(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記動脈側血液濃度センサ及び静脈側血液濃度センサは、血液濃度を示すヘマトクリット値を測定可能な動脈側ヘマトクリットセンサ及び静脈側ヘマトクリットセンサから成ることを特徴とする請求項1記載の血液浄化装置。
前記第4工程は、校正された前記静脈側血液濃度センサの検量線の傾きと校正前の静脈側血液濃度センサの検量線の傾きとの比を求めるとともに、当該比に基づいて当該動脈側血液濃度センサの検量線を校正することを特徴とする請求項1〜3の何れか1つに記載の血液浄化装置。
急激で且つ短時間の血液の濃縮又は希釈を行うことにより血液濃度の変化に特有のピークを付与し得るピーク付与手段を具備するとともに、前記動脈側血液濃度センサ及び静脈側血液濃度センサは、当該ピーク付与手段で付与された特有のピークを検出し得るものとされ、当該動脈側血液濃度センサ及び静脈側血液濃度センサで検出された特有のピークに基づき、前記静脈側血液回路から患者に戻された血液が再び前記動脈側血液回路に導かれて流れる再循環血液を検出可能とされたことを特徴とする請求項1〜4の何れか1つに記載の血液浄化装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の血液濃度センサ(ヘマトクリットセンサ)においては、赤外線を照射し、赤血球中のヘモグロビンがその赤外線を吸収することを利用してヘマトクリット値を測定するものであることから、実際の測定においては、赤血球以外の何らかの阻害物質(主に散乱に影響を与える阻害物質)の影響を受けてしまい、誤差が大きくなってしまうという問題があった。
【0008】
また、予め代表的な血液を用いて検量線を求めていることから、実際の治療時において上記阻害物質の影響により検量線がずれてしまい測定誤差が大きくなってしまう虞があった。しかるに、除水速度の目安となっている循環血液量の変化率(ΔBV)を求める上で、測定されるヘマトクリット値自体にある程度の誤差が生じていても問題はあまり生じないものの、検量線の傾きが相違すると、誤差が著しく大きくなってしまう。
【0009】
なお、このような不具合は、血液に対して反射した光を受光して得られる受光電圧に基づき血液濃度を測定する血液濃度センサに限らず、血液に対して透過した光を受光して得られる受光電圧に基づき血液濃度を測定するもの或いは赤外線とは異なる他の光を利用したもの等でも同様に生じてしまう。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、少なくとも血液濃度センサの検量線の傾きを校正することができ、測定誤差を抑制することができる血液浄化装
置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の発明は、患者の血液を体外循環させるための動脈側血液回路及び静脈側血液回路から成る血液回路と、前記動脈側血液回路及び静脈側血液回路にそれぞれ接続され、体外循環する血液を浄化するための血液浄化器と、該血液浄化器を流れる血液中の水分を除去して除水し得る除水手段と、前記動脈側血液回路に取り付けられ、当該動脈側血液回路を流れる血液に対して透過又は反射した光を受光して得られる受光電圧に基づき血液濃度を測定し得るとともに、受光電圧と血液濃度との関係から予め求められた検量線を有した動脈側血液濃度センサと、前記静脈側血液回路に取り付けられ、当該静脈側血液回路を流れる血液に対して透過又は反射した光を受光して得られる受光電圧に基づき血液濃度を測定し得るとともに、受光電圧と血液濃度との関係から予め求められた検量線を有した静脈側血液濃度センサとを具備した血液浄化装置であって、前記動脈側血液濃度センサ及び静脈側血液濃度センサの検量線を校正する校正手段を具備するとともに、当該校正手段は、前記除水手段による除水を行わない状態で前記血液回路にて血液を体外循環させるとともに、前記動脈側血液濃度センサ及び静脈側血液濃度センサによりそれぞれ受光電圧を検出し、その検出されたそれぞれの受光電圧と対応するそれぞれの検量線に基づき血液濃度を得る第1工程と、前記除水手段による除水を行った状態で前記血液回路にて血液を体外循環させるとともに、前記静脈側血液濃度センサにより受光電圧を検出し、且つ、前記第1工程で前記静脈側濃度センサの検出により得られた血液濃度をパラメータとする演算により理論上の血液濃度を算出する第2工程と、前記第1工程にて得られた前記静脈側血液濃度センサの受光電圧及び血液濃度と、前記第2工程にて得られた前記静脈側血液濃度センサの受光電圧及び理論上の血液濃度とに基づき、当該静脈側血液濃度センサの受光電圧と血液濃度との関係を得るとともに、当該関係に基づいて前記静脈側血液濃度センサの検量線を校正する第3工程と、該第3工程により校正された静脈側血液濃度センサの検量線と校正前の静脈側血液濃度センサの検量線との関係に基づき、前記動脈側血液濃度センサの検量線を校正する第4工程とが行われることを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の血液浄化装置において、前記動脈側血液濃度センサ及び静脈側血液濃度センサは、血液濃度を示すヘマトクリット値を測定可能な動脈側ヘマトクリットセンサ及び静脈側ヘマトクリットセンサから成ることを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の血液浄化装置において、前記第2工程は、Ht
true=Qb/(Qb−Quf)×Ht
V0(但し、Ht
trueは理論上のヘマトクリット値、Qbは血液の体外循環流量、Qufは除水速度、Ht
V0は第1工程で得られたヘマトクリット値)なる演算式により前記演算が行われることを特徴とする。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3の何れか1つに記載の血液浄化装置において、前記第4工程は、校正された前記静脈側血液濃度センサの検量線の傾きと校正前の静脈側血液濃度センサの検量線の傾きとの比を求めるとともに、当該比に基づいて当該動脈側血液濃度センサの検量線を校正することを特徴とする。
【0015】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4の何れか1つに記載の血液浄化装置において、急激で且つ短時間の血液の濃縮又は希釈を行うことにより血液濃度の変化に特有のピークを付与し得るピーク付与手段を具備するとともに、前記動脈側血液濃度センサ及び静脈側血液濃度センサは、当該ピーク付与手段で付与された特有のピークを検出し得るものとされ、当該動脈側血液濃度センサ及び静脈側血液濃度センサで検出された特有のピークに基づき、前記静脈側血液回路から患者に戻された血液が再び前記動脈側血液回路に導かれて流れる再循環血液を検出可能とされたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
請求項
1の発明によれば、第1工程乃至第4工程を経て実際の患者の血液に基づいて検量線を校正することにより、少なくとも動脈側血液濃度センサ及び静脈側血液濃度センサの検量線の傾きを校正することができ、測定誤差を抑制することができる。
【0022】
請求項
2の発明によれば、動脈側血液濃度センサ及び静脈側血液濃度センサは、血液濃度を示すヘマトクリット値を測定可能な動脈側ヘマトクリットセンサ及び静脈側ヘマトクリットセンサから成るので、除水速度の目安となる循環血液量の変化率(ΔBV)を容易且つ精度よく求めることができる。
【0023】
請求項
3の発明によれば、第2工程は、Ht
true=Qb/(Qb−Quf)×Ht
V0(但し、Ht
trueは理論上のヘマトクリット値、Qbは血液の体外循環流量、Qufは除水速度、Ht
V0は第1工程で得られたヘマトクリット値)なる演算式により演算が行われるので、より精度よく検量線の校正を行わせることができる。
【0024】
請求項
4の発明によれば、第4工程は、校正された静脈側血液濃度センサの検量線の傾きと校正前の静脈側血液濃度センサの検量線の傾きとの比を求めるとともに、当該比に基づいて当該動脈側血液濃度センサの検量線を校正するので、より簡易な演算により動脈側血液濃度センサの検量線を校正することができる。
【0025】
請求項
5の発明によれば、動脈側血液濃度センサ及び静脈側血液濃度センサで検出された特有のピークに基づき、静脈側血液回路から患者に戻された血液が再び動脈側血液回路に導かれて流れる再循環血液を検出可能とされたので、動脈側血液濃度センサ及び静脈側血液濃度センサの検量線の校正に加え、再循環血液の検出も行わせることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係る血液浄化装置は、患者の血液を体外循環させつつ浄化するためのもので、透析治療で使用される透析装置に適用されたものである。かかる透析装置は、
図1に示すように、血液浄化器としてのダイアライザ2が接続された血液回路1、ダイアライザ2に透析液を供給しつつ除水する透析装置本体6から主に構成されている。血液回路1は、同図に示すように、可撓性チューブから成る動脈側血液回路1a及び静脈側血液回路1bから主に構成されており、これら動脈側血液回路1aと静脈側血液回路1bの間にダイアライザ2が接続されている。
【0028】
動脈側血液回路1aには、その先端に動脈側穿刺針aが接続されているとともに、途中にしごき型の血液ポンプ3及び動脈側ヘマトクリットセンサ5a(動脈側血液濃度センサ)が配設されている。一方、静脈側血液回路1bには、その先端に静脈側穿刺針bが接続されているとともに、途中に静脈側ヘマトクリットセンサ5b(静脈側血液濃度センサ)及び除泡用のエアトラップチャンバ4が接続されている。
【0029】
そして、動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bを患者に穿刺した状態で、血液ポンプ3を駆動させると、動脈側穿刺針aから採取された患者の血液は、動脈側血液回路1aを通ってダイアライザ2に至り、該ダイアライザ2によって血液浄化が施され、エアトラップチャンバ4で除泡がなされつつ静脈側血液回路1bを通り、静脈側穿刺針bを介して患者の体内に戻る。すなわち、患者の血液を血液回路1にて体外循環させつつダイアライザ2にて浄化するのである。
【0030】
ダイアライザ2は、その筐体部に、血液導入ポート2a、血液導出ポート2b、透析液導入ポート2c及び透析液導出ポート2dが形成されており、このうち血液導入ポート2aには動脈側血液回路1aの基端が、血液導出ポート2bには静脈側血液回路1bの基端がそれぞれ接続されている。また、透析液導入ポート2c及び透析液導出ポート2dは、透析装置本体6から延設された透析液導入ラインL1及び透析液排出ラインL2とそれぞれ接続されている。
【0031】
ダイアライザ2内には、複数の中空糸が収容されており、該中空糸内部が血液の流路とされるとともに、中空糸外周面と筐体部の内周面との間が透析液の流路とされている。中空糸には、その外周面と内周面とを貫通した微少な孔(ポア)が多数形成されて中空糸膜を形成しており、該膜を介して血液中の不純物等が透析液内に透過し得るよう構成されている。
【0032】
一方、透析装置本体6は、
図2に示すように、透析液導入ラインL1及び透析液排出ラインL2に跨って形成された複式ポンプPと、透析液排出ラインL2において複式ポンプPを迂回して接続されたバイパスラインL3と、該バイパスラインL3に接続された除水ポンプ8(ピーク付与手段)とから主に構成されている。そして、透析液導入ラインL1の一端がダイアライザ2(透析液導入ポート2c)に接続されるとともに、他端が所定濃度の透析液を調製する透析液供給装置7に接続されている。
【0033】
また、透析液排出ラインL2の一端は、ダイアライザ2(透析液導出ポート2d)に接続されるとともに、他端が図示しない廃液手段と接続されており、透析液供給装置7から供給された透析液が透析液導入ラインL1を通ってダイアライザ2に至った後、透析液排出ラインL2及びバイパスラインL3を通って廃液手段に送られるようになっている。なお、同図中符号9及び10は、透析液導入ラインL1に接続された加温器及び脱気手段を示している。
【0034】
除水ポンプ8(除水手段)(ピーク付与手段)は、ダイアライザ2中を流れる患者の血液から水分を除去して除水するためのものである。すなわち、かかる除水ポンプ8を駆動させると、透析液導入ラインL1から導入される透析液量よりも透析液排出ラインL2から排出される液体の容量が多くなり、その多い容量分だけ血液中から水分が除去されるのである。なお、かかる除水ポンプ8以外の手段(例えば所謂バランシングチャンバ等を利用するもの)にて患者の血液から水分を除去するようにしてもよい。
【0035】
一方、本実施形態に係る動脈側ヘマトクリットセンサ5aは、動脈側血液回路1aに取り付けられ、当該動脈側血液回路1aを流れる血液に対して反射した光を受光して得られる受光電圧に基づき血液濃度を測定し得るとともに、受光電圧と血液濃度(ヘマトクリット値)との関係から予め求められた検量線を有したものである。かかる検量線は、予め代表的な血液を用いて得られたもので、当該代表的な血液を測定して得られた受光電圧とヘマトクリット値との直線関係(
図5中符号β参照)から成る。
【0036】
また、本実施形態に係る静脈側ヘマトクリットセンサ5bは、静脈側血液回路1bに取り付けられ、当該静脈側血液回路1bを流れる血液に対して反射した光を受光して得られる受光電圧に基づき血液濃度を測定し得るとともに、受光電圧と血液濃度(ヘマトクリット値)との関係から予め求められた検量線を有したものである。かかる検量線は、予め代表的な血液を用いて得られたもので、当該代表的な血液を測定して得られた受光電圧とヘマトクリット値との直線関係(
図5中符号α参照)から成る。
【0037】
これら動脈側ヘマトクリットセンサ5a及び静脈側ヘマトクリットセンサ5bは、
図3、4に示すように、筐体部14と、一対の発光素子15及び受光素子16と、スリット17とから主に構成されている。筐体部14は、動脈側ヘマトクリットセンサ5a及び静脈側ヘマトクリットセンサ5bの本体を構成する樹脂成形品から成るもので、その表面における長手方向に溝14aが形成されている。この溝14aは、動脈側血液回路1a又は静脈側血液回路1bを構成する可撓性チューブCの一部を嵌合し得るものである。なお、図中符号19は、酸素飽和度等を測定するための発光素子(LED)を示している。
【0038】
スリット17は、溝14aの底面を切り欠いて形成されたもので、当該溝14aの延設方向に所定寸法に亘って形成されている。また、筐体部14におけるスリット17より内部側には、発光素子15及び受光素子16を収容するための収容空間S(
図4参照)が形成されており、該収容空間Sと溝14aとがスリット17により連通されている。また、筐体部14には、その表面(溝14a及びスリット17が形成された面)を覆う蓋部Fが取り付けられており、当該蓋部Fにて筐体部14の表面を覆いつつ可撓性チューブCを嵌合した状態にてヘマトクリット値の測定が行われるようになっている。なお、筐体部14の所定部位には棒状の被係止部14bが形成されているとともに、蓋部Fには、当該被係止部14bと係止し得る爪状の係止部Faが形成されており、筐体部14を覆った状態の蓋部Fを保持させ得るよう構成されている。
【0039】
発光素子15は、例えば近赤外線を照射し得るLED(近赤外線LED)から成り、受光素子16は、フォトダイオードから成るものである。これら発光素子15及び受光素子16は、1つの基板18上に所定寸法離間して形成されており、収容空間Sに組み込まれた際に、何れもスリット17から外部(即ち、溝14aに嵌合された可撓性チューブC)を臨み得るようになっている。
【0040】
また、基板18には、受光素子16からの信号を増幅するための増幅回路が形成されている。これにより、受光素子16が受光し、その照度に応じた電気信号を出力する際、増幅回路にて増幅することができる。そして、発光素子15から照射された光は、スリット17を介して溝14aに嵌合された可撓性チューブCに至り、その内部を流れる血液に反射して受光素子16で受光されるよう構成(所謂反射型センサの構成)されている。
【0041】
そして、受光素子16で生じた受光電圧に基づき、血液の濃度を示すヘマトクリット値を求める。すなわち、血液を構成する赤血球や血漿などの各成分は、それぞれ固有の吸光特性を持っており、この性質を利用してヘマトクリット値を測定するのに必要な赤血球を電子光学的に定量化することにより当該ヘマトクリット値を求めることができるのである。具体的には、発光素子15から照射された近赤外線は、血液に反射する際に、吸収と散乱の影響を受け、受光素子16にて受光される。その受光した光の強弱から光の吸収散乱率を解析し、ヘマトクリット値(血液濃度)を算出するのである。
【0042】
なお、本実施形態においては、動脈側ヘマトクリットセンサ5a及び静脈側ヘマトクリットセンサ5bが上記の如き所謂反射型センサにて構成されているが、発光素子15にて光を照射するとともに、血液に対して透過した光を受光素子16にて受光して得られる受光電圧に基づきヘマトクリット値(血液濃度)を測定し得るものとしてもよい。すなわち、動脈側ヘマトクリットセンサ5a及び静脈側ヘマトクリットセンサ5bは、動脈側血液回路1a又は静脈側血液回路1bを流れる血液に対して透過又は反射した光を受光して得られる受光電圧に基づきヘマトクリット値(血液濃度)を測定し得るもの(所謂光学式センサ)であれば足りるのである。
【0043】
ここで、本実施形態に係る動脈側ヘマトクリットセンサ5a及び静脈側ヘマトクリットセンサ5bは、透析装置本体6内の制御手段11とそれぞれ電気的に接続されている。この制御手段11は、例えばマイコン等から成るもので、動脈側ヘマトクリットセンサ5a(動脈側血液濃度センサ)及び静脈側ヘマトクリットセンサ5b(静脈側血液濃度センサ)の検量線を校正する校正手段12と、静脈側血液回路1bから患者に戻された血液が再び動脈側血液回路1aに導かれて流れる再循環血液を検出する再循環血液検出手段13とが形成されている。
【0044】
校正手段12は、第1工程、第2工程、第3工程及び第4工程を順次行うことで、静脈側ヘマトクリットセンサ5bの検量線αを構成して検量線α’(
図8参照)を得るとともに、動脈側ヘマトクリットセンサ5aの検量線βを校正して検量線β’(
図8参照)を得るためのものである。第1工程は、除水ポンプ8による除水を行わない状態で血液ポンプ3を駆動させて血液回路1にて血液を体外循環させるとともに、動脈側ヘマトクリットセンサ5a及び静脈側ヘマトクリットセンサ5bによりそれぞれ受光電圧を検出し、その検出されたそれぞれの受光電圧と対応するそれぞれの検量線に基づき血液濃度を得る工程である。
【0045】
この第1工程においては、除水ポンプ8(除水手段)が停止した状態とされており、除水速度は0とされている。一方、第1工程において、複式ポンプPは動作していてもよいが、精度向上のためには停止しているのが好ましい。なお、説明上、
図5に示すように、動脈側ヘマトクリットセンサ5aにおける校正前の検量線を符号βの直線(傾きa
a0)で示し、静脈側ヘマトクリットセンサ5bにおける校正前の検量線を符号αの直線(傾a
v0)きで示している。
【0046】
そして、第1工程において、
図6に示すように、動脈側ヘマトクリットセンサ5aで得られた受光電圧をV
A0、検量線βにより換算されたヘマトクリット値をHt
A0とするとともに、静脈側ヘマトクリットセンサ5bで得られた受光電圧をV
V0、検量線αにより換算されたヘマトクリット値をHt
V0とする。なお、第1工程においては、血液に対する除水等が行われていないことから、ヘマトクリット値Ht
A0とヘマトクリット値Ht
V0とは同一である筈であるが、誤差により異なっていてもよい。)
【0047】
第1工程が終了すると、第2工程が行われる。かかる第2工程は、除水ポンプ8(除水手段)による除水を行った状態で血液ポンプ3を駆動させて血液回路1にて血液を体外循環させるとともに、静脈側ヘマトクリットセンサ5bにより受光電圧V
V1を検出し、且つ、第1工程で静脈側ヘマトクリットセンサ5bの検出により得られたヘマトクリット値V
V0をパラメータとする演算により理論上のヘマトクリット値Ht
trueを算出する工程である。なお、第2工程においては、複式ポンプPは動作していてもよいが、精度向上のためには停止しているのが好ましい。
【0048】
すなわち、第2工程においては、患者の血液がダイアライザ2にて除水されつつ体外循環するため、当該ダイアライザ2を通過する過程で血液が濃縮されることことから、ダイアライザ2より上流側に位置する動脈側ヘマトクリットセンサ5aにより測定されるヘマトクリット値は変化することがない。一方、ダイアライザ2より下流側に位置する静脈側ヘマトクリットセンサ5bには、除水速度分だけ濃縮された血液が至るので、当該静脈側ヘマトクリットセンサ5bにて得られる受光電圧はV
V0からV
V1に変化することとなる。
【0049】
したがって、第2工程における演算は、Ht
true=Qb/(Qb−Quf)×Ht
V0(但し、Ht
trueは理論上のヘマトクリット値、Qbは血液の体外循環流量、Qufは除水速度、Ht
V0は第1工程で得られたヘマトクリット値)なる演算式により行われる。なお、このようにして得られた理論上のヘマトクリット値Ht
trueを検量線α、βが表示されたグラフ上にプロットすると、
図7の如きとなる。
【0050】
第2工程が終了すると、第3工程が行われる。かかる第3工程は、第1工程にて得られた静脈側ヘマトクリットセンサ5bの受光電圧V
V0及びヘマトクリット値Ht
V0と、第2工程にて得られた静脈側ヘマトクリットセンサ5bの受光電圧V
V1及び理論上のヘマトクリット値Ht
trueとに基づき、当該静脈側ヘマトクリットセンサ5bの受光電圧と血液濃度との関係を得るとともに、当該関係に基づいて静脈側ヘマトクリットセンサ5bの検量線を校正する工程である。
【0051】
具体的には、かかる第3工程において得られる静脈側ヘマトクリットセンサ5bの受光電圧とヘマトクリット値との関係とは、
図8における直線α’に示すように、傾きa
Vtrue=(Ht
true−Ht
V0)/(V
V1−V
V0)の直線関係を指している。これにより、静脈側ヘマトクリットセンサ5bの検量線αを検量線α’に校正することができるのである。しかして、静脈側ヘマトクリットセンサ5bにおける校正前の検量線αと校正された検量線α’を得ることができる。
【0052】
第3工程が終了すると、第4工程が行われる。かかる第4工程は、第3工程により校正された静脈側ヘマトクリットセンサ5bの検量線α’と校正前の静脈側ヘマトクリットセンサ5bの検量線との関係に基づき、動脈側ヘマトクリットセンサ5aの検量線βを校正する工程である。具体的には、校正された静脈側ヘマトクリットセンサ5bの検量線α’の傾きa
Vtrue=(Ht
true−Ht
V0)/(V
V1−V
V0)と校正前の静脈側ヘマトクリットセンサ5bの検量線αの傾きa
v0との比を求めるとともに、当該比に基づいて当該動脈側ヘマトクリットセンサ5aの検量線βを校正して検量線β’(
図8参照)を得るものとされる。
【0053】
すなわち、動脈側ヘマトクリットセンサ5aにおいても静脈側ヘマトクリットセンサ5bの如き校正前の検量線αの傾きと校正後の検量線α’の傾きとの相違と同様の傾きの相違があると考えられるため、例えば静脈側ヘマトリックセンサ5bの校正前後の検量線(α、α’)の傾きの比を動脈側ヘマトクリットセンサ5aの検量線βに乗じる演算を行って補正することで、実液校正することができるのである。
【0054】
以上で動脈側ヘマトクリットセンサ5a及び静脈側ヘマトクリットセンサ5bの検量線の校正が終了することとなり、校正後の検量線α’、β’を用いて治療中のヘマトクリット値が検出されることとなる。そして、この検出されたヘマトクリット値を用いて、ΔBV(%)=(Ht
0/Ht
t−1)×100なる演算式(但し、Ht
0は治療初期のヘマトクリット値、Ht
tは測定時点におけるヘマトクリット値)によって循環血液量の変化率(ΔBV)を求めるものとされ、当該循環血液量の変化率(ΔBV)が除水速度の目安とされる。
【0055】
本実施形態によれば、第1工程乃至第4工程を経て実際の患者の血液に基づいて検量線α、βを校正することにより、少なくとも動脈側ヘマトクリットセンサ5a及び静脈側ヘマトクリットセンサ5bの検量線(α、β)の傾きを校正することができ、測定誤差を抑制することができる。また、動脈側血液濃度センサ及び静脈側血液濃度センサとして、血液濃度を示すヘマトクリット値を測定可能な動脈側ヘマトクリットセンサ5a及び静脈側ヘマトクリットセンサ5bを用いているので、除水速度の目安となる循環血液量の変化率(ΔBV)を容易且つ精度よく求めることができる。
【0056】
さらに、第2工程は、Ht
true=Qb/(Qb−Quf)×Ht
V0(但し、Ht
trueは理論上のヘマトクリット値、Qbは血液の体外循環流量、Qufは除水速度、Ht
V0は第1工程で得られたヘマトクリット値)なる演算式により演算が行われるので、より精度よく検量線の校正を行わせることができる。またさらに、第4工程は、校正された静脈側ヘマトクリットセンサ5bの検量線α’の傾きと校正前の静脈側ヘマトクリットセンサ5bの検量線αの傾きとの比を求めるとともに、当該比に基づいて当該動脈側ヘマトクリットセンサ5aの検量線βを校正するので、より簡易な演算により動脈側ヘマトクリットセンサ5aの検量線βを校正することができる。
【0057】
一方、本実施形態においては、急激で且つ短時間の血液の濃縮又は希釈を行うことにより血液濃度の変化に特有のピークを付与し得るピーク付与手段を具備するとともに、動脈側ヘマトクリットセンサ5a及び静脈側ヘマトクリットセンサ5bは、当該ピーク付与手段で付与された特有のピークを検出し得るものとされている。本実施形態に係るピーク付与手段は、除水ポンプ8により構成されており、当該除水ポンプ8は、透析治療に必要な除水を行う他、急激で且つ短時間の除水を行って血液の濃縮を行い得るようになっている。なお、ピーク付与手段は、除水ポンプ8に限らず、急激で且つ短時間の血液の濃縮又は希釈を行うことにより血液濃度の変化に特有のピークを付与し得るものであれば他の形態のものであってもよい。
【0058】
例えば、透析治療中に行われる一定速度の除水を一旦中止し(但し、体外循環は行われている)、測定したヘマトクリット値が安定したところで、除水ポンプ8を急激且つ短時間駆動して除水を行わせしめることにより、その間の血液濃度(ヘマトクリット値)の変化に特有のピークを付与し得るよう構成されているのである。ここで、本発明における「急激且つ短時間」とは、回路を経た後において付与したパルスが確認できる程度の大きさ及び時間のことをいい、「特有」とは、ポンプの変動や患者の体動による他の要因による変動パターンと区別できるものをいう。
【0059】
より具体的には、
図9に示すように、時間t1で一定速度の除水(通常の除水)を停止し、その後測定しているヘマトクリットの値が安定した時間t2になった際に除水ポンプ8を通常より高速で時間t3まで駆動させる。かかる時間t2からt3までは微小時間とされている。これにより、通常の除水に比べて、急激で且つ短時間の除水を行うことができ、例えば
図10で示すような、ヘマトクリット値において特有のピークを付与することができる。
【0060】
しかるに、動脈側ヘマトクリットセンサ5aは、動脈側血液回路1aに配設されているので、透析治療中における動脈側穿刺針aを介して患者から採取した血液のヘマトクリット値を検出するとともに、静脈側ヘマトクリットセンサ5bは、静脈側血液回路1bに配設されているので、ダイアライザ2にて浄化され、患者に戻される血液のヘマトクリット値を検出することとなる。すなわち、付与された特有のピークは、まず静脈側ヘマトクリットセンサ5bで検出(
図10参照)され、その後、その血液が再び動脈側血液回路1aに至って再循環があった場合、当該再循環血液に残存した特有のピークを動脈側ヘマトクリットセンサ5aが検出(
図11参照)し得るようになっている。
【0061】
本実施形態においては、動脈側ヘマトクリットセンサ5a及び静脈側ヘマトクリットセンサ5bが再循環血液検出手段13と電気的に接続されており、上記の如き静脈側ヘマトクリットセンサ5bにより特有のピークの付与があったか否かの確認を行うことができるとともに、動脈側ヘマトクリットセンサ5aによる再循環血液の有無の検出を行うことができるようになっている。
【0062】
さらに、再循環血液検出手段13は、動脈側ヘマトクリットセンサ5a及び静脈側ヘマトクリットセンサ5bで検出されたヘマトクリット値(特有のピーク)を比較し、動脈側血液回路1aを流れる血液中の再循環血液が占める割合を演算可能なものとされている。具体的には、血液再循環がある場合に、除水ポンプ8により特有のピークを付与してから、その血液が静脈側ヘマトクリットセンサ5bに至るまでの時間(
図10における時間t5)及び再循環して動脈側ヘマトクリットセンサ5aに至るまでの時間(
図11におけるt7)を予測しておき、除水ポンプ8による特有のピークの付与後、時間t5経過した際に静脈側ヘマトクリットセンサ5bによって検出されたヘマトクリット値と、時間t7経過した際に動脈側ヘマトクリットセンサ5aによって検出されたヘマトクリット値とを再循環血液検出手段13が比較する。
【0063】
このように、血液が静脈側ヘマトクリットセンサ5bに至るまでの時間t5、及び再循環して動脈側ヘマトクリットセンサ5aに至るまでの時間t7を予測することで、心肺再循環(浄化された血液が心臓や肺のみを通り、他の組織や臓器等を通らずに体外に引き出されてしまう現象)と、計測対象である再循環とを判別することができる。なお、かかる方法に代えて、動脈側ヘマトクリットセンサ5a及び静脈側ヘマトクリットセンサ5bで検出されるヘマトクリット値が所定の数値を超えたことを再循環血液検出手段13にて認識させ、当該数値を超えたヘマトクリット値同士を比較するようにしてもよい。
【0064】
そして、
図10及び
図11で示すような時間−ヘマトクリット値のグラフに基づき、動脈側ヘマトクリットセンサ5a及び静脈側ヘマトクリットセンサ5bのヘマトクリット値の変化を求め、上記の如き比較されるべき時間の部分(変化部分)の面積を積分法など数学的手法にて演算する。例えば、静脈側ヘマトクリットセンサ5bによる変化部分(
図10におけるt5からt6までの部分)の面積をSv、動脈側ヘマトクリットセンサ5aによる変化部分(
図11におけるt7からt8までの部分)の面積をSaとおくと、再循環血液の割合(再循環率)Rrecは、以下の如き演算式にて求められる。
【0066】
ここで、動脈側ヘマトクリットセンサ5aによる変化部分の時間(t7からt8までの時間間隔)は、特有のピークが付与された血液が静脈側ヘマトクリットセンサ5bから動脈側ヘマトクリットセンサ5aまで流れる過程において拡散することを考慮し、静脈側ヘマトクリットセンサ5bによる変化部分の時間(t5からt6までの時間間隔)より大きく設定されている。なお、血液再循環がない場合は、上記Saが0となるため、再循環血液の割合は0(%)となる。これにより、血液再循環の有無に加え、その割合をも医療従事者に認識させることができ、その後の処置(血液再循環を抑制すべく穿刺針を穿刺し直したり或いはシャントの形成をし直すなどの措置)の参考とすることができる。
【0067】
本実施形態によれば、急激で且つ短時間の血液の濃縮又は希釈を行うことにより血液濃度の変化に特有のピークを付与し得るとともに、動脈側ヘマトクリットセンサ5a及び静脈側ヘマトクリットセンサ5bは、当該特有のピークを検出し得るものとされ、当該動脈側ヘマトクリットセンサ5a及び静脈側ヘマトクリットセンサ5bで検出された特有のピークに基づき再循環血液を検出可能とされたので、動脈側ヘマトクリットセンサ5a及び静脈側ヘマトクリットセンサ5bの検量線の校正に加え、再循環血液の検出も行わせることができる。
【0068】
さらに、動脈側ヘマトクリットセンサ5aと静脈側ヘマトクリットセンサ5bとの2つを使用することにより、除水しない状態で両者の検出値を比較することができ、これらの校正を自動的に行うことができる。なお、動脈側ヘマトクリットセンサ5a及び静脈側ヘマトクリットセンサ5bがダイアライザ2の入口側と出口側とにそれぞれ配設されることから、ダイアライザ2の除水性能を監視することができる。
【0069】
ところで、上記実施形態においては、急激で且つ短時間の血液の濃縮又は希釈を行うことにより血液濃度の変化に特有のピークを付与し得るピーク付与手段が除水ポンプ8にて構成されているが、これに代えて、他の形態のピーク付与手段としてもよい。以下、他の実施形態について説明する。
【0070】
本発明の他の実施形態として適用される透析装置本体6は、例えば、
図12に示すように、透析液導入ラインL1及び透析液排出ラインL2に跨って形成された複式ポンプPと、バイパスラインL3と、該バイパスラインL3に接続された除水ポンプ8とを有するとともに、ダイアライザ2から複式ポンプPの排液側へ透析液を流動させる加圧ポンプ20と、気泡分離チャンバ21と、大気開放ラインL4と、電磁弁22とを有するものとされる。なお、先の実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付し、それらの詳細な説明を省略する。
【0071】
加圧ポンプ20は、透析液排出ラインL2におけるダイアライザ2と複式ポンプPとの間に接続され、当該ダイアライザ2から複式ポンプPへ透析液を流動させるためのものであり、遠心型のように非容積型ポンプ(圧力制御型)から成るものである。気泡分離チャンバ21は、所謂脱ガスチャンバと呼ばれるもので、透析液排出ラインL2における加圧ポンプ20と複式ポンプPとの間に接続された所定容量のものから成り、透析液中の気泡を捕捉し得るよう構成されたものである。この気泡分離チャンバ21からは、バイパスラインL3が延設されているとともに、大気開放ラインL4が延設されている。この大気開放ラインL4は、先端が大気開放とされており、その途中には電磁弁22が接続されている。
【0072】
電磁弁22は、大気開放ラインL4を開放又は閉止すべく開閉可能とされたもので、開放状態で気泡分離チャンバ21が外気と連通し、閉止状態で当該気泡分離チャンバ21が外気と遮断するようになっている。しかして、透析治療前又は透析治療後において、電磁弁22を操作して大気開放ラインL4を開放させれば、気泡分離チャンバ21内に捕捉された気泡を大気に放出させることができる。
【0073】
ここで、本実施形態における大気開放ラインL4と、電磁弁22とは、本発明のピーク付与手段を構成しており、当該電磁弁22を操作して大気開放ラインL4を開放させることにより、ダイアライザ2を流れる血液に対し急激で且つ短時間の濃縮を行って特有のピークを付与し得るようになっている。すなわち、透析治療中において、電磁弁22を操作して閉止状態の大気開放ラインL4を開放すると、加圧ポンプ20の出口圧が大気圧と略等しくなることから、加圧ポンプ20の上流側では瞬間的に高い陰圧が発生し、ダイアライザ2(血液の流路)を流れる血液に対して、急激で且つ短時間の除水(血液濃縮)が行われるのである。
【0074】
これにより、除水ポンプ8の駆動により発生する限外濾過圧よりも遙かに大きく、且つ短時間で血液に対して大量の除水を行うことができ、血液濃度(ヘマトクリット値)の変化に特有のピークを付与し得るようになっている。なお、電磁弁22による大気開放ラインL4の開放は、短時間(本実施形態においては、大気開放ラインL4の開放は、10秒以下の任意の時間を設定することができ、1秒でも十分な測定精度を有する)で行われ、すぐに電磁弁22を操作することにより大気開放ラインL4が閉止されることとなる。この電磁弁22による大気開放ラインL4の開放時間は、血液濃度情報(患者の血液濃度に関する情報)や圧力情報(静脈圧や透析液圧など)に基づき、自動的に最適となるよう制御されるのが好ましい。
【0075】
以上、本実施形態について説明したが、本発明は当該実施形態に限定されるものではなく、例えば再循環血液検出手段13を具備せず、再循環血液を検出しないものとしてもよい。また、動脈側ヘマトクリットセンサ5a及び静脈側ヘマトクリットセンサ5bに代えて、動脈側血液回路1a及び静脈側血液回路1bを流れる血液に対して透過又は反射した光を受光して得られる受光電圧に基づき血液濃度を測定し得るとともに、受光電圧と血液濃度との関係から予め求められた検量線を有した他の形態のセンサを用いるようにしてもよい。なお、本実施形態においては、透析装置本体6が透析液供給機構を内蔵しない透析監視装置から成るものであるが、透析液供給機構が内蔵された個人用透析装置に適用するようにしてもよい。