【実施例】
【0009】
以下、本発明の真空ポンプについて、
図1乃至
図3を参照しながら好適な実施例を説明する。
図1は本発明に係る真空ポンプの縦断面図である。
図1において、真空ポンプ10は、吸気口11と排気口12とを有する筐体13を備えている。該筐体13内には、上部にターボ分子ポンプ部14と、その下方に円筒形のネジ溝ポンプ部15が設けられているとともに、該ターボ分子ポンプ部14内と該ネジ溝ポンプ部15内を通って前記吸気口11と前記排気口12を連通してなる排気経路24が形成されている。
前記排気通路24は、より具体的には、前記ターボ分子ポンプ部14の後述する相対向しているロータ17の外周面と前記筐体13の内周面との間の隙間、及び前記ネジ溝ポンプ部15の後述する円筒ロータ21の外周面とステータ23の内周面との間の隙間を相互に連通させるとともに、前記ターボ分子ポンプ部14側の隙間上端側を前記吸気口11に連通させ、かつ、前記ネジ溝ポンプ部15側の隙間下端側を前記排気口12に連通して形成されている。
前記ターボ分子ポンプ部14は、回転軸16に固設されたアルミ合金製のロータ17の外周面に突設された多数の動翼18,18…と、前記筐体13の内周面に突設された多数の静翼19,19…との組み合わせからなる。
前記ネジ溝ポンプ部15は、前記ターボ分子ポンプ部14におけるロータ17の下端部の外周面に突設された鍔状円環部20の外周、すなわち接合部20aに例えば接着剤等を用いて圧入固着された円筒ロータ21と、該円筒ロータ21の外周と小隙間を有して対向し、該小隙間と共に前記排気経路24の一部を形成してなるネジ溝22が設置されたステータ23とからなる。該ネジ溝22は、下方へ行くに従って深さが浅くなるようにして形成されている。また、該ステータ23は、前記筐体13の内面に固定されている。そして、前記ネジ溝22の下端は前記排気経路24の最下流側において前記排気口12に連通され、前記ターボ分子ポンプ部14の前記ロータ17と前記ネジ溝ポンプ部15の前記円筒ロータ21の接合部20aは、前記排気経路24の上流側に設置されている。
また、前記回転軸16の中間部には、モータ筐体25内に設けられたインダクションモータ等の高周波モータ26のロータ26aが固定されている。該回転軸16は、磁気軸受で支承され、上部及び下部に保護軸受27,27が設けられている。
前記円筒ロータ21は、FRP材を円筒形に形成してなり、円周方向と軸方向の両方に力が分担するように円周方向に繊維を配向させたフープ層、円周方向に対して45度以上に繊維を配向したヘリカル層などを組合せた複合層としている。
なお、前記ターボ分子ポンプ部14の前記ロータ17と前記ネジ溝ポンプ部15における前記円筒ロータ21とが接合部20aと対応する上端部の箇所、すなわち、前記円筒形ロータ21の上端部最外層部分は、樹脂材をスプレーし、表面の凹部内を樹脂材で埋めて平滑化されている。
次に、
図1に示す真空ポンプの動作について説明する。前記高周波モータ26の駆動によって前記吸気口11から流入した気体は、分子流あるいはそれに近い中間流状態にあり、その気体分子は前記ターボ分子ポンプ部14の回転する前記動翼18,18…と前記筐体13から突設した前記静翼19,19・‥との作用より、下方向に運動量が与えられ、該動翼18,18…の高速回転に伴って下流側へ気体が圧縮移動する。
また、圧縮移動された気体は、前記ネジ溝ポンプ部15において、回転する前記円筒ロータ21と、小間隙を有して形成された前記ステータ23に沿って下流に行くにしたがって深さが浅くなる前記ネジ溝22とに導かれるようにして、粘性流状態まで圧縮されながら前記排気通路24内を流れ、前記排気口12から排出される。
このとき、前記円筒ロータ21が、FRP材を円筒形に成形して形成された場合は、所定の仕上げ加工を実施しないと該円筒ロータ21の表面が凹凸状態であるため、対向する前記ステータ23との隙間を増やす必要がある。ところが、本実施例の真空ポンプ10では、前記ターボ分子ポンプ部14の前記ロータ17と前記ネジ溝ポンプ部15の円筒ロータ21との接合部20aを、隙間を拡げたときの影響が小さい排気口12側に対して圧力の低い排気経路24の上流側に設置している。従って、円筒ロータ21と対向するステータ23との間に大きな隙間が生じても、排気速度及び圧縮比を著しく低下させることなく排気口12より排気されることになる。
したがって、本実施例の真空ポンプ10では、FRP材を円筒形に成形してなる円筒ロータ21の少なくとも荷重がかかる前記接合部20aの部分は、前記円筒ロータ21の成形後に仕上げ加工を行わなくても済むことになる。従って、従来、仕上げ加工をすることによって、円筒ロータ21の表層付近を蛇行している繊維が寸断され、高い負荷(荷重)をかけたときに、FRP材の繊維構造が部分的に剥がれてササクレや歪みを生じて破損するおそれのある問題を解決することができる。また、真空ポンプの製造工程が簡単になるので、製造コストのコストダウンを計ることが可能になる。
また、前記円筒ロータ21の少なくとも前記接合部20aと対応する上端部最外層に前記加工シロ28を設け、前記円筒ロータ21の成形後に該加工シロ28の部分だけ、その加工シロ28の最外層の厚みの範囲内で仕上げ加工を行って所定の精度に対応することができるので、排気速度及び圧縮比の低下をさらに小さくすることが期待できる。
図2は、
図1に示す本発明の複合真空ポンプにおける円筒ロータの仕上げ加工の一実施例を示す説明図である。円筒ロータ21の成形後に、該円筒ロータ21の全体を仕上げ加工する場合は、最外層の厚みの範囲内において、
図2に示すように、例えば最外層の一部21aを切削することができる。
図3は、
図1に示す本発明の真空ポンプにおける円筒ロータの仕上げ加工の他の実施例を示す説明図である。円筒ロータ21の成形後に、該円筒ロータ21の全体を仕上げ加工する場合は、最外層の厚みの範囲内において、
図3に示すように、例えば最外層の凹み部分29に樹脂材30をコーティングするようにして仕上げ加工を施してもよい。
すなわち、本発明の真空ポンプでは、FRPからなる円筒ロータ21の外周の接合部20aを仕上げ加工しない場合と仕上げ加工をする場合の2通りの方法を実現している。前者における円筒ロータ21の外周の接合部20aを仕上げ加工しない場合は、一般的には、FRPの表面が凹凸状になるため、円筒ロータ21(FRP)の外周と対向する部品(すなわち、ロータ17の鍔状円環部20)との間の隙間(クリアランス)を大きくする必要がある。ところが、本発明の実施形態では、接合部20aを排気経路24の上流側に配置することによって、仕上げ加工をしないでFRPの表面の凹凸が大きくても使用できるようにしている。すなわち、排気経路24の上流側の圧力が低いところでは、対向する部品との間のクリアランスを大きくとっても影響力が小さいためである。
また、後者におけるFRPからなる円筒ロータ21の外周の接合部20aを仕上げ加工する場合は、接合部20aの最外層に加工シロを設け、仕上げ加工は最外層の加工シロの範囲内で実施する。このとき、加工シロは、樹脂材をコーティングするか、FRPを半円状の金型などで挟んで樹脂材を注入するか、又はFRPの巻付角45度以下でヘリカル状に繊維を巻きつけるなどの方法によって仕上げ加工を実施する。
ここで、排気経路24の上流側に接合部20aを持って行かない場合には、繊維強化プラスチック材(FRP)の仕上げ加工が必要な理由について説明する。円筒ロータ21としてFRPが使用されているネジ溝ポンプ部15の排気性能は、回転翼(動翼18)とネジ溝ポンプ部15の筐体13とのクリアランスの影響が非常に大きい。従って、可能な限りそのクリアランスを小さくする必要がある。
一方、FRPは繊維を巻き付けて成形するため、巻き付けムラによって表面が凹凸状になっている。また、繊維を巻き付けるときのテンションのかかり具合によって、繊維の巻数密度が変わるため、仕上がり寸法のばらつきも大きくなる。そこで、円筒ロータ21の表面を仕上げ加工しないとクリアランスが小さくすることができない。すなわち、FRPの外周を仕上げ加工してFRPの表面の凹凸を可能な限り小さくする必要がある。
次に、FRPに大きな荷重がかかる理由について説明する。円筒ロータ21は磁気軸受による非接触支持のため回転翼(動翼18)の放熱がよくない。そのため、内側に圧入されているアルミ合金が熱膨張することによってFRPを押し広げる。これによって、FRPに大きな荷重がかかる。
また、解決したい不具合の特殊性として、FRPは表面の凸凹に沿って波を打った状態で巻き付けられている。そのため、仕上げ加工を行うと波を打った部分の山のところで繊維が分断される。また、アルミ合金の熱膨張によってFRPが押し広げられたときも分断された繊維には荷重がかからないために円筒ロータ21にはせん断力が発生する。このとき、繊維をつなぐ樹脂材料の強度限界を超えると樹脂に亀裂が発生してササクレが生じる。一般用途の場合はササクレが生じても問題はないが、高速回転体の場合には、ササクレ部分に生じる遠心力によって樹脂に発生する亀裂の進展が加速し、繊維全体が剥離する不具合が発生する。そこで、本実施形態では荷重がかかる円周方向の繊維が寸断されないように保護対策を行うことによってこれらの不具合を解消している。
ここで、FRPの表面処理方法についてさらに詳しく説明する。前述したように、FRPの表面処理については、仕上げ加工を行わない場合と、スプレーやハケ塗りや注型などによって樹脂層を表面に設ける場合とがある。後者におけるFRPの表面に樹脂層を設ける場合は、その樹脂層の厚みの範囲内で仕上げ加工を行う。また、金型を用いて表面に樹脂層を形成する場合は、形状や寸法精度などが確保されているので、さらなる仕上げ加工を行う必要はない。
さらに、FRPの他の表面処理方法として、円筒ロータ21の軸方向の±45度以内にヘリカル状に繊維を巻き付けた層をFRPの表面に設けることもできる。この場合、円筒ロータ21の軸方向の±45度以内に繊維を巻くと、熱膨張などによって圧入部が押し広げられたときに発生するせん断力を小さくすることができる。この場合も、繊維を巻き付けた層の厚みの範囲内で仕上げ加工を行う。さらに、FRPの圧入部を排気径路24の上流側に設置する。このような圧力が低いところでは、固定部とのクリアランスを広げたときのときの影響を小さくすることができる。
以上を要約すると、FRPによって略円筒形に形成された円筒ロータ21が、他材料の鍔状円環部20の接合部20aに接合されたロータ17を有すると共に、円筒ロータ21がネジ溝ポンプ15を形成した真空ポンプにおいて、円筒ロータ21は、円周方向に対して45度未満に繊維を配向したフープ層を含む多層構造で形成されていると共に、円筒ロータ21の接合部20aではフープ層のうち最外層となる層の繊維が寸断されないように、最外層の外周に保護対策がなされている。
このとき、少なくとも、円筒ロータ21が接合部20aに接合される部分においては、円筒ロータ21の表面の凹凸を低減させるように、フープ層の外側に樹脂層が設けられている。さらに、樹脂層が設けられた後、その樹脂層はその厚みの範囲内で除去加工されている。尚、樹脂層は、予め、樹脂を注型することによって形成することもできる。
また、FRPの円筒ロータ21が接合部20aに接合された部分においては、フープ層の外側に、円周方向に対して45度以上に繊維を配向したヘリカル層が設けることも出来る。さらに、ヘリカル層が設けられた後、ヘリカル層の厚みの範囲内においてそのヘリカル層に巻かれた繊維及び繊維の周囲の樹脂が除去加工されてもよい。
あるいは、フープ層が最外層となるように形成された円筒ロータ21の外周の除去加工の範囲を、接合部20aを除く部分の少なくとも一部としてもよい。また、接合部20aをネジ溝ポンプ15の排気経路24の上流側に設ければ、円筒ロータ21の外周の仕上げ加工を行わなくてもよい。
以上、本発明の具体的な実施例を説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。