特許第5735536号(P5735536)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5735536ポリグリコール酸系樹脂未延伸糸、それを用いたポリグリコール酸系樹脂延伸糸、およびそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5735536
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】ポリグリコール酸系樹脂未延伸糸、それを用いたポリグリコール酸系樹脂延伸糸、およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/84 20060101AFI20150528BHJP
【FI】
   D01F6/84 303Z
   D01F6/84ZBP
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-544181(P2012-544181)
(86)(22)【出願日】2011年11月7日
(86)【国際出願番号】JP2011075569
(87)【国際公開番号】WO2012066955
(87)【国際公開日】20120524
【審査請求日】2014年8月15日
(31)【優先権主張番号】特願2010-255156(P2010-255156)
(32)【優先日】2010年11月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三枝 孝拓
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 昌博
(72)【発明者】
【氏名】阿部 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】寺島 久明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩幸
【審査官】 宮澤 尚之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−250853(JP,A)
【文献】 特開平06−128810(JP,A)
【文献】 国際公開第96/20648(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/090657(WO,A1)
【文献】 米国特許第6005019(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00− 6/96
D01F 9/00− 9/04
D01D 1/00−13/02
D02G 1/00− 3/48
D02J 1/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融状態のポリグリコール酸系樹脂を紡糸口金から吐出させて繊維状のポリグリコール酸系樹脂を形成する吐出工程と、
前記繊維状のポリグリコール酸系樹脂を、吐出させてから0.0012秒以上の間、110.5℃以上ポリグリコール酸系樹脂の融点以下の温度雰囲気中に保持する保温工程と、
前記保温工程で得られた繊維状のポリグリコール酸系樹脂を冷却してポリグリコール酸系樹脂未延伸糸を得る冷却工程と、
を含むポリグリコール酸系樹脂未延伸糸の製造方法。
【請求項2】
前記ポリグリコール酸系樹脂未延伸糸を構成する単糸の単位長さ当たりの質量が6×10−4g/m以上となるように、前記保温工程および前記冷却工程において、前記繊維状のポリグリコール酸系樹脂を引き取る、請求項1に記載のポリグリコール酸系樹脂未延伸糸の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法により得られ、製造直後において、100℃での乾熱収縮率が55%以下であり、引張伸度が150%以上であるポリグリコール酸系樹脂未延伸糸。
【請求項4】
請求項3に記載のポリグリコール酸系樹脂未延伸糸を延伸する延伸工程を含むポリグリコール酸系樹脂延伸糸の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の製造方法により得られ、単糸繊度が1.9デニール以下、引張強度が6.0gf/デニール以上、引張伸度が20%以上であるポリグリコール酸系樹脂延伸糸。
【請求項6】
請求項5に記載のポリグリコール酸系樹脂延伸糸を切断する切断工程を含むカットファイバーの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法により得られるカットファイバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリグリコール酸系樹脂未延伸糸、それを延伸してなるポリグリコール酸系樹脂延伸糸、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリグリコール酸系樹脂からなる延伸糸は、機械強度に優れており、且つ生分解性や生体吸収性を有するため、従来から医療分野などにおける手術用縫合糸として使用されている。また、ポリグリコール酸系樹脂は、高温環境下で速い加水分解性を示すことから、ポリグリコール酸系樹脂からなる繊維を石油掘削用途などに適用することも検討されている。
【0003】
従来のポリグリコール酸系樹脂からなる延伸糸は、直接紡糸延伸法(Spining Drawn Yarn(SDY法))により製造されるか、溶融状態のポリグリコール酸系樹脂を紡糸口金から吐出させた後、急冷することによって未延伸糸を作製し、次いで、延伸する2段製造法によって製造されていた。大量生産においては後者が効率的であるが、作業環境温度や保管時の温湿度が高い場合に、ポリグリコール酸系未延伸糸が膠着し、延伸時に解じょ性が悪化して延伸できないといった問題や、得られた延伸糸においては、単糸繊度が高く、強度および伸度が十分に高くならないといった問題があった。
【0004】
また、特開2004−250853号公報(特許文献1)には、グリコリドとラクチドとのコポリマーからなる縫合糸用繊維およびその製造方法が開示されている。この製造方法においては、コポリマーの融点より40〜60℃高い温度に維持された紡糸口金から吐出させたフィラメントを、紡糸口金から15〜50cmの距離にわたってコポリマーの融点より60℃以上高い温度に維持することによって、高い引張強度と高い引張伸度を有する繊維が得られている。しかしながら、前記特許文献1の実施例で得られた繊維は、単糸繊度が2デニール以上であり、さらに低い単糸繊度で且つ高強度および高伸度の繊維は得られていない。
【0005】
一方、米国特許第6005019号明細書(特許文献2)の実施例では、ポリ(グリコリド−ラクチド)共重合体からなる糸を、紡糸口金の出口付近で100℃に加熱しながら110℃の雰囲気に保持して製造している。しかしながら、紡糸口金の出口付近で100℃に加熱しながら110℃の雰囲気に保持して製造した延伸糸は、単糸繊度、引張伸度については未だ十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−250853号公報
【特許文献2】米国特許第6005019号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、製造時の作業環境温度や保管時の温湿度に関係なく、解じょ性が良好であり且つ延伸性も良好であるポリグリコール酸系樹脂未延伸糸、この未延伸糸を延伸して得られる低い単糸繊度で且つ高強度および高伸度のポリグリコール酸系樹脂延伸糸、ならびにこれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、紡糸口金から吐出させた繊維状のポリグリコール酸系樹脂を、吐出させてから所定の時間、110.5℃以上ポリグリコール酸系樹脂の融点以下の温度雰囲気中に保持することによって、解じょ性が良好であり且つ延伸性も良好であるポリグリコール酸系樹脂未延伸糸、およびこの未延伸糸を延伸して得られる低い単糸繊度で且つ高強度および高伸度のポリグリコール酸系樹脂延伸糸が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明のポリグリコール酸系樹脂未延伸糸の製造方法は、
溶融状態のポリグリコール酸系樹脂を紡糸口金から吐出させて繊維状のポリグリコール酸系樹脂を形成する吐出工程と、
前記繊維状のポリグリコール酸系樹脂を、吐出させてから0.0012秒以上の間、110.5℃以上ポリグリコール酸系樹脂の融点以下の温度雰囲気中に保持する保温工程と、
前記保温工程で得られた繊維状のポリグリコール酸系樹脂を冷却してポリグリコール酸系樹脂未延伸糸を得る冷却工程と、
を含む方法である。
【0010】
このようなポリグリコール酸系樹脂未延伸糸の製造方法においては、前記ポリグリコール酸系樹脂未延伸糸を構成する単糸の単位長さ当たりの質量が6×10−4g/m以上となるように、前記保温工程および前記冷却工程において、前記繊維状のポリグリコール酸系樹脂を引き取ることが特に好ましい。
【0011】
また、本発明のポリグリコール酸系樹脂未延伸糸は、このようなポリグリコール酸系樹脂未延伸糸の製造方法により得られるものであり、製造直後において、100℃での乾熱収縮率が55%以下であり、引張伸度が150%以上である。
【0012】
さらに、本発明のポリグリコール酸系樹脂延伸糸の製造方法は、本発明のポリグリコール酸系樹脂未延伸糸を延伸する延伸工程を含む方法である。また、本発明のポリグリコール酸系樹脂延伸糸は、このようなポリグリコール酸系樹脂延伸糸の製造方法により得られるものであり、単糸繊度が1.9デニール以下、引張強度が6.0gf/デニール以上、引張伸度が20%以上である。
【0013】
また、本発明のカットファイバーは、本発明のポリグリコール酸系樹脂延伸糸を切断する切断工程を含む本発明のカットファイバーの製造方法により得られるものである。
【0014】
なお、本発明において、未延伸糸の「解じょ」とは、未延伸糸を延伸できるように解くことを意味し、具体的には、ボビン等に巻き取られたり、ケンスに収納された未延伸糸を、延伸できる単位(例えば、1本ずつ)に解くことを意味する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低い単糸繊度で且つ高強度および高伸度のポリグリコール酸系樹脂延伸糸を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例および比較例で使用した溶融紡糸装置を示す概略図である
図2】実施例および比較例で使用した延伸装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0018】
本発明のポリグリコール酸系樹脂未延伸糸の製造方法は、溶融状態のポリグリコール酸系樹脂を紡糸口金から吐出させて繊維状のポリグリコール酸系樹脂を形成する吐出工程と、前記繊維状のポリグリコール酸系樹脂を、吐出させてから所定時間、所定の温度雰囲気中に保持する保温工程と、前記保温工程で得られた繊維状のポリグリコール酸系樹脂を冷却してポリグリコール酸系樹脂未延伸糸を得る冷却工程とを備えるものである。
【0019】
(ポリグリコール酸系樹脂)
先ず、本発明に用いられるポリグリコール酸系樹脂(以下、「PGA系樹脂」という。)について説明する。前記PGA系樹脂は、下記式(1):
−[O−CH−C(=O)]− (1)
で表されるグリコール酸繰り返し単位のみからなるグリコール酸の単独重合体(以下、「PGA単独重合体」という。グリコール酸の2分子間環状エステルであるグリコリドの開環重合体を含む。)、前記グリコール酸繰り返し単位を含むポリグリコール酸共重合体(以下、「PGA共重合体」という)などが挙げられる。このようなPGA系樹脂は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0020】
前記PGA単独重合体は、グリコール酸の脱水重縮合、グリコール酸アルキルエステルの脱アルコール重縮合、グリコリドの開環重合などにより合成することができ、中でも、グリコリドの開環重合により合成することが好ましい。なお、このような開環重合は塊状重合および溶液重合のいずれでも行うことができる。
【0021】
また、前記PGA共重合体は、このような重縮合反応や開環重合反応においてコモノマーを併用することによって合成することができる。このようなコモノマーとしては、シュウ酸エチレン(すなわち、1,4−ジオキサン−2,3−ジオン)、ラクチド類、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、β−ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなど)、カーボネート類(例えば、トリメチレンカーボネートなど)、エーテル類(例えば、1,3−ジオキサンなど)、エーテルエステル類(例えば、ジオキサノンなど)、アミド類(ε−カプロラクタムなど)などの環状モノマー;乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオールなどの脂肪族ジオール類と、こはく酸、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸類またはそのアルキルエステル類との実質的に等モルの混合物を挙げることができる。これらのコモノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0022】
前記PGA系樹脂をグリコリドの開環重合によって製造する場合に使用する触媒としては、ハロゲン化スズ、有機カルボン酸スズなどのスズ系化合物;アルコキシチタネートなどのチタン系化合物;アルコキシアルミニウムなどのアルミニウム系化合物;ジルコニウムアセチルアセトンなどのジルコニウム系化合物;ハロゲン化アンチモン、酸化アンチモンなどのアンチモン系化合物といった公知の開環重合触媒が挙げられる。
【0023】
前記PGA系樹脂は従来公知の重合方法により製造することができるが、その重合温度としては、120〜300℃が好ましく、130〜250℃がより好ましく、140〜220℃が特に好ましい。重合温度が前記下限未満になると重合が十分に進行しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると生成した樹脂が熱分解する傾向にある。
【0024】
また、前記PGA系樹脂の重合時間としては、2分間〜50時間が好ましく、3分間〜30時間がより好ましく、5分間〜18時間が特に好ましい。重合時間が前記下限未満になると重合が十分に進行しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると生成した樹脂が着色する傾向にある。
【0025】
本発明に用いるPGA系樹脂において、前記式(1)で表されるグリコール酸繰り返し単位の含有量としては、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。グリコール酸繰り返し単位の含有量が前記下限未満になると、生分解性や加水分解性、生体適合性、機械的強度、耐熱性といったPGA系樹脂としての効果が低下する傾向にある。
【0026】
このようなPGA系樹脂の重量平均分子量としては、5万〜80万が好ましく、8万〜50万がより好ましい。PGA系樹脂の重量平均分子量が前記下限未満になると、得られるPGA系樹脂延伸糸の機械的強度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、溶融状態のPGA系樹脂を吐出させることが困難となる傾向にある。なお、前記重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定したポリメチルメタクリレート換算値である。
【0027】
また、前記PGA系樹脂の溶融粘度(温度:240℃、剪断速度:122sec−1)としては、1〜10000Pa・sが好ましく、100〜6000Pa・sがより好ましく、300〜4000Pa・sが好ましい。溶融粘度が前記下限未満になると、紡糸性が低下し、部分的に糸切れする傾向にあり、他方、前記上限を超えると、溶融状態のPGA系樹脂を吐出させることが困難となる傾向にある。
【0028】
本発明においては、このようなPGA系樹脂を単独で使用してもよいし、必要に応じて熱安定剤、末端封止剤、可塑剤、紫外線吸収剤などの各種添加剤や他の熱可塑性樹脂を添加してもよい。
【0029】
<PGA系樹脂未延伸糸の製造方法>
次に、図面を参照しながら本発明のPGA系樹脂未延伸糸の製造方法の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明のPGA系樹脂未延伸糸の製造方法は前記図面に限定されるものではない。なお、以下の説明および図面中、同一または相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0030】
本発明のPGA系樹脂未延伸糸の製造方法は、溶融状態のPGA系樹脂を紡糸口金から吐出させて繊維状のPGA系樹脂を形成する吐出工程と、前記繊維状のPGA系樹脂を、吐出させてから所定時間、所定の温度雰囲気中に保持する保温工程と、前記保温工程で得られた繊維状のPGA系樹脂を冷却してPGA系樹脂未延伸糸を得る冷却工程とを含むものである。
【0031】
溶融状態のPGA系樹脂は、押出機などを用いて溶融混練することによって調製することができる。例えば、図1に示す溶融紡糸装置を用いてPGA系樹脂未延伸糸を製造する場合、ペレット状などのPGA系樹脂を原料ホッパー1から押出機2に投入してPGA系樹脂を溶融混練する。
【0032】
PGA系樹脂の溶融温度としては、200〜300℃が好ましく、210〜270℃がより好ましい。PGA系樹脂の溶融温度が前記下限未満になると、PGA系樹脂の流動性が低下し、PGA系樹脂が紡糸口金から吐出されず、繊維状のPGA系樹脂の形成が困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、PGA系樹脂が着色したり、熱分解したりする傾向にある。
【0033】
このような溶融混練においては、押出機以外にも撹拌機や連続混練機などを用いることができるが、短時間での処理が可能であり、その後の吐出工程への円滑な移行が可能であるという観点から押出機を用いることが好ましい。
【0034】
(吐出工程)
本発明にかかる吐出工程においては、上記のようにして調製した溶融状態のPGA系樹脂を紡糸口金から吐出させる。これにより、繊維状のPGA系樹脂が形成される。例えば、図1に示す溶融紡糸装置においては、溶融状態のPGA系樹脂を、押出機2からギアポンプ3を用いて定量しながら紡糸口金4に移送し、紡糸口金4の穴からPGA系樹脂を吐出させ、繊維状のPGA系樹脂を形成させる。前記紡糸口金としては特に制限はなく、公知の紡糸口金を使用することができ、紡糸口金の穴数、穴径についても特に制限はない。
【0035】
溶融状態のPGA系樹脂の吐出温度(紡糸口金温度)としては、210〜280℃が好ましく、235〜268℃がより好ましい。吐出温度が前記下限未満になるとPGA系樹脂の流動性が低下し、PGA系樹脂が紡糸口金から吐出されず、繊維状のPGA系樹脂の形成が困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、PGA系樹脂が着色したり、熱分解したりする傾向にある。
【0036】
(保温工程)
次に、前記吐出工程で形成された繊維状のPGA系樹脂を、吐出させてから0.0012秒以上の間、110.5℃以上PGA系樹脂の融点以下の温度雰囲気中に保持する。保持方法としては特に制限はないが、通常、前記繊維状のPGA系樹脂を、所定の時間をかけて前記温度雰囲気中を通過させることによって保持する。このように、前記繊維状のPGA系樹脂を、吐出させてから所定の時間、前記温度雰囲気中に保持することによって、製造直後のPGA系樹脂未延伸糸は、100℃での乾熱収縮率が小さく、引張伸度が高いものとなり、優れた解じょ性を示すものとなる。また、このようなPGA系樹脂未延伸糸は、温度40℃、相対湿度80%RHの高温高湿下に曝された後であっても、解じょ性に優れたものとなる。さらに、本発明にかかる保温工程を経て得られるPGA系樹脂未延伸糸を延伸した場合、製造直後および前記高温高湿下に曝された後のいずれのものについても、単糸繊度が低く、引張強度および引張伸度が高いPGA系樹脂延伸糸が得られる。
【0037】
本発明にかかる保温工程においては、繊維状のPGA系樹脂を本発明にかかる温度雰囲気中に保持する時間は、0.0012秒以上であるが、PGA系樹脂未延伸糸が、製造直後において100℃での乾熱収縮率がさらに小さいものとなり、製造直後および前記高温高湿下に曝された後のいずれにおいても引張伸度がさらに高いものとなるという観点、また、製造直後および前記高温高湿下に曝された後のいずれのPGA系樹脂未延伸糸を延伸した場合でも、単糸繊度がさらに低く、引張強度および引張伸度がさらに高いPGA系樹脂延伸糸が得られるという観点から、0.0015秒以上が好ましい。また、このような保持時間の上限としては特に制限はないが、曳糸性の観点から、0.9秒以下が好ましく、0.09秒以下がより好ましい。本発明にかかる保温工程においては、加熱機能を有している保温筒(以下、「加熱マントル」と表記する。)を用いて保温する。前記保持時間は、加熱マントルの長さを変更したり、加熱マントルの設定温度を変更したりして本発明にかかる温度雰囲気の領域(特に、繊維状PGA系樹脂の移送方向の長さ)を変更したり、PGA系樹脂の吐出量や紡糸速度(引取速度)を変更することによって調整することができる。
【0038】
一方、繊維状のPGA系樹脂を本発明にかかる温度雰囲気中に保持する時間が0.0012秒未満の場合(繊維状のPGA系樹脂が吐出後直ぐに110.5℃未満の温度雰囲気中に保持された場合を含む)には、得られるPGA系樹脂未延伸糸は、紡糸速度を遅くすると、製造直後において100℃での乾熱収縮率が小さくなり、製造直後および高温高湿下に曝された後のいずれにおいても引張伸度が高くなり、解じょ性に優れるものとなる場合があるが、通常は、製造直後において100℃での乾熱収縮率が大きくなり、製造直後および高温高湿下に曝された後のいずれにおいても引張伸度が低くなり、解じょ性に劣るものとなる。また、このPGA系樹脂未延伸糸を延伸してなるPGA系樹脂延伸糸は、いずれも単糸繊度が高く、引張強度および引張伸度が低いものとなる。
【0039】
また、紡糸口金から吐出された繊維状のPGA系樹脂が吐出後直ぐにPGA系樹脂の融点を超える温度雰囲気中に保持された場合には、特許文献1によれば、引張強度と引張伸度が高いPGA系樹脂延伸糸が得られると予想される。また、PGA系樹脂未延伸糸については、製造直後において100℃での乾熱収縮率が低く、製造直後および高温高湿下に曝された後のいずれにおいても引張伸度が高く、解じょ性が良好なものとなると予想される。しかしながら、前記条件で保持した場合には、紡糸口金から吐出された樹脂が引き取られるまでの間に部分的に糸切れしやすくなる傾向にあり、生産性に欠ける。
【0040】
なお、本発明のポリグリコール酸系樹脂未延伸糸の解じょ性が向上する理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明のPGA系樹脂未延伸糸は、溶融状態のPGA系樹脂を紡糸口金から吐出させた後、110.5℃以上PGA系樹脂の融点以下の温度雰囲気下に所定時間保持されたものであるため、非晶部の配向が緩和されていると推察される。このように非晶部の配向が緩和されたPGA系樹脂未延伸糸は、作業環境温度や保管時などの温湿度の影響によるPGA系樹脂の経時的な収縮が抑制されて絡み合いにくいため、優れた解じょ性を示すと推察される。
【0041】
一方、溶融状態のPGA系樹脂を紡糸口金から吐出させた後、急冷することによって得られる従来のPGA系樹脂未延伸糸においては、非晶部が高度に配向しているため、作業環境温度や保管時などの温湿度の影響によりPGA系樹脂の収縮が経時的に起こると、PGA系樹脂未延伸糸が絡み合うため、解じょ性が低下するものと推察される。
【0042】
本発明にかかる温度雰囲気の形成方法としては、繊維状のPGA系樹脂が紡糸口金から吐出した後、直ぐに前記温度雰囲気中に保持される限りにおいて特に制限はなく、例えば、図1に示す溶融紡糸装置においては、紡糸口金4の直下(吐出口)に加熱マントル5を装着し、必要に応じて加熱マントル内を加熱して本発明にかかる温度雰囲気を形成させる。
【0043】
本発明にかかる温度雰囲気においては、温度は必ずしも一定である必要はなく、温度分布が存在していてもよい。例えば、図1に示す溶融紡糸装置において、加熱マントル内に、110.5℃以上PGA系樹脂の融点以下の温度雰囲気が形成されていれば、加熱マントル内には温度分布が存在していてもよい。このような加熱マントル内の温度(温度分布)は赤外線レーザー温度計などを用いて測定することができ、これにより、本発明にかかる温度雰囲気が加熱マントル内に形成されていることが確認できる。
【0044】
このような本発明にかかる温度雰囲気の形成方法の一例としては、加熱マントル内の最高温度がPGA系樹脂の融点以下であり且つ加熱マントルの出口付近の温度が110.5℃以上となるように加熱マントル内を加熱する方法が挙げられる。なお、本発明のPGA系樹脂未延伸糸の製造方法においては、加熱マントルの出口付近の温度を必ずしも110.5℃以上とする必要はなく、繊維状のPGA系樹脂を本発明にかかる温度雰囲気に所定の時間保持できる限り、加熱マントルの出口付近の温度が100℃以下となっていてもよい。
【0045】
加熱マントルの設定温度としては、本発明にかかる温度雰囲気が形成される限り、特に制限はないが、例えば、加熱マントルの温度を100℃に設定すると、繊維状のPGA系樹脂の移送方向に温度が低下する温度分布が形成されるため、紡糸口金出口から加熱マントルの出口付近までの間に、110.5℃以上の温度雰囲気を形成することができない。このため、通常、加熱マントルの温度は110℃以上、好ましくは120℃以上に設定する必要がある。
【0046】
本発明にかかる保温工程においては、通常、前記吐出工程で形成された繊維状のPGA系樹脂を引き取りながら、本発明にかかる温度雰囲気中に保持する。繊維状のPGA系樹脂の引取速度(紡糸速度)としては特に制限はないが、得られるPGA系樹脂未延伸糸を構成する単糸(以下、「PGA系樹脂未延伸単糸」という。)の単位長さ当たりの質量が6×10−4g/m以上(より好ましくは13×10−4g/m以上)となるような引取速度で、前記繊維状のPGA系樹脂を引き取ることが特に好ましい。これにより、PGA系樹脂未延伸糸は、製造直後において、100℃での乾熱収縮率がさらに小さくなり、引張伸度がさらに大きくなる傾向にあり、高温高湿下に曝された後においても解じょ性が良好となり且つ延伸性も良好となる傾向にある。また、PGA系樹脂延伸糸は、引張強度および引張伸度がさらに向上する傾向にある。なお、PGA系樹脂未延伸単糸の単位長さ当たりの質量は、紡糸口金の穴径、紡糸口金の1穴当たりの吐出量などによっても変化するため、これらを勘案して所望のPGA系樹脂未延伸単糸の単位長さ当たりの質量となるように引取速度を設定する。
【0047】
(冷却工程)
次に、前記保温工程で得られた繊維状のPGA系樹脂を冷却して本発明のPGA系樹脂未延伸糸を得る。通常、この冷却処理は、前記繊維状のPGA系樹脂を引き取りながら行われる。また、繊維状のPGA系樹脂の冷却方法としては特に制限はないが、簡便な点で空冷が好ましい。
【0048】
この冷却工程においては、前記保温工程に引き続いて、PGA系樹脂未延伸単糸の単位長さ当たりの質量が6×10−4g/m以上(より好ましくは13×10−4g/m以上)となるように、繊維状のPGA系樹脂を引き取ることが特に好ましい。これにより、PGA系樹脂未延伸糸は、製造直後において、100℃での乾熱収縮率がさらに小さくなり、引張伸度がさらに大きくなる傾向にあり、高温高湿下に曝された後においても解じょ性が良好となり且つ延伸性も良好となる傾向にある。また、PGA系樹脂延伸糸は、引張強度および引張伸度がさらに向上する傾向にある。
【0049】
このようにして得られた本発明のPGA系樹脂未延伸糸は、PGA系樹脂未延伸糸の解じょ性をより向上させるために必要に応じて繊維用油剤を塗布した後、ボビン9等に巻き取られる。
【0050】
<PGA系樹脂未延伸糸>
本発明の製造方法により得られる本発明のPGA系樹脂未延伸糸は、解じょ性に優れているため、このようにボビン等に巻き取っても、PGA系樹脂延伸糸を製造する際には、容易に解じょすることができる。また、本発明のPGA系樹脂未延伸糸は、保管後の解じょ性、特に、高温高湿(例えば、温度40℃、相対湿度80%RH)下での保管後の解じょ性にも優れているため、ボビン等に巻き取った状態で保管(例えば、20〜40℃で保管)しても、PGA系樹脂延伸糸を製造する際には、容易に解じょすることができる。したがって、本発明のPGA系樹脂未延伸糸は、大量に生産して保管することができ、さらに安定して供給することが可能であるため、PGA系樹脂延伸糸の生産調整が可能となる。また、低温保管の必要がないため、PGA系樹脂延伸糸生産における生産コスト(保管コスト)の削減を図ることが可能となる。
【0051】
また、本発明のPGA系樹脂未延伸糸は、製造直後において、100℃での乾熱収縮率が55%以下と小さいものであり、引張伸度が150%以上と大きいものである。前記乾熱収縮率が前記上限を超えたり、前記引張伸度が前記下限未満になると、PGA系樹脂未延伸糸の解じょ性が低下し、引出し性不良により延伸が不可能になる、あるいはそれを延伸してなるPGA系樹脂延伸糸は、単糸繊度が高くなり、引張強度が低下する傾向にある。また、本発明のPGA系樹脂未延伸糸を延伸してなるPGA系樹脂延伸糸の引張強度および引張伸度がさらに高くなるという観点から、前記PGA系樹脂未延伸糸は、製造直後において、100℃における乾熱収縮率が45%以下であり、引張強度が200%以上であるものがより好ましい。
【0052】
<PGA系樹脂延伸糸の製造方法>
次に、本発明のPGA系樹脂延伸糸の製造方法について詳細に説明する。本発明のPGA系樹脂延伸糸の製造方法は、上記のようにして製造された本発明のPGA系樹脂未延伸糸を延伸する延伸工程を含むものである。延伸方法としては特に制限はなく、公知の方法を採用することができ、例えば、図2に示す延伸装置を用いてPGA系樹脂延伸糸を製造する場合、ボビン9等に巻き取られた本発明のPGA系樹脂未延伸糸を、解じょしながら引き出した後、延伸することによって本発明のPGA系樹脂延伸糸を得ることができる。本発明のPGA系樹脂延伸糸の製造方法において、延伸温度および延伸倍率は特に制限されず、所望のPGA系樹脂延伸糸の物性などに応じて適宜設定することができるが、例えば、延伸温度としては40〜120℃が好ましく、延伸倍率としては1.1〜8.0が好ましい。
【0053】
<PGA系樹脂延伸糸>
本発明のPGA系樹脂未延伸糸は、比較的高い延伸倍率で延伸することが可能であるため、これを延伸してなる本発明のPGA系樹脂延伸糸は、単糸繊度が1.9デニール以下(好ましくは1.7デニール以下)と低く、引張強度が6.0gf/デニール以上(好ましくは7.0gf/デニール以上)と高く、引張伸度が20%以上(好ましくは21%以上)と高いものとなる。このような低い単糸繊度で高強度且つ高伸度のPGA系樹脂延伸糸を用いることによって、高強度、高伸度、易分解性を有する、新たな繊維製品の設計が可能となる。
【0054】
<カットファイバー>
本発明のカットファイバーは、上記のようにして製造された本発明のPGA系樹脂延伸糸を切断することによって得られるものである。PGA系樹脂延伸糸を切断する方法としては特に制限はなく、公知のカットファイバーの製造方法で用いられる切断方法を採用することができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、未延伸糸及び延伸糸の評価方法を以下に示す。
【0056】
(1)乾熱収縮率
未延伸糸100mを枠周1mの巻返し機にかせ上げし、得られたかせの一端を固定し、他端に20gの分銅をかけて、かせ長さLを測定した。次に、分銅を外し、100℃の乾熱炉中に吊り下げて30分間放置した後、室温まで冷却した。その後、再び、かせの一端を固定し、他端に20gの分銅をかけて、かせ長さLHTを測定し、次式により乾熱収縮率(%)を算出した。
【0057】
乾熱収縮率(%)=(L−LHT)/L×100
ここで、Lは熱処理前のかせ長さ(m)、LHTは熱処理後のかせ長さ(m)を示す。
【0058】
(2)引張強度および引張伸度
タイヤコード用引っ掛けチャックを備えた精密万能試験機((株)エーアンドディー製「テンシロン」)に、長さ120mmの未延伸糸または長さ250mmの延伸糸を装着し、クロスヘッド速度300mm/分で引張試験を行い、糸が破断したときの強度および伸度を測定した。この測定を5本の未延伸糸または延伸糸について行い、その平均値を引張強度および引張伸度とした。なお、測定環境は温度23℃、相対湿度50%RHに管理した。
【0059】
(3)解じょ性
未延伸糸を巻きつけたボビンを図2に示す延伸装置に装着し、未延伸糸を解じょしてボビン9からフィードローラー11を介して温度65℃、周速100m/分の第1加熱ローラー12で引き出し、前記第1加熱ローラー12と温度90℃の第2加熱ローラー13の間で延伸し、第3加熱ローラー14を介してボビン15に巻き取り、延伸糸を得た。このときの未延伸糸の解じょ性を以下の基準で判定した。
A:糸切れは観察されず、解じょ性は均一且つ良好であった。
B:糸切れは観察されなかったが、糸同士が密着し、解じょ性に部分的なムラがあった。
C:糸切れが多発し、未延伸糸を解じょして延伸することは困難であった。
【0060】
(4)単糸繊度
未延伸糸90mを枠周1mの巻返し機にかせ上げし、絶乾質量Mを測定し、次式により単糸繊度を算出した。
【0061】
単糸繊度(デニール)=100×M/H
ここで、Mは延伸糸の絶乾質量(g)、Hは紡糸口金の穴数(=24穴)を示す。
(5)紡糸性
紡糸口金から吐出された樹脂が第1引き取りローラーに引き取られるまでの状態を以下の基準で判定した。
A:糸切れは観察されず、安定的に製造可能であった。
B:60分間に部分的なものを含め、糸切れした回数が5回未満であり、安定した製造に問題がある。
C:60分間に部分的なものを含め、糸切れした回数が5回以上であり、製造性に非常に問題がある。
【0062】
(実施例1)
<PGA樹脂未延伸糸(a)の製造とその評価>
図1に示す溶融紡糸装置を用いて、PGA樹脂未延伸糸を作製した。前記溶融紡糸装置の紡糸口金4の直下には、長さ150mm、内径100mmの温度制御可能な加熱マントル5を装着した。なお、以下の説明および図面中、同一または相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0063】
先ず、ペレット状のPGA樹脂((株)クレハ製、重量平均分子量:20万、溶融粘度(温度240℃、剪断速度122sec−1):700Pa・s、ガラス転移温度:43℃、融点:220℃、サイズ:径3mmφ×長さ3mm)を、原料ホッパー1からシリンダー径25mmφの一軸押出機2に投入し、210〜250℃で溶融させた。なお、前記押出機2のシリンダーは4区間に分けて加熱できるものであり、その温度はホッパー側から210℃、220℃、235℃、250℃に設定した。また、ヘッド温度、ギアポンプ温度およびスピンパック温度は250℃に設定した。
【0064】
この溶融PGA樹脂を、ギアポンプ3を用いて24穴紡糸口金4(孔径:0.40mm)から1穴あたり0.42g/分の速度で吐出させて繊維状のPGA樹脂を形成した後、120℃に設定した加熱マントル5中を通過させた。その後、繊維状のPGA樹脂を空冷し、得られたPGA樹脂未延伸糸に繊維用油剤GOULSTON社製「Lurol」を塗布し、周速300m/分の第1引き取りローラー7で引き取り、第2引き取りローラー8を介してPGA樹脂未延伸糸(a−1)を30000mごとにボビン9に巻き取った。得られたPGA樹脂未延伸糸(a−1)の100℃における乾熱収縮率、引張伸度および解じょ性を、製造後直ぐに前記評価方法に従って測定した。これらの結果および紡糸性の評価結果を表1に示す。
【0065】
<PGA樹脂延伸糸(A)の製造とその評価>
PGA樹脂未延伸糸(a−1)の製造後直ぐに、PGA樹脂未延伸糸(a−1)を巻きつけたボビンを図2に示す延伸装置に装着し、PGA樹脂未延伸糸(a−1)を解じょしてボビン9からフィードローラー11を介して第1加熱ローラー12および第2加熱ローラー13を用いて延伸し、第3加熱ローラー14を介してPGA樹脂延伸糸(A−1)をボビン15に巻き取った。なお、延伸温度は65℃に設定し、延伸倍率は、第1および第2の加熱ローラーの周速を調整して、6.5倍に設定した。得られたPGA樹脂延伸糸(A−1)の単糸繊度、引張強度および引張伸度を前記評価方法に従って測定した。これらの結果を表1に示す。
【0066】
<PGA樹脂未延伸糸(a)の高温高湿保管とその評価>
PGA樹脂未延伸糸(a−1)を巻きつけたボビンを恒温恒湿槽(ISUZU(株)製「HPAV−120−20」)に入れ、温度40℃、相対湿度80%RHの雰囲気下で24時間保管した。保管後のPGA樹脂未延伸糸(b−1)の引張伸度および解じょ性を前記評価方法に従って測定した。これらの結果を表1に示す。
【0067】
<PGA樹脂延伸糸(B)の製造とその評価>
また、PGA樹脂未延伸糸(a−1)の代わりに高温高湿保管後のPGA樹脂未延伸糸(b−1)を用いた以外は、PGA樹脂延伸糸(A−1)の場合と同様に延伸してPGA樹脂延伸糸(B−1)を作製した。このPGA樹脂延伸糸(B−1)の単糸繊度、引張強度および引張伸度を前記評価方法に従って測定した。これらの結果を表1に示す。
【0068】
<保持時間、紡糸時間、PGA樹脂未延伸単糸の質量の算出>
実施例および比較例において、紡糸口金出口から110.5℃以上の地点Pまでの最長距離を「有効加熱マントル長」と定義し、以下のようにして求めた。すなわち、先ず、120℃に設定した加熱マントル内のPGA樹脂吐出中の温度分布を、赤外線レーザー温度計を用いてPGA樹脂の吐出方向について測定した。その結果、紡糸口金出口からの距離が10mm、60mm、120mmの地点でそれぞれ200℃、170℃、130℃であった。次に、この温度分布に基づいて、吐出方向において、加熱マントル内の110.5℃以上の地点のうち、紡糸口金出口から最も離れた地点Pを決定した。そして、紡糸口金出口と前記地点Pとの間の距離を求め、これを「有効加熱マントル長」とした。実施例1における有効加熱マントル長は150mmであった。
【0069】
第1引き取りローラーの周速(300m/分)を紡糸速度として、前記有効加熱マントル長に基づいて、繊維状のPGA樹脂が紡糸口金から吐出してから110.5℃以上PGA樹脂の融点以下の温度雰囲気中に保持されていた時間(秒)を算出した。その結果を表1に示す。
【0070】
さらに、紡糸口金出口からボビンまでの距離(2m)と紡糸速度から、紡糸時間(秒)を算出し、また、1穴あたりのPGA樹脂の吐出量と紡糸速度から、PGA樹脂未延伸単糸の単位長さ当たりの質量(g/m)を算出した。これらの結果も表1に示す。
【0071】
(実施例2〜4)
第1引き取りローラー7の周速(紡糸速度)をそれぞれ600m/分、900m/分、1100m/分に変更した以外は実施例1と同様にしてPGA樹脂未延伸糸(a−2)、(a−3)、(a−4)を作製し、製造直後のPGA樹脂未延伸糸(a−2)、(a−3)、(a−4)の各物性を前記評価方法に従って測定した。また、PGA樹脂未延伸糸(a−1)の代わりにPGA樹脂未延伸糸(a−2)、(a−3)、(a−4)を用いた以外は実施例1と同様に延伸してPGA樹脂延伸糸(A−2)、(A−3)、(A−4)を作製し、各物性を前記評価方法に従って測定した。これらの結果を表1に示す。
【0072】
さらに、PGA樹脂未延伸糸(a−2)、(a−3)、(a−4)を実施例1と同様にして温度40℃、相対湿度80%RHの雰囲気下で24時間保管し、保管後のPGA樹脂未延伸糸(b−2)、(b−3)、(b−4)の各物性を前記評価方法に従って測定した。また、PGA樹脂未延伸糸(b−1)の代わりにPGA樹脂未延伸糸(b−2)、(b−3)、(b−4)を用いた以外は実施例1と同様に延伸してPGA樹脂延伸糸(B−2)、(B−3)、(B−4)を作製し、各物性を前記評価方法に従って測定した。これらの結果を表1に示す。
【0073】
なお、加熱マントル内のPGA樹脂吐出中の温度分布は実施例1の場合と同じものであった。各実施例において、実施例1と同様にして、繊維状のPGA樹脂が所定の温度雰囲気中に保持されていた時間、紡糸時間、PGA樹脂未延伸単糸の単位長さ当たりの質量を算出した。これらの結果も表1に示す。
【0074】
(実施例5)
加熱マントルの設定温度を180℃に変更した以外は実施例1と同様にしてPGA樹脂未延伸糸(a−5)を作製し、製造直後のPGA樹脂未延伸糸(a−5)の各物性を前記評価方法に従って測定した。また、PGA樹脂未延伸糸(a−1)の代わりにPGA樹脂未延伸糸(a−5)を用いた以外は実施例1と同様に延伸してPGA樹脂延伸糸(A−5)を作製し、各物性を前記評価方法に従って測定した。これらの結果を表1に示す。
【0075】
さらに、PGA樹脂未延伸糸(a−5)を実施例1と同様にして温度40℃、相対湿度80%RHの雰囲気下で24時間保管し、保管後のPGA樹脂未延伸糸(b−5)の各物性を前記評価方法に従って測定した。また、PGA樹脂未延伸糸(b−1)の代わりにPGA樹脂未延伸糸(b−5)を用いた以外は実施例1と同様に延伸してPGA樹脂延伸糸(B−5)を作製し、各物性を前記評価方法に従って測定した。これらの結果を表1に示す。
【0076】
なお、加熱マントル内のPGA樹脂吐出中の温度分布を実施例1と同様にして測定したところ、紡糸口金出口からの距離が10mm、60mm、120mmの地点でそれぞれ220℃、195℃、150℃であった。この温度分布から、実施例1と同様にして有効加熱マントル長を求めたところ、150mmであった。この値から、実施例1と同様にして繊維状のPGA樹脂が所定の温度雰囲気中に保持されていた時間を算出した。また、実施例1と同様にして、紡糸時間、PGA樹脂未延伸単糸の単位長さ当たりの質量を算出した。これらの結果も表1に示す。
【0077】
(実施例6〜8)
第1引き取りローラー7の周速(紡糸速度)をそれぞれ600m/分、900m/分、1100m/分に変更した以外は実施例5と同様にしてPGA樹脂未延伸糸(a−6)、(a−7)、(a−8)を作製し、製造直後のPGA樹脂未延伸糸(a−6)、(a−7)、(a−8)の各物性を前記評価方法に従って測定した。また、PGA樹脂未延伸糸(a−1)の代わりにPGA樹脂未延伸糸(a−6)、(a−7)、(a−8)を用いた以外は実施例1と同様に延伸してPGA樹脂延伸糸(A−6)、(A−7)、(A−8)を作製し、各物性を前記評価方法に従って測定した。これらの結果を表1に示す。
【0078】
さらに、PGA樹脂未延伸糸(a−6)、(a−7)、(a−8)を実施例1と同様にして温度40℃、相対湿度80%RHの雰囲気下で24時間保管し、保管後のPGA樹脂未延伸糸(b−6)、(b−7)、(b−8)の各物性を前記評価方法に従って測定した。また、PGA樹脂未延伸糸(b−1)の代わりにPGA樹脂未延伸糸(b−6)、(b−7)、(b−8)を用いた以外は実施例1と同様に延伸してPGA樹脂延伸糸(B−6)、(B−7)、(B−8)を作製し、各物性を前記評価方法に従って測定した。これらの結果を表1に示す。
【0079】
なお、加熱マントル内のPGA樹脂吐出中の温度分布は実施例5の場合と同じものであった。各実施例において、実施例1と同様にして、繊維状のPGA樹脂が所定の温度雰囲気中に保持されていた時間、紡糸時間、PGA樹脂未延伸単糸の単位長さ当たりの質量を算出した。これらの結果も表1に示す。
【0080】
(比較例1)
加熱マントルを装着しなかった以外は実施例1と同様にしてPGA樹脂未延伸糸(a−c1)を作製し、製造直後のPGA樹脂未延伸糸(a−c1)の各物性を前記評価方法に従って測定した。また、PGA樹脂未延伸糸(a−1)の代わりにPGA樹脂未延伸糸(a−c1)を用いた以外は実施例1と同様に延伸してPGA樹脂延伸糸(A−c1)を作製し、各物性を前記評価方法に従って測定した。これらの結果を表2に示す。
【0081】
さらに、PGA樹脂未延伸糸(a−c1)を実施例1と同様にして温度40℃、相対湿度80%RHの雰囲気下で24時間保管し、保管後のPGA樹脂未延伸糸(b−c1)の各物性を前記評価方法に従って測定した。また、PGA樹脂未延伸糸(b−1)の代わりにPGA樹脂未延伸糸(b−c1)を用いた以外は実施例1と同様に延伸してPGA樹脂延伸糸(B−c1)を作製し、各物性を前記評価方法に従って測定した。これらの結果を表2に示す。
【0082】
なお、加熱マントルを装着していないため、紡糸口金出口付近の雰囲気温度は室温(23℃)である。したがって、繊維状のPGA樹脂が所定の温度雰囲気中に保持されていた時間は0秒とした。また、実施例1と同様にして、紡糸時間、PGA樹脂未延伸単糸の単位長さ当たりの質量を算出した。これらの結果を表2に示す。
【0083】
(比較例2〜4)
第1引き取りローラー7の周速(紡糸速度)をそれぞれ600m/分、900m/分、1100m/分に変更した以外は比較例1と同様にしてPGA樹脂未延伸糸(a−c2)、(a−c3)、(a−c4)を作製し、製造直後のPGA樹脂未延伸糸(a−c2)、(a−c3)、(a−c4)の各物性を前記評価方法に従って測定した。また、PGA樹脂未延伸糸(a−1)の代わりにPGA樹脂未延伸糸(a−c2)、(a−c3)、(a−c4)を用いた以外は実施例1と同様に延伸してPGA樹脂延伸糸(A−c2)、(A−c3)、(A−c4)を作製し、各物性を前記評価方法に従って測定した。これらの結果を表2に示す。
【0084】
さらに、PGA樹脂未延伸糸(a−c2)、(a−c3)、(a−c4)を実施例1と同様にして温度40℃、相対湿度80%RHの雰囲気下で24時間保管し、保管後のPGA樹脂未延伸糸(b−c2)、(b−c3)、(b−c4)の各物性を前記評価方法に従って測定した。また、PGA樹脂未延伸糸(b−1)の代わりにPGA樹脂未延伸糸(b−c2)、(b−c3)、(b−c4)を用いた以外は実施例1と同様に延伸してPGA樹脂延伸糸(B−c2)、(B−c3)、(B−c4)を作製し、各物性を前記評価方法に従って測定した。これらの結果を表2に示す。
【0085】
なお、加熱マントルを装着していないため、比較例1と同様に、繊維状のPGA樹脂が所定の温度雰囲気中に保持されていた時間は0秒とした。また、実施例1と同様にして、紡糸時間、PGA樹脂未延伸単糸の単位長さ当たりの質量を算出した。これらの結果を表2に示す。
【0086】
(比較例5)
加熱マントルの設定温度を100℃に変更した以外は実施例1と同様にしてPGA樹脂未延伸糸(a−c5)を作製し、製造直後のPGA樹脂未延伸糸(a−c5)の各物性を前記評価方法に従って測定した。また、PGA樹脂未延伸糸(a−1)の代わりにPGA樹脂未延伸糸(a−c5)を用いた以外は実施例1と同様に延伸してPGA樹脂延伸糸(A−c5)を作製し、各物性を前記評価方法に従って測定した。これらの結果を表2に示す。
【0087】
さらに、PGA樹脂未延伸糸(a−c5)を実施例1と同様にして温度40℃、相対湿度80%RHの雰囲気下で24時間保管し、保管後のPGA樹脂未延伸糸(b−c5)の各物性を前記評価方法に従って測定した。また、PGA樹脂未延伸糸(b−1)の代わりにPGA樹脂未延伸糸(b−c5)を用いた以外は実施例1と同様に延伸してPGA樹脂延伸糸(B−c5)を作製し、各物性を前記評価方法に従って測定した。これらの結果を表2に示す。
【0088】
なお、加熱マントル内のPGA樹脂吐出中の温度分布を実施例1と同様にして測定したところ、紡糸口金出口からの距離が5mm、10mm、60mm、120mmの地点でそれぞれ111℃、95℃、75℃、40℃であった。この温度分布から、実施例1と同様にして有効加熱マントル長求めたところ、5mmであった。この値から、実施例1と同様にして繊維状のPGA樹脂が所定の温度雰囲気中に保持されていた時間を算出した。また、実施例1と同様にして、紡糸時間、PGA樹脂未延伸単糸の単位長さ当たりの質量を算出した。これらの結果も表2に示す。
【0089】
(比較例6)
加熱マントルの設定温度を280℃に変更した以外は実施例1と同様にしてPGA樹脂未延伸糸(a−c6)を作製したが、紡糸口金から吐出された樹脂が引き取られる間に糸切れが起こり、安定してPGA樹脂未延伸糸を得ることが困難であったため、紡糸性Cと判断した。なお、紡糸口金出口付近の温度はPGA樹脂の融点(220℃)を超える温度であった。したがって、紡糸口金から吐出されたPGA樹脂は吐出直後に所定の温度雰囲気に保持されていないため、保持時間は0秒とした。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
表1に示した結果から明らかなように、本発明の製造方法によりPGA樹脂未延伸糸を製造した場合(実施例1〜8)には、製造直後において、100℃における乾熱収縮率が小さく(55%以下)、引張伸度が高く(150%以上)、解じょ性に優れたPGA樹脂未延伸糸が得られることが確認された。また、実施例1〜8で得られたPGA樹脂未延伸糸を製造後直ぐに延伸した場合には、単糸繊度が低く(1.7デニール以下)、引張強度が高く(7.0gf/デニール以上)、引張伸度が高い(20%以上)PGA樹脂延伸糸が得られることがわかった。
【0093】
さらに、実施例1〜8で得られたPGA樹脂未延伸糸は、高温高湿下に曝された場合であっても、解じょ性に優れたものであり、このような高温高湿下に曝されたPGA樹脂未延伸糸を延伸した場合でも、単糸繊度が低く(1.7デニール以下)、引張強度が高く(6.0gf/デニール以上)、引張伸度が高い(20%以上)PGA樹脂延伸糸が得られることがわかった。
【0094】
また、加熱マントル内の温度分布が同じ条件で製造されたPGA樹脂未延伸糸であっても、PGA樹脂未延伸単糸の単位長さ当たりの質量が6.0×10−4g/m以上のPGA樹脂未延伸糸(実施例1〜2、5〜6)は、6.0×10−4g/m未満のPGA樹脂未延伸糸(実施例3〜4、7〜8)に比べて、製造直後において100℃での乾熱収縮率が小さくなり、製造直後および高温高湿保管後のいずれにおいても引張伸度が高くなることがわかった。
【0095】
さらに、実施例1〜2、5〜6で得られたPGA樹脂未延伸糸を延伸した場合には、実施例3〜4、7〜8で得られたPGA樹脂未延伸糸を延伸した場合に比べて、製造直後および高温高湿保管後のいずれにおいても引張強度および引張伸度が高いPGA樹脂延伸糸が得られることがわかった。
【0096】
一方、表2に示した結果から明らかなように、本発明にかかる温度雰囲気下に繊維状のPGA樹脂を保持しなかった場合(比較例1〜4)には、得られたPGA樹脂延伸糸は、引張伸度が低い(19%以下)ものであった。特に、PGA樹脂未延伸単糸の単位長さ当たりの質量が6.0×10−4g/m未満のPGA樹脂未延伸糸(比較例3〜4)は、解じょ性も劣るものであった。また、本発明にかかる温度雰囲気下に保持された時間が0.0012秒未満のPGA樹脂未延伸糸(比較例5)も解じょ性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0097】
以上説明したように、本発明によれば、解じょ性に優れるポリグリコール酸系樹脂未延伸糸、ならびに単糸繊度が低く、高強度且つ高伸度のポリグリコール酸系樹脂延伸糸を得ることが可能となる。
【0098】
したがって、本発明のポリグリコール酸系樹脂未延伸糸は、巻き取った状態での保管が可能であり、しかも、高温高湿下に曝されても解じょ性に優れるため、単糸繊度が低く、高強度且つ高伸度のポリグリコール酸系樹脂延伸糸を大量生産する際の原料と有用である。
【符号の説明】
【0099】
1:原料ホッパー、2:押出機、3:ギアポンプ、4:紡糸口金(紡糸ノズル)、5:加熱マントル、6:油剤塗布装置、7:第1引き取りローラー、8:第2引き取りローラー、9:未延伸糸用ボビン、11:フィードローラー、12:第1加熱ローラー、13:第2加熱ローラー、14:第3加熱ローラー、15:延伸糸用ボビン。
図1
図2