特許第5736009号(P5736009)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5736009
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】ブレーキディスク
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/12 20060101AFI20150528BHJP
【FI】
   F16D65/12 S
【請求項の数】10
【外国語出願】
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-145075(P2013-145075)
(22)【出願日】2013年7月11日
(65)【公開番号】特開2014-40913(P2014-40913A)
(43)【公開日】2014年3月6日
【審査請求日】2013年7月11日
(31)【優先権主張番号】10 2012 106 304.4
(32)【優先日】2012年7月13日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510238096
【氏名又は名称】ドクター エンジニール ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】100094525
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100094514
【弁理士】
【氏名又は名称】林 恒徳
(72)【発明者】
【氏名】カウテンブルガー ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフ ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】レンツ トーマス
【審査官】 竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭57−203154(JP,U)
【文献】 国際公開第2012/074727(WO,A1)
【文献】 特開平11−336805(JP,A)
【文献】 実開昭58−196436(JP,U)
【文献】 特開昭60−037432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00−71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部を備える複数の領域を有する摩擦面を備えるブレーキディスクにおいて、前記凹部が、円周方向に延びて形成され、前記摩擦面における前記凹部を備える複数の領域が、円弧形状を有し、前記ブレーキディスクの円周方向に互いから間隔を空けて配置され、前記摩擦面における前記凹部を備える複数の領域が、各々、円周方向に見て始端および終端で、前記ブレーキディスクの内部の複数の冷却ダクトのうちの1つに通じる貫通孔によって境界が画されていることを特徴とするブレーキディスク。
【請求項2】
前記摩擦面における前記凹部を備える複数の領域が、前記ブレーキディスクの円周方向に均一に分散されていることを特徴とする、請求項1に記載のブレーキディスク。
【請求項3】
均一にまたは不均一に分散するように配置された複数の凹部が互いに対して規則的な配置または不規則な配置で生成されるように、前記凹部は円周方向に断続的に配置されることを特徴とする、請求項1又は2に記載のブレーキディスク。
【請求項4】
前記摩擦面における前記凹部を備える複数の領域が、前記ブレーキディスクの半径方向に互いから間隔を空けて配置されていることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載のブレーキディスク。
【請求項5】
前記ブレーキディスクの半径方向に互いから間隔を空けて配置され、かつ前記凹部を備える複数の領域が、前記円周方向に互いからずれて配置されていることを特徴とする、請求項に記載のブレーキディスク。
【請求項6】
前記ブレーキディスクの半径方向に互いから間隔を空けて配置され、かつ前記凹部を備える複数の領域が、交互配置がもたらされるように、円周方向に互いからずれて配置されていることを特徴とする、請求項に記載のブレーキディスク。
【請求項7】
前記摩擦面の前記複数の領域の前記凹部が、円弧形状を有する溝の形態であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載のブレーキディスク。
【請求項8】
前記摩擦面における前記凹部を備える複数の領域が、内側では第1の円弧範囲によって半径方向に境界が画され、外側では、前記第1の円弧範囲より前記貫通孔の直径の長さ分大きい第2の円弧範囲によって半径方向に境界が画されていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のブレーキディスク。
【請求項9】
前記摩擦面における前記凹部が、1/10ミリメートル〜1ミリメートルの深さを有していることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載のブレーキディスク。
【請求項10】
円周方向に見て、前記摩擦面における前記凹部の前記深さが、一定ではなく、増加するかまたは減少していることを特徴とする、請求項に記載のブレーキディスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹部を備える領域を有する摩擦面を備えるブレーキディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
(特許文献1)は、摩擦面が平滑面の外形である自動車ディスクブレーキ用のブレーキディスクを開示している。平滑面の外形には、溝が螺旋状に伸びている。ブレーキディスクは、螺旋形状の回転方向が反対である少なくとも2つのセクションを形成している。セクション毎に複数の断続的なかつ/または交差する溝があり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】独国特許出願公開第10 2006 017 207 A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、凹部を備える領域を有する摩擦面を備えているブレーキディスクを、ブレーキディスクの動作中に湿潤摩擦係数に関して最適化することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、凹部を備える複数の領域を有する摩擦面を備えるブレーキディスクにおいて、凹部が、円周方向に延びて形成され、該凹部は、全体でブレーキパッドに対していかなる半径方向への横力も加えないように形成されまたは配置される、という点で達成される。凹部が円周方向に延びて形成され且つブレーキパッドにいかなる半径方向への横力も加えないように配置されるという事実により、パッド面を、ディスク面に食い込まないようにすることができる。本発明によるブレーキディスクは、好ましくは、穿孔された設計であり、内部が通気される。摩擦面における凹部の形成および配置により、ブレーキディスクの摩擦面からの水の排出を促進することができる。結果として、ブレーキディスクの湿潤摩擦係数を大幅に向上させることができる。軸方向に、半径方向に、および円周方向にという用語は、ブレーキディスクの回転軸を基準とする。軸方向にとは、回転軸の方向または回転軸に対して平行な方向にあることを意味する。半径方向にとは、回転軸に対して横切る方向にあることを意味する。
【0006】
たとえば、摩擦面における凹部を備える領域は、円弧の形態の形状または波形状を有することができ、ブレーキディスクの円周方向に互いから間隔を空けて配置されている。たとえば、凹部および/または凹部の下位領域を、車輪の中心に対して同心状にまたは同心状でなく伸びるように配置することができる。本発明によるブレーキディスクは、好ましくは、セラミック材料から形成される。セラミック材料から作製される本発明によるブレーキディスクが設けられるディスクブレーキもまた、セラミックブレーキと呼ばれる。
【0007】
摩擦面における凹部を備える領域が、ヘリングボーン形状またはV字形状を有し、ブレーキディスクの円周方向に互いから間隔を空けて配置されていることがさらに考えられる。本明細書において列挙する形状の可能性は、単に例示的な列挙であるものとして理解されるべきであり、凹部を介してパッドに加えられる横力が、横力に対抗するその他の凹部によって補償され続けることができる限り、さらに別の形態または幾何学的形状が考えられる。
【0008】
たとえば、凹部を、単一の溝状窪み又は複数の溝状窪みによって形成することができ、または、複数の溝状窪みは、互いに隣接して配置され、たとえば角部を備え、または丸い上縁または丸い下縁を備える、同一のまたは不均一の断面を有することができる。たとえば、互いに隣接して配置された複数の凹部により、断面が波形状またはジグザグ形状の外形を生成することができる。
【0009】
ブレーキディスクの好ましい例示的な実施形態は、摩擦面に凹部を備える複数の領域が、ブレーキディスクの円周方向に均一に分散されていることを特徴とする。本発明の本質的な一態様によれば、摩擦面の凹部を備える領域は、パッド面がディスクの外形に食い込むことを回避するために、円周方向に連続的にではなく、断続的に形成される。摩擦面に凹部を備える複数の領域は、円周方向に均一にまたは不均一に互いから間隔を空けて配置されている。
【0010】
たとえば、ブレーキディスクの1つの摩擦面側のみに凹部を設けることができる。
【0011】
ブレーキディスクのさらなる好ましい例示的な実施形態は、摩擦面に凹部を備える複数の領域が、ブレーキディスクの半径方向に互いから間隔を空けて配置されていることを特徴とする。摩擦面に凹部を備える領域は、好ましくは、ブレーキディスクの半径方向に、同様に均一に分散され、特に互いから均一に間隔を空けて配置されている。
【0012】
ブレーキディスクのさらなる好ましい例示的な実施形態は、ブレーキディスクの半径方向に互いから間隔を空けて配置され、かつ凹部を備える領域が、円周方向に互いからずれて配置されていることを特徴とする。ずれた配置は、ブレーキディスクの動作中に発生しているパッド振動に関して有利であることが分かった。
【0013】
ブレーキディスクのさらなる好ましい例示的な実施形態は、ブレーキディスクの半径方向に互いから間隔を空けて配置され、かつ凹部を備える領域が、交互配置がもたらされるように、円周方向に互いからずれて配置されていることを特徴とする。交互配置により、摩擦面に近づきかつ摩擦面から離れる方向に移動するブレーキパッドによってもたらされる、望ましくないパッド振動が回避される。
【0014】
ブレーキディスクのさらなる好ましい例示的な実施形態は、摩擦面の領域の凹部が、円弧形状を有する溝の形態であることを特徴とする。摩擦面の領域に、複数の溝が、好ましくは、各々、半径方向に互いから間隔を空けて配置されている。摩擦面の領域に、溝は、好ましくは、半径方向に互いから均一に間隔を空けて配置されている。
【0015】
ブレーキディスクのさらなる好ましい例示的な実施形態は、摩擦面に凹部を備える領域が、各々、円周方向に見て始端および終端で、ブレーキディスクの内部の複数の冷却ダクトのうちの1つに通じる貫通孔によって境界が画されていることを特徴とする。冷却ダクトは、ブレーキの内部通気を提供する役割を果たす。貫通孔は、好ましくは穿孔穴として設計されている。摩擦面に凹部を備える領域の始端および終端における貫通孔の配置により、冷却ダクトを通過する流れによってもたらされる貫通孔の排水効果を、ブレーキディスクの摩擦面から水を排出するために特に有利に使用することができる。
【0016】
ブレーキディスクのさらなる好ましい例示的な実施形態は、摩擦面に凹部を備える領域が、内側では第1の半径によって半径方向に境界が画され、外側では、第1の半径より貫通孔の直径分大きい第2の半径によって半径方向に境界が画されていることを特徴とする。その結果、貫通孔の吸引効果を、摩擦面に凹部を備える領域に特に有効に集中させることができる。
【0017】
ブレーキディスクのさらなる好ましい例示的な実施形態は、摩擦面における凹部が、数100分の1ミリメートル〜数ミリメートルの深さを有しているということを特徴とする。これらの値は、本発明の文脈内で行われる調査において特に有利であることが分かった。
【0018】
ブレーキディスクのさらなる好ましい例示的な実施形態は、円周方向に見て、摩擦面における凹部の深さが、一定ではなく、増加するかまたは減少していることを特徴とする。凹部の深さは、それぞれの領域の始端から終端まで一定に増加することも減少することができる。凹部の深さは、領域内で交互に増加し減少することも可能である。
【0019】
本発明のさらなる利点、特徴および詳細は、さまざまな例示的な実施形態が図面を参照してより詳細に記載されている以下の説明から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】内部通気があるブレーキディスクの非常に簡略化した図を断面で示す。
図2】第1の例示的実施形態による、図1のブレーキディスクを上面図で示す。
図3】第2の例示的実施形態による、図2に類似する図を示す。
図4図3の凹部を備える領域の簡略化しかつ拡大した図を示す。
図5図4の領域を断面図で示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、摩擦面4を備えるブレーキディスク1を、非常に簡略化した形態でかつ断面で示す。摩擦面4では、ブレーキディスク1の内部の冷却ダクト8に通じる貫通孔5が、開いたままになっている。冷却ダクト8を通る、空気等の冷却媒体の流れを、矢印10によって示す。摩擦面4から貫通孔5を通る冷却ダクト8内への排水効果を、破線矢印12によって示す。
【0022】
ブレーキディスク1は、セラミック複合材料から形成されている。このタイプのブレーキディスクは、ポルシェセラミックコンポジットブレーキ(PCCB:PORSCHE Ceramic Composite Brake)という名称でも知られている。ブレーキディスク1の本発明による設計により、水が、摩擦面4から貫通孔5を通って冷却ダクト8内に排出することが可能になる。それにより、セラミックブレーキの湿潤摩擦係数を、ねずみ鋳鉄材料から作製されたブレーキディスクを有するブレーキに比較して改善することができる。
【0023】
図2は、第1の例示的実施形態によるブレーキディスク21を上面図で示す。ブレーキディスク21は、摩擦面24によって包囲される中心開口部22を備えている。凹部を備える複数の領域31、32、33、34が、摩擦面24に形成されている。
【0024】
複数(図示せず)の領域のうちの4つの領域31〜34のみが、例として示されており、図2において参照数字が与えられている。凹部のすべてが、摩擦面24にわたって均一に分散されて配置されている。
【0025】
領域31〜34は、円弧形状である。領域31〜34の各々は、各々、円周方向に見て、始端と終端とに貫通孔36、37を有している。同様に円弧形状を有する複数の溝が、貫通孔36、37の間のそれぞれの領域32に延在している。
【0026】
図2に示す例示的な実施形態では、領域31と33、および32と34は、円周方向にオーバラップするように(半径方向位置は異なるが円周方向位置は重なるように)配置されている。円周方向に2つの領域31と32、および33と34の間に、摩擦面24に凹部が設けられていない隙間が、各々、空いたままになっている。
【0027】
図1において破線矢印12によって示す排水効果により、より多くの水が摩擦面から導かれることが可能になり、その結果、摩擦パッドが領域31と33、および32と34では摩擦面24に近づく。摩擦パッドは、領域31と33、および32と34の間では摩擦面24から離れるように円周方向に移動する。
【0028】
図3は、摩擦面44および中心開口部42を備えるブレーキディスク41を上面図で示す。摩擦面44に、各々が円弧形状を有する凹部を備える3つの領域51、52、53が示されている。
【0029】
領域51〜53の各々は、円周方向に見て、始端および終端で貫通孔56、57によって境界が画されている。貫通孔56、57の間において、各領域51〜53は、同様に円弧形状を有する複数の溝を備えている。
【0030】
図2に示す例示的な実施形態とは対照的に、図3では、領域51、52および53は、円周方向に見て互いにずれて配置されている。この結果、領域51、53および52の交互の配置になる。
【0031】
図3に示す交互配置により、図2に示す例示的な実施形態の場合に発生する可能性がある望ましくないパッド振動を、単純な方法で回避することができる。
【0032】
図4は、2つの貫通孔56および57がある領域52を、拡大して、かつ貫通孔56および57の間に溝のない状態で示す。領域52の第1円弧範囲を矢印61によって示す。領域52の第2円弧範囲を矢印62によって示す。
【0033】
貫通孔57の直径を、双方向矢印64によって示す。貫通孔56は、貫通孔57と直径が同じである。第2円弧範囲62は第1円弧範囲61より直径64の長さ分大きい。
【0034】
図5は、領域52を溝のない状態で断面図で示す。領域52の幅を双方向矢印71によって示す。領域52の深さを双方向矢印72によって示す。
【0035】
領域52の深さ72は、1/10ミリメートル〜1ミリメートルである。領域52の幅71は、例えば0.5ミリメートルである。
【0036】
領域52の幅71を、直径64より小さくすることができる。しかしながら、領域52の幅71は、原則的に、貫通孔57の直径64と関係していない。
【符号の説明】
【0037】
1 ブレーキディスク
4 摩擦面
5 貫通孔
8 冷却ダクト
10 冷却媒体の流れ
12 排水効果
21 ブレーキディスク
22 中心開口部
24 摩擦面
31 領域
32 領域
33 領域
34 領域
36 貫通孔
37 貫通孔
41 ブレーキディスク
42 中心開口部
44 摩擦面
51 領域
52 領域
53 領域
56 貫通孔
57 貫通孔
61 第1円弧範囲
62 第2円弧範囲
64 直径
71 幅
72 深さ
図1
図2
図3
図4
図5