(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【実施例1】
【0011】
まず、実施例1の車両用自動変速機の構成を説明する。
この実施例1の車両用自動変速機は、入力軸1と、4組の遊星歯車組2〜5と、6つの摩擦締結要素(ブレーキやクラッチからなる)6〜11と、出力軸12と、を備えている。
【0012】
入力軸1は、図示しないエンジン(ガソリン・エンジンやディーゼル・エンジンなどの内燃機関)に図示しないトルク・コンバータを介して常時連結される。
一方、出力軸12は、入力軸1と同心軸上に配置され、図示しない終減速機、差動歯車組を介して左右の駆動輪に連結されている。
【0013】
4組の遊星歯車組、すなわち第1遊星歯車組2、第2遊星歯車組3、第3遊星歯車組4、第4遊星歯車組5は、本実施例ではすべてシングル・ピニオン・タイプであって、入力軸1上で、エンジン側から出力軸12へ向けて上記の順に配置される。
【0014】
第1遊星歯車組2は、サン・ギヤ21と、リング・ギヤ22と、これらサン・ギヤ21およびリング・ギヤ22の両方に噛み合う複数のピニオン23を回転自在に支持するピニオン・キャリヤ24と、の3つの回転要素を備えている。ここで、第1遊星歯車組2の歯数比α1(サン・ギヤ21の歯数比/リング・ギヤ22の歯数比)は、たとえば0.4151に設定してある。
【0015】
第2遊星歯車組3は、サン・ギヤ31と、リング・ギヤ32と、これらサン・ギヤ31およびリング・ギヤ32の両方に噛み合う複数のピニオン33を回転自在に支持するピニオン・キャリヤ34と、の3つの回転要素を備えている。ここで、第2遊星歯車組3の歯数比α2(サン・ギヤ31の歯数比/リング・ギヤ32の歯数比)は、たとえば0.4871に設定してある。
【0016】
第3遊星歯車組4は、サン・ギヤ41と、リング・ギヤ42と、これらサン・ギヤ41およびリング・ギヤ42の両方に噛み合う複数のピニオン43を回転自在に支持するピニオン・キャリヤ44と、の3つの回転要素を備えている。ここで、第3遊星歯車組4の歯数比α3(サン・ギヤ41の歯数比/リング・ギヤ42の歯数比)は、たとえば0.4892に設定してある。
【0017】
第4遊星歯車組5は、サン・ギヤ51と、リング・ギヤ52と、これらサン・ギヤ51およびリング・ギヤ52の両方に噛み合う複数のピニオン53を回転自在に支持するピニオン・キャリヤ54と、の3つの回転要素を備えている。ここで、第4遊星歯車組5の歯数比α4(サン・ギヤ51の歯数比/リング・ギヤ52の歯数比)は、たとえば0.4697に設定してある。
【0018】
これらの4組の遊星歯車組2〜5は、以下のように連結される。
入力軸1は、第2遊星歯車組3のサン・ギヤ31および第4遊星歯車組5のピニオン・キャリヤ54に常時連結されている。
入力軸1と同心線上に配置された出力軸12は、第4遊星歯車組5のリング・ギヤ52およびこのギヤを介して第3遊星歯車組4のピニオン・キャリヤ44に常時連結されている。
【0019】
また、第1遊星歯車組2のピニオン・キャリヤ24は、第2遊星歯車組3のリング・ギヤ32に常時連結されている。
第1遊星歯車組2のサン・ギヤ21は、自動変速機ケース13に常時連結・固定されている。
【0020】
第1遊星歯車組2では、リング・ギヤ22がオッド・ナンバー・アンド・リバース・クラッチ7の締結により第3遊星歯車組4のサン・ギヤ41に連結可能である。また、サン・ギヤ21は、ハイ・アンド・リバース・クラッチ8の締結により第2遊星歯車組3のピニオン・キャリヤ34に連結可能である。
【0021】
第2遊星歯車組3では、ピニオン・キャリヤ34がロー・アンド・ハイ・クラッチ10の締結により第3遊星歯車組4のサン・ギヤ41に連結可能である。なお、リング・ギヤ32およびサン・ギヤ31の連結関係は前述したとおりである。
【0022】
第3遊星歯車組4では、リング・ギヤ42がロー・アンド・リバース・ブレーキ6の締結により自動変速機ケース13に連結・固定可能である。サン・ギヤ41はミドル・アンド・ハイ・クラッチ11の締結により第4遊星歯車組5のサン・ギヤ51に連結可能である。なお、ピニオン・キャリヤ44は上述したように第4遊星歯車組5のリング・ギヤ52に常時連結されている。
【0023】
なお、第4遊星歯車組の連結関係は、上述した連結関係から明らかであるので、その説明は省略する。
【0024】
なお、ハイ・アンド・リバース・クラッチ8は本発明の第1ブレーキに、ロー・アンド・リバース・ブレーキ6は本発明の第2ブレーキに、またオッド・ナンバー・アンド・リバース・クラッチ7は本発明の第1クラッチに、またインターメディエット・クラッチ9は本発明の第2クラッチに、またロー・アンド・ハイ・クラッチ10は本発明の第3クラッチに、またインターメディエット・アンド・ハイクラッチ11は本発明の第4クラッチに、また自動変速機ケース13および後で説明するハイ・アンド・リバース・クラッチ8の非回転部材側は本発明の静止部に、それぞれ相当する。
【0025】
また、第1遊星歯車組2のリング・ギヤ22は本発明の第1要素に、そのピニオン・キャリヤ24は本発明の第2要素に、またそのサン・ギヤ21は本発明の第3要素に、それぞれ相当する。
第2遊星歯車組3のリング・ギヤ32は本発明の第4要素に、そのピニオン・キャリヤ34は本発明の第5要素に、またそのサン・ギヤ31は本発明の第6要素に、それぞれ相当する。
第3遊星歯車組4のリング・ギヤ42は本発明の第7要素に、そのピニオン・キャリヤ44は本発明の第8要素に、またそのサン・ギヤ41は本発明の第9要素に、それぞれ相当する。
第4遊星歯車組5のリング・ギヤ52は本発明の第10要素に、そのピニオン・キャリヤ54は本発明の第11要素に、またそのサン・ギヤ51は本発明の第12要素に、それぞれ相当する。
【0026】
上記摩擦締結要素は、本実施例では油圧作動による多板式のものを用いる。
すなわち、ロー・アンド・リバース・ブレーキ6およびハイ・アンド・リバース・クラッチ8には、油圧作動式の多板ブレーキを、またオッド・ナンバー・アンド・リバース・クラッチ7〜インターメディエット・アンド・ハイ・クラッチ11の4個のクラッチには、油圧作動式の多板クラッチを用いる。ここで、ハイ・アンド・リバース・クラッチ8は、第1遊星歯車組2のサン・ギヤ21側の部材が自動変速機ケース13に常時固定されたサン・ギヤ21に接続されて常時固定の状態にあるので、ハイ・アンド・リバース・クラッチ8はブレーキとして機能する。
なお、これらの摩擦締結要素は、図示しないコントローラにより電子制御される図示しないコントロール・バルブからの圧油の供給、抜きにより、それらの締結、解放が制御される。これらのコントローラやコントロール・バルブの構成および作用はよく知られているので、ここではそれらの説明は省略する。
【0027】
図2の作動表に、上記自動変速機の歯車列における変速段を切り替える上記各摩擦締結要素の締結・解放の制御、および上記歯数比α1〜α4を用いた場合の各変速段でのギヤ比を示す。
図2中、横方向に各変速段を、また縦方向に摩擦締結要素、ギヤ比、レシオ・カバーレッジ(全変速比幅であり、前進1速のギヤ比を最高変速段のギヤ比で割った値)R/C、前進1速のギヤ比に対する後退のギヤ比の割合(Rev/1st)が、それぞれ記載してある。なお、同図中、○印は、この○印に相当する摩擦締結要素が締結状態にあることを、また空白はその摩擦締結要素が解放状態にあることを意味する。
【0028】
次に、各変速段における動力の伝達経路を、そのときの共通速度線図とともに説明する。
ここで、共通速度線図とは、縦軸に各回転要素の回転速度を取り、横軸にこれら回転要素を遊星歯車組2〜5の歯数比α1〜α4の大きさに応じて割り振った線図である。
すなわち、横軸上に、シングル・ピニオン・タイプの遊星歯車組の場合には、リング・ギヤ、ピニオン・キャリヤ、サン・ギヤ3つの回転要素の回転速度軸を、この順に(左右いずれの方向でもよい)、リング・ギヤおよびピニオン・キャリヤ間の大きさをこの遊星歯車組の歯数比αとした場合、ピニオン・キャリヤおよびサン・ギヤ間の大きさが1となる割合でそれぞれ離して配置したものである。
この場合、縦軸には、回転速度ゼロより上方にエンジンと同じ回転方向の回転速度をとり、回転速度ゼロより下方にエンジンと逆回転方向の回転速度をとるようにする。
共通速度線図にあっては、リング・ギヤ、ピニオン、サン・ギヤのそれぞれの噛み合い関係は歯と歯とが1対1で噛み合うリニアな関係となるので、各回転要素の回転速度を結ぶと直線関係となる。
【0029】
次に、上記各摩擦要素の締結関係を示した
図2、および各変速段における歯車列での動力伝達経路およびそのときの共通速度線図を示した
図3〜
図12に基づいて、各変速段での動力伝達について説明する。
なお、共通速度線図は、図中左側から右側へ向けて順に第1遊星歯車組2〜第4遊星歯車組5にそれぞれ対応し、各遊星歯車組ではリング・ギヤの回転速度軸、ピニオン・キャリヤの回転速度軸、サン・ギヤの回転軸の順に回転速度軸を配置している。
また、共通速度線図間で同じ速度となる回転要素同士間については、点線で結んである。また、共通速度線図にあっては、それらのリング・ギヤにはRを、またピニオン・キャリヤにはCを、またサン・ギヤにはSを付け、これらの記号に第1遊星歯車組2〜第4遊星歯車組5に応じてそれぞれ1〜4の添え字を付けてある。
【0030】
以下のいずれの変速段においても、エンジンからの駆動力は、入力軸1を介して、第2遊星歯車組3のサン・キャリヤ31および第4遊星歯車組5のリピニオン・キャリヤ54にそれぞれ入力される。
また、第1遊星歯車組2のサン・ギヤ21は自動変速機ケース13に固定されている。
出力軸12は、第4遊星歯車組5のリング・ギヤ52が常時連結されているので、これらは常時同じ回転速度で回転する。
【0031】
まず、前進走行で第1速から順にシフト・アップしていく場合を説明する。
第1速を得るには、ロー・アンド・リバース・ブレーキ6、ロー・アンド・ハイ・クラッチ10、およびオッド・ナンバー・アンド・リバース・クラッチ7を締結する。
このとき、
図3に示すように、第1遊星歯車組2では、リング・ギヤ22がオッド・ナンバー・アンド・リバース・クラッチ7の締結により第3遊星歯車組4のサン・ギヤ41に連結され、これと同じ回転速度で回転する。ピニオン・キャリヤ24は、第2遊星歯車組3のリング・ギヤ32に常時連結されてこれと同じ回転速度で回転する。また、サン・ギヤ21は、自動変速機ケース13に固定されて回転速度0である。
また第2遊星歯車組3では、サン・ギヤ31が入力軸1と同じ回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ34がオッド・ナンバー・アンド・リバース・クラッチ7およびロー・アンド・ハイ・クラッチ10の締結により第1遊星歯車組2のリング・ギヤ22に連結され、またロー・アンド・ハイ・クラッチ10の締結により第3遊星歯車組4のサン・ギヤ41に連結される。その結果、リング・ギヤ22、ピニオン・キャリヤ34およびサン・ギヤ41は同じ減速回転速度で回転するとともに、ピニオン・キャリヤ24とリング・ギヤ32とは、さらに遅い同じ減速速度で回転する。
第3遊星歯車組4では、リング・ギヤ42がロー・アンド・リバース・ブレーキ6の締結により自動変速機ケース13に固定されて回転速度0であり、サン・ギヤ41がオッド・ナンバー・アンド・リバース・クラッチ7の締結により第1遊星歯車組2のリング・ギヤ22と同じ減速速度で回転するので、これらを結ぶ直線がピニオン・キャリヤ44の回転速度軸C3と交わる点、すなわち一番遅い減速速度でピニオン・キャリヤ44が回転する。
ピニオン・キャリヤ44は第4遊星歯車組5のリング・ギヤ52およびこれに接続されている出力軸12をピニオン・キャリヤ44と同じ一番遅い回転速度となる第1速(ギヤ比4.877)で回転駆動する。
なお、第4遊星歯車組5では、ピニオン・キャリヤ54が入力軸1と同じ回転速度で回転し、リング・ギヤ52が上記一番遅い回転速度で回転するので、サン・ギヤ51は、それらを結ぶ直線がサン・ギヤ51の回転速度軸と交わる点での増速回転速度で回転する。
【0032】
次に、第1速から第2速にするには、第1速の状態からオッド・ナンバー・アンド・リバース・クラッチ7を解放するとともに、インターメディエット・クラッチ9を締結する。
そうすると、
図4に示すように、第2遊星歯車組3では、サン・ギヤ31が入力軸1と同じ回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ34がインターメディエット・クラッチ9の締結により入力軸1に連結されてこれと同じ回転速度で回転する結果、第2遊星歯車組3はすべての回転要素が一体となって回転する。
第3遊星歯車組4では、リング・ギヤ42がロー・アンド・リバース・ブレーキ6の締結により自動変速機ケース13に固定されて回転速度0であり、サン・ギヤ41がロー・アンド・ハイ・クラッチ10の締結により第2遊星歯車組3のピニオン・キャリヤ34に連結されるので入力軸1と同じ回転速度で回転する。ピニオン・キャリヤ44は、リング・ギヤ52の回転速度0とサン・ギヤ41の回転速度(入力軸1と同じ回転速度)とを結ぶ直線がピニオン・キャリヤ44の回転速度軸C3と交わる点、すなわち第1速より早い減速回転速度となる。
第4遊星歯車組5では、リング・ギヤ52が第3遊星歯車組4のピニオン・キャリヤ44に連結しているので、リング・ギヤ52およびこれに接続されている出力軸12は、第1速より早い減速回転速度である第2速(ギヤ比3.044)で回転駆動される。
なお、このとき、ピニオン・キャリヤ54が入力軸1と同じ回転速度で回転し、リング・ギヤ52が第2速の減速回転速度で回転しているので、そのサン・ギヤ51は、増速回転速度で回転する。
一方、第1遊星歯車組2では、サン・ギヤ21が自動変速機ケース13に常時固定されて回転速度0であり、ピニオン・キャリヤ24が第2遊星歯車組3のリング・ギヤ32に常時連結されて入力軸1と同じ回転速度で回転するので、そのリング・ギヤ22は増速回転速度で回転する。
【0033】
第2速から第3速にするには、第2速の状態からロー・アンド・ハイ・クラッチ10を解放するとともに、オッド・ナンバー・アンド・リバース・クラッチ7を締結する。
そうすると、
図5に示すように、第2遊星歯車組3では、第2速と同様に、サン・ギヤ21が入力軸1と同じ回転速度で回転し、インターメディエット・クラッチ9の締結によりピニオン・キャリヤ34が入力軸1に連結されて入力軸1と同じ回転速度で回転する結果、第2遊星歯車組3はすべての回転要素が一体となって回転する。
第1遊星歯車組2では、サン・ギヤ21が自動変速機ケース13に常時固定されて回転速度0であり、ピニオン・キャリヤ24が第2遊星歯車組3のリング・ギヤ32に常時連結されて入力軸1と同じ回転速度で回転するので、そのリング・ギヤ22は、増速回転速度で回転する。
第3遊星歯車組4では、リング・ギヤ42がロー・アンド・リバース・ブレーキ6で自動変速機ケース13に固定されて回転速度0であり、サン・ギヤ41がオッド・ナンバー・アンド・リバース・クラッチ7の締結により第1遊星歯車組2のリング・ギヤ22に連結して増速回転速度で回転する。したがって、そのピニオン・キャリヤ44は第2速より早い減速回転速度で回転する。
第4遊星歯車組5では、リング・ギヤ52が第3遊星歯車組4のピニオン・キャリヤ44に常時連結されているので、リング・ギヤ52およびこれに接続されている出力軸12は第2速より早い減速回転速度となる第3速(ギヤ比2.151)で回転する。
なお、ピニオン・キャリヤ54が入力軸1と同じ回転速度で回転しているので、第4遊星歯車組5のサン・ギヤ51は、増速回転速度で回転する。
【0034】
第3速から第4速にするには、オッド・ナンバー・アンド・リバース・クラッチ7を解放するとともに、インターメディエット・アンド・ハイ・クラッチ11を締結する。
そうすると、
図6に示すように、第3遊星歯車組4では、リング・ギヤ42がロー・アンド・リバース・ブレーキ6で自動変速機ケース13に固定されて回転速度0であり、サン・ギヤ41がインターメディエット・アンド・ハイ・クラッチ11の締結により第4遊星歯車組5のサン・ギヤ51と連結されて同じ回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ44が第4遊星歯車組5のリング・ギヤ52と常時連結されて同じ回転速度で回転する。
一方、第4遊星歯車組5のピニオン・キャリヤ54は入力軸1と同じ回転速度で回転する。
したがって、第3遊星歯車組4のピニオン・キャリヤ44、第4遊星歯車組5のリング・ギヤ52およびこれに接続された出力軸12は、第3速より早い減速回転速度となる第4速(ギヤ比1.653)で回転駆動される。
なお、第3遊星歯車組4のサン・ギヤ41および第4遊星歯車組5のサン・ギヤ51は、同じ増速回転速度で回転する。
また、第2遊星歯車組3では、第3速と同様に、サン・ギヤ31が入力軸1と同じ回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ34がインターメディエット・クラッチ9の締結により入力軸1と同じ回転速度で回転するので、第2遊星歯車組3は、すべての回転要素が一体となって回転する。
また、第1遊星歯車組2では、サン・ギヤ21が自動変速機ケース13に常時固定されて回転速度0であり、ピニオン・キャリヤ24が第2遊星歯車組3のリング・ギヤ32と常時連結されて入力軸1と同じ回転速度で回転するので、そのリング・ギヤ22は増速回転速度で回転する。
【0035】
第4速から第5速にするには、ロー・アンド・リバース・ブレーキ6を解放するとともに、オッド・ナンバー・アンド・リバース・クラッチ7を締結する。
そうすると、
図7に示すように、第2速〜第4速と同様に、第2遊星歯車組3では、サン・ギヤ31が入力軸1と同じ回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ34がインターメディエット・クラッチ9の締結により入力軸1と同じ回転速度で回転するので、第2遊星歯車組3は、すべての回転要素が一体となって回転する。
第1遊星歯車組2では、第4速と同様に、サン・ギヤ21が自動変速機ケース13に固定され回転速度0であり、ピニオン・キャリヤ24が第2遊星歯車組32のリング・ギヤ32に連結されて入力軸1と同じ回転速度で回転するので、そのリング・ギヤ22は、増速回転速度で回転する。
このリング・ギヤ22は、オッド・ナンバー・アンド・リバース・クラッチ7およびインターメディエット・アンド・ハイ・クラッチ11の締結により第3遊星歯車組4のサン・ギヤ41および第4遊星歯車組5のサン・ギヤ51を第1遊星歯車組2のリング・ギヤ22と同じ増速回転速度で回転する。
したがって、第4遊星歯車組5では、サン・ギヤ51が増速回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ54が入力軸1と同じ回転速度で回転しているので、そのリング・ギヤ52およびこれに接続されている出力軸12は、第4速より早い減速回転速度である第5速(ギヤ比1.242)で回転駆動される。
なお、第3遊星歯車組4では、サン・ギヤ41が上述のように増速回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ44が第4遊星歯車組5のリング・ギヤ52に連結されて第5速の減速回転速度で回転しているので、そのリング・ギヤ42は、第5速よりさらに遅い減速回転速度で回転する。
【0036】
第5速から第6速にするには、オッド・ナンバー・アンド・リバース・クラッチ7を解放するとともに、ロー・アンド・ハイ・クラッチ10を締結する。
そうすると、
図8に示すように、第2遊星歯車組3はインターメディエット・クラッチ9の締結により第2速〜第5速の場合と同様に、第2遊星歯車組3はすべての回転要素が一体となって回転する。
第4遊星歯車組5では、サン・ギヤ51がインターメディエット・クラッチ9およびロー・アンド・ハイ・クラッチ10の締結により第2遊星歯車組3のピニオン・キャリヤ34と同じ回転速度、すなわち入力軸1と同じ回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ54も入力軸1と同じ回転速度で回転するので、そのリング・ギヤ52およびこれに接続された出力軸12は、入力軸1と同じ回転速度で回転する第6速(ギヤ比1.000)で回転駆動される。
なお、第3遊星歯車組4では、サン・ギヤ41がロー・アンド・ハイ・クラッチ10の締結により第2遊星歯車組3のピニオン・キャリヤ34に連結されて入力軸1と同じ回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ44が第4遊星歯車組5のリング・ギヤ52に連結されて入力軸1と同じ回転速度で回転するので、そのリング・ギヤ42も入力軸1と同じ回転速度で回転する。
第1遊星歯車組2では、サン・ギヤ21が自動変速機ケース13に連結されて回転速度0であり、ピニオン・キャリヤ24が第2遊星歯車組3のリング・ギヤ32と連結されて入力軸1と同じ回転速度で回転するので、そのリング・ギヤ22は、増速回転する。
【0037】
第6速から第7速にするには、インターメディエット・クラッチ9を解放するとともに、オッド・ナンバー・アンド・リバース・クラッチ7を締結する。
そうすると、
図9に示すように、ロー・アンド・ハイ・クラッチ10、インターメディエット・アンド・ハイ・クラッチ11、およびオッド・ナンバー・アンド・リバース・クラッチ7の締結により第1遊星歯車組2のリング・ギヤ22、第2遊星歯車組3のピニオン・キャリヤ34、第3遊星歯車組4のサン・ギヤ41、および第4遊星歯車組5のサン・ギヤ51が同じ回転速度となる。
また、第1遊星歯車組2では、サン・ギヤ21が自動変速機ケース13に固定されて回転速度0であり、ピニオン・キャリヤ24が第2遊星歯車組3のリング・ギヤ32と同じ回転速度で回転し、第2遊星歯車組3のサン・ギヤ31および第4遊星歯車組5のピニオン・キャリヤ54が入力軸1と同じ回転速度で回転し、第3遊星歯車組4のピニオン・キャリヤ44が第4遊星歯車組5のリング・ギヤ52と同じ回転速度で回転する。
したがって、ピニオン・キャリヤ24およびリング・ギヤ32は減速回転速度で回転し、リング・ギヤ22、ピニオン・キャリヤ34、サン・ギヤ41、およびサン・ギヤ51は、ピニオン・キャリヤ24およびリング・ギヤ32より早い減速回転速度で回転する。
この結果、第4遊星歯車組5のリング・ギヤ52およびこれに接続された出力軸12は、増速回転速度となる第7速(ギヤ比0.850)で回転駆動される。
なお、第3遊星歯車組4のピニオン・キャリヤ44も、出力軸12と同じ増速回転速度で回転する。
【0038】
第7速から第8速にするには、オッド・ナンバー・アンド・リバース・クラッチ7を解放するとともに、ハイ・アンド・リバース・クラッチ8を締結する。
そうすると、
図10に示すように、第2遊星歯車組3では、サン・ギヤ31が入力軸1と同じ回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ34がハイ・アンド・リバース・クラッチ8の締結により第1遊星歯車組2のサン・ギヤ21(自動変速機ケース13に固定されて回転速度0)に締結されて回転速度0となるので、そのリング・ギヤ32はエンジン駆動方向とは逆方向の減速回転速度で回転する。
この第2遊星歯車組3のピニオン・キャリヤ34には、ロー・アンド・ハイ・クラッチ10の締結により第3遊星歯車組4のサン・ギヤ41が連結されて回転速度0となり、このサン・ギヤ41にはインター・メディエット・アンド・ハイ・クラッチ11の締結により第4遊星歯車組5のサン・ギヤ51が締結されてこれも回転速度0となる。
したがって、第4遊星歯車組5では、サン・ギヤ51が回転速度0であり、ピニオン・キャリヤ54が入力軸1と同じ回転速度で回転するので、そのリング・ギヤ52およびこれに接続された出力軸12は、第7速より早い増速回転速度となる第8速(ギヤ比0.680)で回転駆動される。
なお、第3遊星歯車組4では、サン・ギヤ41が回転速度0であり、ピニオン・キャリヤ44が第4遊星歯車組5のリング・ギヤ52に連結されてこれと同じ8速の増速回転速度で回転するので、そのリング・ギヤ42は、さらに早い増速回転速度で回転する。
また、第1遊星歯車組2では、サン・ギヤ21が回転速度0であり、ピニオン・キャリヤ24が第2遊星歯車組3のリング・ギヤ32に連結されてエンジン駆動方向とは逆方向の減速回転速度で回転するので、そのリング・ギヤ21は、エンジン駆動方向とは逆方向でさらに早い減速回転速度で回転する。
【0039】
第8速から最高速段である第9速にするには、ロー・アンド・ハイ・クラッチ10を解放するとともに、オッド・ナンバー・アンド・リバース・クラッチ7を締結する。
そうすると、
図11に示すように、第2遊星歯車組3では、第8速と同様に、サン・ギヤ31が入力軸1と同じ回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ34がハイ・アンド・リバース・クラッチ8の締結により第1遊星歯車組2のサン・ギヤ21に連結されて回転速度0となるので、そのリング・ギヤ32はエンジン駆動方向とは逆方向の減速回転速度で回転する。
第1遊星歯車組2では、サン・ギヤ21が回転速度0であり、ピニオン・キャリヤ24が第2遊星歯車組3のリング・ギヤ32に連結されてこれと同じ回転速度、すなわちエンジン駆動方向とは逆方向の減速回転速度で回転するので、そのリング・ギヤ22は、それより早いエンジン駆動方向とは逆方向の減速回転速度で回転する。
第4遊星歯車組5では、ピニオン・キャリヤ54が入力軸1と同じ回転速度で回転し、サン・ギヤ51がオッド・ナンバー・アンド・リバース・クラッチ7およびインターメディエット・アンド・ハイ・クラッチ11の締結により第1遊星歯車組2のリング・ギヤ22と同じ回転速度、すなわちエンジン駆動方向とは逆方向の減速回転速度で回転するので、そのリング・ギヤ52およびこれに接続された出力軸12は、第8速より早い増速回転速度となる第9速(ギヤ比0.558)で回転駆動される。
なお、第3遊星歯車組4では、サン・ギヤ41がインターメディエット・アンド・ハイ・クラッチ11の締結により第4遊星歯車組5のサン・ギヤ51に連結されてエンジン駆動方向とは逆方向の減速回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ44が第4遊星歯車組5のリング・ギヤ52に連結されて増速回転速度で回転するので、そのリング・ギヤ42は、ピニオン・キャリヤ44よりさらに早い増速回転速度で回転する。
【0040】
一方、後退を得るには、ロー・アンド・リバース・ブレーキ6、ハイ・アンド・リバース・クラッチ8、およびオッド・ナンバー・アンド・リバース・クラッチ7を締結する。
そうすると、
図12に示すように、第1遊星歯車組2および第2遊星歯車組3の各要素は第9速と同じ回転方向、回転速度となる。
第3遊星歯車組4では、リング・ギヤ42がロー・アンド・リバース・ブレーキ6の締結により自動変速機ケース13に固定されて回転速度0であり、サン・ギヤ41がオッド・ナンバー・アンド・リバース・クラッチ7の締結により第1遊星歯車組2のリング・ギヤ22に連結されてこれと同じ回転速度、すなわちエンジン駆動方向とは逆方向の減速回転速度で回転するので、そのピニオン・キャリヤ44は、第1遊星歯車組2のピニオン・キャリヤ24より遅い減速回転速度で回転する。
第4遊星歯車組5では、リング・ギヤ52およびこれに接続された出力軸12が、第3遊星歯車組4のピニオン・キャリヤ44に連結されてこれと同じ回転速度、すなわちエンジン駆動方向とは逆方向の減速回転速度となる後退速(ギヤ比-4.416、ただし−はエンジン駆動方向とは逆方向を表す)で回転駆動される。
なお、第4遊星歯車組5のサン・ギヤ51は、ピニオン・キャリヤ54が入力軸1と同じ回転速度で回転し、リング・ギヤ52がエンジン駆動方向とは逆方向の減速回転速度で回転するので、エンジン駆動方向の増速回転速度で回転する。
【0041】
上記はシフト・アップにつき、説明したが、シフト・ダウンはシフト・アップとは逆の順序で行われる。
【0042】
実施例1の自動変速機では、第1速〜第9速でのギヤ比およびリバースでのギヤ比は、α1を0.4151、α2を0.4871、α3を0.4892、α4を0.4697とすると、上記のように、4.877、3.044、2.151、1.653、1.242、1.000、0.850、0.680、0.558、−4.416となる。したがって、隣合う変速段間の段間比は、第1速〜第2速間で1.602、第2速〜第3速間で1.415、第3速〜第4速間で1.301、第4速〜第5速間で1.331、第5速〜第6速間で1.242、第6速〜第7速間で1.174、第7速〜第8速間で1.250、第8速〜第9速間で1.219となり、良い段間比が得られる。
【0043】
また、
図2に示すように、実施例1の自動変速機では、レシオ・カバーレッジR/Cを8.740と大きな値にすることができ、従来の自動変速機でのレシオ・カバーレッジ(引用文献1では7.05)より大きく設定されることとなる。
また、リバース比/1速比は、実施例1の自動変速機では、0.905となり、従来の自動変速機での同比(引用文献1では0.70)より大きくなって1に近づく。
【0044】
また、第1遊星歯車組2〜第4遊星歯車組5にあっては、歯数比αを0.4151〜0.4892の間で設定することができるので、これらの外径を大きくすることなくサン・ギヤ、ピニオン、リング・ギヤの強度を確保することが可能となる。
【0045】
以上のように構成した実施例1の自動変速機は、以下の効果を得ることができる。
実施例1の自動変速機4組の遊星歯車組2〜5と、2個のブレーキ6、8および4個のクラッチ7、9〜11からなる摩擦締結要素とを、
図1のような連結関係とし、かつ
図2の作動表に基づいて、摩擦締結要素を制御するようにしたので、各段に最適なギヤ比、および段間比を得ることが可能となる。
すなわち、前進9速を得ることができるので、車両の走行条件に適したギヤ比を選択するのが容易となる。
【0046】
また、上記レシオ・カバーレッジ(R/C)を8.740などと従来技術のものより大きくとることができるので、走行条件に応じたギヤ比を設定できる。
この場合、第1速を4.877などの大きなギヤ比に設定できるので、発進時など低速時における駆動力を確保でき、また、第9速を0.558などの小さなギヤ比に設定できるので、高速走行時はエンジンの回転速度を小さくして騒音の抑制や消費燃費の低減が可能となる。
【0047】
また、リバース比/1速比(Rev/1st)を、0.905などのように、1に近い値に設定できるので、第1速での前進時と後退時との間における駆動力差を小さく抑えることができ、この結果ドライバーの運転(アクセル・ペダル操作など)上での違和感をなくすことができる。
【0048】
また、前進9速を達成しながらブレーキは2つで済むので、走行中の引きずりトルク(ブレーキは一方の側が自動変速機ケースなどの非回転部材であるため、潤滑油の排出性がクラッチよりも劣る結果、クラッチより引きずり抵抗が大きくなる)を小さく抑えることが可能となり、燃費の低下を抑制することが可能となる。
【0049】
また、第1遊星歯車組2〜第4遊星歯車組5の歯数比αを0.4151〜0.4892などの間で設定することができるので、サン・ギヤ、ピニオン、リング・ギヤといった各回転要素の強度を確保する場合にも、それらの外径寸法を小さく抑えることが可能となる。
【0050】
以上、本発明を上記各実施例に基づき説明してきたが、本発明はこれらの実施例に限られず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で設計変更等があった場合でも、本発明に含まれる。
【0051】
たとえば、遊星歯車組2〜5の歯数比α1〜α4は上記実施例に限られない。
【0052】
また、上記実施例では、遊星歯車組2〜5をすべてシングル・ピニオン・タイプで構成したが、少なくとも1組以上をダブル・ピニオン・タイプのものとしても良い。このダブル・ピニオン・タイプの場合、共通速度線図は、ピニオン・キャリヤ、リング・ギヤ、サン・ギヤ3つの回転要素をこの順に(左右いずれの方向でもよい)、リング・ギヤおよびピニオン・キャリヤ間のこの遊星歯車組の歯数比αとした場合、ピニオン・キャリヤおよびサン・ギヤ間を1となる割合で配置する。