(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5735552
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】人工毛髪用の処理剤、人工毛髪及び頭飾製品
(51)【国際特許分類】
D06M 15/643 20060101AFI20150528BHJP
D06M 15/263 20060101ALI20150528BHJP
A41G 3/00 20060101ALI20150528BHJP
A61L 27/00 20060101ALI20150528BHJP
D06M 101/22 20060101ALN20150528BHJP
【FI】
D06M15/643
D06M15/263
A41G3/00 A
A61L27/00 C
D06M101:22
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-558018(P2012-558018)
(86)(22)【出願日】2012年2月16日
(86)【国際出願番号】JP2012053702
(87)【国際公開番号】WO2012111769
(87)【国際公開日】20120823
【審査請求日】2014年9月22日
(31)【優先権主張番号】特願2011-33091(P2011-33091)
(32)【優先日】2011年2月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】電気化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】黄野 隆文
【審査官】
家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2009/069751(WO,A1)
【文献】
特開2008−274453(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/094176(WO,A1)
【文献】
特開2006−241665(JP,A)
【文献】
特開2010−150715(JP,A)
【文献】
特開2007−284810(JP,A)
【文献】
特開2011−184831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00−15/715
A41G 1/00−11/02
A61L15/00−33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主分散媒と、この主分散媒中に分散されたアクリル樹脂粒子及びアミノシリコーンを含む人工毛髪用の処理剤。
【請求項2】
前記アクリル樹脂粒子の含有量は、前記主分散媒100質量部に対し、0.1〜0.5質量部である、請求項1記載の処理剤。
【請求項3】
前記アクリル樹脂粒子は、分散媒中に分散されたアクリルエマルジョンの状態で添加された、請求項1又は請求項2記載の処理剤。
【請求項4】
前記アミノシリコーンの含有量は、前記主分散媒100質量部に対し、0.1〜5質量部である、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の処理剤。
【請求項5】
前記アミノシリコーンは、分散媒中に分散されたアミノシリコーンエマルジョンの状態で添加された、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の処理剤。
【請求項6】
前記アクリル樹脂粒子は、分散媒中に分散されたアクリルエマルジョンの状態で添加され、
前記アミノシリコーンは、分散媒中に分散されたアミノシリコーンエマルジョンの状態で添加され、
前記主分散媒と、前記アクリルエマルジョンの分散媒と、前記アミノシリコーンエマルジョンの分散媒は、それぞれ水を主成分とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の処理剤。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の処理剤が、合成繊維の表面に塗布された人工毛髪。
【請求項8】
前記合成繊維は、塩化ビニル系繊維である請求項7記載の人工毛髪。
【請求項9】
請求項7又は請求項8記載の人工毛髪を用いた頭飾製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維処理剤に関し、特に人工毛髪に適した繊維処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、かつらやヘアウィッグ等の頭飾製品には、合成繊維製の人工毛髪が用いられてきた。人工毛髪は人毛よりも安価であるが、触感、光沢等が人毛と比べて不自然で、人工毛髪だとわかるものが多く、人工毛髪をいかに人毛に近づけるかが課題であった。
【0003】
また、頭飾製品を製造する工程で、数十cmの金属棒を数cmの間隔で立設させた金属ブラシに人工毛髪の束を落とし、束を金属ブラシから引き抜くことで、人工毛髪の毛の流れを整えるハックリング(櫛通し)と呼ばれる作業があるが、人工毛髪が金属ブラシにひっかかり、ダメージを受けることがあり、生産性の観点から問題となっていた。
【0004】
人工毛髪の触感や櫛通性を向上させる方法としては、合成繊維を処理剤で処理する方法が知られている。処理剤としては、例えば、アミノシリコーンや流動パラフィンのような油剤を含有するものが公知である(下記特許文献1、2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−119972号公報
【特許文献2】特許3703402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、油剤は人工毛髪への付着性に劣るものが多く、例えば、アミノシリコーンを人工毛髪に付着させると、櫛通性は向上するものの、人工毛髪にべたつきが生じ、触感が却って悪化するという問題があった。
【0007】
また、通常の使用や運搬の際に生じる摩擦により、人工毛髪に付着した油剤が脱離することがあり、櫛通性が経時的に劣化するという問題もあった。
【0008】
そこで、本発明は、特に人工毛髪の櫛通性や触感を向上させる繊維処理剤を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等が鋭意検討を行った結果、アミノシリコーンと、アクリル樹脂粒子とが添加された処理剤は、アミノシリコーンがアクリル樹脂粒子により合成繊維に結着され、べたつきが抑えられるだけでなく、櫛通性や触感も大幅に向上することを見出した。
【0010】
係る知見に基づいて成された本発明は、人工毛髪用の処理剤であって、主分散媒と、この主分散媒中に分散されたアクリル樹脂粒子及びアミノシリコーンを含む処理剤である。
【0011】
好ましくは、前記アクリル樹脂粒子の含有量は、前記主分散媒100質量部に対し、0.1〜0.5質量部である。
好ましくは、前記アクリル樹脂粒子は、分散媒中に分散されたアクリルエマルジョンの状態で添加される。この場合、アクリルエマルジョンは、アクリル樹脂粒子の添加量が、前記主分散媒100質量部に対し0.1〜0.5質量部となるように添加される。
【0012】
好ましくは、前記アミノシリコーンの含有量は、前記主分散媒100質量部に対し、0.1〜5質量部である。
好ましくは、前記アミノシリコーンは、分散媒中に分散されたアミノシリコーンエマルジョンの状態で添加される。この場合、アミノシリコーンエマルジョンは、前記アミノシリコーンの添加量が、前記主分散媒100質量部に対し0.1〜5質量部となるように添加される。
【0013】
好ましくは、主分散媒と、アクリルエマルジョンの分散媒と、アミノシリコーンエマルジョンの分散媒は、それぞれ水を主成分とする。
上記処理剤を合成繊維に塗布し、人工毛髪を製造することができる。合成繊維としては、塩化ビニル系繊維が好ましい。
上記人工毛髪を用いて頭飾製品を製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
櫛通性や触感に優れた人工毛髪を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明は以下に示す各実施形態に限定されるものではない。
【0016】
処理剤は、種々の繊維の表面処理に用いることも可能であるが、人工毛髪用の合成繊維を処理し、その触感や櫛通性を改善する用途に特に適している。処理剤は、主分散媒と、この主分散媒中に分散されたアクリル樹脂粒子及びアミノシリコーンを含むものである。以下に、各成分についてより詳細に説明する。
【0017】
<主分散媒>
主分散媒は特に限定されないが、安全性、取扱い性を考慮すると、水を主成分とするものが望ましく、より好ましくは主分散媒として水を用いる。なお、主成分とは、50質量%以上を占める成分のことである。主分散媒の使用量は、処理剤の塗布条件等により適宜変更されるが、処理剤全体の50質量%以上とすることが望ましい。
【0018】
<アクリル樹脂粒子>
アクリル樹脂粒子の種類や製造方法は特に限定されず、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合法等を用いることができるが、アクリルモノマーを含むモノマー成分を、乳化重合させてエマルジョン化した乳化重合法によるものを用いることが好ましい。
【0019】
アクリル樹脂粒子を単独で主分散媒に添加し、処理剤を作成することもできるが、アクリル樹脂粒子が分散媒中に分散されたアクリルエマルジョンの状態で主分散媒に添加した方が、分散性に優れるのでより好ましい。アクリルエマルジョンの分散媒は特に限定されないが、分散性を考慮すると、主分散媒と共通する溶媒(例えば水)を主成分とするものを用いることが好ましい。分散媒には、必要に応じて、界面活性剤、分散剤等を添加することもできる。
【0020】
原料のモノマー成分は、アクリル系モノマーを必須とするが、アクリル系モノマーと、酢酸ビニル、スチレン、エチレン等の他のモノマーを併用してもよい。すなわち、アクリル樹脂粒子は、アクリル系モノマーの重合体、又はアクリル系モノマーと他のモノマーとの共重合体からなる。
【0021】
アクリル系モノマーとしては、例えば、アクリル酸、アクリル酸誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸の誘導体からなる群より選択されるいずれか1種以上で構成される。アクリル酸の誘導体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリロニトリル、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミドがある。メタクリル酸の誘導体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸N−ビニル−2−ピロリドン、メタクリロニトリル、メタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルがある。これらは単体で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0022】
上記モノマー成分を架橋剤、重合開始剤等と一緒に分散媒中に分散させ、乳化重合すれば、アクリル樹脂粒子が分散媒中に分散されたアクリルエマルジョンが得られる。アクリルエマルジョンは、必要に応じて脱溶剤、希釈等の後処理をしてから、処理剤に用いる。
【0023】
アクリル樹脂粒子は、アミノシリコーンを合成繊維に結着させ、アミノシリコーンの脱離を防止するだけでなく、アミノシリコーンに起因するべたつき感を抑える。アクリル樹脂粒子又はアクリルエマルジョンの添加量は特に限定されないが、少なすぎるとべたつきが抑制されず、逆に多すぎると人工毛髪同士が結着して束になるので、適宜調整する必要がある。
【0024】
処理剤中のアクリル樹脂粒子の含有量は、特に限定されないが、主分散媒100質量部に対し、0.1〜0.5質量部が好ましく、0.15〜0.4質量部がさらに好ましい。従って、例えば、アクリル樹脂粒子を50質量%含むアクリルエマルジョンを添加する場合、アクリルエマルジョンの添加量は、主分散媒100質量部当たり0.2〜1.0質量部が好ましく、0.3〜0.8質量部がさらに好ましい。
【0025】
アクリル樹脂粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば0.05〜10μmであり、具体的には例えば0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10μmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。なお、本明細書において、「平均粒子径」は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。
【0026】
なお、処理剤には、アクリル樹脂粒子以外にも、デンプンや他の樹脂粒子を結着剤として使用することができるが、アクリル樹脂粒子は、分散性、アミノシリコーンの合成繊維への結着性という点で他の結着剤よりも優れるので、アクリル樹脂粒子を必須とし、他の結着剤を併用する場合、その使用量はアクリル樹脂粒子よりも少なくすることが望ましい。
【0027】
<アミノシリコーン>
アミノシリコーンは常温で液状のオイルタイプのもの、常温で固体(粒子状)のレジンタイプのものなど、種々のものを用いることができる。アミノシリコーンは、分散媒中に分散させず、そのまま処理溶液に用いることもできるが、分散性を考慮すると、アミノシリコーンを分散媒中に分散させたアミノシリコーンエマルジョンの形で処理剤に用いることが好ましい。
【0028】
分散媒は特に限定されないが、分散性を考慮すると、主分散媒及びアクリルエマルジョンの分散媒と共通する溶媒(例えば水)を主成分とするものを用いることが好ましい。分散媒には、必要に応じて、界面活性剤、分散剤等を添加する。
【0029】
アミノシリコーンは、ジメチルポリシロキサンのメチル基の一部が置換されたものであって、置換基のうち、いずれか1以上がアミノ基からなる。置換基の結合位置は特に限定されず、例えば、両末端置換型アミノシリコーン、側鎖置換型アミノシリコーン、片末端置換型アミノシリコーン、側差両末端置換型アミノシリコーン、側差片末端置換型アミノシリコーン等用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を同じ処理剤に用いてもよい。
【0030】
アミノ基の種類も特に限定されず、モノアミン(−RNH
2)、ジアミン(−RNHR'NH
2)等がある。アミノ基中のR、R'は特に限定されないが、例えば炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルケニル基等である。また、アミノ基をアミド化したもの、アミノ基にプロピレングリコール基等を付加したもの等、変性アミノ基であってもよい。
【0031】
処理剤中のアミノシリコーンの含有量は、特に限定されないが、添加量が多すぎるとべたつきが酷くなり、逆に少なすぎると滑り性や櫛通性が劣るので、主分散媒100質量部に対し、0.1〜5質量部が好ましく、0.1〜1.0質量部がさらに好ましい。従って、このような量がアミノシリコーンが添加されるように、アミノシリコーンエマルジョンを用いることが望ましい。
【0032】
<他の添加剤>
処理剤には、アミノシリコーン、アクリル樹脂粒子以外の添加剤を添加することもできる。添加剤は特に限定されないが、例えば、分散剤、界面活性剤、消泡剤、帯電防止剤、難燃剤、酸化防止剤、老化防止剤、香料、着色剤、pH調整剤である。
【0033】
エポキシ変性シリコーン、流動パラフィン等のアミノシリコーン以外の油剤を用いてもよいが、油剤の添加量が多すぎると、べたつきが生じ、人工毛髪の触感が劣るので、他の油剤の添加量はアミノシリコーンの添加量よりも少なくするか、アミノシリコーン以外の油剤を添加しないことが望ましい。
【0034】
アミノシリコーンを架橋させる硬化剤を使用することもできるが、架橋温度が高温(100〜200℃)のものが多く、塩化ビニル系繊維やアクリル系繊維のように、合成繊維の耐熱性が低い場合には適さない。アクリル樹脂粒子が添加された処理剤は、アクリル樹脂粒子によりアミノシリコーンを合成繊維に結着させるため、硬化剤や加熱処理が不要である。
【0035】
<合成繊維>
人工毛髪用の合成繊維としては、種々の合成繊維を採用可能である。特に、塩化ビニル系、アクリル系、ポリエステル系、ポリプロピレン系、ナイロン系、ポリ乳酸系が実用的に使用され、特に塩化ビニル系、アクリル系が好適である。さらに好ましくは、強度、光沢、色相、難燃性、感触、熱収縮性などの特性から塩化ビニル系繊維が好ましい。以下に塩化ビニル系繊維の具体例について説明する。
【0036】
塩化ビニル系繊維は塩化ビニル系樹脂を主成分とする。塩化ビニル系樹脂は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等によって得られたものを使用できるが、単繊維の初期着色性等を勘案して、懸濁重合によって製造したものを使用するのが好ましい。
【0037】
塩化ビニル系樹脂とは、従来公知の塩化ビニルの単独重合物であるホモポリマー樹脂、又は従来公知の各種のコポリマー樹脂であり、特に限定されるものではない。該コポリマー樹脂としては、従来公知のコポリマー樹脂を使用できる。例えば、塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー樹脂、塩化ビニル−プロピオン酸ビニルコポリマー樹脂などの塩化ビニルとビニルエステル類とのコポリマー樹脂;塩化ビニル−アクリル酸ブチルコポリマー樹脂、塩化ビニル−アクリル酸2エチルヘキシルコポリマー樹脂などの塩化ビニルとアクリル酸エステル類とのコポリマー樹脂;塩化ビニル−エチレンコポリマー樹脂、塩化ビニル−プロピレンコポリマー樹脂などの塩化ビニルとオレフィン類とのコポリマー樹脂;塩化ビニル−アクリロニトリルコポリマー樹脂などが代表的に例示される。
【0038】
特に好ましくは、塩化ビニルの単独重合物であるホモポリマー樹脂、塩化ビニル−エチレンコポリマー樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー樹脂などを使用することが好ましい。該コポリマー樹脂において、コモノマーの含有量は、成形加工性、繊維特性などの要求品質に応じて決めることができる。コモノマーの含有量は、好ましくは2〜30質量%であり、特に好ましくは2〜20質量%である。塩化ビニル系樹脂は、上述のものを単独で使用してもよく、また必要に応じて他の機能を付与するため他の樹脂とのブレンド物を使用することもできる。
【0039】
塩化ビニル系樹脂の粘度平均重合度は、500〜2500が好ましく、500〜1800がより好ましい。塩化ビニル系樹脂の粘度平均重合度が500未満だと、溶融粘度が低下して得られる単繊維が熱収縮しやすくなる恐れがある。一方、粘度平均重合度が2500を超えると、溶融粘度が高くなるためノズル圧力が高くなり安全な製造が困難になる恐れがある。塩化ビニル系樹脂は、この粘度平均重合度の範囲内の樹脂を複数ブレンドしたものを使用することも可能である。なお、粘度平均重合度は、樹脂200mgをニトロベンゼン50mlに溶解させ、このポリマー溶液の比粘度を30℃恒温槽中において、ウベローデ型粘度計を用いて測定し、JIS−K6720−2により算出した。
【0040】
合成繊維用の樹脂組成物には、目的に応じて従来公知の添加剤が混合される。例えば、滑剤、相溶化剤、加工助剤、強化剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、充填剤、難燃剤、顔料、初期着色改善剤、導電性付与剤、表面処理剤、光安定剤、香料等がある。
【0041】
人工毛髪の横断面形状は特に限定されず、円形、繭型、Y型、H型、X型から選択される1種又はこれら繊維の混合体であることが好ましい。
【0042】
<塗布方法>
処理剤の塗布は、合成繊維を頭飾製品へ加工する前の段階、頭飾製品で加工する途中の段階、頭飾製品に加工した後の段階のいずれで行ってもよいが、作業効率や付着量の均一性を考慮すると、頭飾製品へ加工する途中の段階で行うことが望ましい。
【0043】
上記合成繊維に、処理剤を付着させる際の塗布方法は特に限定されず、例えば、処理剤を付着させたロールを合成繊維に巻き付ける方法、処理剤を貯めた液体槽に合成繊維を浸す方法、刷毛で処理剤を合成繊維に塗布する方法、処理剤を噴霧して合成繊維に付着させる方法等がある。
【0044】
処理剤を合成繊維に塗布後、必要であれば、ニップローラー等で所定の付着量になるよう脱液を行い、乾燥して人工毛髪とする。乾燥方法は特に限定されず、加熱乾燥機内に設置する方法、温風に曝す方法、自然乾燥等があるが、耐熱性の弱い合成繊維を用いる場合は、100℃未満、より好ましくは70℃未満の低温で乾燥させる。
【0045】
乾燥により余分な溶媒(主分散媒、分散媒)が除去されると、アクリルエマルジョンがアミノシリコーンと共に合成繊維に結着して残るから、アミノシリコーンが合成繊維から離脱しにくく、べたつきが少ない人工毛髪が得られる。
【0046】
上述したように、熱硬化等の熱処理をしなくても、アミノシリコーンが合成繊維に結着するので、塩化ビニル系、アクリル系のように、耐熱性の低い合成繊維を用いることができる。すなわち、上記処理剤を用いる場合は、合成繊維の種類に制限がなく、目的に応じて自由に合成繊維を選択することができる。
【0047】
上記処理剤で合成繊維が処理された人工毛髪は、ウィッグ(かつら)、ヘアピース、ブレード、エクステンンョンヘアー、人形の頭髪等の種々の頭飾製品に用いることができる。また、頭飾製品以外にも付け髭、付け睫毛、付け眉毛等に用いることもできる。これらの製品には、上記処理剤で処理された人工毛髪のみを用いてもよいし、人毛や他の人工毛髪と混合して用いてもよい。
【実施例】
【0048】
水と、アミノシリコーンエマルジョン(吉村油化学株式会社製の商品名「MYシリコーンAS‐50」)と、アクリルエマルジョン(吉村油化学株式会社製の商品名「ユカレジンFH−45」)とを混合し、7種類の処理剤を作成した。これらの処理剤を塩化ビニル樹脂製の合成繊維に塗布、乾燥し、実施例1〜5、比較例1〜2の人工毛髪を作成した。処理剤の配合(質量比)を下記表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
なお、FH−45(ユカレジンFH−45)の配合量は、アクリルエマルジョンとしての配合量である。FH−45は、固形分(アクリル樹脂粒子)50質量%のアクリルエマルジョンであり、アクリル樹脂粒子の質量は、上記表1、FH−45の欄の半分量となる。
【0051】
また、AS−50(MYシリコーンAS−50)の配合量は、アミノシリコーンエマルジョンとしての配合量である。AS−50は、不揮発分(アミノシリコーンオイル濃度)50質量%のアミノシリコーンエマルジョンであり、アミノシリコーンオイルの質量は、上記表1、AS−50の欄の半分量となる。
【0052】
実施例1〜5、比較例1〜2の人工毛髪を用い、「ドライ触感」、「滑り触感」、「櫛通性」の評価試験を行った。試験条件は下記の通りである。評価結果は上記表1に記載した。
【0053】
<ドライ触感・滑り触感>
「触感」は人工毛髪に触れたときの感触であり、人工毛髪用繊維処理技術者(実務経験5年以上)10人の判定により、触感の判定を行った。
【0054】
「ドライ触感」は、技術者全員が、べたつきがなく触感が良いと評価したものを「○」、8人又は9人の技術者が、べたつきがなく触感が良いと評価したものを「△」、7人以下の技術者が、べたつきがなく触感が良いと評価したものを「×」とした。
【0055】
「滑り触感」は、技術者全員が、手触りが滑らかで触感が良いと評価しものを「○」、8人又は9人の技術者が、手触りが滑らかで触感が良いと評価したものを「△」、7人以下の技術者が、手触りが滑らかで触感が良いと評価したものを「×」とした。
【0056】
<櫛通性>
人工毛髪を金属ブラシで10回ハックリングした後、金属ブラシに引っかかって切れた人工毛髪の重量を測定した。切れた繊維の重量%が低いほど、繊維のひっかかりが少なく、ハックリング性が良好である事を表しており、切れた繊維が0.5質量%未満を「○」、切れた繊維が0.5質量%以上1.0質量%未満を「△」、切れた繊維が1.0質量%以上を「×」として評価した。
【0057】
<総合評価>
全ての評価試験で「○」の場合を「◎」、2つの評価試験で「○」の場合を「○」、それ以外を「×」として評価した。
【0058】
<評価結果>
アミノシリコーンエマルジョンを使用しない比較例1は、人工毛髪の表面が乾いた状態で、ドライ触感に優れるものの、人工毛髪全体がぱさつき、滑り触感が悪く、滑り性が劣るゆえに櫛通りも悪かった。アミノシリコーンエマルジョンを使用しても、アクリルエマルジョンを使用しない比較例2は、櫛通性に優れるものの、べたつきが酷く、それゆえに滑り触感も劣る。
【0059】
比較例1、2に比べ、アミノシリコーンエマルジョンとアクリルエマルジョンの両方を用いた実施例1〜5は、ドライ触感、滑り触感のいずれも良好であった。実施例5は、滑り触感に優れるものの、人工毛髪の一部が結着して束になって逆に櫛通りが悪くなった。これに対し、主分散媒100質量部に対するアクリルエマルジョンの量が1.0質量部未満、すなわち、アクリル樹脂粒子の量が0.5質量部未満の実施例1〜4は、人工毛髪が結着して束になることもなく、櫛通性にも優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、人工毛髪用の合成繊維に用いられる処理剤と、それを用いた人工毛髪を提供するものであり、本発明の人工毛髪は、ウィッグ、ヘアピース、ブレード、エクステンンョンヘアー等の頭髪装飾用、または人形の頭髪(ドールヘア)用等の種々の頭飾製品に用いることができる。