(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5735632
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】改善された質量均等化を有する往復ピストン・エンジン
(51)【国際特許分類】
F02B 75/26 20060101AFI20150528BHJP
F02B 75/32 20060101ALI20150528BHJP
F01B 9/04 20060101ALI20150528BHJP
F16H 1/14 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
F02B75/26
F02B75/32 Z
F01B9/04
F16H1/14
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-504051(P2013-504051)
(86)(22)【出願日】2011年4月8日
(65)【公表番号】特表2013-524094(P2013-524094A)
(43)【公表日】2013年6月17日
(86)【国際出願番号】AT2011000170
(87)【国際公開番号】WO2011127502
(87)【国際公開日】20111020
【審査請求日】2014年3月28日
(31)【優先権主張番号】A1127/2010
(32)【優先日】2010年7月2日
(33)【優先権主張国】AT
(31)【優先権主張番号】A585/2010
(32)【優先日】2010年4月12日
(33)【優先権主張国】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】512263290
【氏名又は名称】ケーニッヒ、ハラルド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ケーニッヒ、ハラルド
【審査官】
瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭58−094832(JP,U)
【文献】
特開昭49−035716(JP,A)
【文献】
仏国特許発明第416890(FR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01B 9/04
F02B 75/26,75/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ軸が互いに平行である円形の断面を持つ4つのシリンダ(8、8’)とアウトプット・シャフト(2)とを有し、前記シリンダ軸は、軸断面内で見たときに矩形の頂点にある、往復ピストン・エンジン(1)であって、前記矩形は正方形であり、前記正方形の中心に前記シリンダ軸に平行である前記アウトプット・シャフト(2)の軸が配置されること、4つの前記シリンダ(8、8’)のそれぞれのシリンダは、前記正方形の対角線上の頂点に配置されるシリンダとは同じ方向に配向され、また、前記正方形の隣接する頂点に配置される2つのシリンダとは反対の方向に配向されること、並びにそれぞれのシリンダ(8、8’)からの力及びトルクの伝達は、別々の回転クランク(7)と歯部(3、4、5、6)を介して前記アウトプット・シャフト(2)へなされることを特徴とする往復ピストン・エンジン(1)。
【請求項2】
互いに対向して対角線上に配置されるピストン(9、9’)は、同位相で、また対向する方向に回転する前記回転クランク(7)とともに配置構成されることを特徴とする請求項1に記載の往復ピストン・エンジン(1)。
【請求項3】
すべての前記シリンダ(8、8’)の前記ピストン(9、9’)は、その上死点及び下死点に同時に到達することを特徴とする請求項2に記載の往復ピストン・エンジン(1)。
【請求項4】
前記歯部はかさ歯車(3、4)を有することを特徴とする請求項1から3までのいずれか一項に記載の往復ピストン・エンジン。
【請求項5】
前記回転クランク(7)の軸(7’)は、前記アウトプット・シャフト(2)の前記軸と交差すること、及び前記回転クランク(7)は、前記アウトプット・シャフト上のかさ歯車(3)とかみ合うかさ歯車(4)を有することを特徴とする請求項1から4までのいずれか一項に記載の往復ピストン・エンジン。
【請求項6】
前記回転クランク(7)の軸(7’)は、対では互いに平行であり、前記アウトプット・シャフト(2)の前記軸に対しては斜めであること、及び前記回転クランク(7)は、前記アウトプット・シャフト上のかさ歯車(3)とかみ合う同軸かさ歯車(4)を有する中間歯車(5)とかみ合うクランク機構(6)を有することを特徴とする請求項1から4までのいずれか一項に記載の往復ピストン・エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文に対応する質量均等化(mass equalization)の改善された往復ピストン・エンジンに関するものである。このようなエンジンは、特許文献1から知られる。この文献は、それぞれのピストンがロッカに作用するデバイスを開示しており、ロッカは、かさ歯車トランスミッション及びフリー・ホイールを介して、往復運動を、シリンダ軸に関して垂直方向に延在するアウトプット・シャフトの連続回転運動に変換する。質量を往復させるという基本的問題すべてに加えて、質量均等化が不十分である。
【背景技術】
【0002】
特許文献2では、アウトプット軸が固定されているが、その後アウトプット軸周りで回転するようにセットされたときでも動作し続けることができる往復ピストンを備えるエンジンを開示している。前記エンジンは、アウトプット軸の同軸上に鏡面反転の形で配置構成された2つの環状シリンダを有し、またカルダン自由継手若しくはディファレンシャルの一種により内部トランスミッションを介してアウトプット軸に接続された環状ピストンを有する。ピストンに完全な質量均等化がある場合であっても、複雑なトランスミッション(シリンダの中央キャビティ内に配置構成されている)は、他の実用上の不備を考えないとしても完全には均等化されない。
【0003】
一般に、往復ピストン・エンジンは、円熟した技術であり、ノウハウが一般的に入手可能であり、材料が技術的に洗練されており、シリンダ内の燃焼プロセスが広範囲にわたって知られており、結果として達成される各利用分野への適応に優れていることから、広く行き渡っている。
【0004】
往復ピストン・エンジンの原理に内在する問題は、質量均等化の問題であり、この問題は、一方では、上死点及び下死点からのピストンの速度が均一でないことと併せてピストンの前後運動の結果生じ、他方では、クランクの運動の横方向成分によって引き起こされる不釣り合いの結果として生じる。
【0005】
120°の点火間隔で4行程動作するときの直列6気筒エンジンは、自由質量力と自由質量トルクの両方を有し2次まで完全な均等化を実現するが、そのようなエンジンでは、長いクランクシャフトのねじれ剛性、又はねじれ剛性の欠如がすでに問題となり始めており、シリンダを直列に配置構成する結果として、エンジン・ブロックは非常に長い設計のものとなる。
【0006】
均等化構造は、クランクシャフトと平行し、回転するように固定される形でそれに接続されたさまざまな偏心シャフトで動作し、通常は、質量力及び質量トルクを均等化するためにクランクシャフトの回転速度の2倍、又は回転速度の4倍の速度で回転する。これらの複雑な、したがって、高価なシステムとは逆に、設計者らは、さまざまな機会において、可能な限り振動を基礎又は車両フレームに伝えない、エンジンを懸架又は搭載する手段に満足していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2004−204777号明細書
【特許文献2】ドイツ特許第26 26 979号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、対照的に、コンパクトな設計であって、質量力及び質量トルクの高品質の均等化を有する往復ピストン・エンジンを提供するという目的を有する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、これらの目的は、請求項1の特徴部において指定されている特徴を備える往復ピストン・エンジンで達成される。
【0010】
言い換えると、本発明による往復ピストン・エンジンは、そのアウトプット・シャフトがシリンダ軸に平行することを実質的に特徴とし、またアウトプット・シャフトへのトルクの伝達がかさ歯車を介してなされるという事実によって好ましくは実質的に特徴付けられる。これらのシリンダは、円形の断面を有する。
【0011】
4本のシリンダは、好ましくは、正方形に配置構成され、互いに関して対角線上にあるこれらのシリンダは反対方向に、ただし他の点では等しい角度位置で動作し、この形に形成される2つのシリンダ対は、頭から足の先まで、つまり、1つの対のクランク駆動装置の間に、配置構成され、シリンダヘッドは、他の対のバルブを備える。
【0012】
かさ歯車を使って個別のシリンダのトルクをアウトプット軸に伝達することは、高い精度及び高い安定性で加工することが可能である結果、もはや問題ではなく、1980年代までにかさ歯車の耐用年数及び運動精度に関して生じたこの点での問題は完全に解決されており、またその時点の非常に高い製造コストもまた完全に解消された。
【0013】
本発明は、図面を参照しつつ以下でさらに詳しく説明される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】純粋に概略的なセクションをアウトプット軸に関して垂直に示す図である。
【
図2】さまざまなシリンダ軸を通る、コーナーの周りに繰り返し広がる、純粋に概略的なセクションを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、概略セクションにおいて、本発明による往復ピストン・エンジン1を通り、複数の段階を通って延びる、アウトプット・シャフト2と、アウトプット・シャフト2に取り付けられ、2つの駆動かさ歯車4とかみ合うかさ歯車3とを示している。クランク機構6とかみ合う中間歯車5は、それぞれの場合において、回転可能に固定され、同軸上にあるようにして、駆動かさ歯車4に接続される。クランク機構6は、次いで、シリンダ8のピストン9(
図2)のコネクティング・ロッド11のクランク(シャフト)7に永久接続される。かさ歯車の速度伝達比の選択の結果として、広い制限範囲内で好適な速度伝達比に達することが可能であり、その結果エンジンはこのエンジンに適した回転速度範囲で動作することが可能である。
【0016】
図1から、クランクシャフト7が図示されている2つのシリンダ8が、アウトプット・シャフト3に対して対称的に、シリンダ軸がそれに平行になるように、配置構成されていることは明らかである。2つのクランクシャフトは、互いに平行であり、アウトプット・シャフト2は、クランク軸によって画定される平面に対して垂直である。
【0017】
シリンダ8と構造上同一であり、また区別する目的で参照記号に””が付けられている、2つのさらなるシリンダ8’は、アウトプット・シャフト2の軸の周りに設けられ、90°回転され、そのヘッド上で回動する。
【0018】
これらの方策の結果、4つのピストン9はすべて、上死点に同時に、また下死点に同時に到達する。しかし、2つのシリンダと2のシリンダとが互いに対して対向する方向に、いわば頭から足の先まで、配置構成されているので、クランクの回転の始めから終わりまでのシリンダの移動の差は完全に均等化され、同じ方向に配置構成されている2つのシリンダの、それぞれの場合における、対称性の結果、水平方向の力(実際には、シリンダ軸に対して垂直に生じる力)が完全に均等化される。
【0019】
ピストン及びクランクの配置構成と、回転方向を指定する矢印から明らかなように、エンジンは、完全な質量均等化を有する。シリンダ8’に割り当てられているバルブ10’がピストン9又はシリンダ8のクランク7によって制御されうる、コンパクトな設計の結果として、空間に関する要求条件は低く、中央を貫通するアウトプット・シャフト2は広範な取り付け状況を許容する。コネクティング・ロッド11を介したピストン9からの実質的に直接的な力束又はトルク束の結果として、短いピストン9とアウトプット・シャフト2への歯部とを介して、エンジンは、実質的にねじれ、したがってねじり振動を免れるが、例えば、古典的な直列6気筒エンジンではクランクシャフトの長さのせいでこのねじれが生じる傾向を有する。
【0020】
本発明のこの変更形態では、歯車3、4、5、及び6を使うことによって、第1の変更形態の場合と比べて、追加の部品を必要とすることなく所望のエンジンの通常回転速度でエンジンそれ自体におけるアウトプット・シャフト2のそれぞれの望ましい「主回転速度」をすでに達成していることがなおいっそう申し分なく可能である。
【0021】
本発明の一変更形態は、同一の部品は
図1及び2のものと同一の参照記号によって示されている
図3及び4に例示されており、またクランク駆動装置又はピストン・エンジンの基本設計も同じであり、個別のシリンダのクランク軸7’の向きのみが異なる。
【0022】
特に
図3から明らかなように、クランクシャフト7の軸7’はアウトプット・シャフト2の軸に向かって走り、軸と交差する。このようにして、クランクシャフト7上に止め付けられている駆動かさ歯車4が、アウトプット・シャフト2上に止め付けられているかさ歯車3とかみ合うことが可能になり、したがってエンジン・トルクは、中間歯部を必要とすることなく、伝えられる。
【0023】
この設計のおかげで、第1の実施例では必要である平歯車5、6なしで済ませることが可能であり、したがってこれらの歯車がもたらす追加の伝達の可能性がなくなり、かさ歯車の選択によってもたらされる伝達の可能性が保持される。
【0024】
図3及び4から、バルブを駆動するための一変更形態は、特にねじ山の形で駆動シャフト2上に実装されている、ウオームギアともみなせる、歯部、及びそれとかみ合う、対応するカムでシャフト上に止め付けられる、平歯車を介して、明らかである。しかし、この変更形態は、負荷物としてのみ企図されるべきなので、われわれは、参照記号を与えることを差し控えた。
【0025】
図5は、「点火の発光の記号」12で示されているように、2行程動作がなされる、航空機(図示せず)のプロペラ13の駆動装置として一変更形態を示している。図は、次いで、食い違い配置にされているシリンダを通る断面を示せるように多重屈曲表面にそって走っている。減衰要素14がプロペラ13とエンジンとの間の動力伝達装置内に設けられ、前記減衰要素14は図示されている例では同軸上で駆動を続けるが、そうでなくてもよい。この減衰手段は、好適な速度伝達比を持つトランスミッションと組み合わせることができる。このアウトプット・シャフトの断面図により、同じ種類の少なくとも1つのさらなるエンジン・ユニットがプロペラから見て外を向く側に設けられ、このエンジン・ユニットはアウトプット・シャフトとプロペラ13にも作用することが示されている。
【0026】
本発明によるデバイスは、新しい、又は外来の材料、制御装置、シールなどを必要としないため、その結果として、このデバイスはエンジン設計者の発明に関わる知識の範囲内にあり、難なく寸法を決め、構成することができる。歯部は、本発明の知識があれば、またエンジンの出力及びトルク、並びにアウトプット・シャフトの回転速度範囲がわかっていれば問題なく構成され、製造されうるものであり、これに必要なすべての情報は、トランスミッションの設計分野では容易に入手可能である。
【0027】
図は、直観的に垂直に見える方向に走るアウトプット・シャフト2を示しているが、これは単なる約束事である。往復ピストン・エンジンの場合の常として、シリンダ軸の向きは、各取り付け状況に適応させることができ、しかもこれはエンジンそれ自体には影響しない。水冷式と空冷式とが考えられ、2行程動作又は4行程動作が考えられ、ガソリン、ディーゼル、又は他の燃料の使用は、設計者の裁量にある。
【0028】
本発明が、コンパクトな設計及び高品質な質量均等化の点から適切である航空機エンジンとして応用される場合、プロペラによって誘発されうるトルクの衝撃に似た変動からかさ歯車の歯部を保護するために「ソフトな」接続又は減衰デバイスが示されている。本発明がこのようにして使用される場合、2行程エンジンとしての動作は、圧縮圧力が低いため有利であり、その結果、オイル・トラフが不要であり、動作が位置に無関係であるため(「人工的な飛行ができる」)、かさ歯車の歯部のところで負荷変動が生じないため、そして最後に、狭い空間内でのガス流の誘導が4行程動作の場合より容易に行うことが可能であるため、壁の厚さ、したがって質量を低減することができる。