特許第5735827号(P5735827)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5735827粘度指数向上剤、潤滑油用添加剤および潤滑油組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5735827
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】粘度指数向上剤、潤滑油用添加剤および潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 145/14 20060101AFI20150528BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20150528BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20150528BHJP
   C10N 30/02 20060101ALN20150528BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20150528BHJP
【FI】
   C10M145/14
   C10N20:02
   C10N20:04
   C10N30:02
   C10N40:25
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-64151(P2011-64151)
(22)【出願日】2011年3月23日
(65)【公開番号】特開2012-197399(P2012-197399A)
(43)【公開日】2012年10月18日
【審査請求日】2013年5月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JX日鉱日石エネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】高木 彰
(72)【発明者】
【氏名】矢口 彰
(72)【発明者】
【氏名】田川 一生
(72)【発明者】
【氏名】白濱 真一
【審査官】 ▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−518052(JP,A)
【文献】 特開平03−039383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
C10N 10/00−80/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジビニルベンゼンと、ステアリルメタアクリレートおよびメチルメタアクリレートを含むアルキルメタアクリレートとを反応させて得られる、前記ジビニルベンゼンに由来するコア部および前記アルキルメタアクリレートの重合鎖であるアーム部を有する星型重合体を含有し、
前記アルキルメタアクリレートに占める前記ステアリルメタアクリレートの比率が、前記アルキルメタアクリレート全量を基準として、40〜70質量%である、粘度指数向上剤。
【請求項2】
前記アルキルメタアクリレートに占める前記メチルメタアクリレートの比率が、前記アルキルメタアクリレート全量を基準として、50質量%以下である、請求項1に記載の粘度指数向上剤。
【請求項3】
前記アルキルメタアクリレートに占める炭素数10〜16のアルキル基を有するアルキルメタアクリレートの比率が、前記アルキルメタアクリレート全量を基準として、0〜40質量%である、請求項1または2に記載の粘度指数向上剤。
【請求項4】
前記アーム部の数平均分子量が10,000〜60,000である、請求項1〜のいずれか一項に記載の粘度指数向上剤。
【請求項5】
前記星型重合体の数平均分子量が50,000〜1,000,000である、請求項1〜のいずれか一項に記載の粘度指数向上剤。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか一項に記載の粘度指数向上剤を含む潤滑油用添加剤。
【請求項7】
潤滑油基油と、請求項1〜のいずれか一項に記載の粘度指数向上剤とを含有する潤滑油組成物。
【請求項8】
150℃におけるHTHS粘度が1.4mPa・s以上であり、かつ100℃におけるHTHS粘度が5.4mPa・s未満である、請求項に記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粘度指数向上剤、潤滑油用添加剤および潤滑油組成物に関する。具体的には、省燃費型内燃機関用潤滑油などの分野において有用な粘度指数向上剤、潤滑油用添加剤および潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリン、ディーゼルを問わず内燃機関用潤滑油は省燃費特性の向上が求められている。その要求値も年々厳しくなり、従来の潤滑油技術では到底することが出来ない要求値になってきている。そのような状況の元、省燃費特性に最も影響をおよぼす粘度指数向上剤に関する開発がなされており、直鎖型のポリメタアクリレート(ポリメタクリレート、ポリメタアクリル酸アルキルエステル、またはPMAとも呼ばれる)や星型のポリメタアクリレートなどが開発されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、炭素数1および/または2のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、炭素数12および/または13のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、炭素数14および/または15のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、並びに炭素数16〜24のアルキル基から選ばれる1種以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを必須構成単量体とする共重合体を含有してなるGTL基油用粘度指数向上剤が開示されている。
【0004】
また、下記特許文献2には、(a)(i)コア部分であって、多価(メタ)アクリル酸モノマー、それらのオリゴマーまたは重合体、あるいは多価ジビニル非アクリル酸モノマー、それらのオリゴマーまたは重合体を含むコア部分;および(ii)重合された(メタ)アクリル酸アルキルエステルの少なくとも2本のアームを含む星形重合体および(b)潤滑粘性のあるオイルを含有する組成物であって、該コア部分が特定の官能基を含む星型重合体およびそれらの組成物が開示されている。具体的には、コア部分がC12〜C15/C8共重合体、C12〜C15/C1共重合体などが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−88215号公報
【特許文献2】特開2008−518052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に開示されている粘度指数向上剤であっても、実用化に供し得るものとしては未だ改善の余地がある。例えば、特許文献1に開示されている直鎖型ポリメタアクリレートの場合、粘度温度特性に優れ初期の省燃費特性は良いが、せん断安定性が悪いため、長期間使用時の省燃費特性が低下する問題がある。また、特許文献2に開示されている星型ポリメタアクリレートの場合、せん断安定性に優れるが、本来的な省燃費特性向上効果が十分にあるとはいえない。
【0007】
さらに、最近では省燃費特性に加え、廃棄物の削減の観点からロングドレイン性も求められてきている。通常潤滑油は使用により酸化劣化し、初期性能を保ちにくくなるため、長期使用により初期に有していた省燃費特性が悪くなることが問題視されている。この原因は、使用している粘度指数向上剤の安定性に関するものであるが、単純な安定性ではなく、せん断を受けることによるポリマーの切断が問題視されている。また、省燃費に関してもSAEの粘度グレードを維持しつつ、かつ実用域でのせん断粘度を下げることが要求されているが、まだその要求を満たすものは見出されていない。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、粘度温度特性、せん断安定性および酸化安定性に優れ、省燃費特性およびロングドレイン性を達成することが可能な粘度指数向上剤、ならびに該粘度指数向上剤を用いた潤滑油用添加剤および潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、下記[1]〜[6]に記載の粘度指数向上剤、下記[7]に記載の潤滑油用添加剤および下記[8]、[9]に記載の潤滑油組成物を提供する。
[1]ジビニルベンゼンと、ステアリルメタアクリレート(n−オクタデシルメタアクリレート、メタクリル酸ステアリルまたはメタクリル酸n−オクタデシルとも呼ばれる)を含むアルキルメタアクリレートとを反応させて得られる、ジビニルベンゼンに由来するコア部およびアルキルメタアクリレートの重合鎖であるアーム部を有する星型重合体を含有する、粘度指数向上剤。
[2]上記アルキルメタアクリレートに占めるステアリルメタアクリレートの比率が、アルキルメタアクリレート全量を基準として、40〜100質量%である、[1]に記載の粘度指数向上剤。
[3]上記アルキルメタアクリレートに占めるメチルメタアクリレートの比率が、アルキルメタアクリレート全量を基準として、0〜50質量%である、[1]または[2]に記載の粘度指数向上剤。
[4]上記アルキルメタアクリレートに占める炭素数10〜16のアルキル基を有するアルキルメタアクリレートの比率が、アルキルメタアクリレート全量を基準として、0〜40質量%である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の粘度指数向上剤。
[5]上記アーム部の数平均分子量が10,000〜60,000である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の粘度指数向上剤。
[6]上記星型重合体の数平均分子量が50,000〜1,000,000である、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の星型粘度指数向上剤。
[7][1]〜[6]のいずれか一項に記載の粘度指数向上剤を含む潤滑油用添加剤。
[8]潤滑油基油と、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の粘度指数向上剤とを含有する潤滑油組成物
[9]150℃におけるHTHS粘度が1.4mPa・s以上であり、かつ100℃におけるHTHS粘度が5.4mPa・s未満である、[8]に記載の潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0010】
以上の通り、本発明によれば、粘度温度特性、せん断安定性および酸化安定性に優れ、省燃費特性およびロングドレイン性を達成することが可能な粘度指数向上剤、ならびに該粘度指数向上剤を用いた潤滑油用添加剤および潤滑油組成物が提供される。
さらに、本発明によれば、内燃機関に使用される燃料がガソリンまたはディーゼル燃料のいずれであるかを問わず、上記の効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0012】
[第1実施形態:粘度指数向上剤]
本発明の第1実施形態に係る粘度指数向上剤は、ジビニルベンゼンと、ステアリルメタアクリレートを含むアルキルメタアクリレートとを反応させて得られる、ジビニルベンゼンに由来するコア部およびアルキルメタアクリレートの重合鎖であるアーム部を有する星型重合体を含有する。
【0013】
星型重合体のアーム部は、ジビニルベンゼンのビニル基を起点とする、ステアリルメタアクリレートを含有するアルキルメタクリレートの重合鎖である。当該アーム部を構成するアルキルメタアクリレートに占めるステアリルメタアクリレートの比率は、アルキルメタアクリレート全量を基準として、40〜100質量%であることが好ましく、45〜100質量%であることがより好ましく、50〜100質量%であることがさらに好ましく、55〜100質量%であることが特に好ましい。ステアリルメタアクリレートの比率が上記の範囲内であると、粘度温度特性、せん断安定性および酸化安定性を一層高水準でバランス良く達成することができる。
【0014】
また、省燃費特性の観点から、アーム部を構成するアルキルメタアクリレートはメチルメタアクリレートを含むことが好ましく、この場合のメチルメタアクリレートの比率は、アルキルメタアクリレート全量を基準として、20質量%以上であることが好ましい。一方、溶解性、粘度温度特性、せん断安定性および酸化安定性を一層高水準でバランス良く達成する観点からは、メチルメタアクリレートの比率は、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、43質量%以下であることがさらに好ましい。
【0015】
また、アーム部を構成するアルキルメタアクリレートがメチルメタアクリレートを含む場合、ステアリルメタアクリレートおよびメチルメタアクリレートの比率の合計は、アルキルメタアクリレート全量を基準として、好ましくは60〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは80〜100質量%である。当該比率の合計が上記の下限値に満たない場合には、せん断安定性に優れるが、本来的な省燃費特性向上効果が不十分となるおそれがある。
【0016】
また、アーム部を構成するアルキルメタクリレートは、炭素数10〜16のアルキル基を有するアルキルメタアクリレートをさらに含有してもよい。かかるアルキルメタアクリレートには、ウンデシルメタアクリレート、ドデシルメタアクリレート、トリデシルメタアクリレート、ヘプタデシルメタアクリレートおよびヘキサデシルメタアクリレートが包含される。この場合、アルキルメタアクリレートに占める炭素数10〜16のアルキル基を有するアルキルメタアクリレートの比率は、アルキルメタアクリレート全量を基準として、0〜40質量%であることが好ましい。炭素数10〜16のアルキル基を有するアルキルメタアクリレートの比率が上記上限値を超えると、基油への溶解性が低下する傾向にある。
【0017】
本実施形態に係る星型重合体において、アームの数平均分子量は、好ましくは10,000〜60,000、より好ましくは12,000〜50,000、さらに好ましくは13,000〜40,000、最も好ましくは15,000〜30,000である。アーム部の数平均分子量が上記下限値に満たない場合は、粘度が過剰に高くなり省燃費特性が低下するおそれがあり、また、上記上限値を超えるとせん断安定性が悪くなるおそれがある。
【0018】
また、星型重合体の数平均分子量は、好ましくは50,000〜1,000,000、より好ましくは100,000〜800,000、さらに好ましくは120,000〜600,000、最も好ましくは150,000〜400,000である。星型重合体の数平均分子量が上記下限値に満たない場合は、所望の効果を得るために必要な潤滑油基油への添加量が増大し、潤滑油の酸化安定性が低下するおそれがあり、また、上記上限値を超えると添加量は少なくなるがせん断安定性が低下するおそれがある。
【0019】
本実施形態に係る星形重合体において、一分子当たりが有するアーム部の数の平均値(平均アーム数)は、好ましく4〜30、より好ましくは5〜25、さらに好ましくは6〜20である。
【0020】
本実施形態に係る星型重合体の合成方法は、特に制限されないが、例えば、制御ラジカル重合プロセスを利用して、アーム部(アルキルメタアクリレートの重合鎖)となるポリアルキルメタアクリレートを重合し、次いで、ポリアルキルメタアクリレートとジビニルベンゼンとを反応させる方法が挙げられる。
【0021】
制御ラジカル重合プロセスには、原子移動ラジカル重合(ATRP)プロセス、可逆的付加−開裂連鎖移動(RAFT)プロセスまたは窒素酸化物媒介重合プロセスなどが包含される。
ATRP重合の重合体機構の論述は、Matyjaszewskiらの524ページの反応スキーム11.1、566ページの反応スキーム11.4、571ページの反応スキーム11、7、572ページの反応スキーム11.8および575ページの反応スキーム11.9で示されている。
RAFT重合の重合体機構の論述は、Matyjaszewskiらの12.4.4節の664〜665ページで示されている。
窒素酸化物媒介重合(10章、463〜522ページ)、ATRP(11章、523〜628ページ)およびRAFT(12章、629〜690ページ)の詳細な説明は、「Handbookof Radical Polymerization」(Krzysztof Matyjaszewski and Thomas P.Davis著、著作権2002、JohnWiley and Sons Inc.により出版(以下、「Matyjaszewskiら」と呼ぶ)で示されている。
【0022】
また、上記の合成は、バッチ操作、半バッチ操作、連続工程、フィード工程またはバルク工程として、実行され得る。また、この合成は、乳濁液、溶液または懸濁液中でなされ得る。
【0023】
なお、上記の合成においては、開始剤およびジビニルベンゼン(DVB)の使用量を変えることにより、得られるポリメタアクリレートまたは星型重合体の平均分子量を調整することができる。
【0024】
合成されたアーム部を用いた星形重合体への反応率は、星形重合体に反応した重合体の量を基準として、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上である。反応率が低いとアーム部が残存し、分子量を上げることができない。
【0025】
<第2実施形態:潤滑油用添加剤>
本発明の第2実施形態に係る潤滑油用添加剤は、上記第1実施形態に係る粘度指数向上剤を含有する。
【0026】
本実施形態に係る潤滑油用添加剤は、上記第1実施形態に係る粘度指数向上剤のみからなるものであってもよく、あるいは、当該粘度指数向上剤と他の添加剤との混合物であってもよい。
【0027】
他の添加剤としては、上記第1実施形態に係る粘度指数向上剤以外の粘度指数向上剤、酸化防止剤、摩耗防止剤(または極圧剤)、腐食防止剤、防錆剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤、無灰摩擦調整剤等の添加剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
上記第1実施形態に係る粘度指数向上剤以外の粘度指数向上剤としては、ポリメタクリレート系、ポリイソブテン系、エチレン−プロピレン共重合体系、スチレン−ブタジエン水添共重合体系のものなどが挙げられる。
【0029】
酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤、亜鉛系、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、4,4'−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4'−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4'−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2'−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチルフェノール)、4,4'−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4'−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2'−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルベンジル)スルフィド、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、2,2'−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ステアリル3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクチル−3−(3−メチル−5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等が好ましく挙げられる。これらは二種以上を混合して使用してもよい。
アミン系酸化防止剤としては、例えば、芳香族アミン化合物、アルキルジフェニルアミン、アルキルナフチルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン等の潤滑油用として一般に使用されている公知のアミン系酸化防止剤が挙げられる。
【0030】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、またはイミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0031】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、または多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0032】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾールまたはその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、またはβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
【0033】
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が1000〜10万mm/sのシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリチレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール等が挙げられる。
【0034】
無灰摩擦調整剤としては、潤滑油用の無灰摩擦調整剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、炭素数6〜30のアルキル基またはアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖アルキル基または直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、アミン化合物、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル等の無灰摩擦調整剤等が挙げられる。また特開2009−286831号公報に記載の窒素含有化合物およびその酸変性誘導体等、国際公開第2005/037967号パンフレットに例示されている各種無灰摩擦調整剤を用いることもできる。
【0035】
本実施形態に係る潤滑油用添加剤が上記第1実施形態に係る粘度指数向上剤と他の添加剤との混合物である場合、これらの混合割合は特に制限されず、目的とする用途に応じて適宜選定することができる。
【0036】
[第3実施形態:潤滑油組成物]
本発明の第3実施形態に係る潤滑油組成物は、潤滑油基油と、上記第1実施形態に係る粘度指数向上剤とを含有する。当該潤滑油組成物は、上記第2実施形態の説明で例示した他の添加剤をさらに含有してもよい。
【0037】
本実施形態における潤滑油基油としては、特に制限されず、通常の潤滑油に使用される潤滑油基油が使用できる。具体的には、鉱油系潤滑油基油、合成油系潤滑油基油またはこれらの中から選ばれる2種以上の潤滑油基油を任意の割合で混合した混合物等が使用でき
る。
【0038】
鉱油系潤滑油基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油、GTLワックス(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される基油等が例示できる。
【0039】
また、合成油系潤滑油としては、具体的には、ポリブテンまたはその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフィンまたはその水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン等の芳香族系合成油またはこれらの混合物等が例示できる。
【0040】
潤滑油基油の100℃における動粘度は、好ましくは2.5〜10.0mm/s、より好ましくは3.0〜8.0mm/s、さらに好ましくは3.5〜6.0mm/sである。また、潤滑油基油の粘度指数は、好ましくは90〜165、より好ましくは100〜155、さらに好ましくは120〜150である。
さらに、本添加剤の効果を発揮するため基油のクロマト分析による飽和分は好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましいのは90%以上、最も好ましいのは95%以上である。
【0041】
また、第1実施形態に係る粘度指数向上剤の含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、好ましくは0.1〜20.0質量%、より好ましくは0.5〜15.0質量%、更に好ましくは1.0〜10.0質量%である。当該含有量が上記下限値未満であると、十分な添加効果が得られないおそれがあり、また、上記上限値を超えるとせん断安定性が低下し、省燃費の持続性が悪くなるおそれがある。
【0042】
また、本実施形態に係る潤滑油組成物の100℃における動粘度は、好ましくは3.0〜16.3mm/s、より好ましくは3.5〜12.5mm/s、さらに好ましくは4.0〜9.3mm/sである。100℃における動粘度が上記下限値未満の場合には潤滑性不足を来たすおそれがあり、また、上記上限値を超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0043】
また、本実施形態に係る潤滑油組成物の粘度指数は、好ましくは150〜250、より好ましくは160〜240、さらに好ましくは170〜230である。粘度指数が上記下限値未満の場合には、HTHS粘度を維持しながら、省燃費性を向上させることが困難となるおそれがあり、さらに低温粘度を低減させることが困難となるおそれがある。また、粘度指数が上記上限値を超える場合には、低温流動性が悪化し、更に添加剤の溶解性やシール材料との適合性が不足することによる不具合が発生するおそれがある。
【0044】
また、本実施形態に係る潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度は、1.4mPa・s以上、好ましくは1.7mPa・s以上、より好ましくは2.0mPa・s以上、さらに好ましいのは2.3mPa・s以上で、最も好ましいのは2.6mPa・s以上である。また、潤滑油組成物の100℃におけるHTHS粘度は、好ましくは5.4mPa・s未満、より好ましくは5.2mPa・s以下である。ここでいう150℃または100℃におけるHTHS粘度とは、ASTM ASTM D4683に規定される150℃または100℃での高温高せん断粘度を示す。150℃または100℃におけるHTHS粘度が上記上限値を超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがあり、また、上記下限値未満の場合には、蒸発性が高く、潤滑性不足を来たすおそれがある。
【0045】
第1実施形態に係る粘度指数向上剤、第2実施形態に係る潤滑油用添加剤、および第3実施形態に係る潤滑油組成物の用途は特に制限されず、内燃機関用潤滑油、駆動系潤滑油等の幅広い分野で使用することができる。
【0046】
特に、第1実施形態に係る粘度指数向上剤、第2実施形態に係る潤滑油用添加剤、および第3実施形態に係る潤滑油組成物本実施形態に係る潤滑油組成物は、粘度温度特性、せん断安定性および酸化安定性に優れ、省燃費特性およびロングドレイン性を達成することが可能であるため、内燃機関用潤滑油の分野において有用である。この場合の内燃機関は、燃料としてガソリンまたはディーゼル燃料のいずれであるかを問わない。
【実施例】
【0047】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0048】
[実施例1]
窒素入口、中速機械攪拌機、熱電対および水冷式冷却器を備え付けた容器(反応フラスコ)にて、室温、窒素の流量28.3L/hrの条件下で、メチルメタアクリレートおよびステアリルメタアクリレートの混合物(混合比率:メチルメタアクリレート/ステアリルメタアクリレート=60/40(質量比))、AIBN開始剤(1当量)、ジチオ安息香酸クミル(2当量)およびオイルを混合した。このとき、混合を確実にするために、Nブランケット下にて、20分間撹拌した。その後、窒素の流量を14.2L/hrまで低下させ、混合物を4時間にわたって90℃まで加熱した。次に、容器内にジビニルベンゼンを添加し、その混合物を90℃で12時間撹拌し、目的の星型重合体(以下、場合によりPMA1という。)を得た。
得られた星型重合体について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、ポリスチレン換算)により、アーム部及び星型重合体の数平均分子量を測定した。また、星型重合体に添加された重合体の量に基づいて、星形重合体の平均アーム数および星形重合体への転化率を求めた。得られた結果を表1に示す。
分子量の測定方法は以下の通り実施した。得られた星型重合体をTHF溶媒(テトラヒドロフラン)に1mass%になるように溶解し、移動相にTHF、検出器としてRI(屈折率)を用い、流速0.5ml/min、カラム温度40℃にて測定を実施した。検量線は市販標準試薬のポリスチレンを使用し、10000〜500000までのリテンションタイムを測定し分子量分布決定に用いた。
【0049】
[実施例2、3、比較例1〜3]
実施例2、3及び比較例1〜3においては、それぞれ実施例1におけるメチルメタアクリレートおよびステアリルメタアクリレートの混合物に代えて、表1に示す組成を有するアルキルメタアクリレートを用いたこと以外は実施例1と同様にして、星型重合体の合成を行った(以下、場合により、得られた星型重合体をPMA2〜6という。)。
得られた各星型重合体についてのアーム部の数平均分子量、星型重合体の数平均分子量、星形重合体の平均アーム数、ならびに星形重合体への転化率を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
[実施例4〜6、比較例4〜6]
実施例4〜6および比較例4〜6においては、それぞれ潤滑油基油としてのグループIII基油(SK YUBASE−4)にパッケージ添加剤(8mass%:無灰分散剤3mass%,金属系清浄剤 3mass%、ZDTP 1mass%、MoDTC 0.4mass%、アミン系酸化防止剤 0.6mass%)を配合し、さらに、エンジン油の規格である0W−20を満たすようにPMA1〜6のいずれかを添加して、潤滑油組成物を得た。各潤滑油組成物の組成及び各種性状を表2に示す。なお、表2中、「Y.S.」は降伏応力(Yield Stress)を意味する。
【0052】
【表2】
【0053】
[超音波せん断安定性試験]
実施例4の潤滑油組成物について、せん断安定性をSONIC法で評価した。試験前後の粘度比(試験後の動粘度を試験前の動粘度で除した値)を表3に示す。
【0054】
[比較例7]
撹拌装置、加熱装置、冷却装置、温度計、窒素吹き込み管および滴下槽を備えた反応容器に、トルエンを1,500質量部仕込み、85℃に温調し窒素置換を60分行った。次に、メタクリル酸メチル1700質量部、メタクリル酸n−ドデシルエステル1020質量部、メタクリル酸2−メチルウンデシルエステル255質量部、メタクリル酸n−トリデシルエステル1020質量部、メタクリル酸2−メチルドデシルエステル255質量部、メタクリル酸n−テトラデシルエステル1224質量部、メタクリル酸2−ドデシルエステル306質量部、メタクリル酸n−ペンタデシルエステル1224質量部、メタクリル酸2−メチルテトラデシルエステル306質量部、およびメタクリル酸n−ヘキサデシルエステル830質量部の混合物(合計8,500質量部)、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)4質量部および2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)17質量部を滴下槽に仕込み、密閉下85℃で2時間かけて等速で滴下槽の溶液を滴下して重合反応を行った。引き続き、85℃で2時間熟成し、120℃、20mmHgの減圧度でトルエンを留去し、直鎖型ポリメタアクリレート(以下、場合によりVM1という)を得た。
次に、得られたVMA1を粘度指数向上剤として用い、表3に示す潤滑油組成物を調製し、上記と同様の超音波せん断安定性試験を実施した。得られた結果を表3に示す。
【0055】
[比較例8]
実施例1におけるメチルメタアクリレートおよびステアリルメタアクリレートの混合物に代えて、C12〜15メタクリレート(70重量%)およびメタクリル酸2−エチルヘキシル(30重量%)の混合物を用いたこと、ならびにAIBN開始剤(1当量)に代えてTrigonox(商標)−21(「T−21」)開始剤(1当量)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、星型重合体(以下、場合によりVM2という)を合成した。
次に、得られたVM2を粘度指数向上剤として用い、表3に示す潤滑油組成物を調製し、上記と同様の超音波せん断安定性試験を実施した。得られた結果を表3に示す。
【0056】
【表3】