【実施例1】
【0015】
実施例1は、超音波を送受信する探触子と、探触子から検査対象に超音波を送受信し、検査対象から得られる受信データを処理する処理部を備え、処理部は、探触子から第1の超音波を検査対象に送受信して得られた受信データにより、検査対象の組織構造を検出し、検出した組織構造に基づいて、せん断波速度を検出する計測領域を決定し、計測領域に第2の超音波を送信して、せん断波を発生させ、計測領域に第3の超音波を送受信して得られた受信データにより、せん断波速度を算出する超音波診断装置の実施例である。
【0016】
また、実施例1は、弾性評価方法であって、超音波を送受信する探触子から第1の超音波を検査対象に送受信して得られた受信データにより、検査対象の組織構造を検出し、検出した組織構造に基づいて、せん断波速度を検出する計測領域を決定し、計測領域に第2の超音波を送信して、せん断波を発生させ、計測領域に第3の超音波を送受信して得られた受信データにより、せん断波速度を算出する弾性評価方法の実施例である。ここで、検出した組織構造に基づいてとは、例えば、検出した組織構造を除く領域で、などである。
【0017】
第1の実施例であるせん断波速度の計測法、及び超音波診断装置の構成例について、
図1のブロック図を用いて説明する。本実施例の超音波診断装置の構成において、上記の処理部は、後で詳述するように、制御部15と信号処理部24の総称である。
【0018】
まず本実施例で利用するRFデータおよび画像データの生成に関わる構成について説明する。
図1に記載の検査対象の体表面に設置させた、超音波を送受信する探触子11に対して、超音波信号を生成する送信ビームフォーマ(送信BF)13から送信パルス用の電気信号が、図示を省略したデジタルアナログ(D/A)変換器を経て探触子11に送られる。探触子11に入力された電気信号は内部に設置されたセラミック素子にて、電気信号から音響信号に変換され、被検体内に送信される。送信は複数のセラミック素子で行ない、被検体内の所定の深度で集束するように、各素子には所定の時間遅延が掛けられる。
【0019】
検査対象の内部を伝播する過程で反射した音響信号は再び探触子11にて受信され、送信時とは逆に電気信号に変換され、図示を省略したアナログデジタル(A/D)変換器を経て、受信した超音波信号から複素のRFデータを生成する受信ビームフォーマ(受信BF)14に受信データとして送られる。送受信の切替は、処理部である制御部15の制御に基づき、送受切替SW12で行なわれる。受信BF14では、複数の素子で受信した信号に対して、送信時に掛けた時間遅延を考慮した加算処理(整相加算)が行なわれ、減衰補正等の処理がなされた後、複素のRFデータとして、処理部である信号処理部24の血流の速度や方向を示すドプラ画像を生成するドプラ画像生成部16、またはRFデータから組織の形態情報を示す輝度モード(B)画像を生成するB画像生成部17に送られる。
【0020】
信号処理部24が受信した受信データであるRFデータは、最終的に表示部20に表示される画像データのうち、超音波の送受信方向に沿った特定の1ラインの要素データとなる。検査対象に対する超音波の送受信を、探触子11を構成するセラミック素子の配列方向に順次切り替えて実施することにより、画像データの構成要素となる全ての受信データとしてRFデータが取得される。
【0021】
取得した受信データであるRFデータは信号処理部24のB画像生成部17において、ゲイン制御、対数圧縮、包絡線検波など、普及している超音波診断装置で一般的に用いられている画像生成処理が実施され、検査対象の内部の形態情報を示すB画像が生成される。
【0022】
一方、信号処理部24のドプラ画像生成部16では相関演算により血流情報(速度や方向)が算出され、ドプラ画像が生成される。なお、ドプラ画像の生成に関しては超音波の送受シーケンスがB画像の方式と異なるが、技術内容は一般的に既知の内容であるため詳細説明は省略する。B画像およびドプラ画像は、シネメモリ(cine memory)18に記憶される。生成されたB画像やドプラ画像は、スキャンコンバータ19にて探触子の種類に応じた座標変換と画素補間が為され、これらの画像、評価した画像や数値を表示する表示部20に表示される。
【0023】
図1に示すように、信号処理部24は、更に組織構造を検出する構造検出部21、計測領域を調整する計測領域調整部22、計測領域で計測したせん断波速度を用いて計測領域の弾性を評価する弾性評価部23を備える。
【0024】
信号処理部24の構造検出部21では受信BF14からの受信データを利用して、せん断波の散乱に影響する組織構造を検出し、組織構造を強調した構造マップを生成する。すなわち、信号処理部24の構造検出部21は、組織構造の位置と大きさを示す構造マップを作成する。作成された構造マップは表示部20に表示され、術者がせん断波を計測する領域を指定する際のサポート情報となる。
【0025】
なお、
図1に示した超音波診断装置の構成にあっては、構造検出部21はFRデータを利用して構造マップを生成しているが、後で順次説明するように、
図2の超音波診断装置の変形構成例に示す通りシネメモリ18に保存される画像データを用いることもできる。
【0026】
信号処理部24の計測領域調整部22は、生成された構造マップの情報を利用して、組織構造の影響が少ない領域を自動的に判定する。計測領域が組織構造を含む場合、計測領域から組織構造の影響が少ない領域を判別し、組織変位を計測する範囲を限定する。
【0027】
信号処理部24の弾性評価部23は、計測領域調整部22で判定した計測領域にてバースト波送信とトラックパルスの送受信を行ない、組織弾性に関係する情報を評価する。
【0028】
図1、2に示した本実施例の超音波診断装置の構成において、装置本体内のデータフローや処理全般を制御する制御部15と信号処理部24は、中央処理部(Central Processing Unit:CPU)とメモリを備える通常のコンピュータ構成によって実現可能である。すなわち、シネメモリ18と、必要に応じてハードウェアで実現されるスキャンコンバータ19を除き、CPUのプログラム処理で実現することができる。そこで、本明細書においては、信号処理部24に制御部15を併せて処理部と呼ぶこととする。
【0029】
次に、
図4の機能説明図を利用して、本実施例の構成における信号処理部24の弾性評価部23の詳細について説明する。上述のように、本機能処理は、CPUにおけるプログラム処理によって実現できる。
【0030】
同図に示すように、弾性評価部23は、前記計測領域制御にて確定した計測領域内にて、放射圧を発生させるための超音波バースト波の送波条件である、集束位置、送信角度、バースト長、電圧、周波数、駆動素子数など送波に必要な音響パラメータ等を確定する第2超音波制御機能25と、座標情報に基づき、組織の変位を計測するための超音波パルス波(トラックパルス)の送波条件である、集束位置、送信角度、波数、電圧、周波数、送受信回数、駆動素子数など送波に必要な音響パラメータ等を確定する第3超音波制御機能26と、超音波送受信部から出力されるRFデータを利用して組織の変位を計測する変位計測機能27と、変位計測機能の結果を利用してせん断波速度を計測する速度計測機能28と、速度計測機能の結果を利用して組織の弾性情報(ここでは、歪、せん断波速度、縦波速度、ヤング率、剛性率、体積弾性率、ポアソン比、粘性率など物質の変形や流動に関する物性値全般を指す)を評価する弾性評価機能29を備える。なお、せん断波の到来時間は、変位計測機能27において計測した変位の時間変化から、最大値、最小値、最大値と最小値の中間値などを利用して算出することができる。
【0031】
同図において、まず第2超音波制御機能25により、指定された計測領域の位置座標に基づきプッシュパルスの送波条件が確定される。生体への影響がなく、効果的にせん断波を発生させる送波条件は、概ねFナンバ=1~2(口径の幅を焦点深度で割った値)の集束条件が適当であり、強度およびバースト長として強度は0.1~1kW/cm
2、バースト長は100〜1000μsの範囲が適している。
【0032】
ここで口径の幅は、実際には駆動するセラミック素子の範囲であり、素子間隔の離散的な値を取る。そして理想的な焦点領域を形成するため、各素子への印加電圧には口径重み(アポダイゼーション)が掛けられる。口径の中心から隅にかけて重みを減らすことにより、回折の影響による焦点領域の乱れを抑制する。但し、口径重みは強度を低下させる短所もあるため、評価位置が深部で減衰の影響が大きい場合には、領域形成よりも強度を優先させ、口径重みを軽くする場合もある。また、送信周波数は探触子11の感度帯域の中心周波数近傍とするのが効果的である。プッシュパルスの送波条件は直ちに制御部15を介して送信BF13に送られ、探触子11から生体内に照射される。
【0033】
続いて、第3超音波制御機能26により、トラックパルスの送波条件が確定される。周波数、波数、Fナンバなどの音響パラメータは画像データを生成する時の条件とほぼ同じとなる。検査対象が腹部の場合、周波数は1~5MHz、波数は1~3波、Fナンバは1~2の条件が利用される。
【0034】
トラックパルスの送信により取得される生体からの反射信号は、探触子11を介して受信BF14に送られ、複素のRFデータが生成される。RFデータは変位計測機能27に入力され、せん断波の伝搬に伴う組織変位が計測される。変位計測機能27は、パルス繰り返し周期(Pulse Repetition Time:PRT)の時間間隔で取得したRFデータ間による複素相関演算により実施される。この場合、本実施例においては、単位時間における変位として粒子速度を算出する。プッシュパルスの送波前のRFデータを基準に、変位の絶対値を算出する方式もあるが、粒子速度は、探触子の振れや生体組織の自然な動きに伴う低周波成分を除去し、せん断波を高感度に計測する効果がある。
【0035】
変位計測機能27における演算は取得した全てのRF信号に対して行なわれ、算出された変位情報に基づいて、速度計測機能28にてせん断波の速度が計測される。
【0036】
最後に弾性評価機能29にて、計測したせん断波の速度に基づき、組織の弾性情報(ここでは、歪、せん断波速度、縦波速度、ヤング率、剛性率、体積弾性率、ポアソン比、粘性率など組織の物性値全般を指す)が評価される。
【0037】
次に、
図3のフローチャートに基づいて、本実施例の装置の信号処理部24の構造検出部21と計測領域調整部22において、構造マップの生成から計測領域の自動制御に至る詳細内容を説明する。
【0038】
同図において、工程31は第1超音波(パルス信号)の送受信によりB像を取得し、術者は検査対象の全体像の観察と弾性評価計測に適した撮像面、例えば、1cm程度の大血管など計測に明らかに影響する組織構造が含まれない面の探索を行なう。
【0039】
工程32ではせん断波の波面形状を乱す原因となる組織構造を検出する。
図5は組織構造を通過する前後の波面を模式的に表わしたものである。同図の左側に示すように、検査対象51の内部には組織構造52が存在し、これに向けてせん断波53が進行している。同図の右側に示すように、組織構造52を通過した後のせん断波54は回折や屈折の作用により波面形状が変化している。
【0040】
せん断波の速度を算出する際には、空間上に設置する計測点に波面が到達する時間を利用する。すなわち、波面形状が乱れている場合には、波面の場所によって到達する時間が変わることになり、速度計測の誤差に強く影響する。組織構造検出工程32で検出の対象となる組織構造は、せん断波の特性上、波が透過しない血管が主な対象となるが、他にも局所的な線維組織やのう胞が対象に含まれる。ここでは簡便のため組織構造として血管を例に説明を続ける。
【0041】
以下に、組織構造の検出の第1〜第4の方法と、その結果得られる構造マップについて説明する。第1の方法は、人間の視覚効果を利用する方法であり、第1の超音波を検査対象に送受信して得られた受信データに基づき、B画像生成部17で生成されたB画像の輝度(グレースケールでは白黒の濃淡)を反転した反転画像を構造マップとして利用する。画像データが8ビット(bit)の場合、
図6の数式1の処理で反転画像が構成される。数式1において、Rは画像データを表わす。血管はB像上では黒に配色されるのが一般的であるが、反転画像上では白に配色される。白は黒に比べて進行色もしくは膨張色であるため、反転画像上では細かい血管が強調または拡大されて見えるため、血管の視認が容易になる。
【0042】
図7に、第1の方法で用いるB画像と反転画像の一例を示す。同図の左側に示すB画像71には白の検査対象72と黒の血管73が示されている。一方、同図の右側に示す反転画像74では配色が反転し、検査対象75と血管76は各々黒と白に配色される。図面では判断が難しいが、反転画像74上では、B画像71に比べて血管が強調されて見える。この効果は、超音波診断装置が通常使用される暗室では更に強調される。
【0043】
また、この第1の方法においては、反転画像74に代え、組織構造に配色をしたカラ−画像を構造マップとして用いることもできる。
図8は同図左側のB画像81を、同図右側のカラー画像84に変更したものであり、B画像81には白の検査対象82と黒の血管83が示されているが、例えば血管86を膨張色である赤、検査対象85を縮小色である青で配色することにより、血管の視認性を向上できる。
【0044】
以上説明した組織構造検出の第1の方法は、シネメモリ18に記憶されたB画像生成部17で生成したB画像であるスキャンコンバージョン前、或いは後の信号を利用するため、装置構成は先に説明した
図2に対応する構成を利用する。
【0045】
組織構造検出の第2の方法は、ドプラ画像生成部16で生成したドプラ画像を構造マップとして利用する。血管を検出する上では最も直接的なアプローチであるが、低速血流に対する感度が低いことや、画像の取得に時間を要する問題がある。時間の問題は重要であり、構造マップの表示に時間が掛かると、計測領域を設定する段階で既に別の撮像面に移動している可能性があり、血管を避けて計測領域を設定する目的を達成できない。撮像技術の進展により前記問題が解決する場合には、構造マップとして有用性が高くなる。すなわち、
図9の左側のB画像91を、同図右側のドプラ画像94に変更したものであり、検査対象92に対する血管93に比較し、検査対象95に対する血管96の視認性を向上できる。
【0046】
この第2の方法はドプラ画像生成部16から出力され、シネメモリ18に記憶されたドプラ画像を利用するため、装置構成は第1の方法同様、
図2に対応する構成となる。
この他、超音波診断装置には組織構造を示す表示形態が多数備えられており、この表示を構造マップとして利用することも本実施形態に含む。例えば組織に対して外部から圧力を加え、その応答である歪を計測してカラーマップ表示する機能(エラストグラフィ)も広く知られている。このように、組織弾性に関連する表示画像や、非線形信号のみを抽出した高調波画像も組織としての均質性を評価する上で有用な情報であり、計測領域の自動選定に有用な構造マップとなる。
【0047】
組織構造検出の第3の方法はフィルタ処理を利用する。この方法は、構造マップを、組織構造の形状に合わせたマスクを有するフィルタ処理により作成するものである。
図10は、このフィルタ処理を説明するための図である。
図10上段の(a)はB画像101、
図10中段の(b)は上段の(a)のAで示すラインの輝度プロファイル102、
図10下段の(c)はフィルタ処理で利用するマスク103を示す。
【0048】
このマスク103は、中心の1画素とそれから等距離(
図10ではD)だけ離れた画素を1とし、その他の画素値を0とするリング状の形状を持つ。本フィルタの特性としては、
図10中段の(b)に示すように、マスク103の中心画素で輝度プロファイル102のピーク値を検知し、その周囲にリング状に配置した画素(リング画素)で輝度プロファイル102の形状を検知する。輝度プロファイル102が円形でない場合や、Dより広い半値幅を持つ場合、中心画素とリング画素で検知する輝度プロファイル102の輝度値の差異が小さくなる。つまり円形の形状で、かつDより狭い半値幅を持つ組織構造が、中心画素とリング画素で検知する画素の輝度差が大きくなる。この輝度差を利用することで、所望の形状を有する組織構造である組織構造物のみを検知した構造マップが構成される。
【0049】
図11を利用して、第3の方法の具体的な処理フローを説明する。同図において、まず弾性評価に利用するB画像111上に関心領域(Region of Interest:ROI)112を設置し、抽出画像113を得る。
図6の数式1に従って輝度を反転させて反転画像114を得、これを行列Rと表わす。続いて、マスクの中心画素に相当する第1マスク115(M1)とマスクのリング画素に相当する第2マスク116(M2)を用意する。両マスクサイズは、反転画像114と同じにする。
【0050】
図6の数式2および数式3に従って、反転画像114と第1マスク115、反転画像114と第2マスク116の成分同士の積算を実施し、その最大値(I
cおよびI
n)を算出する。次に
図6の数式(4)によりI
cおよびI
nの差分値を算出する。この差分値を設置したROI112の代表値とする。
【0051】
以上の処理をB画像111の全ての画素で実施し、設置するROIの代表値を2次元プロットすることで第3の方法の構造マップが形成される。構造マップは、半径Dの円形形状の血管に強い輝度を持ち、B画像を直接利用する場合に比べて簡易に血管位置を判定できる。
【0052】
上述の説明では血管検出に特化した内容であるが、輝度と形態の情報を利用して特定の組織構造である組織構造物を抽出するという意味では、腫瘍や線維化、石灰化の検出にも適用可能である。なお、腫瘍、線維化、石灰化は、血管とは逆で画像上で高輝度となるため、
図11に示す処理フローにおいて、輝度を反転させる反転処理は不要である。
【0053】
図12左側に、マスクの中心画素を広げた形態121を示す。この場合、輝度プロファイルのピーク値の位置に対して冗長性を持ち、構造マップで描出される血管をより強調できる。また、
図12右側はマスクを簡略化した形態122であり、この場合は処理時間の短縮が実現する。
【0054】
図13は第3の方法のフィルタ処理を実施した結果の一例を示す。B画像131には検査対象132とその構造物133、134が模式的に表わされている。構造物133に対応するマスクを設置した場合、これと異なる形状や大きさを有する構造、例えば構造物134はフィルタ処理によって検知されず、構造マップ135が取得される。
【0055】
なお、マスクの形状は任意に変更可能であり、例えば
図14左側のマスク141、または
図14右側に示すマスク142の形状によれば、
図15左側のB画像151から、同図右側の構造マップ152のようにライン形状の構造を検出できる。以上説明した第3の方法は、受信BF14の直後のRFデータ、またはスキャンコンバータ19の前後のビデオデータのいずれのデータ形式にも対応する。そのため、第3の方法の装置構成は、
図1および
図2の両構成に対応する。
【0056】
組織構造検出の第4の方法は、相関演算を利用する。この方法は、構造マップを、空間的に異なる位置で取得する複数の前記受信データ、又は空間的に同じ位置で異なる時間で取得する複数の受信データを利用して、相関演算により算出するものである。
図16上左側に示すように、検査対象の特定の位置にて超音波信号を送受信し、続いて位置を僅かに移動させて再度超音波信号を送受信する。そして、取得した各超音波信号に対して、
図6の数式5の相関演算を実施する。血管内部など輝度が低い構造物では空間上での輝度や形状の相関性が低くなるため、演算結果の相関値は低くなる。
【0057】
別の方法として、
図16上右側に示すように時間を変え、超音波の送受信を同一位置にて二回実施し、相関演算を行なう方式でも同様の結果が得られる。
図6の数式5に記載の方法が空間上での相関性を利用しているのに対し、
図6の数式6に記載の方法は時間軸上での相関性を利用していることとなる。
【0058】
この第4の方法において、相関値が低い位置を強調した相関値マップをB画像に重畳表示することにより、血管位置を示す構造マップが形成される。第4の方法は、第3の方法と同様にRFデータおよびビデオデータの双方のデータ形式に対応する。したがって、装置構成は
図1および
図2に対応する。この第4の方法は、信号輝度に対する感度はRFデータの方が高く、構造マップの構成に適している。
【0059】
さて、
図3のフローチャートの工程34では工程33で作成した構造マップを利用して計測領域の位置を決める。
図17は、
図1の超音波診断装置の表示部20などに表示される、B画像と構造マップの表示形態の一例を示す。表示画面171に、B画像172と構造マップ173が並列表示されている。並列表示することにより、術者は検査対象の全体像をB画像172で把握しながら、計測領域の位置は関係する構造物を抽出した構造マップ173を利用して設定できる。また、B画像172上に半透明化した構造マップ173を重畳表示する形態の場合は、視線移動が少ないため有用な形態の一例である。なお、同図の表示画面171には、術者がマニュアルで領域設定を行うか、或いは自動設定を行うかの選択を行う領域設定ボタン174を設ける。
なお、設定した計測領域は、ポインタ等の一般的に知られる外部入力機能により、術者が自由に微調整できる。微調整した結果、計測領域に本来は避けるべき構造物が含まれた場合、計測領域の色や明滅や音といった感覚的に判る形態で術者にアラートとして認識させる機能を有する。構造マップして利用する情報は術者が自由に選択でき、例えばドプラ画像などの血管抽出画像と弾性画像が選択された場合、均質領域として自動認識される領域は、血管構造がなく、歪分布が均質な領域が選択される。これに伴い、微調整によるアラートは例えば多段階になる。例えば
図20には、血管画像201と歪画像203を重畳した構造マップ205を図示している。これに計測領域を設定する場合、領域206は最も高い適正を示す太枠、領域207は中間の適正を示す中太の枠線、領域208は不適を示す細枠として、術者に弾性評価に対する適正度合を認識させる画像を画面に表示する。このような画面表示や音といったアラート機能は、例えば計測領域調整部22により実現され、構造マップを表示しない、もしくは重畳しない並列表示するときに特に効果的である。構造マップをB像に重畳させた場合、時には情報過多となり、B像による全体認識が難しくなる場合が考えられる。この場合には、構造マップを表示しないか、並列表示させる必要があり、領域設定の適正度合は、アラート機能のみで効果的に実行される。
【0060】
図18に本実施例の装置により、計測領域を設定する際の形態の一例を示す。同図に示すように、バースト波送信およびトラックパルスを送受信する範囲を示す計測領域181を、B画像または構造マップ上で設置する。弾性評価を実施する位置は、術者が手動で行なうか、または、構造マップ上で表示されている構造物を避ける形で自動的に設置する。この計測領域181が構造物を避けた形で設定されたもの、言い換えるなら計測領域の正当性を示すため、色の違い、色の濃淡、色の透明度で視覚的に表示することができる。
【0061】
上述の通り、
図17の表示画面171上に領域設定ボタン174が備えられており、手動か自動かを任意に設定できる仕組みになっている。弾性評価を実施する位置が確定すると同時に、せん断波を計測する計測する計測領域175が確定する。
【0062】
図18の(a)に示すように、この計測領域175内に構造物を含まない場合と、
図18の(b)に示すように、構造物を含む場合とでそれぞれ表示する計測領域181、182の配色や濃度、透明度などを変化させることにより、計測領域の正当性を視覚的に認識させ、より最適な位置決めが可能となる。更に、構造物がせん断波の波面に与える影響は、伝搬するせん断波の波長に強く依存する。そのため、計測領域182に構造物が含まれる場合、その構造物の大きさに応じて配色等を変化させる方法も、位置決めを行なう上で重要な情報となる。
【0063】
図3のフローチャートに戻り、工程35では、計測領域の調整を行なう。この計測領域の調整は、信号処理部24において、得られた構造マップに基づいて、組織構造を避ける位置に計測領域を限定し、または、計測領域を移動させることによって行われる。すなわち、工程34での位置決めの際に、計測領域が構造物を含む場合の処理工程である。第1の調整方法は、計測領域を限定する方法である。
図19左側には破線で示す調整前の計測領域191と、調整後の計測領域192、構造物193を示す。調整後の計測領域192は、構造物193を含む伝搬経路を除く範囲に限定して設置されている。その結果、組織変位を計測する範囲は狭くなり、その分のデータ数も低減するが、予め確定されている計測位置を変更せずに計測が実施される。
【0064】
第2の調整方法は、計測領域を移動させる方法である。
図19右側には、破線で示す調整前の計測領域191、構造物193、調整前の焦域194、および、調整後の計測領域196、調整後の焦域195が表わされている。ここで焦域とは音響放射圧が発生する領域をさす。この第2の調整方法では、計測領域のサイズを変えずに、構造物を含まない位置に移動させる。具体的には、計測領域の中心位置と構造物の中心位置とのベクトル、すなわち距離と方向の情報を算出し、このベクトルと逆方向に移動することで、移動量を最小化できる。第2の調整方法では、焦域も移動させるため、ベクトル情報は装置本体の制御部15に送られ、探触子11の送信条件である駆動チャンネル数やフォーカス深度の制御が実施される。
【0065】
続いて、
図3の工程36では音響放射圧およびせん断波を発生させるための第2超音波(バースト波)の送信が行なわれ、工程37ではせん断波の伝搬に伴う組織の変位量を計測するための第3超音波送受信が実施される。工程38ではせん断波の速度情報に基づき、検査対象の弾性評価が実施され、表示部20に数値が提示される(工程39)。
【0066】
以上、説明してきた種々の実施の形態により、組織構造による波面乱れを抑制し、信頼性が高い組織弾性評価が実現される。その結果、超音波診断装置の検査時間の短縮、術者や患者負担の軽減、診断確度の向上が期待できる。
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態は本発明のより良い理解のために詳細に説明したのであり、必ずしも説明の全ての構成を備えるものに限定されものではない。また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることが可能である。例えは、
図1の構成と
図2の構成を合わせ持つ信号処理部を利用することができる。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0067】
更に、上述した各構成、機能、処理部等は、それらの一部又は全部を実現するプログラムを作成する例を中心に説明したが、例えばスキャンコンバータなど、それらの一部又は全部を例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現しても良いことは言うまでもない。