(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5735163
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】電波吸収体用導電性スラリー及び電波吸収体
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20150528BHJP
【FI】
H05K9/00 M
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-171890(P2014-171890)
(22)【出願日】2014年8月26日
【審査請求日】2014年8月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 敬太
【審査官】
遠藤 秀明
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−176286(JP,A)
【文献】
特開2014−039074(JP,A)
【文献】
特開2010−040730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波吸収体を作製するために用いられる導電性スラリーであって、
粒径0.2μm以下のカーボンブラックと、平均繊維径が10μm〜200μmの非導電性繊維と、溶媒とを含有し、
前記非導電性繊維の表面に前記カーボンブラックが直接積層、コーティングされていることを特徴とする電波吸収体用導電性スラリー。
【請求項2】
前記非導電性繊維は、ガラス繊維、アルミナ繊維及びシリカ繊維から選択される少なくとも1種の無機繊維、又は、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、アクリル繊維から選択される少なくとも1種の有機繊維である請求項1に記載の電波吸収体用導電性スラリー。
【請求項3】
前記カーボンブラックの含有率が3.0〜6.0質量%であり、前記非導電性繊維の含有率が0.1〜1.0質量%である請求項1又は2に記載の電波吸収体用導電性スラリー。
【請求項4】
前記非導電性繊維は、平均繊維長が1mm〜10mmである請求項1〜3のいずれか1項に記載の電波吸収体用導電性スラリー。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の電波吸収体用導電性スラリーを用いて作製された電波吸収体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波暗室用の電波吸収体を作製するために用いられる導電性スラリー及び該導電性スラリーを用いて作製された電波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、私たちの身近には、電子機器や通信機器、情報システムなど、多くの電磁波発生源が共存し、様々な電磁波を放射している。これらの機器から発生する電磁波は、周辺の機器に影響を及ぼす可能性があり、また機器自体も周辺の機器から影響を受ける。こういった環境の中で、多種多様な機器を共存させていくためには、周辺機器に影響を及ぼさず、自らも周辺機器から影響を受けないEMC(Electro-Magnetic Compatibility)対策が求められている。
【0003】
電子機器や通信機器は、時代の移り変わりと共に、低周波帯域から高周波帯域を利用する製品へとシフトしてきた。近年は、マイクロ波(周波数が1GHz〜30GHzの電波)およびミリ波(周波数が30GHz〜300GHzの電波)を利用した製品が増えている。例えば、第4世代携帯電話(4GHz)や超高速無線LAN(60GHz)、車載用ミリ波レーダー(77GHz)などが挙げられる。また、航空宇宙事業や軍事関連で使用される大電力照射用レーダー等でもマイクロ波・ミリ波が利用される状況となってきており、幅広い分野で、マイクロ波・ミリ波の電波が使われ始めている。
【0004】
利用製品の増加と共に、電磁波妨害に関する規格の整備も進められてきている。これまで規格に示されている許容値設定周波数の多くは、1GHz以下であり、EMC測定も1GHz以下が主流であった。しかし、近年は前述したように、電子機器の高周波化が進み、規格に記載されている許容値設定周波数も18GHz以下に改定されている。今後、本格的なユビキタス社会を迎える前には、より高い周波数帯域での測定が求められていくことは容易に想像が付く状況である。
【0005】
以上のように、近年は作動周波数の異なる様々な製品の開発が進み、それに伴い、電波暗室での求められる測定可能周波数も広くなってきている。特にマイクロ波・ミリ波帯域用電波暗室に用いられる電波吸収体は、広帯域(1GHz〜110GHz)にわたって電波吸収性能に優れた(電波吸収量25dB以上の)電波吸収体を求められる。
【0006】
従来から、マイクロ波・ミリ波を吸収する電波吸収体は存在する。これは、発泡ポリウレタン、発泡ポリプロピレンまたは発泡ポリエチレンからなる基材に、カーボンブラックやグラファイトなどカーボン系の導電性材料を混錬または含浸させた材料をピラミッド形状に成形して得た電波吸収体である。
【0007】
また、近年では、無機材料とカーボンブラックやグラファイトなどの導電性材料とから作製した難燃タイプの電波吸収体も開発されている。特許文献1には、セピオライト、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウムの各水和物などの含水無機化合物をピラミッド形状に成形してなる基材を用意し、該基材をカーボンブラックの塗料に浸漬して導電性を付与した電波吸収体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−115693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これら電波吸収体は、ある一定量のカーボン系導電性材料を添加し、ある一定の高さ以上に成形されたタイプの電波吸収体ばかりであり、ここ十数年進化が見られない状況となっている。製品化されているマイクロ波・ミリ波帯域電波吸収体も、このようなタイプのものばかりである。
【0010】
特許文献1の電波吸収体でも、たしかに1GHzにおける電波吸収量が26dBであり、優れた電波吸収性能を得ることができている。しかし、電波吸収体の高さが300mmであることから、より小型に成形した場合の電波吸収性能は十分ではない。
【0011】
本発明は上記課題に鑑み、小型であっても周波数1GHz〜110GHzの広帯域にわたって電波吸収性能に優れる電波吸収体を作製可能な電波吸収体用導電性スラリー、及び該スラリーを用いて作製される電波吸収体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するべく、本発明者らは、導電性のカーボン材料を含む導電性スラリーに、非導電性繊維を添加することに着目した。カーボン材料は、これまでも広く電波吸収体用の導電性材料として用いられてきたが、それ単独では添加量にも限界があり、電波吸収体の高さを高くして電波吸収性能を確保する必要があった。一方、非導電性繊維は、それ単独では、全く電波吸収性能を示すものではない。にもかかわらず、カーボン材料と非導電性繊維を併用した複合スラリーを用いて作製した電波吸収体では、意外にも、電波吸収性能が著しく向上することを本発明者は見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の電波吸収体を作製するために用いられる導電性スラリーは、カーボン材料と、非導電性繊維と、溶媒とを含有することを特徴とする。本発明において、前記非導電性繊維の表面は前記カーボン材料でコーティングされている。
【0014】
本発明において、前記カーボン材料は、カーボンブラック又はカーボンナノチューブであることが好ましい。前記非導電性繊維は、ガラス繊維、アルミナ繊維及びシリカ繊維から選択される少なくとも1種の無機繊維、又は、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、アクリル繊維から選択される少なくとも1種の有機繊維であることが好ましい。
【0015】
本発明において、前記カーボン材料の含有率が3.0〜6.0質量%であり、前記非導電性繊維の含有率が0.1〜1.0質量%であることが好ましい。
【0016】
本発明において、前記非導電性繊維は、平均繊維長が1mm〜10mmであり、平均繊維径が10μm〜200μmであることが好ましい。
【0017】
本発明の電波吸収体は、上記電波吸収体用導電性スラリーを用いて作製される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の電波吸収体用導電性スラリーによれば、小型であっても周波数1GHz〜110GHzの広帯域にわたって電波吸収性能に優れる電波吸収体を作製可能である。また、本発明の電波吸収体は、小型であっても周波数1GHz〜110GHzの広帯域にわたって電波吸収性能に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態による電波吸収体10の斜視図である。
【
図2】実施例1で作製した電波吸収体のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の電波吸収体用導電性スラリー及び電波吸収体の実施形態について説明する。
【0021】
本発明の一実施形態による電波吸収体用導電性スラリー(以下、単に「導電性スラリー」という。)は、例えば電波暗室に用いられる電波吸収体を作製するために用いられ、カーボン材料と、非導電性繊維と、溶媒とを含有することを特徴とする。この導電性スラリーを樹脂などの有機バインダー又はセメントなどの無機バインダーと混練し、この混練物を成形することによって、所定の形状の電波吸収体を作製することができる。例えば、
図1に示す電波吸収体10のようにピラミッド形状とすることができる。
【0022】
カーボン材料としては、高い導電性を有し、かつ粒子が細かく、表面積の大きいカーボンが好ましい。繊維状カーボン材料としては、カーボンファイバーやカーボンナノチューブなどが挙げられる。特にカーボンナノチューブは、カーボンファイバーと比べ嵩密度が非常に小さいため、カーボンファイバーよりもより少量で高い導電性を得ることができる。また、粒子状のカーボン材料(カーボン粒子)としては、カーボンブラックやグラファイトなどが挙げられる。特にカーボンブラックは、比表面積が非常に大きいため、グラファイトよりもより少量で高い導電性を得ることができる。これらのカーボン材料は、均一に分散させることによって、高い導電性を発現する材料である。
【0023】
本実施形態における導電性のカーボン材料の役割は、電波吸収体内でカーボン同士の繋がりを形成し、電波の通り道を作ることである。電波吸収体10は電波を照射されると、その内部において、導電性部分と誘電体部分(非導電性材料や空隙)の組み合わせにより導電損失および誘電損失が生じ、電波が熱に変換される。本実施形態の電波吸収体10は、このような原理によりマイクロ波およびミリ波の電波を吸収することができる。
【0024】
導電性材料が繊維状カーボン材料の場合、アスペクト比は100以上とすることが好ましく、カーボン粒子の場合、粒径は0.2μm以下とすることが好ましい。同質量添加した場合、アスペクト比が大きい方が繊維同士のつながりが得やすい。また、粒径が小さい方が個数をかせげるため、導電ネットワークを形成しやすい。なお、本明細書において「アスペクト比」は、SEMにて観察したときの、各繊維状カーボンの長さ/幅の比の値を、視野中の10個の粒子について平均した値を意味するものとし、「粒径」は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(50%累積粒径:D50)を意味するものとする。
【0025】
非導電性繊維は、非導電性の材料からなる繊維であれば特に限定されない。無機繊維としては、ガラス繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維などが挙げられる。有機繊維としては、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、アクリル繊維などが挙げられる。
【0026】
溶媒は、水、エタノール、IPAなどが挙げられる。
【0027】
本実施形態では、導電性スラリー中に、カーボン材料に加え非導電性繊維を含有する点が特徴である。本実施形態における非導電性繊維の役割は、電波吸収体の強度向上だけでなく、より電波吸収体の電波吸収性能を向上させることである。非導電性繊維は基本的に電波を吸収する性質を持たないが、カーボンが分散されたスラリーに添加することによって、大きな電波吸収性能を有する材料に変化する。その効果は、複数の作用が重なったものであり、電波吸収に絶大な効果を発揮する。そのため、本実施形態の導電性スラリーを用いて作製した電波吸収体は、小型であっても周波数1GHz〜110GHzの広帯域にわたって優れた電波吸収性能を発揮する。
【0028】
第一の電波吸収効果は、素材自体による電波吸収効果である。所定条件下で非導電性繊維をカーボンスラリーに添加すると、非導電性繊維の表面がカーボン材料により薄くコーティングされる。それにより、非導電性繊維である中心部分は誘電体、カーボンからなる表面部分は誘電損失体となり、いわゆる中空カーボン繊維のような状態ができる。このように、カーボン材料で被覆された非導電性繊維の表面に電波が到達すると、その表面に沿って電波が伝わり、導電性のカーボン材料が持つ電気的損失によって電波が熱に変換され、電波吸収を促す。
【0029】
第二の電波吸収効果は、繊維形状による電波吸収効果である。誘電率が高い材料ほど、材料中を伝搬する電波の波長は短くなる。基本的に電波吸収体は高い誘電率を有していることから、その中を伝搬する電波の波長も非常に短くなる。特にマイクロ波・ミリ波帯域の電波の波長は、数mm単位となる。その波長と非導電性繊維の長さが一致、又は半波長もしくは1/4波長となることによって、非導電性繊維上に電波が伝搬し、電波吸収を促す効果が得られる。このような観点から、本実施形態において、非導電性繊維は、平均繊維長が1mm〜10mmであることが好ましい。
【0030】
第三の電波吸収効果は、非導電性繊維内での電波散乱による電波吸収効果である。先に示したように、本実施形態の導電性スラリーでは、非導電性繊維である中心部分は誘電体、カーボンからなる表面部分は誘電損失体となり、いわゆる中空カーボン繊維のような状態となる。そのため、非導電性繊維の中に電波が進入した場合、その中で何度も電波が反射を繰り返すことによって電波の打ち消しあいが起こり、電波を吸収すると考えられる。そのためには、非導電性繊維の平均繊維径が重要となり、10μm〜200μmであることが好ましい。
【0031】
本明細書において、非導電性繊維の「平均繊維長」は、走査型電子顕微鏡(SEM)やマイクロスコープなどで非導電性繊維を観察し、視野中に含まれる任意の100個の繊維長の平均とする。また、非導電性繊維の「平均繊維径」は、非導電性繊維を樹脂埋めし、面出しした上でSEMなどで観察し、視野中に含まれる任意の30個の繊維径の平均とする。
【0032】
本実施形態の導電性スラリーにおいて、カーボン材料の含有率は3.0〜6.0質量%が好ましく、4.0〜4.5質量%がより好ましい。3.0質量%以上とすることで、カーボン材料を均一に分散させて良好な導電パスを形成することができ、充分な導電性を得ることができる。6.0質量%以下であれば、カーボンの高い吸油量によってスラリー化が困難となるということもない。
【0033】
本実施形態の導電性スラリーにおいて、非導電性繊維の含有率は0.1〜1.0質量%が好ましく、0.3〜0.8質量%がより好ましい。0.1質量%以上であれば、電波吸収性能を向上させる効果を十分に得ることができる。1.0質量%超えの場合、それ以下の添加量と電波吸収性能が変わらない。
【0034】
導電性スラリー中には、カーボン材料を分散させるための分散剤や、導電性スラリーの粘度を調整するための水ガラスを添加することができる。分散剤の含有率は、0.1〜4.0質量%が好ましい。0.1質量%以上であれば、カーボンを十分に分散させることができ、4.0質量%以下であれば、分散剤の体積比が大きくなりすぎて強度と電波吸収性能に悪影響を及ぼすということがない。また、水ガラスは、導電性スラリーの粘度を小さくして、非導電性繊維を均一に分散させる役割を果たす。粘度が小さくなるため、混練時に非導電性繊維が折れにくくなる効果もある。この観点から、水ガラスの含有量は0.1〜1.0質量%が好ましい。
【0035】
導電性スラリー中のこれらの材料以外の残部は溶媒となる。
【0036】
本実施形態の導電性スラリーは、以下の方法により好適に作製することができる。まず、溶媒に、カーボン材料の分散剤および水ガラスを溶かし、そこにカーボン材料を添加する。この混合液を回転式ボールミルなどで混練して、カーボンスラリーを作製する。ボールミルの回転数は40〜200rpm、混練時間は10〜50時間程度とすることができる。
【0037】
次に、作製したカーボンスラリーに、非導電性繊維及び水ガラスを添加し、ハンドミキサーなどの通常の混合機などで十分に混練して、本実施形態の導電性スラリーを得る。例えば、混練脱泡器(倉敷紡績株式会社製マゼルスターKK−2000)を用い公転と自転の回転数比を6:9として、300秒混練する。このように、カーボンを十分均一に分散させた後で、そのカーボンスラリーに非導電性繊維を添加することと、添加後に、上記所定の条件で混練を行うことによって、非導電性繊維の表面をカーボン材料でコーティングすることができる。
【0038】
ここで、本実施形態の導電性スラリーを用いた電波吸収体の作製方法を示す。本実施形態の導電性スラリーを樹脂などの有機バインダー又はセメントなどの無機バインダーと混練し、この混練物を所定の形状に成形する方法がある。混練は、ハンドミキサーなどの通常の混合機で行い、その後、真空脱泡器にかけた後、成形すればよい。
【0039】
なお、カーボンスラリーに、非導電性繊維及び水ガラスを添加するときに、樹脂などの有機バインダー又はセメントなどの無機バインダーを合わせて添加してもよい。その場合、公転および自転によって高い分散能力を有する混練脱泡器により混練し、その後、成形すればよい。非導電性繊維の表面をカーボン材料でコーティングするためには、混練時間は100〜1000秒とすることが好ましい。公転と自転の回転数比は、2:1〜1:2とすることが好ましい。
【実施例】
【0040】
水に、分散剤(サンノプコ株式会社製ローマD)および水ガラスを溶かし、そこにカーボンブラック(ライオン株式会社製、ケッチェンブラック)を添加した。この混合物を回転式ボールミル(回転数80rpm)で24時間混練し、カーボンスラリーを得た。次に、作製したカーボンスラリーに、表1に示す非導電性繊維と、水ガラスを添加し、混練脱泡器(倉敷紡績株式会社製マゼルスターKK−2000)を用い公転と自転の回転数比を6:9として、300秒混練して、導電性スラリーを得た。表1に、導電性スラリーの各成分の含有率を示す。なお、表1中のガラス繊維は、セントラルグラスファイバー株式会社製、ECS06-670を用いた。また、表1中のアラミド繊維は、帝人株式会社製、トワロンを用いた。
【0041】
作製した導電性スラリーとセメントを1:1の質量比で混練し、その後、真空脱泡器にかけた。底面100mm×100mm、高さ120mmのピラミッド形状ができるような樹脂型を用意した。その樹脂型に混練物を流し込み、常温・常湿で5日間乾燥させ、混練物中の水分を飛ばし、乾燥させた成形体を大気中、1300℃で5時間焼成し、それぞれの実施例及び比較例で36個の電波吸収体を作製した。
【0042】
【表1】
【0043】
各実施例及び比較例において、36体の電波吸収体を、
図1に示す要領で6体×6体で設置し、60cm×60cmの試験体を準備した。キーコム株式会社製のホーンアンテナとアジレントテクノロジー株式会社製のベクトルネットワークアナライザを用いて、垂直入射法によって、電波吸収量の測定を行った。測定結果を表2に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
表2から明らかなように、比較例よりも実施例では1GHz及び3GHzでの電波吸収量が大きく向上し、その結果実施例では周波数1GHz〜110GHzの広帯域にわたって良好な電波吸収性能を得ることができた。これまで、周波数1GHz及び3GHzでの電波吸収量を向上させるためには、電波吸収体の高さを30cm程度まで引き上げる必要があったが、実施例の導電性スラリーを用いることによって、高さ12cmの電波吸収体であっても、25dB以上の電波吸収量を実現させることができた。
【0046】
また、実施例を代表して、実施例1で作製した電波吸収体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を
図2に示す。具体的には、成形後の電波吸収体から、非導電性繊維が空孔中に露出している箇所を粉砕により抽出し、その表面を観察した。非導電性繊維であるのにも関わらず、導電性皮膜を蒸着せずにそのまま観察することができたことから、非導電性繊維の表面がカーボンで被覆されていることがわかる。あわせて、非導電性繊維表面をEDXで分析し、径100nm以下の炭素を主成分とする粒子が約1μm積層されていることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の電波吸収体用導電性スラリーによれば、小型であっても周波数1GHz〜110GHzの広帯域にわたって電波吸収性能に優れる電波吸収体を作製可能である。
【要約】
【課題】小型であっても周波数1GHz〜110GHzの広帯域にわたって電波吸収性能に優れる電波吸収体を作製可能な電波吸収体用導電性スラリーを提供する。
【解決手段】本発明は、電波吸収体を作製するために用いられる導電性スラリーであって、カーボン材料と、非導電性繊維と、溶媒とを含有することを特徴とする。
【選択図】なし