(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記外殻と前記透湿耐水膜との間の前記保水領域に螺旋状芯材が配設され、前記給水口から供給された水が該螺旋状芯材で形成された螺旋状の流路に沿って流れる請求項1から6の何れか1項に記載の呼吸回路に用いる人工気道。
前記人工気道の吸気ガスの出口近傍に前記通気領域内を流れる吸気ガスの温度を測定する温度測定手段を更に備え、前記制御手段が、前記温度測定手段から送信された温度測定データに基づいて、前記ヒータの投入電力を調整する制御処理を行なう請求項11に記載の呼吸回路。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1または2に記載された装置では、
図6に示すように、透湿耐水性を有する中空繊維150内に水を供給し、中空繊維150の近傍に配置されたヒータ152を用いた加熱で発生させた水蒸気を、中空繊維150の外へ透過させることによって、呼吸回路(吸気側チューブ)102内を流れる吸気ガスを加湿し、同時に吸気ガスを加温している。同様に、特許文献3で記載された装置では、透湿耐水性を有する管内に水を供給し、管内に配設されたヒータを用いた加熱で発生させた蒸気を、管の外へ透過させることによって、呼吸回路(吸気側チューブ)内を流れる吸気ガスを加湿し、同時に加温している。
【0007】
よって、加湿用容器を用いた場合よりも、使用者に近い位置で吸気ガスを加湿できるので、呼吸回路(吸気側チューブ)内での水蒸気の再凝縮の問題に関して利点を有する。また、加湿用容器やヒータ装置といった余分な装置や使い捨ての接続チューブが不要となるので、設備コストやランニングコストの高騰を防ぎ、チューブの接続ミスやチューブが外れる危険性を低減することができる。
【0008】
しかし、呼吸回路の内部に加温加湿機構(中空繊維、管、ヒータ等)が配設されるため、呼吸回路の回路抵抗が増大して、換気制御や気道内圧測定が狂う恐れがある。また、吸気ガス供給源への負荷が高まり、呼吸回路のランニングコストが増大する恐れがある。特に、十分な加温及び加湿を行なうため、加温加湿機構の全長を長くして加温加湿面積を確保する必要があるので、呼吸回路の回路抵抗が増大する傾向にある。
また、呼吸回路内部の加温加湿機構が呼吸回路壁面に接してしまい、吸気ガスがその上を流れて、加温及び加湿にばらつきが生じる恐れがある。更に、
図6に示すように、吸気側チューブ102の内壁面で水蒸気の凝縮がおこり、回路内に結露した水が溜まる問題が発生する恐れもある。
【0009】
従って、本発明の目的は、上述の問題を解決して、人工気道内での吸気ガスの流動抵抗(回路抵抗)を増大させることなく、更に外部からの温度変化に対しても影響を受けにくく、回路壁面での凝縮も発生させずに、使用者にとって十分な吸気ガスの加温及び加湿が実現可能なシンプルな構成の人工気道及びこの人工気道を備えた呼吸回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するため、本発明の呼吸回路に用いる人工気道の1つの実施態様は、チューブ状の外殻と、前記外殻の内面全周に配設され、前記外郭との間に保水領域を形成し、その内面側に通気領域を形成する透湿耐水膜と、前記保水領域に水を供給するため前記外郭に設けられた給水口と、前記外殻の外側に配接され、前記保水領域内の水を加熱して水蒸気を発生させるとともに、前記通気領域内を流れる吸気ガスを加温するヒータと、を備え、前記給水口から供給された水が、前記透湿耐水膜により前記保水領域内に保持され、前記ヒータの加熱により生じた水蒸気だけが前記透湿耐水膜を通過して前記通気領域内に流入して、前記通気領域内を流れる吸気ガスを加温及び加湿する人工気道である。
【0011】
本実施態様によれば、より使用者に近い位置に配置された人工気道内で吸気ガスを加温及び加湿できるので、外部からの温度変化に対しても影響を受けにくく、人工気道内で水蒸気が再凝縮する危険性を低減できる。また、加温加湿用容器、加温加湿容器内の水を温めるヒータ装置、水量や温度の制御装置といった余分な装置、部材を必要とせず、余分な使い捨て接続チューブも必要ないので、設備コストやランニングコストを低減させることができ、チューブの接続ミスやチューブが外れる危険性も低減できる。
更に、人工気道の外殻の内面全周といった大きな加温及び加湿エリアを用いて、吸気ガスの加温及び加湿を行なうことができるので、使用者にとって十分な吸気ガスの加温及び加湿を実現でき、回路壁面での凝縮も発生しない。また、人工気道内に加湿のための余分な部材が存在しないので、吸気ガスの流動抵抗を増大させる恐れもなく、換気制御や気道内圧測定が狂う恐れもない。
【0012】
本発明の呼吸回路に用いる人工気道のその他の実施態様は、更に、前記ヒータが、前記保水領域が形成された領域の前記外殻の外側に配設されている人工気道である。
【0013】
本実施態様によれば、保水領域が形成されている領域にヒータが配設されているので、保水領域内に蓄えられた水を十分に加熱して水蒸気を発生させることができ、更に、保水領域に対応した十分な加湿エリアを用いて、吸気ガスを加湿することができる。同様に、加湿エリアに対応した十分な加温エリアを用いて、通気領域を通過する吸気ガスを加温することができる。
【0014】
本発明の呼吸回路に用いる人工気道のその他の実施態様は、更に、前記ヒータへの投入電力を調整することにより、前記吸気ガスの加温及び加湿を同時に調整可能な人工気道である。
【0015】
仮に、通気領域を流れる吸気ガスの流量が増えた場合には、吸気ガスに加えるべき水蒸気量及び熱量を増加させる必要があり、逆に、吸気ガスの流量が減った場合には、吸気ガスに加えるべき水蒸気量及び熱量を低減させる必要がある。つまり、吸気ガスに加えるべき水蒸気量及び熱量は、正の相関を有している。従って、本実施態様のように、1つのヒータの投入電力を調整することによって、吸気ガスの加温及び加湿を同時に調整することが可能であり、機器構成や制御プロセスを簡略化することができる。
【0016】
本発明の呼吸回路に用いる人工気道のその他の実施態様は、更に、前記透湿耐水膜が樹脂製シートまたは樹脂製フィルムからなる人工気道である。
【0017】
本実施態様によれば、樹脂材料を用いることにより、信頼性の高い透湿耐水膜を得ることができる。
【0018】
本発明の呼吸回路に用いる人工気道のその他の実施態様は、更に、前記透湿耐水膜が透湿耐水性を有する不織布又はフィルムを含む人工気道である。
【0019】
ここで、「透湿耐水膜が透湿耐水性を有する不織布を含むこと」には、不織布のみを用いる場合も含まれるし、不織布とその他の部材、例えば吸水ポリマー等とを組み合わせた材料を用いることも含まれる。本実施態様によれば、比較的低い製造コストで十分な透湿耐水性を有する膜を得ることができる。
【0020】
本発明の呼吸回路に用いる人工気道のその他の実施態様は、更に、前記透湿耐水膜が多孔質素材または無多孔質素材からなる人工気道である。
【0021】
ここで、多孔質素材とは、水滴は通さないが、水蒸気を始めとする気体を透過する微細な孔を有する素材である。一方、無多孔質素材は気体を、液体及び気体を透過する微細な孔を有しておらず、例えば、水滴が接した面から水分が素材内を浸透、拡散し、反対側の面から蒸発することによって、透湿耐水性能を発揮する。
本実施態様によれば、透湿耐水膜として、多孔質素材も無多孔質素材も用いることができるので、多彩な材質の中から透湿耐水膜として最適なものを選択することができる。
【0022】
本発明の呼吸回路に用いる人工気道のその他の実施態様は、更に、前記透湿耐水膜の内面側に、該内面に接するようにチューブ状の補強部材が配設された人工気道である。
【0023】
本実施態様によれば、透湿耐水膜で構成されるチューブが通気領域を確保する形状(例えば円筒形状)を保つだけの強度を有さない場合であっても、透湿耐水膜の内面に接するようにチューブ状の補強部材が配設されているので、透湿耐水膜で構成されるチューブを当該形状に保つことができ、湿耐水膜が内側へ膨らむのを防いで、十分な大きさの通気領域を確保することができる。
なお、チューブ状の補強部材によって確保される通気領域の断面形状は、円形に限られず、楕円や多角形を始めとする任意の断面形状を有することができる。
【0024】
本発明の呼吸回路に用いる人工気道のその他の実施態様は、更に、前記外殻と前記透湿耐水膜との間の前記保水領域に螺旋状芯材が配設され、前記給水口から供給された水が該螺旋状芯材で形成された螺旋状の流路に沿って流れる人工気道である。
【0025】
本実施態様によれば、透湿耐水膜で構成されるチューブが、通気領域を確保する形状(例えば円筒形状)を保つだけの強度を有さない場合であっても、保水領域に螺旋状芯材が配設されているので、透湿耐水膜で構成されるチューブを当該形状に保つことができ、湿耐水膜が内側へ膨らむのを防いで、十分な大きさの通気領域を確保することができる。また、水は螺旋状芯材で形成された螺旋状の流路に沿って流れるので、螺旋状芯材が保水領域水の流れを妨げることはない。
なお、螺旋状芯材によって確保される通気領域の断面形状は、円形に限られず、楕円や多角形を始めとする任意の断面形状を有することができる。
【0026】
本発明の呼吸回路に用いる人工気道のその他の実施態様は、略円筒状の外殻と、前記外殻の内面全周に配設され、前記外郭との間に保水領域を形成し、その内面側に通気領域を形成するヒダ状に形成された透湿耐水膜と、前記保水領域に水を供給するため前記外郭に設けられた給水口と、前記保水領域内または前記外殻の外側に配接され、前記保水領域内の水を加熱して水蒸気を発生させるとともに、前記通気領域内を流れる吸気ガスを加温するヒータと、を備えた、吸気ガス及び呼気ガスが前記通気領域内を流れる人工鼻として適用可能な人工気道であって、前記給水口から供給された水が、前記透湿耐水膜により前記保水領域内に保持され、前記ヒータの加熱により生じた水蒸気だけが前記透湿耐水膜を通過して前記通気領域内に流入して、前記通気領域内を流れる吸気ガスを加温及び加湿することを特徴とする。
【0027】
本実施態様によれば、透湿耐水膜が人の鼻腔のようにヒダ状に形成されているので、加温加湿面積を大きくとることができ、例えば、人工鼻のような全長が比較的短い人工気道であっても、吸気ガスを十分に加温及び加湿することができる。
【0028】
本発明の呼吸回路の1つの実施態様は、上記の人工気道と、接続された前記人工気道の前記通気領域へ吸気ガスを供給する吸気ガス供給源と、前記給水口を介して概ね一定の静圧で前記保水領域へ水を供給する給水手段と、を備え、前記透湿耐水膜を通過して流出した水蒸気量に対応した水量だけ、前記給水手段が前記保水領域に水を補給する呼吸回路である。
【0029】
本施態様によれば、概ね一定の静圧を加えることにより、透湿耐水膜を通過して出ていった水蒸気量に対応した水量だけ保水領域に水を補給することができるので、余分な制御等を行なうことなく、長期間安定して吸気ガスを加湿可能な呼吸回路を提供することができる。
【0030】
本発明の呼吸回路のその他の実施態様は、更に、前記給水手段が、水を収容した容器からの滴下により水を供給し、該滴下速度を測定する滴下速度測定手段と、前記滴下速度測定手段から送信された滴下速度測定データに基づいて、該滴下速度が所定値を超えたとき、または該滴下速度が所定値を下回ったとき警報を出す制御処理を行なう制御手段と、を備えた呼吸回路である。
【0031】
本実施態様によれば、水を収容した容器からの滴下速度が所定値を超えたとき、警報を出す制御処理を行なうので、仮に、透湿耐水膜が破損して漏水の事態が生じたとしても、速やかに警報を出して使用者の安全を確保することができる。また、水を収容した容器からの滴下速度が所定値を下回ったときも、警報を出す制御処理を行なうので、仮に、供給水タンクが空になったり、何らかの理由(例えば、チューブの閉塞)で水が人工気道へ供給されなくなった場合であっても、速やかに警報を出して使用者の安全を確保することができる。
【0032】
本発明の呼吸回路のその他の実施態様は、更に、前記人工気道の吸気ガスの出口近傍に前記通気領域内を流れる吸気ガスの温度を測定する温度測定手段を更に備え、前記制御手段が、前記温度測定手段から送信された温度測定データに基づいて、前記ヒータの投入電力を調整する制御処理を行なう呼吸回路である。
【0033】
本実施態様によれば、使用者に近い吸気ガスの出口近傍で測温を行ない、その測温データに基づいてヒータの投入電力を調整するので、ヒータによる加温後の温度降下が少なく、最適な温度の吸気ガスを使用者に供給することができる。
【発明の効果】
【0034】
以上のように、本発明の人工気道及び呼吸回路では、人工気道内での吸気ガスの流動抵抗(回路抵抗)を増大させることなく、更に外部からの温度変化に対しても影響を受けにくく、回路壁面で凝縮も発生せず、使用者にとって十分な吸気ガスの加温及び加湿をシンプルな構成で実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の呼吸回路に用いる人工気道の実施形態について、以下に図面を用いながら詳細に説明する。ここで、
図1は、本発明に係る呼吸回路に用いる人工気道の1つの実施形態の構造を示す模式図であり、
図2は、
図1に示す人工気道を備えた呼吸回路の1つの実施形態の構成を示す模式図である。
【0037】
(本発明に係る人工気道の1つの実施形態の説明)
始めに、
図1を参照しながら、本発明に係る人工気道の1つの実施形態について詳細に説明する。ここで、
図1(a)は、人工気道2を側面から見た模式図であり、図の中央部から右側にかけて、外殻4が取り除かれて内部が露出した状態を示している。
図1(b)は、
図1(a)の矢印A−Aから見た断面図である。
【0038】
人工気道2は、気密性水密性を有するチューブ状の外殻4と、外殻4の内面全周に配設された透湿耐水性を有する透湿耐水膜6と、外殻4の外側に配設されたヒータ8とを備える。これにより、外郭4の内面と透湿耐水膜6の外面との間に保水領域10が形成され、透湿耐水膜6の内面側には、通気領域12が形成されている。つまり、透湿耐水膜6によって、保水領域10と通気領域12とが区分されている。
【0039】
図1(a)に示すように、水容器24から供給される水は、給水チューブ16を経て、給水口14から保水領域10内へ導かれる。この場合、給水口14において、水頭Hの静圧力で保水領域10に水が供給される。外殻4は気密性水密性を有し、透湿耐水膜6は、水蒸気のような気体は透過させるが液体の水は透過させない透湿耐水性を有するので、給水口14から供給された水は、外殻4と透湿耐水膜6との間に形成された保水領域10内に保持される。
また、本実施形態のヒータ8は、線状の抵抗加熱式ヒータ(所謂リボンヒータ)であり、保水領域10が形成された全領域の外殻4の外表面に螺旋状に巻かれている。
【0040】
以上のような構成の人工気道2は、
図2に示すように、一端が呼吸回路20を構成する吸気ガス供給源22に接続され、所定の流量の吸気ガスが人工気道2の通気領域12の中を流れて、使用者に供給される。
図1では、白抜き矢印に示すように、吸気ガスは、通気領域12内を図面右側から左側へ流れる。この人工気道2の寸法(つまり、外殻4の外寸)としては、例えば、長さが800〜2000cmで外径が10〜40mm(例えばISO規格で、子供用呼吸回路:15mmφ、成人用呼吸回路:22mmφ)を例示することができるが、これに限定されるものではない。また、チューブ状の外殻4は、通常、円形の断面形状を有する円筒状であるが、これに限られるものではなく、例えば、楕円や多角形の断面形状を有する場合も、このチューブ状に含まれる。
【0041】
保水領域10内に水が保持された状態で、ヒータ8に所定の電力を供給することにより、保水領域10内に保持された水が加熱されて、水蒸気が発生する。発生した水蒸気は、
図1の破線の矢印に示すように、透湿耐水膜6を透過して通気領域12内に流入し、通気領域12内を流れる吸気ガスに吸収される。これにより、吸気ガスの加温及び加湿を行なうことができる。
これと同時に、ヒータ8によって、保水領域10内の水だけでなく、通気領域12内を流れる吸気ガスに所定の熱量を与えることができるので、吸気ガスの加温も行なうことができる。つまり、本実施形態では、ヒータ8によって、吸気ガスの加温と加湿とを同時に行うことができる。
【0042】
仮に、通気領域12内を流れる吸気ガスの流量が増えた場合には、吸気ガスに加えるべき熱量及び水蒸気量を増加させる必要があり、吸気ガスの流量が減った場合には、吸気ガスに加えるべき熱量及び水蒸気量を低減させる必要がある。つまり、吸気ガスに加えるべき熱量及び水蒸気量は、正の相関を有している。従って、本実施形態のように、1つのヒータ8の投入電力を調整することによって、吸気ガスの加温及び加湿を同時に調整することが可能であり、機器構成や制御プロセスを簡略化することができる。
また、本実施形態では、保水領域10が形成された全領域の外殻4の外側に、ヒータ8が配設されている。これにより、保水領域10内に蓄えられた水を十分に加熱して水蒸気を発生させることができ、更に、保水領域10に対応した十分な加湿エリアを用いて、吸気ガスを加湿することができる。同様に、加湿エリアに対応した十分な加温エリアを用いて、通気領域12を通過する吸気ガスを加温することができる。
以下に、人工気道2を構成する構成要素について、詳細な説明を行なう。
【0043】
<外殻4の説明>
外殻4は、気密性水密性を有しかつ可撓性を有する樹脂材料から構成され、本実施形態では、塩化ビニルから構成されている。ただし、これに限られるものではなく、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレン及びエチレン酢酸ビニル、ポリ塩化ビニルを始めとするその他の任意の樹脂材料を用いることができる。
本実施形態の外殻4は、螺旋状に凹部が形成されており、この螺旋状の凹部に沿って、線状のヒータ8が外殻4の外表面に巻き付けられている。このような構成を採用することによって、保水領域10の外殻4の全周において、ヒータ8を均等に配設することができる。これにより、保水領域10の全域において、均等な水の加熱及び均等な吸気ガスの加温を実現できる。ただし、外殻4の外表面の形状はこれに限られるものではなく、凹凸部のないフラットな外表面を有することもできる。
【0044】
<透湿耐水膜6の説明>
本実施形態の透湿耐水膜6は、透湿耐水性シートまたは透湿耐水性フィルムから構成され、このシート/フィルムを外殻4の内径よりもわずかに小さな径で筒状に巻いて、その両端部を長手方向全長においてシール接合することにより形成できる。この筒状の透湿耐水膜6を外殻4の中に挿入し、外殻4の長手方向の両端部で、外殻4と透湿耐水膜6とをシール接合することにより、
図1に示す構造を形成できる。これらのシール結合は、接着剤を用いて実現できる。
なお、保水領域10に加わる静圧(例えば、水頭H=100cmH
2O)は大きくないので、チューブ状の外殻4の長手方向の両端部で接合することにより、十分な透湿耐水膜6の剛性は得られると考えられるが、必要に応じて、所定のピッチを置いて、外殻4と透湿耐水膜6とをスポット的に接合することもできる。
【0045】
透湿耐水膜6に用いる透湿耐水性シート/フィルムとしては、水蒸気を十分に透過可能な透湿性能と、加えられる水圧に十分に耐えうる耐水圧性能を有する必要がある。そのような性能を要する透湿耐水性シート/フィルムとしては、
図5に示すような多孔質素材及び無多孔質素材を用いることができる。
【0046】
図5左図に示すように、多孔質素材とは、水滴は通さないが、気体は透過する微細な孔を有する素材であり、水分子からなる気体である水蒸気がこの微細な孔を透過することができる。水蒸気の透過量は、多孔質素材で遮られる両側の空間の湿度差及び温度差で定められる。つまり、
図5左図で、多孔質素材の右側の領域の湿度が低く、温度が高い場合には、水蒸気の透過量は増加する。
このような構造により、多孔質素材は、水蒸気を十分に透過可能な透湿性能と、加えられる水圧に十分に耐えうる耐水圧性能を有することができる。なお、具体的な多孔質素材としては、後述する表1に示される材料を例示することができる。
【0047】
一方、無多孔質素材は、
図5右図に示すように、液体及び気体を透過する微細な孔を有しておらず、水滴が接した面から水分が素材内を浸透、拡散し、反対側の面から蒸発することによって透湿耐水性能を発揮する。この水蒸気の透過量は、多孔質素材で遮られる両側の空間の温度差で定められる。つまり、
図5右図で、多孔質素材の右側の領域の温度が高い場合には、水蒸気の透過量は増加する。
【0048】
このような構造により、無多孔質素材は、水蒸気を十分に透過可能な透湿性能と、加えられる水圧に十分に耐えうる耐水圧性能を有することができる。なお、具体的な無多孔質素材としては、アルケマ(ARKEMA)社が供給する透湿耐水性シート/フィルムやアクゾノーベル社が供給する商標名シンパテックス(SYMPATEX)という透湿耐水性シート/フィルムを例示することができる。
【0049】
図6には、透湿耐水膜6として無多孔質素材を用いた場合の人工気道2の実施形態を示す。この人工気道2は、気密性水密性を有するチューブ状の外殻4と、外殻4の内面全周に配設された無多孔質素材からなる透湿耐水膜6とを備え、人工気道2の両端では、シール部材52により外殻4と透湿耐水膜6とがシール接合されている。これにより、外郭4の内面と透湿耐水膜6の外面との間に保水領域10が形成され、透湿耐水膜6の内面側には、通気領域12が形成されている。また、外殻4の外側には、ヒータが配設されている(図示せず)。
【0050】
水容器24に蓄えられた水が、給水チューブ16を経て、給水口14から保水領域10内へ導かれる。このとき、水を保水領域10内へ流入させるには、予め保水領域10内に存在する空気を保水領域10の外へ排気する必要がある。この場合、透湿耐水膜6が多孔質素材であれば、多孔質素材の微細な孔を通して空気を排気することができるが、透湿耐水膜6が無多孔質素材の場合には、透湿耐水膜6を通して排気することができない。
【0051】
そこで、
図6に示す実施形態では、排気口50を備えており、排気口50を介して、予め保水領域10内に存在する空気を排気する。この排気口50には逆止弁が備えられており、保水領域10内の空気を排気することはできるが、外部の空気が保水領域10内に流入しないようになっている。なお、
図6では、ボール式の逆止弁が示されているが、これに限られるものではなく、その他の任意のタイプの逆止弁を用いることができる。
【0052】
また、本実施形態では、保水領域10内の空気が全て排気された後、排気口50にキャップを被せることにより、保水領域10内の水が外部へ流出しないようにしている。ただし、これに限られるものではなく、例えば、排気口50の上部開口に多孔質素材を張ることにより、空気は流れるが水が流れないような排気口50を形成することもできる。
また、外郭4と透湿耐水膜6の間に形成された保水領域10の中に吸湿性の高い材料、例えば、吸水ゲルや濾紙等を入れることもできる。
以上のように、本実施形態では、排気口50を備えることによって、透湿耐水膜6として、多孔質素材だけでなく、無多孔質素材を用いることもできるので、多彩な材質の中から、透湿耐水膜6として最適なものを選択することができる。
【0053】
次に、透湿耐水膜6として必要な透湿性能(透湿度)と耐水圧性能(耐水圧)を検討すると、以下のようになる。
人工気道で求められる理想的な加温加湿条件は、一般的に、温度37℃で相対湿度100%(44mg/L最大)の吸気ガスを使用者に供給することである。よって、下記においては、成人男性の呼吸量を6L/minとして、温度37℃で相対湿度100%(44mg/L最大)の吸気ガスを6L/minで供給する場合を例にとって計算を行なう。
24時間で透湿耐水膜6を透過して吸気ガスへ供給すべき最大水蒸気量は、
6(L/min)×44(mg/L)×60×24×1/1000
=約380g/24hrsとなる。
また、水蒸気を透過させる加湿面積(透湿耐水膜6の面積)を考えると、例えば、保水領域10の内径が2.2cmで長さを100cmと仮定すると、約0.069m
2(=2.2/100×1×3.14)となる。
【0054】
従って、加湿面積0.069m
2の透湿耐水膜6全域で、380g/24hrsの水蒸気を透過させる必要があるので、透湿耐水膜6に用いる透湿耐水シート・フィルムは、約5,500g/m2・24hr(=380/0.069)の透湿度が必要となる。
次に、透湿耐水膜6の対水圧性能(対水圧)を検討すると、人工気道2及び給水手段30の具体的な配置を考慮すると、
図1に示すHの寸法として、40cm〜200cm程度が考えられる。従って、対水圧としては、200cmH
2O以上が必要であると考えられる。
【0055】
実用上必要な透湿性能としては、ある程度の安全係数を考慮して、透湿度(JIS K7129(A法))において、6,000g/m2・24hr以上が好ましく、8,000g/m2・24hr以上がより好ましく、10,000g/m2・24hr以上が更に好ましい。
また、対水圧としては、ある程度の安全係数を考慮して、400cmH
2O以上が好ましく、800cmH
2O以上がより好ましく、1000cmH
2O以上が更に好ましい。
このような透湿性能及び対水圧性能を有する具体的な材料の一例(多孔質素材)を下表に示す。下表では、樹脂性シート/フィルム及び不織布を含む材料を示してある。
【0057】
透湿性能及び対水圧性能を有する樹脂性材料(例えば、表1の#1〜5の材料)を用いる場合には、信頼性の高い透湿耐水膜6を得ることができる。また、不織布を用いる場合には、比較的低い製造コストで透湿耐水膜6を得ることができる。なお、不織布単体の場合には、一度水が透過するとその箇所から大きな漏水が生じる恐れがあるので、例えば、不織布と吸水ポリマー等とを組み合わせた材料(例えば、表1の#6の材料)を用いることが好ましい
ただし、透湿耐水膜6に用いる透湿耐水シート/フィルム及び不織布を含む材料としては、上記の樹脂性シート/フィルム及び不織布を含む材料に限られるものではなく、所定の耐湿性能及び対水圧性能を有する任意の樹脂性シート/フィルム及び不織布を含む材料を用いることができる。
【0058】
<加湿面積、加温面積の説明>
後述するように、従来の加湿用容器134を加熱して吸気ガスの加湿を行なう場合の加湿面積を考えると(
図5参照)、例えば、直径10cmの円形加熱面を仮定して、0.008m
2(=10×10×3.14×1/4×1/10000)を得る。一方、本実施形態での加湿面積は、上記と同様に保水領域10の内径が2.2cmで長さを100cmと仮定して、約0.069m
2となる。従って、本実施形態では、従来の加熱された加湿用容器に吸気ガスを通す場合に比べて、非常に大きな加湿面積を得ることができる。同時に、この加湿面積と同じエリアで吸気ガスを加温することができるので、吸気ガスを加湿用容器に通して加温する場合に比べて、非常に大きな加温面積を得ることができる。
【0059】
<ヒータ8の説明>
本実施形態では、ヒータ8として所謂リボンヒータ(耐熱ガラス繊維で織られた布で被覆されたニクロム線)が用いられているので、可撓性に優れ、外殻4の外表面の螺旋状に形成された凹部に沿って容易に巻き付けることができる。これにより、保水領域10を覆う外殻4の全周において、ヒータ8を均等に配設することができ、保水領域10の全域において、均等な水の加熱及び均等な吸気ガスの加温効率よく実現できる。ただし、この構成に限られるものではなく、例えば、シート状のヒータで外殻4の外側を覆うことも可能であるし、その他の任意のヒータを用いることができる。
【0060】
次に、ヒータ8の具体的な加熱容量を検討する。上記のように、380g/24hrsの水蒸気を発生させる場合を考えると、水の20℃(保水領域10内の水温)での蒸発熱を586cal/gとし、投入電力に対するヒータの熱効率を20%と仮定すると、ヒータに必要な投入電力は、380(g/24hrs)×586(cal/g)×1/24×1/860(cal/W・h)/0.2=54W・hrとなる。
【0061】
従って、ある程度の安全係数を考慮して、60〜100W・hr程度の電力をヒータ8に投入すれば、十分な水蒸気を発生させることができると考えられる。一方、吸気ガスを加温する場合には、水の蒸発熱に比べて吸気ガスの比熱は非常に小さいので、60〜100W・hr程度の電力をヒータ8に投入すれば、吸気ガスの加温も十分に賄えると考えられる。なお、上記の投入電力はあくまで一例にすぎず、実際に用いる吸気ガスの流量や保水領域の範囲に合わせて、最適なヒータ容量を定めればよい。吸気ガスの流量や保水領域の範囲を考慮すると、20〜150W程度の容量のヒータ8を備えることが好ましいと考えられる。
【0062】
<加温及び加湿のバランスの説明>
上記のように、吸気ガスに加えるべき水蒸気量及び熱量は正の相関を有しているので、本実施形態のように、1つのヒータ8の投入電力を調整することによって、吸気ガスの加温及び加湿を同時に調整することができる。しかし、吸気ガスに加える水蒸気量と熱量とを個別に調整することができないので、予め水蒸気量及び熱量のバランスがとれるように、保水領域10の容積、ヒータ8の容量、加湿面積、加温面積等を調整する必要がある。つまり、ヒータ8へ投入する電力の調整範囲内において、実用上支障が起きない比率で加温及び加湿が生じるようにする必要がある。
【0063】
例えば、同じ加湿面積、加温面積であっても、外殻4と透湿耐水膜6との間の間隔が異なれば、保水領域10の容積も変化するので、同じ電量をヒータ8に投入したとしても、水蒸気の発生量が異なる。また、加湿に対して加温の割合を増やしたい場合には、保水領域10が存在しない領域の外殻4の外側にヒータ8を配設することもできる。逆に、加温に対して加湿の割合を増やしたい場合には、透湿耐水膜6として断熱性の高い材料を用いることも考えられる。
以上のような様々な要素を調整することにより、1つのヒータ8の投入電力を調整することによって、実用上問題なく吸気ガスの加温及び加湿を同時に調整することができる。
【0064】
<給水口14の説明>
保水領域10に水を供給する給水口14は、外殻4に給水チューブ16の外径とほぼ同一の径の孔をあけ、この孔に給水チューブ16を差し込み、接着剤を用いて給水チューブ16の外周と外殻4とをシール結合することにより形成することができる。なお、給水チューブ16は、外殻4と同じ樹脂材料を用いることもできるし、その他の任意の樹脂材料を用いることもできる。
【0065】
以上のように、上記の実施形態によれば、より使用者に近い位置に配置された人工気道2内で吸気ガスを加温及び加湿できるので、外部からの温度変化に対しても影響を受けにくく、人工気道2内で水蒸気が再凝縮する危険性を低減できる。また、加温加湿用容器、加温加湿容器内の水を温めるヒータ装置、水量や温度の制御装置といった余分な装置、部材を必要とせず、余分な使い捨ての接続チューブも必要ないので、設備コストやランニングコストを低減させることができ、チューブの接続ミスやチューブが外れる危険性も低減できる。
更に、人工気道2の外殻4の内面全周といった大きな加温及び加湿エリアを用いて、吸気ガスの加温及び加湿を行なうことができるので、使用者にとって十分な吸気ガスの加温及び加湿を実現でき、回路壁面での凝縮も発生しない。また、人工気道2内に加湿のための余分な部材が存在しないので、吸気ガスの流動抵抗を増大させる恐れもなく、換気制御や気道内圧測定が狂う恐れもない。
【0066】
(本発明に係る人工気道を備えた呼吸回路の1つの実施形態の説明)
次に、
図2を参照しながら、本発明に係る人工気道を備えた呼吸回路の1つの実施形態について詳細に説明する。ここで、
図2は、人工気道2を始めとする呼吸回路20を構成する各機器を模式的に示した図である。
【0067】
本実施形態の呼吸回路20には、主に、人工気道2と、人工気道2が接続された吸気ガス供給源22と、人工気道2の保水領域10へ水を供給する給水手段30と、測定手段40、42及び制御手段28とが備えられている。
本実施形態の呼吸回路20の測定手段40、42及び制御手段28に関しては、給水手段30に、滴下速度を測定する滴下速度検出手段40が備えられ、人工気道2の吸気ガス出側の端部に、吸気ガスの温度を測定する温度測定手段42が備えられている。また、制御手段28は、これらの測定手段から受信した測定データに基づいて、所定の制御処理を行なう。
【0068】
以上のような構成の呼吸回路20によって、吸気ガス供給源22から供給された吸気ガスが人工気道2を通って使用者へ供給され、使用者の呼気ガスが呼気側チューブ32を通って大気に放出される。
以下に、呼吸回路20を構成する各構成機器の説明を行なう。
【0069】
<給水手段30の説明>
給水手段30は、水容器24と、上部で水容器24と連通し下部で給水チューブ16と連通した滴下チャンバ26とを備える。滴下チャンバ26の上部には、水容器24と連通した管26aが備えられ、水容器24内の水がこの管26aから滴下されて、人工気道2の保水領域10に接続された給水チューブ16へ水を供給することができる。
図1を用いて既に説明したように、給水チューブ16へ供給された水は、給水口14を通って保水領域10に供給される。
【0070】
まず、保水領域10内に水を充填する手順を説明する。水容器24が取り付けられると、水圧で水が水容器24から保水領域10の中に流れていく。このとき、保水領域10の中に溜まっていた空気は、透湿耐水膜6を透過して通気領域12側へ抜けていく。保水領域10の中が水で満たされると、水容器24から水は流れ出なくなる。その後は、透湿耐水膜を通過して通気領域12に出て行った水蒸気量に対応した水量だけ、管26aから滴下され保水領域10へ供給される。
逆に、通気領域12側から吸気ガスが透湿耐水膜6を透過して保水領域10内へ入ってくる可能性があるが、人工呼吸における最大圧は100cmH
2O以下であるため、水容器24が呼吸回路(人工気道2)より100cm以上、上方に位置していれば(
図2でH>=100cm)、ガスの逆流は生じない。
なお、水容器24から人工気道2への給水チューブ16は、例えば、輸液に使用するような細いチューブを用いることが好ましい。細いチューブを用いてチューブ内の流動抵抗を大きくすることによって、ガスの逆流を更に効果的に防ぐことができる。
【0071】
滴下チャンバ26について、更に詳細に説明すると、管26aからの水の滴下により、滴下チャンバ26の下部に水が溜まって所定のレベル(Hで示すレベル)の水面が形成される。ここでは、滴下チャンバ26に形成された水面のレベルが、人工気道2に対して高低差Hだけ高くなるように配置されている。
仮に、滴下チャンバ26内で水面のレベルが上昇する場合には、滴下チャン26内の空気圧が上昇して、水滴の形成の要因となる静水圧を減少させるように働くため、滴下速度が遅くなる。一方、仮に、滴下チャンバ26内で水面のレベルが降下する場合には、滴下チャン26内の空気圧が降下して、水滴の形成の要因となる静水圧を増加させるように働くため、滴下速度が速くなる。従って、滴下チャンバ26は、常に水面のレベルを一定にするように滴下速度を調整する自己調整機能を有する。
【0072】
以上のように、滴下チャンバ26内の水面のレベル変動は、人工気道2との間の高低差Hに比べて極めて小さく、給水チューブ16の流動抵抗も存在するので、給水手段30は、人工気道2の保水領域10へ概ね一定の静圧(水頭H)で水を供給することができる。これにより、人工気道2の保水領域10においてヒータ8で加熱されて水蒸気となり、透湿耐水膜を通過して通気領域12に出て行った水蒸気量に対応した水量だけ、給水手段30が保水領域10に水を補給することができる。
【0073】
以上のように、ほぼ一定の静圧(水頭H)を加えることにより、透湿耐水膜6を通過して出ていった水蒸気量に対応した水量だけ保水領域10に水を補給することができるので、余分な制御処理を行なうことなく、長期間安定して吸気ガスを加湿可能な呼吸回路20を提供することができる。
【0074】
<滴下速度測定手段40の説明>
次に、給水手段30に備えられた滴下速度測定手段40の説明を行なう。滴下速度測定手段40は、滴化チャンバ26の側部に設置されており、所定の波長の可視光を出射する発光素子40aと、受光素子40bとの間に水滴が落下するように配置されている。水滴が落下するときには、発光素子40aから受光素子40bへ入射する光(
図2の矢印参照)が遮られるため、水の滴下を感知することができる。滴下速度測定手段40に内蔵されたタイマにより、滴下と滴下の時間間隔を測定できるので、滴下速度を正確に測定することができる。そして、滴下速度測定手段40により測定された水の滴下速度のデータは、制御手段28へ送信される。
なお、本実施形態では、一例として、可視光センサを用いた滴下速度測定手段40を示しているが、これに限られるものではなく、赤外線センサを始めとするその他の任意のセンサを用いた滴下速度測定手段を適用することができる。
【0075】
<吸気温度測定手段42の説明>
人工気道2の吸気ガス出側の端部に備えられた温度測定手段42により、人工気道2の通気領域12内を流れる吸気ガスの温度を測定することができる。そして、この温度測定データは、制御手段28へ送信される。ここで、吸気温度測定手段42としては、従来の任意のセンサを用いることができる。
【0076】
<制御手段28の説明>
本実施形態の制御手段28としては、演算装置(CPU)、記憶装置(ROM、RAM)、外部インターフエス、駆動回路等を備えており、市販されているコンピュータを用いることもできる。
<<滴下速度に関する制御>>
制御手段28は、滴下速度測定手段40から送信された滴下速度測定データに基づき、水の滴下速度が所定値を越えたとき、または滴下速度が所定値を下回ったとき所定の警報を出す制御処理を行なう。つまり、何らかの理由で、人工気道2の保水領域10へ流れる水量が増えると、上記の滴下チャンバ26の水面のレベルが下がり、滴化チャンバ26が有する自己調整機能により滴下速度が上がる。逆に、何らかの理由で、人工気道2の保水領域10へ流れる水量が減ると、上記の滴化チャンバ26の水面のレベルが上がり、滴下チャンバ26が有する自己調整機能により滴下速度が下がる。また、水容器24の水が少なくなった場合にも、滴下チャンバ26における滴下速度が下がる。この滴下速度が所定値を越えた場合、または滴下速度が所定値を下回った場合には、例えば、警報を鳴らしたり、ランプ表示を行なったり、病院のシステムに信号を送信したりして、所定の警報を出す制御処理を行なう。
【0077】
ここで、滴下速度が所定値を越えた場合には、人工気道2の透湿耐水膜6が損傷して、保水領域10内の水が通気領域12側へ漏水している可能性が高いので、速やかに警報を出すことによって、使用者が溺れる(気管、肺に水が入って窒息する)ことを未然に防ぎ、使用者の安全を確保することができる
また、水を収容した容器からの滴下速度が所定値を下回ったときも、警報を出す制御処理を行なうので、仮に、供給水タンクが空になったり、チューブの閉塞等で水が保水領域10へ供給されなくなった場合であっても、速やかに警報を出して使用者の安全を確保することができる。
【0078】
<<吸気ガス温度に関する制御>>
制御手段28は、人工気道2の温度測定手段42から送信された温度測定データに基づき、吸気ガスの温度が設定値になるように、ヒータ8への投入電力を調整する制御処理を行なう。使用者に近い吸気ガスの出口近傍で測温を行ない、その測温データに基づいてヒータ8の投入電力を調整するので、ヒータ8による加温後の温度降下が少なく、最適な温度の吸気ガスを使用者に供給することができる。
【0079】
また、温度測定手段42から送信された温度測定データに基づき、吸気ガスが所定の温度(例えば、43℃)を超えた場合には、高温警報を出す制御処理を行なうことができ、同様に、ヒータの断線等により吸気ガスの温度が所定値を下回った場合にも、低温警報を出す制御処理を行なうことができる。
【0080】
なお、本実施形態では、十分な加湿面積があるので、吸気ガスの流量を測定しないで、ガス温度だけを測定すれば、使用者にとって十分な吸気ガスの加温及び加湿(例えば、ガス度37℃で相対湿度は100%)を実現できる。ただし、更に流量センサを備えて、吸気ガスの流量を制御することも、本発明に適用可能である。
【0081】
(従来の呼吸回路との比較)
次に、
図2に示す本発明に係る呼吸回路20の実施形態を、
図5に示す従来の呼吸回路と比較して説明する。
図5に示す従来の呼吸回路においては、水が蓄えられた加温加湿用容器134をヒータ装置136で加熱して水蒸気を発生させ、吸気ガスをその容器134内に通すことによって、吸気ガスの加温及び加湿を行なっている。
【0082】
この場合、容器134内を通過時後、呼吸回路102を通過している間に吸気ガスが冷えて水蒸気が再凝縮し、十分に加温及び加湿された吸気ガスを使用者に供給できない問題が生じる。水蒸気の再凝縮が発生するため呼吸回路102に凝縮した水を集めるウオータトラップを設けたり、再凝縮を防ぐため呼吸回路内に結露防止ヒータ140を更に設ける必要もある。
更に、加温加湿用容器134やヒータ装置136といった余分な装置や部材を必要とし、吸気ガス供給源122と加湿用容器134との間を結ぶ使い捨ての加湿器接続チューブ138や、上記のように結露防止ヒータ140、ウオータトラップも必要となるので、設備コストやランニングコストが高くなる傾向にある。また、接続するチューブが増えるので、接続ミスが生じたり、チューブが外れる危険も増す問題も生じる。
【0083】
一方、
図2に示す本発明に係る呼吸回路20では、従来の加温加湿用容器134よりも使用者に近い位置にある人工気道2内で吸気ガスを加湿できるので、吸気ガスに含まれる水蒸気が人工気道2内で再凝縮する恐れが少ない。また、加温加湿用容器134やヒータ装置136といった余分な装置を削減できるので、呼吸回路全体の設備コストを低減できる。また、接続する使い捨てチューブの数を削減できるので、設備コストやランニングコストを低減でき、チューブの接続ミスやチューブが外れる危険性を低減することができる。
【0084】
既に述べたように、透湿耐水の中空繊維内や管内に水を供給し、ヒータを用いた加熱で発生させた水蒸気を中空繊維や管の外へ透過させることによって、呼吸回路内を流れる吸気ガスを加湿する加温加湿機構の提案がなされているが(特許文献1〜3参照)、これらの提案では、呼吸回路の内部に加温加湿機構が配設されるため、呼吸回路の回路抵抗が増大して、換気制御や気道内圧測定が狂う恐れがある。また、吸気ガス供給源への負荷が高まり、呼吸回路のランニングコストが増大する恐れがある。特に、十分な加温及び加湿を行なうため、加温加湿機構の全長を長くして、加温加湿面積を確保する必要があるため、呼吸回路の回路抵抗が増大する傾向にある。
また、呼吸回路内部の加温加湿機構が呼吸回路壁面に接してしまい、吸気ガスがその上を流れて、加温及び加湿にばらつきが生じる恐れがある。更に、
図6に示すように、呼吸回路102の内壁面で水蒸気の凝縮がおこり、回路102内に結露した水が溜まる問題が発生する恐れもある。
【0085】
一方、
図2に示す本発明に係る呼吸回路20では、人工気道2の外殻4の全周内面を用いて吸気ガスの加温及び加湿を行なうので、使用者にとって十分な加温及び加湿を実現できる。また、通気領域12内に吸気ガスの流れを妨げる物体が存在しないので、換気制御や気道内圧測定が狂う恐れはない。また、吸気ガス供給源22への負荷を抑制して、呼吸回路のランニングコストを抑制することができる。
【0086】
以上のように、本発明に係る人工気道2及び人工気道2を備えた呼吸回路20においては、下記のような顕著な作用効果を奏する。
使用者に近い位置に配置された人工気道2内で吸気ガスを加温及び加湿できるので、外部からの温度変化に対しても影響を受けにくく、人工気道2内で水蒸気が再凝縮する危険性を低減できる。また、加温加湿用容器、加温加湿容器内の水を温めるヒータ装置、水量や温度の制御装置といった余分な装置、部材を必要とせず、余分な使い捨てチューブも必要ないので、設備コストやランニングコストを低減させることができ、チューブの接続ミスやチューブが外れる危険性も低減できる。
更に、人工気道2の外殻4の内面全周といった大きな加温及び加湿エリアを用いて、吸気ガスの加温及び加湿を行なうことができるので、使用者にとって十分な吸気ガスの加温及び加湿を実現でき、回路壁面での凝縮も発生しない。また、人工気道2内に加湿のための余分な部材が存在しないので、吸気ガスの流動抵抗を増大させる恐れもなく、換気制御や気道内圧測定が狂う恐れもない。
よって、人工気道内での吸気ガスの流動抵抗を増大させることなく、更に外部からの温度変化に対しても影響を受けにくく、回路壁面での凝縮も発生させずに、使用者にとって十分な吸気ガスの加温及び加湿をシンプルな構成で実現できる。
【0087】
(本発明に係る人工気道及びこの人工気道を備えた呼吸回路の適用範囲)
本発明に係る人工気道及びこの人工気道を備えた呼吸回路は、医療分野への適用にとどまらず、例えば、
図3に示すような様々な分野に適用することができる。また、吸気ガス供給源についても、
図3に示すように、適用分野に応じて様々な種類の装置を用いることができる。
【0088】
(本発明に係る本発明に係る人工気道及びこの人工気道を備えた呼吸回路のその他の実施形態の説明)
<本発明に係る人工気道のその他の実施形態(1)の説明>
本発明に係る人工気道のその他の実施形態(1)として、
図4を用いて、本発明に係る人工気道を人工鼻に応用した実施形態の説明を行なう。
図4は、本発明に係る人工気道(人工鼻)2の実施形態の構造を示す模式図であり、
図4(a)は、人工気道(人工鼻)2を側面から見た外形図であり、
図4(b)は、
図4(a)の矢印B−Bから見た断面図である。
【0089】
一般的に、人工鼻は、呼吸回路の最も使用者側の端部に用いられ、通気領域中を、吸気ガス及び呼気ガスが交互に通過する人工気道の一種である。通常、人工鼻は、一端がY字型コネクタを介して、吸気側チューブ(
図1に示す人工気道2に相当)及び呼気側チューブと連通し、もう一端が使用者の気管内チューブに接続されて用いられる。この気管内チューブは、鼻(経鼻挿管の場合)、口(経口挿管の場合)または気管(気管挿管の場合)から患者に挿入される。これにより、吸気供給源により所定の流量の吸気ガスが吸気側チューブに供給され、吸気ガスは、吸気側チューブ、Y字型コネクタを通って人工鼻2の中を流れ、使用者に供給される。また、使用者からはきだされた呼気ガスは、人工鼻2の中を流れて、Y字型コネクタ、呼気側チューブを通って大気中へ放出される。
【0090】
通常、本実施形態の人工気道(人工鼻)2の全長は、上記の吸気側チューブ(
図1に示す人工気道2に相当)に比べてかなり短くなっており、吸気ガスを加温加湿するための透湿耐水膜6の面積を十分にとれない恐れがある。このため下記に詳細を示すように、本実施形態では、短い全長の中で加温加湿面積を大きくとるため、透湿耐水膜6が人の鼻腔のヒダのような波打った形状を有している。
【0091】
本実施形態の人工気道(人工鼻)2の基本構成は、略円筒状の外殻4と、外殻4の内面全周に配設されたヒダ状の透湿耐水膜6と、線状ヒータ8とを備える。そして、外郭4と透湿耐水膜6との間に保水領域10が形成され、透湿耐水膜6の内面側に通気領域12が形成されている。また、外郭4に、保水領域10に水を供給するための給水口16が設けられている。
【0092】
本実施形態の透湿耐水膜6が、
図1に示す人工気道2の透湿耐水膜6と同じ形状を有する場合には、全長の差の分だけ、吸気ガスと透湿耐水膜の接する面積が小さいくなるため、十分な加温加湿ができない恐れがある。そこで、本実施形態では、透湿耐水膜6を人工鼻2の内部でヒダのようにして、透湿耐水膜と吸気ガスとの接触面積を大きくして、十分な加温加湿を行うようにしている。
【0093】
また、従来の人工鼻では、通気領域内に熱水分交換エレメントが装着されているため、患者の痰や血液等により熱水分交換エレメントが閉塞する危険性があり、また使用時間と共に、熱水分交換エレメントに付着した水滴が人工鼻の回路抵抗を上昇させる危険性がある。しかし、本実施形態では、気道領域12内に熱水分交換エレメントを有さないので、このような問題が生じる恐れがない。
【0094】
本実施形態では、透湿耐水膜6を波打った形状に形成するため、外殻4の内面に、内面から円の中心方向に伸びる透湿耐水膜支持柱6aが取り付けられている。また、本実施形態では、保水領域10内に線状ヒータ8が備えられており、具体的には、線状ヒータ8が透湿耐水膜支持柱6aに取り付けられている。ただし、これに限られるものではなく、例えば、外殻4の外側に線状ヒータを配設することも可能であるし、外殻4の外側に板状のヒータを装着することも可能である。
【0095】
以上のように、本実施形態では、透湿耐水膜6が人の鼻腔のヒダのような波打った形状を有するので、通気領域12内を加温及び加湿する面積を大幅に増やすことができる。これにより、全長の短い人工鼻であっても、使用者にとって十分な吸気ガスの加温及び加湿を実現できる。
【0096】
<本発明に係る人工気道のその他の実施形態(2)の説明>
本発明に係る人工気道のその他の実施形態(2)として、
図7を用いて、透湿耐水膜の内面側にチューブ状の補強部材が配設された人工気道の説明を行なう。
図7において、人工気道2は、気密性水密性を有するチューブ状の外殻4と、外殻4の内面全周に配設された透湿耐水膜6とを備え、更に、透湿耐水膜6の内面側に、チューブ状の補強部材である樹脂製円柱ネットチューブ54が、透湿耐水膜6の内面に接するように配設されている。このような構造により、外郭4の内面と透湿耐水膜6の外面との間に保水領域10が形成され、樹脂製円柱ネットチューブ54で支えられた透湿耐水膜6の内面側には、通気領域12が形成されている。また、外殻4の外側には、ヒータ8が配設されており(図示せず)、水容器24に蓄えられた水が、給水チューブ16を経て、給水口14から保水領域10内へ導かれる。
【0097】
本実施形態では、チューブ状の補強部材54として樹脂製円柱ネットチューブが用いられているが、樹脂材料を用いかつメッシュ形状になっているので、実用上十分な強度を有しながら軽量な補強部材54を実現することができる。
ただし、チューブ状の補強部材54は、樹脂製に限られるものではなく、金属を始めとするその他の任意の材料を用いることができ、形状も円筒形状に限られるものではなく、その他の任意の形状を採用することができ、必ずしも、メッシュを有する必要はない。
【0098】
本実施形態によれば、透湿耐水膜6で構成されるチューブが円筒形状に保つだけの強度を有さない場合であっても、透湿耐水膜6の内面に接するように樹脂製円柱ネットチューブ54(チューブ状の補強部材)が配設されているので、透湿耐水膜6で構成されるチューブを円筒形状に保つことができ、湿耐水膜が内側へ膨らむのを防いで、十分な大きさの通気領域12を確保することができる。
【0099】
<本発明に係る人工気道のその他の実施形態(3)の説明>
本発明に係る人工気道のその他の実施形態(3)として、
図8を用いて、外殻と透湿耐水膜との間の保水領域に螺旋状芯材が配設された人工気道の説明を行なう。
図8において、人工気道2は、気密性水密性を有するチューブ状の外殻4と、外殻4の内面全周に配設された透湿耐水膜6とを備え、これにより、外郭4の内面と透湿耐水膜6の外面との間に保水領域10が形成され、透湿耐水膜6の内面側には、通気領域12が形成されている。本実施形態では、更に、外殻4と透湿耐水膜6との間の保水領域10に、樹脂製の螺旋状芯材56が配設されている。
【0100】
外殻4の外側には、ヒータ8が配設されており(図示せず)、水容器24に蓄えられた水が、給水チューブ16を経て、給水口14から保水領域10内へ導かれる。このとき、保水領域10内には、螺旋状芯材56によりガイドされた螺旋状の流路が形成されており、給水口14から供給された水は、この螺旋状の流路に沿って保水領域10内全体に流動することができる。
本実施形態の螺旋状芯材56は樹脂製であるが、それに限られるものではなく、金属を始めとするその他の任意の材質を用いることができ、形状も円筒形状に限られるものではなく、その他の任意の形状を採用することができる。
【0101】
この人工気道2を形成するには、例えば、螺旋状芯材56の内側に透湿耐水膜6を接着し、螺旋状芯材56の外側に外殻4を接着し、両端で、透湿耐水膜6と外殻4とをシール接合することによって実現できる。
【0102】
本実施形態によれば、透湿耐水膜6で構成されるチューブが円筒形状に保つだけの強度を有さない場合であっても、保水領域10に螺旋状芯材56が配設されているので、透湿耐水膜6で構成されるチューブを円筒形状に保つことができ、湿耐水膜6が内側へ膨らむのを防いで、十分な大きさの通気領域12を確保することができる。また、水は螺旋状芯材56で形成された螺旋状の流路に沿って流れるので、螺旋状芯材56が保水領域10内の水の流れを妨げることはない。
【0103】
本発明に係る人工気道及びこの人工気道を備えた呼吸回路の実施形態は、上記の実施形態に限られるものではなく、その他の任意の実施形態が本願発明に含まれる。