(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5735858
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】局部親水性ガス拡散層とこれを含む燃料電池スタック
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20150528BHJP
H01M 8/10 20060101ALI20150528BHJP
H01M 8/24 20060101ALI20150528BHJP
H01M 8/02 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M8/10
H01M8/24 T
H01M8/02 R
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-120520(P2011-120520)
(22)【出願日】2011年5月30日
(65)【公開番号】特開2012-74353(P2012-74353A)
(43)【公開日】2012年4月12日
【審査請求日】2014年2月25日
(31)【優先権主張番号】10-2010-0094523
(32)【優先日】2010年9月29日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高 幸 進
(72)【発明者】
【氏名】琴 榮 範
(72)【発明者】
【氏名】韓 國 壹
(72)【発明者】
【氏名】金 允 錫
【審査官】
守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−232083(JP,A)
【文献】
特開2005−038780(JP,A)
【文献】
特開2001−110432(JP,A)
【文献】
特開2006−147397(JP,A)
【文献】
特開2009−181778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 4/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスチャンネルを形成するランドを備えた分離板からスタック締結圧を受けるように構成され、
前記分離板のランド下部でスタック締結圧を受ける第1領域と、
前記分離板のガスチャンネル下部の第2領域と、
を含み、
前記第1領域は、親水性処理される局部親水性ガス拡散層であって、
前記第1領域は前記分離板を第1電極として構成され、前記第1領域を介して前記第1電極の反対側に第2電極を設置し、交流電源を連結して水または水蒸気に交流電源を印加することにより親水性処理されることを特徴とする局部親水性ガス拡散層。
【請求項2】
前記第1領域の気孔は、スタック締結圧による変形にて前記第2領域の気孔サイズに比べて小さく形成されることを特徴とする請求項1記載の局部親水性ガス拡散層。
【請求項3】
電解質膜を中心として触媒電極層が付着された膜・電極接合体と、
ガスチャンネルを形成する分離板と、
前記分離板に形成されたランドからスタック締結圧を受けて前記膜・電極接合体と前記分離板との間に積層され、前記ランド下部の親水性処理された第1領域及び前記ガスチャンネル下部の親水性処理されていない第2領域を含む局部親水性ガス拡散層を含む燃料電池スタックであって、
前記第1領域は前記分離板を第1電極として構成し、前記第1領域を介して前記第1電極の反対側に第2電極を設置し、交流電源を連結して水または水蒸気に交流電源を印加することにより親水性処理されることを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項4】
前記第1領域の気孔は、スタック締結圧による変形にて前記第2領域の気孔サイズに比べて小さく形成されることを特徴とする請求項3記載の燃料電池スタック。
【請求項5】
前記局部親水性ガス拡散層と前記膜・電極接合体間に積層される微細多孔層を更に含むことを特徴とする請求項3記載の燃料電池スタック。
【請求項6】
前記分離板には前記局部親水性ガス拡散層との相対的な位置を固定するための固定部が形成されることを特徴とする請求項3記載の燃料電池スタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は局部親水性ガス拡散層とこれを含む燃料電池スタックに係り、より詳しくは、簡単な工程にて燃料電池スタックで生成された水を効果的に除去できるガス拡散層による性能の高い局部親水性ガス拡散層とこれを含む燃料電池スタックに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料が有している化学エネルギーを燃焼により熱に変えず、燃料電池スタック内で電気化学的に反応させて電気エネルギーに変換させる一種の発電装置であり、産業用、家庭用及び車両駆動用電力を供給するだけでなく、小型の電気/電子製品、特に携帯用装置の電力供給にも適用される。
【0003】
このような燃料電池の例として、車両駆動のための電力供給源として最も多く研究されている高分子電解質膜燃料電池(PEMFC)は、水素イオンが移動する電解質膜を中心に膜の両側に電気化学反応が起きる触媒電極層が付着された膜・電極接合体、反応気体を均等に分布させ、発生した電気エネルギーを伝達するガス拡散層(GDL)、反応気体及び冷却水の気密性と適正締結圧を維持するためのガスケット及び締結器具、そしてセルを電気的に連結し、反応気体及び冷却水を移動させる分離板を含めて構成される。
【0004】
燃料電池では、燃料である水素と酸化剤である酸素(空気)が分離板の流路を通して膜・電極接合体のアノードとカソードに各々供給されるが、水素はアノード(‘燃料極’あるいは‘酸化極’とも言う)に供給され、酸素(空気)はカソード(‘空気極’あるいは‘酸素極’、‘還元極’とも言う)に供給される。
アノードに供給された水素は電解質膜の両側に構成された電極層の触媒により水素イオン(proton、H
+)と電子(electron、e
−)に分解され、このうち水素イオンのみが選択的に陽イオン交換膜である電解質膜を通過してカソードに伝達され、同時に電子は導体である気体拡散層と分離板を通してカソードに伝達される。
【0005】
カソードでは、電解質膜を通して供給された水素イオンと分離板を通して伝達された電子が空気供給装置によりカソードに供給された空気のうち酸素と出会って水を生成する反応を起こす。
このとき起きる水素イオンの移動に起因して外部導線を通した電子の流れが発生し、このような電子の流れにより電流が生成される。
【0006】
このような燃料電池の電極反応を反応式で表すと次の通りとなる。
[アノードでの反応]2H
2→4H
++4e
−
[カソードでの反応]O
2+4H
++4e
−→2H
2O
[全体反応]2H
2+O
2→2H
2O+電気エネルギー+熱エネルギー
前記反応式で表される通り、燃料電池で起きる反応から水が生成される。スタック内部でこのような水の含有量は、電解質膜の湿度と燃料である水素の流動、酸化剤である空気の流動と直接的に関係するだけでなく、電極触媒の耐久寿命と関連するため、生成された水を管理することは燃料電池の性能を左右する非常に重要な管理事項である。
【0007】
これに関する技術として、米国登録特許第6,967,039号には、燃料電池の水管理問題を解決するために、電気電導度が優れた炭素物質の基材に親水物質、疏水物質、気孔形成剤が含まれるコーティングを有するメソポーラス層(MPL)からなる拡散層を製造する方法が開示されている。
更に、米国登録特許第7,332,240号には、メソポーラス層の領域を水が多い区域と水が少ない区域に区分し、水が多い区域では基材の水伝達を促進し、水が少ない区域では水伝達を制限して水保存の役割を有するメソポーラス層を含む構成が開示されている。
【0008】
しかし、このようなメソポーラス層を含むガス拡散層の場合、メソポーラス層の構造上、撥水性及び保湿性を共に有するため、水の多少によって区域を分離して構成することが現実的に難しく、特にガス拡散層を構成する蛇行流路の場合は、区域分離が困難という問題が存在する。具体的に、スタック内部では電流量、運転温度、気体含湿量によって水がたまる区域が変わり水生成量と排水能力が合致しないため、これを適用するには困難が伴う。
【0009】
一方、米国登録特許第7,250,189号には、炭素繊維ペーパーのような電導性多孔性基材上に蒸着する電導性ポリマーを含む炭素繊維ペーパーとして、燃料電池内のウィッキング物質または拡散媒質として使用される基材に関する開示がなされている。
しかし、このようなウィッキングメカニズムを通して水を除去するためには、ガス拡散層全体を親水性にしなければならないため、電極からガス拡散層への水吸入には有利であるが、ガス流路への放出には不利であり、生成した水を除去しようとする目的達成が困難という問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国登録特許第6,967,039号
【特許文献2】米国登録特許第7,332,240号
【特許文献3】米国登録特許第7,250,189号
【特許文献4】特開2006−147425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであって、本発明は、簡単な工程にて燃料電池スタックで生成された水を効果的に除去できるガス拡散層の構造を形成することで性能を向上させた局部親水性ガス拡散層とこれを含む燃料電池スタックの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ガス拡散層において、ガスチャンネルを形成するランドを備えた分離板からスタック締結圧を受けるように構成され、前記分離板のランド下部でスタック締結圧を受ける第1領域と、前記分離板のガスチャンネル下部の第2領域と、を含み、前記第1領域は親水性処理されることを特徴とする。
【0013】
前記第1領域の気孔は、スタック締結圧による変形にて前記第2領域の気孔サイズに比べて小さく形成されることを特徴とする。
【0014】
前記第1領域は前記分離板を第1電極として構成され、前記第1領域を介して前記第1電極の反対側に第2電極を設置し、交流電源を連結して水または水蒸気に交流電源を印加することで親水性処理されることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、燃料電池スタックにおいて、電解質膜を中心として触媒電極層が付着された膜・電極接合体と、ガスチャンネルを形成する分離板と、前記分離板に形成されたランドからスタック締結圧を受けて前記膜・電極接合体と前記分離板との間に積層され、前記ランド下部の親水性処理された第1領域及び前記ガスチャンネル下部の親水性処理されていない第2領域を含む局部親水性ガス拡散層を含むことを特徴とする。
【0016】
前記第1領域の気孔は、スタック締結圧による変形にて前記第2領域の気孔サイズに比べて小さく形成されることを特徴とする。
【0017】
前記局部親水性ガス拡散層と前記膜・電極接合体間に積層される微細多孔層を更に含むことを特徴とする。
【0018】
前記分離板には前記局部親水性ガス拡散層との相対的な位置を固定するための固定部が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の局部親水性ガス拡散層とこれを含む燃料電池スタックによると、次のような効果がある。
第1に、分離板のガスチャンネルとランドの相対的位置によってガス拡散層の表面特性が親水性または疎水性をなすように適切に配置することができ、水の除去に適合したガス拡散層の表面特性を提供することができる。
第2に、スタックチャンネルの圧力を利用して相対的に気孔サイズが小さいガス拡散層領域が局部的な親水性を有するように構成することで毛細管効果を向上させ、生成された水がこのような親水性領域を経てガスチャンネル壁面で液膜流動を形成しながら排出することができ、水の除去性能を向上させることができる。
第3に、空気流動量が豊かなカソードだけでなく、水素流動量が不足して相対的に水除去が円滑でないアノードにも効果的に使用することができる。
第4に、従来技術のように、プラズマ工程のような複雑で高価な工程を必要とせず、燃料電池スタックを生産する既存工程上に局部的親水処理部を追加することで簡単に製造することができるため既存の技術がそのまま利用ができ、工程を単純化して生産費用を節減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明による局部親水性ガス拡散層を含む燃料電池スタックの積層構造を図示した構成図である。
【
図2】本発明による局部親水性ガス拡散層と微細多孔層を含む燃料電池スタックの積層構造を図示した構成図である。
【
図3】本発明による局部親水性ガス拡散層を製造する工程を表す概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、燃料電池システムで使用されるガス拡散層の親水性/疎水性に関する特性を分離板のガスチャンネル及びランドの位置に構成することで、燃料電池スタックから生成される水の除去性能が向上できる局部親水性ガス拡散層及びこれを含む燃料電池スタックに関するものである。
【0022】
以下、添付した図面を参照して本発明の好ましい実施例による局部親水性ガス拡散層及びこれを含む燃料電池スタックについて具体的に説明する。
図1は本発明による局部親水性ガス拡散層を含む燃料電池スタックの具体例を図示した構成図である。本発明による燃料電池スタックは、一般的な高分子電解質膜燃料電池(PEMFC)と同様に、水素イオンが移動する電解質膜を中心に膜の両側に電気化学反応が起きる触媒電極層が付着された膜・電極接合体(MEA)、反応気体を均等に分布させて発生した電気エネルギーを伝達する役割を行うガス拡散層(GDL)、そして反応気体の流路を形成する分離板を含めて構成される。
【0023】
図1には、分離板10、ガス拡散層20及び膜・電極接合体40が順次積層された燃料電池スタックの一部を示す。
図1に示す通り、膜・電極接合体40上には多孔性のガス拡散層20が位置し、ガス拡散層20は分離板10と連結される。
一般的に、ガス拡散層20は炭素繊維及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系列の疎水性物質で構成され、触媒層に存在する電気化学反応の生成水排出及び反応気体の供給が円滑にできるよう機能する多孔性構造からなる。本発明でのガス拡散層20もまたこのような多孔性構造で構成される。
【0024】
一方、本発明ではガス拡散層20の2つの領域をスタックの締結圧によって機構のサイズが小さくなった状態か否か、また、親水性処理がなされたか否かによって各々2つの領域に区分している。但し、気孔サイズまたは親水性処理可否は全て分離板10のランド11との位置関係によって規定されるため、本発明ではこのような各々の区分された領域を区別せず、ランド下部領域であるかによって第1領域Aと第2領域Bに区分する。
【0025】
本発明の分離板10はガスチャンネルを形成できるようにチャンネル両端に突出させたランド11を含み、スタックの積層構造において、ランド11はガス拡散層20の一部領域に対してスタック締結圧を付加する。
そのため、スタック締結圧を受ける領域であるランド下部では、ガス拡散層20に直接作用する圧縮力によって、多孔性のガス拡散層20が積層方向に圧縮変形する。このような領域、即ち、ランド下部でスタック締結圧を受ける領域を第1領域Aとし、スタック締結圧を直接受けない領域、即ち、ガスチャンネル下部のガス拡散層領域を第2領域Bとして、ガス拡散層20を2つの領域に区分する。
【0026】
ガス拡散層20の2つの領域を対比すると、変形されたランド下部の第1領域Aでは変形によってガス拡散層20の気孔のサイズが小さくなるため、第1領域Aではスタック締結圧により変形されなかった第2領域Bの気孔サイズに比べて相対的に小さいサイズの気孔が形成される。
一方、本発明のガス拡散層20はその一部領域についてのみ親水性処理された局部親水性ガス拡散層20から構成される。具体的に
図1に示す通り、本発明ではガス拡散層のランド下部領域、即ち、第1領域Aのみが親水性処理される。
【0027】
反面、親水性処理がされていない第2領域Bは疏水性を帯びるガス拡散層20の表面特性をそのまま維持する。
このような構成を有するガス拡散層20で水が除去される具体的な過程を見てみると、
図1のように、ガス拡散層20の領域のうち気孔のサイズが大きく疎水性で構成された第2領域Bとは異なり、気孔のサイズが小さく親水性処理された第1領域Aでは生成された水が毛細管効果によってガス拡散層20を通過して効果的にランド側に排出される。
ガス拡散層20を通過してランド側に排出された水は、ガスチャンネルの壁面とランドとの位置関係により、ガスチャンネルの壁面でガスの流れによって排出される。即ち、ガス拡散層20を通過して排出される水は、ガスチャンネル壁面で液膜流動を形成することが容易であるため、電極と周辺部の水除去性能を効果的に向上させる。
【0028】
図2には、本発明の別の具現例として、微細多孔層(MPL)30を含む燃料電池スタックを示す。
図2に示す通り、本発明の別の具現例では、ガス拡散層20と膜・電極接合体40との間に微細多孔層30を含むよう燃料電池スタックの積層構造を形成することでガス拡散層20の水除去性能を更に向上させることができる。
【0029】
図3は本発明による局部親水性ガス拡散層20の製造工程を示した概略図である。
本実施例の第1領域Aの親水性処理は、水または水蒸気に交流電流を印加して水分子(H
2O)をイオン化させ、水素イオン(H
+)とヒドロキシイオン(OH
−)を形成する。これがガス拡散層20基材の炭素繊維またはフェルトの表面のC−HをC−OHに置換して親水性を有することになる親水処理原理を利用する。
図3はこのような親水処理原理を示したもので、本発明では第1領域Aのみが親水性処理された局部親水性ガス拡散層20を製作するために、分離膜を第1電極としてガス拡散層20と連結し、その反対側に第2電極を連結した後、交流電源を連結することで親水性処理を行う。
【0030】
そのため。交流電流の印加によってランド下部領域での親水性処理が行われ、親水性処理された第1領域Aと親水性処理されず疎水性を維持する第2領域Bに区分される。
従って、ガス拡散層20の領域のうちスタック締結圧により小さいサイズの気孔が形成された状態で親水性処理された第1領域Aでは毛細管現象によって生成水が排出される一方、排出された生成水はガスの流れに沿ってガスチャンネルの壁面を通して除去されるため、燃料電池スタックの水除去性能が大きく向上する。
【0031】
本発明による局部親水性ガス拡散層を含む燃料電池スタックでは、ガスチャンネルとガス拡散層との間の相対的な位置を固定する目的で分離板に固定部を形成することができる。このような固定部は分離板とガス拡散層との間の位置固定のための突起部を形成することで具現することができるが、このような突起部の構造に限定されず、前記分離板とガス拡散層間の相対的な位置固定を行うことができる構造でもよい。
【0032】
以上、本発明に関する好ましい実施形態を説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の属する技術範囲を逸脱しない範囲での全ての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0033】
10 分離板
20 ガス拡散層
30 微細多孔層
40 膜・電極接合体
A 第1領域
B 第2領域