(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記外殻と前記透湿耐水膜との間の前記保水領域に螺旋状芯材が配設され、前記給水口から供給された水が該螺旋状芯材で形成された螺旋状の流路に沿って流れる請求項1から8の何れか1項に記載の呼吸回路に用いる人工鼻。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の加湿器システムでは、水供給手段に水透過性材料からなる水透過性要素(具体的には、中空繊維束または中空管)が備えられ、この水透過性要素に充填された水が管壁を透過して熱水分交換エレメントへ供給される。つまり、水供給手段により水分を熱水分交換エレメントに供給し、ヒータにより熱を水分交換エレメントに供給することができる。よって、従来の熱水分交換エレメントを用いた吸気ガスの加温及び加湿では不十分であった熱や水分を、水供給手段及びヒータによって補うことができる。
しかし、この加湿器システムでは管壁が水透過性を有するので、熱水分交換エレメントに過剰な水が供給される恐れがあり、この場合には、吸気ガス及び呼気ガスの流路が閉塞されたり、水が使用者の気管や肺に流れ込む危険性を有する。
【0007】
従って、本発明の目的は、上記の問題を解決して、吸気ガス及び呼気ガスの流路が閉塞されたり、水が使用者の気管や肺に流れ込む危険性がなく、安全な状態で、使用者にとって十分な吸気ガスの加湿及び加温が可能であり、かつ外気等の影響を受けにくい人工鼻及びこの人工鼻を備えた呼吸回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するため、本発明の呼吸回路に用いる人工鼻の1つの実施態様は、外殻と、前記外殻の内面全周に配設され、前記外郭との間に保水領域を形成し、その内面側に通気領域を形成する透湿耐水膜と、前記保水領域に水を供給するため前記外郭に設けられた給水口と、前記通気領域内に装着された熱水分交換エレメントと、前記外殻の外側に配設されたヒータと、を備え、前記給水口から供給された水が前記透湿耐水膜により前記保水領域内に保持され、吸気ガス及び呼気ガスが、前記通気領域に装着された前記熱水分交換エレメント内を通過する人工鼻であって、前記熱水分交換エレメントによって、その中を通過する呼気ガスが有する熱及び水分を捕捉及び保持し、次にその中を通過する吸気ガスに該熱及び水分を放出する吸気ガスの第1の加温加湿プロセスと、前記ヒータの加熱により生じた水蒸気だけが前記透湿耐水膜を通過して前記熱水分交換エレメント内を通過する吸気ガスに供給されて吸気ガスの加温及び加湿を行ない、かつ前記ヒータによって前記熱水分交換エレメント内の吸気ガスを加温する第2の加温加湿プロセスと、を行なう人工鼻である。
【0009】
ここで、「熱水分交換エレメント」とは、熱及び水分を捕獲及び保持し、更にこの熱及び水分を放出可能な材料であって、後述するように、例えば、吸湿紙で構成することもできるし、樹脂製発泡体や樹脂繊維が綿状に絡み合った部材等から構成することもできる。
本実施態様によれば、保水領域から透過した水蒸気によって吸気ガスに熱及び水分を供給し、同時にヒータから吸気ガスに更なる熱を供給する第2の加温加湿プロセスによって、熱水分交換エレメントによる第1の加温加湿プロセスだけでは不十分な吸気ガスの加温及び加湿を補って、使用者にとって十分な吸気ガスの加温及び加湿を実現できる。更に、本実施態様においては、ヒータの加熱により生じた水蒸気だけが透湿耐水膜を通過するので、過剰な水分が熱水分交換エレメントに供給されて吸気ガス及び呼気ガスの流路が閉塞される恐れがなく、また過剰な水分が使用者の気管や肺に流れ込む危険性がないので、安全が確保された状態で、使用者にとって十分な加湿、加温を実現することができる。更に、人工鼻の外周に沿ってヒータの熱源で人工鼻が暖められるため、人工鼻自身が外部温度(室温や空調機等の風による影響)等の影響を受けないで安定した加温加湿を保つことができる。
【0010】
なお、本実施態様では、熱水分交換エレメントが充填された領域と、保水領域やヒータが設けられた領域とが一致する場合だけでなく、例えば、保水領域やヒータが、熱水分交換エレメントが装着されていない領域に設けられていている場合、つまり熱水分交換エレメントを介さずに、通気領域内を通過する吸気ガスを加温及び加湿を行なう場合も含まれる。
【0011】
本発明の呼吸回路に用いる人工鼻のその他の実施態様は、前記ヒータが、前記保水領域が形成された領域の前記外殻の外側に巻き付けられた線状のヒータから構成される人工鼻である。
【0012】
本実施態様によれば、保水領域が形成されている領域にヒータが配設されているので、保水領域内に蓄えられた水を十分に加熱して水蒸気を発生させることができ、更に、保水領域に対応した十分な加湿エリアを用いて、吸気ガスを加温及び加湿することができる。同様に、加湿エリアに対応した十分な加温エリアを用いて、吸気ガスを加温することができる。
また、線状のヒータを巻き付けることによって、外殻の外側に容易にヒータを配設することができる。
【0013】
本発明の呼吸回路に用いる人工鼻のその他の実施態様は、前記ヒータが、前記保水領域が形成された領域の前記外殻の外側に配設された板状のヒータから構成される人工鼻である。
【0014】
本実施態様によれば、保水領域が形成されている領域にヒータが配設されているので、保水領域内に蓄えられた水を十分に加熱して水蒸気を発生させることができ、更に、保水領域に対応した十分な加湿エリアを用いて、吸気ガスを加温及び加湿することができる。同様に、加湿エリアに対応した十分な加温エリアを用いて、吸気ガスを加温することができる。
また、板状のヒータを外殻の外側に配設させることによって、効率よく保水領域及び通気領域の加熱を行なうことができる。
【0015】
本発明の呼吸回路に用いる人工鼻のその他の実施態様は、前記ヒータへの投入電力を調整することにより、前記吸気ガスの加温及び加湿を同時に調整可能な人工鼻である。
【0016】
仮に、通気領域を流れる吸気ガスの流量が増えた場合には、吸気ガスに加えるべき水蒸気量及び熱量を増加させる必要があり、逆に、吸気ガスの流量が減った場合には、吸気ガスに加えるべき水蒸気量及び熱量を低減させる必要がある。つまり、吸気ガスに加えるべき水蒸気量及び熱量は、正の相関を有している。従って、本実施態様のように、1つのヒータの投入電力を調整することによって、吸気ガスの加温及び加湿を同時に調整することが可能であり、機器構成や制御プロセスを簡略化することができる。
【0017】
本発明の呼吸回路に用いる人工鼻のその他の実施態様は、前記透湿耐水膜が樹脂製シートまたは樹脂製フィルムからなる人工鼻である。
【0018】
本実施態様によれば、樹脂材料を用いることにより、信頼性の高い透湿耐水膜を得ることができる。
【0019】
本発明の呼吸回路に用いる人工鼻のその他の実施態様は、前記透湿耐水膜が透湿耐水性を有する不織布を含む人工鼻である。
【0020】
ここで、「透湿耐水膜が透湿耐水性を有する不織布を含むこと」には、不織布のみを用いる場合も含まれるし、不織布とその他の部材、例えば吸水ポリマー等とを組み合わせた材料を用いることも含まれる。本実施態様によれば、比較的低い製造コストで十分な透湿耐水性を有する膜を得ることができる。
【0021】
本発明の呼吸回路に用いる人工鼻のその他の実施態様は、更に、前記透湿耐水膜が多孔質素材または無多孔質素材からなる人工鼻である。
【0022】
ここで、多孔質素材とは、水滴は通さないが、水蒸気を始めとする気体を透過する微細な孔を有する素材である。一方、無多孔質素材は気体を、液体及び気体を透過する微細な孔を有しておらず、例えば、水滴が接した面から水分が素材内を浸透、拡散し、反対側の面から蒸発することによって、透湿耐水性能を発揮する。
本実施態様によれば、透湿耐水膜として、多孔質素材も無多孔質素材も用いることができるので、多彩な材質の中から透湿耐水膜として最適なものを選択することができる。
【0023】
本発明の呼吸回路に用いる人工鼻のその他の実施態様は、前記熱水分交換エレメントが樹脂製発泡体、綿状に絡み合った樹脂繊維または吸湿紙から構成される人工鼻である。
【0024】
本実施態様によれば、熱水分交換エレメントとして、様々な材料を用いることができる。
熱水分交換エレメントが樹脂製発泡体や樹脂繊維から構成される場合には、信頼性、耐久性が高い熱水分交換エレメントを提供することができ、熱水分交換エレメントが吸湿紙から構成される場合には、低コストで熱水分交換エレメントを提供することができる。使用状況に応じて、最適な材料を用いることが好ましい。
【0025】
本発明の呼吸回路に用いる人工鼻のその他の実施態様は、更に、前記透湿耐水膜の内面側に、該内面に接するようにチューブ状の補強部材が配設された人工鼻である。
【0026】
ここで「チューブ状」とは、内部が中空になった筒状の形状であって、円形、楕円形、多角形を含む任意の断面形状を有するものが含まれる。また、縦横比(例えば、断面の直径と長手方向の長さの比)についても、任意のプロフィールのものが含まれる。
本実施態様によれば、透湿耐水膜で構成されるチューブが通気領域を確保する形状(例えば円筒形状)を保つだけの強度を有さない場合であっても、透湿耐水膜の内面に接するようにチューブ状の補強部材が配設されているので、透湿耐水膜で構成されるチューブを当該形状に保つことができ、湿耐水膜が内側へ膨らむのを防いで、十分な大きさの通気領域を確保することができる。
なお、チューブ状の補強部材によって確保される通気領域の断面形状は、円形に限られず、楕円や多角形を始めとする任意の断面形状を有することができる。
【0027】
本発明の呼吸回路に用いる人工鼻のその他の実施態様は、更に、前記外殻と前記透湿耐水膜との間の前記保水領域に螺旋状芯材が配設され、前記給水口から供給された水が該螺旋状芯材で形成された螺旋状の流路に沿って流れる人工鼻である。
【0028】
本実施態様によれば、透湿耐水膜で構成されるチューブが、通気領域を確保する形状(例えば円筒形状)を保つだけの強度を有さない場合であっても、保水領域に螺旋状芯材が配設されているので、透湿耐水膜で構成されるチューブを当該形状に保つことができ、湿耐水膜が内側へ膨らむのを防いで、十分な大きさの通気領域を確保することができる。また、水は螺旋状芯材で形成された螺旋状の流路に沿って流れるので、螺旋状芯材が保水領域水の流れを妨げることはない。
なお、螺旋状芯材によって確保される通気領域の断面形状は、円形に限られず、楕円や多角形を始めとする任意の断面形状を有することができる。
【0029】
本発明の呼吸回路の1つの実施態様は、上記の人工鼻と、前記人工鼻の前記通気領域に連通した吸気側チューブ及び呼気側チューブと、前記吸気側チューブに吸気ガスを供給する吸気供給源と、前記給水口を介して略一定の静圧で前記保水領域へ水を供給する給水手段と、を備え、前記透湿耐水膜を通過して流出した水蒸気量に対応した水量だけ、前記給水手段が前記保水領域に水を補給する呼吸回路である。
【0030】
本実施態様によれば、上記の人工鼻が有する作用効果に加え、略一定の静圧を加えることにより、透湿耐水膜を通過して出ていった水蒸気量に対応した水量だけ保水領域に水を補給することができるので、余分な制御等を行なうことなく、長期間安定して吸気ガスを加温及び加湿可能な呼吸回路を提供することができる。
【0031】
本発明の呼吸回路のその他の実施態様は、前記給水手段が、水を収容した容器からの滴下により水を供給し、該滴下速度を測定する滴下速度測定手段と、前記滴下速度測定手段から送信された滴下速度測定データに基づいて、該滴下速度が所定値を超えたとき、または該滴下速度が所定値を下回ったときに警報を出す制御処理を行なう制御手段と、を備えた呼吸回路である。
【0032】
本実施態様によれば、水を収容した容器からの滴下速度が所定値を超えたとき、警報を出す制御処理を行なうので、仮に、透湿耐水膜が破損して漏水の事態が生じたとしても、速やかに警報を出して使用者の安全を確保することができる。また、水を収容した容器からの滴下速度が所定値を下回ったときも、警報を出す制御処理を行なうので、仮に、供給水タンクが空になったり、何らかの理由(例えば、チューブの閉塞)で水が人工鼻へ供給されなくなった場合であっても、速やかに警報を出して使用者の安全を確保することができる。
【発明の効果】
【0033】
以上のように、本発明の人工鼻及びこの人工鼻を備えた呼吸回路においては、保水領域から透過した水蒸気によって吸気ガスに熱及び水分を供給し、同時にヒータから吸気ガスに更なる熱を供給する第2の加温加湿プロセスによって、熱水分交換エレメントによる第1の加温加湿プロセスだけでは不十分な吸気ガスの加温及び加湿を補って、使用者にとって十分な吸気ガスの加温及び加湿を実現できる。更に、ヒータの加熱により生じた水蒸気だけが透湿耐水膜を通過するので、過剰な水分が熱水分交換エレメントに供給されて吸気ガス及び呼気ガスの流路が閉塞される恐れがなく、また過剰な水分が使用者の気管や肺に流れ込む危険性がないので、安全が確保された状態で、使用者にとって十分な加湿、加温を実現することができる。更に、人工鼻の外周に沿ってヒータの熱源で人工鼻が暖められるため、人工鼻自身が外部温度(室温や空調機等の風による影響)等の影響を受けないで安定した加温加湿を保つことができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の呼吸回路に用いる人工鼻の実施形態について、以下に図面を用いながら詳細に説明する。
(本発明に係る人工鼻の第1の実施形態の説明)
図1は、本発明に係る人工鼻の第1の実施形態の外形を示す図(写真)である。本実施形態の人工鼻2は、人工鼻本体2aと、その両端に一体的に形成された使用者側端部2b及び吸気供給源側端部2cとから構成される。
図2は、
図1に示す人工鼻の内部の構造を示す模式図である。
図2(a)は、人工鼻2を側面から見た模式図であり、人工鼻本体2aの部分は、外殻4が取り除かれて内部が露出した状態を示している。また、
図2(b)は、
図2(a)の矢印A−Aから見た断面図である。
【0036】
人工鼻本体2aは、気密性水密性を有する円筒状の外殻4と、外殻4の内面全周に配設された透湿耐水性を有する透湿耐水膜6と、透湿耐水膜6の内側に設置された熱水分交換エレメント14と、外殻4の外側に巻き付けられた線状ヒータ8とを備える。これにより、外郭4の内面と透湿耐水膜6の外面との間に保水領域10が形成され、透湿耐水膜6の内面側には、通気領域12が形成されている。つまり、透湿耐水膜6によって、保水領域10と通気領域12とが区分されている。そして、この通気領域12内に熱水分交換エレメント14が装着されている。ここで、熱水分交換エレメント14とは、熱及び水分を捕捉及び保持し、更に捕捉及び保持した熱及び水分を放出可能な材料である。本実施形態の熱水分交換エレメント14は、樹脂製発泡体から構成されているが、綿状に絡み合った樹脂繊維(例えば、ナイロンたわし状のもの)から構成することもできる。このような樹脂材料を用いた熱水分交換エレメント14は、信頼性や耐久性に優れている。その他、例えば、吸湿紙で構成することも可能であり、この場合には、低コストで熱水分交換エレメント14を提供することができる。以上のように、使用状況に応じて、最適な材料を用いることが好ましい。
【0037】
外殻4には給水口16が一体的に形成されており(
図1には図示されていない)、この給水口16に給水チューブ38が接続される。
図2(a)に示すように、水容器24から供給される水は、滴下チャンバ26及び給水チューブ38を経て、給水口16から保水領域10内へ導かれる(滴下チャンバ26の詳細な説明は、
図5を用いて後述する)。この場合、水頭H(滴下チャンバ26の水面と保水領域10との高さの差)の静圧力で保水領域10に水が供給される。外殻4は気密性水密性を有し、透湿耐水膜6は、水蒸気のような気体は透過させるが液体の水は透過させない透湿耐水性を有するので、給水口16から供給された水は、外殻4と透湿耐水膜6との間に形成された保水領域10内に保持される。
また、本実施形態の線状ヒータ8は、線状の抵抗加熱式ヒータ(所謂リボンヒータ)であり、保水領域10が形成された全領域の外殻4の外表面に巻き付けられている。
【0038】
以上のような構成の人工鼻2は、
図5に示すように、一端がY字型コネクタ36を介して、吸気側チューブ32及び呼気側チューブ34と連通し、もう一端が使用者の気管内チューブに接続される。この気管内チューブは、鼻(経鼻挿管の場合)、口(経口挿管の場合)または気管(気管挿管の場合)から患者に挿入される。また、吸気側チューブ32は吸気供給源22に接続されている。よって、吸気供給源22により所定の流量の吸気ガスが吸気側チューブ32に供給され、吸気ガスは、吸気側チューブ32、Y字型コネクタ36を通って人工鼻2の通気領域12の中を流れ、使用者に供給される。また、使用者からはきだされた呼気ガスは、人工鼻2の通気領域12の中を流れて、Y字型コネクタ36、呼気側チューブ34を通って大気中へ放出される。
【0039】
図2では、白抜き矢印に示すように、吸気ガスは、人工鼻本体2aの通気領域12内を図面右側から左側へ流れ、呼気ガスは、人工鼻2の通気領域12内を図面左側から右側へ流れる。外殻4は、通常、円形の断面形状を有する円筒状であるが、これに限られるものではなく、例えば、楕円や多角形の断面形状を有する場合もあり得る。
【0040】
本実施形態では、人工鼻本体2aの通気領域12内の全領域に熱水分交換エレメント14が装着されている。呼気ガスは、37℃前後の温度と100%の相対湿度を有するが、熱水分交換エレメント14によって、使用者からはき出された呼気ガスに含まれる熱及び水分を捕捉して保持することができる。そして、熱水分交換エレメント14内を次に流れる吸気ガスに、捕捉及び保持した熱及び水分を放出して、吸気ガスを加温及び加湿する第1の加温加湿プロセスを行なう。
ただし、第1の加温加湿プロセスだけでは、吸気ガスの加温及び加湿を十分に行なうことはできない。そこで、本実施形態では、保水領域10から透過した水蒸気によって吸気ガスに熱及び水分を供給し、同時にヒータ8から吸気ガスに更なる熱を供給する第2の加温加湿プロセスを行なう。
【0041】
つまり、保水領域10内に水が保持された状態で、線状ヒータ8に所定の電力を供給することにより、保水領域10内に保持された水が加熱されて水蒸気が発生する。発生した水蒸気は、
図2の破線の矢印に示すように、透湿耐水膜6を透過して、通気領域12に装着された熱水分交換エレメント14内に流入し、熱水分交換エレメント14内を通過する吸気ガスに供給される。これにより、吸気ガスの加温及び加湿を行なうことができる。
これと同時に、線状ヒータ8によって、保水領域10内の水だけでなく、通気領域12の熱水分交換エレメント14内を通過する吸気ガスに所定の熱量を与えることができるので、吸気ガスの加温も行なうことができる。以上のように、熱水分交換エレメント14による第1の加温加湿プロセスに加えて、保水領域10から熱及び水分を吸気ガスに供給し、同時に線状ヒータ8により吸気ガスに更なる熱を加える第2の加温加湿プロセスによって、使用者にとって十分な吸気ガスの加湿と加温を実現できる。
【0042】
本実施形態では、線状ヒータ8によって、吸気ガスの加温及び加湿を同時に行うことができる。仮に、通気領域12内を流れる吸気ガスの流量が増えた場合には、吸気ガスに加えるべき水蒸気量及び熱量を増加させる必要があり、吸気ガスの流量が減った場合には、吸気ガスに加えるべき水蒸気量及び熱量を低減させる必要がある。つまり、吸気ガスに加えるべき水蒸気量及び熱量は、正の相関を有している。従って、本実施形態のように、1つの線状ヒータ8の投入電力を調整することによって、吸気ガスの加温及び加湿を同時に調整することが可能であり、機器構成や制御プロセスを簡略化することができる。
【0043】
また、本実施形態では、保水領域10が形成された全領域の外殻4の外側に、線状ヒータ8が配設されている。これにより、保水領域10内に蓄えられた水を十分に加熱して水蒸気を発生させることができ、更に、保水領域10に対応した十分な加湿エリアを用いて、通気領域12の熱水分交換エレメント14内を通過する吸気ガスを加温及び加湿することができる。同様に、加湿エリアに対応した十分な加温エリアを用いて、通気領域12の熱水分交換エレメント14内を通過する吸気ガスを加温することができる。
以下に、本実施形態の人工鼻2を構成する構成要素について、詳細な説明を行なう。
【0044】
<外殻4の説明>
外殻4は、気密性水密性を有しかつ可撓性を有する樹脂材料から構成され、本実施形態では、塩化ビニルから構成されている。ただし、これに限られるものではなく、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレン及びエチレン酢酸ビニル、ポリ塩化ビニルを始めとするその他の任意の樹脂材料を用いることができる。
また、外殻4によって、人工鼻本体2aと、その両端に、使用者側端部2b及び吸気供給源側端部2cが一体的に形成されている。
本実施形態の外殻4は、凹凸部が形成されており、凹部に線状ヒータ8が巻き付けられている。本実施形態のヒータ8は、1本の線状ヒータで構成されており、図示されていないが、各凹部に巻き付けられた線状ヒータ8は、紙面横方向に伸びる線状ヒータ8で互いに繋がっている。なお、凹部を螺旋状に形成して、この螺旋状の凹部に沿って、線状ヒータ8を外殻4の外表面に巻き付けることもできる。
【0045】
本実施形態では、ヒータ8が、外殻4の凹部に設置されているため、人工鼻2を素手でさわったり、患者の皮膚にあたっていても、火傷をする恐れがない。また、この外殻4の外周の凹部は、人工鼻2の円柱がつぶれにくいよう強度を増すための強度部材の役目も果たしている。また、人工鼻2の使用者側端部2bは、使用者側端部2bの先を患者に取り付けやすくするため、フレキシブルにチューブが動くようになっている。なお、使用者側端部2bを有さない人工鼻2も本発明に含まれるが、この場合には、人工鼻2に別部材であるフレキシブルチューブを装着して用いることが好ましい。
【0046】
以上のような構成により、保水領域10の外殻4の全周において、線状ヒータ8を均等に配設することができる。これにより、保水領域10の全域において、均等な水の加熱及び均等な吸気ガスの加温を実現できる。ただし、外殻4の外表面の形状はこれに限られるものではなく、凹凸部のないフラットな外表面を有することもできる。
【0047】
<透湿耐水膜6の説明>
本実施形態の透湿耐水膜6は、透湿耐水性シートまたは透湿耐水性フィルムから構成され、このシート/フィルムを外殻4の内径よりもわずかに小さな径で筒状に巻いて、その両端部を長手方向全長においてシール接合することにより形成できる。この筒状の透湿耐水膜6を人工鼻本体2aの外殻4の中に挿入し、この外殻4の長手方向の両端部で、外殻4と透湿耐水膜6とをシール接合することにより、
図2(a)に示す構造を形成できる。これらのシール結合は、接着剤を用いて実現できる。
なお、保水領域10に加わる静圧(例えば、水頭H=100cmH
2O)は大きくないので、人工鼻本体2aの外殻4の長手方向の両端部で接合することにより、十分な透湿耐水膜6の剛性は得られると考えられるが、必要に応じて、所定のピッチを置いて、外殻4と透湿耐水膜6とをスポット的に接合することもできる。
【0048】
透湿耐水膜6に用いる透湿耐水性シート/フィルムとしては、水蒸気を十分に透過可能な透湿性能と、加えられる水圧に十分に耐えうる耐水圧性能を有する必要がある。そのような性能を要する透湿耐水性シート/フィルムとしては、
図6に示すような多孔質素材及び無多孔質素材を用いることができる。
【0049】
図6左図に示すように、多孔質素材とは、水滴は通さないが、気体は透過する微細な孔を有する素材であり、水分子からなる気体である水蒸気がこの微細な孔を透過することができる。水蒸気の透過量は、多孔質素材で遮られる両側の空間の湿度差及び温度差で定められる。つまり、
図6左図で、多孔質素材の右側の領域の湿度が低く、温度が高い場合には、水蒸気の透過量は増加する。
このような構造により、多孔質素材は、水蒸気を十分に透過可能な透湿性能と、加えられる水圧に十分に耐えうる耐水圧性能を有することができる。なお、具体的な多孔質素材としては、後述する表1に示される材料を例示することができる。
【0050】
一方、無多孔質素材は、
図6右図に示すように、液体及び気体を透過する微細な孔を有しておらず、水滴が接した面から水分が素材内を浸透、拡散し、反対側の面から蒸発することによって透湿耐水性能を発揮する。この水蒸気の透過量は、多孔質素材で遮られる両側の空間の温度差で定められる。つまり、
図6右図で、多孔質素材の右側の領域の温度が高い場合には、水蒸気の透過量は増加する。
【0051】
このような構造により、無多孔質素材は、水蒸気を十分に透過可能な透湿性能と、加えられる水圧に十分に耐えうる耐水圧性能を有することができる。なお、具体的な無多孔質素材としては、アルケマ(ARKEMA)社が供給する透湿耐水性シート/フィルムやアクゾノーベル社が供給する商標名シンパテックス(SYMPATEX)という透湿耐水性シート/フィルムを例示することができる。
【0052】
図7には、透湿耐水膜6として無多孔質素材を用いた場合の人工鼻2の実施形態を示す。この人工鼻2は、気密性水密性を有するチューブ状の外殻4と、外殻4の内面全周に配設された無多孔質素材からなる透湿耐水膜6とを備え、両端では、シール部材62により外殻4と透湿耐水膜6とがシール接合されている。これにより、外郭4の内面と透湿耐水膜6の外面との間に保水領域10が形成され、透湿耐水膜6の内面側には、通気領域12(内部に熱水分交換エレメント14充填)が形成されている。
なお「チューブ状」とは、内部が中空になった筒状の形状であって、円形、楕円形、多角形を含む任意の断面形状(
図7では円形形状)を有するものが含まれる。また、縦横比(例えば、断面の直径と長手方向の長さの比)についても、任意のプロフィールのものが含まれ、
図7に示すようなプロフィールだけでなく、
図1〜
図5に示すようなプロフィールも含まれる。
【0053】
水容器24に蓄えられた水が、給水チューブ38を経て、給水口16から保水領域10内へ導かれる。このとき、水を保水領域10内へ流入させるには、予め保水領域10内に存在する空気を保水領域10の外へ排気する必要がある。この場合、透湿耐水膜6が多孔質素材であれば、多孔質素材の微細な孔を通して空気を排気することができるが、透湿耐水膜6が無多孔質素材の場合には、透湿耐水膜6を通して排気することができない。
【0054】
そこで、
図7に示す実施形態では、排気口60を備えており、排気口60を介して、予め保水領域10内に存在する空気を排気する。この排気口60には逆止弁が備えられており、保水領域10内の空気を排気することはできるが、外部の空気が保水領域10内に流入しないようになっている。なお、
図7では、ボール式の逆止弁が示されているが、これに限られるものではなく、その他の任意のタイプの逆止弁を用いることができる。
【0055】
また、本実施形態では、保水領域10内の空気が全て排気された後、排気口60にキャップを被せることにより、保水領域10内の水が外部へ流出しないようにしている。ただし、これに限られるものではなく、例えば、排気口60の上部開口に多孔質素材を張ることにより、空気は流れるが水が流れないような排気口60を形成することもできる。
また、外郭4と透湿耐水膜6の間に形成された保水領域10の中に吸湿性の高い材料、例えば、吸水ゲルや濾紙等を入れることもできる。
以上のように、本実施形態では、排気口60を備えることによって、透湿耐水膜6として、多孔質素材だけでなく、無多孔質素材を用いることもできるので、多彩な材質の中から、透湿耐水膜6として最適なものを選択することができる。
【0056】
次に、透湿耐水膜6として必要な透湿性能(透湿度)と耐水圧性能(耐水圧)を検討すると、以下のようになる。
人工鼻や麻酔で求められる理想的な加温加湿条件は、一般的に、温度37℃で相対湿度100%(44mg/L最大)の吸気ガスを使用者に供給することである。一方、熱水分交換エレメント14により呼気ガスから吸気ガスへ移すことのできる水量は、最大30mg/Lである。従って、透湿耐水膜6を透過させた水蒸気により、差し引き14mg/L(=44−30)の水分を吸気ガスの供給する必要がある。
よって、成人男性の呼吸量を6L/minとすると、24時間で透湿耐水膜6を透過して吸気ガスへ供給すべき最大水蒸気量は、
6(L/min)×14(mg/L)×60×24×1/1000
=約121g/24hrsとなる。
また、水蒸気を透過させる加湿面積(透湿耐水膜6の面積)を考えると、例えば、保水領域10の内径が3cmで長さを20cmと仮定すると、約0.019m
2(=3/100×20/100×3.14)となる。
【0057】
従って、加湿面積0.019m
2の透湿耐水膜6全域で、121g/24hrsの水蒸気を透過させる必要があるので、透湿耐水膜6に用いる透湿耐水シート・フィルムは、約6,368g/m2・24hr(=121/0.019)の透湿度が必要となる。
次に、透湿耐水膜6の対水圧性能(対水圧)を検討すると、人工鼻2及び給水手段30の具体的な配置を考慮すると、
図2に示すHの寸法として、40cm〜200cm程度が考えられる。従って、対水圧としては、200cmH
2O以上が必要であると考えられる。
【0058】
実用上必要な透湿性能としては、ある程度の安全係数を考慮して、透湿度(JIS K7129(A法))において、7,000g/m2・24hr以上が好ましく、10,000g/m2・24hr以上がより好ましく、12,000g/m2・24hr以上が更に好ましい。
また、対水圧としては、ある程度の安全係数を考慮して、400cmH
2O以上が好ましく、800cmH
2O以上がより好ましく、1000cmH
2O以上が更に好ましい。
このような透湿性能及び対水圧性能を有する具体的な材料(多孔質素材)の一例を下表に示す。下表では、樹脂性シート/フィルム及び不織布を含む材料を示してある。
【0060】
透湿性能及び対水圧性能を有する樹脂性材料(例えば、表1の#1〜5の材料)を用いる場合には、信頼性の高い透湿耐水膜6を得ることができる。また、不織布を用いる場合には、比較的低い製造コストで透湿耐水膜6を得ることができる。なお、不織布単体の場合には、一度水が透過するとその箇所から大きな漏水が生じる恐れがあるので、例えば、不織布と吸水ポリマー等とを組み合わせた材料(例えば、表1の#6の材料)を用いることが好ましい
ただし、透湿耐水膜6に用いる透湿耐水シート/フィルム及び不織布を含む材料としては、上記の樹脂性シート/フィルム及び不織布を含む材料に限られるものではなく、所定の耐湿性能及び対水圧性能を有する任意の樹脂性シート/フィルム及び不織布を含む材料を用いることができる。
【0061】
<ヒータ8の説明>
本実施形態では、ヒータ8として所謂リボンヒータ(耐熱ガラス繊維で織られた布で被覆されたニクロム線)が用いられているので、可撓性に優れ、外殻4の外表面の凹部に沿って容易に巻き付けることができる。
なお、細いニクロム線状のヒータ線8を外殻4の中に埋め込む方法も考えられる。この場合には、外殻4を構成する部材を二枚貼り合わせで、その貼り合わせの中にヒータ線8を入れて形成する。これにより絶縁もできるため、ヒータ線8が存在しない人工鼻とほとんど変わらない外形、重量、使い勝手を有する人工鼻2を提供できる。
【0062】
図2に示す実施形態では、線状ヒータ8にはヒータケーブル8aが接続され、ヒータケーブル8aのもう一端には、ヒータ電源コネクタ8bが接続され終端している。また、保水領域10内にはサーミスタ18が配置され、このサーミスタ18にはサーミスタケーブル18aが接続され、サーミスタケーブル18aのもう一端には、サーミスタコネクタ18bが接続され終端している。そして、
図5に示すように、ヒータ電源コネクタ8b及びサーミスタコネクタ18bはそれぞれヒータ出力調整手段42に接続されている。
ここで、サーミスタとは、温度によって抵抗の値が変化する酸化物半導体材料でできた温度センサ素子の1種であり、本実施形態では、サーミスタ18による測温データに基づいて、ヒータ出力調整手段42によりヒータ8への投入電力を調整して、常に保水領域10内の温度が40℃に保たれるようにしている。これにより、最適な加温及び加湿を実現することができる。
【0063】
図2に示すように、保水領域10が形成されている領域に線状ヒータ8が配設されているので、保水領域10内に蓄えられた水を十分に加熱して水蒸気を発生させることができ、更に、保水領域10に対応した十分な加湿エリアを用いて、通気領域12の熱水分交換エレメント14内を通過する吸気ガスを加温及び加湿することができる。同時に、加湿エリアに対応した十分な加温エリアを用いて、通気領域12の熱水分交換エレメント14内を通過する吸気ガスを加温することができる。これにより、熱水分交換エレメント14による加温及び加湿では不十分な熱及び水分を補って、温度37℃であって相対湿度100%の吸気ガスを使用者に供給することができる。
【0064】
次に、ヒータ8の具体的な加熱容量を検討する。上記のように、121g/24hrsの水蒸気を発生させる場合を考えると、水の20℃(保水領域10内の水温)での蒸発熱を586cal/gとし、投入電力に対するヒータの熱効率を20%と仮定すると、ヒータに必要な投入電力は、121(g/24hrs)×586(cal/g)×1/24×1/860(cal/W・h)/0.2=17W・hrとなる。
【0065】
従って、ある程度の安全係数を考慮して、20〜30W・hr程度の電力をヒータ8に投入すれば、十分な水蒸気を発生させることができると考えられる。一方、吸気ガスを加温する場合には、水の蒸発熱に比べて吸気ガスの比熱は非常に小さいので、20〜30W・hr程度の電力をヒータ8に投入すれば、吸気ガスの加温も十分に賄えると考えられる。なお、上記の投入電力はあくまで一例にすぎず、実際に用いる吸気ガスの流量や保水領域の範囲に合わせて、最適なヒータ容量を定めればよい。吸気ガスの流量や保水領域の範囲を考慮すると、15〜100W程度の容量のヒータ8を備えることが好ましいと考えられる。
【0066】
<加温及び加湿のバランスの説明>
上記のように、吸気ガスに加えるべき水蒸気量及び熱量は正の相関を有しているので、本実施形態のように、1つの線状ヒータ8の投入電力を調整することによって、吸気ガスの加温及び加湿を同時に調整することができる。しかし、吸気ガスに加える水蒸気量と熱量とを個別に調整することができないので、予め水蒸気量及び熱量のバランスがとれるように、保水領域10の容積、線状ヒータ8の容量、加湿面積、加温面積等を調整する必要がある。つまり、線状ヒータ8へ投入する電力の調整範囲内において、実用上支障が起きない比率で加湿及び加温が生じるようにする必要がある。
【0067】
例えば、同じ加湿面積、加温面積であっても、外殻4と透湿耐水膜6との間の間隔が異なれば、保水領域10の容積も変化するので、同じ電量(電力)を線状ヒータ8に投入したとしても、水蒸気の発生量が異なる。また、加湿に対して加温の割合を増やしたい場合には、保水領域10が存在しない領域の外殻4の外側にヒータ8を配設することもできる。逆に、加温に対して加湿の割合を増やしたい場合には、透湿耐水膜6として断熱性の高い材料を用いることも考えられる。
以上のような様々な要素を調整することにより、1つの線状ヒータ8の投入電力を調整することによって、実用上問題なく吸気ガスの加温及び加湿を同時に調整することができる。
【0068】
<給水口16の説明>
本実施形態では、給水口16は外殻4と共に一体成型により形成されている。ただし、これに限られるものではなく、外殻4にチューブの外径とほぼ同一の径の孔をあけ、この孔に給水チューブを差し込み、接着剤を用いてチューブの外周と外殻4とをシール結合することにより形成することもできる。
【0069】
以上のように、上記の実施形態によれば、保水領域10から透過した水蒸気によって吸気ガスに熱及び水分を供給し、同時にヒータから吸気ガスに更なる熱を供給する第2の加温加湿プロセスによって、熱水分交換エレメント14による第1の加温加湿プロセスだけでは不十分な吸気ガスの加温及び加湿を補って、使用者にとって十分な吸気ガスの加温及び加湿を実現できる。更に、本実施形態においては、線状ヒータ8の加熱により生じた水蒸気だけが透湿耐水膜6を通過するので、過剰な水分が熱水分交換エレメント14に供給されて吸気ガス及び呼気ガスの流路が閉塞される恐れがなく、また過剰な水分が使用者の気管や肺に流れ込む危険性がないので、安全が確保された状態で、使用者にとって十分な加湿、加温を実現することができる。更に、人工鼻の外周に沿ってヒータの熱源で人工鼻が暖められるため、人工鼻自身が外部温度(室温や空調機等の風による影響)等の影響を受けないで安定した加温加湿を保つことができる。
【0070】
なお、本実施形態では、熱水分交換エレメント14が装着された領域と、保水領域10やヒータ8が設けられた領域とが一致しているが、これに限られるものけではなく、例えば、保水領域10や線状ヒータ8が、熱水分交換エレメント14が装着されていない領域にも設けることもできる。つまり、熱水分交換エレメント14を介さずに、通気領域12内を通過する吸気ガスを加温及び加湿することもできる。更に、保水領域10も存在せず、外殻4の外側に線状ヒータ8だけが設置された領域が存在し、この領域で通気領域12内を通過する吸気ガスを加温だけすることも考えられる。なお、熱水分交換エレメント14により捕捉及び保持した水分を水蒸気にして吸気ガスに供給するため、熱水分交換エレメント14が装着された領域の外郭4の外側には、加熱のためのヒータ8を設置することが好ましい。
【0071】
(本発明に係る人工鼻の第2の実施形態の説明)
次に、
図3を用いて、本発明に係る人工鼻の第2の実施形態の説明を行なう。
図2に示す第1の実施形態では、線状ヒータ8により加熱を行なっているが、本実施形態では、板状のヒータ50により加熱を行なう点で異なる。その他の点については、本実施形態と
図2に示す実施形態とはほぼ同一なので、ヒータに関する差異点のみを以下に説明する。
【0072】
本実施形態の板状のヒータ50は、樹脂材料からなるヒータ本体52と、ヒータ本体52の面部に貼り巡らされた線状ヒータ8と、ヒータ本体52に取り付けられたクリップ54とにより主に構成される。板状ヒータ50は円筒状に曲げられており、クリップ54のバネ力により、円筒の内径が縮まる方向に付勢されている。従って、クリップ54を指で挟んで、円筒状に巻かれたヒータ本体52が開くようにして、人工鼻本体2aの外側に装着する。クリップ54のバネ力により、ヒータ本体52の内面と、人工鼻本体2aの外面とが強く接触するので、線状ヒータ8から発生した熱を、効率的に人工鼻本体2aに伝えることができる。
【0073】
本実施形態では、保水領域10が形成されている領域全体に板状のヒータ50が配設されているので、保水領域10内に蓄えられた水を十分に加熱して水蒸気を発生させることができ、更に、保水領域10に対応した十分な加湿エリアを用いて、通気領域12の熱水分交換エレメント14内を通過する吸気ガスを加湿することができる。同様に、加湿エリアに対応した十分な加温エリアを用いて、通気領域12の熱水分交換エレメント14内を通過する吸気ガスを加温することができる。これにより、熱水分交換エレメント14による加温及び加湿では不十分な熱及び水分を補って、十分に加温及び加湿された(例えば、温度37℃、相対湿度100%)の吸気ガスを使用者に供給することができる。
特に、本実施形態では、板状のヒータ50を人工鼻本体2aの外側に配設させることによって、効率よく保水領域10及び通気領域12の加熱を行なうことができる。
【0074】
(本発明に係る人工鼻の第3の実施形態の説明)
次に、
図4を用いて、本発明に係る人工鼻の第3の実施形態の説明を行なう。
図4(a)は、人工鼻2を側面から見た外形図であり、
図4(b)は、
図4(a)の矢印B−Bから見た断面図である。
【0075】
本実施形態の構成部材は、
図2に示す第1の実施形態と同様であり、外殻4と、外殻4の内面全周に配設された透湿耐水膜6と、線状ヒータ8と、熱水分交換エレメント14とを備える。そして、外郭4と透湿耐水膜6との間に保水領域10が形成され、透湿耐水膜6の内面側に通気領域12が形成されている。また、通気領域12内に熱水分交換エレメント14が装着され、外郭4に、保水領域10に水を供給するための給水口16が設けられている。
【0076】
本実施形態が第1の実施形態と異なるところは、
図4(b)に示す断面形状において、透湿耐水膜6が人の鼻腔のヒダのような波打った形状に形成されている点である。この波打った形状を形成するため、外殻4の内面に、内面から円の中心方向に伸びる透湿耐水膜支持柱6aが取り付けられている。また、本実施形態では、保水領域10内に線状ヒータ8が備えられており、具体的には、線状ヒータ8が透湿耐水膜支持柱6aに取り付けられている。ただし、これに限られるものではなく、例えば、第1の実施形態のように、外殻4の外側に線状ヒータを配設することも可能であるし、第2の実施形態のように、外殻4の外側に板状のヒータを装着することも可能である。
【0077】
本実施形態では、透湿耐水膜6が鼻腔のヒダのような波打った形状を有するので、通気領域12内を加温及び加湿する面積を大幅に増やすことができる。これにより、本実施形態では、使用者にとって十分な吸気ガスの加温及び加湿をより確実に実現できる。
なお、通気領域12内に熱水分交換エレメント14が存在しない人工鼻2も考えられ、この場合であっても、透湿耐水膜6が鼻腔のヒダのような波打った形状を有するので、通気領域12内を通過する吸気ガスを十分に加温及び加湿することが期待できる。
【0078】
(本発明に係る人工鼻を備えた呼吸回路の1つの実施形態の説明)
次に、
図5を参照しながら、本発明に係る人工鼻を備えた呼吸回路の1つの実施形態について詳細に説明する。ここで、
図5は、人工鼻2を始めとする呼吸回路20を構成する各機器を模式的に示した図である。
【0079】
本実施形態の呼吸回路20には、主に、人工鼻2と、人工鼻2の吸気供給源の端部2cと接続されたY字型コネクタ36と、Y字型コネクタ36の二股の端部に接続された吸気側チューブ32及び呼気側チューブ34と、吸気側チューブ32が接続されて吸気側チューブ32に吸気ガスを供給する吸気供給源22と、給水口16を介して略一定の静圧で保水領域10へ水を供給する給水手段30と、ヒータ出力調整手段42と、滴下速度監視手段40及び制御手段28とが備えられている。なお、
図5に示された人工鼻2は、線状ヒータ8が外殻4の外周に巻き付けられた実施形態(
図2参照)が示されているが、それに限られるものではなく、板状のヒータが取り付けられ実施形態(
図3参照)や、ヒータが保水領域内に取り付けられた実施形態(
図4参照)を用いることもできる。
ヒータ出力調整手段42は、人工鼻2の保水領域10内に設置されたサーミスタ18から送信されるサーミスタ信号(測温データ)に基づいて、ヒータ8へ供給する電力の調整を行なう。給水手段30に備えられた滴下速度検出手段40は、水の滴下速度を測定し、制御手段28は、滴下速度検出手段40から受信した測定データに基づいて、所定の警報を出す制御処理を行なう。
【0080】
また、このサーミスタ18及びその制御装置により吸気ガスの温度も測定することができる。よって、吸気ガスが所定の温度(例えば、43℃)を超えた場合に、高温警報を出す制御処理を行なうことができ、同様に、ヒータの断線等により吸気ガスの温度が所定値を下回った場合にも、低温警報を出す制御処理を行なうことができる。
【0081】
以上のような構成の呼吸回路20によって、吸気供給源22から供給された吸気ガスが吸気側チューブ32及びY字型コネクタ36を経て、人工鼻2内を通って使用者へ供給される。一方、使用者からはき出された呼気ガスは、人工鼻2を通って、Y字型コネクタ36及び呼気側チューブ34を経て、大気中に放出される。
このとき、人工鼻2の熱水分交換エレメント14によって中を通過する呼気ガスが含む熱及び水分を捕捉及び保持し、次に中を通過する吸気ガスに放出して吸気ガスの第1の加温加湿プロセスを行なうと共に、ヒータ8の加熱により生じた水蒸気が保水領域10から透湿耐水膜6を通過して、通気領域12の熱水分交換エレメント14内を通過する吸気ガスを加温及び加湿し、かつヒータ8によって、通気領域12の熱水分交換エレメント14内を通過する吸気ガスを加温する第2の加温加湿プロセスを行なう。
以下に、呼吸回路20を構成する各構成機器の説明を行なう。
【0082】
<ヒータ出力調整手段42の説明>
本実施形態のヒータ出力調整手段42では、人工鼻2に設置されたサーミスタ18から送信されたサーミスタ信号(測温データ)に基づいて、ヒータ8へ供給する電力を調整する制御処理を行なう。本実施形態では、サーミスタ18が設置された領域(例えば、保水領域10内)の温度が40℃に保たれるように、ヒータ8への投入電力が制御される。これにより、吸気ガスの最適な加温及び加湿を実現することができる。ただし、設定温度は40℃に限られるものではなく、用途や設定位置等に応じて任意の温度設定が可能である。
なお、本実施形態では、人工鼻2専用の小型なヒータ出力調整手段42を備えているが、これに限られるものではなく、呼吸回路20全体の制御手段を用いて、ヒータ8への投入電力が制御することもできる。
【0083】
<給水手段30の説明>
給水手段30は、水容器24と、上部で水容器24と連通し下部で給水チューブ38と連通した滴下チャンバ26とを備える。滴下チャンバ26の上部には、水容器24と連通した管26aが備えられ、水容器24内の水がこの管26aから滴下されて、人工鼻2の保水領域10に接続された給水チューブ38へ水を供給することができる。
図2を用いて既に説明したように、給水チューブ38へ供給された水は、給水口16を通って保水領域10に供給される。
【0084】
まず、保水領域10内に水を充填する手順を説明する。水容器24が取り付けられると、水圧で水が水容器24から保水領域10の中に流れていく。このとき、保水領域10の中に溜まっていた空気は、透湿耐水膜6を透過して通気領域12側へ抜けていく。保水領域10の中が水で満たされると、水容器24から水は流れ出なくなる。その後は、透湿耐水膜6を通過して通気領域12に出て行った水蒸気量に対応した水量だけ、管26aから滴下され保水領域10へ供給される。
逆に、通気領域12側から吸気ガスが透湿耐水膜6を透過して保水領域10内へ入ってくる可能性があるが、人工呼吸における最大圧は100cmH
2O以下であるため、水容器24が呼吸回路(人工鼻2)より100cm以上、上方に位置していれば(
図5でH>=100cm)、ガスの逆流は生じない。
なお、水容器24から人工気道2への給水チューブ38は、例えば、輸液に使用するような細いチューブを用いることが好ましい。細いチューブを用いてチューブ内の流動抵抗を大きくすることによって、ガスの逆流を更に効果的に防ぐことができる。
【0085】
滴下チャンバ26について、更に詳細に説明すると、管26aからの水の滴下により、滴下チャンバ26の下部に水が溜まって所定のレベル(Hで示すレベル)の水面が形成される。ここでは、滴下チャンバ26に形成された水面のレベルが、人工鼻2に対して高低差Hだけ高くなるように配置されている。
仮に、滴下チャンバ26内で水面のレベルが上昇する場合には、滴下チャン26内の空気圧が上昇して、水滴の形成の要因となる静水圧を減少させるように働くため、滴下速度が遅くなる。一方、仮に、滴下チャンバ26内で水面のレベルが降下する場合には、滴下チャン26内の空気圧が降下して、水滴の形成の要因となる静水圧を増加させるように働くため、滴下速度が速くなる。従って、滴下チャンバ26は、常に水面のレベルを一定にするように滴下速度を調整する自己調整機能を有する。
【0086】
以上のように、滴下チャンバ26内の水面のレベル変動は、人工鼻2との間の高低差Hに比べて極めて小さく、給水チューブ38の流動抵抗も存在するので、給水手段30は、人工鼻2の保水領域10へ概ね一定の静圧(水頭H)で水を供給することができる。これにより、人工鼻2の保水領域10においてヒータ8で加熱されて水蒸気となり、透湿耐水膜6を通過して通気領域12に出て行った水蒸気量に対応した水量だけ、給水手段30が保水領域10に水を補給することができる。
【0087】
以上のように、ほぼ一定の静圧(水頭H)を加えることにより、透湿耐水膜6を通過して出ていった水蒸気量に対応した水量だけ保水領域10に水を補給することができるので、余分な制御処理を行なうことなく、長期間安定して吸気ガスを加湿可能な呼吸回路20を提供することができる。
【0088】
<滴下速度測定手段40の説明>
次に、給水手段30に備えられた滴下速度測定手段40の説明を行なう。滴下速度測定手段40は、滴下チャンバ26の側部に設置されており、所定の波長の可視光を出射する発光素子40aと、受光素子40bとの間に水滴が落下するように配置されている。水滴が落下するときには、発光素子40aから受光素子40bへ入射する光(
図5の矢印参照)が遮られるため、水の滴下を感知することができる。滴下速度測定手段40に内蔵されたタイマにより、滴下と滴下の時間間隔を測定できるので、滴下速度を正確に測定することができる。そして、滴下速度測定手段40により測定された水の滴下速度のデータは、制御手段28へ送信される。
なお、本実施形態では、一例として、可視光センサを用いた滴下速度測定手段40を示しているが、これに限られるものではなく、赤外線センサを始めとするその他の任意のセンサを用いた滴下速度測定手段を適用することができる。
【0089】
<制御手段28の説明>
本実施形態の制御手段28としては、演算装置(CPU)、記憶装置(ROM、RAM)、外部インターフエス、駆動回路等を備えており、市販されているコンピュータを用いることもできる。
<<滴下速度に関する制御>>
制御手段28は、滴下速度測定手段40から送信された滴下速度測定データに基づき、水の滴下速度が所定値を越えたとき、または滴下速度が所定値を下回ったとき所定の警報を出す制御処理を行なう。つまり、何らかの理由で、人工鼻2の保水領域10へ流れる水量が増えると、上記の滴下チャンバ26の水面のレベルが下がり、滴下チャンバ26が有する自己調整機能により滴下速度が上がる。逆に、何らかの理由で、人工鼻2の保水領域10へ流れる水量が減ると、上記の滴下チャンバ26の水面のレベルが上がり、滴下チャンバ26が有する自己調整機能により滴下速度が下がる。また、水容器24の水が少なくなった場合にも、滴下チャンバ26における滴下速度が下がる。この滴下速度が所定値を越えた場合、または滴下速度が所定値を下回った場合には、例えば、警報を鳴らしたり、ランプ表示を行なったり、病院のシステムに信号を送信したりして、所定の警報を出す制御処理を行なう。
【0090】
ここで、滴下速度が所定値を越えた場合には、人工鼻2の透湿耐水膜6が損傷して、保水領域10内の水が通気領域12側へ漏水している可能性が高いので、速やかに警報を出すことによって、使用者が溺れる(気管、肺に水が入って窒息する)ことを未然に防ぎ、使用者の安全を確保することができる
また、水を収容した容器からの滴下速度が所定値を下回ったときも、警報を出す制御処理を行なうので、仮に、供給水タンクが空になったり、チューブの閉塞等で水が保水領域10へ供給されなくなった場合であっても、速やかに警報を出して使用者の安全を確保することができる。
【0091】
<その他の制御処理の説明>
本発明においては、例えば、吸気側チューブ32に備えられた温度測定手段により、人工鼻2の通気領域12内を流れる吸気ガスの温度を測定し、その測定データに基づいて、制御手段28が、吸気側チューブ32に備えられヒータの出力を調整して、吸気温度を制御することもできる。また、吸気側チューブ32に備えられた流量測定手段により、吸気ガスの流量を測定し、その測定データに基づいて、吸気供給源22の出力を調整して、吸気ガスの流量を制御することもできる。
【0092】
以上のように、本発明に係る人工鼻2及びこの人工鼻2を備えた呼吸回路20においては、保水領域10から透過した水蒸気によって吸気ガスに熱及び水分を供給し、同時にヒータから吸気ガスに更なる熱を供給する第2の加温加湿プロセスによって、熱水分交換エレメント14による第1の加温加湿プロセスだけでは不十分な吸気ガスの加温及び加湿を補って、使用者にとって十分な吸気ガスの加温及び加湿を実現できる。更に、本実施形態においては、線状ヒータ8の加熱により生じた水蒸気だけが透湿耐水膜6を通過するので、過剰な水分が熱水分交換エレメント14に供給されて吸気ガス及び呼気ガスの流路が閉塞される恐れがなく、また過剰な水分が使用者の気管や肺に流れ込む危険性がないので、安全が確保された状態で、使用者にとって十分な加湿、加温を実現することができる。
更に、人工鼻2の外周に沿ってヒータ8の熱源で人工鼻2が暖められるため、人工鼻2自身が外部温度(室温や空調機等の風による影響)等の影響を受けないで安定した加温加湿を保つことができる。
【0093】
(本発明に係る人工鼻及びその人工鼻を備えた呼吸回路のその他の実施形態の説明)
<本発明に係る人工鼻のその他の実施形態(1)の説明>
本発明に係る人工鼻のその他の実施形態(1)として、
図8を用いて、透湿耐水膜の内面側にチューブ状の補強部材が配設された人工鼻の説明を行なう。
図8において、人工鼻2は、気密性水密性を有するチューブ状の外殻4と、外殻4の内面全周に配設された透湿耐水膜6とを備え、更に、透湿耐水膜6の内面側に、チューブ状の補強部材である樹脂製円柱ネットチューブ64が、透湿耐水膜6の内面に接するように配設されている。このような構造により、外郭4の内面と透湿耐水膜6の外面との間に保水領域10が形成され、樹脂製円柱ネットチューブ64で支えられた透湿耐水膜6の内面側には、通気領域12(内部に熱水分交換エレメント14充填)が形成されている。また、水容器24に蓄えられた水が、給水チューブ38を経て、給水口16から保水領域10内へ導かれる。
【0094】
本実施形態では、チューブ状の補強部材64として樹脂製円柱ネットチューブが用いられているが、樹脂材料を用いかつメッシュ形状になっているので、実用上十分な強度を有しながら軽量な補強部材64を実現することができる。
ただし、チューブ状の補強部材64は、樹脂製に限られるものではなく、金属を始めとするその他の任意の材料を用いることができ、形状も円筒形状に限られるものではなく、その他の任意の形状を採用することができ、必ずしも、メッシュを有する必要はない。
【0095】
本実施形態によれば、透湿耐水膜6で構成されるチューブが円筒形状に保つだけの強度を有さない場合であっても、透湿耐水膜6の内面に接するように樹脂製円柱ネットチューブ64(チューブ状の補強部材)が配設されているので、透湿耐水膜6で構成されるチューブを円筒形状に保つことができ、湿耐水膜が内側へ膨らむのを防いで、十分な大きさの通気領域12(内部に熱水分交換エレメント14充填)を確保することができる。
【0096】
<本発明に係る人工鼻のその他の実施形態(2)の説明>
本発明に係る人工気道のその他の実施形態(2)として、
図9を用いて、外殻と透湿耐水膜との間の保水領域に螺旋状芯材が配設された人工鼻の説明を行なう。
図8において、人工鼻2は、気密性水密性を有するチューブ状の外殻4と、外殻4の内面全周に配設された透湿耐水膜6とを備え、これにより、外郭4の内面と透湿耐水膜6の外面との間に保水領域10が形成され、透湿耐水膜6の内面側には、通気領域12(内部に熱水分交換エレメント14充填)が形成されている。本実施形態では、更に、外殻4と透湿耐水膜6との間の保水領域10に、樹脂製の螺旋状芯材66が配設されている。
【0097】
また、水容器24に蓄えられた水が、給水チューブ38を経て、給水口16から保水領域10内へ導かれる。このとき、保水領域10内には、螺旋状芯材56によりガイドされた螺旋状の流路が形成されており、給水口16から供給された水は、この螺旋状の流路に沿って保水領域10内全体に流動することができる。
本実施形態の螺旋状芯材66は樹脂製であるが、それに限られるものではなく、金属を始めとするその他の任意の材質を用いることができ、形状も円筒形状に限られるものではなく、その他の任意の形状を採用することができる。
【0098】
この人工鼻2を形成するには、例えば、螺旋状芯材66の内側に透湿耐水膜6を接着し、螺旋状芯材56の外側に外殻4を接着し、両端で、透湿耐水膜6と外殻4とをシール接合することによって実現できる。
【0099】
本実施形態によれば、透湿耐水膜6で構成されるチューブが円筒形状に保つだけの強度を有さない場合であっても、保水領域10に螺旋状芯材66が配設されているので、透湿耐水膜6で構成されるチューブを円筒形状に保つことができ、湿耐水膜6が内側へ膨らむのを防いで、十分な大きさの通気領域12(内部に熱水分交換エレメント14充填)を確保することができる。また、水は螺旋状芯材66で形成された螺旋状の流路に沿って流れるので、螺旋状芯材66が保水領域10内の水の流れを妨げることはない。
なお、
図8、9に示すチューブ状の外郭4、樹脂製円柱ネットチューブ64、螺旋状芯材66等における縦横比(断面の直径と長手方向の長さの比)については、
図8、9に示すようなプロフィールだけでなく、
図1〜
図5に示すものを含む任意のプロフィールを採用することができる。
【0100】
<本発明に係る人工鼻のその他の実施形態(3)の説明>
本発明に係る人工鼻は、呼吸回路に用いない場合もある。例えば、気管切開をしている患者に気管チューブを装着したままの状態で自発呼吸させる場合、気管内チューブの先端に人工鼻を取り付けて大気から自発呼吸させる。これにより、気管上部(鼻から喉までの部分)がバイパスされていても人工鼻が気管上部の代行をある程度行なうことができる。
【0101】
本発明に係る人工鼻及びその人工鼻を備えた呼吸回路の実施形態は、上記の実施形態に限られるものではなく、その他の任意の実施形態が本願発明に含まれる。