(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1に記載された構成では、回転軸に設けられた貫通孔から噴出された冷却液がコイルエンドの内周面に衝突している。このため、コイルエンドの一方向である径方向内側に向く狭い面積部分にのみ冷却液がかかり、コイルエンドでの低温部と高温部との間の温度差が大きくなり、温度ばらつきが生じやすい。このため、高温部の温度を効率よく低下させる面から改良の余地がある。これに対して、それぞれコイルエンドの異なる方向に向く面に向かって冷却液を噴出させる複数の噴出孔を設けることも考えられる。ただし、この場合、複数の噴出孔の数が多くなり、構造が複雑となって、回転電機の冷却構造のコストが過度に上昇する可能性がある。このため、比較的単純な構成でコイルエンドの冷却範囲を広くして、コイルエンドの温度ばらつきを抑制することが望まれている。
【0006】
本発明の目的は、回転電機の冷却構造において、比較的単純な構成でコイルエンドの冷却範囲を広くして、コイルエンドの温度ばらつきを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る回転電機の冷却構造は、回転可能に設けられる回転軸と、回転軸の外径側に固定されたロータと、ロータの外径側に対向配置され、軸方向端部に設けられたコイルエンドを含むステータとを備える回転電機の冷却構造であって、回転軸は、冷却液が流通する軸側冷媒通路を含み、軸側冷媒通路は、回転軸の外周面
において、コイルエンドよりも軸方向に関して外側に外れた位置に開口
し、回転軸において、軸方向に対し傾斜する方向に設けられる噴出孔を有し、噴出孔は、
コイルエンドの内周面と軸方向端面とが交わる角部に向くように設けられ、かつ、コイルエンド
の角部に衝突した冷却液が、コイルエンドの内周面と軸方向端面との両方に分流するように冷却液を噴出可能とすることを特徴とする回転電機の冷却構造である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る回転電機の冷却構造によれば、噴出孔が、回転軸の外周面のコイルエンドよりも軸方向に関して外側に外れた位置に開口し、コイルエンドに衝突した冷却液が、コイルエンドの内周面と軸方向端面との両方に分流するように冷却液を噴出可能とするので、1つの噴出孔から噴出される冷却液によりコイルエンドの内周面と軸方向端面との両方を直接冷却できる。このため、比較的単純な構成でコイルエンドの冷却範囲を広くして、コイルエンドの温度ばらつきを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、
図1、
図2を用いて本発明に係る実施形態を説明する。本実施形態の回転電機の冷却構造は、例えば電気自動車や、燃料電池車や、エンジン及びモータを車両の駆動源として搭載するハイブリッド車両を駆動する走行用のモータとして、または、発電機として、または、その両方の機能を有するモータジェネレータとして使用する回転電機に適用する。例えば、回転電機をモータジェネレータとして使用する場合、主として発電機として使用する第1モータジェネレータ(MG1)でも、主として走行用モータとして使用する第2モータジェネレータ(MG2)でも、いずれでも本実施形態の回転電機冷却構造を適用できる。
【0013】
図1は、本実施形態の回転電機の冷却構造の概略断面図である。
図1に示すように、回転電機冷却構造は、回転電機10と、回転電機10を冷却する冷却部12とを備える。回転電機10は、ケーシングであるモータケース14に軸受により回転可能に支持された回転軸16と、回転軸16の中間部の外径側に固定されたロータ18と、ロータ18の外径側にエアギャップを介して対向配置されたステータ20とを備える。ステータ20は、モータケース14の内周面に固定されている。このような回転電機10は、冷媒であり、冷却液である油を、ステータ20に設けられたコイルエンド22に供給することにより冷却する。
【0014】
すなわち、ステータ20は、複数の電磁鋼板を軸方向に積層することにより構成され、積層体等の磁性材により形成されるステータコア24と、ステータコア24の内周面の周方向複数個所に径方向に突出形成されたティース26と、ティース26に巻装された複数相(例えば3相の)ステータコイル28とを含む。ステータコイル28において、ステータコア24の軸方向両側面よりも外側に突出する部分により、一対のコイルエンド22が形成されている。ステータコア24は、モータケース14の内面に固定されている。複数相のステータコイル28は、集中巻きまたは分布巻きでステータコア24に巻装されている。
【0015】
モータケース14は、ステータ20とロータ18とを収容している。ロータ18は、複数の電磁鋼板を軸方向に積層することにより構成される積層体等の磁性材により形成されるロータコア30と、ロータコア30の周方向複数個所に配置された永久磁石(図示せず)とを含む。永久磁石は、ロータ18の径方向、または径方向に対し傾斜した方向に着磁している。ロータコア30の軸方向両側に一対のエンドプレート(図示せず)を設けて、一対のエンドプレートによりロータコア30を軸方向両側から挟持することもできる。
【0016】
また、図示の例では、ステータ20の軸方向長さを、ロータ18の軸方向長さよりも大きくしている。このため、各コイルエンド22の軸方向外端面A1,A2は、ロータ18の軸方向両端面B1,B2よりも軸方向外側(「軸方向外側」とは、回転軸16の軸方向両端に近い側をいい、逆に「軸方向中央側」とはロータ18の軸方向中央に近い側をいう。本明細書全体及び特許請求の範囲で同じである。)に設けられている。
【0017】
このような回転電機10では、複数相のステータコイル28に複数相の交流電流を流すことで、ステータ20に回転磁界を生じさせ、ロータ18を回転軸16とともに回転させることができる。なお、以上は、回転電機10が永久磁石型回転電機である場合を説明したが、ロータ18にロータコイルを設ける等により、回転電機10を誘導電動機等とすることもできる。
【0018】
また、モータケース14の下部内側に冷却液である潤滑油等の油の溜まり部32が設けられている。溜まり部32の油は、オイルポンプ34によって回転軸16へ供給可能としている。すなわち、本実施の形態の回転電機冷却構造に設けられた冷却部12は、油を流す接続路であるオイル経路36と、オイル経路36に設けられたオイルポンプ34とを備える。オイルポンプ34は、駆動により、溜まり部32から油を汲み上げ、回転電機10に油を供給する。
【0019】
また、回転軸16の内部に軸側冷媒通路38が設けられている。軸側冷媒通路38は、回転軸16の内部の中心軸上に設けられた軸方向通路40と、軸方向通路40に連通する複数の噴出孔42とを含む。すなわち、軸方向通路40の軸方向2個所位置のそれぞれで、軸方向に関してコイルエンド22よりも軸方向外側に外れた位置の周方向複数個所に、軸方向に対し傾斜した方向にそれぞれ伸びる直線状の噴出孔42が設けられている。各噴出孔42は、軸方向通路40に径方向(「径方向」とは、回転軸16の中心軸に対し直交する方向をいう。本明細書全体及び特許請求の範囲で同じである。)内端を接続するとともに、各噴出孔42の径方向外端を回転軸16の外周面に開口させている。すなわち、回転軸16は、回転可能に設けられ、冷却液である油が流通する軸側冷媒通路38を含む。また、軸側冷媒通路38は、回転軸16の外周面の各コイルエンド22よりも軸方向に関してそれぞれ外側に外れた位置に開口する複数の噴出孔42を有する。
【0020】
また、各噴出孔42は、コイルエンド22の内周面C1,C2と軸方向端面A1,A2とが交わる角部G1,G2に向くように設けられている。このため、各噴出孔42は、コイルエンド22に衝突した冷却液が、コイルエンド22の内周面C1,C2と軸方向端面A1,A2との両方に分流するように油を噴出可能としている。
【0021】
また、回転軸16に設けられた軸側冷媒通路38にオイル経路36の下流端が挿入され、回転軸16の回転にかかわらずオイル経路36から軸側冷媒通路38に油を供給可能としている。また、モータケース14の下部に設けられた排出口44が、オイル経路36の上流端に接続されている。すなわち、オイル経路36は、モータケース14の下部と軸側冷媒通路38とを接続している。軸側冷媒通路38の、オイル経路36の接続側とは反対側の端部(
図1の右端部)開口は、図示しない塞ぎ部材により塞いでいる。また、冷媒として機能する油として、例えば、オートマチックトランスミッションフルード(ATF)等の、変速装置の潤滑に使用する油を使用できる。
【0022】
また、モータケース14の底部の内部や、底部外側にウォータジャケット46(
図2)を設けることで、ウォータジャケット46にLLC等の冷却水を流すこともできる。ウォータジャケット46は、モータ側冷却水経路であり、モータケース14外の外部冷却水経路(図示せず)と接続されている。外部冷却水経路には、熱交換器(図示せず)が設けられ、熱交換器で外部を通過する空気との熱交換により、冷却水が冷却される。
図2は、本実施形態において、コイルエンドが、冷却水により冷却液である油を介して冷却される様子を示す模式図である。この場合、
図2に示すように、MGで示す回転電機10が油(ATF)48により冷却され、モータケース14とウォータジャケット46とを介して油48が、冷却水50により冷却される。
【0023】
なお、
図1に戻って、排出口44からオイル経路36に排出された油を、オイルパン等で冷却したり、外気または冷却水と油とを熱交換させる適宜の熱交換部で冷却してから、軸側冷媒通路38に油を供給することもできる。
【0024】
また、ステータ20の軸方向両側に設ける一対のコイルエンド22の一方または両方のコイルエンド22の外周面の周辺部に温度センサ(図示せず)を設けて、温度センサによりコイルエンド22の温度を検出することもできる。
【0025】
このような回転電機冷却構造の使用時には、オイルポンプ34が駆動することで、油の溜まり部32から軸側冷媒通路38に油が供給され、噴出孔42からコイルエンド22の角部G1,G2に向けて、径方向外側に向かうほどステータ20の軸方向中央側になるように傾斜する方向に噴出される。
【0026】
コイルエンド22の角部G1,G2に衝突した油は、コイルエンド22の内周面C1,C2と軸方向端面A1,A2との両方の面に分流され、コイルエンド22の内周面C1,C2をステータ20の軸方向中央側に流れ、コイルエンド22の軸方向端面A1,A2を径方向外側へ流れ、いずれの場合もその後、溜まり部32に向け流下する。溜まり部32に溜まった油はオイルポンプ34で吸い上げられ、回転軸16の軸側冷媒通路38に向け吐出され、このことが繰り返される。この結果、ステータ20の各コイルエンド22が冷却される。
【0027】
上記の回転電機冷却構造によれば、各噴出孔42が、回転軸16の外周面の同じ側(
図1の左側または右側)のコイルエンド22よりも軸方向に関して外側に外れた位置に開口し、各コイルエンド22に衝突した油が、各コイルエンド22の内周面C1,C2と軸方向端面A1,A2との両方の面に分流するように油を噴出可能とする。このため、1つの噴出孔42から噴出される油によりコイルエンド22の内周面C1(またはC2)と軸方向端面A1(またはA2)との両方を直接冷却できる。このため、過度に多くの噴出経路を使用することなく、比較的単純な構成で、各コイルエンド22の冷却範囲を広くして、各コイルエンド22の温度ばらつきを抑制することができる。
【0028】
これに対して、
図3は、比較例の回転電機の冷却構造を、一部を省略して示す、
図1に対応する図である。
図3では、
図1に示したモータケース14(
図1参照)及びモータケース14外のオイル経路36(
図1参照)を省略している。
図3の比較例では、回転軸16に外嵌したロータコア30の軸方向両側に一対のエンドプレート52を配置し、一対のエンドプレート52によりロータコア30を軸方向両側から挟んでいる。各エンドプレート52の内部には、ロータ側冷媒通路(図示せず)が設けられている。
【0029】
また、回転軸16の中心軸上に軸側冷媒通路38の軸方向通路40を形成するとともに、軸方向通路40の軸方向中間部2個所位置からそれぞれ複数個放射状に伸びる径方向部(図示せず)を形成している。さらに、各径方向部の径方向外端を回転軸16の外周面に開口させるとともに、各エンドプレート52の内部に形成した複数個のロータ側冷媒通路(図示せず)の一端に通じさせている。各ロータ側冷媒通路の他端は、各エンドプレート52の外周面で、同じ側(
図3の左側または右側)のコイルエンド22の軸方向端面A1,A2よりも軸方向に関して内側、すなわち中央側に開口させている。このため、軸側冷媒通路38に供給された冷却液である油は、各エンドプレート52の外周面から各コイルエンド22の内周面に向け噴出される。噴出された油は、各コイルエンド22の内周面を軸方向外側に向かって流れ、その後流下する。
【0030】
このような比較例では、回転軸16の内部からエンドプレート52を通じて噴出された油がコイルエンド22の内周面C1,C2に衝突している。このため、各コイルエンド22の一方向である径方向内側に向く狭い面積部分にのみ油がかかり、各コイルエンド22の別方向である軸方向外側に向く端面A1,A2には油がかからない。したがって、各コイルエンド22での低温部と高温部との間の温度差が大きくなり、温度ばらつきが生じやすい。このため、通常、温度センサが取り付けられる高温部となる各コイルエンド22の外周面の温度が高くなりやすく、各コイルエンド22の外周面の温度を効率よく低下させる面から改良の余地がある。このため、比較例では、各コイルエンド22の冷却範囲を広くして、各コイルエンド22の温度ばらつきを抑制することが望まれている。
【0031】
これに対して、上記の
図1、
図2に示した実施形態の回転電機冷却構造では、比較的単純な構成で、各コイルエンド22の広い面積部分に効率よく油がかかるようにすることができ、各コイルエンド22の温度差を小さくして各コイルエンド22の温度ばらつきを抑制することができる。このため、各コイルエンド22のうちで、最も高温となりやすい外周面の温度を低下させることができるとともに、各コイルエンド22の温度ばらつきを小さくすることができる。したがって、温度センサを取付可能な取り付け部位の範囲を広くすることもできる。また、ステータ20を所望の温度に低下させるために必要な油量を少なくできるので、オイルポンプ34の駆動力の低減を図れ、回転電機冷却構造を車両に搭載する場合の燃費の低減を図れる。さらに、ステータコイル28の使用時の温度を低下できるので、ステータコイル28の絶縁性能を緩く、すなわち低く設定しても、回転電機10に必要とされる性能を維持できる。このため、絶縁性能で余裕がある分、回転電機10の耐圧性能を高くでき、性能向上を図れる。
【0032】
なお、回転電機10の回転軸16が使用時に回転し、回転に伴って噴出孔42から噴出される油には遠心力が作用するが、回転軸16の回転速度にかかわらず、噴出された油が各コイルエンド22の角部G1,G2に衝突し、内周面C1,C2と軸方向端面A1,A2とに分流するようにすることが実用性を高くする面から好ましい。ただし、回転電機10の特定の回転速度の範囲のみで、噴出孔42から噴出された油が各コイルエンド22の角部G1,G2に衝突し、内周面C1,C2と軸方向端面A1,A2とに分流するようにすることもできる。また、噴出孔42から噴出された油がコイルエンド22の角部G1,G2に衝突するのであれば、
図1に示すように噴出された油が直線状になる場合に限定せず、下流側に向かってラッパ状に広がるように油を噴出させることもできる。
【0033】
また、
図1の実施形態で、
図1に二点鎖線で示すように、オイルポンプ34から吐出された油が、回転軸16の軸側冷媒通路38に供給されるとともに、モータケース14の上側から各コイルエンド22の上面に向けて噴出させ、油を流下させることにより各コイルエンド22を冷却することもできる。この場合も、各噴出孔42から噴出された油により軸方向端面A1,A2と内周面C1,C2との両方を冷却できるので、各コイルエンド22の上側から噴出される油の量を減らすことができ、その場合でも、比較的単純な構成でコイルエンド22の冷却範囲を広くして、コイルエンド22の温度ばらつきを抑制できる。
【0034】
また、モータケース14内に、他の回転電機のロータ及びステータや、遊星歯車装置等の変速機構を設けることもできる。例えば、ハイブリッド車両の動力発生機構であるトランスアクスルユニットを構成するトランスアクスルケースにより、モータケースの機能を持たせることもできる。
【0035】
また、
図1の構成で、ロータコア30の軸方向両側に一対のエンドプレートを配置し、一対のエンドプレートによりロータコア30を軸方向両側から挟む場合、軸側冷媒通路38を構成する各噴出孔42は、回転軸16の外周面において、軸方向に関して各エンドプレートの外側面よりも軸方向外側に外れた位置で開口させる。
【0036】
なお、各コイルエンド22は、ワニス等により固めることにより構成することができるが、樹脂中に包埋して樹脂コイルエンドを形成することもできる。また、ロータコア30は、複数の鋼板を積層してなる積層体により構成する以外に、磁性粉末を加圧成形してなる圧粉磁心により構成することもできる。また、冷却液として、油以外、例えば冷却水等を用いることもできる。