特許第5735086号(P5735086)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5735086
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】ハイブリッドチャック
(51)【国際特許分類】
   B23B 31/12 20060101AFI20150528BHJP
   B23B 31/28 20060101ALI20150528BHJP
   B23Q 3/15 20060101ALI20150528BHJP
   B23Q 3/18 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   B23B31/12 J
   B23B31/28
   B23Q3/15 B
   B23Q3/18 C
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-250866(P2013-250866)
(22)【出願日】2013年12月4日
(62)【分割の表示】特願2009-263625(P2009-263625)の分割
【原出願日】2009年11月19日
(65)【公開番号】特開2014-73574(P2014-73574A)
(43)【公開日】2014年4月24日
【審査請求日】2013年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】富士機械製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】特許業務法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 元
(72)【発明者】
【氏名】五十棲 丈二
(72)【発明者】
【氏名】長井 修
【審査官】 齊藤 彬
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭52−109679(JP,U)
【文献】 登録実用新案第3005603(JP,U)
【文献】 特開2005−230946(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/049569(WO,A1)
【文献】 実開昭61−168927(JP,U)
【文献】 実開平04−032806(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 31/12
B23B 31/28
B23Q 3/06
B23Q 3/15
B23Q 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャック本体と一体的に電磁石を備え、その電磁石の磁気吸引力によりチャック本体の前面に磁性材料製の保持対象物を吸着して保持する電磁チャック部と、
前記チャック本体の前記前面に沿って、そのチャック本体の中心軸線に直角な半径方向に移動可能に配設された3つの爪と、それら3つの爪を互いに同期して移動させる爪駆動装置とを含む三つ爪チャック部と
前記三つ爪チャック部と前記電磁チャック部との作動を制御する制御装置と
を含み、
前記三つ爪チャック部が、
前記チャック本体とは別体で、それぞれにガイド溝が形成され、前記チャック本体に、前記チャック本体の中心軸線に直角な半径方向に延びる姿勢で、取り外し可能に固定された3つの溝形成部材と、
それら溝形成部材の前記ガイド溝にそれぞれ摺動可能に嵌合される嵌合部と、それら嵌合部から前記中心軸線に平行な方向に突出し、保持対象物の外周面と内周面との少なくとも一方に係合する係合部とを備えて、前記3つの爪として機能する3つの爪と、
前記溝形成部材の前記ガイド溝の開口側の端面にそれぞれ取り外し可能に固定され、前記爪の前記嵌合部の前記開口側の面にそれぞれ係合して、それら嵌合部の前記ガイド溝からの浮き上がりを防止する1対ずつ、合計3対の押さえ部材と
を備え、
前記制御装置が、
前記三つ爪チャック部を保持状態として保持対象物の芯出しを行った後、前記電磁チャック部を保持状態とし、かつ、前記三つ爪チャック部を解放状態とする両チャック部順次制御部を含むことを特徴とするハイブリッドチャック。
【請求項2】
前記チャック本体の前記前面側に、前記3つの爪をそれぞれ前記半径方向に案内する3つの案内部が等角度間隔で設けられ、前記電磁石が、それら3つの案内部の間の位置に設けられた請求項1に記載のハイブリッドチャック。
【請求項3】
前記爪駆動装置が、
前記チャック本体の中央に設けられた中央ガイド部と摺動可能に嵌合され、軸方向に移動させられる駆動部材と、
その駆動部材と前記3つの爪の各々との間に設けられ、前記駆動部材の前記中心軸線に平行な方向の運動を前記爪の各々の半径方向の運動に変換する運動変換機構と
を含む請求項1または2に記載のハイブリッドチャック。
【請求項4】
前記駆動部材が、前記チャック本体の前面から前方へ突出した突出部を有し、前記爪駆動装置が、その突出部への操作によって、前記3つの爪を互いに同期して移動させるように構成された請求項3に記載のハイブリッドチャック。
【請求項5】
前記制御装置が、さらに、(a)前記三つ爪チャック部と前記電磁チャック部とを選択的に保持状態とする制御部と、(b)前記三つ爪チャック部と前記電磁チャック部とを共に保持状態とする制御部との少なくとも1つを含む請求項1ないし4のいずれかに記載のハイブリッドチャック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持対象物を保持するチャックの改善に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被加工物等の保持対象物を同心に保持するチャックとして三つ爪チャックが広く使用されている。これは、チャック本体に、3つの爪を半径方向に移動可能に保持させ、爪駆動装置により同期して移動させ、被加工物の外周面または内周面を保持させるものである。
一方、電磁石の磁気吸引力により被加工物を保持面に引き付けて保持する電磁チャックも知られており、その一例が下記特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−127043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
三つ爪チャックは、3つの爪が同期して半径方向に移動させられるため、保持対象物をチャックと同心に保持させることが容易である利点がある。しかしながら、従来の三つ爪チャックには、保持対象物によっては歪みを生じさせるおそれがあるという問題がある。また、電磁チャックは、保持対象物を磁気吸引力により吸着するものであるため、保持対象物が磁性材料製であることが必要であるという制約があり、あるいは、保持対象物の端面を吸着して保持するものであるため、芯出しの機能(調芯機能)がなく、保持対象物を芯出しして保持させるのに時間がかかるという問題がある。
本発明は、以上の事情を背景として、従来のものより使い勝手の良いチャックを得ることを課題として為されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係るハイブリッドチャックは、
チャック本体と一体的に電磁石を備え、その電磁石の磁気吸引力によりチャック本体の前面に磁性材料製の保持対象物を吸着して保持する電磁チャック部と、
前記チャック本体の前記前面に沿って、そのチャック本体の中心軸線に直角な半径方向に移動可能に配設された3つの爪と、それら3つの爪を互いに同期して移動させる爪駆動装置とを含む三つ爪チャック部と、
前記三つ爪チャック部と前記電磁チャック部との作動を制御する制御装置と
を含み、
前記三つ爪チャック部が、
前記チャック本体とは別体で、それぞれにガイド溝が形成され、前記チャック本体に、前記チャック本体の中心軸線に直角な半径方向に延びる姿勢で、取り外し可能に固定された3つの溝形成部材と、
それら溝形成部材の前記ガイド溝にそれぞれ摺動可能に嵌合される嵌合部と、それら嵌合部から前記中心軸線に平行な方向に突出し、保持対象物の外周面と内周面との少なくとも一方に係合する係合部とを備えて、前記3つの爪として機能する3つの爪と、
前記溝形成部材の前記ガイド溝の開口側の端面にそれぞれ取り外し可能に固定され、前記爪の前記嵌合部の前記開口側の面にそれぞれ係合して、それら嵌合部の前記ガイド溝からの浮き上がりを防止する1対ずつ、合計3対の押さえ部材と
を備え、
前記制御装置が、
前記三つ爪チャック部を保持状態として保持対象物の芯出しを行った後、前記電磁チャック部を保持状態とし、かつ、前記三つ爪チャック部を解放状態とする両チャック部順次制御部を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係るハイブリッドチャックにおいては、三つ爪チャック部と電磁チャック部との使い分け、あるいは併用によって、両者の欠点に基づく問題を回避しつつ、両者の利点を享受することができる。
また、本発明に係るハイブリッドチャックでは、三つ爪チャック部の調芯機能を利用して保持対象物の芯出しを行った後、電磁石を磁化させて電磁チャック部に保持対象物を保持させ、かつ、三つ爪チャック部を解放状態とされる。芯出しを行うためには、三つ爪チャックをそれほど大きな力で作動させる必要がないため、保持対象物を歪ませることが少なく、しかも最終的には三つ爪チャック部を解放状態とするのであるため、ひずみを生じさせることなく保持対象物を保持させることができる。この効果は、保持対象物が環状の被加工物である場合に特に有効である。
ちなみに、電磁チャック部と三つ爪チャック部とを共に保持状態とすることによって、保持対象物を特に強固に保持させることができる。この効果は、保持対象物が剛性の高い被加工物であり、かつ、重切削を行う必要がある場合に、特に有効である。
さらに、保持対象物の特性に応じて電磁チャック部と三つ爪チャック部とを選択的に使用することにより、種々の保持対象物の保持に使用することができる。
なお、本ハイブリッドチャックの適用範囲を広くする観点から、三つ爪チャック部の駆動装置の駆動力を広い範囲で(少なくとも大小2段階に)制御し得るようにすることが望ましい。
【発明の態様】
【0007】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。請求可能発明は、少なくとも、請求の範囲に記載された発明である「本発明」ないし「本願発明」を含むが、本願発明の下位概念発明や、本願発明の上位概念あるいは別概念の発明を含むこともある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載,従来技術等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0008】
なお、以下の各項において、(12)項と(1)項とを合わせ、(17)項における制御装置を第2制御部に相当する両チャック部順次制御部を含むものに限定したものが請求項1に相当し、(13)項が請求項2に、(14)項が請求項3に、「爪駆動装置」の構成上の限定を加えたものが請求項4に、(17)項における制御装置を第1制御部と第3制御部との少なくとも一方を含むものに限定したものが請求項5に、それぞれ相当する。
【0009】
(1)中心軸線を有するチャック本体と、
そのチャック本体とは別体で、それぞれにガイド溝が形成され、前記チャック本体に、前記中心軸線に直角な半径方向に延びる姿勢で、取り外し可能に固定された3つの溝形成部材と、
それら溝形成部材の前記ガイド溝にそれぞれ摺動可能に嵌合される嵌合部と、それら嵌合部から前記中心軸線に平行な方向に突出し、保持対象物の外周面と内周面との少なくとも一方に係合する係合部とを備えた3つの爪と、
前記溝形成部材の前記ガイド溝の開口側の端面にそれぞれ取り外し可能に固定され、前記爪の前記嵌合部の前記開口側の面にそれぞれ係合して、それら嵌合部の前記ガイド溝からの浮き上がりを防止する1対ずつ、合計3対の押さえ部材と、
前記3つの爪を互いに同期させて前記ガイド溝内を移動させる爪駆動装置と
を含むことを特徴とするチャック。
(2)前記溝形成部材,前記嵌合部および前記押さえ部材が、前記チャック本体の材料より対摩耗性に優れた材料から成るものとされた(1)項に記載のチャック。
本項の特徴を採用すれば、(1)項に係るチャックの保持位置精度を長く良好な状態に保
ち、チャックの耐久性を向上することができる。
(3)前記溝形成部材の前記ガイド溝の前記開口側端面と、前記爪の前記嵌合部の前記開口側の面とが同一平面上に位置させられ、前記押さえ部材の、前記溝形成部材および前記嵌合部側の面が一平面とされた(1)項または(2)項に記載のチャック。
本項の特徴を採用すれば、溝形成部材の開口側端面と、嵌合部の、ガイド溝の開口側の面との少なくとも一方を単純に平面研削加工することにより、爪の嵌合部と、溝形成部材および押さえ部材との、溝深さ方向におけるクリアランスを容易に適正な大きさとすることができる。
(4)前記溝形成部材,前記嵌合部および前記押さえ部材の、前記爪の移動時に互いに摺
動する摺動面が硬化させられるとともに研削加工された(1)項ないし(3)項のいずれかに記載のチャック。
本項の特徴を採用すれば、溝形成部材,嵌合部および押さえ部材の加工精度を向上させるとともに、摺動面の摩耗を抑制することができ、摺動クリアランスを適正な大きさとすることが容易となるとともに、その適正な摺動クリアランスを長期間良好に維持することができる。
(5)前記チャック本体の前面に、前記中心軸線から等角度間隔で放射状に延びる3本の嵌合溝が形成され、それら嵌合溝の各々に前記3つの溝形成部材の各々が嵌合されて固定された(1)項ないし(4)項のいずれかに記載のチャック。
本項の特徴を採用すれば、溝形成部材のチャック本体に対する位置決めが容易となるとともに、チャック本体による溝形成部材の保持剛性を高くすることができ、また、嵌合溝の深さの選定によって、溝形成部材と押さえ部材とがチャック本体の前面から突出しない状態とすることが可能となり、チャックの使い勝手が向上する。
(6)前記3つの爪の各々が、少なくとも前記嵌合部を備えたスライダと、少なくとも前記係合部を備えた爪部材とが、互いに取り外し可能に固定されて成るものである(1)項な
いし(5)項のいずれかに記載のチャック。
爪部材は直接スライダに固定されてもよく、スペーサを介して間接的にスライダに固定されてもよい。また、爪部材は、互いに別体に製造され、取り外し可能に固定された親爪と子爪とを含むものでもよく、スライダに対する固定部と前記係合部とを一体に備えたものでもよい。
本項の特徴を採用すれば、1つのスライダに対し、複数種類の爪部材を準備し、選択的に固定して使用することにより、安価に複数種類の爪を得ることができる。あるいは、爪部材が使用に耐えなくなった場合に爪部材のみを新しいものと交換すればよく、メンテナンスコストを低減し得る。
(7)前記爪部材が、前記スライダに固定された親爪と、その親爪に取り外し可能に固定された子爪とを有し、それら親爪と子爪との一方に前記中心軸線を中心とする部分内周円筒面が形成され、他方に前記部分内周円筒面に対応する部分外周円筒面が形成され、それら両部分円筒面が半径方向において互いに当接させられることにより、親爪に対する子爪の半径方向位置が規定された(6)項に記載のチャック。
本項の特徴を採用すれば、子爪の親爪に対する相対位置決めを容易にし、あるいは、親爪による子爪の保持剛性を高くすることができる。
(8)前記爪駆動装置が、
前記チャック本体の中央に設けられた中央ガイド部と摺動可能に嵌合され、前記中心軸線に平行な軸方向に移動する駆動部材と、
その駆動部材と前記3つの爪の各々との間に設けられ、前記駆動部材の前記軸方向の運動を前記爪の各々の前記半径方向の運動に変換する運動変換機構と
を含み、その運動変換機構を構成する部材の互いに接触する部分が硬化させられるとともに研削加工された(1)項ないし(7)項のいずれかに記載のチャック。
本項の特徴を採用すれば、運動変換機構の寸法精度を高くすることが容易となり、かつ、耐久性を向上させることができる。
(9)前記運動変換機構が、前記駆動部材と前記3つの爪の各々との一方に前記中心軸線に対して傾斜して形成された係合溝と、他方に形成されて前記係合溝と摺動可能に嵌合された係合凸部とを含み、それら係合溝と係合凸部との摺動面が硬化させられるとともに研削加工された(8)項に記載のチャック。
(10)前記中央ガイド部が、チャック本体とは別体に、チャック本体の材料に比較して対摩耗性に優れた材料により製作され、チャック本体に固定された中央ガイド形成部材により形成され、その中央ガイド形成部材と前記駆動部材との摺動面が硬化させられるとともに研削加工された(8)項または(9)項に記載のチャック。
本項の特徴を採用すれば、中央ガイド形成部材と駆動部材との加工精度を向上させて、両者の嵌合クリアランスを適正な大きさにすることが容易になり、かつ、耐久性を向上さ
せることができる。
(11)前記中央ガイド形成部材が前記チャック本体に取り外し可能に固定された(10)項に記載のチャック。
中央ガイド部材の交換あるいは、修理によって、チャックの保持位置精度の維持を容易に行うことができる。
(12)チャック本体と一体的に電磁石を備え、その電磁石の磁気吸引力により前記チャック本体の前面に磁性材料製の保持対象物を吸着して保持する電磁チャック部と、
前記チャック本体の前記前面に沿って、そのチャック本体の中心軸線に直角な半径方向に移動可能に配設された3つの爪と、それら3つの爪を互いに同期して移動させる爪駆動装置とを含む三つ爪チャック部と
を含むことを特徴とするハイブリッドチャック。
電磁チャック部は、チャック本体の前面に直接、あるいは当てがねを介して間接に、保持対象物の平面に密着してその保持対象物を保持するため、保持対象物に歪みを生じさせることがない利点を有する反面、調芯機能を有さず、芯出し作業に長時間を要する欠点がある。また、磁気吸着力に基づく平面間の摩擦力によって保持対象物の移動を防止するものであるため、保持対象物を強固に保持することができない欠点や、保持対象物が磁性材料製のものに限られる欠点がある。
一方、三つ爪チャック部は、調芯機能を有するため、保持対象物の着脱が容易であり、また、保持対象物を強固に保持することができる利点を有している。しかし、保持対象物に歪みを生じさせ、あるいは、保持対象物を保持する際、爪の摺動クリアランスの存在に起因して、保持対象物がチャック本体から離れる方向に移動すること(保持対象物の浮き上がりと称する)を許容する傾向があり、保持位置精度低下の一因となる欠点がある。
それに対し、本項のハイブリッドチャックにおいては、三つ爪チャック部と電磁チャック部との使い分け、あるいは併用によって、両者の欠点に基づく問題を回避しつつ、両者の利点を享受することができる。
(13)前記チャック本体の前記前面側に、前記3つの爪をそれぞれ前記半径方向に案内する3つの案内部が等角度間隔で設けられ、前記電磁石が、それら3つの案内部の間の位置に設けられた(12)項に記載のハイブリッドチャック。
(14)前記爪駆動装置が、
前記チャック本体の中央に設けられた中央ガイド部と摺動可能に嵌合され、軸方向に移動させられる駆動部材と、
その駆動部材と前記3つの爪の各々との間に設けられ、前記駆動部材の前記中心軸線に平行な方向の運動を前記爪の各々の半径方向の運動に変換する運動変換機構と
を含む(12)項または(13)項に記載のハイブリッドチャック。
(15)さらに、前記駆動部材を前記チャック本体に対して前進方向に付勢する付勢装置
を含み、かつ、前記駆動部材が、前記付勢装置の付勢力に抗して駆動部材を後退させる力を前記チャック本体の前記前面に対向する方向から受ける後退操作部を含む(14)項に記載のハイブリッドチャック。
本項の特徴を有するハイブリッドチャックにおいては、三つ爪チャック部の調芯機能を利用する際には、本チャックが取り付けられる装置の可動部を利用して、後退操作部に操作力を加えさせることが望ましい。例えば、工作機械であれば、加工工具を移動させるための移動部材を備えているため、その移動部材自体または移動部材に取り付けた操作部材を、後退操作部に当接させて後退方向の力を加えさせるのである。この力を受け易くするために、後退操作部はチャック本体の前面より前方へ突出させられることが望ましい。
本項のハイブリッドチャックは、駆動部材をチャック本体の後面側から駆動する必要がないため、チャック本体中央部の限られたスペースを電磁チャック部へ電流を供給するための導線の取り回しに利用することができる利点がある。
(16)前記駆動部材が、その駆動部材を前記中心軸線に平行な方向に移動させるための駆動軸を前記チャック本体の後面側から連結可能な連結部を含む(14)項または(15)項に記載のハイブリッドチャック。
本項のハイブリッドチャックにおける三つ爪チャック部は、通常の三つ爪チャックと類似の構成を有することになる。本項に記載の連結部と前項に記載の後退操作部との両方を設けることも可能であり、そのようにすれば汎用性に優れたハイブリッドチャックが得られる。
(17)さらに、前記三つ爪チャック部と前記電磁チャック部との作動を制御する制御装置を含み、その制御装置が、(a)前記三つ爪チャック部と前記電磁チャック部とを選択的
に保持状態とする第1制御部と、(b)前記三つ爪チャック部を保持状態として保持対象物
の芯出しを行った後、前記電磁チャック部を保持状態とし、かつ、三つ爪チャック部を解放状態とする第2制御部と、(c)前記三つ爪チャック部と前記電磁チャック部とを共に保
持状態とする第3制御部との少なくとも1つを含む(12)項ないし(16)項のいずれかに記載のハイブリッドチャック。
第2制御部において、三つ爪チャック部による芯出しの後に行われる電磁チャック部の保持状態への移行と、三つ爪チャック部の解放状態への移行とは、実施形態の項における説明から明らかなように、上記記載の順序に行われることが不可欠なわけではない。
(18)前記三つ爪チャック部が(1)項ないし(11)項のいずれかに記載のチャックの構成
を有する(12)項ないし(17)項のいずれかに記載のハイブリッドチャック。
本項に記載の特徴を採用すれば、三つ爪チャック部の芯出し精度を高めることができるため、高い精度で芯出しされた保持対象物を電磁チャック部に保持させることが可能となり、保持位置精度が高く、しかも保持対象物にひずみを生じさせない理想的なチャックが得られる。また、電磁チャック部と三つ爪チャック部とを共に保持状態とする場合でも、三つ爪チャック部の爪が保持対象物を浮き上がらせることが少ないため、保持位置精度と保持剛性とが共に高い理想的なチャックが得られることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態であるハイブリッドチャックを示す正面断面図である。
図2】上記ハイブリッドチャックの一部を示す平面図である。
図3図1の一部を拡大して示す図である。
図4図1におけるA矢視図である。
図5】上記ハイブリッドチャックにより被加工物をチャックした状態を示す正面断面図である。
図6】上記ハイブリッドチャックの爪を加工する状態を示す図である。
図7】上記ハイブリッドチャックの爪を加工する状態を示す別の図である。
図8】上記ハイブリッドチャックの爪を加工する状態を示すさらに別の図である。
図9】上記ハイブリッドチャックの当てがねを加工する状態を示す図である。
図10】本発明の別の実施形態である三つ爪チャックの一部を示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1ないし図4に、本発明の一実施形態であるハイブリッドチャックを示す。本ハイブリッドチャック10は、図2に示すように、電磁チャック部12と三つ爪チャック部14とを備えており、図1に示すように、例えば、縦型旋盤の、直径が1000mmという大径のテーブル16に取り付けられて使用される。
電磁チャック部12は基本的に従来のものと同じであるため、詳細な説明は省略するが、チャック本体20と一体的に構成され、それぞれN極22とS極24とを有する18個の電磁石26を有している。チャック本体20には、各電磁石のN極22とS極24とを磁気的に分離する非磁性材料製(本実施形態においてはエポキシ樹脂製)のセパレータ28が埋め込まれている。電磁石26は3群(図示の例では1群が6個)に分けられ、これら3群の電磁石26が、チャック本体20の中心軸線Oのまわりに等角度間隔に配置されている。さらに、各群の電磁石26に対応して、複数の当てがね30を取り付けるための複数本(図示の例では7本ずつ合計21本)のT溝32がチャック本体20の前記中心軸線Oに直角な半径方向に延びる姿勢で形成されている。
【0012】
三つ爪チャック部14は、上記電磁石26の3群の間にそれぞれ形成された3本のガイド溝40に沿って半径方向に移動可能な3つの爪42を備えている。各ガイド溝40は、チャック本体20に形成された3本の嵌合溝44に嵌合された溝形成部材46(図4参照)により形成されている。溝形成部材46の、ガイド溝40が開口する側の端面である一対の開口側端面48には、一対の押さえ部材50が密着させられ、これら一対の押さえ部材50が、図4に示すように、溝形成部材46と共に複数本のボルト52によってチャック本体20に固定されている。
【0013】
一方、上記3つの爪42の各々は、図1に示すように、スライダ60と、そのスライダ60に、半径方向に関して複数の相対位置に位置決めして固定することが可能な爪部材62とを備えている。スライダ60と爪部材62との半径方向の相対位置決めは、両者の互いに対向する面に形成されたキー溝63,64とそれらキー溝に跨って配設されたキー65とにより行われている。キー溝63は複数形成されており、それらが選択して使用されることにより、爪部材62の半径方向位置が複数段階に変更可能とされている。爪部材62はT溝を有するスライダ60に、Tブロック66とボルト67とにより固定されるが、爪部材62の底面には溝68が形成されており、この溝68にTブロック66の頂部が嵌入することにより、爪部材62のスライダ60に対する周方向の位置決めが行われる。爪部材62は、位置決め装置により、スライダ60に対して、半径方向に関しても周方向に関しても位置決めされて、固定されているのである。
【0014】
図1に示す爪部材62は、直接スライダ60に固定可能な一体部材とされているが、爪部材を、図5に示すようにスライダ60に取り外し可能に固定される親爪70と、その親爪70に取り外し可能に固定される子爪72とを含むものとすることも可能である。親爪70も、上記爪部材62と同様に、スライダ60に対して、位置決め装置により半径方向にも周方向にも位置決めされて固定される。子爪72の親爪70に対する位置決めについては後述する。
【0015】
スライダ60は、前記ガイド溝40に嵌合可能な嵌合部74と、その嵌合部74から前方へ突出し、前記一対の押さえ部材50の間を通過して、チャック本体20の前面76より前方へ突出した突出部(首部と称することも可能である)78とを備えている。ガイド溝は断面形状が単純な矩形を成すものとすることも可能であるが、図示のガイド溝40は、幅広部80と幅狭部82とを有し、幅広部80がガイド溝40の開口側に位置する形状とされている。そして、スライダ60は断面形状が十の字形を成し、十の字の横棒に相当
する部分である一対の腕部84が広幅部80に嵌合され、十の字の上下に延びる棒に相当する部分の下部である脚部86が幅狭部82に嵌合され、上下に延びる棒の上部が前記突出部78とされている。
【0016】
チャック本体20は鋳鉄製であるが、溝形成部材46および押さえ部材50は熱処理により硬化させることが可能な材料(例えば、高炭素鋼S50C)製であり、焼入れにより硬化させるとともに、摺動クリアランスの精度確保のために必要な摺動面は研削により高精度に加工されている。具体的には、幅広部80と幅狭部82との間の肩面90、幅広部80の両側の溝側面92(幅狭部82の両側の溝側面でもよい)、前記開口側端面48、および押さえ部材50の開口側端面48に密着する側の面である底面94が研削加工されているのである。
一方、スライダ60は、熱処理により硬化させることが可能な材料製とされ、表面が硬化させられている。例えば、クロムモリブデン鋼SCM415製とされ、浸炭焼入れにより表面が硬化させられるのである。そして、腕部84の両側面である腕部側面96(脚部86の両側面である脚部側面98でもよい)が研削加工されている。
【0017】
上記研削加工される面のうち、開口側端面48と、2つの腕部側面96の一方とのいずれか一方(図示の例では開口側端面48)が現合で研削加工され、肩面90と底面94との間隔と、腕部84の厚さとの差(摺動クリアランス)が5μm以下となるようにされている。また、幅広部80の2つの溝側面92間の間隔と、腕部84の2つの腕部端面98との間隔との差(摺動クリアランス)も10μm以下に管理されている。
それに対し、上記溝形成部材46および押さえ部材50と、スライダ60との各面のうち、上記以外の面の間のクリアランスは意図的に大きくされ、高精度加工の必要がないようにされている。
【0018】
なお、幅狭部82の2つの溝側面間の間隔と、脚部86の2つの側面間の間隔(脚部86の厚さ)との差(摺動クリアランス)が10μm以下に管理されてもよい。
また、ガイド溝を矩形の横断面形状を有するものとする場合には、ガイド溝の底面と開口側端面との間隔と、嵌合部の厚さとの寸法精度を管理することによって、スライダ60の厚さ方向の摺動クリアランスを管理することができる。
【0019】
上記3つの爪42は爪駆動装置110により、互いに同期して半径方向に移動させられる。その爪駆動装置110を拡大して図3に示すが、チャック本体20に固定された中央ガイド形成部材112を備えており、その中央ガイド形成部材112の中央孔114により、駆動部材116の軸方向の移動が案内される。駆動部材116には、中央穴114と摺動可能に嵌合する軸部材118が、ボルト119により、取り外し可能に固定されているのである。
【0020】
駆動部材116の外周部の120度間隔で互いに隔たった部分には、中心軸線Oに対して傾斜した係合溝としてのT溝120が形成される一方、前述のスライダ60の内周側端部には、T溝120に精度良く嵌合する断面形状がT字形の係合凸部122が形成されている。駆動部材116は、チャック本体20との間に設けられた複数の圧縮コイルスプリング130により構成される付勢装置132により、前進方向に付勢されており、通常は3つの爪42が拡開位置に保たれているが、前記軸部材116の、チャック本体20の前面76から前方へ突出した突出部136に、後退方向の力が加えられることにより、駆動部材116が後退させられ、3つの爪42が縮径させられて、保持対象物の芯出しを行う。本実施形態においては、T溝120と係合凸部122とにより、駆動部材116の軸方向の運動を爪42の半径方向の運動に変換する運動変換機構138が構成されているのである。この運動変換機構138へ異物が侵入することを防止するために、駆動部材116にはカバー140が取り付けられている。さらに、スライダ60の前端部にカバー142
が取り付けられて、異物の進入が二重に防止されている。
【0021】
上記中央ガイド形成部材112,軸部材120および駆動部材116は熱処理(本実施形態では焼入れ)により硬化可能な材料(例えば、高炭素鋼S45C)から成り、硬化ささせられるとともに、中央穴114の内周面と軸部材118の外周面とは研削により精度良く加工されている。また、T溝120と係合凸部122とも硬化させられるとともに、摺動面は研削により精度良く加工されている。
【0022】
前述のように、図1に示す爪部材62に代えて、図5に示す親爪70と子爪72とを有する爪部材を使用することも可能である。図5に示す例では、保持対象物が、大径部146と小径部148とを備え、かつ、中心孔150を有する環状の被加工物152であり、大径部146側の端面が、当てがね160を介してチャック本体20の前面76に当接させられるとともに、爪部材の子爪72により大径部146を外周面において保持される。
【0023】
上記親爪70と子爪72とは、次のようにして精度良く加工される。親爪70と子爪72とが、それらが使用されるハイブリッドチャック10自体のスライダ60に取り付けられて加工されるのであり、以下、この加工方法をセルフカットと称する。
まず、図6に示すように、円環治具164が3つのスライダ60に支持された状態とされる。一方、スライダ60に、子爪加工用治具162を介して子爪72が固定され、子爪加工用治具162が円環治具164の外周面に当接さられた状態で、スライダ60が固定される。この固定は以下のようにして行われる。工作機械(図示の例では縦型旋盤)の工具台165(図6参照)が、軸部材118の突出部136に上方から当接させられ、駆動部材116が付勢装置132の付勢力に抗して後退位置へ移動させられる。その状態で、図3に示すセットねじ166が、軸部材118のフランジ部に当接させられることにより、駆動部材116を後退位置に保つ状態とされた後、工具台165が突出部136から離間させられる。その後、子爪72の外周側の面が、工具台165に取り付けられたバイト167により、所定の直径の円筒の一部である部分円筒凸面168に切削加工される。以下の他の面の加工時においても同様である。
次に、図7に示すように、親爪70がスライダ60に固定され、前記子爪72の部分円筒凸面168と同一曲率半径の部分円筒凹面172に切削加工される。
続いて、図8に示すように、上記部分円筒凹面172と部分円筒凸面168とが当接する状態で、子爪72が親爪70に固定され、子爪72の内周側面である保持面174が、被加工物152の大径部146と同一またはそれより大きい曲率半径の部分円筒凹面に切削加工される。
以上の加工により、被加工物152の保持時に、保持面174は、チャック本体20の中心軸線と中心とする円の円周上に精度良く位置させられることとなる。
前記当てがね160も、図9に示すように、チャック本体20に固定された状態で、被加工物152を受ける受面176を加工され、被加工物152の軸方向の位置決めを精度良く行い得るようにされる。当てがね160の高さは、タッチプローブ178を使用して管理される。
【0024】
上記円環治具164は、本ハイブリッドチャック10の使用に際して、爪42の芯出し精度を確認するためにも使用できる。円環治具164を適宜の当てがねを介してチャック本体20の前面76に支持させた状態(本ハイブリッドチャック10が縦型旋盤や縦型研削盤に使用される場合には前面76が上向きの面となるため、単に前面76上に当てがねおよび円環治具164を載せるのみでよい)で、図1に示すように、制御装置184による工具台移動装置186の制御により、工作機械の工具台180自体または工具台180に取り付けた操作部材180を、軸部材118の突出部136に当接させて駆動部材116を後退させれば、3つの爪42が縮径して円環治具164を保持する状態となる。この状態で、円環治具164の外周面にタッチプローブ188を接触させ、ハイブリッドチャ
ック10を回転させれば、爪42の芯出し精度を確認することができるのである。
【0025】
また、磁性材料製の被加工物を加工するために、その被加工物を本ハイブリッドチャック10に保持させる場合には、以下のようにすればよい。チャック本体20の前面76に当てがね30を取り付け、その当てがね30を介してチャック本体20の前面76に被加工物を支持させ(ただし、当てがね30の使用は不可欠ではない)、上記芯出し精度確認時と同様に、工具台180あるいは操作部材182により軸部材118および駆動部材116を後退させれば、三つ爪チャック部14が縮径して、被加工物をチャック本体20に対して芯出しする。その状態で、図1に示す制御装置184による電磁石駆動回路190の制御により、電磁石26に通電してチャック本体20を磁化させれば、電磁チャック部12が磁性材料製の当てがね30を介して被加工物152を強固に保持する状態となる。その後、工具台180あるいは操作部材182による軸部材118および駆動部材116の後退位置保持を解除すれば、被加工物は電磁チャック部12のみにより保持された状態となる。なお、三つ爪チャック部による芯出し後、電磁チャック部12による保持の前に、駆動部材116を後退させる向きの操作力を弱めて、三つ爪チャック14による被加工物の拘束力を低減させた状態で、電磁チャック部12を保持状態とすることが望ましい。また、本ハイブリッドチャック10が上向きの場合には、電磁チャック部12に保持させる前に、三つ爪チャック部14による保持を解除してもよい。
上記三つ爪チャック部14と電磁チャック部12との制御が、作業者による1つの操作部材の操作に応じて自動で行われるように制御装置184が構成されることが望ましいが、不可欠ではない。作業者が複数の操作部材を順次操作するのに応じて、三つ爪チャック部14と電磁チャック部12との作動が順次行われるように、制御装置184が構成されてもよいのである。
【0026】
上記のように、本ハイブリッドチャック10においては、被加工物152を電磁チャック部12に保持させる場合に、三つ爪チャック部14により芯出しを行うことができるため、従来の電磁チャックにおいて不可欠であった作業者による芯出し作業が不要となるため、被加工物152のチャッキングに要する時間を著しく短縮することができ、生産能率を向上させることができる。
【0027】
しかも、三つ爪チャック部14においては、スライダ60と溝形成部材および押さえ部材との摺動面、スライダ60の係合突部122と駆動部材116のT溝120との摺動面、および、中央ガイド形成部材112の中央孔114と軸部材118との摺動面が、いずれも熱処理により硬化させられた上、研削により高精度に加工されているため、各摺動面間の摺動クリアランスが従来の三つ爪チャックの各対応部における摺動クリアランスに比較して小さく、高い芯出し精度が得られる。そして、その芯出し後は、電磁チャック部12によって、被加工物が当てがね30を介してチャック本体20の前面に密着した状態で保持されるため、従来の三つ爪チャックにより保持された場合のように、被加工物の浮き上がりが回避される。以上によって、被加工物の加工精度が向上する効果が得られる。
【0028】
このことは、以下の試験によって確認されている。
本発明の実施品としては、本実施形態のハイブリッドチャック10のスライダ60に、前記セルフカット法で加工した親爪70および子爪72から成る爪部材を取り付けたものを使用し、直径680mmの被加工物152を三つ爪チャック部14に保持させて、保持位置精度の測定を行った。
一方、比較例として、鋳鉄製のチャック本体に直接形成されたガイド溝にスライダが嵌合された市販の三つ爪チャックに、同一の被加工物152を保持させて、保持位置精度の測定を行った。
その測定結果を表1に示す。
【表1】
本表1において、「爪単体の繰返精度」は、被加工物の保持,解放を繰り返した場合の、1つの子爪72の繰返し位置決め誤差を表し、「芯出し精度」は保持された被加工物152の外周面の芯ぶれ量を表す。また、「最大浮上がり」は、被加工物152の端面が当てがね30に密着した状態から、三つ爪チャック部14に大径部146を保持させた場合における、被加工物152の当てがね30からの浮上がり量を表す。
表1から明らかなように、本ハイブリッドチャック10における三つ爪チャック部14の保持位置精度は、比較例の保持位置精度に比較して著しく高くなっている。なお、芯出し精度は、作業者による爪部材の管理状況によって相当なばらつきがあるが、一般的には0.05mmないし0.1mm程度である。
しかも、本ハイブリッドチャック10の製作に要する期間は1.5ヶ月と、前記従来の三つ爪チャックの所要期間の4〜6ヶ月に対して、25%ないし38%に短縮できることも確認された。
【0029】
さらに、本ハイブリッドチャック10においては、保持対象物の保持位置精度に影響を与える摺動面を形成する部分が、すべてチャック本体とは別体の部材により構成されているため、チャック本体とは異なる材料製とすることができ、熱処理により硬化させ、研削により高精度に加工することが可能であるため、製作当初の精度を高くすることが容易である上、使用に伴う摩耗を抑制することができ、高精度を長く維持できる。そして、それでも摩耗により保持位置精度が低下した場合には、チャック本体20とは別体の小形部品の修理すればよいため、修理が容易であり、あるいは小形部品の交換を行えばよいため、メンテナンスコストを低減させることができる。この効果は、チャック本体20の直径が500mm以上,700mm以上,1000mm以上というように、大形のチャックにおいて特に有効である。
【0030】
本発明の別の実施形態であるハイブリッドチャック200を図10に示す。本ハイブリッドチャック200は、主として、爪駆動装置202において前記ハイブリッドチャック10と異なる。
まず、ハイブリッドチャック200においては、鋳鉄製のチャック本体20の中央に形成された円孔204の内周側に、円筒状部材である中央ガイド形成部材206が嵌合され、固定されていて、その中央ガイド形成部材206の中央孔208に、駆動部材210が軸方向に摺動可能に嵌合されている。中央ガイド形成部材206と駆動部材210とは、共に高炭素鋼(例えばS50C)製とされるとともに、それぞれの内周面と外周面とが研削により高精度に加工されている。
また、駆動部材210は、工作機械の主軸の中央部に軸方向に移動可能に配設されたドローバー212に連結されており、そのドローバー212により軸方向に前進,後退させられる。
その他の部分は、前記実施形態と実質的に同じであるため、説明を省略する。
【0031】
本ハイブリッドチャック200は、ドローバー212を駆動するドローバー駆動装置2
20と、電磁チャック12の電磁石26を駆動する電磁石駆動回路190とが、制御装置222により制御されることにより、以下の3通りの方法で使用可能である。
まず、前記ハイブリッドチャック10と同様に、三つ爪チャック部14を被加工物の芯出しにのみ使用することが可能である。
また、三つ爪チャック部14を、加工時における被加工物の保持に使用することも可能であり、その使用の仕方に2通りある。その一つは、電磁チャック部12と三つ爪チャック部14とを選択的に保持状態とする方法である。例えば、まず三つ爪チャック部14に被加工物を保持させて重切削の粗加工を行い、その後、電磁チャック部12に被加工物を保持させて軽切削の仕上げ加工を行うのである。この場合には、粗加工時にはドローバー212に大きな引っ張り力を加えて被加工物を強固に保持させ、仕上げ加工時には、ドローバー212に粗加工時より小さい引っ張り力を加えて被加工物の芯出しを行わせた後、電磁チャック部12に保持させることが望ましい。このようにすれば、三つ爪チャック部14の保持力の強さと、電磁チャック部12の被加工物の浮き上がりを防止し得る利点との両方を享受することができる。
別の1つの使用方法は、電磁チャック部12と三つ爪チャック部14との両方を同時に保持状態とすることにより、被加工物を特に強固に保持させる方法であり、特に重切削が必要な場合に有効である。
【0032】
以上、本発明の実施形態を詳細に説明したが、これらは文字通り例示に過ぎず、本発明は、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更を施した態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0033】
10:ハイブリッドチャック 12:電磁チャック部 14:三つ爪チャック部 20:チャック本体 22:N極 24:S極 26:電磁石 28:セパレータ 30:当てがね 32:T溝 40:ガイド溝 42:爪 44:嵌合溝
46:溝形成部材 48:開口側端面 50:押さえ部材 60:スライダ
62:爪部材 70:親爪 72:子爪 74:嵌合部 76:前面 78:突出部 80:幅広部 82:幅狭部 84:腕部 86:脚部 90:肩面 92:溝側面 94:底面 96:腕部側面 98:腕部端面 110:爪駆動装置 112:中央ガイド形成部材 114:中央孔 116:駆動部材
118:軸部材 120:T溝 122:係合突部 130:圧縮コイルスプリング 132:付勢装置 136:突出部 138:運動変換機構 152:被加工物 160:当てがね 162:子爪加工用治具 164:円環治具 166:セットねじ 168:部分円筒凸面 172:部分円筒凹面 174:保持面
176:受面 200:ハイブリッドチャック 202:爪駆動装置 206:中央ガイド形成部材 208:中央孔 210:駆動部材 212:ドローバー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10