(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記加速度補正部で補正された加速度に基づいて、前記移動体の速度、上下方向傾き角である走行ピッチ角の少なくとも一方を算出する速度・走行角算出部を備えた、請求項1〜請求項9のいずれかに記載の移動状態検出装置。
前記速度・走行角算出部は、前記走行ピッチ角が算出される場合に、前記重力周波数成分の重力加速度による除算値を算出し、該除算値により、算出した走行ピッチ角を補正する、請求項10に記載の移動状態検出装置。
前記雑音周波数成分が算出される場合に、前記運動加速度周波数成分および前記雑音周波数成分の和が所定閾値未満であることを検出して前記移動体の停止を検出する停止検出部を備えた、請求項2〜請求項11のいずれかに記載の移動状態検出装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1,2に示した取付角度算出装置では、加速度センサの出力値のみで取付角度を検出するものではなく、ジャイロセンサや角速度センサからの角速度や、上述の移動体から得られる車速パルス等を利用している。また、加速度センサ
から出力される加速度は、バイアス成分やノイズ成分等の不要成分が含まれているが、これらについては考慮していない。したがって、バイアス成分やノイズ成分による誤差を含む加速度を用いて取付角度を算出するため、取付角度を精度良く算出することができない。このため、加速度センサからの加速度が精度良く補正されず、移動体の走行速度や走行方位を正確に得ることができなくなってしまう。
【0007】
本発明の目的は、加速度センサから出力される加速度に含まれるバイアス成分やノイズ成分等の不要成分による影響を除去し、加速度センサの取付角度を精度良く算出し、当該加速度センサからの加速度を精度良く補正できる、移動状態検出装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の移動状態検出装置は、加速度センサと加速度補正部とを備える。加速度センサは、移動体に設置され、
複数軸成分の加速度を検出する。加速度補正部は、加速度センサから得られる
複数軸成分における横方向の加速度から移動体の直進走行を検出し、複数軸成分の加速度を周波数帯域毎に分解し、所定周波数帯域成分からなる重力周波数成分および運動加速度周波数成分に基づいて前記加速度センサの少なくともピッチ方向の取付角度を直進走行中に推定して、該取付角度に基づいて加速度を補正する。
【0009】
より具体的に、この発明の移動状態検出装置は、加速度センサと加速度補正部とを備える。加速度センサは、移動体に設置され、当該移動体の加速度を検出する。加速度補正部は、加速度センサから得られる加速度を低周波数側から順次周波数帯域毎にバイアス周波数成分、重力周波数成分、運動加速度周波数成分、および雑音周波数成分に分解し、重力周波数成分および運動加速度周波数成分に基づいて加速度センサの
少なくともピッチ方向の取付角度を
直進走行中に推定して、該取付角度に基づいて加速度を補正する。
【0010】
この構成では、加速度センサで得られる加速度が周波数成分毎に分解される。ここで、バイアス周波数成分は、移動体の移動状態によらず略定常的に出力される成分であり、極低周波数からなる。雑音周波数成分は、移動体の移動状態によらずランダムに変動し続ける成分であり、高い周波数からなる。そして、これらとは別に、重力周波数成分および運動加速度周波数成分は移動体の移動状態に依存し、バイアス周波数成分よりも変動が大きいので、バイアス周波数成分よりも高い周波数成分となり、雑音周波数成分ほどのランダム性を有さないので、雑音周波数成分よりも低い周波数成分となる。このため、加速度を周波数成分毎に分解することで、移動体の移動状態に依存しない、バイアス周波数成分や雑音周波数成分を含む不要成分を除去することができる。これにより、移動体の移動状態に依存する重力周波数成分および運動加速度周波数成分のみから構成される正確な加速度を得ることができる。
【0011】
また、この発明の移動状態検出装置の加速度補正部は、加速度をウェーブレット変換により周波数分解する。
【0012】
この構成では、加速度の各周波数成分を得るためにウェーブレット変換を用いることで、周波数軸上に展開した各周波数成分を単に得られるだけでなく、各周波数成分の時間軸上における遷移状態等も簡単に得ることができる。
【0013】
また、この発明の移動状態検出装置の加速度センサは、それぞれに直交する前後方向加速度成分、横方向加速度成分、および上下方向加速度成分で加速度成分を検出する。加速度補正部は
、前後方向加速度成分と上下方向加速度成分とによるピッチ方向取付角度の
直進走行中での推定を実行する。
【0014】
また、この発明の移動状態検出装置の加速度センサは、それぞれに直交する前後方向加速度成分、横方向加速度成分、および上下方向加速度成分で加速度成分を検出する。加速度補正部は、前後方向加速度成分と横方向加速度成分とにより方位方向取付角度を
直進走行中に推定し、前後方向加速度成分と上下方向加速度成分とによりピッチ方向取付角度を
直進走行中に推定し、前後方向加速度成分、横方向加速度成分、および上下方向加速度成分とピッチ方向取付角度とによりロール方向取付角度を
旋回走行中に推定する。
【0015】
これらの構成では、具体的に直交する3軸の加速度成分を得て、加速度センサの立体的な取付角度を推定算出する場合を示している。
【0016】
また、この発明の移動状態検出装置の加速度補正部は、横方向加速度成分が所定閾値を未満の場合に
、ピッチ方向取付角
度を推定する。
【0017】
また、この発明の移動状態検出装置の加速度補正部は、横方向加速度成分が所定閾値を未満の場合に方位方向取付角
度を推定する。
【0018】
また、この発明の移動状態検出装置の加速度補正部は、横方向加速度成分が所定閾値以上の場合に、ロール方向取付角度を推定する。
【0019】
これらの構成では、取付角度の算出の具体的な方法を示すものであり、横方向加速度成分に基づく移動体の移動状態の遷移に応じて、方位方向取付角度、ピッチ方向取付角度、ロール方向取付角度を推定する。
【0020】
また、この発明の移動状態検出装置の加速度補正部は、推定した取付角度を順次記憶するとともに取付角度を時間平均処理により算出する。この際、加速度補正部は、今回の推定した取付角度が直前に推定した取付角度に対して所定角度以上変化した場合、時間平均処理における過去の取付角度の重みを低くする。
【0021】
この構成では、時間平均処理を行うことで、推定した取付角度の誤差成分が抑圧される。例えば、通常の市街地等を走行する車両であれば、走行経路の殆どが平坦地であることが多いので、登り勾配や下り勾配時に推定された勾配角の影響を受けた取付角度による誤差成分が、時間平均処理により抑圧される。これにより、取付角度をより高精度に算出することができる。この上で、ユーザが強制的に取付角度を変更した場合等により、取付角度が大きく変化すると、過去に推定算出した取付角度の影響を抑圧することができる。
【0022】
また、この発明の移動状態検出装置は、加速度補正部で補正された加速度に基づいて、移動体の速度、上下方向傾き角である走行ピッチ角の少なくとも一方を算出する速度・走行角算出部を備えている。
【0023】
この構成では、移動状態検出装置の具体的構成例を示すものであり、上述のように精度良く得られた移動体の加速度から、移動体の速度や走行角を精度良く算出することができる。
【0024】
また、この発明の移動状態検出装置の速度・走行角算出部は、走行ピッチ角が算出される場合に、重力周波数成分の重力加速度による除算値を算出し、該除算値により、算出した走行ピッチ角を補正する。
【0025】
この構成では、上述の時間平均処理を用いた場合、当該時間平均処理による積算誤差が生じてしまう可能性がある。そのため、加速度センサによる加速度の重力周波数成分と重力加速度とだけから得られる走行ピッチ角によって、時間平均処理から得られる走行ピッチ角を補正することで、上述の積算誤差を抑圧し、継続的に高精度な走行ピッチ角を算出することができる。
【0026】
また、この発明の移動状態検出装置は、雑音周波数成分が算出される場合に、運動加速度周波数成分および雑音周波数成分の和が所定閾値未満であることを検出して移動体の停止を検出する停止検出部を備えている。
【0027】
この構成では、上述の移動体の移動状態の一態様として停止状態を正確に検出することができる。
【0028】
また、この発明のナビゲーション装置は、上述の移動状態検出装置を備え、該移動状態検出装置が算出した移動体の移動に関する情報に基づいて自身の位置
算出やナビゲーション処理を実行する。
【0029】
この構成では、上述のように移動状態検出装置で高精度な加速度や速度、走行ピッチ角が得られるので、これらを用いて、正確なナビゲーション処理を実行することができる。
【発明の効果】
【0030】
この発明によれば、周波数成分毎に分解することで高精度に加速度を得ることができるので、加速度センサの取付角度を精度良く算出し、加速度を高精度に補正することができる。これにより、移動体の速度や走行角を高精度の検出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の第1の実施形態に係る移動状態検出装置について、図を参照して説明する。本実施形態に係る移動状態検出装置は、車載用ナビゲーション装置やPND(Personal Navigation Device)等の各種ナビゲーション装置に利用されるものである。
図1は、本実施形態の移動状態検出装置1の主要構成を示すブロック図である。
図1に示すように、移動状態検出装置1は、加速度センサ20、加速度補正部10、速度・走行角算出部30を備え、車両等の移動体に固定的に設置される。なお、本実施形態の移動状態検出装置1は、移動体の速度および走行角(走行ピッチ角、走行ロール角、走行方位角(ヨー角))を検出するものであるが、例えば、移動体の加速度のみを出力するものであれば、速度・走行角算出部30を省略しても良い。
【0033】
加速度センサ20は、自身の座標系(センサ座標系)において、移動体の前後方向であるx軸方向に対応する加速度成分a
xsと、移動体の横方向であるy軸方向に対応する加速度成分a
ysと、移動体の上下方向であるz軸方向に対応する加速度成分a
zsとからなる、センサ座標系加速度
[axs,ays,azs]を検出する。
【0034】
ここで、加速度センサ20は、移動体に対して、方位方向取付角度Δψ、ピッチ方向取付角度Δθ、ロール方向取付角度Δφからなる取付角度[Δψ,Δθ,Δφ]で取り付けられているものとする。そして、取付角度[Δψ,Δθ,Δφ]は、
図2に示す座標系に準じたものである。
図2は移動体の座標系を説明する図である。
【0035】
図2に示すように、移動体の座標系は、移動体の前後方向を軸方向とするx軸と、移動体の横方向を軸方向とするy軸と、移動体の上下方向を軸方向とするz軸とからなる直交3軸の座標系である。そして、x軸を中心軸として回転する方向をロール角(φ)方向とし、y軸を中心軸として回転する方向をピッチ角(θ)方向とし、z軸を中心軸として回転する方向を方位角(ψ)方向としている。
【0036】
このように、加速度センサ20が移動体に対して取付角度[Δψ,Δθ,Δφ]で取り付けられているので、加速度センサ20から出力されるセンサ座標系加速度[a
xs,a
ys,a
zs]の各成分と移動体座標系加速度[a
xb,a
yb,a
zb]の各成分との間には、取付角度[Δψ,Δθ,Δφ]に基づく立体角に応じた差が生じる。
【0037】
加速度補正部10は、周波数解析部11、取付角度推定部12、補正演算部13を備える。
【0038】
周波数解析部11は、センサ座標系加速度[a
xs,a
ys,a
zs]を、ウェーブレット変換により周波数軸上の加速度成分群に変換する。より具体的には、周波数解析部11は、センサ座標系加速度[a
xs,a
ys,a
zs]を、例えば、1秒毎に取得して、64秒分記憶し、これら64秒分のデータに基づいてウェーブレット変換を実行する。そして、周波数解析部11は、64秒のサンプリング期間に対応する略定常成分(DC成分)、32秒のサンプリング期間に対応する変動成分(AC成分)、16秒のサンプリング期間に対応する変動成分(AC成分)、8秒のサンプリング期間に対応する変動成分(AC成分)、4秒のサンプリング期間に対応する変動成分(AC成分)、2秒のサンプリング期間に対応する変動成分(AC成分)、1秒のサンプリング期間に対応する変動成分(AC成分)を取得する。
【0039】
周波数解析部11は、取得した極低域周波数の64秒幅DC成分をバイアス周波数成分とし、中域周波数の32秒幅AC成分および16秒幅AC成分を重力周波数成分とし、中域周波数の8秒幅AC成分、4秒幅AC成分、および2秒幅AC成分を運動加速度周波数成分とし、1秒幅AC成分を雑音周波数成分と設定する。これらは、次に示す原理により設定される。
【0040】
まず、64秒幅で得られるDC成分は、移動体の移動状態に依らず、加速度センサ20が略定常的に出力されるものであると見なすことができるからである。次に、32秒幅や16秒幅で得られるAC成分は、移動体の移動状態に依るものの、比較的影響が低いものであり、移動体の運動加速度よりも移動体に生じる重力に依存し易い成分であると見なすことができるからである。次に、8秒幅、4秒幅および2秒幅で得られるAC成分は、移動体の移動状態に大きく影響され易いものであり、定常的に生じている重力加速度よりも移動体の運動加速度に依存し易い成分であると見なすことができるからである。次に、1秒幅で得られるAC成分は、移動体の運動加速度よりもよりランダム性を多く含むものであると見なすことができるからである。
【0041】
周波数解析部11は、ウェーブレット変換により得られた重力周波数成分と運動加速度周波数成分との和を検出用加速度[a
x(AG)s,a
y(AG)s,a
z(AG)s]として、取付角度推定部12および補正演算部13へ出力する。
【0042】
取付角度推定部12は、検出用加速度[a
x(AG)s,a
y(AG)s,a
z(AG)s]から取付角度[Δψ,Δθ,Δφ]を推定算出する。この取付角度の推定は、上述のセンサ座標系加速度の取得タイミングに応じて、例えば1秒毎に行ってもよく、また、センサ座標系加速度の各周波数成分をバッファリングしながら、適宜設定したタイミング毎に行ってもよい。
【0043】
ここで、取付角度[Δψ,Δθ,Δφ]の推定算出原理について説明する。センサ座標系加速度[a
xs,a
ys,a
zs]、移動体座標系加速度[a
xb,a
yb,a
zb]、取付角度[Δψ,Δθ,Δφ]とした場合、次式が成り立つ。
【0045】
C
bsは、移動体座標系を加速度センサ座標系に変換する回転行列であり、取付角度[Δψ,Δθ,Δφ]を用いて、次式で表すことができる。
【0047】
ここで、取付角度[Δψ,Δθ,Δφ]のそれぞれが、Δψ≪1[rad]、Δθ≪1[rad]、Δφ≪1[rad]である場合、回転行列C
bsは、次式のように近似することができる。
【0049】
したがって、式(1)は次式で表すことができる。
【0051】
ここで、周波数解析部11によってバイアス周波数成分および雑音周波数成分を除去した検出用加速度を用いると、上記式(4)は、次式となる。
【0053】
ところで、移動体が平坦地を直進走行している場合、移動体座標系加速度[a
xb,a
yb,a
zb]の横方向成分a
yb、上下方向成分a
zbは「0」と見なすことができる。すなわち、a
yb=0,a
zb=0となる。
【0054】
したがって、式(5)は、次式のように表される。
【0056】
これにより、前後方向成分a
x(AG)sが「0」でない場合に、方位方向取付角度Δψ、ピッチ方向取付角度Δθは、次式から算出される。
【0058】
また、移動体が平坦地を旋回走行している場合、移動体座標系加速度[a
xb,a
yb,a
zb]の上下方向成分a
zbは「0」と見なすことができ、前後方向成分a
xbと横方向成分a
ybとは、略同じ大きさに見なすことができる。そして、上述の近似条件のΔψ≪1[rad]を用いることで、式(5)は、次式のように表される。
【0060】
これにより、ロール方向取付角度Δφは、上述の式(7)で算出したピッチ方向
取付角度Δθも用いて、次式から算出される。
【0062】
以上のように、検出用加速度[a
x(AG)s,a
y(AG)s,a
z(AG)s]のみから取付角度[Δψ,Δθ,Δφ]を推定算出することができる。
【0063】
ところで、上述のように平坦地であることが算出処理の前提となっているが、次に示す時間平均処理を行うことにより、平坦地であるという条件を解除することができる。これは、通常の市街地走行においては、登り勾配もしくは下り勾配を有する傾斜地を走行する期間よりも、平坦地を走行する期間の方が十分に長いからである。この設定に従い、方位方向取付角度Δψ、ピッチ方向取付角度Δθ、およびロール方向取付角度Δφは、次式から算出される。なお、次式において、E[演算式]は、時間平均処理を示す演算子である。
【0065】
また、上述の算出処理では、直進走行か旋回走行かの選択条件が設定されているが、これは、横方向加速度a
y(AG)sに対して予め旋回検出用の閾値を設定し、当該横方向加速度a
y(AG)sが当該閾値以上である場合に旋回走行と判定し、閾値未満である場合に直進走行であると判定すればよい。もしくは、後述する補正演算部13によって算出される移動体座標系における横方向加速度a
ybに対して予め旋回検出用の閾値を設定し、当該横方向加速度a
ybが当該閾値以上である場合に旋回走行と判定し、閾値未満である場合に直進走行であると判定すればよい。
【0066】
上述のような原理に基づいて、取付角度推定部12は、上述の式(7A)、式(7B)、式(10)から、所定タイミング毎に取付角度[Δψ,Δθ,Δφ]を算出し、次に示すカルマンフィルタを用いて時間平均処理に相当する処理を行った上で、推定算出した取付角度[Δψ,Δθ,Δφ]を補正演算部13へ出力する。
【0067】
ここでは、方位方向取付角度Δψに対して、1次のLPFを用いてカルマンフィルタ処理を行う場合を例に示すが、他のピッチ方向取付角度Δθおよびロール方向取付角度Δφについても同様にカルマンフィルタ処理を行う。
【0068】
あるタイミングtでの方位方向取付角度ΔψをΔψ[t]とし、この次のタイミングの方位方向取付角度ΔψをΔψ[t+1]とすることで、次式を設定することができる。
【0070】
ただし、ax(AG)s=0もしくは旋回時には、Δψ[t+1]=Δψ[t]とする。
【0071】
このような演算式を用いることで、方位方向取付角度Δψや、ピッチ方向取付角度Δθおよびロール方向取付角度Δφが時間平均処理され、平坦地走行の条件を解除して、取付角度[Δψ,Δθ,Δφ]を推定算出することができる。この際、上述のように、取付角度推定部12には、バイアス周波数成分および雑音周波数成分が除去された加速度が与えられているので、高精度に取付角度[Δψ,Δθ,Δφ]を推定算出することができる。
【0072】
なお、ここで、αはウェイト値であり、適宜設定することができるが、次に示す条件に基づいてウェイト値αを設定すると、更なる効果を得ることができる。ここでも、方位方向取付角度Δψのみについて説明するが、ピッチ方向取付角度Δθおよびロール方向取付角度Δφについても同様に効果を得ることができる。
【0073】
ウエイト値αに対して、センサ座標系の前後方向加速度a
x(AG)sが「0」でなく、直進状態で、且つ(−a
y(AG)s/a
x(AG)s−Δψ[t])が取付角度変更検出用の閾値β未満である場合には、α
1を設定する。また、ウエイト値αに対して、センサ座標系の前後方向加速度a
x(AG)sが「0」でなく、直進状態で、且つ(−a
y(AG)s/a
x(AG)s−Δψ[t])が取付角度変更検出用の閾値β以上である場合には、α
2を設定する。ここで、α
1,α
2は、0<α
1≦α
2<1となるように設定されている。
【0074】
このようなウエイト値αの設定を行うことで、前回推定算出して時間平均処理した取付角度に対して、今回算出した取付角度が大きく変化していなければ、過去の算出結果に基づく取付角度の影響を大きく受けるように時間平均処理が行われる。一方で、前回推定算出して時間平均処理した取付角度に対して、今回算出した取付角度が大きく変化していれば、過去の算出結果に基づく取付角度の影響を受け難くするように時間平均処理が行われる。これにより、移動状態検出装置1すなわち加速度センサ20の取付角度が変更されなければ、過去の安定した取付角度をも用いて、より高精度な取付角度の推定算出を行うことができ、取付角度がユーザ等により強制的に変更されたような場合でも、この変更による影響を抑圧しながら、取付角度の推定算出を継続的に行うことができる。
【0075】
補正演算部13は、取付角度推定部12で推定算出された取付角度[Δψ,Δθ,Δφ]に基づいて、周波数解析部11から出力される検出用加速度[a
x(AG)s,a
y(AG)s,a
z(AG)s]を補正することで、移動体座標系加速度[a
xb,a
yb,a
zb]を算出して出力する。
【0076】
具体的には、この補正は次の原理に基づくものである。検出用加速度[a
x(AG)s,a
y(AG)s,a
z(AG)s]、移動体座標系加速度[a
xb,a
yb,a
zb]とした場合、次式が成り立つ。
【0078】
C
sbは、
加速度センサ座標系を
移動体座標系に変換する回転行列であり、推定算出した取付角度[Δψ,Δθ,Δφ]を用いて、次式で表すことができる。
【0080】
なお、取付角度[Δψ,Δθ,Δφ]のそれぞれが、Δψ≪1[rad]、Δθ≪1[rad]、Δφ≪1[rad]である場合には、回転行列C
sbは、次式のように近似することができる。
【0082】
補正演算部13は、このような回転行列C
sbを用いて、検出用加速度[a
x(AG)s,a
y(AG)s,a
z(AG)s]を、移動体座標系加速度[a
xb,a
yb,a
zb]に変換して出力する。
【0083】
このような補正処理を行う際、周波数解析部11からの検出用加速度はバイアス周波数成分および雑音成分が除去されており、取付角度は高精度に推定算出されているので、算出される移動体座標系加速度[a
xb,a
yb,a
zb]も高精度な値とすることができる。
【0084】
速度・走行角算出部30は、次に示す原理に基づいて、移動体の走行速度および走行角を算出する。なお、以下の説明では、移動体の前後方向の走行速度v
xおよび上下方向の走行角である走行ピッチ角θのみを算出する例を示すが、他の方向の走行速度や走行角についても同様の原理を用いることで算出することができる。
【0085】
移動体座標系の加速度の前後方向成分a
xb、上下方向成分a
zbと、前後方向の走行速度v
xと、走行ピッチ角θとは、重力加速度をgとした場合に、以下の関係となる。
【0087】
ここで、移動体座標系の加速度の上下方向成分a
zbは、上述のようにウェーブレット変換によりバイアス周波数成分が除去された検出用加速度[a
x(AG)s,a
y(AG)s,a
z(AG)s]により算出されているので、式(15B)は、次式で表すことができる。
【0089】
また、同様に、移動体座標系の加速度の前後方向成分a
xbも、上述のようにウェーブレット変換によりバイアス周波数成分が除去された検出用加速度[a
x(AG)s,a
y(AG)s,a
z(AG)s]により算出されているので、式(15A)は、次式で表すことができる。
【0091】
したがって、式(16)、式(17)からなる連立微分方程式を演算することで、前後方向の走行速度v
xと、走行ピッチ角θを算出することができる。
【0092】
これを実現するため、速度・走行角算出部30は、次式に示すカルマンフィルタ処理を実行する。なお、次式におけるtは時刻(演算タイミング)であり、Δtは更新時間間隔を示す。
【0094】
このような算出処理を行うことで、移動体の走行速度および走行角を算出することができる。この際、上述のように高精度に得られた移動体座標系の加速度を用いることで、走行速度および走行角も高精度に算出することができる。
【0095】
このような処理を行うことで、次の実験結果に示すように、移動体が平坦地および勾配を有する傾斜地を走行した場合に、平坦地を走行中であるか傾斜地を走行中であるかを正確に識別することができる。
図3は、上下方向の加速度の遷移を示すグラフであり、
図3(A)は本実施形態の構成を用いた場合の上下方向加速度の遷移を示し、
図3(B)は従来の構成を用いた場合の上下方向加速度の遷移を示す。なお、本グラフにおいて、約240秒〜約350秒の区間および約440秒〜約550秒の区間が傾斜地を走行した時間帯である。
【0096】
従来の構成では、
図3(B)に示すように傾斜地の走行を明確に検出することができないが、本実施形態の構成を用いることで、
図3(A)に示すように、傾斜地の走行期間を従来よりも明確に識別することができる。
【0097】
なお、上述の説明では、前後方向の走行速度v
xと、走行ピッチ角θを式(18A)、(18B)から算出する例を示したが、この方法では積算誤差が生じて、精度が劣化する可能性がある。このため、速度・走行角算出部30は、周波数解析部11からセンサ座標系加速度[a
xs,a
ys,a
zs]の前後方向加速度a
xsにおける重力周波数成分a
x(G)sを取得する。そして、速度・走行角算出部30は、重力周波数成分を重力加速度gで除算することで、補正用走行ピッチ角θcを算出する。
【0098】
速度・走行角算出部30は、上述の式(18A)、(18B)で得られる走行ピッチ角θと、補正用走行ピッチ角θcとを重み付け平均処理することで、出力する走行ピッチ角を算出する。このような処理を行うことで、積算誤差が蓄積されることを防止でき、長期的な演算処理による精度の劣化を抑制することができる。なお、この重み付け平均処理を行うタイミングは、走行ピッチ角θの算出タイミング毎でもよいが、より長い所定タイミング間隔に適宜設定すればよい。
【0099】
次に、第2の実施形態に係る移動状態検出装置について図を参照して説明する。
図4は本実施形態の移動状態検出装置1’の主要構成を示すブロック図である。
本実施形態の移動状態検出装置1’は、第1の実施形態に示した移動状態検出装置1に対して停止検出部40が加えられたものであり、以下では、当該停止検出部40およびこれに関連する箇所のみを説明する。
【0100】
停止検出部40は、周波数解析部11から、センサ座標系加速度[a
xs,a
ys,a
zs]における運動加速度周波数成分と雑音周波数成分との和からなる停止検出用加速度[a
x(AN)s,a
y(AN)s,a
z(AN)s]を取得する。停止検出部40は、停止検出用加速度[a
x(AN)s,a
y(AN)s,a
z(AN)s]の前後方向成分a
x(AN)sおよび横方向成分a
y(AN)sに対して予め停止検出用の閾値(≠0)を記憶している。停止検出部40は、停止検出用加速度の前後方向成分a
x(AN)sおよび横方向成分a
y(AN)sがともに停止検出用の閾値以下であることを検出すると、移動体が停止しているものと判断し、停止検出データを速度・走行角算出部30へ出力する。速度・走行角算出部30は、停止検出データを取得すると、前後方向の走行速度v
x=0に設定するとともに、当該設定に応じて上述の式(18B)に基づいて走行ピッチ角θを算出する。
【0101】
このような構成および処理を用いることで、移動体の停止を簡素な処理で識別することができる。
【0102】
次に、第3の実施形態に係る移動状態検出装置について図を参照して説明する。
図5は、本実施形態の移動状態検出装置100の主要構成を示すブロック図である。
本実施形態の移動状態検出装置100は、第1の実施形態に示した移動状態検出装置1の構成による速度や走行角のみでなく、GPS受信機102からの各種データや、ジャイロセンサ101からの角速度データに基づいて、移動体の位置および移動方位を算出するものである。したがって、以下の説明では、第1の実施形態に示した移動状態検出装置1の構成と同じ箇所については説明を省略し、異なる箇所のみを説明する。
【0103】
移動状態検出装置100は、移動状態検出装置1の構成とともに、方位算出部50と位置算出部60とを備え、ジャイロセンサ101とGPS受信機102とに接続している。
【0104】
ジャイロセンサ101は、少なくとも方位方向の回転を検出可能な構成からなり、方位方向の角速度を検出し、方位検出部
50へ与える。
【0105】
GPS受信機102は、GPS衛星からのGPS信号を受信して、受信したGPS信号から既知の方法で測位を行い、GPS位置データ、GPS速度データ、およびGPS方位データを算出する。GPS受信機102は、GPS位置データを位置算出部60へ与え、GPS速度データを速度・走行角算出部30’へ与え、GPS方位データを方位算出部50へ与える。
【0106】
速度・走行角算出部30’は、GPS速度データを取得している期間では、GPS速度データの微分値を用いて、上述の式(18A),(18B)から走行角を算出する。もしくは、速度・走行角算出部30’は、GPS速度データの微分値と、加速度補正部10から与えられる移動体座標系加速度[a
xb,a
yb,a
zb]との重み付け平均値等を用いて、上述の式(18A),(18B)から走行角を算出する。一方、速度・走行角算出部30’は、GPS速度データが取得できなくなると、GPS速度データを用いて最後に出力した速度データを初期値にして、上述の式(18A),(18B)から速度および走行角を算出する。
【0107】
方位算出部50は、GPS方位データを取得している期間では、GPS方位データをそのまま出力する。もしくは、方位算出部50は、ジャイロセンサ101からの角速度データを積分して前回の出力した方位データに積算した値と、GPS方位データとの重み付け平均値を算出して出力してもよい。一方、方位算出部50は、GPS方位データが取得できなくなると、GPS方位データを用いて最後に出力した方位データを初期値にして、角速度データを積分して積算することで方位データを算出する。
【0108】
位置算出部60は、GPS位置データを取得している期間では、GPS位置データをそのまま出力する。もしくは、位置算出部60は、速度・走行角算出部30による速度データ、走行角データ、および方位算出部50による方位データから演算した速度ベクトルを積分して前回の出力した位置データに加算した値と、GPS位置データとの重み付け平均値を算出して出力してもよい。
【0109】
一方、位置算出部60は、GPS位置データが取得できなくなると、GPS位置データを用いて最後に出力した位置データを初期値にして、速度・走行角算出部30による速度データ、走行角データ、および方位算出部50による方位データから演算した速度ベクトルを積分して積算することで位置データを算出する。
【0110】
このような構成とすることで、移動体の位置、速度、走行角、方位を高精度に算出することができる。
【0111】
このように高精度に算出された移動体の各種移動情報は、移動状態検出装置1が実装されるナビゲーション装置におけるナビゲーション処理等に利用される。このナビゲーション装置は、ルートナビゲーション処理を実行するナビゲーション処理部と、表示部と、当該表示部でも兼用可能な操作部とを少なくとも備え、例えば、操作部からの操作入力にしたがってナビゲーション
処理部で、移動体の現在位置と目的位置から最適なルートを算出し、表示部上に当該ルートを表示する。そして、上述のように、移動体の移動情報を高精度に得ることができるので、ナビゲーション装置は、正確なナビゲーション処理を実現することができる。
【0112】
なお、本実施形態では、第1の実施形態の構成に本実施形態の構成を適用した例を示したが、第2の実施形態の構成に対しても、同様に本実施形態の構成を適用することができる。
【0113】
また、上述の説明では、周波数解析部11でウェーブレット変換を行う例を示した。望ましくは、ウェーブレット変換を用いることがよいが、他の周波数変換処理、例えばフーリエ変換処理等を行ってもよく、さらには、通過周波数帯域の異なる複数のフィルタにより各周波数成分へ分解するようにしてもよい。
【0114】
また、上述の説明では、加速度補正部10を、周波数解析部11、取付角度推定部12、補正演算部13に機能的に分割した例を示したが、これらを一つの演算素子と実行プログラムにより実現してもよい。さらには、加速度補正部10と速度・走行角算出部30,30’を一つの演算素子と実行プログラムで実現しても、これらに加え、停止検出部40をも含むように、一つの演算素子と実行プログラムで実現してもよい。
【0115】
また、上述の説明では、三次元の取付角度[Δψ,Δθ,Δφ]を推定算出する例を示したが、必要に応じて、これら取付角度[Δψ,Δθ,Δφ]の各要素(方位方向取付角度Δψ、ピッチ方向取付角度Δθ、ロール方向取付角度Δφ)の少なくとも1つを推定算出するようにしてもよい。
【0116】
また、上述の説明では、走行速度v
xと、走行ピッチ角θを算出する例を示したが、これらについても、必要に応じて少なくとも一方を算出するようにしてもよい。
【0117】
また、上述の説明では、センサ座標系加速度[a
xs,a
ys,a
zs]を、バイアス周波数成分、重力周波数成分、運動加速度周波数成分、および雑音周波数成分の四成分に分解するして、推定演算に利用する例を示したが、取付角度の推定算出には、センサ座標系加速度[a
xs,a
ys,a
zs]における少なくとも重力周波数成分と運動加速度周波数成分とを抽出して利用するようにすればよい。この場合、例えば重力周波数成分と運動加速度周波数成分とに対応する周波数帯域を通過帯域とするバンドパスフィルタを用いればよい。そして、このバンドパスフィルタを用いる場合には、走行速度等の移動体に移動状態に応じて通過帯域を可変する等の処理を行ってもよい。