特許第5736153号(P5736153)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5736153-宗教用有体物の一部表面の補修方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5736153
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】宗教用有体物の一部表面の補修方法
(51)【国際特許分類】
   A47G 33/00 20060101AFI20150528BHJP
   B44D 5/00 20060101ALI20150528BHJP
   B08B 3/00 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   A47G33/00 Z
   A47G33/00 A
   B44D5/00
   B08B3/00
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2010-254111(P2010-254111)
(22)【出願日】2010年11月12日
(65)【公開番号】特開2012-100998(P2012-100998A)
(43)【公開日】2012年5月31日
【審査請求日】2013年10月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】508203725
【氏名又は名称】株式会社メイクリーン
(74)【代理人】
【識別番号】100084272
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 忠雄
(72)【発明者】
【氏名】上江田 政幸
【審査官】 山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−103200(JP,A)
【文献】 特開2002−219768(JP,A)
【文献】 特開2011−015876(JP,A)
【文献】 米国特許第06076292(US,A)
【文献】 国際公開第2004/084788(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47G 33/00
B08B 3/00
B44D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
仏像などの基体と、この基体の外面に接着された金箔とを備えた宗教用有体物の一部表面の補修方法であって、
まず、宗教用有体物の表面を、洗浄液を用いて洗い流すよう洗浄し、
次に、上記宗教用有体物の表面のうち、一部表面に新金箔を接着して新表面を形成し、
次に、上記宗教用有体物の他部表面における古来の金箔と視覚上の違和感が生じない程度に、上記新表面に上記洗浄後の汚濁洗浄液中の汚れを付着させるようにしたことを特徴とする宗教用有体物の一部表面の補修方法。
【請求項2】
上記洗浄液が溶剤であることを特徴とする請求項1に記載の宗教用有体物の一部表面の補修方法。
【請求項3】
上記新表面に汚濁洗浄液中の汚れを塗布するに際し、まず、汚濁洗浄液を可撓性の多孔吸湿体に含ませ、次に、この多孔吸湿体を上記新表面に押接させることを特徴とする請求項1、もしくは2に記載の宗教用有体物の一部表面の補修方法。
【請求項4】
上記宗教用有体物の一部表面に新金箔を接着するに際し、まず、上記一部表面に液状の接着剤を塗布し、次に、この接着剤により上記新金箔を上記一部表面に接着し、次に、上記新表面に汚濁洗浄液中の汚れを塗布するに際し、まず、汚濁洗浄液を可撓性の多孔吸湿体に含ませ、次に、この多孔吸湿体を上記新表面に押接させることを特徴とする請求項2に記載の宗教用有体物の一部表面の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仏像などの基体と、この基体の外面に接着された金箔とを備えた宗教用有体物の一部表面の補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
宗教用有体物である仏像、仏壇、仏具などは、一般に、木製の基体と、この基体の外面に接着剤により接着された金箔とを備えている(例えば、下記特許文献1)。
【0003】
そして、上記基体の外面への金箔の接着により、宗教用有体物の見栄えの向上(宗教的価値の向上を含む)が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平7−13278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、宗教用有体物には100年以上のように多年を経過したものが多く存在する。このような古来の宗教用有体物では、接着剤として漆が多用されている。この漆は経時的に劣化するため、多年が経過すると、漆の劣化により基体の外面から部分的に金箔が剥離したり脱落したりして、宗教用有体物の表面のうち、一部表面が損傷することがある。そして、このような宗教用有体物の一部表面の損傷は、宗教用有体物の見栄えを低下させる要因となることから、好ましくない。
【0006】
そこで、宗教用有体物の見栄えを復元させるため、宗教用有体物の表面補修方法の一つとして、従来、基体の外面から金箔を全体的に剥がして除去し、その後、基体の外面に対し、改めて全体的に新金箔を接着することが行われている。
【0007】
しかし、金箔は高価なものであるため、上記したように、全体的に新金箔を接着するという補修方法を用いた場合には、費用が極めて高額になるという問題点がある。また、特に、宗教用有体物が平安時代の作というように古来のものである場合には、上記補修方法により金箔を全体的に除去して新金箔を接着したとすると、この新金箔の接着により宗教用有体物の見栄えの向上は図られるものの、後世に残すべき古来の金箔は喪失される結果となる。つまり、上記補修方法によれば、宗教用有体物が有しておくべき歴史的価値が失われるという新たな不都合が生じる。
【0008】
そこで、上記したように損傷が生じた宗教用有体物の一部表面についてのみ、新金箔を接着して新表面を形成し、これにより、上記宗教用有体物の一部表面のみを補修することが考えられる。
【0009】
しかし、古来の金箔が接着されたままに残された宗教用有体物の他部表面では、種々の汚れが頑固に付着していたり、上記金箔に微細な傷が生じていたりすることが多いことから、この宗教用有体物の他部表面を洗浄したとしても、この他部表面につき、上記新金箔による新表面ほどの光沢を得ることは困難である。
【0010】
このため、前記したように、宗教用有体物の一部表面のみを新金箔により補修して新表面を形成した場合には、宗教用有体物の他部表面における古来の金箔と、新表面を形成した新金箔との間で、視覚上の違和感が生じるおそれがある。よって、宗教用有体物の一部表面を補修する場合において、この宗教用有体物の見栄えを、より向上させる上で、改善の余地が残されている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、基体の外面に金箔が接着されている宗教用有体物の表面の補修が、一部表面についてのものであるとしても、この宗教用有体物の補修後の見栄えを、より向上させるようにすることである。
【0012】
請求項1の発明は、仏像などの基体2と、この基体2の外面に接着された金箔4とを備えた宗教用有体物の一部表面の補修方法であって、
まず、宗教用有体物1の表面を、洗浄液11を用いて洗い流すよう洗浄し、
次に、上記宗教用有体物1の表面7のうち、一部表面7aに新金箔17を接着して新表面18を形成し、
次に、上記宗教用有体物1の他部表面7bにおける古来の金箔4と視覚上の違和感が生じない程度に、上記新表面18に上記洗浄後の汚濁洗浄液12中の汚れを付着させるようにしたことを特徴とする宗教用有体物の一部表面の補修方法である。
【0013】
請求項2の発明は、上記洗浄液11が溶剤であることを特徴とする請求項1に記載の宗教用有体物の一部表面の補修方法である。
【0014】
請求項3の発明は、上記新表面18に汚濁洗浄液12中の汚れを塗布するに際し、まず、汚濁洗浄液12を可撓性の多孔吸湿体19に含ませ、次に、この多孔吸湿体19を上記新表面18に押接Aさせることを特徴とする請求項1、もしくは2に記載の宗教用有体物の一部表面の補修方法である。
【0015】
請求項4の発明は、上記宗教用有体物1の一部表面7aに新金箔17を接着するに際し、まず、上記一部表面7aに液状の接着剤16を塗布し、次に、この接着剤16により上記新金箔17を上記一部表面7aに接着し、次に、上記新表面18に汚濁洗浄液12中の汚れを塗布するに際し、まず、汚濁洗浄液12を可撓性の多孔吸湿体19に含ませ、次に、この多孔吸湿体19を上記新表面18に押接Aさせることを特徴とする請求項2に記載の宗教用有体物の一部表面の補修方法である。
【0016】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0017】
本発明による効果は、次の如くである。
【0018】
請求項1の発明は、仏像などの基体と、この基体の外面に接着された金箔とを備えた宗教用有体物の一部表面の補修方法であって、
まず、宗教用有体物の表面を、洗浄液を用いて洗い流すよう洗浄し、
次に、上記宗教用有体物の表面のうち、一部表面に新金箔を接着して新表面を形成し、
次に、上記宗教用有体物の他部表面における古来の金箔と視覚上の違和感が生じない程度に、上記新表面に上記洗浄後の汚濁洗浄液中の汚れを付着させるようにしており、次の第1効果が生じる。
【0019】
即ち、多年を経過した宗教用有体物では、その表面に種々の汚れが付着(滞留)しているが、この汚れの種類は、宗教用有体物が設置されている宗教的環境や、物理的環境によって互いに相違する。
【0020】
そこで、本発明の補修方法は、要するに、まず、宗教用有体物の表面を、洗浄液を用いて洗い流すよう洗浄し、次に、上記宗教用有体物の表面のうち、補修すべき一部表面に新金箔を接着して新表面を形成し、次に、上記新表面に上記洗浄後の汚濁洗浄液中の汚れを付着させるようにしている。このため、上記洗浄後に、古来の金箔が接着されている宗教用有体物の他部表面に汚れが頑固に付着して残留しているとしても、このように宗教用有体物の他部表面に残留している汚れと、上記新表面に塗布される汚濁洗浄液中の汚れとは互いに同じ種類のものとなる。
【0021】
よって、宗教用有体物の一部表面のみを補修して新表面を形成したとしても、宗教用有体物の他部表面における古来の金箔と、上記新表面を形成する新金箔との間で視覚上の違和感が生じることが防止され、この結果、この宗教用有体物の補修後の見栄えを、より向上させることができる。
【0022】
また、上記補修方法によれば、次の第2効果が生じる。
【0023】
即ち、多年の経過により宗教用有体物の表面に付着してきた汚れは、この宗教用有体物の歴史を物語る一面がある。このため、上記汚れは、将来、高精度に分析されて、何らかを解明するための糸口になる可能性がある。
【0024】
そこで、本発明では、上記したように、宗教用有体物の他部表面における古来の金箔と、新表面を形成する新金箔との間で視覚上の違和感が生じないようにする場合に、上記新表面に対し、別途の絵具、漆、木の粉などの素材を付着させることを避け、宗教用有体物の表面の洗浄後の汚濁洗浄液中の汚れを用いて上記新表面の色調を整えたのである。
【0025】
このため、宗教用有体物の一部表面を補修した場合でも、この宗教用有体物の表面の各部に付着した各汚れについて、互いに同等の歴史的価値を保持させることができる。よって、将来、上記汚れを分析するに際し、無用な混乱を防止して、有益な分析を精度よくすることができる。
【0026】
請求項2の発明は、上記洗浄液を溶剤としている。
【0027】
このため、上記宗教用有体物の表面に付着している汚れが、多年の経過により樹脂化しているとしても、この汚れは上記溶剤に対し容易に溶解することから、上記宗教用有体物の他部表面を、より美麗に浄化することができる。よって、この宗教用有体物の他部表面の光沢を上記新金箔による新表面の光沢に、より近づけることができる。この結果、その後、上記したように、視覚上の違和感が生じないよう新表面に汚濁洗浄液中の汚れを付着させる際には、この付着のための汚れが少なくて足りる分、この付着のための作業が、より容易にできる。
【0028】
請求項3の発明は、上記新表面に汚濁洗浄液中の汚れを塗布するに際し、まず、汚濁洗浄液を可撓性の多孔吸湿体に含ませ、次に、この多孔吸湿体を上記新表面に押接させている。
【0029】
このため、上記新表面に対し汚濁洗浄液中の汚れを付着させる場合に、この汚れの付着は、上記多孔吸湿体を介することにより、上記新表面に対し均等にすることが容易にできる。よって、上記した視覚上の違和感が生じないようにすることは、容易かつ確実にできる。
【0030】
請求項4の発明は、上記宗教用有体物の一部表面に新金箔を接着するに際し、まず、上記一部表面に液状の接着剤を塗布し、次に、この接着剤により上記新金箔を上記一部表面に接着し、次に、上記新表面に汚濁洗浄液中の汚れを塗布するに際し、まず、汚濁洗浄液を可撓性の多孔吸湿体に含ませ、次に、この多孔吸湿体を上記新表面に押接させている。
【0031】
このため、上記した新表面への多孔吸湿体の押接により、上記請求項3の発明の効果が生じるが、これに加え、上記押接により、上記新表面を形成する新金箔は、上記宗教用有体物の一部表面に対し接着剤により強固に接着されることとなり、この宗教用有体物の一部表面に対する新金箔の接着の耐久性が向上する。
【0032】
ここで、上記したように、新表面に多孔吸湿体を押接させるとき、上記接着剤の一部は、上記新金箔がその特性として有する多くのピンホールを通して上記新表面に浸出しがちとなる。この場合、この新表面に浸出した接着剤は、上記洗浄液である溶剤に一旦溶解して、分散する。そして、その後の上記溶剤の蒸発により、上記汚濁洗浄液中の汚れは、上記接着剤によって上記新表面に均等に容易に付着させられると共に、強固に付着させられる。
【0033】
よって、上記新表面に対し汚れを付着させる際の作業性が向上すると共に、上記新表面への汚れの付着の耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】補修方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の宗教用有体物の一部表面の補修方法に関し、基体の外面に金箔が接着されている宗教用有体物の表面の補修が、一部表面についてのものであるとしても、この宗教用有体物の補修後の見栄えを、より向上させるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための形態は、次の如くである。
【0036】
即ち、仏像などの基体と、この基体の外面に接着された金箔とを備えた宗教用有体物の一部表面の補修方法であって、
まず、宗教用有体物の表面を、洗浄液を用いて洗い流すよう洗浄し、
次に、上記宗教用有体物の表面のうち、一部表面に新金箔を接着して新表面を形成し、
次に、上記宗教用有体物の他部表面における古来の金箔と視覚上の違和感が生じない程度に、上記新表面に上記洗浄後の汚濁洗浄液中の汚れを付着させるようにしている。
【実施例】
【0037】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図1に従って説明する。
【0038】
図1において、符号1は、仏像で例示される宗教用有体物である。この宗教用有体物1は、木製の基体2と、この基体2の外面に接着剤3により接着された金箔4とを備えている。上記接着剤3は、古くから、漆が多用されているが、コーパルニスやカシュー(cashew)樹脂が用いられる場合もある。また、上記金箔4には、これ自体の特性として、その厚さ方向に貫通する多数のピンホールが形成されている。
【0039】
図1において、多年を経過した宗教用有体物1では、上記接着剤3の劣化などにより、基体2の外面から部分的に金箔4が剥離したり脱落したりして、宗教用有体物1の表面7のうち、一部表面7aが損傷することがある。
【0040】
そこで、宗教用有体物1の表面7を復元して、この宗教用有体物1の見栄えを向上させるため、上記宗教用有体物1の一部表面7aにつき、次のような補修方法が採用される。
【0041】
図1において、まず、上記宗教用有体物1の表面7に付着している砂、煤、繊維などの塵埃を刷毛などにより払い落とす。
【0042】
次に、アルカリ性洗剤などの洗剤を、スプレー噴霧などにより泡立てて上記宗教用有体物1の表面7に付着させ、この表面7に付着している汚れを泡洗浄する。
【0043】
上記泡洗浄を所定期間続行した後、スプレーガン10により、有機溶剤で例示される洗浄液11を噴霧して、この洗浄液11により宗教用有体物1の表面7における汚れや、残留している泡を、全体的に洗い流す。この洗い流しが終了すると、上記宗教用有体物1の表面7に残留していた洗剤や水分は共沸作用によって、溶剤である洗浄液11の蒸発と共に強制的に蒸発除去させられ、これらが宗教用有体物1の表面7に残留することは防止される。これによれば、上記宗教用有体物1の表面7の内部に水が浸入することが防止された状態で、この表面7の洗浄が終了する。
【0044】
なお、上記泡洗浄を省略し、上記洗浄液11のみによって、上記宗教用有体物1の表面7を洗浄してもよい。
【0045】
上記洗浄液11による宗教用有体物1の表面7の洗浄後の汚濁洗浄液12は、上記宗教用有体物1の表面7を自然流下した後、容器13に集められて貯留される。なお、上記汚濁洗浄液12は、その後、洗浄液11を蒸発させたり、汚濁洗浄液12を濾過したりして、濃縮させてもよい。
【0046】
上記洗浄液11である有機溶剤は、ベンジン、アルコール(エタノール)、イソプロピルアルコール、クロロホルム、ジエチルエーテル(通称:エーテル)、石油ベンジン、石油エーテル、アセトン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどである。
【0047】
次に、上記宗教用有体物1の表面7のうち、補修すべき上記一部表面7aに液状の接着剤16を刷毛などにより塗布し、次に、この接着剤16により新金箔17を上記一部表面7aに接着して、新金箔17の外面で新表面18を形成する。上記接着剤16は、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などである。
【0048】
次に、上記宗教用有体物1の他部表面7bの色調に上記新表面18の色調が一致するよう、この新表面18に上記汚濁洗浄液12を塗布して、この汚濁洗浄液12中の汚れを上記新表面18に付着させ、その後、上記汚濁洗浄液12を乾燥させる。
【0049】
具体的には、上記新表面18に汚濁洗浄液12を塗布するに際し、まず、この汚濁洗浄液12を、メリヤス布を塊状にしたものや脱脂綿で例示される可撓性の多孔吸湿体19に湿らせる程度に微量含ませる。次に、この多孔吸湿体19を上記新表面18に対し、その垂直方向に向かうよう押接Aさせて、上記汚濁洗浄液12中の汚れを、上記洗浄液11と共に上記新表面18に付着させる。
【0050】
上記押接Aは、上記新表面18の各部に対し繰り返し均一に行なわれる。また、この新表面18への汚濁洗浄液12の塗布後におけるこの汚濁洗浄液12の乾燥は、この汚濁洗浄液12の主体が溶剤であるため、自然乾燥によって短時間で達成される。
【0051】
なお、上記新表面18への汚濁洗浄液12中の汚れの付着は、上記したように、この汚濁洗浄液12を直接上記新表面18に塗布することが好ましいが、上記汚濁洗浄液12を一旦乾燥させた後、別途の溶剤や接着剤など何らかの媒体を用いて上記新表面18に付着させてもよい。
【0052】
上記宗教用有体物1の一部表面7aの補修方法によれば、次の第1効果が生じる。
【0053】
即ち、多年を経過した宗教用有体物1では、その表面7に種々の汚れが付着(滞留)しているが、この汚れの種類は、宗教用有体物1が設置されている宗教的環境や、物理的環境によって互いに相違する。具体的には、一般客が建物内に靴を履いたまま入る観光寺のような場所では、宗教用有体物1の表面7には砂塵が付着し易い。また、堂内でローソク、線香、燈明が頻繁に灯される場所では、油煙が付着し易い。また、護摩焚きするような場所では、黒色の煤埃が付着し易い。更に、車両の通行量の多い道路に面している場所では、車両の排ガス煙が付着し易い。
【0054】
そこで、前記補修方法では、要するに、まず、宗教用有体物1の表面を、洗浄液11を用いて全体的に洗い流すよう洗浄し、次に、上記宗教用有体物1の表面7のうち、補修すべき一部表面7aに新金箔17を接着して新表面18を形成し、次に、上記新表面18に上記洗浄後の汚濁洗浄液12中の汚れを付着させるようにしている。このため、上記洗浄液11による宗教用有体物1の表面7の洗浄後に、古来の金箔4が接着されている宗教用有体物1の他部表面7bに汚れが頑固に付着して残留しているとしても、このように宗教用有体物1の他部表面7bに残留している汚れと、上記新表面18に塗布される汚濁洗浄液12中の汚れとは互いに同じ種類のものとなる。
【0055】
よって、宗教用有体物1の一部表面7aのみを補修して新表面18を形成したとしても、宗教用有体物1の他部表面7bにおける古来の金箔4と、上記新表面18を形成する新金箔17との間で視覚上の違和感が生じることが防止され、この結果、この宗教用有体物1の補修後の見栄えを、より向上させることができる。
【0056】
また、上記補修方法によれば、次の第2効果が生じる。
【0057】
即ち、多年の経過により宗教用有体物1の表面7に付着してきた汚れは、この宗教用有体物1の歴史を物語る一面がある。このため、上記汚れは、将来、高精度に分析されて、何らかを解明するための糸口になる可能性がある。
【0058】
ここで、上記したように、宗教用有体物1の他部表面7bにおける古来の金箔4と、新表面18を形成する新金箔17との間で視覚上の違和感が生じないようにする場合に、上記新表面18に対し、別途の絵具、漆、木の粉などの素材を付着させることを避け、宗教用有体物1の表面7の洗浄後の汚濁洗浄液12中の汚れを用いて上記新表面18の色調を整えたのである。
【0059】
このため、宗教用有体物1の一部表面7aのみを補修した場合でも、この宗教用有体物1の表面7の各部に付着した各汚れについて、互いに同等の歴史的価値を保持させることができる。よって、将来、上記汚れを分析するに際し、無用な混乱を防止して、有益な分析を精度よくすることができる。
【0060】
また、前記したように、洗浄液11を溶剤としている。
【0061】
このため、上記宗教用有体物1の表面7に付着している汚れが、多年の経過により樹脂化しているとしても、この汚れは上記溶剤に対し容易に溶解することから、上記宗教用有体物1の他部表面7bを、より美麗に浄化することができる。よって、この宗教用有体物1の他部表面7bの光沢を上記新金箔17による新表面18の光沢に、より近づけることができる。この結果、その後、上記したように、視覚上の違和感が生じないよう新表面18に汚濁洗浄液12中の汚れを付着させる際には、この付着のための汚れが少なくて足りる分、この付着のための作業が、より容易にできる。
【0062】
また、前記したように、新表面18に汚濁洗浄液12中の汚れを塗布するに際し、まず、汚濁洗浄液12を可撓性の多孔吸湿体19に含ませ、次に、この多孔吸湿体19を上記新表面18に押接Aさせている。
【0063】
このため、上記新表面18に対し汚濁洗浄液12中の汚れを付着させる場合に、この汚れの付着は、上記多孔吸湿体19を介することにより、上記新表面18に対し均等にすることが容易にできる。よって、上記した視覚上の違和感が生じないようにすることは、容易かつ確実にできる。
【0064】
また、前記したように、宗教用有体物1の一部表面7aに新金箔17を接着するに際し、まず、上記一部表面7aに液状の接着剤16を塗布し、次に、この接着剤16により上記新金箔17を上記一部表面7aに接着し、次に、上記新表面18に汚濁洗浄液12中の汚れを塗布するに際し、まず、汚濁洗浄液12を可撓性の多孔吸湿体19に含ませ、次に、この多孔吸湿体19を上記新表面18に押接Aさせている。
【0065】
このため、上記した新表面18への多孔吸湿体19の押接Aにより、上記新表面18を形成する新金箔17は、上記宗教用有体物1の一部表面7aに対し接着剤16により強固に接着されることとなり、この宗教用有体物1の一部表面7aに対する新金箔17の接着の耐久性が向上する。
【0066】
ここで、上記したように、新表面18に多孔吸湿体19を押接Aさせるとき、上記接着剤16の一部は、上記新金箔17がその特性として有する多くのピンホールを通して上記新表面18に浸出しがちとなる。この場合、この新表面18に浸出した接着剤16は、上記洗浄液11である溶剤に一旦溶解して、分散する。そして、その後の上記溶剤の蒸発により、上記汚濁洗浄液12中の汚れは、上記接着剤16によって上記新表面18に均等に容易に付着させられると共に、強固に付着させられる。
【0067】
よって、上記新表面18に対し汚れを付着させる際の作業性が向上すると共に、上記新表面18への汚れの付着の耐久性が向上する。
【0068】
なお、上記洗浄液11は、水であってもよく、この場合には、汚濁洗浄液12を上記新表面18に塗布したとき、上記汚濁洗浄液12の乾燥は、強制乾燥によってもよい。また、上記汚濁洗浄液12に予め接着剤を混入したり、上記新表面18に予め接着剤を塗布したりすることにより、この新表面18に対する汚れの付着を容易にさせたり、新表面18への汚れの付着の耐久性を向上させたりしてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1 宗教用有体物
2 基体
3 接着剤
4 金箔
7 表面
7a 一部表面
7b 他部表面
11 洗浄液
12 汚濁洗浄液
16 接着剤
17 新金箔
18 新表面
19 多孔吸湿体
A 押接
図1