【実施例】
【0037】
[実施例1]
(1)酸化マグネシウム粒子と水酸化カルシウム粒子とが分散している水性分散液の調製
酸化マグネシウム粉末(気相法で製造されたもの、純度:99.9質量%、BET比表面積換算粒子径:180nm)7.03モルと、水酸化カルシウム粉末(純度:99.9質量%、BET比表面積換算粒子径:270nm)0.30モルとを、水712.51mLに分散させ、酸化マグネシウム粒子と水酸化カルシウム粒子とがマグネシウムとカルシウムのモル比で96:4(Mg:Ca)の割合で分散している水性分散液を調製した。
【0038】
(2)複合アルカリ土類金属酸化物の焼結体ペレットの製造
上記(1)で調製した水性分散液に、予め水に溶解させたホウ酸を0.0028モル加えて1時間撹拌した後、ポリビニルアルコールを7.63g、ポリエチレングリコールを1.22g加えて、さらに撹拌した。次いで、撹拌後の水性分散液を、スプレードライヤーを用いて乾燥温度200℃で噴霧乾燥した。得られた粒状物を、成形圧2トン/cm
2でペレット状(直径8mm、厚さ3mm、成形体密度2.2g/cm
3)に成形した。得られたペレット状成形物を1570℃の温度で5時間焼成して、複合アルカリ土類金属酸化物の焼結体ペレットを得た。得られた焼結体ペレットの相対密度及び吸湿による質量増加率を下記の方法により測定した。表1に、その結果を示す。
【0039】
[相対密度]
焼結体ペレットの密度を、ケロシンを標準物質に用いたアルキメデス法により測定し、下記式により相対密度を算出した。
相対密度=100×測定した焼結体ペレットの密度(g/cm
3)/焼結体ペレットの理論密度(=3.572g/cm
3)
【0040】
なお、焼結体ペレットの理論密度は、酸化マグネシムと酸化カルシウムのモル比を96:4、酸化マグネシウムの理論密度を3.585g/cm
3、分子量を40.3g/モル、酸化カルシウムの理論密度を3.350g/cm
3、分子量を56.1g/モルとして下記式により求めた。
焼結体ペレットの理論密度=3.585×96×40.3/(96×40.3+4×56.1)+3.350×4×56.1/(96×40.3+4×56.1)
【0041】
[吸湿による質量増加率]
予め質量を測定した焼結体ペレットを、温度30℃、相対湿度80%に調整した恒温恒湿器内に7日間静置した。静置後の焼結体ペレットの質量増加量を測定し、静置前の焼結体ペレットの質量に対する質量増加率を算出した。
【0042】
[実施例2]
実施例1(2)において、水性分散液にホウ酸の代わりに、アルミニウム濃度が0.0015モル/gの硝酸アルミニウム水溶液を15.3061g加えたこと以外は、実施例1と同様にして焼結体ペレットを製造し、焼結体ペレットの相対密度及び吸湿による質量増加率を測定した。表1に、その結果を示す。
【0043】
[実施例3]
実施例1(2)において、水性分散液にホウ酸の代わりに、予め水に溶解させたオキシ硝酸ジルコニウムを0.0025モル加えたこと以外は、実施例1と同様にして焼結体ペレットを製造し、焼結体ペレットの相対密度及び吸湿による質量増加率を測定した。表1に、その結果を示す。
【0044】
[実施例4]
実施例1(2)において、水性分散液にホウ酸の代わりに、アルミニウム濃度が0.015モル/gの硝酸アルミニウム水溶液を1.148g加え、さらに予め水に溶解させたオキシ硝酸ジルコニウムを0.0016モル加えたこと以外は、実施例1と同様にして焼結体ペレットを製造し、焼結体ペレットの相対密度及び吸湿による質量増加率を測定した
。表1に、その結果を示す。
【0045】
[実施例5]
実施例1(2)において、水性分散液にホウ酸の代わりに、二酸化チタン粉末(BET比表面積換算粒子径:16nm)を水に分散させて調製した二酸化チタン粒子水性分散液をチタン量として0.0031モル加えたこと以外は、実施例1と同様にして焼結体ペレットを製造し、焼結体ペレットの相対密度及び吸湿による質量増加率を測定した。表1に、その結果を示す。
【0046】
[実施例6]
実施例1(2)において、水性分散液にホウ酸の代わりに、二酸化ケイ素粉末(BET比表面積換算粒子径:14.7nm)を水に分散させて調製した二酸化ケイ素粒子水性分散液をケイ素量として0.0027モル加えたこと以外は、実施例1と同様にして焼結体ペレットを製造し、焼結体ペレットの相対密度及び吸湿による質量増加率を測定した。表1に、その結果を示す。
【0047】
[比較例1]
実施例1(2)において、水性分散液にホウ酸の代わりに、予め水に溶解させたオキシ硝酸ジルコニウムを0.30モル加えたこと以外は、実施例1と同様にして焼結体ペレットを製造し、焼結体ペレットの相対密度及び吸湿による質量増加率を測定した。表1に、その結果を示す。
【0048】
[蒸着膜の二次電子放出量の測定]
実施例1〜6及び比較例1で製造した焼結体ペレットを蒸着材に用いて、電子ビーム蒸着法によりステンレス基板の上に蒸着膜を製造し、得られた蒸着膜にNeイオンを照射して、蒸着膜から放出された二次電子量を測定した。表1に、その結果を示す。但し、表1のデータは、比較例1で製造した焼結体ペレットを用いて製造した蒸着膜から放出された二次電子量を1とした相対値である。
蒸着膜の製造条件は、電圧:8KV、電流:40mA、蒸着チャンバーの酸素分圧:2×10
-2Pa、基板温度:200℃とした。蒸着膜へのNeイオンの照射条件は、真空度:3×10
-6Pa、Neイオンの加速電圧:300eV、基板温度:300℃とした。
【0049】
表1
────────────────────────────────────────
焼結体ペレットの組成と物性
──────────────────────────────
Mg:Ca 3〜5価 3〜5価の金属元 吸湿による 蒸着膜の
(モル比) の金属元 素のCa1モルに 相対密度 質量増加率 二次電子
素の種類 対する量(モル) (%) (質量%) 放出量
────────────────────────────────────────
実施例1 96:4 B 0.0093 96.77 0.01≧ 1<
実施例2 96:4 Al 0.0765 98.45 0.01≧ 1<
実施例3 96:4 Zr 0.0083 97.33 0.01≧ 1<
実施例4 96:4 Al 0.0057 98.27 0.01≧ 1<
Zr 0.0055
実施例5 96:4 Ti 0.0103 96.49 0.01≧ 1<
実施例6 96:4 Si 0.0090 97.61 0.01≧ 1<
────────────────────────────────────────
比較例1 96:4 Zr 1.0000 96.70 0.01≧ 1
────────────────────────────────────────
実施例1〜6の焼結体ペレットを用いて製造した蒸着膜の二次電子放出量は、比較例1の焼結体ペレットを用いて製造した蒸着膜の二次電子放出量を1とした場合の相対値として、実施例1では1.35、実施例2では1.30、実施例3では1.27、実施例4では1.25、実施例5では1.29、実施例6では1.13である。
【0050】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜6の焼結体ペレットと比較例1の焼結体ペレットとは共に、温度30℃、相対湿度80%雰囲気中での吸湿による質量増加率が0.01質量%以下と吸湿性は低いが、実施例1〜6の焼結体ペレットを用いて製造した蒸着膜は、比較例1の焼結体ペレットを用いて製造した蒸着膜と比較して、二次電子放出量が多い。