特許第5735615号(P5735615)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5735615免疫学的測定における感度増強方法及びそのための試薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5735615
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】免疫学的測定における感度増強方法及びそのための試薬
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20150528BHJP
   G01N 33/553 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   G01N33/543 581D
   G01N33/553
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-261374(P2013-261374)
(22)【出願日】2013年12月18日
(62)【分割の表示】特願2010-518932(P2010-518932)の分割
【原出願日】2009年7月3日
(65)【公開番号】特開2014-52390(P2014-52390A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2013年12月19日
(31)【優先権主張番号】特願2008-175816(P2008-175816)
(32)【優先日】2008年7月4日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2008-175817(P2008-175817)
(32)【優先日】2008年7月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】山本 光章
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 明子
【審査官】 海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−090271(JP,A)
【文献】 特開2004−061263(JP,A)
【文献】 特開2001−292795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料中の測定対象物質を抗原抗体反応を用いて測定する免疫学的測定方法において、カリックス(8)アレーン、カリックス(6)アレーン、及びβ−シクロデキストリンから選ばれる大環状化合物の存在下に、抗体を感作した不溶性担体を用いたラテックス凝集法又は金属コロイド凝集法による免疫反応を行うことを特徴とする免疫学的測定における感度増強方法。
【請求項2】
測定対象物質が蛋白抗原である請求項1記載の方法。
【請求項3】
測定対象物質が可溶性フィブリン又はリポ蛋白(a)である請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
カリックスアレーン類の反応系における終濃度が0.005mM〜4mMである請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
生体試料中の測定対象物質を抗原抗体反応を用いて測定する免疫学的測定方法に使用される試薬であって、カリックス(8)アレーン、カリックス(6)アレーン、及びβ−シクロデキストリンから選ばれる大環状化合物を主成分とする感度増強剤を含有し、抗体を感作した不溶性担体を用いたラテックス凝集法又は金属コロイド凝集法に使用されることを特徴とする免疫学的測定用試薬。
【請求項6】
測定対象物質が蛋白抗原である請求項5記載の免疫学的測定用試薬。
【請求項7】
測定対象物質が可溶性フィブリン又はリポ蛋白(a)である請求項5又は6記載の免疫学的測定用試薬。
【請求項8】
カリックスアレーン類の反応系における終濃度が0.005mM〜4mMである請求項5〜7のいずれか1項記載の免疫学的測定用試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は免疫学的測定における感度増強方法又はヘモグロビンの影響回避方法及びそのための試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体試料中の微量物質を測定するために免疫反応を利用する測定方法が広く用いられている。免疫学的測定方法としては、RIA法、EIA法、免疫比濁法、ラテックス凝集法、金属コロイド凝集法、イムノクロマト法等多くの方法がある。その中でもラテックス凝集法や金属コロイド凝集法は反応液の分離や洗浄を行わないため、自動化に適しており汎用されている。免疫学的測定では、一般に、測定する生体試料中の被測定物質濃度に応じた方法の使い分けがされている。ラテックス凝集法や金属コロイド凝集法は免疫比濁よりも微量物質の測定が行えるが、RIA法やEIA法ほどの微量物質の測定は行うことができない。何れの免疫学的測定方法においても、反応系の微量化や測定時間の短縮が望まれており、測定感度を増強させることが重要な課題である。
【0003】
測定感度を増強させる技術としては、ポリエチレングリコールやデキストラン等の水溶性多糖類を反応系に添加する技術が知られている(特許文献1及び2)。しかしながら、これらの添加剤は、分子量分布を有し、単一化合物ではないため、安定した感度増強効果が得られない、等の欠点があった。
【0004】
また、何れの免疫学的測定方法においても、目的とする抗原抗体反応以外に試料中の種々の夾雑物質との非特異反応による凝集や吸着が生じ、測定精度が低下するという問題がある。特に血漿等の生体由来の試料を用い、該試料中に赤血球由来のヘモグロビンが含まれる場合には、免疫学的測定における測定値にヘモグロビンが影響を与えることがある。しかし、溶血の度合いは検体によって異なる為、正確な測定値を得ることができないことから、その影響を回避する方法を講じることが必要である。
【0005】
従来から、ヘモグロビンの影響を回避する方法として、界面活性剤を添加する方法(特許文献3)等が考案されている。しかし、免疫学的測定方法において、界面活性剤を添加する方法では測定感度が低下し、対象物質を精度良く測定することができないという問題がある。
また、特許文献4には、抗ヒトCRPウサギ血清を用いたヒト血清中のCRPの免疫学的測定方法において、多価フェノールを添加することにより、補体成分による非特異反応を抑制できることが記載され、具体例として硫酸カリックス(6)アレーンを5mM添加することにより補体等による非特異反応が抑制できたことが記載されている。しかし、この特許文献4には、ヒト血清を試料とし、抗ヒトCRPウサギ血清を用いてCRPを測定する場合における補体の影響に対するカリックスアレーン類の作用が記載されているだけであり、カリックスアレーン類が感度に対してどのような作用をするか、また、ヘモグロビンの影響に対する効果については全く記載されていない。更に、測定対象抗原又は抗体を、当該抗原に対する抗体又は当該抗体に対する抗原を感作した不溶性担体(例えばラテックス粒子)を用いて測定する方法については何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58−047256号公報
【特許文献2】特開昭59−220646号公報
【特許文献3】特開昭60−168050号公報
【特許文献4】特開2000−329764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、測定対象の免疫学的測定における感度増強方法及び感度が増強した免疫学的測定用試薬を提供することにある。
【0008】
また、本発明の課題は、血漿等の生体由来試料中の測定対象物質を免疫学的測定法を用いて測定する系におけるヘモグロビンの影響を回避する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者らは、免疫反応における測定の感度増強方法について検討してきたところ、全く意外にも、反応系にカリックスアレーン類等の大環状化合物を添加した場合、反応系での終濃度5mMでは試薬ブランク値が異常となってしまい、測定対象物質の濃度依存的な測定感度の増強が認められないにもかかわらず、反応系での終濃度0.005〜4mMという低濃度では、測定感度の増強が認められることから、測定対象物質濃度が低濃度の試料を用いた場合であっても正確に測定できることを見出した。また、反応系中に大環状化合物を添加した場合、試料中のヘモグロビンの影響を回避でき、測定対象物質濃度が低濃度であっても正確に測定できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、生体試料中の測定対象物質を抗原抗体反応を用いて測定する免疫学的測定方法において、大環状化合物の存在下に反応を行うことを特徴とする免疫学的測定における感度増強方法又はヘモグロビンの影響回避方法を提供するものである。
また、本発明は、試料中の測定対象物質を抗原抗体反応を用いて測定する免疫学的測定方法において、大環状化合物を主成分とする感度増強剤又はヘモグロビンの影響回避剤を含有することを特徴とする免疫学的測定用試薬を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、測定対象物質の測定感度が増強するので、測定対象物質の濃度が低い試料を用いた場合であっても正確な測定が可能となる。また、本発明の免疫学的測定方法によれば、生体由来試料中のヘモグロビンの影響が回避できるので、該試料がヘモグロビンを含有する場合であっても正確な測定が可能となる。また、前記大環状化合物(例えばカリックスアレーン類やシクロデキストリン等)は、単一化合物として入手可能であるから、ロット間の差がなく、安定した測定精度の向上効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の方法における試料は、生体試料が好ましく、特に赤血球や赤血球由来のヘモグロビンが存在する可能性のある生体由来試料が好ましい。例えば、髄液、涙液、組織液、血液、血漿、および血清などが挙げられる。このうち、血液由来試料、すなわち血液、血漿、および血清などの場合は、ヘモグロビンを含む場合が多く、特に有用である。
【0013】
本発明において、免疫学的測定方法としては、測定対象物質と当該対象物質と抗原抗体反応が可能な物質との抗原抗体反応を使用した免疫学的測定方法であれば特に限定されない。例えば、免疫拡散法(SRID法)、免疫比濁法、赤血球凝集法、ラテックス凝集法や金属コロイド凝集法、RIA法、EIA法が挙げられる。中でも、ラテックス凝集法や金属コロイド凝集法は、測定感度が高く、汎用の自動分析装置への適用など、自動化にも適しており好ましい。特に、抗体を感作した不溶性担体を用いる方法がより好ましい。
該不溶性担体としては、有機高分子粒子、無機物質粒子、赤血球などが挙げられる。有機高分子粒子としては、不溶性アガロース、セルロース、不溶性デキストランなどの粒子が例示でき、好ましくはラテックス粒子が良い。該ラテックス粒子としては、例えばポリスチレン、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、スチレン−スチレンスルホン酸塩共重合体、メタクリル酸重合体、アクリル酸重合体、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、塩化ビニル−アクリル酸エステル共重合体、ポリ酢酸ビニルアクリレートなどの粒子が挙げられる。さらには、種々の変性ラテックス(例えば、カルボン酸変性ラテックス)等を必要に応じて用いてもよい。用いるラテックス粒子の平均粒径は、測定機器などによって0.05〜0.50μmのものが適宜選択される。無機物質粒子としてはシリカ、アルミナなどが挙げられる。
【0014】
本発明の方法における測定対象物質としては、免疫学測定方法で測定される物質であれば特に限定されず種々の物質、例えば,抗原、ハプテン、抗体、ホルモン、薬剤等が挙げられる。中でも、抗原を測定対象物質とするものが好ましく、蛋白抗原がより好ましい。具体的には、例えば、CRP、フィブリン及びフィブリノーゲン分解産物、Dダイマー、可溶性フィブリン(SF)、リポ蛋白(a)(Lp(a))、マトリックスメタロプロテアーゼ−3(MMP−3)、前立腺特異抗原(PSA)、IgG、IgA、IgM、IgE、IgD、抗ストレプトリジンO、リウマチ因子、トランスフェリン、ハプトグロビン、α1−アンチトリプシン、α1−アシドグリコプロテイン、α2−マクログロブリン、ヘモペキシン、アンチトロンビン−III、α−フェトプロテイン、CEA(カルシノエンブリオニツク抗原)、フェリチン、HBs−Ag(B型肝炎外被抗原)、Anti−HBs(抗B型肝炎外被抗体)、HBe−Ag(B型肝炎e抗原)、Anti−HBe(抗B型肝炎e抗体)、Anti−HBc(抗B型肝炎コア抗体)などを挙げることができる。中でもCRP、フィブリン及びフィブリノゲン分解産物、Dダイマー、SF、Lp(a)、MMP−3、PSAなどが好ましい。しかし、これらに限定されるものではない。
【0015】
上記測定対象物質と抗原抗体反応しうる物質(以下、免疫反応物質という)としては、測定対象物質が抗原やハプテン等の場合は、その抗体が用いられ、測定対象物が抗体の場合にはその抗原が用いられる。免疫反応物質としての抗原及び抗体は慣用の方法にて調製することができる。また、抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれでもよく、さらに、Fab画分、F(ab’)2画分などであってもよい。
【0016】
本発明で使用される大環状化合物は、その分子内孔に金属イオンや無機物、有機物などの取り込みを可能とする機能分子である。該大環状化合物としては特に限定されず、各種のものを用いることができる。例えば、カリックスアレーン類、シクロデキストリン、クラウンエーテル等を用いることができる。また、これらの誘導体や修飾体も用いることができる。中でも、疎水性分子を包接しやすい空孔を有するが、少なくとも4残基の親水性官能基を有するものが好ましい。該親水性官能基としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホン酸基などが挙げられる。特に好ましい該大環状化合物としては、例えばカリックスアレーン類やシクロデキストリン等が挙げられる。
【0017】
カリックスアレーン類は、フェノールを基本骨格とし、フェノールの3〜20分子、好ましくは4〜8分子をメチレン基で環状に重合させた環状オリゴマーである。カリックスアレーン類としては特に制限されず、各種のものを使用することができる。例えば、カリックス(4)アレーン、カリックス(6)アレーン、カリックス(8)アレーン、カリックス(4)アレーンスルホン酸、カリックス(6)アレーンスルホン酸、カリックス(8)アレーンスルホン酸、カリックス(4)アレーン酢酸、カリックス(6)アレーン酢酸、カリックス(8)アレーン酢酸、カリックス(4)アレーンカルボン酸、カリックス(6)アレーンカルボン酸、カリックス(8)アレーンカルボン酸、カリックス(4)アレーンアミン、カリックス(6)アレーンアミン、カリックス(8)アレーンアミン、それらの塩などが例示される。中でも、カリックス(6)アレーンスルホン酸、カリックス(8)アレーンスルホン酸、それらの塩が好ましい。尚、Calix[6]arene p−sulfonic acid,hexasodium salt,hydrateもしくはCalix[8]arene p−sulfonic acid,octasodium salt,hydrateは、同仁化学研究所より市販されているもの等を用いることができ、入手が容易である点で好ましく使用できる。また、レゾルシノールを基本骨格としたレゾルシンアレン、ピロガロールを基本骨格としたピロガロールアレン、ピロールを基本骨格としたカリックスピロール等も用いることができる。これらのカリックスアレーン類は2種以上を併用してもよい。反応系におけるカリックスアレーン類の濃度は、終濃度で好ましくは0.005〜4mM、より好ましくは0.005〜3mM、さらに好ましくは0.005〜2.5mM、特に好ましくは、0.01〜2mMとなるように調整されて使用される。
【0018】
シクロデキストリンは、数分子のD−グルコースがα(1→4)グルコシド結合によって結合し環状構造をとった環状オリゴ糖の一種であり、グルコースが5個以上結合したものが知られている。一般的にはグルコースが6個から8個結合したものが使用されており、6個結合しているものがα−シクロデキストリン(シクロヘキサアミロース)、7個結合しているものがβ−シクロデキストリン(シクロヘプタアミロース)、8個結合しているものがγ−シクロデキストリン(シクロオクタアミロース)であるが、これらに限定されるものではない。例えば、前記の各種デキストリンの修飾体なども利用可能であり、シクロデキストリンの水酸基の水素原子が種々の置換基で置換されたシクロデキストリン又はそれらの塩が用いられる。例えば、アルキル基で置換されたアルキル化シクロデキストリン、アシル基で置換されたアシル化シクロデキストリン、カルボキシアルキル基で置換されたカルボキシアルキル化シクロデキストリン、ヒドロキシアルキル基で置換されたヒドロキシアルキル化シクロデキストリン、スルホアルキル基で置換されたスルホアルキル化シクロデキストリン、又はそれらの塩が挙げられる。また、シクロデキストリンの水酸基と各種の酸がエステル結合されたシクロデキストリン又はそれらの塩、例えばシクロデキストリン硫酸エステル、又はそれらの塩(ナトリウム塩は硫酸シクロデキストリンともいう。)、シクロデキストリン燐酸エステル又はそれらの塩等が挙げられる。さらに、シクロデキストリンを構成するグルコースの6位の水酸基とグルコース、マルトース等の糖の水酸基が脱水縮合した分岐シクロデキストリンなどが挙げられる。
【0019】
これらのシクロデキストリンの中でも、β−シクロデキストリンが好ましく使用できる。
反応系におけるシクロデキストリンの濃度は、1〜400mM、特に1〜100mMが好ましい。
【0020】
上記の大環状化合物のうち、カリックスアレーン類を主成分とするのが好ましい。特に測定の感度増強剤として使用する場合には、カリックスアレーン類を反応系において終濃度0.005〜4mM、さらに0.005〜3mM、特に0.005〜2.5mMとなるようにするのが好ましい。また、ヘモグロビンの影響回避剤として使用する場合には、カリックスアレーン類を反応系において終濃度0.005〜3mM、さらに0.01〜2mMとなるようにするのが好ましい。
【0021】
なお、反応系には、必要に応じて、ポリエチレングリコール、デキストラン、ゼラチン、塩化ナトリウム、EDTA等の慣用の添加剤を加えてもよい。
【0022】
前記大環状化合物は、抗原抗体反応系中に存在させればよく、抗原抗体反応前に試料中に添加してもよいし、免疫反応物質を含有する試薬中に添加しておいてもよい。また、反応の際に用いる緩衝液中に添加しておいてもよい。
【0023】
吸光度の測定は、エンドポイント法、レートアッセイ法のいずれで行ってもよい。なお、本発明の方法は上記の方法に限定されるものではなく、使用する免疫学的測定方法に応じて適宜変更して実施することができ、使用する緩衝液、測定条件なども適宜変更すればよい。
【0024】
本発明の方法に用いる試薬は、上記の方法に使用される試薬であって、当該試薬が前記大環状化合物を主成分とする測定の感度増強剤又はヘモグロビンの影響回避剤を含有することからなる。上記の試薬は、免疫学的測定方法の種類に応じて適宜設定することができ、また複数の構成試薬からなるキットであってもよく、この場合には構成試薬の少なくとも1種が前記大環状化合物を含有すればよい。
【0025】
本発明の免疫学的測定方法におけるpHとしては、4.5〜9.5、好ましくは5.5〜8.5の範囲である。pHの維持のためには適当な緩衝剤、例えばリン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、コハク酸緩衝液、グリシン緩衝液あるいはグリシルグリシン、MES(2−(N−モノホリノ)エタンスルホン酸)、HEPES(N−2−ヒドロキシエチル−ピペラジン−N’−エタンスルホン酸)、TES(N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノエタンスルホン酸)、MOPS(3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸)、PIPES(ピペラジン−1,4−ビス(2−エタンスルホン酸))、DIPSO(3−(N’N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ)−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸)、Tricine(トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン)、TAPS(N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸)等のグッド緩衝液が好適に用いられる。使用濃度は1〜500mM、好ましくは3〜300mMである。
【0026】
本発明の免疫反応液中にはアジ化ナトリウム、動物血清、γ−グロブリン又はヒトIgGやIgMに対する特異抗体、アルブミン、塩化ナトリウムやその他の無機塩類、糖類、アミノ酸類、EDTA等のキレート剤、DTT等のSH試薬や界面活性剤等を含有させてもよい。アジ化ナトリウムの濃度としては0.01〜1%、好ましくは0.03〜0.3%である。動物血清、γ−グロブリン又は特異抗体やアルブミンは牛、馬、豚、羊、兎、ヒト、ラット等の由来のものが使用でき、それらの変性物や分解物も選択でき、添加濃度も適宜選択できる。塩化ナトリウムは生理的食塩濃度付近が好ましい。その他の物質についても使用濃度は適宜選択できる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
実施例1(可溶性フィブリン(SF)の測定)
(1)第一試薬の調製
Calix[8]arene p−sulfonic acid,octasodium salt,hydrate若しくはCalix[6]arene p−sulfonic acid,hexasodium salt,hydrate(同仁化学研究所社製)を0.01〜10mM(反応系での終濃度0.005〜5mM)の濃度で、0.4% 牛血清アルブミン及び0.5M塩化ナトリウムを含む30mMトリス塩酸緩衝液(pH8.5)に添加して第一試薬とした。尚、比較例としてはカリックスアレーン類を含まない第一試薬を用いた。
【0029】
(2)第二試薬(抗可溶性フィブリン(SF)抗体固定化粒子懸濁液)の調製
抗SFモノクローナル抗体を、20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)で0.7mg/mLとなるように希釈した抗体液と、平均粒径0.2μmのポリスチレン系ラテックス(積水メディカル社製)1%懸濁液を等量ずつ混和し、4℃で2時間攪拌した。さらに1%牛血清アルブミンを等量加え1時間攪拌した後、遠心分離により沈殿部を集め、0.5%牛血清アルブミンを含む5mM MOPS(pH7)で懸濁し、第二試薬(抗SF抗体固定化粒子懸濁液)を調製した。
【0030】
(3)試料
精製したフィブリノゲンにトロンビンを作用させて調製した酸可溶性desAABBフィブリンを、ヒトクエン酸血漿にそれぞれ最終濃度10.3μg/mLとなるように添加して可溶性フィブリンを調製した。尚、試薬ブランクの測定には生理食塩水を用いた。
【0031】
(4)測定
試料3μLに第一試薬100μLを加え、37℃で5分間加温後、第二試薬100μLを加えて撹拌後1〜5分の主波長570nm及び副波長800nmにおける吸光度変化量を測定した。得られた吸光度値を表1及び表2に示した。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
表1及び2から明らかなように、カリックスアレーン類を、反応系終濃度5mMで添加すると試薬ブランク値が異常となり、正確な測定ができないものの、反応系終濃度0.005〜4mMの範囲ではSFの測定感度が上昇していることがわかる。
【0035】
実施例2(可溶性フィブリン(SF)の測定)
実施例1同様、酸可溶性desAABBフィブリンを、ヒトクエン酸血漿にそれぞれ最終濃度10.3、及び20.1μg/mLとなるように添加して可溶性フィブリンを調製し、第一試薬に反応系終濃度で0.005〜2mMの各カリックスアレーンを含む試薬を用いて測定した。尚、第二試薬は実施例1と同じものを用いた。また、比較例としてはカリックスアレーン類を含まない第一試薬を用いた。得られた吸光度とSF濃度の関係を表3及び4に示した。
【0036】
【表3】
【0037】
【表4】
【0038】
表3及び4から明らかなように、カリックスアレーン類を添加すると、反応系終濃度0.005〜2mMの範囲では比較例のカリックスアレーン類を含まない場合に比べ測定感度が上昇していることがわかる。また、その反応は抗原濃度依存的であり、特に、低値域の測定に有用であることがわかる。
【0039】
実施例3(リポ蛋白(a)(Lp(a))の測定)
(1)第一試薬の調製
Calix[8]arene p−sulfonic acid,octasodium salt,hydrate若しくはCalix[6]arene p−sulfonic acid,hexasodium salt,hydrate(同仁化学研究所社製)を0.01〜5mM(反応系での終濃度0.005〜2.5mM)の濃度で、0.2M塩化ナトリウムを含む0.05M グリシン緩衝液(pH9)に混和し、第一試薬を調製した。尚、比較例としてはカリックスアレーン類を含まない第一試薬を用いた。
【0040】
(2)第二試薬(抗Lp(a)抗体固定化粒子懸濁液)の調製
精製ヒトapo(a)を免疫原として、定法によりマウスから得られた、単独種類の使用により免疫凝集を生じさせるモノクローナル抗体(工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託されたハイブリドーマ28205(FERM BP−3755)により生産されるもの。以下「抗Lp(a)モノクローナル抗体」と称する。〕を1.4mg/mLの濃度で0.05Mグリシン緩衝液(pH9)に混和した液と平均粒径0.1μmのポリスチレン系ラテックス(積水メディカル社製)5%懸濁液を等量加え、4℃にて2時間撹拌した。遠心分離により上清を除去した後、沈殿部に2%牛血清アルブミンを含む0.05Mグリシン緩衝液(pH9)を加え、4℃で一晩撹拌した。遠心分離により沈殿部を集め、これを2%牛血清アルブミンを含む0.05Mグリシン緩衝液(pH9)で懸濁し、抗Lp(a)抗体固定化粒子懸濁液を調製した。
【0041】
(3)試料
Lp(a)濃度既知血清を用いた。
【0042】
(4)Lp(a)の測定
Lp(a)を含有する試料液2.5μLに第一試薬100μLを加え、37℃で5分間加温後、第二試薬100μLを加えて撹拌後1〜5分の主波長570nm及び副波長800nmにおける吸光度変化量を測定した。得られた吸光度とLp(a)濃度の関係を表5及び6に示した。
【0043】
【表5】
【0044】
【表6】
【0045】
表5及び6から明らかなように、カリックスアレーン類を反応系での終濃度0.005〜2.5mM添加するとLp(a)の測定感度が上昇していることが判る。
【0046】
実施例4(可溶性フィブリン(SF)の測定)
(1)第一試薬の調製
Calix[6]arene p−sulfonic acid, hexasodium salt,hydrate(同仁化学研究所社製)を0.01〜6mM(反応系終濃度0.005〜3mM)、及び0.4%牛血清アルブミン、0.5M塩化ナトリウムを含む30mMトリス塩酸緩衝液(pH8.5)を第一試薬とした。尚、比較例としてはカリックスアレーン類を含まない第一試薬を用いた。
【0047】
(2)第二試薬(抗可溶性フィブリン(SF)抗体固定化粒子懸濁液)の調製
抗SFモノクローナル抗体を20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)で0.7mg/mLとなるように希釈した抗体液と、平均粒径0.2μmのポリスチレン系ラテックス(積水メディカル社製)1%懸濁液を等量ずつ混和し、4℃で2時間攪拌した。さらに1%牛血清アルブミンを等量加え1時間攪拌した後、遠心分離により沈殿部を集め、0.5%牛血清アルブミンを含む5mM MOPS(pH7)で懸濁し、第二試薬(抗SF抗体固定化粒子懸濁液)を調製した。
【0048】
(3)試料
ヘモグロビン試料として、干渉チェックAプラス(Sysmex社製)の溶血ヘモグロビンを用いて、ヘモグロビン濃度0〜500mg/dLの試料を調製した。
【0049】
(4)測定
試料3μLに第一試薬100μLを加え、37℃で5分間加温後、第二試薬100μLを加えて撹拌後1〜5分の主波長570nm及び副波長800nmにおける吸光度変化量を測定した。得られた吸光度の測定結果を表7に示した。
【0050】
【表7】
【0051】
表7から明らかなように、大環状化合物としてカリックス(6)アレーンを添加した場合、検討した反応系終濃度0.005〜3mMの範囲で、ヘモグロビンの吸光度測定値への影響が抑制されていることがわかる。
【0052】
実施例5(可溶性フィブリン(SF)の測定)
実施例4のCalix[6]arene p−sulfonic acid,hexasodium salt,hydrateに変えて、Calix[8]arene p−sulfonic acid,octasodium salt,hydrate(同仁化学研究所社製)を第一試薬中で0.01〜4mM(反応系終濃度0.005〜2mM)を用いた以外は、実施例4と同様に測定した。得られた吸光度の測定結果を表8に示した。
【0053】
【表8】
【0054】
表8から明らかなように、大環状化合物としてカリックス(8)アレーンを添加した場合、検討した反応系終濃度0.005〜2mMの範囲で、ヘモグロビンの吸光度測定値への影響が抑制されていることがわかる。
【0055】
実施例6(可溶性フィブリン(SF)の測定)
実施例4のCalix[6]arene p−sulfonic acid,hexasodium salt,hydrateに変えて、β−シクロデキストリンを第一試薬中で10mM若しくは40mM(反応系終濃度5若しくは20mM)を用いた以外は、実施例4と同様に測定した。得られた吸光度の測定結果を表9に示した。
【0056】
【表9】
【0057】
表9から明らかなように、大環状化合物としてβ−シクロデキストリンを添加した場合、検討した反応系終濃度5〜20mMの範囲で、ヘモグロビンの吸光度測定値への影響が抑制されていることがわかる。