特許第5735554号(P5735554)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5735554
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】自己保持型電磁弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/06 20060101AFI20150528BHJP
   F16K 31/08 20060101ALI20150528BHJP
   H01F 7/16 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   F16K31/06 310Z
   F16K31/08
   F16K31/06 360
   H01F7/16 R
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-10377(P2013-10377)
(22)【出願日】2013年1月23日
(65)【公開番号】特開2014-142006(P2014-142006A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2014年5月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000115854
【氏名又は名称】リンナイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111970
【弁理士】
【氏名又は名称】三林 大介
(72)【発明者】
【氏名】浅井 一浩
【審査官】 関 義彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平8−213231(JP,A)
【文献】 特開2004−68970(JP,A)
【文献】 特開平8−191012(JP,A)
【文献】 特開平5−266539(JP,A)
【文献】 米国特許第4690371(US,A)
【文献】 特開2011−179647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/06
H01F 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路を開閉する弁体が一端側に形成されて軸方向に移動可能に設けられた可動鉄心と、該弁体が該流路を閉じる方向に前記可動鉄心を付勢する閉弁バネと、該弁体が該流路を開く方向に前記可動鉄心を引き込む電磁コイルと、該電磁コイルで引き込まれた前記可動鉄心を保持する永久磁石と、前記電磁コイルに駆動電圧を印加する電圧印加部とを備える自己保持型電磁弁において、
前記駆動電圧の電圧波形は、
所定期間に亘って電圧が維持される第1波形部と、
前記第1波形部の電圧が維持される高電圧状態と、該高電圧状態よりも電圧が低い低電圧状態とを、前記所定期間よりも短い周期で繰り返す第2波形部と
を備えていることを特徴とする自己保持型電磁弁。
【請求項2】
請求項1に記載の自己保持型電磁弁において、
前記駆動電圧の電圧波形は、前記第2波形部が、前記第1波形部よりも前に設けられていることを特徴とする自己保持型電磁弁。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の自己保持型電磁弁において、
前記第1波形部の電圧は、前記電磁コイルが発生する磁力で前記永久磁石の磁力を打ち消した残りの磁力が、前記永久磁石で保持されている前記可動鉄心を付勢する前記閉弁バネの付勢力よりも大きな磁力となる電圧に設定されている
ことを特徴とする自己保持型電磁弁。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか一項に記載の自己保持型電磁弁において、
前記第2波形部の前記低電圧状態の電圧が、接地電圧に設定されている
ことを特徴とする自己保持型電磁弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁コイルに通電して開閉状態を切り換えた後、通電を停止しても切り換え後の開閉状態を維持することが可能な電磁弁(自己保持型電磁弁)に関する。
【背景技術】
【0002】
自己保持型電磁弁は、開弁状態/閉弁状態の切り換え時には電磁コイルに通電する必要があるが、切り換え完了後は電流を流し続けなくてもその状態を保持しておくことができるという優れた特性を有している。このため、電力消費を抑制することが可能であり、特に電池を用いて動作させる電磁弁として広く使用されている。
【0003】
この自己保持型電磁弁は、次のような原理によって動作する。先ず、中空形状に形成された電磁コイルに通電すると、閉弁バネによって付勢されていた可動鉄心が電磁コイルに引き込まれて、可動鉄心の端部に設けられた弁体が開弁する。またこの時、可動鉄心の反対側の端部が、電磁コイルの中心軸上に設けられた固定鉄心に接触して、固定鉄心を介して永久磁石によって磁着される。このため、その後は電磁コイルへの通電を停止しても、可動鉄心が電磁コイルに引き込まれた状態(開弁状態)を保持することができる。
【0004】
一方、開弁状態が保持されている状態で、上述の開弁時とは逆方向の電流を電磁コイルに通電すると、電磁コイルは永久磁石の磁力を打ち消す方向の磁力を発生させる。このため、永久磁石が可動鉄心を磁着する力が弱められ、固定鉄心に接触していた可動鉄心の端部が閉弁バネの付勢力によって引き剥がされて、可動鉄心の他端側に設けられた弁体が弁座に押し付けられて自己保持型電磁弁が閉弁する。その後は、電磁コイルの通電を停止しても、閉弁バネの付勢力によって弁体が弁座に押し付けられた状態(閉弁状態)が保持される。
【0005】
自己保持型電磁弁は以上のような原理によって動作する関係上、閉弁時に電磁コイルが発生する磁力が大きすぎると、永久磁石の磁力を打ち消した残りの磁力で、電磁コイルが可動鉄心を引き付けようとする。そして、この残りの磁力が閉弁バネの付勢力を上回ると、今度は電磁コイルの磁力で可動鉄心の端部が固定鉄心に磁着したままの状態となってしまい、電磁弁を閉弁させることができなくなる。そこで、電磁弁を確実に閉弁させるために、閉弁時には、電磁コイルに印加する電圧を所定の上限電圧以下に設定した自己保持型電磁弁が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−63060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記の提案されている自己保持型電磁弁は、閉弁時に電磁コイルに印加する電圧が低めに設定される関係上、電池が消耗してくると閉弁時に電磁コイルに印加する電圧が低下して、電磁弁を閉弁させることが困難になるという問題があった。
【0008】
この発明は従来の技術における上述した課題に対応してなされたものであり、電池が消耗しているか否かに拘わらず閉弁させることが可能な自己保持型電磁弁の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために本発明の自己保持型電磁弁は次の構成を採用した。すなわち、
流路を開閉する弁体が一端側に形成されて軸方向に移動可能に設けられた可動鉄心と、該弁体が該流路を閉じる方向に前記可動鉄心を付勢する閉弁バネと、該弁体が該流路を開く方向に前記可動鉄心を引き込む電磁コイルと、該電磁コイルで引き込まれた前記可動鉄心を保持する永久磁石と、前記電磁コイルに駆動電圧を印加する電圧印加部とを備える自己保持型電磁弁において、
前記駆動電圧の電圧波形は、
所定期間に亘って電圧が維持される第1波形部と、
前記第1波形部の電圧が維持される高電圧状態と、該高電圧状態よりも電圧が低い低電圧状態とを、前記所定期間よりも短い周期で繰り返す第2波形部と
を備えていることを特徴とする。
【0010】
かかる本発明の自己保持型電磁弁においては、第1波形部では所定期間に亘って電圧が維持されるので、電圧が維持されている間に電磁コイルには、印加された電圧に応じて大きな電流が流れるようになる。これに対して第2波形部では、所定期間よりも短い周期で高電圧状態と低電圧状態とが繰り返されるので、電磁コイルに流れる電流は増減を繰り返すこととなって、第1波形部のような大きな電流が電磁コイルに流れることはない。そして、電磁コイルが発生する磁力は電磁コイルを流れる電流に比例するので、第1波形部では大きな磁力が発生し、第2波形部では第1波形部よりも小さな磁力が発生する。このため、電池が消耗していない場合には、小さな磁力が発生する第2波形部で閉弁するようにしておけば、電池の消耗が進んで駆動電圧が低下した場合でも、大きな磁力が発生する第1波形部で自己保持型電磁弁を閉弁させることが可能となる。
【0011】
また、上述した本発明の自己保持型電磁弁においては、駆動電圧の第2波形部を、第1波形部よりも前に設けることとしてもよい。
【0012】
自己保持型電磁弁の可動鉄心は、使用中に異物などの付着によって動きにくくなることがある。しかし、第2波形部では高電圧状態と低電圧状態とが短い周期で繰り返されるので、可動鉄心が連続的に振動し、その結果、可動鉄心を動き易い状態に回復させることができる。このことから、第2波形部を印加した後に第1波形部を印加するようにすれば、たとえ異物の付着などで可動鉄心が動きにくくなっていた場合でも第2波形部で動きを良くしておくことができるので、第1波形部で自己保持型電磁弁を確実に閉弁させることが可能となる。
【0013】
尚、上述した自己保持型電磁弁とは逆に、駆動電圧の第1波形部を、第2波形部よりも前に設けた場合には、次のような効果を得ることができる。すなわち、電池の消耗が進んでくると、一回分の駆動電圧を印加している間に電圧が低下してしまうことが起こり得る。このような場合でも、電池の消耗が進んだ時に閉弁させる第1波形部を第2波形部より前に設けておけば、駆動電圧が低下する前に第1波形部で自己保持型電磁弁を閉弁させることができる。また、電池が消耗していない場合は、第2波形部よりも前に第1波形部が設けられていても、第1波形部で駆動電圧が低下することはないので、第2波形部で確実に自己保持型電磁弁を閉弁させることができる。
【0014】
また、上述した本発明の自己保持型電磁弁においては、第1波形部で維持される電圧を、次のような電圧としてもよい。すなわち、電磁コイルが発生する磁力で永久磁石の磁力を打ち消した残りの磁力が、永久磁石で保持されている可動鉄心を付勢する閉弁バネの付勢力よりも大きな磁力となるような電圧に、第1波形部の電圧を設定してもよい。
【0015】
こうすれば、電池が消耗していない間は第1波形部で電磁コイルが発生する磁力で可動鉄心を引き付けてしまうので、第1波形部では自己保持型電磁弁を閉弁させることはできないが、その後の第2波形部では電磁コイルの磁力が小さくなるので、閉弁バネの付勢力で閉弁させることができる。また、電池の消耗が進んだ場合には、第1波形部で印加される電圧が低下して電磁コイルの磁力が低下するので、第1波形部で自己保持型電磁弁を閉弁させることができる。このため、電池の消耗の程度に拘わらず、自己保持型電磁弁を閉弁させることが可能となる。
【0016】
また、上述した本発明の自己保持型電磁弁においては、第2波形部で低電圧状態となった時の電圧を、接地電圧に設定してもよい。
【0017】
こうすれば、第1波形部で印加する電圧を生成するだけで、第2波形部の高電圧状態と低電圧状態とを発生させることができる。このため、電磁コイルに駆動電圧を印加する電圧印加部の回路構成を簡単にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施例のラッチ弁100の内部構造および動作原理についての説明図である。
図2】ラッチ弁100を閉弁させるための電圧が、所定の電圧範囲内に制限される理由を示す説明図である。
図3】電磁コイル102に印加される駆動電圧の電圧波形を示した説明図である。
図4】本実施例の電圧波形を用いれば、電池の消耗の程度に拘わらずラッチ弁100を閉弁させることが可能な理由を示す説明図である。
図5】第1変形例の駆動電圧の電圧波形を例示した説明図である。
図6】第2変形例の駆動電圧の電圧波形を例示した説明図である。
図7】第3変形例の駆動電圧の電圧波形を例示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本実施例の自己保持型電磁弁(以下、ラッチ弁)100の内部構造および動作原理を示した説明図である。図1(a)には、閉弁状態のラッチ弁100の断面図が示されており、図1(b)には開弁状態のラッチ弁100の断面図が示されている。先ず始めに、図1(a)を参照しながら、ラッチ弁100の大まかな内部構造について説明する。
【0020】
図1(a)に示されるようにラッチ弁100は、電線を巻回して中空の略円柱形状に形成された電磁コイル102と、電磁コイル102の中心軸内に摺動可能な状態で挿入された可動鉄心104と、電磁コイル102の中心軸内で可動鉄心104よりも上方に固定された固定鉄心106と、固定鉄心106の上端に接触させて設けられた円板形状の永久磁石108と、可動鉄心104の下端に取り付けられた弁体110と、可動鉄心104を電磁コイル102の中心軸内から引き出す方向に付勢する閉弁バネ112と、電磁コイル102に駆動電圧を印加する電圧印加部114とを備えている。また、弁体110に対抗する位置には、流路200の開口部202が設けられており、図1(a)に示したラッチ弁100の閉弁状態では、閉弁バネ112で付勢された弁体110によって開口部202が塞がれて、流路200が閉じた状態となっている。
【0021】
このような構造のラッチ弁100は、次のように動作する。先ず、図1(a)に示した閉弁状態で、電圧印加部114から電磁コイル102に正方向の駆動電圧を印加する。ここで「正方向の電圧」とは、電磁コイル102が発生する磁力の向きが、永久磁石108の磁力の向きと同じになるような方向の電圧である。すると、閉弁バネ112によって付勢されていた可動鉄心104が、電磁コイル102の磁力によって引き上げられ、その結果、弁体110が流路200の開口部202から離れてラッチ弁100が開弁状態となる(図1(b)参照)。
【0022】
また、電磁コイル102によって可動鉄心104が引き上げられると、可動鉄心104の上端が固定鉄心106の下端に当接する。すると、永久磁石108の磁力が固定鉄心106を介して可動鉄心104に効率よく作用するようになり、永久磁石108の磁力で可動鉄心104が固定鉄心106に磁着される。こうして可動鉄心104が磁着された後は、電圧印加部114から電磁コイル102への通電を停止しても、図1(b)に示したように可動鉄心104が引き上げられた状態(開弁状態)が保持される。
【0023】
一方、永久磁石108の磁力で可動鉄心104が引き上げられた状態で、電圧印加部114から電磁コイル102に負方向の駆動電圧を印加する。ここで「負方向の電圧」とは、電磁コイル102が発生する磁力の向きが、永久磁石108の磁力の向きと逆になるような方向の電圧である。すると、永久磁石108の磁力が電磁コイル102の磁力によって打ち消されるため、閉弁バネ112の付勢力に抗して可動鉄心104を磁着しておくことができなくなる。その結果、固定鉄心106に磁着されていた可動鉄心104の上端が、閉弁バネ112の付勢力によって固定鉄心106から引き離されて、可動鉄心104の下端の弁体110が流路200の開口部202に押しつけられた状態(閉弁状態)となる。こうしてラッチ弁100が閉弁状態となった後は、電磁コイル102への通電を停止しても、閉弁バネ112の付勢力によって閉弁状態が保持される(図1(a)参照)。
【0024】
以上のようなラッチ弁100の動作原理から、開弁状態から閉弁状態に切り換える際に電磁コイル102に印加する駆動電圧は、所定の電圧範囲内であることが必要となり、この範囲外の駆動電圧を印加してもラッチ弁100を閉弁させることができなくなる。この点について、図2を用いて説明する。
【0025】
図2には、開弁状態のラッチ弁100で電磁コイル102に流す電流(以下、コイル電流)をゆっくりと増加させた時に、可動鉄心104に作用する磁着力(可動鉄心104を固定鉄心106に磁着させておく力)が変化する様子が示されている。尚、コイル電流は、電磁コイル102の抵抗Rを乗算することによって、電磁コイル102に印加するべき駆動電圧に読み替えることができる。
【0026】
周知のように、電磁コイル102が発生する磁力はコイル電流に比例する。また、前述したように、ラッチ弁100が開弁状態にある時には、電磁コイル102に負方向の駆動電圧が印加されるので、電磁コイル102が発生する磁力の向きは、永久磁石108の磁力を打ち消す方向となる。従って、図2に白抜きの丸印で示したように、コイル電流が「0」の場合は、永久磁石108による磁着力だけが可動鉄心104に作用しているが、コイル電流を増加させると、図2に実線で示したように、電磁コイル102の磁力によって永久磁石108の磁力が弱められて、可動鉄心104に作用する磁着力が直線的に減少して行く。そして、電磁コイル102の磁力が永久磁石108の磁力と等しくなった時点で、可動鉄心104に作用する磁着力が「0」となる。その状態から更にコイル電流を増加させると、電磁コイル102の磁力が永久磁石108の磁力を上回ることとなって、今度は電磁コイル102による磁着力が可動鉄心104に作用するようになる。その結果、それ以降は、図2に破線で示したように、コイル電流を増加させるに従って可動鉄心104に作用する磁着力が直線的に増加していく。
【0027】
また、可動鉄心104には、固定鉄心106から可動鉄心104を引き離す方向に、閉弁バネ112の付勢力も作用している。この付勢力の大きさは、可動鉄心104の位置によって決まるから、ラッチ弁100が開弁状態(可動鉄心104の上端が固定鉄心106に当接した状態)にある間は一定と考えて良い。図2では、閉弁バネ112による付勢力が一点鎖線で示されている。当然ながら、開弁状態にあるラッチ弁100を閉弁させるためには、閉弁バネ112の付勢力が、可動鉄心104に作用する磁着力を上回る必要がある。結局、閉弁時のコイル電流は、図2に示した下限電流値Imin から上限電流値Imax の範囲内になければならない。そして、そのためには、電磁コイル102の抵抗Rを考慮すると、電磁コイル102に印加する駆動電圧は下限電圧値Vmin (=R・Imin )から上限電圧値Vmax (=R・Imax )の電圧範囲内としておくことが必要となる。
【0028】
もっとも、この電圧範囲内に駆動電圧を制限したのでは、電池が消耗したときに駆動電圧が電圧範囲内から外れてしまい、ラッチ弁100を閉弁させることができなくなる。そこで本実施例では、電池が消耗した場合でもラッチ弁100を閉弁可能とするために、以下のような電圧波形の駆動電圧を電磁コイル102に印加する。
【0029】
図3は、本実施例で電磁コイル102に印加される駆動電圧の電圧波形を示した説明図である。図示されるように、本実施例の駆動電圧の電圧波形は、第1波形部と第2波形部とを備えており、第1波形部では時間T0に亘って駆動電圧が電圧値Vaに維持される。これに対して第2波形部では、駆動電圧が接地電圧Voに低下する低電圧状態と、駆動電圧が第1波形部と同じ電圧値Vaに上昇する高電圧状態とが、時間T0よりも短い周期(T1+T2)で繰り返される。尚、図3に示した例では、第2波形部で駆動電圧が接地電圧Voとなっている時間T1と、電圧値Vaとなっている時間T2とが同じ長さに設定されているが、時間T1と時間T2とを異なる長さに設定しても良い。また、第1波形部(および第2波形部の高電圧状態)での電圧値Vaは、図2を用いて前述した上限電圧値Vmax (=R・Imax )よりも高い値に設定されている。このような電圧波形とすることで、電池の消耗の程度に拘わらず、ラッチ弁100を閉弁させることが可能となる。
【0030】
図4は、本実施例の電圧波形の駆動電圧を印加することで、電池の消耗の程度に拘わらずラッチ弁100を閉弁させることが可能な理由を示す説明図である。先ず始めに、図4(a)を参照して、電池が全く消耗していない場合について説明する。図4(a)には、電池が全く消耗していない場合に、図3の電圧波形の駆動電圧を印加することによって電磁コイル102に流れるコイル電流が示されている。図示されるように第1波形部の電圧値Vaが印加されると、コイル電流が速やかに増加していき、やがて、電流値Ia(=Va/R)で一定となる。尚、Rは電磁コイル102の抵抗値である。ここで、第1波形部の電圧値Vaが印加されても、直ちにはコイル電流が電流値Iaに達していないのは、電磁コイル102には、コイル電流の変化を妨げようとする方向の逆起電力を発生させる作用があるためである。すなわち、第1波形部の電圧値Vaが印加されると電磁コイル102には急激にコイル電流が流れようとするが、その電流増加を妨げる方向の逆起電力が電磁コイル102に発生する。このため、第1波形部で電圧値Vaの駆動電圧が電磁コイル102に印加されても、コイル電流が直ちに電流値Ia(=Va/R)に増加することはなく、電流値Iaに向かってゆっくりと増加していく。
【0031】
その後、電圧波形が第2波形部に入ると、駆動電圧は、接地電圧Voと電圧値Vaとを繰り返すが(図3参照)、この時のコイル電流の動きは次のようなものとなる。先ず、駆動電圧が電圧値Vaから接地電圧Voに切り換わると、コイル電流は急激に減少しようとするが、電磁コイル102にはこのコイル電流の減少を妨げる方向の逆起電力が発生する。その結果、コイル電流は電流値0に向かってゆっくりと減少していく。しかし、コイル電流が電流値0に達する前に、駆動電圧が接地電圧Voから電圧値Vaに切り換わるので、今度は、コイル電流が電流値Iaに増加しようとする。すると、電磁コイル102にはその電流増加を妨げる方向の逆起電力が発生するため、コイル電流は電流値Iaに向かってゆっくりと増加していく。ところが、コイル電流が増加している途中で、駆動電圧が電圧値Vaから接地電圧Voに切り換わるので、コイル電流は再び減少しようとするが、その時にも電磁コイル102に逆起電力が発生するのでコイル電流はゆっくりと減少する。このように第2波形部では、駆動電圧が接地電圧Voの期間ではコイル電流が減少し、減少の途中で駆動電圧が電圧値Vaに切り換わってコイル電流の減少が増加に転じ、増加の途中で駆動電圧が接地電圧Voに切り換わってコイル電流の増加が減少に転じる動作を繰り返すことになる。そして、第2波形部を終了して駆動電圧の印加が停止されると、コイル電流は電流値が0になるまでゆっくりと減少していく。
【0032】
ここで、電圧値Vaは、図2を用いて前述した上限電圧値Vmax よりも高い値に設定されているので、第1波形部でコイル電流が一定となる電流値Iaは、上限電流値Imax を超えてしまう。このため、第1波形部でラッチ弁100を閉弁させることができるのは、コイル電流が電流値Iaに向かって増加する際に、下限電流値Imin から上限電流値Imax の電流範囲を通過する僅かな期間だけとなる。これに対して第2波形部でのコイル電流は、電流値0に向かって減少する途中で増加に転じ、電流値Iaに向かって増加する途中で減少に転じる動作を繰り返すため、第2波形部のほとんどの期間で、コイル電流が下限電流値Imin から上限電流値Imax までの電流範囲内に存在することとなる。このため、電池が消耗していない状態では、駆動電圧の主に第2波形部でラッチ弁100を閉弁させることができる。
【0033】
図4(b)には、電池の消耗が進んだ場合に、電磁コイル102に印加される駆動電圧と、電磁コイル102に流れるコイル電流とが示されている。消耗が進んだ電池は、発生する電圧が規定の電圧値よりも低下してしまうので、電池の消耗が進むと、第1波形部の電圧および第2波形部の高電圧状態での電圧が、本来の電圧値(電圧値Va)よりも低くなってしまう。これに伴って、電磁コイル102に流れるコイル電流も、本来の電流値よりも低くなる。しかし、上述したように第1波形部でのコイル電流は、電池が消耗していない場合に、上限電流値Imax よりも高い電流値Iaで一定となるように設定されている。このため電池の消耗が進むと、第1波形部のコイル電流が、上限電流値Imax よりも低い電流値で一定となるようになる。このため、電池の消耗が進んだ状態では、第1波形部でのコイル電流が下限電流値Imin を下回らない限り、駆動電圧の第1波形部でラッチ弁100を閉弁させることが可能となる。
【0034】
加えて、図3に示したように、第1波形部を第2波形部よりも前に設けた場合には、次のような効果も得ることができる。すなわち、大きく消耗が進んだ電池では、電池の規定電圧よりも低い電圧でさえも、長い時間は維持することが困難となる。このため、たとえば図4(b)に示したように、電圧波形を出力している途中(図示した例では第2波形部)で駆動電圧が少しずつ低下することが起こり得る。しかし、図3に示した電圧波形は、第1波形部が第2波形部よりも前にあるので、このような電圧低下の影響を受けることなくラッチ弁100を閉弁させることができる。
【0035】
以上に説明したように、電磁コイル102に印加する駆動電圧の電圧波形を、図3に示す電圧波形としてやれば、電池が消耗していない間は主に第2波形部でラッチ弁100を閉弁させ、電池が消耗してくると主に第1波形部でラッチ弁100を閉弁させることができるので、電池の消耗の程度に拘わらず、ラッチ弁100を確実に閉弁させることが可能となる。
【0036】
尚、上述した実施例では、第2波形部で低電圧状態(接地電圧Vo)となる期間は、常に時間T1であるものとして説明した。しかし、図5に示されるように、第1波形部から第2波形部に切り換わって最初に低電圧状態となる期間については、時間T1よりも長い時間T3としてもよい。このような第1変形例の電圧波形を用いれば、第2波形部でより確実にラッチ弁100を閉弁させることができるようになり、第2波形部の期間を短縮して電力消費を抑制することが可能となる。これは、次のような理由による。
【0037】
前述した図4(a)の第2波形部でのコイル電流の変化を詳しく観察すると、第1波形部から第2波形部に切り換わった直後では、増減するコイル電流が全体として高めとなっており、その後、コイル電流は増減を繰り返しながら少しずつ低下して、最終的には安定した値で増減を繰り返す状態となっている。コイル電流がこのような挙動を示すのは、第1波形部でコイル電流が安定する電流値Iaが、第2波形部でコイル電流が安定して増減を繰り返す電流値よりも高いので、コイル電流を全体的に低下させるために時間がかかっていることによる。
【0038】
そこで、図5に示すように、第2波形部に切り換わった最初の低電圧状態の期間の長さ(時間T3)を、その後の低電圧状態の期間の長さ(時間T1)よりも若干長くしてやる。こうすれば、第1波形部から第2波形部に切り換わった最初の低電圧状態でのコイル電流の低下量を大きくすることができるので、第2波形部でコイル電流が安定して増減を繰り返す状態に速やかに移行させることができる。このため、実質的な第2波形部の時間が長くなるので、その分だけ第2波形部の時間を短縮することができ、その結果、電力消費を抑制することが可能となる。
【0039】
また、上述した実施例および変形例では、第2波形部の低電圧状態では駆動電圧が接地電圧Voに設定されているものとして説明した。しかし、第2波形部の低電圧状態の駆動電圧は、第1波形部の電圧値Vaよりも低い電圧であれば良く、必ずしも接地電圧Voでなくても構わない。
【0040】
図6は、このような第2変形例の駆動電圧の電圧波形を例示した説明図である。図示した第2変形例では、第2波形部の低電圧状態の駆動電圧が、接地電圧Voよりも高い電圧値Vbに設定されている。このようにすると、第2波形部での駆動電圧の変動幅が小さくなるので、電磁コイル102に流れるコイル電流の変動幅も小さくなる。その結果、第2波形部でのコイル電流を、下限電流値Imin から上限電流値Imax までの間に収まり易くなるので、駆動電圧の第2波形部でラッチ弁100を確実に閉弁させることが可能となる。
【0041】
また、上述した実施例および変形例では、第1波形部の後に第2波形部が設けられているものとして説明した。しかし、第1波形部と第2波形部とは必ずしもこの順序である必要はなく、図7に例示したように、第2波形部の後に第1波形部を設けることもできる。
【0042】
図3に示したように第2波形部では高電圧状態と低電圧状態とが短い周期で繰り返されるので、このような駆動電圧が電磁コイル102に印加されると、可動鉄心104が連続的に振動する。このため、異物が付着するなどして可動鉄心104が動きにくくなった(あるいは固着した)場合でも、可動鉄心104を動き易い状態に回復させることができる。このことから、第2波形部を印加した後に第1波形部を印加するような電圧波形の駆動電圧を用いれば、たとえ異物の付着などで可動鉄心104が動きにくくなっていた場合でも、第2波形部で可動鉄心104を動き易い状態にした後に第1波形部でラッチ弁100を閉弁させることが可能となる。
【0043】
以上、本実施例および変形例のラッチ弁100について説明したが、本発明は上記の実施例および変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【0044】
たとえば、上述した実施例および変形例では、第1波形部の後に第2波形部が設けられているものとして説明した。しかし、第2波形部は必ずしも第1波形部の後に設ける必要はなく、第1波形部の前に第2波形部を設けることも可能である。
【符号の説明】
【0045】
100…ラッチ弁、 102…電磁コイル、 104…可動鉄心、
106…固定鉄心、 108…永久磁石、 110…弁体、
112…閉弁バネ、 114…電圧印加部、 200…流路、
202…開口部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7