【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述の締め付け後に雄ねじ体の軸部の先端部を潰す抜け止め方法は、その後、締結構造を分解することができなくなるという問題があった。
【0007】
また、前記特許文献1が提案している抜け止めワッシャーは、雄ねじ体の軸部のうちの被締結体の厚さに応じた軸方向位置に、環状の溝を設けておき、その環状の溝に大円形孔の内周付近を嵌合する必要があるので、汎用の雄ねじ体を用いることができず、雄ねじ体のコストが増大するという問題があった。
【0008】
また、前記大略リング状の形状をなし、内周に雌ねじを有する緩み止め防止具は、そもそもこのようなリング状の部材が発生できる弾性力の大きさは最大でもたかだか知れた大きさであるので、どんなにそれらの構造を工夫したところで、所詮十分な緩み止め効果は得られるはずがないという問題があった。
【0009】
また、前記大略リング状の形状をなし、内周に雌ねじを有する緩み止め防止具は、通常のナットと同様に緩んで雄ねじ体から抜け落ちてしまうが虞があるので、抜け止め防止効果は得られないという問題があった。
【0010】
さらに、前記大略リング状の形状をなし、内周に雌ねじを有する緩み止め防止具は、必ずナットの外側において雄ねじ体に螺合する必要があり、ナットと被締結体との間に介装して座金としての機能を果たさせることはできなかった。
【0011】
本発明は、このような従来の事情に鑑みてなされたもので、本発明の目的の一つは、締結構造における雄ねじ体を抜け止めすることができ、なおかつ、必要なときは、抜け止め状態を解除して締結構造を分解することを可能とする抜け止め具、締結方法および締結構造を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、ボルト、小ねじ等の雄ねじ体の方には特別な加工を施すことなく、雄ねじ体を抜け止めすることができる抜け止め具、締結方法および締結構造を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、ナットの脱落防止およびナットの緩み止めも図ることができる抜け止め具、締結方法および締結構造を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、ナットと被締結体との間に介装して、雄ねじ体を抜け止めすると同時に座金としての機能を果たさせることもできる抜け止め具、締結方法および締結構造を提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的は、ナットは使用せず、単独に雄ねじ体に装着して雄ねじ体を抜け止めすることもできる抜け止め具、締結方法および締結構造を提供することにある。
【0016】
本発明のさらに他の目的は、以下の説明から明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1に係る本発明の抜け止め具は、
外周に雄ねじ部を設けられた軸部を有する雄ねじ体に装着される抜け止め具であって、
中央部に設けられた貫通穴と、当該抜け止め具が前記貫通穴を取り囲んで全周に渡って連続することとはならないようにする、外周から前記貫通穴にまで至る切れ目と、前記貫通穴の内周に形成された大略1ピッチ分の1条の雌ねじのねじ山とを有してなり、
前記雌ねじのねじ山が前記雄ねじ体の雄ねじ部の谷に螺合されている状態において、前記雌ねじおよび前記雄ねじ部の軸方向に対し垂直な面により前記軸方向に相対的に押圧されると、一端部側の前記雌ねじのねじ山が前記雄ねじ部の谷から該雄ねじ部のねじ山を乗り越えて該雄ねじ部の谷のうちの大略1ピッチ分前記軸方向にずれた部分に入り込み、前記雌ねじのねじ山が全体として非螺旋状になって前記雄ねじ部のねじ山に跨がった状態とな
り、工具を用いて大きな回転力を作用させない限り、当該抜け止め具が前記雄ねじ体に対して緩み方向に回転できなくなるようになっているものである。
【0018】
また、請求項7に係る本発明の締結方法は、
中央部に設けられた貫通穴と、当該抜け止め具が前記貫通穴を取り囲んで全周に渡って連続することとはならないようにする、外周から前記貫通穴にまで至る切れ目と、前記貫通穴の内周に形成された大略1ピッチ分の1条の雌ねじのねじ山とを有してなり、前記雌ねじのねじ山が雄ねじ体の軸部の外周に設けられた雄ねじ部の谷に螺合されている状態において、前記雌ねじおよび前記雄ねじ部の軸方向に対し垂直な面により前記軸方向に相対的に押圧されると、一端部側の前記雌ねじのねじ山が前記雄ねじ部の谷から該雄ねじ部のねじ山を乗り越えて該雄ねじ部の谷のうちの大略1ピッチ分前記軸方向にずれた部分に入り込み、前記雌ねじのねじ山が全体として非螺旋状になって前記雄ねじ部のねじ山に跨がった状態とな
り、工具を用いて大きな回転力を作用させない限り、当該抜け止め具が前記雄ねじ体に対して緩み方向に回転できなくなるようになっている抜け止め具を用意する段階と、
被締結体に雄ねじ体の軸部を挿通する段階と、
前記雄ねじ体の前記軸部の外周に設けられた雄ねじ部にナットを螺合し、このナットと前記雄ねじ体の頭部との間に前記被締結体を締め付ける段階と、
前記雄ねじ体の前記雄ねじ部の谷に前記抜け止め具の前記雌ねじのねじ山を螺合し、前記抜け止め具が前記ナットの前記被締結体とは反対側の端面に押圧されるように前記抜け止め具を締め付け方向に相対的に回転して行き、前記抜け止め具の一端部側の前記雌ねじのねじ山が前記雄ねじ部の谷から該雄ねじ部のねじ山を乗り越えて該雄ねじ部の谷のうちの大略1ピッチ分前記軸方向にずれた部分に入り込み、前記雌ねじのねじ山が全体として非螺旋状になって前記雄ねじ部のねじ山に跨がった状態となるようにする段階とを有してなるものである。
【0019】
また、請求項8に係る本発明の締結方法は、
中央部に設けられた貫通穴と、当該抜け止め具が前記貫通穴を取り囲んで全周に渡って連続することとはならないようにする、外周から前記貫通穴にまで至る切れ目と、前記貫通穴の内周に形成された大略1ピッチ分の1条の雌ねじのねじ山とを有してなり、前記雌ねじのねじ山が雄ねじ体の軸部の外周に設けられた雄ねじ部の谷に螺合されている状態において、前記雌ねじおよび前記雄ねじ部の軸方向に対し垂直な面により前記軸方向に相対的に押圧されると、一端部側の前記雌ねじのねじ山が前記雄ねじ部の谷から該雄ねじ部のねじ山を乗り越えて該雄ねじ部の谷のうちの大略1ピッチ分前記軸方向にずれた部分に入り込み、前記雌ねじのねじ山が全体として非螺旋状になって前記雄ねじ部のねじ山に跨がった状態とな
り、工具を用いて大きな回転力を作用させない限り、当該抜け止め具が前記雄ねじ体に対して緩み方向に回転できなくなるようになっている抜け止め具を用意する段階と、
被締結体に雄ねじ体の軸部を挿通する段階と、
前記雄ねじ体の前記軸部の外周に設けられた雄ねじ部の谷に前記抜け止め具の前記雌ねじのねじ山を螺合し、前記抜け止め具を締め付け方向に相対的に回転して行き、前記抜け止め具を前記被締結体に接触させる段階と、
前記雄ねじ体の前記雄ねじ部にナットを螺合し、このナットと前記雄ねじ体の頭部との間に前記被締結体および前記抜け止め具を締め付け、前記抜け止め具の一端部側の前記雌ねじのねじ山が前記雄ねじ部の谷から該雄ねじ部のねじ山を乗り越えて該雄ねじ部の谷のうちの大略1ピッチ分前記軸方向にずれた部分に入り込み、前記雌ねじのねじ山が全体として非螺旋状になって前記雄ねじ部のねじ山に跨がった状態となるようにする段階とを有してなるものである。
【0020】
また、請求項9に係る本発明の締結方法は、
中央部に設けられた貫通穴と、当該抜け止め具が前記貫通穴を取り囲んで全周に渡って連続することとはならないようにする、外周から前記貫通穴にまで至る切れ目と、前記貫通穴の内周に形成された大略1ピッチ分の1条の雌ねじのねじ山とを有してなり、前記雌ねじのねじ山が雄ねじ体の軸部の外周に設けられた雄ねじ部の谷に螺合されている状態において、前記雌ねじおよび前記雄ねじ部の軸方向に対し垂直な面により前記軸方向に相対的に押圧されると、一端部側の前記雌ねじのねじ山が前記雄ねじ部の谷から該雄ねじ部のねじ山を乗り越えて該雄ねじ部の谷のうちの大略1ピッチ分前記軸方向にずれた部分に入り込み、前記雌ねじのねじ山が全体として非螺旋状になって前記雄ねじ部のねじ山に跨がった状態とな
り、工具を用いて大きな回転力を作用させない限り、当該抜け止め具が前記雄ねじ体に対して緩み方向に回転できなくなるようになっている抜け止め具を用意する段階と、
被締結体に雄ねじ体の軸部を挿通する段階と、
前記雄ねじ体の前記軸部の外周に設けられた雄ねじ部の谷に前記抜け止め具の前記雌ねじのねじ山を螺合し、前記抜け止め具が前記被締結体に押圧されるように前記抜け止め具を締め付け方向に相対的に回転して行き、前記抜け止め具の一端部側の前記雌ねじのねじ山が前記雄ねじ部の谷から該雄ねじ部のねじ山を乗り越えて該雄ねじ部の谷のうちの大略1ピッチ分前記軸方向にずれた部分に入り込み、前記雌ねじのねじ山が全体として非螺旋状になって前記雄ねじ部のねじ山に跨がった状態となるようにする段階と、
前記雄ねじ体の前記雄ねじ部にナットを螺合し、このナットと前記雄ねじ体の頭部との間に前記被締結体および前記抜け止め具を締め付ける段階とを有してなるものである。
【0021】
また、請求項10に係る本発明の締結方法は、
中央部に設けられた貫通穴と、当該抜け止め具が前記貫通穴を取り囲んで全周に渡って連続することとはならないようにする、外周から前記貫通穴にまで至る切れ目と、前記貫通穴の内周に形成された大略1ピッチ分の1条の雌ねじのねじ山とを有してなり、前記雌ねじのねじ山が雄ねじ体の軸部の外周に設けられた雄ねじ部の谷に螺合されている状態において、前記雌ねじおよび前記雄ねじ部の軸方向に対し垂直な面により前記軸方向に相対的に押圧されると、一端部側の前記雌ねじのねじ山が前記雄ねじ部の谷から該雄ねじ部のねじ山を乗り越えて該雄ねじ部の谷のうちの大略1ピッチ分前記軸方向にずれた部分に入り込み、前記雌ねじのねじ山が全体として非螺旋状になって前記雄ねじ部のねじ山に跨がった状態とな
り、工具を用いて大きな回転力を作用させない限り、当該抜け止め具が前記雄ねじ体に対して緩み方向に回転できなくなるようになっている抜け止め具を用意する段階と、
被締結体に雄ねじ体の軸部を挿通する段階と、
前記雄ねじ体の前記軸部の外周に設けられた雄ねじ部の谷に前記抜け止め具の前記雌ねじのねじ山を螺合し、前記抜け止め具が前記被締結体に押圧されるように前記抜け止め具を締め付け方向に相対的に回転して行き、前記抜け止め具の一端部側の前記雌ねじのねじ山が前記雄ねじ部の谷から該雄ねじ部のねじ山を乗り越えて該雄ねじ部の谷のうちの大略1ピッチ分前記軸方向にずれた部分に入り込み、前記雌ねじのねじ山が全体として非螺旋状になって前記雄ねじ部のねじ山に跨がった状態となるようにする段階とを有してなるものである。
【0022】
本発明の請求項11に係る締結構造は、
被締結体と、
外周に雄ねじ部を設けられた軸部を有し、前記軸部を前記被締結体に挿通された雄ねじ体と、
前記雄ねじ体の前記雄ねじ部に螺合され、前記雄ねじ体の頭部との間に前記被締結体を締め付けているナット
と、
中央部に設けられた貫通穴と、当該抜け止め具が前記貫通穴を取り囲んで全周に渡って連続することとはならないようにする、外周から前記貫通穴にまで至る切れ目と、前記貫通穴の内周に形成された大略1ピッチ分の1条の雌ねじのねじ山とを有してなり、前記雌ねじのねじ山を前記雄ねじ体の雄ねじ部の谷に螺合された後、前記ナットの前記被締結体とは反対側の端面に押圧されるように締め付け方向に相対的に回転されることにより、一端部側の前記雌ねじのねじ山が前記雄ねじ部の谷から該雄ねじ部のねじ山を乗り越えて該雄ねじ部の谷のうちの大略1ピッチ分前記軸方向にずれた部分に入り込み、前記雌ねじのねじ山が全体として非螺旋状になって前記雄ねじ部のねじ山に跨がった状態とな
り、工具を用いて大きな回転力を作用させない限り、当該抜け止め具が前記雄ねじ体に対して緩み方向に回転できなくなっている抜け止め具とを有してなるものである。
【0023】
本発明の請求項12に係る締結構造は、
被締結体と、
外周に雄ねじ部を設けられた軸部を有し、前記軸部を前記被締結体に挿通された雄ねじ体と、
中央部に設けられた貫通穴と、当該抜け止め具が前記貫通穴を取り囲んで全周に渡って連続することとはならないようにする、外周から前記貫通穴にまで至る切れ目と、前記貫通穴の内周に形成された大略1ピッチ分の1条の雌ねじのねじ山とを有してなり、前記貫通穴に前記雄ねじ体の軸部を挿通されている抜け止め具と、
前記雄ねじ体の前記雄ねじ部に螺合され、前記雄ねじ体の頭部との間に前記被締結体および前記抜け止め具を締め付けているナットとを有してなり、
前記抜け止め具は、前記雌ねじのねじ山を前記雄ねじ体の雄ねじ部の谷に螺合されている状態から、前記ナットの一端面または前記被締結体に相対的に押圧されることにより、一端部側の前記雌ねじのねじ山が前記雄ねじ部の谷から該雄ねじ部のねじ山を乗り越えて該雄ねじ部の谷のうちの大略1ピッチ分前記軸方向にずれた部分に入り込み、前記雌ねじのねじ山が全体として非螺旋状になって前記雄ねじ部のねじ山に跨がった状態とな
り、工具を用いて大きな回転力を作用させない限り、当該抜け止め具が前記雄ねじ体に対して緩み方向に回転できなくなっているものである。
【0024】
本発明の請求項13に係る締結構造は、
被締結体と、
外周に雄ねじ部を設けられた軸部を有し、前記軸部を前記被締結体に挿通された雄ねじ体と、
中央部に設けられた貫通穴と、当該抜け止め具が前記貫通穴を取り囲んで全周に渡って連続することとはならないようにする、外周から前記貫通穴にまで至る切れ目と、前記貫通穴の内周に形成された大略1ピッチ分の1条の雌ねじのねじ山とを有してなり、前記雌ねじのねじ山を前記雄ねじ体の雄ねじ部の谷に螺合された後、前記被締結体に押圧されるように締め付け方向に相対的に回転されることにより、一端部側の前記雌ねじのねじ山が前記雄ねじ部の谷から該雄ねじ部のねじ山を乗り越えて該雄ねじ部の谷のうちの大略1ピッチ分前記軸方向にずれた部分に入り込み、前記雌ねじのねじ山が全体として非螺旋状になって前記雄ねじ部のねじ山に跨がった状態とな
り、工具を用いて大きな回転力を作用させない限り、当該抜け止め具が前記雄ねじ体に対して緩み方向に回転できなくなっている抜け止め具とを有してなるものである。
【0025】
本発明においては、最初に抜け止め具を雄ねじ体の雄ねじ部に螺合した状態では、抜け止め具の雌ねじのねじ山は螺旋状をなしていて、対応する螺旋状をなしている雄ねじ体の雄ねじ部の谷に螺合されている。
【0026】
このように雌ねじのねじ山が雄ねじ体の雄ねじ部の谷に螺合されている状態において、抜け止め具が雌ねじおよび雄ねじ部の軸方向に対し垂直な面に前記軸方向に相対的に押圧されると、抜け止め具の一端部側の前記雌ねじのねじ山が前記雄ねじ部の谷から該雄ねじ部のねじ山を乗り越えて該雄ねじ部の谷のうちの大略1ピッチ分前記軸方向にずれた部分に入り込み、前記雌ねじのねじ山が全体として非螺旋状になって前記雄ねじ部のねじ山に跨がった状態となる。
【0027】
このような状態になると、抜け止め具は、最早「雌ねじ」ではなくなり、工具を用いて大きな回転力を作用させない限り、雄ねじ体に対して緩み方向に回転できなくなる。したがって、被締結体からの雄ねじ体の抜け止めが実現される。
【0028】
そして、工具を用いて抜け止め具に緩み方向に大きな回転力を作用させると、非螺旋状になって雄ねじ部のねじ山に跨がった状態になっていた抜け止め具の雌ねじのねじ山が、再び螺旋状に戻って雄ねじ体の雄ねじ部の谷に螺合されている状態に戻るので、緩み方向に回転できるようになる。したがって、必要なときは、前記抜け止め状態を解除して、締結構造を分解することができる。
【0029】
また、請求項7および11に係る締結方法および締結構造におけるように、ナットの外側において抜け止め具を雄ねじ体に装着すれば、前記のように抜け止め具の雌ねじのねじ山が全体として非螺旋状になって雄ねじ部のねじ山に跨がった状態となり、抜け止め具が雄ねじ体に対して回転できない状態となることにより、雄ねじ体の抜け止めが実現されると同時に、ナットの緩み止めおよびナットの脱落防止が実現される。
【0030】
また、請求項8,9および12に係る締結方法および締結構造におけるように、抜け止め具をナットと被締結体との間に介装すれば、雄ねじ体を抜け止めすると同時に抜け止め具に座金としての機能を果たさせることができる。
【0031】
さらに、請求項10および13に係る締結方法および締結構造におけるように、抜け止め具を被締結体に押圧されるように抜け止め具を締め付け方向に相対的に回転して行き、抜け止め具の一端部側の雌ねじのねじ山が雄ねじ部の谷から該雄ねじ部のねじ山を乗り越えて雄ねじ部の谷のうちの大略1ピッチ分前記軸方向にずれた部分に入り込み、雌ねじのねじ山が全体として非螺旋状になって前記雄ねじ部のねじ山に跨がった状態となるようにすれば、ナットを用いなくても、被締結体を締結するとともに、被締結体から雄ねじ体を抜け止めすることができる。