(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5735303
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】液晶表示素子、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1339 20060101AFI20150528BHJP
G02F 1/1343 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
G02F1/1339 500
G02F1/1343
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-36698(P2011-36698)
(22)【出願日】2011年2月23日
(65)【公開番号】特開2012-173590(P2012-173590A)
(43)【公開日】2012年9月10日
【審査請求日】2014年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 敬四郎
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(74)【代理人】
【識別番号】100141302
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜飼 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100168561
【弁理士】
【氏名又は名称】足立 能啓
(72)【発明者】
【氏名】岩本 宜久
(72)【発明者】
【氏名】片野 邦彦
【審査官】
福村 拓
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−281466(JP,A)
【文献】
特開2010−243967(JP,A)
【文献】
特開2010−079120(JP,A)
【文献】
特開2000−227599(JP,A)
【文献】
特開2003−029265(JP,A)
【文献】
特開2007−164180(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/077838(WO,A1)
【文献】
特開2002−350863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1339
G02F 1/1343
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のセグメント表示領域を含む第1の有効表示領域と、第2のセグメント表示領域を含む第2の有効表示領域と、を画定する一対の電極付き基板と、
前記一対の基板間に配置され、該一対の基板の対向距離を保持し、前記第1の有効表示領域と前 記第2の有効表示領域とで面積密度が異なる複数のスペーサと、
前記一対の基板間の周縁部に配置され、該一対の基板の対向領域を区画するシール材と、
前記一対の基板の対向領域に充填される垂直配向型の液晶層であって、前記第1の有効表示領域に対応する部分と前記第2の有効表示領域に対応する部分とで厚みが0.5μm以上異なり、かつ、前記第1の有効表示領域に対応する部分および前記第2の有効表示領域に対応する部分それぞれにおいて、厚みが一定であり、厚みのバラつきが±0.1μm以内である液晶層と、
を含む液晶表示素子。
【請求項2】
前記第1の有効表示領域に配置される前記スペーサと、前記第2の有効表示領域に配置される前記スペーサとは、平面形状が異なる請求項1記載の液晶表示素子。
【請求項3】
前記スペーサは、透光性樹脂である請求項1または2記載の液晶表示素子。
【請求項4】
さらに、前記一対の基板間に、前記第1の有効表示領域および前記第2の有効表示領域をそれぞれ区画する隔壁が設けられ、
前記液晶層は、前記第1の有効表示領域に充填される第1の液晶層と、前記第2の有効表示領域に充填される第2の液晶層と、を含み、
前記第1の液晶層と前記第2の液晶層とは、粘度が異なる請求項1〜3いずれか1項記載の液晶表示素子。
【請求項5】
前記第1の液晶層と前記第2の液晶層とは、自然状態の配向状態が異なる請求項4記載の液晶表示素子。
【請求項6】
さらに、前記一対の基板の一方の基板の外側に、前記第1の有効表示領域と前記第2の有効表示領域とで異なる偏光板が配置され、該偏光板の間に、遮光部材が配置される請求項1〜5いずれか1項記載の液晶表示素子。
【請求項7】
工程a)一対の基板表面に、第1のセグメント表示領域を含む第1の有効表示領域と、第2のセグメント表示領域を含む第2の有効表示領域と、を画定する電極を形成する工程と、
工程b)前記一対の基板の少なくとも一方の基板の前記電極が形成された面に、均一の高さを有する複数のスペーサを、前記第1の有効表示領域と前記第2の有効表示領域とで異なる面積密度で形成する工程と、
工程c)前記一対の基板の一方の基板の前記電極が形成された面の周縁部に、シール材を形成する工程と、
工程d)前記スペーサおよび前記シール材を挟んで前記一対の基板を貼り合わせ、前記第1の有効表示領域における前記一対の基板の対向距離と、前記第2の有効表示領域における前記一対の基板の対向距離とが0.5μm以上異なり、前記第1の有効表示領域における前記一対の基板の対向距離および前記第2の有効表示領域における前記一対の基板の対向距離はそれぞれ一定であって、それぞれのバラつきは±0.1μm以内である空セルを形成する工程と、
工程e)前記空セルに垂直配向型の液晶を封入する工程と、
を含む液晶表示素子の製造方法。
【請求項8】
前記工程b)において、前記スペーサは、前記一対の基板の一方の基板の前記電極が形成された面に感光性樹脂を塗布し、前記感光性樹脂にフォトマスクを用いた露光処理および現像処理を行うことにより形成される請求項7記載の液晶表示素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング特性が異なる複数の有効表示領域を含む液晶表示素子、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、対向基板間に狭持された液晶層に電圧を印加することで、液晶層を構成する液晶分子の配列を制御しリターデーションを変化させ、対向基板の外側に配置される偏光板と組み合わせて、表示状態のスイッチングを行う。液晶表示素子は、低温環境下において特に、スイッチング特性が他の表示素子に比べて遅いことが知られており、液晶層の厚みを薄くする、または液晶層の粘度を低くする、などしてスイッチング特性を改善する方法が提案されている。
【0003】
図10は、液晶表示素子を用いた車載用情報表示部を概略的に示す平面図である。車載用情報表示部10は、有効表示領域11a,11bを含み、例えば、有効表示領域11aに車両の速度情報を表示する7セグメント表示領域12a〜12c、有効表示領域11bに車内の温度情報を表示する7セグメント表示領域12d,12eを含む。このような車載用情報表示部10において、有効表示領域11aに表示される速度情報は、運転者および搭乗者の安全のため、車両の速度変化に直ちに追従する必要がある。
【0004】
このように、情報表示部10内において、少なくとも有効表示領域11aのスイッチング特性を向上させたい場合がある。この場合、有効表示領域11aと有効表示領域11bとでスイッチング特性が異なる別々の液晶表示素子を並列に配置する方法が考えられる。しかし、この方法では、それら液晶表示素子の境界部分が視認できてしまう可能性があるため、外観品質改善の余地が残される。また、一つの液晶表示素子内において、有効表示領域11aに対応する対向基板間に樹脂などを設け、当該領域に位置する液晶層の厚みを薄くする方法なども考えられる(例えば、特許文献1)。しかし、この方法は、対向基板間に樹脂などを形成する工程が増えてしまうため、生産効率の観点からあまり好ましいとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4105437号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、スイッチング特性が異なる複数の有効表示領域を含む液晶表示素子、およびその液晶表示素子を容易に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1観点によれば、第1のセグメント表示領域を
含む第1の有効表示領域と、第2のセグメント表示領域を
含む第2の有効表示領域と、を画定する一対の電極付き基板と、前記一対の基板間に配置され、該一対の基板の対向距離を保持し、前記第1の有効表示領域と前 記第2の有効表示領域とで面積密度が異なる複数のスペーサと、前記一対の基板間の周縁部に配置され、該一対の基板の対向領域を区画するシール材と、前記一対の基板の対向領域に充填される垂直配向型の液晶層であって、前記第1の有効表示領域に対応する部分と前記第2の有効表示領域に対応する部分とで厚みが
0.5μm以上異なり、かつ、前記第1の有効表示領域に対応する部分および前記第2の有効表示領域に対応する部分それぞれにおいて、
厚みが一定であり、厚みのバラつきが±0.1μm以内である液晶層と、を含む液晶表示素子、が提供される。
【0008】
本発明の他の観点によれば、工程a)一対の基板表面に、第1のセグメント表示領域を
含む第1の有効表示領域と、第2のセグメント表示領域を
含む第2の有効表示領域と、を画定する電極を形成する工程と、工程b)前記一対の基板の少なくとも一方の基板の前記電極が形成された面に、均一の高さを有する複数のスペーサを、前記第1の有効表示領域と前記第2の有効表示領域とで異なる面積密度で形成する工程と、工程c)前記一対の基板の一方の基板の前記電極が形成された面の周縁部に、シール材を形成する工程と、工程d)前記スペーサおよび前記シール材を挟んで前記一対の基板を貼り合わせ、前記第1の有効表示領域における前記一対の基板の対向距離と、前記第2の有効表示領域における前記一対の基板の対向距離とが
0.5μm以上異なり、前記第1の有効表示領域における前記一対の基板の対向距離および前記第2の有効表示領域における前記一対の基板の対向距離
はそれぞれ一定であって、それぞれのバラつきは±0.1μm以内である空セルを形成する工程と、工程e)前記空セルに垂直配向型の液晶を封入する工程と、を含む液晶表示素子の製造方法、が提供される。
【発明の効果】
【0009】
スイッチング特性が異なる複数の有効表示領域を含む液晶表示素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1-2】
図1Aおよび1Bは、スペーサ配置密度が異なる複数の有効表示領域を含む液晶表示素子の概略断面図である。
【
図2】
図2は、スペーサ配置密度が異なる複数の有効表示領域を含む液晶表示素子の作製フローを示すブロック図である。
【
図3-2】
図3Aおよび
図3Bは、スペーサ形成工程に用いた第1のフォトマスクの概略平面図、および第1のフォトマスクを用いてスペーサを作製した空セルの平面観察写真である。
【
図4-2】
図4Aおよび
図4Bは、スペーサ形成工程に用いた第2のフォトマスクの概略平面図、および第2のフォトマスクを用いてスペーサを作製した空セルの平面観察写真である。
【
図5-2】
図5Aおよび
図5Bは、スペーサ形成工程に用いた第3のフォトマスクの概略平面図、および第3のフォトマスクを用いてスペーサを作製した空セルの平面観察写真である。
【
図6-2】
図6Aおよび
図6Bは、スペーサ形成工程に用いた第4のフォトマスクの概略平面図、および第4のフォトマスクを用いてスペーサを作製した空セルの平面観察写真である。
【
図7】
図7は、液晶層厚のスペーサ面積密度依存性を示すグラフである。
【
図8】
図8Aおよび8Bは、スペーサ面積密度が異なる複数の有効表示領域を含む液晶表示素子において、さらに偏光板や位相差板などを組み合わせた液晶表示素子の概略断面図である。
【
図9】
図9は、スペーサ面積密度が異なる複数の有効表示領域を含む液晶表示素子において、各領域に粘度が異なる液晶層が充填された液晶表示素子の概略断面図である。
【
図10】
図10は、液晶表示素子を用いた車載用情報表示部を概略的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1Aは、本発明者らが検討を行った液晶表示素子の構成の一部を示す断面図である。液晶表示素子10は、一対の基板1a,1bと、一対の基板1a,1bの間に配置され、基板対向距離(一対の基板1a,1bの対向距離)を保持する複数のスペーサ2と、一対の基板1a,1bの間の周縁部に配置され、基板対向領域(一対の基板1a,1bの対向領域)を区画するシール材3と、基板対向領域を充填する液晶層4と、を含む構成である。なお、一対の基板1a,1bは、上下基板5a,5b表面に配置される上下電極6a,6bと、ガラス基板5a,5b、電極6a,6bおよびスペーサ2を覆って配置される配向膜7a,7bと、を含む構成である。表示領域12a〜12dは電極6a,6bが液晶層4を挟んで重なり合う領域に画定され、有効表示領域11a,11bは表示領域12a,12bおよび表示領域12c,12dが複数配列された領域に画定される。ここで、本発明者らは、
図1Aに示すように、有効表示領域11aにおけるスペーサ(スペーサ2aとする)の面積密度(基板平面における単位面積当たりのスペーサ占有面積比)が、有効表示領域11bにおけるスペーサ(スペーサ2bとする)の面積密度よりも小さい液晶表示素子10について検討を行った。
【0012】
図1Bは、本発明者らが検討を行った液晶表示素子を概略的に示す断面図である。一対の基板1a,1b間にスペーサ2が一様に配置されている場合、スペーサ2一個当たりにかかる基板対向圧力(一対の基板1a,1bの対向距離を保持する圧力)は一様であるため、スペーサ2の圧縮変位は基板面内で一様であると考えられる。例えば、有効表示領域11aにおいて、スペーサ2aの配置密度(単位面積当たりのスペーサ数)を小さくし、スペーサ面積密度を所定の値よりも小さくする。このとき、スペーサ2a一個当たりにかかる基板対向圧力はスペーサ2b一個当たりにかかる基板対向圧力よりも大きくなり、スペーサ2aの圧縮変位がスペーサ2bの圧縮変位よりも大きくなると考えられる。つまり、
図1Bに示すように、基板対向距離は、有効表示領域11b(基板対向距離d2)よりも有効表示領域11a(基板対向距離d1)で短くなり、対応して、基板対向領域に充填される液晶層4の厚みも、有効表示領域11bよりも有効表示領域11aで薄くなると考えられる。液晶表示素子のスイッチング特性は、一般的に、液晶層厚が薄いと速くなり、厚いと遅くなる。したがって、液晶表示素子10内に、スイッチング特性が相対的に速い有効表示領域11aと、遅い有効表示領域11bと、が実現されると考えられる。なお、便宜上、
図1Bでは液晶層厚の変化が誇張して描かれている。
【0013】
本発明者らは、スペーサの形状や配置密度が異なる複数の液晶表示素子を作製し、液晶層厚のスペーサ面積密度依存性について評価を行った。
【0014】
図2は、本発明者らが作製した垂直配向型液晶表示素子の作製フローを示すブロック図である。以下では
図1,2を参照しながら、本発明者らが作製した液晶表示素子の作製方法について説明する。
【0015】
電極付き基板形成工程21について説明する。上下ガラス基板5a,5bにITO膜を形成し、フォトリソグラフィ工程及びエッチング工程にて所望パターンの上下ITO電極6a,6bを形成する。なお、必要に応じてガラス基板表面にブラックマスクおよび絶縁膜を形成してもかまわない。
【0016】
スペーサ形成工程22について説明する。ITO電極6aが形成された下側ガラス基板5aにスリットコーターにて紫外線感光性透明樹脂(大阪有機化学製)を膜厚約4.5μmで塗布し、ホットプレート上にて90℃30秒間のプリベークを行う。後述する所定パターンのフォトマスクを介して光強度約200mJ/cmで紫外線露光処理を行い、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)0.04wt%水溶液にて現像処理を行う。水洗などによりTMAH水溶液を除去した後、クリーンオーブン内にて200℃60分間のポストベークを行い、スペーサ2を形成する。なお、スペーサ2は、ガラス基板5bに形成しても、ガラス基板5a,5bの両方に形成してもかまわない。また、紫外線感光性透明樹脂の塗布には、スピンコーターを用いてもかまわない。さらに、スペーサ2は、透光性樹脂であることが好ましい。
【0017】
配向膜形成工程23について説明する。所定パターンで均一な高さを有するスペーサ2が形成されたガラス電極5aおよびガラス電極5b上に、フレキソ印刷法にて、垂直配向性を有する配向膜7a、7bを塗布する。クリーンオーブン内にて90℃15分間のプリベーク、および180℃30分間のホストベークを行う。垂直配向膜7a、7bが形成されたガラス基板5a,5bに、綿製ラビング布を用いてラビング処理を施す。なお、ラビング処理は、完成した垂直配向型液晶表示素子のプレチルト角が約89.9°となる条件で行った。また、配向処理としてはラビング処理以外の配向方法、例えば光配向処理方法などを用いてもかまわない。さらに、配向処理は少なくとも一方の基板に施されていればよい。以上の工程により、一対の基板1a,1bが完成する。
【0018】
貼り合わせ工程24および液晶封入工程25について説明する。一対の基板1a,1bの一方に、熱硬化型シール材3を所望パターンで塗布する。一対の基板1a,1bをシール材3およびスペーサ2を挟むように貼り合わせ、シール材3を熱圧着により硬化させ、空セルを完成させる。なお、一対の基板は、前工程で行ったラビング処理の方向がアンチパラレルになるよう貼り合わせた。その後、空セルにΔε<0の液晶材料(メルク製)を真空注入法で注入、封止し、120℃60分間のアニールを行う。以上の工程により、垂直配向型液晶表示素子が完成する。
【0019】
図3Aおよび3Bは、スペーサ形成工程に用いた第1のフォトマスクの概略平面図、および第1のフォトマスクを用いてスペーサを作製した空セルの平面観察写真である。第1のフォトマスク31は、
図3Aに示すように、矩形状の開口部31aが、四方に周期的に配置されたパターンである。矩形状の開口部31aは、一辺の幅Wが10μmであり、ピッチPが0.1mmで配置されている。第1のフォトマスクを用いて実際に作製したスペーサ2の平面形状は、例えば
図3Bの実線で囲う領域に示すように、ほぼ円形状であった。また、スペーサ2の断面形状は、テーパー形状であることが確認された。なお、例えば
図3Bの破線で囲う「く」の字状のパターン6は、ガラス基板上に形成されたITO電極のパターンである。
【0020】
図4Aおよび4Bは、スペーサ形成工程に用いた第2のフォトマスクの概略平面図、および第2のフォトマスクを用いてスペーサを作製した空セルの平面観察写真である。第2のフォトマスク32は、
図4Aに示すように、十字状の開口部32aが、四方に周期的に配置されたパターンである。十字状の開口部32aは、幅Wが10μm、長さLが0.1mmであり、ピッチPが0.29mmで配置されている。第2のフォトマスクを用いて実際に作製したスペーサ2の平面形状は、例えば
図4Bの実線で囲う領域に示すように、角に丸みを帯びた十字形状であった。また、スペーサ2の断面形状は、テーパー形状であることが確認された。なお、例えば
図4Bの破線で囲う矩形状のパターン6は、ガラス基板上に形成されたITO電極のパターンである。
【0021】
図5Aおよび5Bは、スペーサ形成工程に用いた第3のフォトマスクの概略平面図、および第3のフォトマスクを用いてスペーサを作製した空セルの平面観察写真である。第3のフォトマスク33は、
図5Aに示すように、互いに直交する方向に延在する矩形状の開口部33a,33bが、互いに重畳しないよう周期的に配置されたパターンである。矩形状の開口部33a,33bは、幅Wが10μm、長さLが0.2mmであり、間隔Sが0.09mm、ピッチPが0.29mmで配置されている。第3のフォトマスクを用いて実際に作製したスペーサ2の平面形状は、例えば
図5Bの実線で囲う領域に示すように、角に丸みを帯びた矩形状であった。また、スペーサ2の断面形状は、テーパー形状であることが確認された。なお、例えば
図5Bの破線で囲う傾斜した矩形状のパターン6は、ガラス基板上に形成されたITO電極のパターンである。
【0022】
図6Aおよび6Bは、スペーサ形成工程に用いた第4のフォトマスクの概略平面図、および第4のフォトマスクを用いてスペーサを作製した空セルの平面観察写真である。第4のフォトマスク34は、
図6Aに示すように、ライン状の開口部34aが、周期的に配置されたパターンである。ライン状の開口部34aは、ライン幅Wが10μmであり、ピッチPが0.29mmで配置されている。第4のフォトマスクを用いて実際に作製したスペーサ2の平面形状は、例えば
図6Bの実線で囲う領域に示すように、ライン形状であった。また、スペーサ2の断面形状は、底辺が約20μm、上辺が約10μmのテーパー形状であると見積もられた。なお、例えば
図6Bの破線で囲う矩形状のパターン6は、ガラス基板上に形成されたITO電極のパターンである。
【0023】
本発明者らは、以上に示したスペーサが形成された液晶表示素子以外にも、スペーサのサイズや配置ピッチが異なる複数の液晶表示素子を作製し、それら液晶表示素子のリターデーションを測定することにより、液晶層厚を見積もった。なお、リターデーションとは、光の偏光成分の位相差を表すパラメータであり、液晶層厚と液晶層を構成する液晶材料の複屈折率との積により決定される。
【0024】
図7は、液晶層厚のスペーサ面積密度依存性を示すグラフである。横軸がスペーサ面積密度(基板平面における単位面積当たりのスペーサ占有面積比)を示し、縦軸が液晶層厚(μm)を示す。このグラフから、スペーサ面積密度が約0.035以下の範囲では、スペーサ面積密度の増大に伴って、液晶層厚が約3.2μmから約4.2μmまで顕著に増大していることがわかる。一方、スペーサ面積密度が約0.035より大きい範囲では、液晶層厚はほぼ4.2μm程度であり、スペーサ面積密度の増大に伴う液晶層厚の増大が顕著に見られないことがわかる。本発明者らの更なる検討によれば、スペーサ面積密度が約6%のとき、液晶層厚が約4.3μmとなり、液晶層厚がほぼ飽和することがわかった。
【0025】
以上の結果から、本実施例においては、スペーサ面積密度が約0.035以下の範囲で、スペーサ面積密度を調整することにより液晶層厚を制御できることがわかった。例えば、第1の有効表示領域と第2の有効表示領域とを含む液晶表示素子において、第1の有効表示領域におけるスペーサ面積密度を約0.035以下とし、第2の有効表示領域におけるスペーサ面積密度を約0.035より大きくすることにより、第2の有効表示領域よりも第1の有効表示領域で液晶層厚が薄い、つまりスイッチング特性が速い液晶表示素子を得ることが可能となる。また、このようなスペーサ面積密度が異なる複数の領域を含む液晶表示素子は、開口パターンが異なる複数の領域を含むフォトマスクを用いてスペーサを形成するだけで、従来の作製方法と比べて作製工程を増やすことなく、容易に作製することが可能である。なお、従来の液晶表示素子における液晶層厚の誤差は±0.1μm程度であり、この程度の液晶層厚の差異では十分なスイッチング特性の差異が実現されるとは言えない。液晶層厚の差異は、一般的な液晶表示素子における液晶層厚の誤差の2倍以上、より言えば0.5μm以上あることが好ましいであろう。
【0026】
図8Aおよび8Bは、スペーサ面積密度が異なる複数の有効表示領域を含む液晶表示素子において、さらに偏光板や位相差板などを組み合わせた液晶表示素子の概略断面図である。スペーサ面積密度が異なる複数の有効表示領域を含む液晶表示素子は、液晶層厚が異なるため、各領域でリターデーションが異なる可能性がある。この場合、
図8Aに示すように、観察面側には各領域で共通の偏光板41を配置し、他方面側には各領域で吸収軸方向が異なる偏光板42a,42bを配置し、偏光板42a,42b間に、黒色インク印刷等で、遮光部材43を配置することが好ましい。このような構成により、観察面側から見たときに各領域の境界部分が視認されてしまうような、外観品質の低下が抑制されると考えられる。また、
図8Bに示すように、観察面側およびその他方面側に各領域で共通の偏光板41,44を配置し、他方面側に光の偏光成分の位相差を変化させる位相差板45を配置する構成にしても、観察面側から見たときに各領域の境界が視認されてしまうような、外観品質の低下が抑制されると考えられる。なお、位相差板45に、特開2004−231638に開示されている重合性化合物を含む位相差膜を用いれば、各領域間での板厚差が目立たないため好ましいであろう。
【0027】
以上、実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに限られるものではない。例えば、スペーサは、実施例に示した形状やパターンに限られない。また、実施例では、垂直配向型液晶表示素子について説明したが、液晶層の配向状態はこれに限られない。
【0028】
図9は、スペーサ面積密度が異なる有効表示領域11a,11bを含む液晶表示素子において、一対の基板1a,1b間に各領域を区画する隔壁46a,46bが設けられ、各領域に粘度が異なる液晶層4a,4bが充填されている液晶表示素子の概略断面図である。液晶表示素子のスイッチング特性は、一般的に、液晶層の粘度が低いと速くなり、高いと遅くなる。したがって、スペーサ面積密度が小さく液晶層厚が薄くなる基板対向領域に、粘度の低い液晶層を充填することにより、当該領域のスイッチング特性は更に改善されると考えられる。なお、このように各領域が隔壁により区画された液晶表示素子において、各領域に配向状態が異なる液晶層、例えばツイスト・ネマチック液晶やスーパー・ツイスト・ネマチック液晶等を充填してもかまわない。
【0029】
その他、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者には自明であろう。
【符号の説明】
【0030】
1 電極付き基板、
2 スペーサ、
3 シール材、
4 液晶層、
5 ガラス基板、
6 電極、
7 配向膜。