットとを0とする。
【0005】
外側継手部材3のトラック溝2は、
図34に示すように、軸線に対して互いに逆方向に傾いたトラック溝2a、2bを備える。第1のトラック溝2aの軸線Laは、継手軸線と平行な直線L1に対して、反時計廻り方向に所定角度γだけ傾斜している。第2のトラック溝2bの軸線Lbは、継手軸線と平行な直線L2に対して、時計廻り方向に所定角度γだけ傾斜している。
【0006】
内側継手部材6のトラック溝5は、
図35に示すように、軸線に対して互いに逆方向に傾いたトラック溝5a、5bを備える。すなわち、第1のトラック溝5aの軸線La1は、継手軸線と平行な直線L11に対して、時計廻り方向に所定角度γだけ傾斜している。第2のトラック溝5bの軸線Lb1は、継手軸線と平行な直線L12に対して、反時計廻り方向に所定角度γだけ傾斜している。
【0007】
これによって、外側継手部材3のトラック溝2とこれに対向する内側継手部材6のトラック溝5を軸線に対して反対方向に傾斜させたものである。
【0008】
このように構成された等速自在継手では、周方向沿って隣り合うトラック溝が交いに交差しているため、隣り合うトラック溝でそれぞれ逆方向にケージ窓を押す力が発生する。このため、ケージ柱(窓の間に部位)に大きな応力が掛かることになり、ケージ柱の剛性を大とする必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、前記
図33に示す等速自在継手において、ボール7を組み込む場合、
図38〜
図40に示すように、内側継手部材6及びケージ9を外側継手部材3に対して傾斜させ、一つのポケット8を外側継手部材3から露出状とする。そして、この外部に露出した一つのポケット8に1個のボール7を組み込むことになる。その後、順次、同様の工程を繰り返すことによって、全てのポケット8にボール7を組み込むことができる。
【0011】
ところで、このような等速自在継手において、作動角を取った場合、ボール7は交差角、ボールの位相角により、ポケット内を周方向(円周方向)に移動する。
図41はボール7のケージ9のポケット8内での円周方向移動量を示している。
【0012】
このため、このような
図41のグラフに基づいて、ボール7のポケット内の移動量を算出し、ボール組み込みの際、干渉しないように、ポケット8の周方向長さW1(
図36と
図37参照)を設定する。ボール7の円周方向移動量は、交差角、作動角等により変化する。この場合、大きな作動角を取れば取るほど円周方向移動量は大きくなる。このように、円周方向移動量が大きいと、ポケット周方向長さW1(
図36と
図37参照)が大となる。このため、ポケット間の柱部11の周方向肉厚t1(この場合、内径側の肉厚)が小となって、ケージ9は強度的に劣ることになる。なお、
図36に示すB1はボール7のポケット8内の移動量である。
【0013】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、負荷時や高速回転時に円滑に作動し、発熱を抑え、耐久性を向上さることができる等速自在継手であって、ボールの組み込み性の向上及びケージ強度の向上を図ることが可能な固定式等速自在継手を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の固定式等速自在継手は、内径面に8個のトラック溝が形成された外側継手部材と、外径面に外側継手部材のトラック溝と対をなす8個のトラック溝が形成された内側継手部材と、外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に介在してトルクを伝達する8個のボールと、外側継手部材の内径面と内側継手部材の外径面との間に介在してボールを保持するポケットを有するケージとを備え、外側継手部材のトラック溝の曲率中心と外側継手部材の内径面の曲率中心の軸方向のオフセットと、内側継手部材のトラック溝の曲率中心と内側継手部材の外径面の曲率中心の軸方向のオフセットとを0とし、外側継手部材のトラック溝及び内側継手部材のトラック溝をそれぞれ軸線に対して傾斜させるとともに、周方向に隣合うトラック溝の傾斜方向を相反させ、かつ外側継手部材のトラック溝とこれに対向する内側継手部材のトラック溝を軸線に対して反対方向に傾斜させた固定式等速自在継手であって、前記ケージのポケットの周方向長さを、外側継手部材に対してケージを所定角度だけ傾斜させて2つのポケットを外側継手部材から露出させた状態にてこの2つのポケットへの同時ボール組み込みを可能とする長さとし
、前記ケージのポケットの周方向長さを、ボールを2個同時に組み込む場合におけるポケット内でのボールの最大の周方向移動量である位相角157.5°での周方向移動量に合わせ、前記ケージのポケットの周方向長さは、ボールを1個ずつ組み込む場合におけるポケット内でのボールの最大の周方向移動量である位相角135°での周方向移動量よりも小さいものである。
【0015】
本発明の固定式等速自在継手は、トラックオフセットを0とし、隣合うトラック溝を交互に交差させることによって、隣合うポケット部に交互に力が作用して、交互に逆方向のくさび角が発生する。このため、ケージ位置が内外側継手部材の二等分面位置で安定する。しかも、組立工程において、2つのポケットに同時にボールを組み込むことができる。このため、2個ずつボールを組み込んでいけば、8個ボールであるので、2個→2個→2個→2個の合計4回で済む。また、組み込んでいる2個のポケットと周方向に位相がずれているポケットにおけるボールの周方向移動量を小さくすることができる。このため、各ポケットの周方向長さを、1個ずつボールを組み込む場合に比べて短く設定できる。
【0016】
前記外側継手部材の端面は、トラック溝の軸方向開口端間距離が大である第1部とトラック溝の軸方向開口端間距離が小である第2部が周方向に沿って交互に配設され、同時のボールの組み込みを可能とする2つのポケットのポケット間が第1部に対向するものであっても、同時のボールの組み込みを可能とする2つのポケットのポケット間が第2部に対向するものであってもよい。
【0017】
外側継手部材の内径面は円筒面であるようにできる。また、外側継手部材の内径面を円筒面とするとともに、開口部に開口端に向かって縮径するテーパ部を設けたものであってもよい。外側継手部材の内径面を円筒面とすれば、ケージの外側継手部材への組み付け性および外側継手部材の加工性が向上する。また、ケージの外球面は凸球面であるので、外側継手部材の内径面とケージの外球面とは、ほとんど接触しない。
【0018】
外側継手部材の内径面が球面形状であり、この内径面とケージの外球面との間に隙間が形成されているものであっても、外側継手部材の内径面が楕円形状であり、この内径面とケージの外球面との間に隙間が形成されているものであってもよい。このように、隙間が形成されているものであれば、潤滑剤の潤滑が促進される。
【0019】
内側継手部材の外径面は円筒面であってもよい。このように、外径面が円筒面であれば、内側継手部材のケージへの組み付け性および内側継手部材の加工性が向上する。また、ケージの内球面は凹球面であるので、内側継手部材の外径面とケージの内球面とは、ほとんど接触しない。
【0020】
内側継手部材の外径面が球面形状であり、この外径面とケージ内球面との間に隙間が形成されているものであっても、内側継手部材の外径面が楕円形状であり、この外径面とケージの内球面との間に隙間が形成されているものであってもよい。このように、隙間を設けることによって、潤滑剤の潤滑が促進される。
【0021】
外側継手部材のトラック溝の曲率中心と内側継手部材のトラック溝の曲率中心とは、継手中心に対して径方向にオフセットしていてもよい。この場合、外側継手部材及び内側継手部材のトラック溝の曲率中心を継手中心よりも遠ざかる方向へ変位させることができる。また、外側継手部材及び内側継手部材のトラック溝の曲率中心を継手中心よりも近づく方向へ変位させることができる。
【0022】
トラック溝が鍛造にて成形されていても、機械加工にて成形されていてもよい。また、外側継手部材の内径面の仕上げ加工を省略していても、内側継手部材の外径面の仕上げ加工を省略してもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の固定式等速自在継手によれば、隣合うポケット部に交互に力が作用して、交互に逆方向のくさび角が発生するので、ケージ位置が内外側継手部材の二等分面位置で安定する。このため、ケージ外内球面の球面接触が抑制され、高負荷時や高速回転時にジョイントが円滑に作動し、発熱が抑えられ、耐久性を向上させることができる。ボール数を8個とすることによって、負荷容量を確保しつつジョイントサイズの小型、軽量化が可能となる。
【0024】
また、2個ずつボールを組み込んでいけるので、組み付け作業時間を大幅に短縮でき、作業性の向上を図ることができる。しかも、各ポケットの周方向長さを、1個ずつボールを組み込む場合に比べて短く設定できる。このため、周方向に沿って隣り合うポケットの間の柱の周方向長さを大とすることができ、ケージの強度が安定する。
【0025】
ボール組み込みにおいて、同時のボールの組み込みを可能とする2つのポケットのポケット間が、外側継手部材の端面の第1部に対向するものであっても、第2部に対向するものであってもよく、組み付け作業性に優れる。
【0026】
外側継手部材の内径面を円筒面とすれば、ケージの外側継手部材への組み付け性および加工性が向上して、生産性コストの低減および生産性の向上を図ることができる。外側継手部材の内径面と前記ケージの外球面との間に隙間が形成されるものでは、潤滑剤の循環が促進され、発熱を抑制し、耐久性が向上する。
【0027】
内側継手部材の外径面を円筒面とすれば、内側継手部材のケージへの組み付け性および内側継手部材の加工性が向上して、生産性コストの低減および生産性の向上を図ることができる。内側継手部材の外径面とケージの内球面との間に隙間を形成することによって、潤滑剤の潤滑が促進され、発熱を抑制し、耐久性が向上する。
【0028】
外側継手部材及び内側継手部材のトラック溝の曲率中心を継手中心よりも遠ざかる方向へ変位させた場合、外側継手部材のトラック溝を大きくとることができて、負荷容量を大きくとることができるとともに、内側継手部材のトラック溝の軸方向端部開口部の肉厚を大とすることができ、この内側継手部材の孔部に嵌入されるシャフトに安定して連結することができる。また、外側継手部材及び内側継手部材のトラック溝の曲率中心を継手中心よりも近づく方向へ変位させた場合、内側継手部材のトラック溝の負荷容量を大きくとることができるとともに、外側継手部材の肉厚を厚くすることができ、強度的に安定する。
【0029】
トラック溝としては、鍛造仕上げにて成形しても、機械加工、つまり仕上げ加工(研削、焼入鋼切削)していてもよく、成形方法として、従来からの種々の成形方法(加工方法)を種々選択でき、生産性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の実施形態を示す第1の固定式等速自在継手の正面図である。
【
図2】前記
図1に示す固定式等速自在継手の外側継手部材のトラック溝を示す簡略展開図である。
【
図3】前記
図1に示す固定式等速自在継手の内側継手部材のトラック溝を示す簡略展開図である。
【
図4】前記
図1に示す固定式等速自在継手のケージの要部拡大展開図である。
【
図5】前記
図1に示す固定式等速自在継手のケージの要部拡大断面図である。
【
図6】前記
図1に示す固定式等速自在継手のボール組み付け状態の正面図である。
【
図7】前記
図1に示す固定式等速自在継手のボール組み付け状態の断面図である。
【
図8】前記
図1に示す固定式等速自在継手のボール組み付け状態の斜視図である。
【
図9】前記
図1に示す固定式等速自在継手のボールの移動量を示すグラフ図である。
【
図10】前記
図9のグラフ図に示した移動量波形の要部拡大グラフ図である。
【
図11】本発明の実施形態を示す第2の固定式等速自在継手の断面図である。
【
図12】前記
図11に示す固定式等速自在継手の要部断面図である。
【
図13】本発明の実施形態を示す第3の固定式等速自在継手の断面図である。
【
図14】前記
図13に示す固定式等速自在継手の外側継手部材の断面図である。
【
図15】本発明の実施形態を示す第4の固定式等速自在継手の断面図である。
【
図16】前記
図15に示す固定式等速自在継手の外側継手部材の断面図である。
【
図17】本発明の実施形態を示す第5の固定式等速自在継手の断面図である。
【
図18】前記
図17に示す固定式等速自在継手の外側継手部材の断面図である。
【
図19】本発明の実施形態を示す第6の固定式等速自在継手の断面図である。
【
図20】本発明の実施形態を示す第7の固定式等速自在継手の断面図である。
【
図21】トラック溝の曲率中心を径方向にオフセットさせた状態の外側継手部材の断面図である。
【
図22】トラック溝の曲率中心を径方向にオフセットさせた状態の内側継手部材の断面図である。
【
図23】本発明の実施形態を示す第8の固定式等速自在継手の断面図である。
【
図24】前記
図23に示す固定式等速自在継手の外側継手部材の断面図である。
【
図25】本発明の実施形態を示す第9の固定式等速自在継手の断面図である。
【
図26】前記
図25に示す固定式等速自在継手の内側継手部材の断面図である。
【
図27】本発明の実施形態を示す第10の固定式等速自在継手の断面図である。
【
図28】前記
図27に示す固定式等速自在継手の内側継手部材の断面図である。
【
図29】本発明の実施形態を示す第11の固定式等速自在継手の断面図である。
【
図30】本発明の実施形態を示す第12の固定式等速自在継手の断面図である。
【
図31】トラック溝の曲率中心を径方向にオフセットさせた状態の外側継手部材の断面図である。
【
図32】トラック溝の曲率中心を径方向にオフセットさせた状態の内側継手部材の断面図である。
【
図33】従来の固定式等速自在継手の正面図である。
【
図34】前記
図34の固定式等速自在継手の外側継手部材の断面図である。
【
図35】前記
図34の固定式等速自在継手の内側継手部材の断面図である。
【
図36】前記
図34の固定式等速自在継手のケージの要部展開図である。
【
図37】前記
図34の固定式等速自在継手のケージの要部拡大断面図である。
【
図38】前記
図34の固定式等速自在継手のボール組み付け状態の正面図である。
【
図39】前記
図34の固定式等速自在継手のボール組み付け状態の断面図である。
【
図40】前記
図34の固定式等速自在継手のボール組み付け状態の斜視図である。
【
図41】前記
図34の固定式等速自在継手のボールの移動量を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0032】
図1と
図6と
図7とは本発明に係る等速自在継手を示し、この等速自在継手は、内径面21に複数のトラック溝22を形成した外側継手部材23と、外径面24に複数のトラック溝25を形成した内側継手部材26と、外側継手部材23のトラック溝22と内側継手部材26のトラック溝25とで協働して形成されるボールトラックに配された複数のボール27と、ボール27を収容するためのポケット28を有するケージ29とで主要部が構成されている。
【0033】
また、外側継手部材23のトラック溝22の曲率中心と外側継手部材23の内径面の曲率中心の軸方向のオフセットと、内側継手部材26のトラック溝25の曲率中心と内側継手部材26の外径面の曲率中心の軸方向のオフセットとを0とする。
【0034】
外側継手部材23のトラック溝22は、
図2に示すように、軸線に対して互いに逆方向に傾いたトラック溝22a、22bを備える。第1のトラック溝22aの軸線Laは、継手軸線と平行な直線L1に対して、反時計廻り方向に所定角度γだけ傾斜している。第2のトラック溝22bの軸線Lbは、継手軸線と平行な直線L2に対して、時計廻り方向に所定角度γだけ傾斜している。
【0035】
内側継手部材26のトラック溝25は、
図3に示すように、軸線に対して互いに逆方向に傾いたトラック溝25a、25bを備える。すなわち、第1のトラック溝25aの軸線La1は、継手軸線と平行な直線L11に対して、時計廻り方向に所定角度γだけ傾斜している。第2のトラック溝25bの軸線Lb1は、継手軸線と平行な直線L12に対して、反時計廻り方向に所定角度γだけ傾斜している。
【0036】
このため、外側継手部材23及び内側継手部材26は、それぞれ、軸線に対して互いに逆方向に傾いたトラック溝22a、22b、25a、25bが円周方向に交互に形成されているので、外側継手部材23のトラック溝22と内側継手部材26のトラック溝25とはクロスする状態となる。
【0037】
なお、外側継手部材23には、周方向に沿って所定ピッチで貫通孔30が設けられている。この貫通孔30は、エンドキャップやフレキシブルブーツをこの外側継手部材23に取り付けるためのものである。ケージ29は、その周壁に周方向に所定ピッチでボール27を保持するポケット28が設けられている。この場合、
図5に示すように、周壁の外径面を外球面29aとするとともに、周壁の内径面を内球面29bとする。
【0038】
ところで、外側継手部材23は周方向に隣合うトラック溝22の傾斜方向を相反させているので、外側継手部材23の端面23a(23b)は、トラック溝22の軸方向開口端間距離が大である第1部31とトラック溝22の軸方向開口端間距離が小である第2部32が周方向に沿って交互に配設されるものとなる。
【0039】
次に、前記のように構成される固定式等速自在継手におけるボール27の組み込み方法を説明する。まず、外側継手部材23に、内側継手部材26とケージ29とを組み込んだ状態とする。その後、
図6から
図8に示すように、内側継手部材26とケージ29とを、外側継手部材23に対して傾斜した状態とする。この際、周方向に隣り合う2つのポケット28を、外側継手部材23から露出させた状態とする。すなわち、2つのポケット28が斜め上方に開放される状態とする。また、内側継手部材26をケージ29よりも傾斜させる。すなわち、内側継手部材26の軸心と、外側継手部材23の軸心とが成す角度をθ2とする。
【0040】
ところで、この傾斜状態では、この露出した2つのポケット28にボール27を組み込むことが可能とされる。前記ケージ29のポケット28の周方向長さW2(
図5参照)を、この2つのポケット28への同時ボール組み込みを可能とする長さとする。なお、この図例では、ボール27を組み込む2つのポケット28は、第1部31に対向(対応)する。
【0041】
このように、2つのポケット28にボール27を組み込んだ後、全体を約90度だけ周方向に回動させて、ボール27が組み込まれたポケット28に周方向に90度ずれた2つのポケット28、28を、斜め上方に開放される状態とする。そして、この開放状となった2つのポケット28、28にボール27を組み込む。その後、以下同様の工程を2回行えば、全ポケット28にボール27を組み込むことができる。
【0042】
ところで、
図9は、1つのポケットにボールを組み込んでいくとき(組み付け作動角θ1)と、2つのポケットにボールを同時に組み込んでいくとき(組み付け作動角θ2)とのボール27の円周方向移動量を示す。
【0043】
図9において、白抜き丸及び白抜き三角
は、2個のボールを同時に組み込む場合を示し、黒ベタ丸及び黒ベタ三角
は、1個ずつボールを組み込む場合を示している。また、前記白抜き丸よりも大径の実線の丸は、2個のボールを同時に組み込む場合のボール位置を示し、前記白抜き丸よりも大径の破線の丸は、1個ずつボール27を組み込む場合のボール位置を示している。
図10は、
図9の要部拡大図を示し、この拡大図からわかるように、2個同時にボール27を組み込むほうが、ポケット
28内のボール27の周方向移動量が、寸法Aだけ小さくなる。
【0044】
本発明によれば、トラックオフセットを0とし、隣合うトラック溝22a、22b、25a、25bを交互に交差させることによって、隣合うポケット部28に交互に力が作用して、交互に逆方向のくさび角が発生する。このため、ケージ位置が内外側継手部材26の二等分面位置で安定する。このため、ケージ外内球面29a、29bの球面接触が抑制され、高負荷時や高速回転時にこの等速自在継手が円滑に作動し、発熱が抑えられ、耐久性を向上させることができる。ボール数を8個とすることによって、負荷容量を確保しつつ等速自在継手サイズの小型、軽量化が可能となる。
【0045】
しかも、組立工程において、2つのポケット28に同時にボール27を組み込むことができる。このため、2個ずつボールを組み込んでいけば、8個ボールであるので、2個→2個→2個→2個の合計4回で済む。このため、組み付け作業時間を大幅に短縮でき、作業性の向上を図ることができる。
【0046】
しかも、組み込んでいる2個のポケット28と周方向に位相がずれているポケット28におけるボール27の周方向移動量B2(
図4参照)を、1個ずつボールを組み込む場合のボール27の周方向移動量B1(
図36参照)よりも小さくできる。このため、各ポケット28の周方向長さを、1個ずつボールを組み込む場合に比べて短く設定できる。すなわち、本発明に係るケージ29のポケット間の柱部51のt2(この場合、内径側の肉厚)が、
図37に示す従来の柱部11の周方向肉厚のt1よりも大きくなり、ケージ29の強度が安定する。
【0047】
次に
図11は第2の固定式等速自在継手を示し、この場合、
図12に示すように、外側継手部材23の内径面21を円筒面としている。このように、外側継手部材23の内径面21が円筒面であれば、外側継手部材23にケージ29を組み込む場合、外側継手部材23の軸心とケージ29の軸心とを一致させた状態で、挿入すればよい。この際、外側継手部材23のトラック溝の位置と、ケージ29のポケット28の位置との位置関係を考慮することなく、挿入することができ、その組み込み作業の容易化を図ることができる。
【0048】
また、この等速自在継手においては、外側継手部材23の内径面21に、ケージ29の外球面29aがほとんど接触しないので、潤滑剤の循環が促進され、発熱を抑制し、耐久性が向上する。さらには、外側継手部材23の内径面21及びケージ29の外球面29aに対して仕上げ加工(研削、焼入鋼切削)する必要がない。すなわち、外側継手部材23の内径面21及びケージ29の外球面29aは鍛造肌のままでよい。このように、仕上げ加工を省略できるので、低コスト化および生産性の向上を図ることができる。なお、トラック溝22,25を、鍛造仕上げにて成形しても、機械加工、つまり仕上げ加工(研削、焼入鋼切削)していてもよい。
【0049】
次に
図13は第3の固定式等速自在継手を示し、この場合の外側継手部材23は、
図11に示す外側継手部材23(その内径面21が円筒面とされた外側継手部材)において、両開口部にそれぞれの開口側に向かって縮径するテーパ部21d、21eを設けている。
【0050】
テーパ部21d、21eのテーパ角度θ(
図14参照)としては、
図13に示すように、組み付けた際に、ケージ29の外球面29aに接触しない程度とする。このため、外側継手部材23の内径面21に、ケージ29の外球面29aがほとんど接触しないものとなっている。
【0051】
そのため、このように
図11や
図13等に示す固定式等速自在継手であっても、前記
図1等に示す固定式等速自在継手と同様の作用効果を奏する。
【0052】
次に
図15は第
4の固定式等速自在継手を示し、外側継手部材23の内径面21を、ケージ29の外球面29aとの間に隙間が形成される球面21aとしている。この場合、
図16に示すように、この球面21aの曲率中心O6とトラック溝22との曲率中心O1とは一致している。
【0053】
この外側継手部材23を用いた固定式等速自在継手における内側継手部材26は、その外径面24の曲率中心O5をケージ29の内球面29bの曲率中心O4と一致させているとともに、外径面24の曲率半径R5を内球面29bの曲率半径R4と略一致させている。これによって、ケージ29の内球面29bと内側継手部材26の外径面24とが摺接する。
【0054】
次に
図17は第
5の固定式等速自在継手を示し、外側継手部材23の内径面21を、ケージ29の外球面29aとの間に隙間が形成される楕円面21fとしている。すなわち、楕円面21fは、
図18の2点鎖線で示す楕円42の楕円球面に沿って形成される。
【0055】
この外側継手部材23を用いた固定式等速自在継手における内側継手部材26は、その外径面24の曲率中心O5をケージ29の内球面29bの曲率中心O4と一致させているとともに、外径面24の曲率半径R5を内球面29bの曲率半径R4と略一致させている。これによって、ケージ29の内球面29bと内側継手部材26の外径面24とが摺接する。
【0056】
このように、外側継手部材23の内径面21を、ケージ29の外球面29aとの間に隙間が形成されることによって、潤滑剤の循環が促進され、発熱を抑制し、耐久性が向上する。また、ケージ29の内球面29bと内側継手部材26の外径面24とが摺接することによって、ケージ位置が定まり、外側継手部材23によるケージ29の拘束が無い状態であっても、固定式等速自在継手としての機能を安定して発揮することができる。
【0057】
次に
図19は第
6の固定式等速自在継手を示し、
図20は第
7の固定式等速自在継手を示し、これらは、外側継手部材23のトラック溝22の曲率中心O1と、内側継手部材のトラック溝25の曲率中心O2とを径方向に継手中心Oからずらせている。
図19では、曲率中心O1、O2を継手中心Oよりも遠ざかる位置に、継手中心Oよりもオフセット量Hだけずらせている。また、
図20では、曲率中心O1、O2を継手中心Oよりも近づけた位置に、継手中心Oよりもオフセット量Hだけずらせている。
【0058】
図21は、外側継手部材23において、曲率中心O1を継手中心Oよりも遠ざかる位置に配した場合と、曲率中心O1を継手中心Oよりも近づく位置に配した場合とを描いたものである。
図21において、O1aは継手中心Oよりも遠ざかる位置に配した外側継手部材23のトラック溝22の曲率中心であり、O1bは継手中心Oよりも近づけた位置に配した外側継手部材23のトラック溝22の曲率中心である。また、
図22は、内側継手部材26において、曲率中心O2を継手中心Oよりも遠ざかる位置に配した場合と、曲率中心O2を継手中心Oよりも近づく位置に配した場合とを描いたものである。
図22において、O2aは継手中心Oよりも遠ざかる位置に配した内側継手部材26のトラック溝25の曲率中心であり、O2bは継手中心Oよりも近づけた位置に配した内側継手部材26のトラック溝25の曲率中心である。
【0059】
外側継手部材23及び内側継手部材26のトラック溝22,25の曲率中心O1,O2を継手中心Oよりも遠ざかる方向へ変位させた場合、外側継手部材23のトラック溝22を大きくとることができて、負荷容量を大きくとることができるとともに、内側継手部材26のトラック溝25の軸方向端部開口部の肉厚を大とすることができ、この内側継手部材26の孔部に嵌入されるシャフトに安定して連結することができる。また、外側継手部材23及び内側継手部材26のトラック溝22,25の曲率中心O1,O2を継手中心Oよりも近づく方向へ変位させた場合、内側継手部材26のトラック溝25の負荷容量を大きくとることができるとともに、外側継手部材23の肉厚を厚くすることができ、強度的に安定する。
【0060】
なお、
図21において、k10はトラック溝22の曲率中心O1を継手中心Oに一致させた場合のトラック溝22の軸方向端部の外側継手部材肉厚を示し、k11はトラック溝22の曲率中心O1を継手中心Oよりも近づく方向に変位させた場合のトラック溝22の軸方向端部の外側継手部材肉厚を示している。また、
図22において、k20はトラック溝25の曲率中心O2を継手中心Oに一致させた場合のトラック溝25の軸方向端部の内側継手部材肉厚を示し、k21はトラック溝25の曲率中心O2を継手中心Oよりも遠ざけた場合のトラック溝25の軸方向端部の内側継手部材肉厚を示している。
【0061】
図23は第
8の固定式等速自在継手を示し、外側継手部材23の内径面21を球面とするとともに、内側継手部材26の外径面24を円筒面としている。このため、内側継手部材26の外径面24とケージ29に内球面29bとの間に隙間が形成される。また、外側継手部材23の内径面21の曲率中心を外側継手部材23のトラック溝22の曲率中心O1に一致させる。なお、
図24に示すように、外側継手部材23の内径面21の軸方向両端部に切欠部21b,21cが設けられている。
【0062】
図25は第
9の固定式等速自在継手を示し、内側継手部材26の外径面24を、ケージ29の内球面29bとの間に隙間が形成される球面24aとしている。この場合、
図26に示すように、この球面24aの曲率中心O5とトラック溝25との曲率中心O2とは一致している。
【0063】
この内側継手部材26を用いた固定式等速自在継手における外側継手部材23は、
図25に示すように、その内径面21の曲率中心O6をケージ29の外球面29aの曲率中心O3と一致させているとともに、内径面21の曲率半径R6を外球面29aの曲率半径R3と略一致させている。これによって、ケージ29の外球面29aと外側継手部材23の内径面21とが摺接する。なお、外側継手部材23の内径面21の軸方向両端部には、切欠部21b、21cが設けられている。
【0064】
次に
図27は第
10の固定式等速自在継手を示し、内側継手部材26の外径面24を、ケージ29の内球面29bとの間に隙間が形成される楕円面24bとしている。すなわち、楕円面24bは、
図28の2点鎖線で示す楕円52の楕円球面に沿って形成される。
【0065】
この内側継手部材26を用いた固定式等速自在継手における外側継手部材23は、その内径面21の曲率中心O6をケージ29の外球面29aの曲率中心O3と一致させているとともに、内径面21の曲率半径R6を外球面29aの曲率半径R3と略一致させている。これによって、ケージ29の外球面29aと外側継手部材23の内径面21とが摺接する。
【0066】
このように、内側継手部材26の外径面24(24b)を、ケージ29の内球面29bとの間に隙間が形成されることによって、潤滑剤の循環が促進され、発熱を抑制し、耐久性が向上する。また、ケージ29の外球面29aと外側継手部材23の内径面21とが摺接することによって、ケージ位置が定まり、内側継手部材26によるケージ29の拘束が無い状態であっても、固定式等速自在継手としての機能を安定して発揮することができる。
【0067】
次に
図29は第
11の固定式等速自在継手を示し、
図30は第
12の固定式等速自在継手を示し、この場合、内側継手部材26の外径面24を円筒面としたものにおいて、外側継手部材23のトラック溝22の曲率中心O1と、内側継手部材のトラック溝25の曲率中心O2とを径方向に継手中心Oからずらせている。
図29では、曲率中心O1、O2を継手中心Oよりも遠ざかる位置に、継手中心Oよりもオフセット量Hだけずらせている。また、
図30では、曲率中心O1、O2を継手中心Oよりも近づけた位置に、継手中心Oよりもオフセット量Hだけずらせている。
【0068】
図31は、外側継手部材23において、曲率中心O1を継手中心Oよりも遠ざかる位置に配した場合と、曲率中心O1を継手中心Oよりも近づく位置に配した場合とを描いたものである。
図31において、O1aは継手中心Oよりも遠ざかる位置に配した外側継手部材23のトラック溝22の曲率中心であり、O1bは継手中心Oよりも近づけた位置に配した外側継手部材23のトラック溝22の曲率中心である。また、
図32は、内側継手部材26において、曲率中心O2を継手中心Oよりも遠ざかる位置に配した場合と、曲率中心O2を継手中心Oよりも近づく位置に配した場合とを描いたものである。
図32において、O2aは継手中心Oよりも遠ざかる位置に配した内側継手部材26のトラック溝25の曲率中心であり、O2bは継手中心Oよりも近づけた位置に配した内側継手部材26のトラック溝25の曲率中心である。
【0069】
なお、
図31において、k10はトラック溝22の曲率中心O1を継手中心Oに一致させた場合のトラック溝22の軸方向端部の外側継手部材肉厚を示し、k11はトラック溝22の曲率中心O1を継手中心
Oよりも近づけた場合のトラック溝22の軸方向端部の外側継手部材肉厚を示している。また、
図32において、k20はトラック溝25の曲率中心O2を継手中心Oに一致させた場合のトラック溝25の軸方向端部の内側継手部材肉厚を示し、k21はトラック溝25の曲率中心O2を継手中心
Oよりも遠ざけた場合のトラック溝25の軸方向端部の内側継手部材肉厚を示している。
【0070】
このため、外側継手部材23のトラック溝22の曲率中心O1と、内側継手部材のトラック溝25の曲率中心O2とを径方向に継手中心Oからずらせている場合の作用効果を奏する。
【0071】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、外側継手部材23のトラック溝22の曲率中心O1と、内側継手部材のトラック溝25の曲率中心O2とを径方向に継手中心Oからずらせる場合、外側継手部材23の内径面21が円筒面である場合や内側継手部材26の外径面24が円筒面である場合に限るものではない。