(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記油圧回路は、前記圧力変化回路と前記オイルポンプの吸入側部分とを連通させる他の回路と、前記他の回路に設けられ、前記圧力変化回路の油圧が上限値を超えると開くリリーフ弁と、を備えている、請求項3に記載のベルト式無段変速機。
前記油圧回路は、前記切換弁が前記第2の状態に設定されたときに前記第1油室から前記圧力変化回路に向かう油の流れを絞るオリフィスを備えている、請求項1に記載のベルト式無段変速機。
前記油圧回路は、前記切換弁が前記第2の状態に設定されたときに前記制御弁から前記第1油室に向かう油の流れを絞るオリフィスを備えている、請求項6に記載のベルト式無段変速機。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1実施形態>
本実施形態に係るベルト式の無段変速機(CVT)30は、
図1に示すように、自動二輪車1の駆動ユニット7に設けられたものである。自動二輪車1は、本発明に係るベルト式無段変速機が搭載される車両の一例であり、本実施形態ではスクータ型の自動二輪車である。ただし、本発明に係るベルト式無段変速機が搭載される車両は自動二輪車に限定される訳ではない。
【0014】
図1に示すように、自動二輪車1は、車両本体9と、前輪2と、駆動輪としての後輪3とを備えている。車両本体9には、乗員が着座するシート5が設けられている。前輪2はフロントフォーク4の下端部に支持されている。フロントフォーク4の上端部には、ハンドル6が取り付けられている。
【0015】
駆動ユニット7は、後輪3に駆動力を与えるものである。駆動ユニット7は、エンジン20とCVT30とを備えている。エンジン20は、図示しないピストンを摺動自在に収容するシリンダ21と、図示しないコンロッドを介して上記ピストンに連結されたクランク軸と、上記クランク軸を収容するクランクケース23とを備えている。CVT30はクランクケース23の側方に配置されている。
【0016】
自動二輪車1は、エンジン20およびCVT30等の制御を行う制御装置10を備えている。制御装置10として、例えばECU(Electronic Control Unit)を用いることができる。制御装置10は駆動ユニット7の上方に配置されている。ただし、制御装置10の設置箇所は何ら限定されない。
【0017】
CVT30は油圧制御式の無段変速機である。
図2に示すように、CVT30は油圧回路25を備えている。
【0018】
CVT30は、第1プーリとしてのプライマリプーリ31と、第2プーリとしてのセカンダリプーリ32と、プライマリプーリ31およびセカンダリプーリ32に巻き掛けられたベルト33とを備えている。プライマリプーリ31は、固定シーブ31bと、固定シーブ31bに対して軸方向(
図2の左方向および右方向)に移動可能な可動シーブ31aとを有している。可動シーブ31aおよび固定シーブ31bは、プライマリ軸36に連結されている。可動シーブ31aおよび固定シーブ31bは、プライマリ軸36と共に回転する。プライマリ軸36は、エンジン20のクランク軸(図示せず)に直接または間接的に連結されている。プライマリ軸36はクランク軸のトルクを受けて回転する。なお、クランク軸の一部がプライマリ軸36を構成していてもよい。
【0019】
セカンダリプーリ32は、固定シーブ32bと、固定シーブ32bに対して軸方向(
図2の左方向および右方向)に移動可能な可動シーブ32aとを有している。可動シーブ32aおよび固定シーブ32bは、セカンダリ軸34に連結されている。セカンダリ軸34は、可動シーブ32aおよび固定シーブ32bと共に回転する。セカンダリ軸34は、後輪3に直接または間接的に連結されている。後輪3はセカンダリ軸34のトルクを受けて回転する。
【0020】
本実施形態では、ベルト33は金属ベルトから構成されている。ただし、ベルト33は金属ベルトに限らず、樹脂ベルト等の他の種類のベルトであってもよい。ベルト33は、プライマリプーリ31の可動シーブ31aと固定シーブ31bとの間と、セカンダリプーリ32の可動シーブ32aと固定シーブ32bとの間に位置している。
【0021】
可動シーブ31aと固定シーブ31bとの間隔と、可動シーブ32aと固定シーブ32bとの間隔とがそれぞれ変化することにより、CVT30の減速比が変化する。可動シーブ31aが固定シーブ31bに最も近づくと共に、可動シーブ32aが固定シーブ32bから最も離れたときに、減速比はオーバードライブ(最小減速比。以下、「OD」と称する。)となる。逆に、可動シーブ31aが固定シーブ31bから最も離れると共に、可動シーブ32aが固定シーブ32bに最も近づいたときに、減速比は最大減速比であるロー(LOW)となる。減速比はODとローとの間で任意に調整することができる。
【0022】
減速比は油圧を利用して制御される。プライマリプーリ31には、第1油室41が設けられている。油は油圧回路25から第1油室41に適宜供給され、また、第1油室41から油圧回路25に適宜排出される。可動シーブ31aは、第1油室41の油圧に応じて軸方向に移動するように構成されている。第1油室41の油圧が上昇すると、可動シーブ31aは固定シーブ31bに接近し、第1油室41の油圧が低下すると、可動シーブ31aは固定シーブ31bから遠ざかる。第1油室41の油圧が上昇すると減速比は小さくなり、第1油室41の油圧が低下すると減速比は大きくなる。
【0023】
セカンダリプーリ32には、第2油室42が設けられている。油は油圧回路25から第2油室42に適宜供給され、また、第2油室42から油圧回路25に適宜排出される。可動シーブ32aは、第2油室42の油圧に応じて軸方向に移動するように構成されている。第2油室42の油圧が上昇すると、可動シーブ32aは固定シーブ32bに接近し、第2油室42の油圧が低下すると、可動シーブ32aは固定シーブ32bから遠ざかる。第2油室42の油圧が上昇すると減速比は大きくなり、第2油室42の油圧が低下すると減速比は小さくなる。
【0024】
なお、第1油室41は可動シーブ31aに一体的に形成されていてもよいが、可動シーブ31aと別体であってもよい。例えば、第1油室41は、可動シーブ31aと別体の油圧アクチュエータの内部に形成されていてもよい。同様に、第2油室42は可動シーブ32aに一体的に形成されていてもよいが、可動シーブ32aと別体であってもよく、例えば、可動シーブ32aと別体の油圧アクチュエータの内部に形成されていてもよい。
【0025】
次に、油圧回路25の構成について説明する。油圧回路25は、油を貯留するタンク50と、オイルポンプ51と、第1油室41の油圧を制御する制御弁の一例としての第1制御弁53と、第2油室42の油圧を制御する減圧機構の一例としての第2制御弁56と、切換弁の一例としてのフェールセーフ弁54とを備えている。
【0026】
オイルポンプ51はエンジン20と連動するように、エンジン20のクランク軸に間接的に連結されている。オイルポンプ51の回転速度は、エンジン回転速度が大きくなるほど大きくなり、エンジン回転速度が小さくなるほど小さくなる。なお、エンジン回転速度とはクランク軸の回転速度のことである。エンジン回転速度が大きくなるとオイルポンプ51の吐出流量は大きくなり、エンジン回転速度が小さくなるとオイルポンプ51の吐出流量は小さくなる。
【0027】
タンク50とオイルポンプ51の吸入側部分とをつなぐ吸入回路60には、ストレーナ52が設けられている。オイルポンプ51の吐出側部分と第2油室42とは、第1回路61を介して連通されている。
【0028】
フェールセーフ弁54は電磁式の四方弁からなっており、第1ポート54a、第2ポート54b、第3ポート54c、および第4ポート54dを備えている。第1回路61とフェールセーフ弁54の第1ポート54aとは、第2回路62によって連通されている。第1制御弁53は、第2回路62に設けられている。第1制御弁53は、下流側の圧力を調整する電磁式の圧力制御弁である。第1制御弁53は制御装置10から制御信号を受け、所定の最小圧力と最大圧力との間の圧力範囲内にて第1油室41の油圧を制御する。第1制御弁53が制御装置10から制御信号を受けていない時、すなわち非通電時には、第1制御弁53の設定圧力は最大圧力となる。
【0029】
フェールセーフ弁54の第2ポート54bと第1油室41とは、第3回路63によって連通されている。第3回路63には、オリフィス55が設けられている。
【0030】
油圧回路25は、エンジン20またはCVT30の摺動部分70に向かって開口する圧力変化回路の一例としての潤滑回路80を備えている。潤滑回路80は摺動部分70に油を供給する回路である。摺動部分70は、潤滑回路80から供給された油によって潤滑される。潤滑回路80には、オリフィス59が設けられている。
【0031】
第1回路61と潤滑回路80とは、第4回路64によって連通されている。第2制御弁56は第4回路64に設けられている。第2制御弁56は、上流側の圧力を調整する電磁式の圧力制御弁である。第2制御弁56は制御装置10から制御信号を受け、所定の最小圧力と最大圧力との間の圧力範囲内にて第2油室42の油圧を制御する。第2制御弁56が制御装置10から制御信号を受けていない時、すなわち非通電時には、第2制御弁56の設定圧力は最大圧力となる。
【0032】
第3回路63のオリフィス55よりも第1油室41側の部分と、フェールセーフ弁54の第3ポート54cとは、第5回路65によって連通されている。フェールセーフ弁54の第4ポート54dと、潤滑回路80のオリフィス59よりも上流側の部分とは、第6回路66によって連通されている。第6回路66には、オリフィス58が設けられている。
【0033】
潤滑回路80のオリフィス59よりも上流側の部分と吸入回路60のストレーナ52よりも下流側の部分とは、第7回路67によって連通されている。第7回路67には、リリーフ弁57が設けられている。リリーフ弁57は、潤滑回路80の油圧が上限値を超えないように、潤滑回路80の油圧が上限値よりも大きくなると潤滑回路80の油の一部を吸入回路60に流出させるものである。リリーフ弁57は、上流側の油圧が予め定められた上限値になると開くように構成されている。
【0034】
フェールセーフ弁54は、制御装置10から制御信号を受けている時、すなわち通電時には、第1ポート54aと第3ポート54cとを連通し且つ第2ポート54bと第4ポート54dとを連通しない状態(第1の状態)となる。一方、フェールセーフ弁54は、制御装置10から制御信号を受けていない時、すなわち非通電時には、第1ポート54aと第2ポート54bとを連通し且つ第3ポート54cと第4ポート54dとを連通する状態(第2の状態)となる。
【0035】
通常の運転時には、制御装置10から第1制御弁53、第2制御弁56、およびフェールセーフ弁54に制御信号が供給される。
図2に示すように、フェールセーフ弁54は、第1ポート54aと第3ポート54cとを連通し且つ第2ポート54bと第4ポート54dとを連通しない状態となる。第1制御弁53および第2制御弁56が第1油室41および第2油室42の油圧をそれぞれ制御することによって、CVT30の減速比は所定の値になるように制御される。制御装置10は、自動二輪車1の運転状態に応じて、CVT30の減速比を制御する。
【0036】
オイルポンプ51から吐出された油の一部は第1制御弁53を通過し、所定の圧力の油となる。この油は、フェールセーフ弁54の第1ポート54aおよび第3ポート54cを通過し、第1油室41に供給される。そのため、第1油室41の油圧は所定圧力に制御される。オイルポンプ51から吐出された他の油は、第1回路61を通じて第2油室42に供給される。第1回路61の油圧は第2制御弁56によって所定圧力に制御されている。そのため、第2油室42の油圧は所定圧力に制御される。第2制御弁56から排出された油は潤滑回路80に供給され、潤滑油として摺動部分70に供給される。潤滑油として利用された油は、タンク50に回収される。潤滑回路80の油圧が上限値を超えている場合には、リリーフ弁57が開放され、潤滑回路80の油の一部は第7回路67を通じてオイルポンプ51に吸入される。
【0037】
運転中に故障が発生すると、制御装置10から第1制御弁53、第2制御弁56、およびフェールセーフ弁54に対する制御信号の送信が停止される。ここで故障とは、第1油室41および/または第2油室42の油圧を制御できなくなり、その結果、CVT30を正常に制御できなくなることを言う。例えば、制御装置10の故障、第1制御弁53の故障、第2制御弁56の故障、制御装置10と第1制御弁53とを接続する信号線の断線、および制御装置10と第2制御弁56とを接続する信号線の断線等が上記故障に該当する。
【0038】
制御装置10からフェールセーフ弁54に対する制御信号の送信が停止されると、
図3に示すようにフェールセーフ弁54は、第1ポート54aと第2ポート54bとを連通し且つ第3ポート54cと第4ポート54dとを連通する状態に切り換わる。制御装置10から第1制御弁53および第2制御弁56に対する制御信号の送信が停止されると、第1制御弁53の設定圧力(言い換えると、第2回路62等の油圧)は最大圧力となり、第2制御弁56の設定圧力(言い換えると、第1回路61の油圧)は最大圧力となる。このように故障時に第1制御弁53および第2制御弁56の設定圧力を最大圧力とする理由は、ベルト33がプライマリプーリ31およびセカンダリプーリ32において滑らないように、第1油室41および第2油室42の油圧を高めることによって、プライマリプーリ31およびセカンダリプーリ32にてベルト33をできるだけ強く挟み込むためである。
【0039】
オイルポンプ51から吐出された油の一部は第1制御弁53において減圧された後、フェールセーフ弁54の第1ポート54aおよび第2ポート54bを通過し、第3回路63に流入する。この油の圧力が第1油室41の油圧よりも高い場合、この油は第1油室41に流入する。例えば、故障発生時のCVT30の減速比が小さい場合(例えばODの場合)、第1油室41の油圧は低いため、第1制御弁53を通過した油は第1油室41に流入する。その結果、第1油室41の油圧が上昇する。なお、第1ポート54aおよび第2ポート54bを通過した油の流れはオリフィス55によって絞られるので、第1油室41における急激な圧力変動は抑制される。そのため、減速比の急激な変化は抑えられる。
【0040】
フェールセーフ弁54の第1ポート54aおよび第2ポート54bを通過した油は、第5回路65を流れ、フェールセーフ弁54の第3ポート54cおよび第4ポート54dを通過し、第6回路66に流入する。なお、第6回路66にはオリフィス58が設けられているので、オリフィス58よりも上流側の部分、すなわち第1油室41等の油圧が過剰に低下することはない。第1油室41の油圧は高く維持される。
【0041】
第6回路66の油は潤滑回路80に供給される。第6回路66の油が潤滑回路80に流入することによって潤滑回路80の油圧が上限値を超えると、その油の一部はリリーフ弁57および第7回路67を通じて吸入回路60に流入する。したがって、第6回路66を通じて潤滑回路80に高圧の油が流入してきたとしても、潤滑回路80の油圧が高くなりすぎることはない。潤滑回路80による円滑な潤滑動作が妨げられることはなく、摺動部分70に過剰な油が供給されることはない。
【0042】
図4(a)は故障発生時の油圧変化に関するタイムチャートである。
図4(a)の横軸は時間を表し、t1は故障発生時を示す。
図4(b)および
図4(c)も同様である。P1、P2、P3は、それぞれ第1油室41の油圧、第2油室42の油圧、潤滑回路80の油圧を表している。P1´は、フェールセーフ弁54および第6回路66を省略し、第2回路62と第3回路63とを直接接続した形態(以下、比較例という)の第1油室41の油圧を表している。t1において故障が発生し、制御装置10から第1制御弁53、第2制御弁56、およびフェールセーフ弁54に対する制御信号の送信が停止されると、第1制御弁53の設定圧力は最大圧力となるので、P1およびP1´は共に上昇する。比較例では第1油室41の油圧は第1制御弁53の最大圧力と実質的に一致するので、P1´は上記最大圧力のまま一定となる。一方、本実施形態では、第6回路66にオリフィス58が設けられているので、故障発生直後ではP1はP1´よりも一時的に大きくなるが、やがて第1油室41の油が第6回路66を通じて潤滑回路80に排出されるので、P1は徐々に低下していく。なお、故障発生時に第2制御弁56の設定圧力も最大圧力となるので、故障の発生と共にP2は上昇し、その後一定となる。
【0043】
図4(b)は故障発生時の減速比に関するタイムチャートである。Rは本実施形態の減速比を表し、R´は比較例の減速比を表している。
図4(b)から分かるように、R´は故障発生直後に急激に変化するのに対し、Rの変化は穏やかである。また、故障発生からある程度時間が経過すると、R´は変化しないのに対し、Rは変化し続け、やがてR´よりも大きくなることが分かる。Rの方がR´よりもロー(LOW)に近い減速比となる。なお、
図4(b)の「OD」はいわゆるオーバードライブのことであり、減速比が小さい状態を表す。
【0044】
図4(c)は故障発生時の自動二輪車1の車速に関するタイムチャートである。Vは本実施形態の車速を表し、V´は比較例の車速を表している。
図4(c)から分かるように、V´は故障発生直後に急激に変化するのに対し、Vの変化は穏やかである。また、故障発生時からある程度時間が経過した後、VはV´よりも小さくなる。
【0045】
以上のように、本実施形態によれば、故障発生時の減速比および車速の変化を穏やかにすることができる。
【0046】
図5(a)は故障発生後に自動二輪車1がいったん停止し、その後に発進(以下、再発進という)する時の油圧変化に関するタイムチャートである。
図5(a)の横軸は時間を表し、t2は再発進時を示す。
図5(b)および
図5(c)も同様である。
図5(a)から、P3は再発進後に上昇することが分かる。エンジン回転速度の上昇に伴ってオイルポンプ51の回転速度が上昇し、潤滑回路80の油圧が上昇するからである。P1´には変化は見られないが、本実施形態では第1油室41は第6回路66等を介して潤滑回路80と連通しているので、P1はP3の上昇に伴って上昇する。このように、P1はエンジン回転速度の上昇に伴って上昇する。
【0047】
図5(b)は再発進時の減速比に関するタイムチャートである。
図5(b)から分かるように、R´は変化せずに一定であるのに対し、Rは減少する。エンジン回転速度の上昇に伴って第1油室41の油圧P1が上昇し、プライマリプーリ31の可動シーブ31aが固定シーブ31bに接近するからである。このように、本実施形態によれば、最大の減速比で再発進した後、走行中に減速比が減少する。
【0048】
図5(c)は再発進時の車速に関するタイムチャートである。
図5(c)から、VはV´よりも上昇の程度が大きく(すなわち、加速度が大きく)、本実施形態によれば良好な加速特性を得ることができることが分かる。
【0049】
以上のように、本実施形態によれば、大きな減速比で再発進することができると共に、再発進後に減速比が減少するので、良好な加速特性を得ることができる。
【0050】
本実施形態によれば、故障時にはフェールセーフ弁54が切り換わり、第1油室41は潤滑回路80、すなわちエンジン回転速度に応じて油圧が変化する回路と連通する。そのため、第1油室41の油圧はエンジン回転速度に応じて変化することになる。エンジン回転速度が小さい再発進時には、第1油室41の油圧は比較的低くなり、減速比は比較的大きくなる。したがって、円滑な発進が可能となる。一方、走行時には再発進時よりもエンジン回転速度が大きくなり、第1油室41の油圧は比較的高くなるので、減速比は比較的小さくなる。したがって、滑らかな走行が可能となる。このように本実施形態によれば、故障時であっても、自動二輪車1の走行状態に合うように減速比がある程度変化するので、円滑な発進および滑らかな走行を両立させることが可能となる。本実施形態によれば、リンプホーム性を向上させることができる。
【0051】
油圧回路25はエンジン20と連動するオイルポンプ51を有し、潤滑回路80は、減圧機構として機能する第2制御弁56を介してオイルポンプ51の吐出側部分に連通した回路である。オイルポンプ51および第2制御弁56により、エンジン回転速度に応じて油圧が変化する回路が構成されている。本実施形態によれば、エンジン回転速度に応じて油圧が変化する圧力変化回路を容易に構成することができる。
【0052】
潤滑回路80は、摺動部分70に油を供給するために元々設けられていた回路である。本実施形態によれば、エンジン回転速度に応じて油圧が変化する回路として、既存の回路を流用することができる。
【0053】
第3回路63にはオリフィス55が設けられており、故障時には、第1制御弁53から第1油室41に向かう油の流れはオリフィス55によって絞られる。そのため、故障発生時に、第1油室41の油圧が急激に変動することは防止される。したがって、故障発生時の減速比の急激な変化を防止することができる。
【0054】
潤滑回路80は第7回路67を介して吸入回路60に連通しており、この第7回路67にはリリーフ弁57が設けられている。そのため、故障発生時にフェールセーフ弁54が切り換わり、潤滑回路80に多くの量の油が流れ込んできたとしても、潤滑回路80の油圧が過剰に高くなることは回避される。したがって、潤滑回路80による円滑な潤滑動作が妨げられることはない。
【0055】
第6回路66にはオリフィス58が設けられているので、故障時にフェールセーフ弁57が切り換わって第1油室41と潤滑回路80とが連通したときに、第1油室41の油圧は高く維持される。また、第1油室41から油が排出される場合に、第1油室41の油圧変動を穏やかにすることができる。
【0056】
<第2実施形態>
第1実施形態は、エンジン回転速度に応じて油圧が変化する圧力変化回路として、潤滑回路80を利用するものであった。
図6に示すように、第2実施形態は第1実施形態の油圧回路25の一部に変更を加え、潤滑回路80とは別に圧力変化回路を構成したものである。
【0057】
第2実施形態では、第1回路61のオイルポンプ51の吐出側部分には、オリフィス71が設けられている。第1回路61のオイルポンプ51とオリフィス71との間の部分と、吸入回路60のオイルポンプ51とストレーナ52との間の部分とは、第8回路68を介して連通されている。第8回路68には、オリフィス72およびオリフィス73が設けられている。第8回路68のオリフィス72とオリフィス73との間の部分の油圧は、エンジン回転速度が大きくなると高くなり、エンジン回転速度が小さくなると低くなる。本実施形態では、第8回路68のオリフィス72とオリフィス73との間の部分が圧力変化回路として利用される。
【0058】
第1実施形態では、第6回路66はフェールセーフ弁54の第4ポート54dと潤滑回路80とを接続するものであった(
図2参照)。本実施形態では、第6回路66の一端はフェールセーフ弁54の第4ポート54dに接続され、他端は第8回路68のオリフィス72とオリフィス73との間の部分に接続されている。
【0059】
その他の構成は第1実施形態と同様であるので、その説明は省略する。
【0060】
第2実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0061】
<第3実施形態>
図7に示すように、第3実施形態は第1実施形態の油圧回路25の一部に変更を加えたものであり、故障時の減速比の可変幅を第1実施形態よりも大きくしたものである。第3実施形態では、フェールセーフ弁54の代わりに、フェールセーフ弁74が設けられている。
【0062】
図8(a)はフェールセーフ弁74の記号を表し、
図8(b)はフェールセーフ弁74の構成を表す概念図である。
図8(b)に示すように、フェールセーフ弁74は電磁式の四方弁であり、第1ポート74a、第2ポート74b、第3ポート74c、および第4ポート74dを備えている。フェールセーフ弁74は制御装置10によって制御される。フェールセーフ弁74は、制御装置10から制御信号を受けると下向きの力を発生させるソレノイド74eと、ソレノイド74eによって下向きに押されるスプール74pとを有している。スプール74pにはランド74fが形成されている。なお、ここで言う上下の方向は図中の方向に過ぎず、必ずしもフェールセーフ弁74が設置されたときの実際の方向を意味する訳ではない。フェールセーフ弁74には油室76が形成され、第6回路66と油室76とは、連通路75を介して連通されている。
【0063】
図7および
図8(a)に示すように、通常の運転時には、第1実施形態のフェールセーフ弁54と同様、フェールセーフ弁74は、第1ポート74aと第3ポート74cとが連通し且つ第2ポート74bと第4ポート74dとが連通しない状態(第1の状態)となる。
【0064】
故障時には、制御装置10からフェールセーフ弁74に対する制御信号の送信が停止され、フェールセーフ弁74は非通電状態となる。その結果、ソレノイド74eは作動せず、スプール74pを下向きに押す力が消失するので、スプール74pはスプリング74sによって上向きに付勢される。一方、油室76は連通路75を介して第6回路66と連通しているので、油室76の油圧は第6回路66の油圧と等しい。ランド74fには油室76の油圧が作用し、スプール74pは上記油圧によって下向きの力を受ける。第6回路66は潤滑回路80と連通しており、第6回路66の油圧はエンジン回転速度に応じて変化する。そのため、油室76の油圧もエンジン回転速度に応じて変化する。
【0065】
エンジン回転速度が小さい場合、油室76の油圧は低くなる。その場合、油室76の油圧によってスプール74pを下向きに押す力は、スプール74pを上向きに押すスプリング74sの力よりも小さくなる。その結果、
図9(b)に示すように、スプール74pは最も高い位置に移動する。すると、
図9(a)および
図9(b)に示すように、フェールセーフ弁74は、第1ポート74aと第2ポート74bとが連通し且つ第3ポート74cと第4ポート74dとが連通する状態(第2の状態)に切り換わる。
【0066】
エンジン回転速度が大きい場合、油室76の油圧は高くなる。その場合、油室76の油圧によってスプール74pを下向きに押す力は比較的大きくなり、例えば
図10(b)に示すように、スプリング74sの付勢力に対抗してスプール74pを下方に移動させる。スプール74pが下方に移動するとランド74fも下方に移動する。そして、ランド74fは第4ポート74dの一部または全部を閉鎖する。
図10(a)および
図10(b)は、第4ポート74dの全部が閉鎖された状態を表している。第4ポート74dの開口面積はランド74fの位置に依存し、ランド74fが上側に位置するほど大きくなり、ランド74fが下側に位置するほど小さくなる。そのため、第6回路66および油室76の圧力に応じて、第4ポート74dの開口面積が変化する。
【0067】
エンジン回転速度が比較的小さい場合、第6回路66および油室76の油圧が低くなるので、第4ポート74dの開口面積は大きくなる。第4ポート74dの開口面積が大きくなると、第3ポート74cおよび第4ポート74dを通じて第1油室41から排出される油の量は多くなる。そのため、第1油室41の油圧は低くなり、CVT30の減速比は大きくなる。
【0068】
一方、エンジン回転速度が比較的大きい場合、第6回路66およびおよび油室76の油圧が高くなるので、第4ポート74dの開口面積は小さくなる。第4ポート74dの開口面積が小さくなると、第3ポート74cおよび第4ポート74dを通じて第1油室41から排出される油の量は少なくなる。そのため、第1油室41の油圧は高くなり、CVT30の減速比は小さくなる。
【0069】
本実施形態によれば、潤滑回路80の油圧の変化だけでなく、その油圧の変化に応じて第4ポート74dの開口面積が変化するので、第1油室41の可変幅をより大きくすることができる。したがって、減速比の可変幅をより大きくすることができる。本実施形態によれば、エンジン回転速度が大きくなったときに減速比をより小さくすることができ、減速比をより高速の走行に適した値にすることが可能となる。したがって、リンプホーム性を更に向上させることができる。