特許第5736023号(P5736023)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5736023
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】ヒドラジド系混晶
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1339 20060101AFI20150528BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20150528BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20150528BHJP
   C07C 243/28 20060101ALI20150528BHJP
   C07C 243/30 20060101ALI20150528BHJP
   C07C 241/04 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   G02F1/1339 505
   C08G59/40
   C09K3/10 B
   C09K3/10 L
   C07C243/28
   C07C243/30
   C07C241/04
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-229109(P2013-229109)
(22)【出願日】2013年11月5日
(62)【分割の表示】特願2008-323987(P2008-323987)の分割
【原出願日】2008年12月19日
(65)【公開番号】特開2014-65712(P2014-65712A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2013年11月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000162434
【氏名又は名称】協立化学産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(74)【代理人】
【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100135873
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 圭子
(74)【代理人】
【識別番号】100122736
【弁理士】
【氏名又は名称】小國 泰弘
(74)【代理人】
【識別番号】100116919
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 房幸
(72)【発明者】
【氏名】福本 邦宏
【審査官】 東 裕子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−143872(JP,A)
【文献】 特開平09−003021(JP,A)
【文献】 特開平03−122114(JP,A)
【文献】 特開平10−017649(JP,A)
【文献】 特開昭61−183316(JP,A)
【文献】 特開昭61−034052(JP,A)
【文献】 特開2009−275166(JP,A)
【文献】 特開平10−231353(JP,A)
【文献】 PASCHKE,R.F. et al,Binary mixtures of fatty acid derivatives. I. Dihydrazides of dicarboxylic acids-glutaric to sebacic,Journal of the American Oil Chemists' Society,1949年11月,Vol.26,p.637-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 241/00
C07C 243/00
C08G 59/00
G02F 1/1339
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に少なくとも1個のヒドラジド基を有する結晶性ヒドラジド化合物の2種以上からなるヒドラジド化合物の混晶と、エポキシ樹脂とを含む液晶シール剤組成物
【請求項2】
各結晶性ヒドラジド化合物の混合比率が1〜99重量%の範囲であるヒドラジド化合物の混晶を含む、請求項1記載の液晶シール剤組成物
【請求項3】
ヒドラジド化合物の混晶の融点が80〜180℃である、請求項1又は2記載の液晶シール剤組成物
【請求項4】
ヒドラジド化合物の混晶は、2種以上の結晶性ヒドラジド化合物の少なくとも1種類が二塩基酸ジヒドラジドである、請求項1〜3のいずれか1項記載の液晶シール剤組成物
【請求項5】
ヒドラジド化合物の混晶は、2種以上の結晶性ヒドラジド化合物のすべてが二塩基酸ジヒドラジドである、請求項1〜4のいずれか1項記載の液晶シール剤組成物
【請求項6】
エポキシ樹脂に対して、ヒドラジド化合物の混晶を50〜150モル%含む、請求項1〜5のいずれか1項記載の液晶シール剤組成物。
【請求項7】
ヒドラジド化合物の混晶の平均粒子径が0.5〜20μmの微粉末の形態にある、請求項1〜のいずれか1項記載の液晶シール剤組成物
【請求項8】
1分子中に少なくとも1個のヒドラジド基を有する結晶性ヒドラジド化合物の2種以上を融点以上に加熱溶融して混合する工程、及び該混合物を冷却して固化する工程を含む方法によって得られたヒドラジド化合物の混晶を、エポキシ樹脂に加える工程を含む、請求項1〜のいずれか1項記載の液晶シール剤組成物の製造方法。
【請求項9】
さらに、冷却固化物を平均粒子径が0.5〜20μmの微粉末に粉砕する工程を含む、請求項記載の液晶シール剤組成物の製造方法。
【請求項10】
冷却を結晶核剤の存在下で行なう、請求項8又は9記載の液晶シール剤組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒドラジド系混晶及びその製造方法に関する。本発明のヒドラジド系混晶は、例えば、液晶表示装置等の電子部品のシール材や封止材のエポキシ樹脂を製造するための硬化剤として好適に使用できる。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、通常、ビスフェノールAやフェノールノボラック等のフェノール性水酸基を有する化合物とエピクロルヒドリンを反応せしめて製造される。また、最近では、2官能以上のエポキシ樹脂をアクリル酸等で変性したハイブリッド型のエポキシ樹脂も製造されている。エポキシ樹脂の硬化剤としては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエキレンテトラミン等の脂肪族ポリアミン、該脂肪族ポリアミンにエポキシ樹脂、アクリロニトリル、酸化エチレン等を付加した変性ポリアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族ボリアミン、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、無水ピロメリット酸等の酸無水物、アジピン酸ジヒドラジド、ドデカン2酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド等の二塩基酸ヒドラジド等が使用されている。
【0003】
これらの硬化剤のうち、アミン類は低温硬化性を有するために速硬化性を要求される分野では多用されるが、耐湿性や電気特性的に劣り、また、ポットライフの問題もある。酸無水物は透明性が良好で電気特性的にも優れているため、モールド樹脂等に使われているが硬化温度が高いことや耐湿性にやや劣る等の問題がある。これに対して二塩基酸ジヒドラジド類はアミン類や酸無水物に比べ保存安定性に優れ、硬化温度も比較的低く、硬化時間が短い等の理由でその使用量は増加している。また、特許文献1に二塩基酸ジヒドラジド化合物を平均粒子径1〜5μに粉砕して、加熱硬化時に硬化剤が均一にマトリックスへ取り込まれ、さらに特性が改善される等も開示されている。しかし、二塩基酸ジヒドラジドに代表されるヒドラジド系硬化剤は有機の単一結晶体であるため、融点付近で急激に溶解して粘度低下を引き起こし、不必要に被着体を汚染し好ましくない。また、エポキシ樹脂に対する溶解性が劣る場合はブリード現象や不均一な硬化を生じる場合もある。特に液晶表示装置等の高い信頼性を要求される電子部品のシール材や封止材の分野に使用する場合には不適当である。
【0004】
一方、硬化温度の低温化や硬化時間の短縮については、特許文献2に120〜130℃で硬化可能な二塩基酸ヒドラジドが紹介されており、特許文献3、特許文献4及び特許文献5には二塩基酸ヒドラジドと組合せることで硬化時間を短縮可能な硬化促進剤が紹介され、特許文献6及び特許文献7では、モノヒドラジドや二塩基酸ヒドラジドを組合せることで硬化時間を短縮する事例が紹介されている。しかしながら、これらの方法はポットライフ的に問題が有ったり、硬化時間の短縮に大幅な改善を達成出来ていない。
【特許文献1】特開平9−3021号公報
【特許文献2】特開昭61−183316号公報
【特許文献3】特開昭63−256615号公報
【特許文献4】特開平1−247418号公報
【特許文献5】特開平11−29695号公報
【特許文献6】特開平10−17649号公報
【特許文献7】特開平10−231353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は上記の従来技術の問題点を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、1分子中に少なくとも1個以上のヒドラジド基を有する結晶性ヒドラジド化合物の2種類以上を任意の割合で融点以上に加熱溶融、混合して、冷却することにより製造されるヒドラジド系混晶を用いることで、エポキシ樹脂の硬化剤として、結晶性ヒドラジド化合物の2種類以上を単純にブレンド配合した場合と比較して、硬化温度の著しい低温化及び硬化時間の短縮が可能となり、しかも高いガラス転移温度を損なわず、ポットライフ的にも安定なエポキシ樹脂組成物が得られることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、以下の通りである。
(1)1分子中に少なくとも1個のヒドラジド基を有する結晶性ヒドラジド化合物の2種以上からなるヒドラジド化合物の混晶。
(2)各結晶性ヒドラジド化合物の混合比率が1〜99重量%の範囲である、(1)記載のヒドラジド化合物の混晶。
(3)融点が80〜180℃である、(1)又は(2)記載のヒドラジド化合物の混晶。
(4)2種以上の結晶性ヒドラジド化合物の少なくとも1種類が二塩基酸ジヒドラジドである、(1)〜(3)のいずれか1項記載のヒドラジド化合物の混晶。
(5)2種以上の結晶性ヒドラジド化合物のすべてが二塩基酸ジヒドラジドである、(1)〜(4)のいずれか1項記載のヒドラジド化合物の混晶。
(6)平均粒子径が0.5〜20μmの微粉末の形態にある、(1)〜(5)のいずれか1項記載のヒドラジド化合物の混晶。
(7)1分子中に少なくとも1個のヒドラジド基を有する結晶性ヒドラジド化合物の2種類以上を任意の割合で融点以上に加熱溶融して混合する工程、及び該混合物を冷却して固化する工程を含む、請求項1〜5のいずれか1項記載の混晶の製造方法。
(8)さらに、冷却固化物を平均粒子径が0.5〜20μmの微粉末に粉砕する工程を含む、(7)記載の混晶の製造方法。
(9)冷却を結晶核剤の存在下で行なう、(7)又は(8)記載の混晶の製造方法。
(10)(1)〜(6)のいずれか1項記載のヒドラジド化合物の混晶を含むエポキシ樹脂用硬化剤。
(11)(10)記載の硬化剤とエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物。
(12)(11)記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エポキシ樹脂の硬化剤として、結晶性ヒドラジド化合物の2種類以上を単純にブレンド配合した場合と比較して、硬化温度の著しい低温化及び硬化時間の短縮が可能となり、しかも高いガラス転移温度を損なわず、ポットライフ的にも安定なエポキシ樹脂組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】「ADH−NJ」のX線回折スペクトルを示す。
図2】「UDH−NJ」のX線回折スペクトルを示す。
図3】「DDH−NJ」のX線回折スペクトルを示す。
図4】「SDH−NJ」のX線回折スペクトルを示す。
図5】「AU−11N」のX線回折スペクトルを示す。
図6】「AU−31N」のX線回折スペクトルを示す。
図7】「DS−11N」のX線回折スペクトルを示す。
図8】「SDH−NJ」のDSC曲線を示す。
図9】「DDH−NJ」のDSC曲線を示す。
図10】「SDH/DDH」(混合物)のDSC曲線を示す。
図11】「DS−11N」(混晶)のDSC曲線を示す。
図12】「ADH−NJ」のDSC曲線を示す。
図13】「UDH−NJ」のDSC曲線を示す。
図14】「ADH/UDH」(混合物)のDSC曲線を示す。
図15】「AU−11N」(混晶)のDSC曲線を示す。
図16】「DS−11A」(混晶)のDSC曲線を示す。
図17】「DS−11T」(混晶)のDSC曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のヒドラジド化合物の混晶は、CuKα線によるX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)の20〜25°の間で強い回折ピークが2〜3本程度観察される結晶変態を有する化合物である。本発明のアモルファス混晶は、X線回折スペクトルが単結晶ヒドラジド化合物のそれと比較して全体的にブロードであるため、非結晶状態と結晶状態が混在した部分結晶化合物と推定される混晶である。
【0011】
本発明におけるヒドラジド化合物の混晶は、好ましくは80〜180℃、より好ましくは100〜170℃の融点を有する。
【0012】
本発明のヒドラジド化合物の混晶は、融点において、原料である2種以上の結晶性ヒドラジド化合物のそれぞれの融点より15℃以上低く、原料である2種以上の結晶性ヒドラジド化合物の混合物の融点より5℃以上低い。本発明におけるヒドラジド化合物の混晶は、一般に、2種以上のヒドラジド化合物原料のそれぞれのヒドラジド化合物よりも、15〜100℃、特に15〜80℃低い融点を有し、2種以上のヒドラジド化合物原料の混合物よりも、5〜90℃、特に15〜70℃低い融点を有し得る。
【0013】
また、本発明のヒドラジド化合物の混晶は、DSCのピークにおける融解熱が原料ヒドラジドの混合物と比較して15%以上低い。
【0014】
本発明のヒドラジド化合物の混晶は、1分子中に少なくとも1個のヒドラジド基を有する結晶性ヒドラジド化合物の2種以上を融点以上に加熱溶融して混合する工程、及び該混合物を冷却して固化する工程を含む方法により製造し得る。
【0015】
本発明における原料ヒドラジド化合物は、1分子中に少なくとも1個のヒドラジド基を有し、結晶性を有すれば、特に制限されずに公知のモノヒドラジド、ジヒドラジド又はトリヒドラジド以上のポリヒドラジド化合物が使用できる。
【0016】
具体的には例えば、一般式(1):
【0017】
【化1】
【0018】
[式中Rは、水素原子、アルキル基、又は置換基を有することのあるアリール基を示す。]で表されるモノヒドラジド化合物、一般式(2):
【0019】
【化2】
【0020】
[式中Aは、置換基を有することのあるアルキレン基、置換基を有することのあるアリーレン基又はオキソ基を示す。]で表されるジヒドラジド化合物等を挙げることができる。
【0021】
上記一般式(1)のモノヒドラジド化合物の具体例としては、例えば、カルボヒドラジド、ラウリル酸ヒドラジド、アセトヒドラジド、アニス酸ヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、p−ヒドロキシ安息香酸ヒドラジド、ナフトエ酸ヒドラジド等を挙げることができる。
【0022】
上記一般式(2)で表されるジヒドラジド化合物の具体例としては、例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンジオジヒドラジド、ヘキサデカンジオヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、2.6−ナフトエ酸ジヒドラジド、4,4‘−ビスベンゼンジヒドラジド、1,4−ナフトエ酸ジヒドラジド等を挙げることができる。これらの他にも特公昭61−183316号公報に記載の二塩基酸ジヒドラジド化合物等も使用できる。
【0023】
本発明においては、結晶性ヒドラジド化合物の2種以上を混合するが、その組合せは任意であり、例えば、ジヒドラジド化合物同士、モノヒドラジド化合物同士、モノヒドラジド化合物とジヒドラジド化合物の組合せ等が挙げられる。
【0024】
また、結晶性ヒドラジド化合物は、モノヒドラジド化合物であっても良いが、これと組合せるヒドラジド化合物は2個以上のヒドラジド基を有する二塩基酸ジヒドラジドや三塩基酸トリヒドラジドなどの多官能ヒドラジド化合物であることが耐熱性の観点で好ましい。
【0025】
本発明における結晶性ヒドラジド化合物の組み合わせとしては、少なくとも1種が二塩基酸ジヒドラジドであることが好ましく、特にすべてのヒドラジド化合物が二塩基酸ジヒドラジドであることが好ましく、例えば、アジピン酸ジヒドラジドとセバシン酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジドとデカンジオジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドとデカンジオジヒドラジドの組合せ等を挙げることができる。
【0026】
本発明においては、上記結晶性ヒドラジド化合物の少なくとも2種以上を併用するが、その併用割合は、硬化させるべきエポキシ樹脂の種類、用途、要求される硬化時間や硬化温度等の各種条件に応じて適宜決定すればよい。例えば、全ヒドラジド混晶中に1種のヒドラジド化合物が通常1〜99重量%、好ましくは10〜90重量%、より好ましくは30〜70重量%含有されるように、2種以上のヒドラジド化合物を併用するのがよい。
【0027】
本発明においては、2種類以上の結晶性ヒドラジド化合物の混合物を融点以上に加熱して溶融し、混合する。加熱溶融、混合は常法により行うことができる。2種以上のヒドラジド化合物の加熱溶融・混合し、ついで、冷却する。冷却速度は、好ましくは20〜0.01℃/分、より好ましくは10〜0.05℃/分、さらに好ましくは5〜0.1℃/分である。冷却は多段階、例えば2段階で行っても良い。たとえば、1段目に100〜50℃まで冷却し、その温度で結晶を成長させ、2段目で室温まで冷却することが可能である。
【0028】
冷却における結晶の成長を確実なものとするために、結晶核剤を用いても良い。結晶核剤は、冷却完了前の任意の時期に添加できるが、加熱溶融・混合時あるいは冷却途中、特に加熱溶融・混合時に添加することが好ましい。
【0029】
結晶核剤としては、一般的なタルク、シリカ、酸化チタンなどの無機微粒子を用いることが出来る。
【0030】
結晶核剤は、2種以上のヒドラジド化合物の総量に対して、0.1〜10重量%、特に0.5〜5重量%の量で使用するのが好ましい。
【0031】
結晶の成長が不十分な場合、非結晶部分の割合が多くなり、融点がブロードとなり、エポキシ樹脂組成物とした場合のポットライフを阻害するので好ましくない。
【0032】
本発明のヒドラジド系混晶は、好ましくは、微粉砕した粒状の形態を有する。微粉砕することにより、エポキシ樹脂の硬化時間を一層短縮することができる。平均粒子径は、制限されるものではないが、実用性を考慮すると0.5〜20μmであることが好ましい。0.5μm未満では、保存安定性が低下する可能性があり、エポキシ樹脂組成物とした場合の製品粘度が高くなり好ましくない。一方、20μmを越えると、例えば、エポキシ樹脂の硬化剤として用いた場合に、不均一な硬化状態となることで耐熱性、耐湿性等の低下が懸念され、好ましくない。微粉砕は、例えば、高圧粉砕機(具体例を挙げればカウンタージェットミル(商品名、ホソカワミクロン社製)、クロスジェットミル(商品名、栗本鉄工所製)、ナノジェットマイザー(商品名、アイシンナノテクノロジーズ社製))などを使用して行える。
【0033】
本発明は、上記のヒドラジド化合物の混晶を含むエポキシ樹脂硬化剤、その硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物、そのエポキシ樹脂組成物の硬化物にも係る。エポキシ樹脂としては、硬化剤により硬化可能な任意のエポキシ樹脂が使用できる。ヒドラジド化合物の混晶は、通常のヒドラジド硬化剤と同様な量又はそれよりも少量、例えばエポキシ樹脂に対して、50〜150モル%、特に75〜125モル%で含み得る。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0035】
実施例1
セバシン酸ジヒドラジド(SDH;大塚化学(株)製)750重量部とドデカン二酸ジヒドラジド(DDH−S;大塚化学(株)製)750重量部を5リットルセパブルフラスコにいれ、200℃に加熱して、結晶が完全に溶融したのを確認して、30分程度十分攪拌した。200℃に予備加熱したパイレックス(登録商標)ガラス製のトレーに移し、200℃のオーブンへセットした。溶融混合物を毎分0.5℃程度の速度で75℃以下の温度まで冷却して、この温度で結晶を成長させた。溶融混合物の温度を室温まで完全に冷却後、カッターミルで固化物を粗粉砕し、最終的に高圧粉砕機(商品名:ナノジェットマイザー、(株)アイシンナノテクノロジーズ製)にて粉砕し、平均粒子径2.5μmの微粉状のヒドラジド混晶(以下「DS−11N」とする)を製造した。
【0036】
実施例2
アジピン酸ジヒドラジド(ADH−S;大塚化学(株)製)750重量部と7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボヒドラジド(UDH;味の素ファインテクノ(株)製)750重量部を5リットルセパブルフラスコにいれ、200℃に加熱して、結晶が完全に溶融したのを確認して、30分程度十分攪拌した。200℃に予備加熱したパイレックス(登録商標)ガラス製のトレーに移し、200℃のオーブンへセットした。溶融混合物を毎分0.5℃程度の速度で75℃以下の温度まで冷却して、この温度で結晶を成長させた。溶融混合物の温度を室温まで完全に冷却後、カッターミルで固化物を粗粉砕し、最終的に高圧粉砕機(商品名:ナノジェットマイザー、(株)アイシンナノテクノロジーズ製)にて粉砕し、平均粒子径2.3μmの微粉状のヒドラジド混晶(以下「AU−11N」とする)を製造した。
【0037】
試験例1
実施例1及び2で使用したセバシン酸ジヒドラジド(SDH;大塚化学(株)製)、ドデカン二酸ジヒドラジド(DDH−S;大塚化学(株)製)、アジピン酸ジヒドラジド(ADH−S;大塚化学(株)製)及び7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボヒドラジド(UDH;味の素ファインテクノ(株)製)をそれぞれ前述の高圧粉砕機で粉砕し、平均粒子径2〜3μmの微粉状ジヒドラジドとしたもの(それぞれ「SDH−NJ」、「DDH−NJ」、「ADH−NJ」及び「UDH−NJ」とする)を得た。また、「SDH−NJ」と「DDH−NJ」を50:50で混合したもの(「SDH/DDH」)及び「ADH−NJ」及び「UDH−NJ」を50:50で混合したもの(「ADH/UDH」)も調製した。各試料についてCuKα線によるX線回折スペクトルを測定した。測定は、マックサイエンス社製MPX−3Aを用いて粉体XRD法でCuKαのX線回折スペクトルを測定した。測定結果を、図1〜7に示した。図1は「ADH−NJ」のX線回折スペクトル、図2は「UDH−NJ」のX線回折スペクトル、図3は「DDH−NJ」のX線回折スペクトル、図4は「SDH−NJ」のX線回折スペクトル、図5は「AU−11N」のX線回折スペクトル、図6は「AU−31N」(後述の実施例5参照)のX線回折スペクトル、図7は「DS−11N」のX線回折スペクトルを示す。「AU−11N」は、「ADH−NJ」及び「UDH−NJ」に比べ、「DS−11N」は、「SDH−NJ」及び「DDH−NJ」に比べ、最大回折強度スペクトルが格子間距離の長い方へシフトしている。
【0038】
試験例2
実施例1で製造した「DS−11N」、実施例2で製造した「AU−11N」のDSC曲線を測定した。それらの融点をDSC法により測定した。また、比較のために「SDH−NJ」、「DDH−NJ」及び「SDH/DDH」、「ADH−NJ」、「UDH−NJ」及び「ADH/UDH」のDSC曲線及び融点も同様に測定した。
【0039】
DSC特性の測定方法は以下の通りであった。
測定装置名:SIIナノテクノロジー社製 DSC6000型
昇温速度:10℃/min 温度条件:25℃⇒250℃ Nガス:40ml/min
試験セル:アルミパン(アルミフタ圧着)
【0040】
図8は「SDH−NJ」、図9は「DDH−NJ」、図10の「SDH/DDH」(混合物)、図11は「DS−11N」(混晶)のDSC曲線を示す。
【0041】
図12は「ADH−NJ」、図13「UDH−NJ」、図14の「ADH/UDH」(混合物)、図15は「AU−11N」(混晶)のDSC曲線を示す。
【0042】
結晶性と融解熱の間には、相関性が認められるため、DSC曲線の融解熱比較から、「DS−11N」(混晶)の結晶化率は50%、「AU−11N」(混晶)の結晶化率は60%と推定される。この曲線から求めた融点の測定結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
試験例3
エポキシ樹脂(商品名:エピクロン#850S、DIC(株)製)100重量部に、実施例1で製造したDS−11N 32.7重量部を加え、エポキシ樹脂組成物を作成し、120℃及び150℃に加熱してゲルタイムを測定した。実施例2で製造したDS−11Aも同様にしてゲルタイムを測定した。比較のために、SDH−NJ、DDH−NJ及びDDH/SDH、並びにADH−NJ、UDH−NJ及びADH/UDHも同様にゲルタイムを測定した。
【0045】
ゲルタイムの測定結果を表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
試験例4
試験例3で作製したエポキシ樹脂組成物を40℃に保管して、粘度変化を測定することでポットライフを評価した。ここでは、初期値の2倍の粘度になる時間をポットライフとする。
【0048】
ポットライフの測定結果を表3に示す。25℃のポットライフも同時に測定したが、いずれも30日以上あり、実用上問題のないレベルであった。
【0049】
【表3】
【0050】
実施例3
セバシン酸ジヒドラジド(SDH;大塚化学(株)製)750重量部とドデカン二酸ジヒドラジド(DDH−S;大塚化学(株)製)750重量部と結晶核剤としてシリカ(粒子径12nm;日本アエロジル(株)製)30重量部を5リットルセパラブルフラスコにいれ、200℃に加熱して、結晶が完全に溶融したのを確認して、30分程度十分攪拌した。これを2リットルセパラブルフラスコへ移し、高速攪拌機(ホモジナイザー;IKA社製)で10,000rpm、10分間攪拌してシリカを良く分散させる。200℃に予備加熱したパイレックス(登録商標)ガラス製のトレーに移し、200℃のオーブンへセットした。溶融混合物を毎分0.5℃程度の速度で75℃以下の温度まで冷却して、この温度で結晶を成長させた。溶融混合物の温度を室温まで完全に冷却後、カッターミルで固化物を粗粉砕し、最終的に高圧粉砕機(商品名:ナノジェットマイザー、(株)アイシンナノテクノロジーズ製)にて粉砕し、平均粒子径2.3μmの微粉状のヒドラジド混晶(以下「DS−11A」とする)を製造した。この混晶のDSC曲線を図16に示す。DSCで測定した融点は、147.7℃、融解熱は190mJ/mgで結晶化率は70%と推定される。
【0051】
実施例4
セバシン酸ジヒドラジド(SDH;大塚化学(株)製)750重量部とドデカン二酸ジヒドラジド(DDH−S;大塚化学(株)製)750重量部と結晶核剤として二酸化チタン(粒子径21nm;日本アエロジル(株)製)30重量部を5リットルセパラブルフラスコにいれ、200℃に加熱して、結晶が完全に溶融したのを確認して、30分程度十分攪拌した。これを2リットルセパラブルフラスコへ移し、高速攪拌機(ホモジナイザー;IKA社製)で10,000rpm、10分間攪拌して二酸化チタンを良く分散させる。200℃に予備加熱したパイレックス(登録商標)ガラス製のトレーに移し、200℃のオーブンへセットした。溶融混合物を毎分0.5℃程度の速度で75℃以下の温度まで冷却して、この温度で結晶を成長させた。溶融混合物の温度を室温まで完全に冷却後、カッターミルで固化物を粗粉砕し、最終的に高圧粉砕機(商品名:ナノジェットマイザー、(株)アイシンナノテクノロジーズ製)にて粉砕し、平均粒子径2.4μmの微粉状のヒドラジド混晶(以下「DS−11T」とする)を製造した。この混晶のDSC曲線を図17に示す。DSCで測定した融点は、130.4℃、融解熱は117mJ/mgで結晶化率は40%と推定される。
【0052】
実施例5
アジピン酸ジヒドラジド(ADH−S;大塚化学(株)製)1125重量部と7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボヒドラジド(UDH;味の素ファインテクノ(株)製)375重量部を用いた以外は、実施例1と同様に操作し、平均粒子径2.1μmの微粉状のヒドラジド混晶(「AU−31N」とする)を製造した。DSCで測定した融点は、145.1℃、融解熱は142mJ/mgであり、結晶化率は50%と推定される。
【0053】
実施例6
アジピン酸ジヒドラジド(ADH−S;大塚化学(株)製)750重量部とセバシン酸ジヒドラジド(SDH;大塚化学(株)製)750重量部を用いた以外は、実施例1と同様に操作し、平均粒径2.4μmの微粉状のヒドラジド混晶を製造した。DSCで測定した融点は、162.7℃、融解熱は210mJ/mgで結晶化率は75%と推定される。
【0054】
実施例7
アジピン酸ジヒドラジド(ADH−S;大塚化学(株)製)750重量部とセバシン酸ジヒドラジド(SDH;大塚化学(株)製)750重量部を用いて冷却速度を毎分0.2℃とした以外は、実施例1と同様に操作し、平均粒径2.3μmの微粉状のヒドラジド混晶を製造した。DSCで測定した融点は、163.9℃、融解熱は227mJ/mgであり、結晶化率は80%と推定される。
【0055】
実施例8
アジピン酸ジヒドラジド(ADH−S;大塚化学(株)製)750重量部とドデカン二酸ジヒドラジド(DDH−S;大塚化学(株)製)750重量部を用いた以外は、実施例1と同様に操作し、平均粒径2.3μmの微粉状のヒドラジド混晶を製造した。DSCで測定した融点は、160.7℃、融解熱は211mJ/mgであり、結晶化率は75%と推定される。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、硬化温度の著しい低温化及び硬化時間の短縮が可能となり、しかも高いガラス転移温度を損なわず、ポットライフ的にも安定なエポキシ樹脂組成物が得られるので、エポキシ樹脂の硬化剤として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17