(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
[本発明の各態様の概要]
本発明の一態様に係る有機EL素子は、透明電極と、当該透明電極と対向配置された反射電極と、透明電極と反射電極との間に介在する20[nm]から200[nm]の膜厚の発光層と、を含み、反射電極は、アルミニウム(Al)を主成分とする金属膜と、当該金属膜の発光層側の表面の全面に酸化層(AlO
X)を介さずにニッケル(Ni)膜を積層した積層膜であり、次の関係を満足する構成とした。
【0021】
・ Alを主成分とする金属膜の膜厚は、43[nm]以上である。
【0022】
・ Ni膜の膜厚dは、0[nm]<d<5[nm]である。
【0023】
・ 積層膜の発光層側表面の面内平均粗さRaは、0.6[nm]≦Ra<2.0[nm]である。
【0024】
・ 積層膜の発光層側表面の面内最大高低差Rmaxは、5[nm]≦Rmax<20[nm]である。
【0025】
本発明の一態様に係る有機EL素子では、Alを主成分とする金属膜を含み形成された反射電極を備えるので、反射電極にAg膜を用いる場合に比べて、材料コストの低減を図ることができる。特に、デバイスの大型化を進めて行く上でコスト面での効果が大きい。
【0026】
また、本発明の一態様に係る有機EL素子では、発光層の膜厚を20[nm]〜200[nm]の範囲に規定している。これは、次のような理由からである。
【0027】
有機EL素子の特性として、有機層の膜厚は、陰極消光の影響を避けるために、最低でも20[nm]が必要である。このとき、発光層の膜厚を20[nm]以上としてもよいし、例えば電子輸送層若しくは正孔輸送層、またはこれらの組み合わせにより、20[nm]以上とすることでもよい。
【0028】
一方、有機層の膜厚が200[nm]よりも厚くなると、高電圧を印加する必要が生じ、発熱の影響が大きくなる。このため、有機EL素子の劣化を防止するという観点から、有機層の膜厚は、200[nm]以下としておくことが必要となる。
【0029】
また、本発明の一態様に係る有機EL素子では、反射電極が、Alを主成分とする金属膜の発光層側の表面の全面に酸化層を介さずにNi膜を積層した積層膜であるので、Al膜表面に自然酸化膜が形成された場合に比べて、光の吸収が抑えられ、電荷の移動の障壁形成が抑制される。即ち、本発明の一態様に係る有機EL素子では、Al膜表面への自然酸化膜の形成が抑制されるので、反射電極での光吸収が抑制され、電極内部でのオーミックな接続が実現されるので、電荷(ホール/電子)の注入性の向上が図られる。なお、Ni膜により金属膜の表面が被覆されているので、Alを主成分とする金属膜の表面部に自然酸化膜が新たに形成されることは防止される。
【0030】
なお、Ni膜により金属膜の表面を被覆することにより、自然酸化膜の形成を防止できるのは、NiがAlに比べてイオン化傾向が小さく、空気中での酸化を生じ難く、また、水分との反応も生じ難いためである。
【0031】
また、本発明の一態様に係る有機EL素子では、反射電極において、Alを主成分とする金属膜の膜厚を43[nm]以上とし、Ni膜の膜厚dを、0[nm]<d<5[nm]としているので、高い発光効率を得ることができる。即ち、Alを主成分とする金属膜の膜厚が43[nm]未満の場合には、発光層から反射電極側に照射された光の透明電極側へ反射される光量の減少が問題となるが、金属膜の膜厚を43[nm]以上とすることにより、反射光の光量の減少を抑制できる。また、Ni膜の膜厚dを5[nm]未満とすることにより、照射された光を金属膜の表面部で反射させることができる。
【0032】
さらに、本発明の一態様に係る有機EL素子では、積層膜の発光層側表面の面内平均粗さRaを、0.6[nm]≦Ra<2.0[nm]とし、且つ、積層膜の発光層側表面の面内最大高低差Rmaxを、5[nm]≦Rmax<20[nm]としているので、積層膜(反射電極)の表面部での光の乱反射を抑制することができ、高い光反射率を実現することができる。また、上記のようにRa(0.6[nm]≦Ra<2.0[nm])およびRmax(5[nm]≦Rmax<20[nm])を規定することにより、反射電極が有機膜を突き抜けることを防ぐことができ、電極間でのショートや電界集中といった問題が発生することを防止することができる。
【0033】
従って、本発明の一態様に係る有機EL素子では、反射電極としてAl膜(金属膜)を構成中に含むことでAg膜を含む場合に比べてコスト面で優れるとともに、高い発光効率と電極間でのショートの発生および電界集中の発生の抑制を図ることができる。
【0034】
なお、本発明の各態様における面内最大高低差Rmaxおよび面内平均粗さRaについては、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)で測定することができる。即ち、面内最大高低差Rmaxは、反射電極の表面に対して直交する方向での最大高さと最小高さとの差を表すものである。また、面内平均粗さRaは、反射電極の表面に対して直交する方向での中心面から測定点までの高さの平均値を表すものである。
【0035】
また、本発明の一態様に係る有機EL素子では、上記構成において、積層膜の発光層側表面の面内最大高低差Rmaxが、5[nm]≦Rmax<17[nm]である、という構成を採用することができる。このように、積層膜の発光層側表面の面内最大高低差Rmaxを、5[nm]≦Rmax<17[nm]と規定する場合には、反射電極の有機膜の突き抜けによる電極間でのショートや電界集中といった問題の発生を更に確実に防止することができる。
【0036】
また、本発明の一態様に係る有機EL素子では、上記構成において、反射電極は複数設けられており、反射電極に対応する開口部を規定するバンクが設けられ、発光層はバンクで規定された開口部に形成され、バンクは、反射電極の少なくとも一の断面方向において反射電極の端部を被覆している、という構成を採用することができる。このように、反射電極の端部をバンクで被覆するという構成を採用する場合には、反射電極の端部で生じる電界集中やショートの発生を防止することができる。
【0037】
仮に、エッチングにより、反射電極の端部を、基板表面に対して略垂直にパターニングした場合には、発光層を含む有機層で端部が十分に被覆されず、若しくは有機層の膜厚が薄くなり、電界集中や対向電極(上部の透明電極)との間でショートが生じる。
【0038】
一方、電界集中および対向電極とのショートの発生を防止する目的で、反射電極の端部にテーパーを付けることができる。
【0039】
しかしながら、反射電極の端部におけるテーパー表面においては、凹凸が生じ、均一な反射面を実現することができない。
【0040】
本発明の一態様に係る有機EL素子においては、上記のような問題に鑑み、反射電極の端部をバンクで被覆するという構成を採用することにより、当該端部における電界集中や対向電極とのショートの発生を防止することができる。また、反射電極の端部をバンクで被覆するので、当該端部にテーパーを付けた場合にあっても、均一な反射特性を実現することができる。
【0041】
また、本発明の一態様に係る有機EL素子では、上記構成において、Alを主成分とする金属膜の発光層側の表面に島状または不連続状の酸化膜が形成されている、という構成を採用することができる。なお、本明細書では、「酸化層」とは、下地層の表面全体に形成されたものをいい、「酸化膜」とは、下地層の表面において、島状または不連続状に形成されたものをいう。
【0042】
上記のように、Alを主成分とする金属膜の発光層側の表面に島状または不連続状の酸化膜が形成されているという構成を採用する場合にあっても、Alを主成分とする金属膜の発光層側の表面の残りの部分がNi膜により被覆されているので、上述のように、自然酸化層の新たな形成が抑制され、高い反射率を維持することができる。
【0043】
また、本発明の一態様に係る有機EL素子では、上記構成において、反射電極と発光層との間には、透明導電膜が設けられている、という構成を採用することができる。このように、反射電極と発光層との間に透明導電膜を設ける構成を採用する場合には、発光層と反射電極の表層部分との間の距離調整を、透明導電膜の膜厚調整により容易に行うことができる。よって、キャビティー設計の自由度を高くすることができ、高い発光効率を有する有機EL素子を実現することができる。
【0044】
また、本発明の一態様に係る有機EL素子では、上記構成において、透明導電膜として、ITO(Indium Tin Oxide)もしくはIZO(Indium Zinc Oxide)、またはその他の金属酸化物を採用することができる。
【0045】
また、本発明の一態様に係る有機EL素子では、上記構成において、反射電極と発光層との間に電荷注入層が設けられているという構成を採用することができる。このように反射電極と発光層との間に電荷注入層を設ける場合には、反射電極から発光層への電荷注入性の向上を図ることができ、発光特性の向上を図ることができる。この場合において、電荷注入層と発光層との間に、電荷輸送層が設けられているという構成を採用することもできる。
【0046】
上記において、電荷注入層を、例えば、金属の酸化物、窒化物、または酸窒化物からなる層とすることができる。このように、電荷注入層を金属の酸化物、窒化物、または酸窒化物からなる層とする場合には、有機材料からなる電荷注入層の場合に比べて、素子における電圧−電流密度特性が優れ、また、大きな電流を流して強い発光強度を得る場合にも劣化し難い。
【0047】
具体的に、電荷注入層として、タングステン(W)またはモリブデン(Mo)の酸化物からなる層とすることができる。
【0048】
本発明の一態様に係る表示パネルは、上記の各態様に係る有機EL素子を含むという構成とすることができる。このような構成とする場合には、本発明の各態様に係る有機EL素子が有する上記効果を全て有することになる。
【0049】
また、本発明の一態様に係る表示パネルは、画素単位に複数設けられた反射電極と、反射電極に対応する開口部を規定するバンクと、バンクで規定された開口部に形成された発光層と、発光層の上方に形成された透明電極と、を含み、バンクが、反射電極の少なくとも一の断面方向において反射電極の両端部を被覆し、反射電極が、Alを主成分とする金属膜と、当該金属膜の発光層側の表面の全面に酸化層を介さずにNi膜を積層した積層膜であり、次の関係を満足する構成とした。
【0050】
・ Ni膜の膜厚dは、0[nm]<d<5[nm]である。
【0051】
・ 積層膜の発光層側表面の面内平均粗さRaは、0.6[nm]≦Ra<2.0[nm]である。
【0052】
・ 積層膜の発光層側表面の面内最大高低差Rmaxは、5[nm]≦Rmax<20[nm]である。
【0053】
このような構成を採用する表示パネルでは、反射電極の端部がバンクで被覆されていることにより、当該端部における電界集中や対向電極とのショートの発生を防止することができる。また、反射電極の端部をバンクで被覆するので、当該端部にテーパーを付けた場合にあっても、均一な反射特性を実現することができる。
【0054】
本発明の一態様に係る表示パネルは、上記構成において、バンクで規定された開口部が、複数の反射電極の各々に対応して形成されている、という構成を採用することができる。所謂、ピクセルバンクを採用することができる。
【0055】
また、本発明の一態様に係る表示パネルは、上記構成において、画素単位に複数設けられた反射電極が、複数のライン単位に配列され、バンクで規定された開口部が、ライン単位に対応して形成されている、という構成を採用することもできる。所謂、ラインバンクを採用することもできる。
【0056】
本発明の一態様に係る表示装置は、上記の各態様の何れかに係る表示パネルを含む、という構成とすることができる。これにより、本発明の各態様に係る表示パネルが有する効果をそのまま有することができる。
【0057】
以下では、本発明を実施するための形態について、数例を用い説明する。
【0058】
なお、以下の説明で用いる実施の形態は、本発明の構成および作用・効果を分かりやすく説明するために用いる例示であって、本発明は、その本質的部分以外に何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
【0059】
[実施の形態1]
1.表示装置1の全体構成
以下では、実施の形態1に係る有機EL素子を含む表示装置1の構成について
図1を用い説明する。
【0060】
図1に示すように、表示装置1は、表示パネル10と、これに接続された駆動制御部20とを有し構成されている。表示パネル10は、有機材料の電界発光現象を利用したパネルであり、複数の有機EL素子が、例えば、マトリクス状に配列され構成されている。駆動制御部20は、4つの駆動回路21〜24と制御回路25とから構成されている。
【0061】
なお、実際の表示装置1では、表示パネル10に対する駆動制御部20の配置については、これに限られない。
【0062】
2.表示パネル10の構成
表示パネル10の構成について、
図2および
図3を用い説明する。
図2は、表示パネル10の構成の一部の断面図であって、
図3は、表示パネル10の一部の構成要素を平面視した平面図である。なお、
図2は、
図3におけるA−A‘断面を示す。
【0063】
図2に示すように、表示パネル10は、基板101をベースとして形成されている。そして、基板101上には、TFT(薄膜トランジスタ)層およびパッシベーション膜が形成されており(図示を省略。)、その上を覆うように層間絶縁層102が積層形成されている。
【0064】
絶縁層である層間絶縁層102上には、画素100毎に対応して反射電極103が形成されており、その上を覆うように電荷注入層104が積層形成されている。電荷注入層104の上には、画素100毎に対応する開口部を規定するバンク105が形成されている。
【0065】
反射電極103は、陽極として機能する電極であり、金属膜1031とニッケル(Ni)膜1032との積層膜である。金属膜1031は、アルミニウム(Al)を主成分とする金属から構成されている。そして、反射電極103において、金属膜1031とNi膜1032との間には、その全面にアルミニウムの酸化層が介挿されてはいない。なお、「酸化層」とは、上述のように、下地層である金属膜1031の表面全体に形成されたものをいい、金属膜1031の表面において、島状または不連続状に形成されたもの(「酸化膜」)までも排除するものではない。
【0066】
バンク105で規定された各開口部には、電荷輸送層106、有機発光層107、および電子輸送層108が順に積層形成されている。なお、反射電極103のX軸方向の両端部は、テーパー状とされており、バンク105により被覆されている。
【0067】
ここで、表示パネル10におけるバンク105と有機発光層107との配置関係を、
図3を用い説明する。
【0068】
図3に示すように、表示パネル10におけるバンク107は、所謂、ピクセルバンクと呼称されるものであって、Y軸方向に延伸する要素105aとX軸方向に延伸する要素105bとが一体に形成されている。バンク105で規定される各開口部が一画素100に該当し、有機発光層107が各開口部内に配されている。
【0069】
図2に戻って、電子輸送層108の上、およびバンク105の上面には、層状の透明電極109が形成されている。透明電極109は、陰極として機能する電極である。そして、図示を省略しているが、透明電極109の上には、封止層が設けられている。さらに、その上には、上部基板110が載置されている。
【0070】
表示パネル10では、陽極である反射電極103からホールが供給され、陰極である透明電極109から電子が注入され、これらが有機発光層107で再結合することで光が出射される。有機発光層107から出射された光には、Z軸方向の上方に配された透明電極109の側へと向かう成分と、Z軸方向の下方に配された反射電極103の側へと向かう成分とが含まれる。反射電極103の側へと向かった光成分は、反射電極103における金属膜1031の有機発光層107側表面および表層部分で反射されて透明電極109の側へと向かうことになる。このように、反射電極103における金属膜1031の表層部は、所定の反射率を有する反射部としての役割も果たす。
【0071】
本実施の形態に係る表示パネル10においては、有機発光層107の膜厚が、20[nm]〜200[nm]であり、反射電極103における金属膜1031の膜厚が、43[nm]以上であり、その上に形成されているNi膜1032の膜厚dが、0<d<5[nm]の関係を満たす。
【0072】
また、表示パネル10においては、各画素100における反射電極103の有機発光層107側の表面の面内平均粗さRaが、0.6[nm]≦Ra<2.0[nm]であり、面内最大高低差Rmaxが、5[nm]≦Rmax<20[nm]である。なお、反射電極103の有機発光層107側の表面の面内最大高低差Rmaxについては、5[nm]≦Rmax<17[nm]とすることがより望ましい。
【0073】
3.表示パネル10を構成要素に使用される材料の一例
a)基板101
基板101は、例えば、無アルカリガラス、ソーダガラス、無蛍光ガラス、燐酸系ガラス、硼酸系ガラス、石英、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレン、ポリエステル、シリコーン系樹脂、又はアルミナ等の絶縁性材料をベースとして形成されている。
【0074】
b)層間絶縁層102
層間絶縁層102は、例えば、ポリイミド、ポリアミド、アクリル系樹脂材料などの有機化合物を用い形成されている。
【0075】
c)反射電極103
反射電極103における金属膜1031は、上記のようにAlを主成分とする金属から構成されており、例えば、アルミニウム(Al)またはアルミニウム(Al)合金を用い形成されている。そして、トップエミッション型の本実施の形態に係る表示パネル10の場合には、その表面部が高い反射性を有することが好ましい。
【0076】
なお、反射電極103における金属膜1031の上には、ニッケル(Ni)からなるNi膜1032が被覆形成されている。
【0077】
d)バンク105
バンク105は、樹脂等の有機材料を用い形成されており絶縁性を有する。バンク105の形成に用いる有機材料の例としては、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等があげられる。バンク106は、有機溶剤耐性を有することが好ましい。さらに、バンク106は、製造工程中において、エッチング処理、ベーク処理など施されることがあるので、それらの処理に対して過度に変形、変質などをしないような耐性の高い材料で形成されることが好ましい。また、撥水性をもたせるために、表面をフッ素処理することもできる。
【0078】
なお、バンク105を親液性の材料を用い形成した場合には、バンク105の表面と有機発光層107の表面との親液性/撥液性の差異が小さくなり、有機発光層107を形成するために有機物質を含んだインクを、バンク105が規定する開口部内に選択的に保持させることが困難となってしまうためである。
【0079】
さらに、バンク105の構造については、
図2に示すような一層構造だけでなく、二層以上の多層構造を採用することもできる。この場合には、層毎に上記材料を組み合わせることもできるし、層毎に無機材料と有機材料とを用いることもできる。
【0080】
e)電荷注入層104
電荷注入層104は、例えば、銀(Ag)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、イリジウム(Ir)などの酸化物、あるいは、PEDOT(ポリチオフェンとポリスチレンスルホン酸との混合物)などの導電性ポリマー材料からなる層である。上記の内、酸化金属からなる電荷注入層104は、電荷(ホール)を安定的に、または電荷(ホール)の生成を補助して、有機発光層107に対し電荷(ホール)を注入する機能を有し、大きな仕事関数を有する。
【0081】
ここで、電荷注入層104を遷移金属の酸化物から構成する場合には、複数の酸化数をとるためこれにより複数の準位をとることができ、その結果、ホール注入が容易になり駆動電圧を低減することができる。
【0082】
f)電荷輸送層106
電荷輸送層106は、親水基を備えない高分子化合物を用い形成されている。例えば、ポリフルオレンやその誘導体、あるいはポリアリールアミンやその誘導体などの高分子化合物であって、親水基を備えないものなどを用いることができる。
【0083】
g)有機発光層107
有機発光層107は、上述のように、ホールと電子とが注入され再結合されることにより励起状態が生成され発光する機能を有する。有機発光層107の形成に用いる材料は、湿式印刷法を用い製膜できる発光性の有機材料を用いることが必要である。
【0084】
具体的には、例えば、特許公開公報(日本国・特開平5−163488号公報)に記載のオキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物及びアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、アンスラセン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8−ヒドロキシキノリン化合物の金属錯体、2−ビピリジン化合物の金属錯体、シッフ塩とIII族金属との錯体、オキシン金属錯体、希土類錯体などの蛍光物質で形成されることが好ましい。
【0085】
h)電子輸送層108
電子輸送層108は、陰極である透明電極109から注入された電子を有機発光層107へ輸送する機能を有し、例えば、オキサジアゾール誘導体(OXD)、トリアゾール誘導体(TAZ)、フェナンスロリン誘導体(BCP、Bphen)などを用い形成されている。
【0086】
i)透明電極109
陰極である透明電極109は、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)若しくはIZO(Indium Zinc Oxide)などを用い形成される。本実施の形態のように、トップエミッション型の表示パネル10の場合においては、光透過性の材料で形成されることが好ましい。光透過性については、透過率が80[%]以上とすることが好ましい。
【0087】
透明電極109の形成に用いる材料としては、上記の他に、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはそれらのハロゲン化物を含む層の構造、あるいは、前記いずれかの層に銀を含む層とをこの順で積層した構造を用いることもできる。上記において、銀を含む層は、銀単独で形成されていてもよいし、銀合金で形成されていてもよい。また、光取出し効率の向上を図るためには、当該銀を含む層の上から透明度の高い屈折率調整層を設けることもできる。
【0088】
j)封止層
図2では、図示を省略しているが、透明電極109上に形成される封止層は、有機発光層107などの有機層が水分に晒されたり、空気に晒されたりすることを抑制する機能を有し、例えば、SiN(窒化シリコン)、SiON(酸窒化シリコン)などの材料を用い形成される。
【0089】
また、SiN(窒化シリコン)、SiON(酸窒化シリコン)などの材料を用い形成された層の上に、アクリル樹脂、シリコーン樹脂などの樹脂材料からなる封止樹脂層を設けてもよい。
【0090】
封止層は、トップエミッション型である本実施の形態に係る表示パネル10の場合においては、光透過性の材料で形成されることが好ましい。
【0091】
4.反射電極103の構成から得られる効果
本実施の形態に係る表示パネル10では、金属膜1031とNi膜1032の積層膜により反射電極103を構成しているが、これより得られる効果について、
図4および
図5を用い説明する。
【0092】
先ず、本実施の形態に係る表示パネル10では、反射電極103の構成要素として、Alを主成分とする金属膜1031を用いており、Ag膜を利用する場合に比べて、材料コストを低減することができる。
【0093】
また、反射型発光デバイスにおいて、反射膜として金属膜1031(Al膜)を採用した場合であっても、反射電極103を、Alを主成分とする金属膜1031の表面に接してNi膜1032を積層した積層膜とするので、金属膜1031の表面への自然酸化膜の形成を抑制することができる。
【0094】
さらには、Ni膜1032を、可視光域の波長に比べて非常に薄く形成することによって、膜中での光吸収を防止する構成とすることができるので、金属膜1031(Al膜)本来の光反射率を実現することができる。その結果、従来のAl膜からなる反射電極では、その表層部に形成された自然酸化膜により光吸収損失を生じることになり、これより光反射率が低下していたのに対し、本実施の形態に係る反射電極103の構成を採用する場合には、光反射率を向上させることができる。
【0095】
具体的には、
図4に示すように、本実施の形態に係る反射電極103と同じ構成のAl/Niの積層膜の場合、表層部に自然酸化層が形成されたAl膜(Al/AlO
X)に比べて、測定した300[nm]〜800[nm]の全波長域において、その反射率が高くなっている。
【0096】
さらに、本実施の形態に係る反射電極103では、Alを主成分とする金属膜1031の表面に接して薄膜であるNi膜1032を積層することによって自然酸化層の生成を抑制することができる。これより、反射電極103内部に存在していた障壁が消失させることができるので、オーミック接続を実現し、電荷(ホール/電子)の注入性を向上させることができる。 その結果、不要な電力損失を低減し、発光に寄与するホール/電子の量が増加させて、投入電力に対する発光効率を向上させることができる。
【0097】
具体的には、
図5(a)に示すように、Al/Niの積層膜の場合には、電圧値に対して電流値が直線的に変化する。これに対して、
図5(b)に示すように、表層部に酸化層(AlO
X)が形成された参考例の場合には、電圧値に対して電流値が直線的には変化しない。
【0098】
以上より、本実施の形態に係る反射電極103は、金属膜1031の有機発光層107側表面に酸化膜を介さずにNi膜1032が積層されているので、互いの間でのオーミック接続が実現され、高い発光効率を得ることができる。即ち、
図5(d)に示すように、Alの表層部に酸化層(AlO
X)が形成されている場合には、印加電圧に対するITO−Al間電流が、1次的には変化せず、また、電流の変化も小さい。これに対して、
図5(c)に示すように、Alの表層部に酸化層(AlO
X)が形成されず、Al/Niの積層膜の場合には、印加電圧に対するITO−Al間電流が、1次的に変化し、また、その傾きも
図5(d)に示す場合に比べて大きい。
【0099】
5.反射電極103の金属層1031の膜厚を規定することにより得られる効果
反射電極103における金属膜1031の膜厚を43[nm]以上に規定することで得られる効果について、
図6および
図7を用い説明する。
図6は、横軸が金属膜の反射率を測定する際に用いた分光光度計の測定光の波長であり、縦軸が金属膜の反射率である。
図7は、
図6の測定データについて、測定した金属膜の膜厚と、各膜厚での反射率との関係を示す図である。
図7の横軸が金属膜の膜厚であり、縦軸がその反射率である。
【0100】
図6に示すように、金属膜の膜厚が、43[nm]〜98[nm]の各サンプルでは、450[nm]〜600[nm]の波長域において、反射率が略89[%]以上となっている。
【0101】
一方、金属膜の膜厚が、33[nm]、35[nm]のサンプルでは、450[nm]〜600[nm]の波長域において、反射率が85[%]程度となっている。
【0102】
次に、
図7に示すように、金属膜の膜厚が40[nm]以上の範囲では、赤(R:λ=600[nm])、緑(G:λ=530[nm])、青(B:λ=460[nm])の全ての波長域において、反射率が88[%]以上となった。そして、金属膜の膜厚が43[nm]以上の範囲では、反射率は89[%]以上となり、膜厚が50[nm]以上の範囲では、反射率は略90[%]前後となった。
【0103】
また、
図7に示すように、赤(R:λ=600[nm])、緑(G:λ=530[nm])、青(B:λ=460[nm])の全ての波長域において、金属膜の膜厚については、50[nm]以上の範囲であれば、反射率が略90[%]で一定の値となっている。
【0104】
以上より、本実施の形態に係る表示パネル10では、反射電極103における金属膜1031の膜厚を、43[nm]以上と規定するものである。
【0105】
なお、反射電極103の金属膜1031の膜厚に関し、その上限値は、上述のように、反射率という観点からは特に規定する必要はないが、上記のように有機発光層107の段切れ防止という観点から反射電極103の膜厚をできるだけ薄くしようとすることを考慮すると、200[nm]以下、望ましくは120[nm]以下、更に望ましくは100[nm]以下である。
【0106】
6.表示パネル10の製造方法
本実施の形態に係る表示パネル10の製造方法について、
図8から
図12を用い説明する。
【0107】
図8(a)に示すように、基板101を準備し、その上にポリイミド系樹脂などの絶縁性の有機材料を塗布し、これを焼成することにより層間絶縁層102を形成する。なお、
図8などでは、その図示を省略しているが、基板101上にはTFT回路が形成され、その表面に凹凸が形成されるが、層間絶縁層102の表面は平坦化されている。
【0108】
次に、
図8(b)に示すように、スパッタリング法などを用い、層間絶縁層102の上の全面に金属層1033を形成する。金属層1033は、アルミニウム(Al)を主成分とする層である。そして、
図8(c)に示すように、金属層1034の表面部に自然酸化による金属酸化層1035が形成される。
【0109】
図9(a)に示すように、金属酸化層1035の上に、レジストパターン501を積層形成する。レジストパターン501は、例えば、金属酸化層1035の上の全面にレジスト材料を塗布し、反射電極103(
図2を参照。)に対応する形状のマスクを用い、露光および現像を行うことで形成される。そして、レジストパターン501をマスクとしてエッチングおよび水洗・乾燥することで、反射電極103に対応する金属膜1036が形成できる。ここで、
図9(b)に示すように、レジストパターン501を除去し、その後に水洗および乾燥する過程において、金属膜1036の表面部には、金属酸化層1037が形成される。
【0110】
次に、無電解メッキ法により、金属酸化層1037を除去しながらNiを表面部に析出させる。具体的には、
図9(c)に示すように、金属膜1036が形成された基板101をメッキ溶液502に浸漬する。メッキ溶液502は、Al酸化層である金属酸化層1037を溶解除去する性能を有する成分と、Alよりも貴な金属Niを供給するための金属塩とを含む。具体的には、例えば、金属酸化層1037を溶解除去する性能を有する成分としては、HFやNH4Fなどを採用することができ、また、Alよりも貴な金属Niを供給するための金属塩としては、酢酸Niを採用することができる。そして、メッキ溶液502としては、これら成分と、安定して置換が行われる環境を整えるためのpH調整剤(例えば、アンモニア水)を混合した水溶液を採用することができる。
【0111】
上記のメッキ溶液502を用い無電解メッキを実行する場合、
図10(a)に示すように、金属酸化層1037について、一部がNi膜1038に置換され、他の部分が金属酸化膜1039として残った状態を経て、
図10(b)に示すように、金属膜1031の上面および側面がNi膜1032で被覆され、これにより、反射電極103が形成される。
【0112】
なお、無電解メッキ法には、置換型と還元型とがあるが、還元型では、還元剤が残留することになりデバイス性能に悪影響を及ぼす場合があり、置換型の方が望ましい。また、置換型の無電解メッキ法には、1種類の溶液(メッキ溶液)で金属(Al)酸化層1037を除去しながら金属(Ni)を析出させる1液型と、第1液で金属(Al)酸化層1037を溶解除去し、第2液で金属(Ni)を析出させる2液型とがある。1液型であっても、2液型であっても、メカニズム原理は同じであるが、処理工程の簡略化という観点から、1液型を採用することが望ましい。
【0113】
次に、
図10(c)に示すように、スパッタリング法などを用い、反射電極103の表面上および層間絶縁層102の表面上に対して、電荷注入層104を形成する。本実施の形態においては、例えば、銀(Ag)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、イリジウム(Ir)などの酸化物により電荷注入層104を形成する。なお、電荷注入層104についても、画素100毎に分離された形態とすることもできる。
【0114】
次に、
図11(a)に示すように、画素100毎に対応した開口部105aを規定するバンク105を形成する。バンク105の形成は、先ず、スピンコート法などを用い、電荷注入層104の上の全面を覆うように、バンク材料層を形成する。この形成には、感光性レジスト材料を用い、具体的には、上述のように、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック型フェノール樹脂などの絶縁性を有する有機材料を用いることができる。そして、開口部105aに対応したマスクを配して露光を実行し、その後に現像およびベークを施すことによりなされる。
【0115】
次に、
図11(b)に示すように、バンク105が規定する開口部105aに対し、電荷輸送層106の構成材料を含むインク塗布と、これの乾燥とを経て、電荷輸送層106が形成できる。同様に、
図11(c)に示すように、有機発光層107の構成材料を含むインクの塗布および乾燥により有機発光層107が形成でき、また、
図12(a)に示すように、電子輸送層108の構成材料を含むインクの塗布および乾燥により電子輸送層108が形成できる。
【0116】
図12(b)に示すように、例えば、スパッタリング法などを用い、電子輸送層108およびバンク105の上面上に対し、透明電極109を形成し、
図12(c)に示すように、透明電極109の上に上部基板110を載置し、接合する。上部基板110の載置・接合により、水分および空気などから、開口部105a内に形成された有機層(電荷輸送層106、有機発光層107、電子輸送層108)の保護が図られる。
【0117】
以上のように、表示パネル10が完成する。
【0118】
7.無電解メッキによる金属酸化層1037からNi膜1032への置換
無電解メッキによる金属(Al)酸化層1037からNi膜1032への置換について、
図13を用い説明する。
図13は、(a)〜(d)に処理時間順に金属酸化層1037からNi膜1032への置換の様子を模式的に示し、(e)〜(h)では、処理時間毎の表面状態を示す。ここで、
図13(a)および
図13(e)は、処理前の状態を示し、
図13(b)および
図13(f)は、処理開始から40[sec.]未満での状態を示す。また、
図13(c)および
図13(g)は、処理開始から40[sec.]〜50[sec.]での状態を示し、
図13(d)および
図13(h)は、処理開始から50[sec.]を超えたときの状態を示す。
【0119】
先ず、
図13(a)に示すように、無電解メッキを実行する前では、金属膜1036の表面全体が金属酸化層1037で覆われている。そして、この状態での表面状態は、
図13(e)に示すように、平滑な状態となっている。
図13(e)に示す金属酸化層1037の表面における面内最大高低差Rmaxは、4[nm]〜5[nm]であり、これは、下地である金属膜1036と略同等の平坦性である。
【0120】
次に、無電解メッキ処理を開始すると、
図13(b)に示すように、金属膜1036上の金属酸化膜1037の一部がNi膜1038に置換されて行く。この際、一部の金属酸化膜1039は、残存する場合がある。ここで、
図13(f)に示すように、無電解メッキ処理を開始し、Ni膜1038が形成し始めた時点では、その部分における表面粗さは、
図13(e)に示す処理開始前の状態に比べて粗さが増加する。これは、Ni膜1038は薄膜(0[nm]<d<5[nm])であるので、金属膜1036の表面の平坦度に追従するが、メッキ溶液502に含まれているpH調整剤の影響を受けて金属酸化層1037の溶出の際に、Alの溶出も生じることに起因すると考えられる。
【0121】
次に、
図13(c)に示すように、さらに処理を進めると、金属膜1031の側辺部(テーパー部)もNi膜1032で被覆されることになる。このとき、
図13(g)に示すように、金属膜1031からのAlの溶出と、金属膜1031上へのNi析出との平衡がとれた状態となり、反射電極103の表面が平滑な状態となる。具体的には、本実施の形態において、面内平均粗さRaが、0.6[nm]≦Ra<2.0[nm]、面内最大高低差Rmaxが、5[nm]≦Rmax<20[nm]の範囲内となる。
【0122】
図13(d)に示すのは、更に処理を進めた場合である。
図13(d)に示すように、更に処理を進めた場合には、金属膜1031からAlが溶出し、残る金属膜9031の膜厚t
9031が43[nm]よりも薄くなってしまう。また、
図13(h)に示すように、Alの更なる溶出により表面の粗さも大きくなる。なお、Ni膜9032の膜厚dについては、5[nm]を超えた場合、入射した光が、Ni膜9032の表面で反射されることになる。そして、Ni膜9032の光反射率は、波長361[nm]では41.2[%]、波長700[nm]では68.8[%]であり、Al膜である金属膜9031の光反射率に比べて低くなる。
【0123】
なお、
図13(b)および
図13(c)のように、置換によりNi膜1038,1032が形成される場合には、金属膜1036,1031の表面とNi膜1038,1032との間の全面にはAl酸化層が介在することはない。
【0124】
また、NiはAlに比べてイオン化傾向が小さいため、空気中での酸化が生じ難く、水分との反応も生じ難い。このため、Ni膜1032は、自然酸化され難く、Ni膜1032の被覆によりAlの酸化も防止される。このように、Ni膜1032の表面の酸化層形成の防止と、金属膜1031への自然酸化層の層形成とを防ぐことによって、自然酸化層による光吸収損失を抑制することができる。
【0125】
さらに、Ni膜1032の膜厚は、可視光域の波長に比べて非常に薄いため、可視光は、Ni膜1032中で吸収されることなく金属膜1031に透過し、透過した光は、金属膜1031の表面で反射される。金属膜1031の表面、即ち、Ni膜1032との界面には、自然酸化層が存在しないため、金属膜1031の金属としての本来の反射特性を実現できる。
【0126】
以上より、金属膜1031の表面に、その自然酸化層を介在することなくNi膜1032を積層することにより、自然酸化層の層形成を確実に防止し、更には、Ni膜1032中での光吸収を防止できる。よって、金属膜1031におけるAl本来の光反射率を実現することができ、高い光反射率を得ることができる。
【0127】
なお、処理時間については、上記より、40[sec.]〜50[sec.]、例えば、45[sec.]が望ましい。
【0128】
8.無電解メッキ法を用いることについての考察
本実施の形態では、反射電極103の形成に際して、無電解メッキ法を採用したが、この採用理由について、
図14に示す参考例を用い説明する。
図14に示す各参考例は、スパッタリング法や蒸着法などを用い金属膜を形成し、これをパターニングした例である。
【0129】
先ず、
図14(a)に示すように、層間絶縁層102上に対し、スパッタリング法または蒸着法と、エッチングによるパターニングにより、Al膜9033を形成し、その上にNi膜9034を形成する。このような方法を採用した場合には、Al膜9033のパターンよりも大きなパターンでNi膜9034の被覆を行うため、Al膜9033上ではない領域(領域9034a)にもNi膜9034が形成されてしまう。
【0130】
次に、
図14(b)に示すように、層間絶縁層102上に対し、スパッタリング法または蒸着法により、Al膜およびNi膜を順に形成し、一括でエッチングしてパターニングする場合には、Al膜9035にサイドエッチが入り(領域9035a)、Ni膜9036が庇状となる(領域B)。
【0131】
次に、
図14(c)に示すように、エッチング条件および処理方法の調整により、サイドエッチを抑制した場合にあっても、Al膜9037の側面部分9037aには、Ni膜9038が形成されない。
【0132】
以上の3つの参考例のように、スパッタリング法または蒸着法と、エッチングによりAl膜9033,9035,9037およびNi膜9034,9036,9038を形成する場合には、実施の形態に係る表示パネル10のような良好な反射電極103を形成することができない。即ち、
図14(a)に示す形態では、領域9034aの除去が別途必要となり、
図14(b)に示す形態では、サイドエッチが入った領域9035aの部分によりこの後の積層工程での不具合が考えられ歩留まりの低下が予想される。また、
図14(c)に示す形態では、側面部分9037aにNi膜9038が積層されず、接続面積を大きくすることができず、発光効率の低下を招くことが考えられる。
【0133】
9.無電解メッキ処理時間と金属膜1031
無電解メッキ処理時間と金属膜1031の膜厚との関係について、
図15を用い説明する。
【0134】
無電解メッキ法による置換によりNi膜1032の形成を行う場合、ベースとなる金属膜1031からAlが溶出する。このため、
図15に示すように、処理開始から45[sec.]経過時点までは、金属(Al)膜の膜厚が急激に低下し、その後は、緩やかな変化となる。これは、次のようなメカニズムによるものである。
【0135】
金属(Al)膜の表面における層状の自然酸化層は、酸またはアルカリ溶液で溶解除去することができる。また、Niメッキ液にはpH調整剤が含まれるので、これらの溶液の酸またはアルカリの影響により、Alの自然酸化層の溶解除去後においても、僅かずつではあるがAlの溶出が進行する。
【0136】
上記のように、金属膜1031の膜厚については、光反射率の確保という観点から43[nm]以上を確保しておく必要があるが、処理時間が120[nm]以内であれば、金属膜1031の膜厚確保という観点から許容される。
【0137】
次に、無電解メッキの処理時間と反射電極における表面粗さRa、Rmaxとの関係について、
図16を用い説明する。
図16(b)におけるデータは、原子間力顕微鏡(AFM)を用い測定したものである。具体的には、AFMを用い、10[μm]角内の面内平均粗さRaと面内最大高低差Rmaxを測定したものである。
【0138】
先ず、無電解メッキでは、金属(Al)膜1036の表面の自然酸化層1037、および自然酸化膜1039を溶解除去した後、AlとNiのイオン化傾向の差を利用して、Al上にNiを析出させる(
図16(a))。このため、無電解メッキを用いることにより、非常に薄いNi膜1038,1032を形成することができる。即ち、析出メカニズムは酸化還元電位差によるもので、NiはAlよりも貴(イオン化傾向が小)であるので析出することになる。Niは、Niよりも卑な金属(イオン化傾向が大の金属)であるAlが露出した領域にのみ作用することができる。このため、有機膜や酸化膜上にはNiは析出しない。
【0139】
さらに、一度Niが析出すると、酸化還元電位差は“0”になるので、Ni上に重ねてNiが析出することがない。このため、Ni膜1032が厚膜化することはない。
【0140】
上述のように、一度Niが析出した箇所には新たな析出は生じないので、自然酸化層が除去されてAlが露出した箇所にのみNiが析出することになる。これより、金属膜1036の面内では、Ni析出とAl露出に分布が生じ、表面粗さに変化を生じることになる。
【0141】
図16(b)に示すように、無電解メッキの処理を進めて行くと、面内平均粗さRaおよび面内最大高低差Rmaxは、ともに大きくなる。ここで、形成しようとする反射電極103の表面において、面内平均粗さRaは0.6[nm]≦Ra<2.0[nm]、面内最大高低差Rmaxは5[nm]≦Rmax<20[nm]とすることが望ましい。この理由については、光反射率との関係に基づくものであるが、詳しくは後述する。
【0142】
図16(b)に示すように、処理前のサンプル(Al膜)では、Raの初期値が、0.5[nm]〜0.6[nm]である。処理時間が40[sec.]、45[sec.]、50[sec.]の場合には、面内平均粗さRaの上限が、Ra<2.0[nm]であり、これを超えると、Ra>2.0[nm]となった。
【0143】
Raの下限値並びにRmaxの下限値については、処理を開始する前のAl自然酸化膜を均一に除去できる場合には、処理前のAl膜のRa並びにRmaxを超える範囲が相当する。上記のように、有機EL素子における有機発光層107の膜厚は、20[nm]〜200[nm]と非常に薄いので、対向電極である透明電極109とのショートを防ぐために、反射電極103の表面について、Ra<0.6[nm]あるいはRmax<5[nm]となるような高い平坦度を意図して形成される。例えば、このような高い平坦度を確保するために、研磨や酸処理、あるいはスパッタリングなどによる成膜条件の最適化がなされる。
【0144】
しかし、上述のように、Al膜の表面には自然酸化膜が形成され、この場合において、自然酸化層の膜厚が数[nm]のレベルにあることから、Al膜の表面と略等しい平坦度を有する。よって、通常、Al膜のRa並びにRmaxは、自然酸化層の表面を測定した結果であるが、Al膜の表面のRa並びにRmaxと略等しいと考えられる。
【0145】
次に、無電解メッキ処理時間と光反射率との関係について、
図17を用い説明する。
図17は、処理時間毎の光の波長と光反射率の関係を示した特性図である。なお、「ref.」は、処理開始前のサンプル、即ち、表面が金属酸化層で被覆された金属膜のサンプルである。また、
図17では、処理時間が“40[sec.]”のデータと、処理時間が“45[sec.]”のデータについて、図示をしていないが、これは、処理時間が“50[sec.]”のデータと同一結果となったためである。
【0146】
図17に示すように、表面が金属酸化層で被覆されたサンプルにおいては、測定の全波長域で最も低い光反射率となっている。例えば、赤色光(波長:600[nm])について見る場合、金属酸化層で被覆された「ref.」サンプルでは、光反射率は略89[%]である。これに対して、処理時間が「50[sec.]」のサンプルでは、光反射率は略90[%]と高い値となっている。
【0147】
処理時間が「120[sec.]」のサンプル、処理時間が「180[sec.]」のサンプルは、処理時間が「50[sec.]」のサンプルに比べて光反射率が低くなっており、処理時間が長くなればなるほど、光反射率は低下している。これは、上述の通り、処理時間が長くなれば、ベースとなる金属膜からAlが溶出し、これにより表面あれが大きくなることに起因すると考えられる。即ち、Alの溶出に伴い、表面粗さRmax、Raが大きくなり、これにより光の乱反射が生じることで光反射率の低下を生じるものと考えられる。
【0148】
緑色光(波長:530[nm])および青色光(波長:460[nm])についても、赤色光の場合と同様の傾向となっている。
【0149】
以上より、無電解メッキの処理時間については、Al自然酸化層が溶解され、Ni膜に置換されることを前提に、金属膜のAlの溶出に伴う表面粗さRmax、Raが、次に示す範囲に収まる条件、具体的には40[sec.]〜50[sec.]が望ましい。
【0150】
[数1]0.6[nm]≦Ra<2.0[nm]
[数2]5[nm]≦Rmax<20[nm]
なお、無電解メッキでの処理においては、自然発生的なバラツキを生じるが、Rmax<20[nm]の範囲においては±10〜20[%]程度の誤差を伴う。このため、Rmaxの最大値については、15[nm]〜20[nm]の範囲が好ましい。Rmaxの範囲が、上記(数2)の関係を満たすように無電解メッキを行うようにすれば、高い歩留まりで安定してデバイス製造を行うことができる。
【0151】
一方、Rmax≧20[nm]となるまで無電解メッキを続けると、プロセスの安定化を実現することが困難となる。さらには、反射電極における表面粗さが、有機層の膜厚よりも大きくなってしまい、対向する透明電極との間でショートを起こしてしまうことがある。よって、デバイス特性の悪化に繋がる。
【0152】
さらに、
図17などに示すように、無電解メッキの処理時間が40[sec.]〜50[sec.]の範囲では、金属膜表面上のAl自然酸化層の溶解と、Ni析出とが平衡状態となるため、5[nm]≦R<17[nm]の範囲で安定する。よって、Rmaxの値については、次の条件を満たすことが更に望ましい。
【0153】
[数3]5[nm]≦Rmax<17[nm]
10.反射電極103とバンク105との関係
図2に示すように、本実施の形態に係る表示パネル10では、反射電極103の端部(X軸方向における両端)に対し、その上部(Z軸方向における上部)がバンク105により覆われている。この構成を採用することにより得られる効果について、
図18に示す参考例との比較で説明する。
【0154】
先ず、
図18(a)に示すように、反射電極903における金属膜9039の側壁を、層間絶縁層102の表面に対して垂直とする場合、その上に被覆されるNi膜9040の側壁も層間絶縁層102の表面に対して垂直となる。加えて、反射電極903の端部がバンクで覆われない構成である場合、金属酸化膜を用いて形成される電荷注入層904については、反射電極903の側面にも形成されるが、有機膜である電荷輸送層906および有機発光層907については、矢印Cで示す反射電極903の端部で“段切れ”を生じる。このような場合には、この上に形成される透明電極が、電荷注入層904あるいは反射電極903に対してショートすることが考えられる。
【0155】
また、電極間のショートに至らないまでも、反射電極903の端部付近に電界集中を生じることが考えられる。
【0156】
図18(b)に示すように、反射電極913における金属膜9041の端部を斜面とし、その上に形成されるNi膜9042についても金属膜9041に沿って形成する場合には、バンク905により規定される開口部905aを大きくできるという観点では効果がある。しかし、
図18(b)に示すような反射電極913の両端上部がバンク905で覆われていない構成では、反射電極913における金属層9041の表層部で反射された光L
1,L
2,L
3の内、反射電極913の斜面部分で乱反射され、反射光L
2,L
3が拡散される。
【0157】
一方、本実施の形態に係る反射電極103は、その両端部が斜面となっており、また、その上部がバンク105で覆われている。このため、本実施の形態に係る表示パネル10では、反射電極103の端部において、有機膜である有機発光層107などの“段切れ”を生じることがなく、また、反射電極103の端部における電界集中といった問題を生じることもない。よって、寿命特性に優れる。
【0158】
また、本実施の形態に係る反射電極103は、少なくとも
図2のX軸方向の両端部の上部がバンク105により覆われているので、乱反射を生じることがなく、優れた表示品質が得られる。
【0159】
[実施の形態2]
本発明の実施の形態2に係る表示パネル30の構成について、
図19を用い説明する。なお、
図19では、上記実施の形態1に係る表示パネル10と同じ構成部分については、同一の符号を付し、以下においても説明を省略する。
【0160】
図19に示すように、本実施の形態2に係る表示パネルでは、反射電極103と電荷注入層104との間に透明導電膜301が介挿されている。透明導電膜301は、透明電極109と同様の材料(ITO、IZO)を用い構成されている。見方を代えると、透明導電膜301は、反射電極103と有機発光層107との間に介挿されることになる。
【0161】
なお、
図19に示すように、透明導電膜301は、画素300毎に形成されており、隣接する画素300間では、区分けされている。
【0162】
他の構成については、上記実施の形態1に係る表示パネル10と同様である。
【0163】
本実施の形態に係る表示パネル30では、上記実施の形態1に係る表示パネル10が有する構成をそのまま有しているので、上記効果をそのまま奏することができる。これに加えて、本実施の形態に係る表示パネル30においては、反射電極103と電荷注入層104との間に透明導電膜301を介挿させているので、有機発光層107と反射電極103における金属膜1031の表層部分との間の距離調整を、透明導電膜301の膜厚調整により容易に行うことができる。よって、キャビティー設計の自由度を高くすることができ、高い発光効率を有する。
【0164】
[実施の形態3]
本発明の実施の形態3に係る表示パネル40の構成について、
図20を用いて説明する。なお、
図20は、バンク405と有機発光層407との配置関係を示す模式平面図であって、
図3に対応する。上記実施の形態1に係る表示パネル10と同じ構成については、図示および以下の説明を省略する。
【0165】
図20に示すように、本実施の形態に係る表示パネル40では、Y軸方向に延伸し、互いの間に間隔をあけて配された複数条のバンク405を有する。バンク405は、X軸方向において、各画素の有機発光層407を区画している。本実施の形態に係るバンク405は、所謂、ラインバンクである。
【0166】
なお、他の構成については、上記実施の形態1に係る表示パネル10と同じであり、また、上記実施の形態2に係る表示パネル30の構成を採用することもできる。
【0167】
本実施の形態に係る表示パネル40では、バンク405の形態が異なるのみであるので、上記実施の形態1に係る表示パネル10あるいは上記実施の形態2に係る表示パネル30が有する効果をそのまま有する。
【0168】
[実施の形態4]
本発明の実施の形態4に係る照明装置5の構成について、
図21を用い説明する。
図21は、本実施の形態に係る照明装置5の構成を示す模式断面図である。
【0169】
図21に示すように、照明装置5は、透明基板51と封止カバー56との間の空間に、透明電極52a,52b,52cおよび反射電極55と、透明電極52a,52b,52cと反射電極55とで挟まれた有機EL積層体53a,53b,53cとが収納されている。透明電極52a,52b,52cは、互いに電気的に接続されており、透明電極52aの一部52dが、封止カバー56から外部に延出されている。
【0170】
反射電極55は、透明電極52aの延出された側とは逆の側において、封止カバー56から一部55aが延出されている。
【0171】
有機EL積層体53a,53b,53cの各々は、上記実施の形態1〜4の各表示パネル10,30,40における反射電極103と透明電極109との間に介挿された有機EL積層体と同じ構成を有する。なお、有機EL積層体53a,53b,53cの各間は、フレキシブル性を有する絶縁体54a,54bにより連結されており、また、有機EL積層体53cのX軸方向右端には、絶縁体54cが設けられている。
【0172】
ここで、本実施の形態に係る照明装置5では、反射電極55について、上記実施の形態1〜3に係る表示パネル10,30,40の各反射電極103と同様に、金属膜1031の表面上に、金属酸化層を介在することなくNi膜1032により被覆された構成を有する。
【0173】
本実施の形態に係る照明装置5では、有機EL積層体53a,53b,53cから出射された光が、その一部は直接Z軸方向下向きに、透明基板51を透過して出射され、残りはZ軸方向上向きに照射され、反射電極55で反射されてZ軸方向下向きに出射される。そして、本実施の形態に係る照明装置5においても、反射電極55の構成を上記実施の形態1〜3の各反射電極103と同様としているので、上記同様の効果を得ることができる。
【0174】
[その他の事項]
上記実施の形態1〜3では、有機発光層107に対して、基板101側に陽極を配置し、光取出し側に陰極を配置することとしたが、陽極と陰極とを逆の配置とすることもできる。このように陽極と陰極とを逆の配置とする場合には、光取出し側とは反対側に配置される陰極について、反射電極103と同じ構成とすることにより、上記同様の効果を得ることができる。
【0175】
また、上記実施の形態1〜3の表示パネル10,30,40では、所謂、トップエミッション型の形態を採用したが、ボトムエミッション型の形態を採用することもできる。
【0176】
また、上記実施の形態1〜4の反射電極103,55では、金属(Al)膜1031の表面の全面に金属酸化層1035,1037,1039を介さずにNi膜1032を積層した構成としたが、金属酸化物を全く介さない構成だけでなく、島状または不連続状の金属酸化膜を介することとしてもよい。なお、上述のように、「酸化層」とは、下地層の表面全体に形成されたものをいい、「酸化膜」とは、下地層の表面において、島状または不連続状に形成されたものをいう。
【0177】
また、上記実施の形態1〜4で採用した構成材料は、一例を示すものであって、本発明は、構成材料を適宜変更することも可能である。例えば、反射電極103,55における金属膜1031については、純粋なAlで構成されたものの他、Alを主成分とするAl合金などを用いることができる。