(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エリスロポエチンとエリスロポエチン分子当たり1つ又は複数のポリ(エチレングリコール)残基を有するエリスロポエチン及びポリ(エチレングリコール)のコンジュゲートとの混合物を含む溶液を、21mS/cmの伝導率に調整しないことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
タンパク質は、今日の医学ポートフォリオにおいて重要な役割を担っている。ヒトへの適用のために、治療用タンパク質はそれぞれ異なる基準を満たす必要がある。ヒトへの生物薬剤の安全性を確保するために、製造プロセス中に蓄積する副生成物を特に除去する必要がある。規制仕様(regulatory specifications)を満たすために、製造工程後に1つ又は複数の精製工程を続ける必要がある。とりわけ、精製、処理量及び収率が適切な精製プロセスを決定するうえで重要な役割を担っている。
【0003】
治療用タンパク質のコンジュゲート、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)とインターロイキン−6(EP 0 442 724)、PEGとエリスロポエチン(WO 01/02017)、エンドスタチンと免疫グロブリンを含むキメラ分子(US 2005/008649)、分泌型抗体ベースの融合タンパク質(US 2002/147311)、アルブミンを含む融合ポリペプチド(US 2005/0100991;ヒト血清アルブミン、US 5,876,969)、PEG化ポリペプチド(US 2005/0114037)及びエリスロポエチン融合体が報告されている。
【0004】
Necina, R 等(Biotechnol. Bioeng. 60 (1998) 689-698)は、高電荷密度を示すイオン交換媒体による、細胞培養物の上清からの直接的なヒトモノクローナル抗体の捕捉を報告した。WO 89/05157では、細胞培養培地を陽イオン交換処理に直接供することによる、生成物免疫グロブリンを精製するための方法が報告されている。マウスの腹水からのモノクローナルIgG抗体の1工程精製が、Danielsson, A., et al., J. Immun. Meth. 115 (1988) 79-88 に記載されている。イオン交換クロマトグラフィーによるポリペプチドの精製方法が、WO 2004/024866に報告されており、この方法では、対象のポリペプチドを1つ又は複数の混入物から分割するために勾配洗浄を使用する。EP 0 530 447では、3つのクロマトグラフィー工程を組み合わせたIgGモノクローナル抗体を精製するためのプロセスが報告されている。モノPEG化インターロイキン−1受容体アンタゴニストの簡便な精製が、Yu, G., et al., Process Biotechnol. 42 (2007) 971-977 により報告されている。Wang, H., et al., Peptides 26 (2005) 1213-1218 は、2工程陽イオン交換クロマトグラフィーによるE.coliで発現するhTFF3の精製を報告している。Yun, Q 等(Yun, Q., et al., J. Biotechnol. 118 (2005) 67-74) は、2連続イオン交換クロマトグラフィー工程によるPEG化rhG−CSFの精製を報告している。
【0005】
発明の概要
本明細書において、反応副生成物又は未反応の出発物質からのエリスロポエチン及び単一のポリ(エチレングリコール)残基を含むタンパク質コンジュゲートの陽イオン交換クロマトグラフィー法による精製方法を記載する。陽イオン交換クロマトグラフィー材料SP Sephacryl S 500 HR及び線形勾配溶出を、規定の伝導率の緩衝液を事前に適用したカラムに用いることによって、エリスロポエチン及び単一のポリ(エチレングリコール)残基を含むコンジュゲートタンパク質を、単一工程において、高純度及び高収率で得ることができることが見出された。
【0006】
従って、本明細書において、一態様として、エリスロポエチン及び単一のポリ(エチレングリコール)残基を含む融合タンパク質を得るための方法であって、以下の工程:
a)約21mS/cmの伝導率を有する溶液を、SP Sephacryl S 500 HRクロマトグラフィー材料を含むクロマトグラフィーカラムに適用する工程、
b)遊離エリスロポエチンとエリスロポエチン分子当たり1つ又は複数のポリ(エチレングリコール)残基を有するエリスロポエチン及びポリ(エチレングリコール)の融合タンパク質との混合物を含む溶液を、a)のカラムに適用する工程、
c)約21mS/cmの伝導率を有する溶液をカラムに適用して、それによって、2つ以上のポリ(エチレングリコール)残基を含む融合タンパク質を回収する工程、
d)少なくとも60mS/cmの最終値まで連続的及び線形的に増加する伝導率を有する溶液をカラムに適用して、それによって、エリスロポエチン及び単一のポリ(エチレングリコール)残基を含む融合タンパク質と遊離エリスロポエチンとを別々に回収する工程、これにより、エリスロポエチン及び単一のポリ(エチレングリコール)残基を含む融合タンパク質が最初に得られる、
を含む方法を記載する。
【0007】
一実施態様においては、約21mS/cmの伝導率を有する溶液は、pH2.5〜pH3.5のpH値を有する溶液である。一実施態様においては、約21mS/cmの伝導率を有する溶液は、pH2.5〜pH3.5のpH値を有するリン酸緩衝液である。
【0008】
一実施態様においては、工程d)において適用される溶液は、pH2.5〜pH3.5のpH値を有する。一実施態様においては、適用する連続的及び線形的に増加する伝導率を有する溶液は、約70.0mS/cmまでの最終伝導率値である。
【0009】
一実施態様においては、連続的及び線形的に増加する伝導率を有する溶液は、連続的及び線形的に増加する塩化ナトリウム濃度を有する溶液である。
【0010】
一実施態様においては、エリスロポエチンはヒトエリスロポエチンである。一実施態様においては、ヒトエリスロポエチンは、配列番号:01又は配列番号:02のアミノ酸配列を有する。
【0011】
一実施態様においては、単一のポリ(エチレングリコール)残基は、20kDa〜40kDaの分子量を有する。
【0012】
一実施態様においては、遊離エリスロポエチンとエリスロポエチン分子当たり1つ又は複数のポリ(エチレングリコール)残基を有するエリスロポエチン及びポリ(エチレングリコール)の融合タンパク質との混合物を含む溶液は、融合タンパク質1mg〜4mgをクロマトグラフィー材料1mlに適用するように、クロマトグラフィー材料に適用される。
【0013】
発明の詳細な説明
本明細書において、勾配溶出法を用いた1つのエリスロポエチン分子及び1つのポリ(エチレングリコール)残基を含むタンパク質を精製するための方法を記載する。ここで、勾配は、SP Sephacryl S 500 HRカラムでの線形伝導率勾配であり、規定の伝導率を有する溶液を、タンパク質を含む溶液の適用の前にクロマトグラフィーカラムに適用する。
【0014】
一般的なクロマトグラフィー法及びその使用は当業者に公知である。例えば、Heftmann, E., (ed.), Chromatography, 5
th edition, Part A: Fundamentals and Techniques, Elsevier Science Publishing Company, New York (1992); Deyl, Z., (ed.), Advanced Chromatographic and Electromigration Methods in Biosciences, Elsevier Science BV, Amsterdam, The Netherlands (1998); Poole, C.F., and Poole, S.K., Chromatography Today, Elsevier Science Publishing Company, New York (1991); Scopes, Protein Purification: Principles and Practice, Springer Verlag (1982); Sambrook, J., et al., (eds.), Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., (1989); 又は Ausubel, F.M., et al., (eds.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., New York (1987-1994) を参照されたい。
【0015】
用語「適用する」は、溶液をクロマトグラフィー材料に接触させる、精製法の工程の一部を表す。これは、a)溶液を、クロマトグラフィー材料を含有するクロマトグラフィー装置に加えるか、又はb)クロマトグラフィー材料を溶液に加えるかのいずれかを表す。a)の場合、溶液を装置に通して、クロマトグラフィー材料と溶液に含まれる物質を相互作用させることができる。例えば、pH、伝導率、塩濃度、温度及び/又は流速などの条件に依存して、溶液のいくつかの物質がクロマトグラフィー材料に結合するため、これらを、さらなる工程において、クロマトグラフィー材料から回収することができる。溶液中に残存している物質は、通過画分中に見出すことができる。「通過画分」は、装置を通過した後に得られる溶液であって、カラムを洗浄するか、又はクロマトグラフィー材料に結合している物質を溶出させるために使用される適用溶液又は緩衝液のいずれかであることができる溶液を表す。一実施態様においては、装置は、カラム又はカセットである。b)の場合、クロマトグラフィー材料を、例えば、固体として、例えば、精製される対象の物質を含有する溶液に加えて、クロマトグラフィー材料と溶液中の物質を相互作用させることができる。相互作用させた後、クロマトグラフィー材料を、例えば、濾過により除去することにより、クロマトグラフィー材料に結合している物質もまたそれと共に溶液から除去されるが、一方で、クロマトグラフィー材料に結合していない物質は溶液中に残存する。
【0016】
用語「結合及び溶出形態」は、精製される対象の物質を含有する溶液をクロマトグラフィー材料に適用して、それによって、対象の物質がクロマトグラフィー材料に結合する、クロマトグラフィー工程の操作形態を表す。従って、対象の物質はクロマトグラフィー材料上に保持され、一方で、対象ではない物質は通過画分又は上清と共に除去される。対象の物質は、その後、第二工程において、クロマトグラフィー材料から溶出溶液と共に回収される。一実施態様においては、本明細書において記載される方法は、結合及び溶出形態で操作される。
【0017】
本明細書において記載される方法において用いられる溶液は、粗溶液又は緩衝液である。用語「緩衝液」は、酸性又はアルカリ性物質の付加又は遊離によるpHの変化が溶解した緩衝物質により水平化されている溶液を表す。そのような特性を有する任意の緩衝物質を使用することができる。一般的に、薬学的に許容しうる緩衝物質が使用される。一実施態様においては、緩衝液は、リン酸及び/又はその塩からなるリン酸緩衝液、又は酢酸及びその塩からなる酢酸緩衝液、又はクエン酸及び/又はその塩からなるクエン酸緩衝液、又はモルホリン緩衝液、又は2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸緩衝液、又はヒスチジン緩衝液、又はグリシン緩衝液、又はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)緩衝液から選択される。一実施態様においては、緩衝液は、リン酸緩衝液、又は酢酸緩衝液、又はクエン酸緩衝液、又はヒスチジン緩衝液から選択される。場合により、緩衝液は、追加の塩、例えば、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、クエン酸ナトリウム又はクエン酸カリウムなどを含んでもよい。
【0018】
用語「連続溶出」及び「連続溶出法」は、本願において互換的に使用され、溶出(すなわち、クロマトグラフィー材料からの結合している化合物の回収)を引き起こす溶液の伝導率が、連続的に(すなわち、濃度が、溶出を引き起こす物質の濃度の2%又は1%の変化より大きくない一連の小さな段階により変化する)、変化(すなわち、上昇又は下降)する方法を表す。この「連続溶出」では、1つ又は複数の条件、例えば、pH、イオン強度、塩の濃度及び/又はクロマトグラフィーの流量を、線形的に、又は指数関数的に、又は漸近的に変化させてもよい。一実施態様においては、該変化は線形的である。
【0019】
用語「イオン交換クロマトグラフィー材料」は、イオン交換クロマトグラフィーにおいて固定相として使用される、共有結合した荷電置換基を有する固定された高分子量のマトリックスを表す。全体の電荷を中性にするために、共有結合していない対イオンがそれと結合する。「イオン交換クロマトグラフィー材料」は、その共有結合していない対イオンを周囲の溶液の類似の荷電イオンと交換する能力を有する。その交換可能な対イオンの電荷によって、「イオン交換樹脂」は、陽イオン交換樹脂又は陰イオン交換樹脂と呼ばれる。荷電基(置換基)の性質によって、「イオン交換樹脂」は、例えば、陽イオン交換樹脂の場合、スルホン酸樹脂(S)、又はスルホプロピル樹脂(SP)、又はカルボキシメチル樹脂(CM)と呼ばれる。
【0020】
当業者であれば、例えば、ポリペプチドのアミノ酸配列を、このアミノ酸配列をコードする対応する核酸配列に変換する手順及び方法をよく知っているであろう。従って、核酸は、個々のヌクレオチドからなるその核酸配列により、そして、同様に、それによりコードされるポリペプチドのアミノ酸配列により特徴付けられる。
【0021】
用語「ポリ(エチレングリコール)」又は「ポリ(エチレングリコール)残基」は、主要部分としてポリ(エチレングリコール)を含有する非タンパク性残基を表す。そのようなポリ(エチレングリコール)残基は、結合反応に必要なさらなる化学基を含有することができ、これは、分子の化学合成から生じるか、又は分子の部分を最適な距離にするためのスペーサーである。これらのさらなる化学基は、ポリ(エチレングリコール)残基の分子量の計算に使用されない。また、そのようなポリ(エチレングリコール)残基は、共に共有連結した1つ又は複数のポリ(エチレングリコール)鎖からなることができる。2つ以上のPEG鎖を有するポリ(エチレングリコール)残基は、多岐又は分岐鎖ポリ(エチレングリコール)残基と呼ばれる。分岐鎖ポリ(エチレングリコール)残基は、例えば、ポリエチレンオキシドを、グリセロール、ペンタエリスリオール(pentaerythriol)及びソルビトールを含む様々なポリオールに付加させることにより調製することができる。分岐鎖ポリ(エチレングリコール)残基は、例えば、EP 0 473 084、US 5,932,462 に報告されている。一実施態様においては、ポリ(エチレングリコール)残基は20kDa〜35kDaの分子量を有し、直鎖ポリ(エチレングリコール)残基である。別の実施態様においては、ポリ(エチレングリコール)残基は、35kDa〜40kDaの分子量を有する分岐鎖ポリ(エチレングリコール)残基である。
【0022】
用語「エリスロポエチンとポリ(エチレングリコール)残基の融合」は、エリスロポエチンのN末端又は内部リシン残基に共有化学的に導入されたポリ(エチレングリコール)残基の連結を表す。融合は、1つのエリスロポエチン分子及び1つ又は複数のポリ(エチレングリコール)残基を含むタンパク質コンジュゲートを生じる。その融合プロセスは、また、PEG化として表され、そして、その生成物はPEG化エリスロポエチンとして表される。ポリペプチドとポリ(エチレングリコール)残基の融合/コンジュゲーションは、当技術分野において広く知られており、例えば、Veronese, F.M., Biomaterials 22 (2001) 405-417 に総説されている。ポリ(エチレングリコール)残基は、異なる官能基を使用して連結することができる。異なる分子量、異なる形態ならびに異なる連結基を有するポリ(エチレングリコール)を使用することができる(Francis, G.E., et al., Int. J. Hematol. 68 (1998) 1-18; Delgado, C., et al., Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Systems 9 (1992) 249-304 も参照されたい)。エリスロポエチンとポリ(エチレングリコール)残基の融合は、例えば、WO 00/44785に記載されているようなポリ(エチレングリコール)残基試薬を用いて水溶液中で実施することができる。融合は、また、Lu, Y., et al., Reactive Polymers 22 (1994) 221-229 に従って固相で実施することができる。無作為にではなくN末端融合体もWO 94/01451に従って生成することができる。
【0023】
用語「エリスロポエチンとポリ(エチレングリコール)を融合」及び「PEG化」は、1つのエリスロポエチン分子及び1つのポリ(エチレングリコール)残基を含むタンパク質コンジュゲートを得るための、エリスロポエチンのN末端及び/又は内部リシン残基でのポリ(エチレングリコール)残基間の共有連結の形成を表す。一実施態様においては、エリスロポエチンのPEG化は、5kDa〜40kDaの分子量のNHS活性化直鎖又は分岐鎖PEG分子を使用して水溶液中で実施される。
【0024】
本願において使用されるような、用語「結合に適する条件下」及びその文法的同等語は、対象の物質、例えば、PEG化エリスロポエチンが、例えば、イオン交換材料と接触させたとき固定相に結合することを表す。これは、対象の物質の100%が必ずしも結合する必要はないが、対象の物質の100%が本質的に結合する、すなわち、固定相に、対象の物質の少なくとも50%が結合する、対象の物質の少なくとも75%が結合する、対象の物質の少なくとも85%が結合する、又は対象の物質の95%超が結合することを表す。
【0025】
エリスロポエチンとポリ(エチレングリコール)の化学融合又はコンジュゲーションは、一般的に、ポリPEG化エリスロポエチン、モノPEG化エリスロポエチン、非PEG化エリスロポエチン、活性化PEGエステルの加水分解生成物ならびにそのエリスロポエチンの加水分解生成物などの、異なる化合物の混合物を生じる。実質的に均質の形態のモノPEG化エリスロポエチンを得るために、これらの物質を分離する必要がある。
【0026】
従って、本発明において記載される一態様として、実質的に均質の形態の1つのエリスロポエチン分子及び単一のポリ(エチレングリコール)残基を含むタンパク質コンジュゲートを生成するため方法であって、以下の工程:
a)20kDa〜40kDaの分子量の活性化ポリ(エチレングリコール)エステルを使用して、エリスロポエチンとポリ(エチレングリコール)をコンジュゲーションする工程、
b)工程a)で得られたコンジュゲートを、約21mS/cmの伝導率を有する溶液が適用されたSP Sephacryl S 500 HRクロマトグラフィー材料に適用する工程、
c)線形伝導率勾配溶出により、実質的に均質の形態の1つのエリスロポエチン分子及び単一のポリ(エチレングリコール)残基(モノPEG化エリスロポエチン)を含むタンパク質を回収して、それによって、エリスロポエチン及び単一のポリ(エチレングリコール)残基を含むタンパク質コンジュゲートを生成する工程
を含む方法を提供する。
【0027】
一実施態様においては、SP Sephacryl S 500 HRクロマトグラフィー材料は、クロマトグラフィーカラム内にある。この方法は、グリコシル化されたPEG化組み換えエリスロポエチン、すなわち、哺乳動物細胞、一実施態様においては、CHO細胞、又はHEK293細胞、又はBHK細胞、又はPer.C6(登録商標)細胞、又はHeLa細胞で産生され、その後、化学的にPEG化されたエリスロポエチンの精製に特に有用である。
【0028】
本方法の第一工程において、エリスロポエチンがPEG化される。PEG化反応で使用されるポリ(エチレングリコール)(PEG)ポリマー分子は、約20kDa〜40kDaの分子量を有する(本明細書で使用される用語「分子量」は、PEGの平均分子量として理解されたい(高分子化合物であるPEGは規定の分子量を有するものとして得られず、実際には、分子量分布を有するため);用語「約」は、PEG調製物において、いくつかの分子が表示分子量より大きい重量又はいくらか小さい重量を有することを指す。すなわち、用語「約」は、PEG分子の95%が表示分子量の+/−10%以内の分子量を有する分子量分布を指す。例えば、30kDaの分子量は、27kDa〜33kDaの範囲を表す)。
【0029】
用語「エリスロポエチン」及びその略称「EPO」は、配列番号:1もしくは配列番号:2のアミノ酸配列を有するタンパク質、又はそれと実質的に同種のタンパク質もしくはポリペプチドを指し、その生物学的特性は、骨髄において赤血球産生の刺激ならびにコミットした赤血球前駆細胞の分裂及び分化の刺激に関する。組み換えエリスロポエチンは、組み換えDNA技術により又は内在性遺伝子活性化(すなわち、エリスロポエチン糖タンパク質が内在性遺伝子活性化により発現される)により、真核細胞、例えば、CHO細胞、又はBHK細胞、又はHeLa細胞における発現を介して調製することができる。例えば、US 5,733,761、US 5,641,670、US 5,733,746、WO 93/09222、WO94/12650、WO95/31560、WO 90/11354、WO 91/06667及びWO91/09955 を参照されたい。一実施態様においては、エリスロポエチンは、ヒトEPOである。一実施態様においては、ヒトエリスロポエチンは、配列番号:1又は配列番号:2に記載のアミノ酸配列を有する。一実施態様においては、ヒトエリスロポエチンは、配列番号:1に記載のアミノ酸配列を有する。用語「エリスロポエチン」は、また、1つ又は複数のアミノ酸残基が、変化、欠失又は挿入されており、且つ、非修飾タンパク質と同等な生物学的活性を有する、配列番号:1又は配列番号:2のタンパク質の変異体を表し、例えば、EP 1 064 951又はUS 6,583,272 などに報告されている。変異体は、1〜6個の追加のグリコシル化部位を有するヒトエリスロポエチンのアミノ酸配列を有していてもよい。PEG化エリスロポエチンの比活性度は、当技術分野において公知の様々なアッセイにより測定することができる。精製PEG化エリスロポエチンの生物学的活性は、ヒト患者へ注射で該タンパク質を投与することにより、被験体の非注射群又は対照群と比較して、骨髄細胞が網状赤血球及び赤血球の産生を増加させることである。本明細書において記載される方法に従って得られ、精製されたPEG化エリスロポエチンの生物学的活性は、Bristow, A., Pharmeuropa Spec. Issue Biologicals BRP Erythropoietin Bio 97-2 (1997) 31-48 の方法により試験することができる。
【0030】
エリスロポエチンのアミノ酸配列変異体は、エリスロポエチンをコードするヌクレオチド配列に適切な修飾を導入することにより、又はペプチド合成により調製することができる。そのような修飾には、例えば、エリスロポエチンのアミノ酸配列内の残基の欠失、及び/又は挿入、及び/又は置換が含まれる。欠失、挿入及び置換を任意に組み合わせて、最終構築物に導くことができる(但し、該最終構築物は、ヒトエリスロポエチンと同等な生物学的活性を有するものとする)。
【0031】
保存的アミノ酸置換は、表1において「好ましい置換」の表題で示す。より大きな変化は、表1において「例示的置換」の表題で提供し、アミノ酸の側鎖分類に関して後述する。アミノ酸置換は、ヒトエリスロポエチン及びヒトエリスロポエチンの生物学的活性を保持するものとしてスクリーニングされた生成物に導入することができる。
【0032】
【表1】
【0033】
アミノ酸は、共通の側鎖特性に従って分類することができる:
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖配向に影響を及ぼす残基:Gly、Pro;
(6)芳香族性:Trp、Tyr、Phe
【0034】
非保存的置換は、これらのクラスの1つのメンバーを別のクラスにより交換することを伴う。
【0035】
エリスロポエチンの化学PEG化は、一般的に、リシン残基の1つ又は複数のε−アミノ基及び/又はN末端アミノ基でPEG化されているエリスロポエチンを含むタンパク質調製物を生じる。N末端アミノ酸での選択的PEG化は、Felix, A.M., et al., ACS Symp. Ser. 680 (Poly(ethylene glycol)) (1997) 218-238 に従って実施することができる。選択的N末端PEG化は、N
α−PEG化アミノ酸誘導体のペプチド鎖のN−1末端アミノ酸へのカップリングにより固相合成過程で達成することができる。側鎖のPEG化は、N
ε−PEG化リシン誘導体の成長鎖へのカップリングにより固相合成過程で実施することができる。N末端及び側鎖の組み合わせPEG化は、固相合成において上述したように、又は活性化PEG試薬をアミノ脱保護ペプチドに適用することによる液相合成により実現可能である。
【0036】
適切なPEG誘導体は、一実施態様においては、約5kDa〜約40kDa、別の実施態様においては、約20kDa〜約40kDa、さらなる実施態様においては、約30kDa〜約35kDaの平均分子量を有する活性化PEG分子である。PEG誘導体は、直鎖又は分岐鎖PEGであってよい。PEGタンパク質及びPEGペプチドコンジュゲートの調製での使用に適する様々なPEG誘導体を利用することができる。
【0037】
活性化PEG誘導体は当技術分野において公知であり、例えば、PEG−ビニルスルホンが、Morpurgo, M., et al., J. Bioconjug. Chem. 7 (1996) 363-368 に記載されている。直鎖及び分岐鎖PEG種は、PEG化フラグメントの調製に適している。反応性PEG試薬の例は、ヨード−アセチル−メトキシ−PEG、又はメトキシ−PEG−ビニルスルホンである(mは、一実施態様においては、約450〜約900の整数であり、Rは、1〜6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖低級アルキル、例えば、メチル、エチル、イソプロピルなどであり、メチルが好ましい):
【化1】
【0038】
これらのヨード−活性化物質の使用は、当技術分野において公知であり、例えば、Hermanson, G. T., in Bioconjugate Techniques, Academic Press, San Diego (1996) pp. 147-148 に記載されている。
【0039】
一実施態様においては、PEG種は、活性化PEGエステル、例えば、N−ヒドロキシスクシンイミジルプロピオネート、又はN−ヒドロキシスクシンイミジルブタノエート、又はN−ヒドロキシスクシンイミド、例えば、PEG−NHS(Monfardini, C., et al., Bioconjugate Chem. 6 (1995) 62-69)である。一実施態様においては、PEGは、アルコキシ−PEG−N−ヒドロキシスクシンイミド、例えば、メトキシ−PEG−N−ヒドロキシスクシンイミド(MW30000)を使用して、N−ヒドロキシスクシンイミドエステルにより活性化される。
【化2】
(式中、R及びmは、上記で定義されるとおりである)
一実施態様においては、PEG種は、メトキシポリ(エチレングリコール)酪酸のN−ヒドロキシスクシンイミジルエステルである。用語「アルコキシ」は、アルキルエーテル基を指す(ここで、用語「アルキル」は、最大4個の炭素原子を含有する直鎖又は分岐鎖アルキル基、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシなどであり、好ましくは、メトキシを意味する)。
【0040】
用語「実質的に均質の形態」は、得られる、含まれる、又は使用されるエリスロポエチンタンパク質融合体又はコンジュゲートが、規定数の付着したPEG残基を有するものであることを表す。一実施態様においては、PEG化エリスロポエチンは、モノPEG化エリスロポエチンである。調製物は、未反応(すなわち、PEG基欠損)エリスロポエチン、ポリPEG化エリスロポエチンならびにPEG化反応過程において生成したポリペプチドのフラグメントを含有してもよい。用語「実質的に均質の形態」は、モノPEG化エリスロポエチンの調製物が、少なくとも50%(w/w)のモノPEG化エリスロポエチン、又は少なくとも75%(w/w)のモノPEG化エリスロポエチン、又は少なくとも90%(w/w)のモノPEG化エリスロポエチン、又は95%(w/w)超のモノPEG化エリスロポエチンを含有することを表す。パーセント値は、モノPEG化エリスロポエチンが得られるクロマトグラフィー法に対応するクロマトグラムの面積%に基づいている。
【0041】
本明細書において、実質的に均質の形態のモノPEG化エリスロポエチンを得るためのPEG化エリスロポエチンの精製方法を記載する。PEG化エリスロポエチン調製物の適用の前に、約21mS/cmの伝導率を有する溶液によりクロマトグラフィー材料を条件付けする必要があることが見出された。クロマトグラフィー材料がより低い伝導率で条件付けされた場合、PEG化エリスロポエチン調製物の異なる種の分離の効率は低い。また、クロマトグラフィー材料に適用する前に、PEG化エリスロポエチン調製物の溶液の伝導率を調整することは有利ではない。さらに、また、段階勾配法の使用は、非PEG化エリスロポエチンをクロマトグラフィー材料から定量的に回収することができないので非効率的である。未反応の出発物質の回収は、これを、PEG化反応において再利用することができるため有利である。
【0042】
従って、本発明は、SP Sephacryl S 500 HRクロマトグラフィー材料を使用して、単一工程で、モノPEG化エリスロポエチンを得るための方法であって、最初に、約21mS/cmの伝導率を有する溶液をクロマトグラフィー材料に適用し、その後、PEG化エリスロポエチン調製物を含む溶液をクロマトグラフィー材料に適用することによる方法を提供する。粗タンパク質調製物の個々の成分を確実に分離するために、第一の溶液の伝導率を正確に制御する必要があることが見出された。
【0043】
従って、本明細書において記載されるような、エリスロポエチン及び単一のポリ(エチレングリコール)残基を含むタンパク質コンジュゲートを得るための方法は、以下の工程:
a)約21mS/cmの伝導率を有する溶液を、SP Sephacryl S 500 HRクロマトグラフィー材料を含むクロマトグラフィーカラムに適用する工程、
b)遊離エリスロポエチンとエリスロポエチン分子当たり1つ又は複数のポリ(エチレングリコール)残基を有するエリスロポエチン及びポリ(エチレングリコール)のタンパク質コンジュゲートとの混合物を含む溶液を、a)のカラムに適用する工程、
c)約21mS/cmの伝導率を有する溶液をカラムに適用して、それによって、遊離ポリ(エチレングリコール)、及び2つ以上のポリ(エチレングリコール)残基を含むタンパク質を回収する工程、
d)約62.5mS/cmの最終値まで連続的及び線形的に増加する伝導率を有する溶液をカラムに適用して、それによって、エリスロポエチン及び単一のポリ(エチレングリコール)残基を含むタンパク質と遊離エリスロポエチンとを別々に回収する工程(ここで、エリスロポエチン及び単一のポリ(エチレングリコール)残基を含むタンパク質が最初に得られる)
を含む。
【0044】
調製物の個々の成分を確実に分離するために、最初に、約21mS/cmの伝導率を有する溶液をクロマトグラフィー材料に適用する必要があることが見出された。
【0045】
一実施態様においては、本方法は、カラムクロマトグラフィー法である。
【0046】
一実施態様においては、PEG化エリスロポエチン調製物を含む溶液を適用する前に、約21mS/cmの伝導率を有する溶液は、クロマトグラフィー材料に8カラム容量まで適用される。一実施態様においては、約21mS/cmの伝導率を有する溶液は、pH2.5〜pH3.5のpH値を有する溶液である。一実施態様においては、約21mS/cmの伝導率を有する溶液は、pH2.5〜pH3.5のpH値を有するリン酸緩衝液である。
【0047】
PEG化エリスロポエチン調製物を含む溶液を適用した後、約21mS/cmの伝導率を有する溶液をカラムに適用して、それによって、遊離ポリ(エチレングリコール)と2つ以上のポリ(エチレングリコール)残基を含む融合タンパク質(すなわち、タンパク質コンジュゲート)をクロマトグラフィー材料から回収する。一実施態様においては、約21mS/cmの伝導率を有する溶液は、クロマトグラフィー材料に8カラム容量まで適用される。
【0048】
ポリPEG化エリスロポエチンがクロマトグラフィー材料から回収された後、線形伝導率勾配の連続溶出が開始される。クロマトグラフィー材料を通過する移動相の伝導率は、少なくとも約62.5mS/cmの伝導率まで連続的及び線形的に増加する。線形勾配では、最初、モノPEG化エリスロポエチンがカラムから回収され、その後、実質的に均質の非PEG化エリスロポエチンが回収される。伝導率の増加は、一実施態様においては、塩化ナトリウム濃度が増加した溶液を適用することによる。一実施態様においては、伝導率を増加させるために適用される溶液は、pH2.5〜pH3.5のpH値を有する。一実施態様においては、約21mS/cmの値〜少なくとも62.5mS/cmの最終値までの伝導率の増加は、10カラム容量の移動相の適用容量内である。
【0049】
一実施態様においては、約21mS/cmの伝導率を有する溶液は、約120mM塩化ナトリウムを有する(すなわち、含有する)、pH約3.0のpH値の約100mMリン酸ナトリウム又はカリウム緩衝液である。
【0050】
一実施態様においては、線形勾配は、pH約3.0のpH値の約100mMのリン酸ナトリウム又はカリウム緩衝液中の、約120mM〜約1000mM塩化ナトリウムの塩化ナトリウム濃度勾配である。
【0051】
一実施態様においては、遊離エリスロポエチン及び遊離ポリ(エチレングリコール)ならびにエリスロポエチン分子当たり1つ又は複数のポリ(エチレングリコール)残基を有するエリスロポエチン及びポリ(エチレングリコール)の融合タンパク質(すなわり、タンパク質コンジュゲート)の混合物を含む溶液は、1mg/ml〜4mg/mlのタンパク質をクロマトグラフィー材料1mlに適用するように、クロマトグラフィー材料に適用される。
【0052】
用語「SP Sephacryl S 500 HRクロマトグラフィー材料」は、陽イオン交換クロマトグラフィー材料、また、MacroCap SPを表す(共にGE Healthcareから入手可能である)。SP Sephacryl S 500 HRクロマトグラフィー材料は、一実施態様においては、クロマトグラフィー官能基としてスルホン酸を有するアリルデキストランとN,N−メチレンビスアクリルアミドの架橋コポリマーであり、従って、強陽イオン交換クロマトグラフィー材料である。
【0053】
下記の実施例、配列表及び図面は、本発明の理解を支援するために提供するものであり、その真の範囲は、添付の特許請求の範囲に記載する。本発明の精神から逸脱することなく、記載の手順において変更を実施することができることが理解される。
【0054】
配列表の説明
配列番号:01 ヒトエリスロポエチンのアミノ酸配列
配列番号:02 ヒトエリスロポエチンのアミノ酸配列