【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、下記の実施例は例示
のために示すものであって、いかなる意味においても、本発明を限定的に解釈するものではない。
【0040】
図2(A)は電解コンデンサ素子製造用冶具の表面を示す図である。
図2(B)は当該製造用冶具の裏面を示す図である。
当該製造用冶具は、長さ194.0mm×最大幅33.0mm×厚さ1.6mmの銅張ガラスエポキシ基板からなるものであり、左右両端下側に8mm×10mmの切り欠き部がある。
図2(A)の左端(
図2(B)では右端)切り欠き上側8mm×23mmに電流制限端子4、
図2(A)の右端(
図2(B)では左端)切り欠き部上側8mm×23mmに電圧制限端子5が設けられている。電流制限端子4または電圧制限端子5はスルーホール6を経て表面から裏面に電気的に接続されている。
基板の表面に32組、裏面に32組、合計64組の抵抗器3とトランジスタ2とが実装されている。基板の下端には64個の陽極体接続端子7が取り付けられている。なお、陽極体接続端子7として、プレジデップ社製PCDレセプタクル399シリーズ丸ピンDIPソケット2.54mmピッチ64ピン連結ソケットを用いた。トランジスタ2として、2SA2154GRを用いた。抵抗器3として、誤差1%、20kΩのものを用いた。
トランジスタ2のコレクタは陽極体接続端子7に接続されている。トランジスタ2のベースは電圧制限端子5に接続されている。トランジスタ2のエミッタは抵抗器3を介して電流制限端子4に接続されている(
図3参照)。陽極体接続端子7には素子基材(作用電極)を繋ぐことができるようになっている。
【0041】
実施例1
CV20万/gのニオブ粉を0.5mmφニオブリード線と共に成形した。その後、1280℃で20分間焼結することによって、大きさ1.0mm×3.0mm×4.5mmで、1.0mm×3.0mm面にリード線が植立された焼結体640個を得た。
これら焼結体を陽極体として用いた。
640個の陽極体のリード線を、10個の電解コンデンサ素子製造用冶具(最大電流及び最大電圧を制限して、陽極体毎に電力を供給できる。)の64ピン陽極体接続端子7に、1本ずつ取り付けた。
【0042】
該陽極体をステンレス製容器(陰極となる。)中の2%燐酸水溶液に浸け、前記ステンレス製容器に対して最大電圧9V、1個あたり最大電流2mAに設定した前記治具を通して該陽極体に電圧を印加して化成させ誘電体層を形成した。
【0043】
誘電体層が表面に形成された陽極体(素子基材)を10質量%トルエンスルホン酸鉄水溶液に浸漬し、次いで乾燥させた。この操作を5回繰り返した。
【0044】
次いで、10質量%3,4−エチレンジオキシチオフェンモノマーのエタノール溶液に浸漬して引き上げた。
ステンレス製重合容器(陰極となる。)に3,4−エチレンジオキシチオフェンモノマー1質量%、アントラキノンスルホン酸2質量%、エチレングリコール27質量%および水70質量%を含む電解重合液を入れた。これに前記処理を施した素子基材を浸漬した。前記重合容器に対して最大電圧9V、1個あたりの最大電流130μAに設定した前記治具を通して陽極体のリード線に電気を流し、室温下で60分間電解重合させた。通電を止めて電解重合を終了させた。重合終了後、直ちに、陽極体と半導体層との間に溜まった電荷の放電を開始させた。
なお、電解重合の終了は、コンデンサ製造用冶具の電流制限端子4の電位を電圧制限端子5と同電位にすることにより、すなわち、陽極体に供給する電流量を0にする(通電を中止する)ことにより行った。
また、放電は、電流制限端子4と電圧制限端子5とを同電位にしたまま、0.1秒かけて、前記端子4および5の電位を陰極の電位に対して−0.5Vになるまで下げることによって行った。このようにして徐々に陽極体と半導体層との間の電位差を下げた(前記−0.5Vに下げた状態でリード線と陰極との間の電位は0Vとなった)。放電開始時から前記電位差がゼロになるまでの時間は、100ミリ秒間であった。
次に陽極体を電解重合液から引き上げ、エタノール洗浄し、乾燥させた。前記モノマーエタノール溶液浸漬、電解重合、放電、洗浄および乾燥という一連の操作をさらに6回(合計7回)繰り返した。
【0045】
このようにして得られた半導体層が表面に積層されたコンデンサ素子を無作為に100個抜き取り、それらをSEMで観察した。半導体層の平均厚さは約30μmであった。
残りの540個の半導体層が表面に積層された陽極体にカーボンペースト、銀ペーストを順次積層して導電体層を形成して固体電解コンデンサ素子を作製した。
最後に、銅合金製リードフレームに固体電解コンデンサ素子を接続し、10kgf/cm
2の圧力でエポキシ樹脂(パナソニック電工製CV3400SE)によるトランスファー成型を行って封止した。ついで、リードフレームの切断及び曲げ加工を行い、定格電圧2.5V、定格容量680μF、大きさ7.3mm×4.3mm×1.8mmのチップ状固体電解コンデンサ540個を得た。
【0046】
実施例2
CV15万/gのタンタル粉を0.29mmφタンタルリード線と共に成形した。その後、1360℃で30分間焼結することによって、大きさ1.0mm×2.3mm×1.7mmで、1.0mm×2.3mm面にリード線が植立した焼結体640個を得た。
640個の陽極体のリード線を、10個の電解コンデンサ素子製造用冶具(最大電流及び最大電圧を制限して、陽極体毎に電力を供給できる。)の64ピン陽極体接続端子に、一本ずつ取り付けた。
該陽極体を2%燐酸水溶液に浸け、実施例1と同様に、最大電圧9V、1個あたり最大電流2mAに設定した前記治具を通して陽極体に電圧を印加して化成させ誘電体層を形成した。
【0047】
誘電体層が表面に形成された陽極体(素子基材)を7質量%キシレンスルホン酸鉄水溶液に浸漬し、次いで乾燥させた。この操作を5回繰り返した。
【0048】
次いで、10質量%3,4−エチレンジオキシチオフェンモノマーのエタノール溶液に浸漬して引き上げた。
ステンレス製重合容器(陰極となる。)に3,4−エチレンジオキシチオフェンモノマー1質量%、ナフタレンスルホン酸1.5質量%、エチレングリコール27.5質量%および水70質量%を含む電解重合液を入れた。これに前記処理を施した素子基材を浸漬した。前記重合容器に対して最大電圧9V、1個あたりの最大電流60μAに設定した前記治具を通して陽極体のリード線に電気を流し、室温下で60分間電解重合させた。
次いで、1個あたりの最大電流85μAに変更し、室温下で60分間、上記と同じ手法で、モノマーエタノール溶液浸漬および電解重合を行った(2回目電解重合)。
1個あたりの最大電流120μAに変更し、室温下で70分間、上記と同じ手法で、モノマーエタノール溶液浸漬および電解重合を行った(3回目電解重合)。
1個あたりの最大電流100μAに変更し、室温下で60分間、上記と同じ手法で、モノマーエタノール溶液浸漬および電解重合を行った(4回目電解重合)。
【0049】
上記4回目の電解重合を終了させた直後に、陽極体と半導体層との間に溜まった電荷を実施例1と同じ手法で放電を開始させた。放電開始時から前記電位差がゼロになるまでの時間は、100ミリ秒間であった。
また、4回目の電解重合を終了させた直後から、陽極体を上下方向に最大振幅1mm、1/3Hzで2分間振動させた。本実施例に用いた重合容器では、最大振幅1mm以下、1/3Hz以下であれば電解重合液の液面に生じる波は許容できる高さであった。また、陽極体に付着していた気泡は1/3Hzで1分間以上振動させることでほぼ完全に除去された。
次に陽極体を電解重合液から引き上げ、エタノール洗浄し、乾燥させた。
得られたコンデンサ素子100個を無作為に抜き取りSEMで観察した。半導体層の平均厚さは約10μmであった。
【0050】
その後、実施例1と同じ手法で、導電体層を積層させ、樹脂外装して、定格電圧2.5V、定格容量330μF、大きさ3.5mm×2.8mm×1.8mmのチップ状固体電解コンデンサ540個を得た。
【0051】
実施例3
電流制限端子4と電圧制限端子5とを、陰極に対して逆電位にすることによって放電する代わりに、コンデンサ製造用冶具の陽極体接続端子7の先端(金メッキされた端子が露出している)を電解重合液に10秒間漬けて、陽極体と半導体層との間を電解重合液を介して短絡させることによって徐々に放電させた以外は実施例1と同じ手法でコンデンサ素子640個を作製した。当該コンデンサ素子100個を無作為に抜き取りSEMで観察した。その後、実施例1と同じ手法でチップ状固体電解コンデンサ540個を作製した。放電開始時から10秒後には前記電位差がゼロになった。
【0052】
実施例4
重合液槽に接続されるコンデンサ製造用冶具にスイッチ回路を取り付けた。該スイッチ回路は、一方が各素子基材の陽極リードに電気的に接続され、他方が重合容器に電気的に接続されている。スイッチオフ時には陽極リードと重合容器とが電気的に絶縁されている。スイッチオン時には陽極リード同士が電気的に接続され且つ陽極リードと重合容器とが電気的に接続される。放電はスイッチをオンにすることによって開始させることができる。
上記のコンデンサ製造用冶具を用い、スイッチをオンにすることによって放電した以外は実施例1と同じ手法にてコンデンサ素子640個を作製した。当該コンデンサ素子100個を無作為に抜き取りSEMで観察した。その後、実施例1と同じ手法でチップ状固体電解コンデンサ540個を作製した。放電開始時から1ミリ秒以内に前記電位差がゼロになった。
【0053】
比較例1
放電を行わなかった以外は実施例1と同じ手法にてコンデンサ素子640個を作製した。当該コンデンサ素子100個を無作為に抜き取りSEMで観察した。その後、実施例1と同じ手法でチップ状固体電解コンデンサ540個を作製した。
【0054】
比較例2
放電を行わなかった以外は実施例2と同じ手法にてコンデンサ素子640個を作製した。当該コンデンサ素子100個を無作為に抜き取りSEMで観察した。その後、実施例1と同じ手法でチップ状固体電解コンデンサを540個作製した。
【0055】
比較例3
振動をさせなかった以外は比較例2と同じ手法にてコンデンサ素子640個を作製した。当該コンデンサ素子100個を無作為に抜き取りSEMで観察した。その後、実施例1と同じ手法でチップ状固体電解コンデンサ540個を作製した。
【0056】
〔評価〕
上記の実施例および比較例で抜き取ったコンデンサ素子各100個のSEM観察によって、高さ30μm以上の膜状突起物の個数(但し、実施例2は高さ10μm以上の膜状突起物の個数)を求めた。
チップ状固体電解コンデンサ各540個の漏れ電流を測定した。漏れ電流が0.2CVμA以下となったコンデンサの個数を求めた。なお、下記の式に示すように、0.2CVは、定数0.2と定格容量Cと定格電圧Vとの積のことである。
0.2CV(μA)=0.2(μA/μFV)×定格容量(μF)×定格電圧(V)
それらの結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
以上のことから、電解重合後に陽極体または半導体層から放電させて陽極体と半導体層との間の電位差をゼロにする工程を設けて製造されたコンデンサ素子には、膜状突起物がほとんど生成しないことが判る。また、上記製造で得られたコンデンサ素子を用いて得られた固体電解コンデンサのうち高い漏れ電流になるものは僅かである。このことから、本発明の製造方法によれば、漏れ電流の低い、良質な固体電解コンデンサ素子を高い生産歩留まりで製造できることがわかる。