(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
有孔板部と無孔板部とが横方向に交互に設けられる正面板と、その正面板とともに内部空間を形成する背面板と、その背面板及び正面板の縁板部同士を重ね合わせて接合する重畳接合部とを有する遮音パネルと、
その遮音パネルの正面側で前記正面板の無孔板部と前記重畳接合部とに跨って添設される前記主板部と、その重畳接合部の背面側に添設される前記副板部と、その重畳接合部を挟入する前記挟入隙間と、前記正面板の無孔板部に位置する前記留具取付部とを有している請求項1記載の補強器具と、
その補強器具の留具取付部に取り付けられて前記正面板の無孔板部に係止されてその正面板の無孔板部及び前記補強器具の主板部を接合する留具とを備えていることを特徴とする遮音パネル補強構造体。
前記遮音パネルの前記重畳接合部において、前記正面板の縁板部の正面側から当該正面板の縁板部を貫通して、その正面板の縁板部と前記背面板の縁板部との間に生じる隙間まで連通する穿孔を備えていることを特徴とする請求項2記載の遮音パネル補強構造体。
有孔板部と無孔板部とが横方向に交互に設けられる正面板と、その正面板とともに内部空間を形成する背面板と、その背面板及び正面板の縁板部同士を重ね合わせて接合する重畳接合部とを有する遮音パネルを、請求項1の補強器具を用いて補強する構造体の製造方法であって、
遮音パネルの重畳接合部を補強器具の挟入隙間内へ挟入することによって、補強器具の主板部を遮音パネルの正面側で正面板の無孔板部と重畳接合部とに跨るように添設し、かつ、補強器具の副板部を遮音パネルの重畳接合部の背面側に添設して、遮音パネルに補強器具を取り付ける取付工程と、
その取付工程の後、補強器具の留具取付部に留具を取り付け、その留具を遮音パネルの正面板の無孔板部に係止させることによって、遮音パネルの正面板の無孔板部と補強器具の主板部とを接合する接合工程とを備えていることを特徴とする遮音パネル補強構造体の製造方法。
前記遮音パネルの重畳接合部において前記正面板の縁板部の正面側から当該正面板の縁板部を貫通し、その正面板の縁板部と前記背面板の縁板部との間に生じる隙間まで連通する穿孔を形成する穿孔工程を備えていることを特徴とする請求項5記載の遮音パネル補強構造体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
図1(a)は、遮音パネル1を用いて構築された遮音壁100の正面図であり、
図1(b)は、
図1(a)に示した遮音壁100の縦断面図である。なお、本明細書において「正面」は「前面」と、「正面側」は「前側」と、「背面」は「後面」と、「背面側」は「後側」と、同義である。
【0003】
図1に示すように、遮音壁100は、例えば、高速道路等の道路構造物の併設されるものであり、道路構造物の路側部や高欄部などの側縁部101に設置されている。既存の遮音壁100には、種々の形態のものが存在しているが、その中に遮音パネル1を使用したものが多数存在している。
【0004】
この遮音パネル1を用いた遮音壁100は、例えばH鋼等を用いた複数の支柱102が道路構造物の側縁部101に沿って立設され、各支柱102間に遮音パネル1の横幅に対応した間隔が空けられ、各支柱102間に遮音パネル1が落とし込まれた格好で縦方向(上下方向)に複数積み重ねられ、各遮音パネル1の横方向両端部が各支柱102にボルト等により固定されることで、道路構造物に併設されている。
【0005】
遮音パネル1は、その正面視した形状が横長の長方形状であり、その横幅(全幅)が縦幅(全高)に比べて大きくなっている。また、遮音パネル1の厚さ(奥行)は横幅及び縦幅に比べて小さくなっている(
図1(b)参照。)。例えば、遮音パネル1の横幅は長さが2m又は4mあり、このため、遮音パネル1を支持する支柱102は、道路構造物の側縁部101の延長方向に沿って2m又は4mの間隔で立設されている。
【0006】
図2(a)は、
図1に示した遮音壁100に使用される汎用型の遮音パネル1の正面図であり、
図2(b)は、
図2(a)に示した遮音パネル1の左側面図であり、
図2(c)は、遮音パネル1から正面板2を取り外した状態、即ち、背面板3の部分的な正面図であり、
図3は、
図2(a)のIII−III線における縦断面図であり、同図中の拡大図は、遮音パネル1の下縁部にあるハゼ継接合部4の拡大断面図である。
【0007】
図2及び
図3に示すように、汎用型の遮音パネル1は、一般にその内部に吸音材6を収容した箱型の形状をしている。また、この遮音パネル1は、主として、正面全体を開口(
図2(c)参照。)させた正面開口と残る5面を覆っている板部(板材)とを有した正面開放型の中空箱状をした背面板3と、この背面板3の正面開口全体に覆設される正面板2とを備えている。
【0008】
図2(a)に示すように、遮音パネル1の正面板2は、有孔板部2pと無孔板部2rとが横方向に交互に設けられている。この有孔板部2pは、「がらり」状又はルーバー(louvre)状の形態をした板部であり、上下に隙間を空けて平行に並設される複数の羽板2p1と、各羽板2p1間に貫通形成される音波入射用のスリット状の貫通孔2p2(吸音孔)とを備えており、これらの羽板2p1と貫通孔2p2とが縦方向(上下方向)に交互に繰り返し形成されている。
【0009】
また、有孔板部2pは、正面板2の横方向に一定の間隔を空けて複数並設されており、隣り合う有孔板部2p同士の間には、無孔状の板部であって縦方向に連続した無孔板部2rが設けられている。さらに、正面板2の周縁部2aと背面板3の周縁部3aとは、互いに重ね合わせられて重畳した状態で接合されることで重畳接合部を構築している(
図2(b)及び
図2(c)参照。)。
【0010】
なかでも、遮音パネル1の下縁部において、正面板2及び背面板3の縁板部2b,3b同士は、いわゆるハゼ折り継手を用いた重畳接合部であるハゼ継接合部4となっており、このハゼ継接合部4は、遮音パネル1を側面視した場合に遮音パネル1の下縁部から下向きに突出した突片状の形態をしている(
図2(b)及び
図3参照。)。
【0011】
図3に示すように、この突片状のハゼ継接合部4は、正面板2の下縁部にある板材を断面U字状に曲成して後側に折り返すことで、正面板2の下縁部前側に縁板部2bと、その縁板部2bの後側にこれと平行状に対向した折返し板部2cとを設けて、この正面板2の折返し板部2cと縁板部2bとの間にできる上向きに開口した隙間を挿入溝2dとしている。
【0012】
そして、この挿入溝2d内へ背面板3の下縁部前側から下向きに延出される背面板3の縁板部3bを嵌め込んで正面板2の縁板部2b及び折返し板部2cと圧着することで、遮音パネル1の下縁部において正面板2及び背面板3の縁板部2b,3b同士を重ね合わせて接合したものである。
【0013】
ところで、この遮音パネル1の下縁部にある突片状のハゼ継接合部4は、遮音パネル1が上下に複数積み上げられて遮音壁100を構築する場合、当該遮音パネル1の真下にある遮音パネル1の正面上縁部に形成された段差部2sに収まって、上下に積み重なった遮音パネル1,1同士を係合する機能を果たしている。遮音パネル1の正面上縁部にある段差部2sは、正面板2の上縁部を後側に陥没させた形状をしており、この段差部2sにハゼ継接合部4が収まった状態は合決り構造に似た格好をしている。
【0014】
ところで、道路構造物に併設される遮音壁100は、道路構造物が建設されている環境に応じて塩分を含む様々な媒質、例えば、海水、大気、凍結防止剤に晒されている。このため、遮音壁100の部品となる遮音パネル1についても、このような塩分を含んだ水分(以下「塩水」という。)が飛散して気流に乗って、正面板2にある有孔板部2pの貫通孔2p2から正面板2及び背面板3により囲われた内部空間5へ侵入してくる状況に置かれている(
図1及び
図3参照。)。
【0015】
このように塩水が常時的に遮音パネル1の内部空間5へ侵入する環境下では、塩水が遮音パネル1の内部空間5で乾湿を繰り返すこととなり、この乾湿繰り返しが遮音パネル1を腐食させる一因となっている。
【0016】
また、遮音パネル1には、正面板2と背面板3とに異種金属を用いたものがあるが、例えば、正面板2にアルミニウム合金板を、背面板3に亜鉛メッキ鋼板を用いている場合、正面板2及び背面板3における周縁部2a,3aの重畳接合部では異種金属接触腐食が生じることとなる。
【0017】
さらに、ハゼ継接合部4では、正面板2の縁板部2bと背面板3の縁板部3bとが折り重なって圧着されることで密着して重畳しているものの、当該両板材の間にはごく微細な隙間4aが存在していて、この隙間4aが遮音パネル1の内部空間5とも繋がっている。
【0018】
このため、遮音パネル1の内部空間5へ侵入した塩水は、ハゼ継接合部4における正面板2及び背面板3の縁板部2b,3b間にある隙間4aにも侵入し、この隙間4aが水分で満たされると酸素供給がされにくい環境となる結果、炭素鋼やいくつかの金属では通気差腐食を生じてしまう。
【0019】
仮に、正面板2や背面板3の材料として表面に不動態皮膜を形成するものが使用されていたとしても、塩水が正面板2と背面板3との重畳接合部(ハゼ継接合部4を含む。)を成す板材2a,3a間(縁板部2b,3b間を含む。)の隙間(隙間4aを含む。)へ侵入すると、この塩水に含まれる塩化物イオンに起因した隙間腐食を発生し、重畳接合部を激しく腐食させてしまう。
【0020】
特に、上記したハゼ継接合部4では、正面板2の縁板部2bと折返し板部2cとの間に挿入溝2dが存在するため、正面板2及び背面板3の縁板部2b,3b間の隙間4aに塩水が溜まりやすく、なかでも、ハゼ継接合部4では、亜鉛メッキ鋼板の背面板3に比べて、アルミニウム合金板の正面板2の方がより重度の腐食劣化を呈する傾向にある。
【0021】
例えば、特許文献1(特許第4684018号)では、その特許請求の範囲において、このような既設の遮音パネル1(金属製箱状パネルに相当)の底部に発生する腐食損傷に対し、背面板3(無開口亜鉛メッキ鋼板に相当)の底板部3rやハゼ継接合部4(はぜ継ぎ部分に相当)に第1乃至第3の水抜き部を設けて、かかる各水抜き部を通じて背面板3の内部空間5内や重畳接合部(ハゼ折り継手)内から塩水を排水することによって腐食を防止することを提案している。
【0022】
しかしながら、現存する多くの道路構造物に設置される遮音壁100にあっては、それに使用される遮音パネル1に上記特許文献1記載の第1乃至第3の水抜き部は設けられておらず、既設の遮音パネル1については何ら有効な腐食防止対策が施されていないのが実情である。
【0023】
そのうえ、道路構造物は、まさしく日本全国に網の目状に張り巡らされており、これに併設される遮音壁100に使用される遮音パネル1の数も極めて膨大な数に上るため、これらを全て特許文献1にある第1乃至第3の水抜き部を有した新品の遮音パネル1に交換するには、極めて莫大な工事費用が必要となる。
【0024】
そこで、上記した第1乃至第3の水抜き部を、既設の遮音パネル1に対して設けることで腐食防止対策を施すことも不可能ではないが、既に腐食がかなり進行している遮音パネル1もあり、上記した第1乃至第3の水抜き部を設けて塩水をハゼ継接合部4や内部空間5から排水するだけでは、腐食が進行した既設の遮音パネル1に対する防食対策として適切に機能し得ない事態も考えられる。
【0025】
このため、新品の遮音パネル1に交換する場合に比べて低コストで実施できる何らかの補強対策を既設の遮音パネル1に対して施すことで、既設の遮音パネル1の延命化を図ることによって、遮音パネル1の交換周期を可能な限り延長して、既設の遮音パネル1に維持管理に必要となる長期的なコストを低減することが早急に求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
そこで、既設の遮音パネル1の腐食の実態を把握すべく本願出願人が独自に調査を実施した。すると、既設の遮音パネル1では、その下縁部においてハゼ継接合部4を成す正面板2の縁板部2bに腐食亀裂が発生し、この腐食亀裂が伸展成長して正面板2の横幅方向へ拡大することが、遮音パネル1内部の腐食進行を加速させ、かつ、遮音パネル1全体の腐食損傷を重傷化させる一要因として関与していた。
【0028】
図4は、遮音パネル1の下縁部におけるハゼ継接合部4の拡大正面図であり、
図4(a)は、腐食の進展期にハゼ継接合部4に生じる肉厚減少D1、腐食孔D2、局所的な腐食亀裂D3を例示したものであり、
図4(b)は、腐食の加速期にハゼ継接合部4に発生する巨大な腐食亀裂D4を例示したものである。
【0029】
特に、腐食の進展期にある遮音パネル1では、
図4(a)に示すように、その下縁部においてハゼ継接合部4を成す正面板2の縁板部2bに、肉厚減少D1した箇所や、この肉厚減少D1が更に進んだ多数の腐食孔D2(孔状の腐食箇所)や、これらの腐食孔D2が繋がるなどして局所的な亀裂へと伸展した腐食亀裂D3などが所々に発生するとともに、背面板3の底板部3r(
図3参照。)の内面には、表面の亜鉛メッキが局所的に破壊された腐食箇所が発生していた。
【0030】
また、上記調査によれば、
図4(b)に示すように、遮音パネル1の下縁部においてハゼ継接合部4を成す正面板2の縁板部2bに見られた局所的な腐食亀裂D3(
図4(a)参照。)は、腐食が進展期から加速期へ移行する中で、正面板2の横方向全体又はそれに近い範囲に及ぶ、巨大な腐食亀裂D4へと伸展成長して行くことを確認した。
【0031】
このような局所的な腐食亀裂D3から巨大な腐食亀裂D4への伸展成長は、腐食進行に伴って肉厚減少D1した箇所が腐食孔D2へと変化し、このような腐食孔D2が増加して腐食亀裂D3へと変化したことも、その一要因と言えるが、このことに加えて、強い風を受けて正面板2が振れ動くことで、腐食により脆弱化しているハゼ継接合部4が肉厚減少D1箇所や腐食孔D2を起点として破壊され、この破壊によって新たな腐食亀裂D3の発生や、腐食亀裂D3が正面板2の横幅方向に伸展成長が繰り返され、さらに、小さな腐食亀裂D3が幾つも繋がって行くことも、その一要因であると考えられる。
【0032】
ここで、巨大な腐食亀裂D4への伸展成長のプロセスでは、まず塩水の供給が多くかつ振れ動き易い有孔板部の真下位置に局所的な腐食亀裂D3が出現し易く、その後、この有孔板部の真下位置にできた局所的な腐食亀裂D3が更に伸展して、有孔板部の真下位置で腐食亀裂D3が連続的に繋がった亀裂へと成長する。そして、最終的に、この亀裂が有孔板部の真下位置から無孔板部の真下位置へと伸展して、巨大な腐食亀裂D4に成長するのである。
【0033】
そして、このように巨大な腐食亀裂D4が遮音パネル1のハゼ継接合部4にできると、正面板2が強い風を受けてより一層大きく振れ動き易くなり、この大きな揺れ動きで腐食亀裂D4の傷口が大きくこじ開けられ、塩水を含んだ気流や凍結防止剤自体も遮音パネル1の内部空間5へ入り込み易くなる。さすれば、かかる塩水や凍結防止剤による背面板3の内面の腐食も急速に進行し、早期に遮音パネル1全体の腐食損傷も重度化して、遮音パネル1の寿命が縮まってしまうことになる。
【0034】
結果、遮音パネル1の腐食の劣化期においては、その背面板3の底板部3rにおける腐食が大幅に進行して断面欠損が発生したり、背面板3の形状が保持不能な状態にまで崩れたり、或いは、遮音パネル1内に収容されている吸音材6が脱落するという、極めて劣悪な損傷状態となってしまうということが、上記調査から明らかとなった。
【0035】
以上のことから、本願出願人は、遮音パネルの下縁部にある重畳接合部の腐食は、その腐食現象自体の進行のみならず、それに加えて正面板の振れ動きという外的作用が加わることで加速及び重度化する状況にあるのであって、このような正面板の振れ動きを抑制することができれば、その分、腐食が重傷化するまので期間を先延ばしして、遮音パネルの延命化を図ることができるとの着想に至った。
【0036】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、道路構造物に併設される遮音壁に用いた既設の遮音パネルの延命化を図るために応急的かつ簡易に低コストで行える補強対策に関し、その補強対策に使用される補強器具、並びに、その補強器具を用いて構築される遮音パネル補強構造体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0037】
この目的を達成するために請求項1の補強器具は、遮音パネルにお
いて、有孔板部と無孔板部とが横方向に交互に設けられる正面板及び
その正面板とともに内部空間を形成する背面板の縁板部同士を重ね合わせて接合する重畳接合部に取り付けられて正面板を補強する補強器具であって、縦方向に延びる板状の主板部と、その主板部と対向配置されてその主板部の縦方向一端に自らの縦方向一端が連設されてその主板部に比べて縦方向長さが短く形成される副板部と、その副板部との非対向部分となる前記主板部の縦方向他端側に設けられて正面板の無孔板部に係止される留具が取り付けられる留具取付部と、前記主板部及び副板部の対向面間に設けられて遮音パネルの重畳接合部が挟入可能に形成される挟入隙間とを備えている。
【0038】
請求項2の遮音パネル補強構造体は、有孔板部と無孔板部とが横方向に交互に設けられる正面板と、その正面板とともに内部空間を形成する背面板と、その背面板及び正面板の縁板部同士を重ね合わせて接合する重畳接合部とを有する遮音パネルと、その遮音パネルの正面側で前記正面板の無孔板部と前記重畳接合部とに跨って添設される前記主板部と、その重畳接合部の背面側に添設される前記副板部と、その重畳接合部を挟入する前記挟入隙間と、前記正面板の無孔板部に位置する前記留具取付部とを有している請求項1記載の補強器具と、その補強器具の留具取付部に取り付けられて前記正面板の無孔板部に係止されてその正面板の無孔板部及び前記補強器具の主板部を接合する留具とを備えている。
【0039】
請求項3の遮音パネル補強構造体は、請求項2の遮音パネル補強構造体において、前記遮音パネルの前記重畳接合部において、前記正面板の縁板部の正面側から当該正面板の縁板部を貫通して、その正面板の縁板部と前記背面板の縁板部との間に生じる隙間まで連通する穿孔を備えている。
【0040】
請求項4の遮音パネル補強構造体は、請求項3の遮音パネル補強構造体において、前記穿孔は、前記正面板
の有孔板部で発生した腐食亀裂
が前記正面板の無孔板部に向かって伸展することが予測される亀裂伸展予測線と、前記正面板における有孔板部と無孔板部との境界線とが交差する箇所に穿設されている。
【0041】
なお、亀裂伸展予測線は、遮音パネルの重畳接合部を成している正面板の縁板部及び背面板の縁板部のうち正面板の縁板部において、その縁板部に沿って腐食亀裂が横方向に伸展することが予測される箇所を線を用いて表したものである。この亀裂伸展予測線は、同種の遮音パネルについて過去に発生した腐食亀裂の位置に基づいて予測できる。
【0042】
請求項5の遮音パネル補強構造体の製造方法は、有孔板部と無孔板部とが横方向に交互に設けられる正面板と、その正面板とともに内部空間を形成する背面板と、その背面板及び正面板の縁板部同士を重ね合わせて接合する重畳接合部とを有する遮音パネルを、請求項1の補強器具を用いて補強する構造体の製造方法であって、遮音パネルの重畳接合部を補強器具の挟入隙間内へ挟入することによって、補強器具の主板部を遮音パネルの正面側で正面板の無孔板部と重畳接合部とに跨るように添設し、かつ、補強器具の副板部を遮音パネルの重畳接合部の背面側に添設して、遮音パネルに補強器具を取り付ける取付工程と、その取付工程の後、補強器具の留具取付部に留具を取り付け、その留具を遮音パネルの正面板の無孔板部に係止させることによって、遮音パネルの正面板の無孔板部と補強器具の主板部とを接合する接合工程とを備えている。
【0043】
請求項6の遮音パネル補強構造体の製造方法は、請求項5の遮音パネル補強構造体の製造方法において、前記遮音パネルの重畳接合部において前記正面板の縁板部の正面側から当該正面板の縁板部を貫通し、その正面板の縁板部と前記背面板の縁板部との間に生じる隙間まで連通する穿孔を形成する穿孔工程を備えている。
【0044】
請求項7の遮音パネル補強構造体の製造方法は、請求項6の遮音パネル補強構造体の製造方法において、前記穿孔工程は、前記正面板
の有孔板部で発生した腐食亀裂
が前記正面板の無孔板部に向かって伸展することが予測される亀裂伸展予測線と、前記正面板における有孔板部と無孔板部との境界線とが交差する箇所に、前記穿孔を形成するものである。
【発明の効果】
【0045】
本発明の補強器具、遮音パネル補強構造体、及び、遮音パネル構造体の製造方法によれば、補強器具を用いた補強構造体は、腐食破損した遮音パネルを新品の遮音パネルへ交換する場合に比べ、概ね1割程度のコストで製造することができ、全国に多数存在する既設の遮音パネルに対して実施したとしても、極めて低コストで既設の遮音パネルの延命化を図ることができるという効果がある。
【0046】
また、本発明の補強器具は、その主板部及び副板部間の挟入隙間内に重畳接合部を挟み込む格好で当該重畳接合部に係合され、かつ、主板部の留具取付部に取り付けられる留具を介して正面板の無孔板部に係止されることによって、この重畳接合部と無孔板部との双方に主板部が跨った状態で添設固定される。すると、正面板の縁板部及び無孔板部における補強器具の主板部の添設部分は、当該主板部の厚みの分だけ、その剛性が高められて補強される。
【0047】
このように補強により正面板の下縁部の剛性が向上されると、正面板が強い風を受けて揺れ動いた場合でも、正面板の下縁部では振れ動きが起こり難くなるので、重畳接合部に伝わる振れ動きを大幅に軽減することができ、その結果、重畳接合部での腐食亀裂の伸展成長を抑制できるようになるという効果がある。
【0048】
また、本発明の補強構造体によれば、仮に重畳接合部に発生した腐食亀裂が正面板の横幅全体又はこれに近い範囲まで伸展成長してしまっていて、この腐食亀裂を境目にして正面板が上下に分裂破断したような場合であっても、補強器具及び留具によって正面板の無孔板部と重畳接合部との連結状態を以前として維持できるので、強い風を受けて正面板の下縁部が大きく振れ動くことを抑制でき、このような大きな振れ動きに伴って腐食亀裂の傷口がこじ開けられるような事態も抑制できるという効果がある。
【0049】
さすれば、たとえ巨大な腐食亀裂が重畳接合部に既に存在したとしても、塩水を含んだ気流や凍結防止剤がそこから遮音パネルの内部空間へ入り込み難くなるため、背面板の内面の腐食進行を遅延させることができ、結果、遮音パネルの延命化を図ることができるという効果がある。しかも、強い風で腐食亀裂が大きくこじ開けられることが防止されるので、そこから遮音パネルの内部空間にある吸音材が外に脱落するような事態も回避できるという効果がある。
【0050】
また、留具による補強器具の主板部の係止箇所は、正面板の有孔板部ではなくて正面板の無孔板部であるので、有孔板部の音波入射機能を阻害することなく、遮音パネルの補強構造体を構築できるという効果がある。また仮に、補強器具が正面板の無孔板部ではなくて正面板の有孔板部に固定されるような場合には、風などによる正面板の振れ動きに伴う外力によって、有孔板部の羽根部や貫通孔の形状を破壊してしまう恐れもあるが、正面板の無孔板部であればそのような事態も回避できるという効果がある。
【0051】
特に、請求項3、4、6又は7の遮音パネル補強構造体又はその製造方法によれば、遮音パネルの重畳接合部に穿孔が穿設され、この穿孔が正面板の縁板部の正面側から当該正面板の縁板部を貫通して正面板の縁板部と背面板の縁板部との間に生じる隙間まで連通するので、この隙間へ遮音パネルの内部空間から侵入した塩水を、この隙間から重畳接合部の外へ排水でき、重畳接合部内での通気差腐食、隙間腐食、乾湿繰り返し現象の発生を低減できるという効果がある。
【0052】
なかでも、請求項4又は7の遮音パネル補強構造体又はその製造方法によれば、上記穿孔は、腐食亀裂の伸展箇所として予測された亀裂伸展予測線と、正面板における有孔板部と無孔板部との境界線とが交差する箇所に設けられる。このため、例えば、腐食亀裂が正面板の有孔板部の直下にある重畳接合部で伸展していても、この腐食亀裂の伸展を無孔板部に到達する手前にある穿孔で食い止めることができ、正面板の無孔板部の直下にある重畳接合部にまで腐食亀裂が伸展拡大することを抑制できるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
図5(a)は、本発明の一実施例である補強器具10の外観斜視図であり、
図5(b)は、この補強器具10の正面図であり、
図5(c)は、この補強器具10の側面図である。
図5に示すように、補強器具10は、薄板状のアルミ合金板などの金属板で形成されており、例えば、この金属板の厚みが1.0〜1.5mm程度とされている。
【0055】
この補強器具10は、1枚の金属板の下端部を側面視U字形に曲成して
折り返すことによってフック状に形成されており、その前側に主板部11が設けられ、その後側に副板部12が設けられている。主板部11は、正面視した場合に縦方向に長く延びた縦長の長方形状に形成されており、この主板部11の縦方向下端と副板部12の縦方向下端部とが円弧状の曲折部13を介して連設されている(
図5(c)参照。)。
【0056】
また、主板部11と副板部12とは互いに平行状に対向配置されており、主板部11は副板部12に比べて縦方向(
図5の上下方向)の長さ(高さ)が大きく形成されている。さらに、主板部11と副板部12との対向面間には所定幅の隙間が設けられており、この隙間が遮音パネル1のハゼ継接合部4を挟入させる挟入隙間14となっている。
【0057】
この挟入隙間14は、その上部が開口した溝状をしており、その溝幅Wが遮音パネル1のハゼ継接合部4の厚みtの設計値と同等に形成されている。ただし、既設の遮音パネル1は、腐食の進行によって実際のハゼ継接合部4の厚みtは設計値に比べて若干増加しているため、かかる場合には、挟入隙間14の溝幅Wは、実際のハゼ継接合部4の厚みtに比べて狭くなることがある。
【0058】
また、主板部11における副板部12との非対向部分であって当該主板部11の上端部には、2つの通孔15が横方向に間隔を空けて縦方向に同一の位置に穿設されている。この2つの通孔15は、主板部11の厚み方向に貫通した孔であり、主板部11を遮音パネル1の正面板2の無孔板部2rに対して係止するため、
図6に示すように、留具の一種であるブラインドリベット20が挿入可能となっている。
【0059】
図6は、上記した補強器具10を用いて
図2及び
図3に示した遮音パネル1を補強した補強構造体30の説明図であって、特に、
図6(a)は、補強器具10を用いた補強構造体30が構築された遮音パネル1の正面図であり、
図6(b)は、
図6(a)に示した補強構造体30が構築された遮音パネル1の縦断面図である。
【0060】
なお、
図6では、
図1に示した遮音壁100において上下に積み重ねられる遮音パネル1,1のうち、上下2段分の遮音パネル1,1のみを図示しており、そのうち上段の遮音パネル1のみを実線で図示し、下段の遮音パネル1を2点鎖線で図示している。
【0061】
図6(a)に示すように、補強器具10は、遮音パネル1の下縁部にあるハゼ継接合部4に横方向に所定の間隔をあけて複数取り付けられており、特に、その主板部11が正面板2の各無孔板部2rに重なり合うように配置されている。また、補強器具10の横幅は、主板部11及び副板部12ともに無孔板部2rの横幅と同等又はそれよりも若干小さく形成されている。
【0062】
さらに、補強器具10の主板部11は、ハゼ継接合部4の前面下端から前面上端にかけて添設されており、このハゼ継接合部4の上端を越えて更に正面板2の無孔板部2rの前面にまで上方に延出されている。このため、補強器具10は、遮音パネル1のハゼ継接合部4の前面と正面板2の無孔板部2rの前面との双方に跨った状態で、遮音パネル1に対して取り付けられている。
【0063】
図6(b)に示すように、補強器具10の副板部12は、その縦方向(
図6の上下方向)長さがハゼ継接合部4の根元(上端)から先端(下端)までの突出長さLに比べて短くなっており、ハゼ継接合部4の後面に当接した状態で添設されている。
【0064】
ここで、補強器具10は、その主板部11、副板部12及び曲折部13のいずれもが正面板2と接触するように形成されている。例えば、主板部11は、正面板2の無孔板部2rとハゼ継接合部4を成す正面板2の縁板部2bとに接触しており、副板部12及び曲折部13は、ハゼ継接合部4を成す正面板2の折返し板部2cと接触している。
【0065】
ときに、かかる補強器具10は正面板2と同種の金属材料で形成されており、本実施例ではいずれもアルミニウム合金で形成されている。このため、補強器具10が遮音パネル1に取り付けた場合に、当該補強器具10と正面板2との異種金属接触腐食を抑制することができる。
【0066】
しかも、補強器具10の副板部12は、この補強器具10が取り付けられた上段の遮音パネル1の下にある下段の遮音パネル1の段差部2sとの間に差し込まれて、当該下段の遮音パネル1の正面板2とも接触することがある。しかし、補強器具10の副板部12は、当該下段の遮音パネル1の正面板2とも同種の金属材料で形成されるので、ここでも異種金属腐食の発生を回避できる。
【0067】
また、補強器具10の挟入隙間14にはハゼ継接合部4が挟入されており、このハゼ継接合部4は、主板部11と副板部12との間に挟み込まれ、この主板部11及び副板部12によって挟扼されている。さらに、主板部11の通孔15は正面板2の無孔板部2r上に位置しており、正面板2の無孔板部2rには通孔15に連通したリベット孔31が貫通形成されている。
【0068】
これらの通孔15及びリベット孔31には留具となるブラインドリベット20が貫通されており、このブラインドリベット20を用いたリベット継手によって、補強器具10の主板部11が正面板2の無孔板部2rに対して係止固定され、補強器具10の主板部11と正面板2の無孔板部2rとが接合されている。
【0069】
なお、補強器具10の板厚が先に例示した1.0〜1.5mm程度である場合には、例えば、ブラインドリベット20として、呼び径4.0mm、せん断強度3430N/本、引張強度4710N/本のものを使用することができる。
【0070】
図7(a)は、上記した補強構造体30の正面図であって遮音パネル1のハゼ継接合部4に局所的な腐食亀裂D3が伸展した状態を図示したものであり、
図7(b)は、
図7(a)のB−B線における縦断面図である。なお、
図7(a)に図示した2点鎖線は、亀裂伸展予測線CLを示しており、
図7(b)に図示した2点鎖線は、腐食亀裂D3,D4の発生頻度の高いと予測される範囲を示したものである。
【0071】
図7(a)に示すように、腐食亀裂D3は、遮音パネル1のハゼ継接合部4における正面板2の縁板部2bと正面板2の有孔板部2p及び無孔板部2rとの境界範囲に集中的に伸展する傾向がある。なかでも、遮音パネル1への塩水の侵入は、正面板2の有孔板部2pの貫通孔2p2から行われるため、この正面板2の有孔板部2pの真下位置が特に腐食が進みやすい状況にある。
【0072】
ところで、
図3に示すように、背面板3は、その後面(
図3左側)に背板部3pが直立するとともに当該背板部3pの下端部が円弧状に曲折されて、前方斜め上方へ緩やかな角度(例えば、15°程度)で斜設された底板部3rとなり、
図7(b)に示すように、この底板部3rの前端部(
図7(b)左側)が円弧状に曲折されて、垂直下方に延出された縁板部3bとなり、この背面板3の縁板部3bが正面板2の挿入溝2d内へ嵌め込まれている。
【0073】
ここで、本願出願人の実地調査によれば、同種の遮音パネル1に過去発生した腐食亀裂D3,D4の位置には、概ね一定の傾向があり、ハゼ継接合部4を成す正面板2の縁板部2bの上端側であって、
図7(b)に示した黒塗り部分Cで示した箇所で発生する頻度が高い傾向にある。なかでも腐食亀裂D3,D4が伸展する頻度の高い箇所は、上記した背面板3の底板部3rの前端側における曲折部分3sと正面板2の縁板部2bとの接点P1の周辺である。
【0074】
そこで、本実施例では、上記した接点P1を正面板2の前面に投影した点の集合を正面板2の横幅方向に繋げた直線(
図7(a)中の2点鎖線の直線)を、同種の遮音パネル1について過去に発生した腐食亀裂D3,D4の位置に基づいて予測した亀裂伸展予測線CLとして採用している。
【0075】
ここで、この亀裂伸展予測線CLと補強器具10との位置関係について説明すると、補強器具10の主板部11は、
図7(a)に示すように、遮音パネル1における正面板2の無孔板部2r側とハゼ継接合部4側との双方に跨って設けられる結果、遮音パネル1における亀裂伸展予測線CLと交差した状態で配置されている。
【0076】
また、補強器具10の挟入隙間14内へハゼ継接合部4が挟入された状態において、各通孔15は、亀裂伸展予測線CLから無孔板部2r側(
図7(a)上側)に所定距離L1だけ隔てた位置に配置され、かつ、主板部11の上端から所定距離L2だけ隔てた位置に穿設される。ここで、距離L1,L2の値には、例えば、ブラインドリベット20と補強器具10の金属板との許容せん断応力度以上の値を用いて求められる、応力方向に測った最小縁端距離の値、を用いても良い。
【0077】
また、遮音パネル1の下縁部において、ハゼ継接合部4を成す正面板2の縁板部2bには、この正面板2の縁板部2bの前面から後面まで貫通するとともに正面板2の縁板部2bと背面板3の縁板部3bとの間に生じる隙間4aまで連通(
図7(b)参照。)した正面視円形状のストップホール32が穿設される(穿設工程)。このストップホール32は、上記した亀裂伸展予測線CLと、正面板2における有孔板部2pと無孔板部2rとの境界線BLとが交差する箇所に穿設されている。
【0078】
次に、
図8を参照して、上記した補強器具10を用いた補強構造体30の製造方法について説明する。
図8は、補強器具10を用いた補強構造体30の製造工程を示した概略図である。
図8(a)の断面図に示すように、まず、上段の遮音パネル1のハゼ継接合部4と下段の遮音パネル1の段差部2sとの間に、尖端部を有する工具T1を差し込むなどして、ハゼ継接合部4と段差部2sとの間に補強器具10の副板部12を差し込むための隙間を一時的に開ける。
【0079】
なお、補強器具10の副板部12を差し込むための隙間が既に存在するならば、必ずしも工具T1を差し込まずとも良い。
【0080】
それから、
図8(b)の断面図に示すように、補強器具10の主板部11における後面を、遮音パネル1の正面板2における縁板部2b及び無孔板部2rの前面に当接させるようにして、挟入隙間14の上部開口をハゼ継接合部4の下端と向かい合わせにする。それから、補強器具10の主板部11を正面板2の縁板部2b及び無孔板部2rの前面に当接させながら、その補強器具10を上方へ向けてスライドさせて、ハゼ継接合部4を挟入隙間14内へ挟入させる(取付工程)。
【0081】
ここで、ハゼ継接合部4の厚みt(
図3参照。)が挟入隙間14の溝幅W(
図5参照。)に比べて大きな場合、ハゼ継接合部4の下端が補強器具10における副板部12の上端面12aに引っ掛かるため、ハゼ継接合部4を挟入隙間14へ差し込むことが困難な場合がある。このようなときは、
図8(c)の断面図に示すように、木槌や金槌などの打具T2を用いて補強器具10の曲折部13を上向きに叩き付けることで、ハゼ継接合部4を挟入隙間14内へ強引に押し込むようにしても良い。
【0082】
ここで、
図9は、補強器具10の副板部12の上端面12aに形成されるガイド面16を図示した拡大縦断面図であって、
図9(a)及び
図9(b)には、異なる形態のガイド面16をそれぞれ図示している。
【0083】
図9(a)及び
図9(b)に示すように、補強器具10の副板部12の上端面12aには、反挟入隙間14側から挟入隙間14側へ向けて下降傾斜するガイド面16を斜設しても良い。さすれば、このガイド面16にハゼ継接合部4の下端部を当接させつつ挟入隙間14内へ向けて摺動案内させることで、ハゼ継接合部4を挟入隙間14に挟入させ易くなる。
【0084】
図8に戻って説明すると、ハゼ継接合部4を挟入隙間14へ挟入する場合は、
図8(d)の断面図に示すように、ハゼ継接合部4は、その下端が挟入隙間14の溝底に当接するか、或いは、挟入隙間14の溝底近くまで到達するようにする。さすれば、ハゼ継接合部4は、補強器具10における主板部11及び副板部12の間で確実に挟扼されて、補強器具10は、遮音パネル1に対して仮止め状態となる。
【0085】
ここで、仮止め状態と言うと、補強器具10がハゼ継接合部4から簡単に外れてしまうようにも思えるが、実際は、上記したように挟入隙間14の溝幅Wはハゼ継接合部4の厚みtと同等又はそれよりも僅かに狭く形成されるので、ハゼ継接合部4は主板部11及び副板部12に密着されており、かかる密着に伴う接触摩擦によって、ハゼ継接合部4は、補強器具10の挟入隙間14から抜け難い状態となっている。
【0086】
また、仮止め状態であっても、上段の遮音パネル1のハゼ継接合部4と下段の遮音パネル1の段差部2sとの間から、そこに差し込まれた尖端部を有する工具T1を抜き外せば、そのハゼ継接合部4と段差部2sとの間に補強器具10の副板部12が挟み込まれることもあるので、かかる挟み込みによって補強器具10が遮音パネル1から外れ難くもなる。
【0087】
なお、補強器具10に使用される金属板が弾性復元性を有するものであっても良い。かかる場合において、ハゼ継接合部4の厚みtが挟入隙間14の溝幅Wよりも大きければ、ハゼ継接合部4を挟入隙間14へ挟入することで補強器具10を弾性変形させることができ、この弾性変形に伴う復元力によって主板部11及び副板部12を遮音パネル1のハゼ継接合部4に圧接でき、遮音パネル1のハゼ継接合部4が補強器具10の挟入隙間14から抜け難くなる。
【0088】
このようにして仮止めされた補強器具10は、その主板部11が遮音パネル1の前面でハゼ継接合部4と無孔板部2rとの双方に跨るように添設される一方、その副板部12がハゼ継接合部4の後面に添設される。この状態で、主板部11の各通孔15へその内径と同等又はそれより小さな外径のドリル等の切削工具T3を挿入し、正面板2の無孔板部2rにリベット孔31を2箇所穿設する。
【0089】
リベット孔31の穿設後は、
図8(e)の断面図に示すように、補強器具10の各通孔15から正面板2の各リベット孔31へブラインドリベット20を挿入し、その根元部にあるフランジ20aを補強器具10の主板部11の前面に当接させる。
【0090】
それから、この状態のままリベッター(図示せず。)を用いて、ブラインドリベット20に予め貫設してあるシャフト21が手前側(
図8(d)左側)に引っ張られると、そのシャフト21の先端にある頭部21aがブラインドリベット20の先端部20bを拡径させて、この拡径された当該先端部20bが正面板2の無孔板部2rの後面に引っ掛かって係止されて、このブラインドリベット20を用いたリベット継手によって補強器具10の主板部11と正面板2の無孔板部2rとが密着状態で圧着固定される(接合工程)。
【0091】
この後、リベッターを用いてブラインドリベット20のシャフト21が途中で切断されて不要部分が摘出されると、
図6又は
図7に示すように、各ブラインドリベット20が、補強器具10に各通孔15に取り付けられるとともに、遮音パネル1の正面板2の無孔板部2rに係止された格好となって、補強器具10を用いた補強構造体30が完成する。
【0092】
以上説明したように、本実施例の補強器具10及びこれを用いた遮音パネル1の補強構造体30によれば、補強器具10は、挟入隙間14を介してハゼ継接合部4に係合され、かつ、ブラインドリベット20を介して無孔板部2rに係止されることで、補強器具10の主板部11が、遮音パネル1のハゼ継接合部4と正面板2の無孔板部2rとの前面に跨った状態で添設固定される。
【0093】
すると、正面板2における補強器具10の主板部11の添設部分は、当該主板部11の分だけ厚みが増えて補強される結果、その剛性が高められる。さすれば、正面板2が強い風を受けて揺れ動いても、この補強により剛性が向上された正面板2の下縁部では振れ動きが起こり難くなるため、その分、ハゼ継接合部4に伝わる振れ動きも大幅に軽減され、ハゼ継接合部4での腐食亀裂D3の伸展成長も抑制される。
【0094】
また、本実施例の補強器具10を用いた補強構造体30によれば、仮に、ハゼ継接合部4に発生した腐食亀裂D3が正面板2の横幅全体又はこれに近い範囲に及ぶまで伸展成長し、この腐食亀裂D4を境目にして正面板2が上下に分裂破断したような状況となっていても、補強器具10を介して正面板2の無孔板部2rとハゼ継接合部4との連結状態を維持できるので、強い風を受けて正面板2の下縁部が大きく振れ動くことも抑制でき、このような大きな振れ動きに伴って腐食亀裂D4の傷口がこじ開けられるような事態も抑制できる。
【0095】
さすれば、たとえ巨大な腐食亀裂D4がハゼ継接合部4に既に存在したとしても、塩水を含んだ気流や凍結防止剤は、そこから遮音パネル1の内部空間5へ入り込み難くなるため、背面板3の内面の腐食進行を遅延させることもでき、結果、遮音パネル1の延命化を図ることができる。しかも、腐食亀裂D4が大きくこじ開けられることが防止されるので、かかる腐食亀裂D4から遮音パネル1の内部空間5に収容される吸音材6が外に脱落することも防止できる。
【0096】
なお、本実施例の補強構造体30は、ハゼ継接合部4の腐食を直接的に抑制するものではなく、あくまでも正面板2の振れ動きを抑制することで腐食亀裂D3の伸展を可能な限り抑制して遮音パネル1の腐食の重傷化を遅延させる手段に過ぎず、当該補強構造体30の製造施工後であっても、ハゼ継接合部4で局所的な腐食亀裂D3が巨大な腐食亀裂D4へと伸展成長する状況は十分に想定され得る。
【0097】
また、本実施例の補強構造体30によれば、主板部11をハゼ継接合部4に対して固定する手段としてリベット継手ではなく、主板部11と副板部12との間でハゼ継接合部4を挟み込む構造を採用したので、ハゼ継接合部4全体を貫通するリベット孔31を穿設する必要がなく、かかるリベット孔31の穿設に伴う背面板3の縁板部3bの腐食損傷を抑制できる。
【0098】
なお、ハゼ継接合部4にリベット孔31を穿設してしまうと、このハゼ継接合部4の挿入溝2d内に嵌め込まれている背面板3の縁板部3bにおいて、亜鉛メッキされていない金属面が露出し、この露出金属面から腐食が進行する恐れがある。
【0099】
さらに、ブラインドリベット20による補強器具10の主板部11の固定箇所は、正面板2の有孔板部2pではなくて正面板2の無孔板部2rであるので、有孔板部2pの音波入射機能を阻害することなく、遮音パネル1の補強構造体30を構築できる。
【0100】
また、仮に、補強器具10が正面板2の無孔板部2rではなくて正面板2の有孔板部2pに固定されるような場合には、風などによる正面板2の振れ動きに伴う外力によって、有孔板部2pの羽板2p1や貫通孔2p2の形状を破壊してしまう恐れもあるが、正面板2の無孔板部2rであればそのような事態も回避できる。
【0101】
また、本実施例の補強構造体30は、遮音パネル1のハゼ継接合部4にストップホール32が穿設されており、このストップホール32は、腐食亀裂D3,D4の伸展箇所として予測された亀裂伸展予測線CL上と、正面板2における有孔板部2pと無孔板部2rとの境界線BLとが交差する箇所に設けられている。
【0102】
このため、仮に腐食亀裂D3が正面板2の有孔板部2pの直下にあるハゼ継接合部4で横方向に伸展したとしても、この腐食亀裂D3,D4の伸展を無孔板部2rに到達する手前のストップホール32で食い止めることができ、このストップホール32を越えて正面板2の無孔板部2rの直下にあるハゼ継接合部4にまで腐食亀裂D3,D4が伸展拡大することを抑制できる。
【0103】
さらに、ストップホール32は、正面板2の下縁部にある縁板部2bを貫通して、ハゼ継接合部4内の挿入溝2d内にある背面板3の縁板部3bの手前まで到達し、正面板2の縁板部2bと背面板3の縁板部3bとの間に生じる隙間4aまで連通しているので、遮音パネル1の内部空間5からハゼ継接合部4内にある隙間4aへ侵入した塩水を、この隙間4aからハゼ継接合部4の外へ排水させることができ、ハゼ継接合部4内で通気差腐食、隙間腐食、乾湿繰り返し現象が発生することを抑制できる。
【0104】
そして、このような補強器具10を用いた補強構造体30を製造する施工工事は、腐食破損した遮音パネル1を新品の遮音パネル1へ交換する施工工事に比べて、概ね1割程度の施工コストで行うことができ、全国に多数存在する既設の遮音パネル1に対して実施したとしても、極めて低コストで遮音パネル1の延命化を図ることができる。
【0105】
次に、
図10を参照して、上記実施例の変形例について説明する。
図10は、第2実施例の補強器具40を用いて遮音パネル1を補強した補強構造体50の説明図であって、特に、
図10(a)は、正面図であり、
図10(b)は、
図10(a)のB−B線における縦断面図である。
【0106】
第2実施例の補強器具40及び補強構造体50は、上記した第1実施例に対し、補強器具の形態を変更したものである。以下、第1実施例と同一の部分には同一の符号を付して、その説明を省略し、異なる部分のみを説明する。
【0107】
図10に示すように、補強器具40は、正面視縦長の長方形状の平板体であり、上下に並んだ2個の遮音パネル1,1に跨って取り付けられている。即ち、補強器具40の上側部分は、上段の遮音パネル1における正面板2の無孔板部2rに当接され、横方向に間隔を隔てた2箇所がブラインドリベット20により当該無孔板部2rに連結固定されている。一方、当該補強器具40の下側部分は、下段の遮音パネル1における正面板2の無孔板部2rに当接され、横方向に間隔を隔てた2箇所がブラインドリベット20により当該無孔板部2rに連結固定されている。
【0108】
このように、第2実施例における補強器具40及び補強構造体50によれば、上段の遮音パネル1のハゼ継接合部4と下段の遮音パネル1の段差部2sとの重なり部分を跨いで、上下段双方の遮音パネル1,1における正面板2の無孔板部2rを互いに連結固定することで、上下両側の遮音パネル1,1をまとめて補強することができる。
【0109】
もっとも、第2実施例の補強器具40及び補強構造体50によれば、上下に並んだ2個の遮音パネル1,1を互いに連結固定してしまうため、個々の遮音パネル1に対して補強構造体50を個別単独に製造施工することはできない。これに対し、上記した第1実施例の補強器具10及び補強構造体30によれば、個々の遮音パネル1に対して個別単独に補強構造体30の施工を行うことができる。
【0110】
このため、第2実施例の補強構造体50によれば、上下に並んだ2個の遮音パネル1,1のうちいずれか一方を新品のものに交換する場合、補強器具40を取り外して補強構造体50を解体する必要があるが、第1実施例の補強構造体30によれば、補強構造体30を施工した後でも、その補強構造体30を解体することなく遮音パネル1を新品のものに交換できるという利点がある。
【0111】
図11は、補強器具10,40を用いて最下段の遮音パネル1を補強した補強構造体30,50’の説明図であって、
図11(a)は、上記第1実施例の補強器具10を用いた場合の正面図であり、
図11(b)は、
図11(b)のB−B線における縦断面図であり、
図11(c)は、上記第2実施例の補強器具40を用いた場合の正面図であり、
図11(d)は、
図11(c)のD−D線における縦断面図である。
【0112】
図11(a)及び
図11(b)に示すように、第1実施例の補強器具10は、個々の遮音パネル1自体に取付可能に形成されるものであるので、取付対象の遮音パネル1が道路構造物の側縁部であるコンクリート板101の上に載っていても、別の遮音パネル1の上に載っていても(
図6参照。)、その取付態様に何ら変更が加わるものではない。
【0113】
具体的には、第1実施例の補強器具10は、その副板部12が遮音パネル1のハゼ継接合部4の下端とコンクリート板101の上端との間から差し込まれて、ハゼ継接合部4の後側に差し込まれる格好で、遮音パネル1のハゼ継接合部4が補強器具10の挟入隙間14へ挟入させられている。
【0114】
これに対し、
図11(c)及び
図11(d)に示すように、第2実施例の補強器具40は、上下並んだ遮音パネル1,1を連結固定する形態のものであるので、遮音パネル1とコンクリート板101とが上下に並んでいる状況では、ブラインドリベット20を用いて補強器具40の下側部分をコンクリート板101に対して固定することができない。
【0115】
このため、第2実施例の補強器具40を用いてコンクリート板101の直上に載置される遮音パネル1を補強する場合、補強器具40の上側部分は、遮音パネル1の無孔板部2rに対してブラインドリベット20を用いて連結固定され、当該補強器具40の下側部分は、当該遮音パネル1のハゼ継接合部4に対してブラインドリベット20を用いて連結固定される。
【0116】
なお、補強器具10の下側部分については、コンクリート板101に対してアンカーボルト等をコンクリート用アンカー(図示せず。)を用いて連結固定しても良い。
【0117】
以上、実施例に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0118】
例えば、本実施例では、補強器具10,40と正面板2との異種金属接触腐食を防止するため、補強器具10,40の素材として正面板2と同種の金属材料を用いたが、補強器具の素材は必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば、そもそも異種金属接触腐食を発生しない炭素繊維強化樹脂板などの樹脂製板材を使用しても良い。