(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5736306
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】アンダーポテンシャル析出で媒介される薄膜の逐次積層成長
(51)【国際特許分類】
C25D 21/12 20060101AFI20150528BHJP
C25D 5/18 20060101ALI20150528BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20150528BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
C25D21/12 K
C25D5/18
H01M4/86 M
H01M4/88 K
H01M4/88 C
【請求項の数】52
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2011-516512(P2011-516512)
(86)(22)【出願日】2009年6月23日
(65)【公表番号】特表2011-526655(P2011-526655A)
(43)【公表日】2011年10月13日
(86)【国際出願番号】US2009048213
(87)【国際公開番号】WO2010005773
(87)【国際公開日】20100114
【審査請求日】2012年6月8日
(31)【優先権主張番号】61/074,784
(32)【優先日】2008年6月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510337665
【氏名又は名称】ブルックヘイヴン サイエンス アソシエイツ, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100101362
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 幸久
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ジア シュー
(72)【発明者】
【氏名】アドジック,ラドスラブ アール.
【審査官】
今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2007/073162(WO,A1)
【文献】
特開2004−204351(JP,A)
【文献】
特開2000−080495(JP,A)
【文献】
米国特許第04378406(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0234039(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 21/12
C25D 5/18
H01M 4/86
H01M 4/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に電着により膜を成膜する方法であって:
基材を、所定濃度の媒介成分のイオンと所定濃度の成膜材料のイオンとを含有する電解液に浸漬する工程と;
順方向電位走査を、前記媒介成分のバルク析出電位よりも高い第1の電位において開始する工程と;
前記基材に印加する電位を、正方向に第1の走査速度で走査する工程と;
前記正方向走査を、前記媒介成分が除去されると共に前記成膜材料が残留する第2の電位で停止する工程と;
前記基材に印加する電位を、負方向で第2の走査速度で走査する工程と;
前記負方向走査を、前記第1の電位で停止する工程と;
前記正方向及び負方向の走査を、前記第1の電位と第2の電位の間で反復する工程、
を包含し、
前記電位走査を、前記媒介成分を完全に脱離させるために十分に正の電位で停止する、
方法。
【請求項2】
前記基材を電解液に浸漬する工程の前に、前記基材上に一層までの前記媒介成分の単層を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1及び第2の走査速度が経時的に一定である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
第1の走査速度が第2の走査速度に等しい、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記基材がナノ粒子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ナノ粒子がコア−シェルナノ粒子である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記コアが非貴金属を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ナノ粒子が貴金属を含む、請求項5、6、又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記媒介成分が金属を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記媒介成分が、Cu、Pb、Tl、及びBiよりなる群から選ばれる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記成膜材料が貴金属である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記成膜材料がPtである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記膜の厚さが、準単層から多層の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の電位と第2の電位の間の正方向及び負方向の走査を所定回数反復する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
基材上に電着によりPt膜を成膜する方法であって:
基材を、所定濃度のCuカチオン及び所定濃度のPtカチオンを含有する電解液に浸漬する工程と;
順方向電位走査を、Cuのバルク析出電位よりも高い第1の電位において開始する工程と;
前記基材に印加する電位を、正方向で第1の走査速度で走査する工程と;
前記正方向走査を、Ptのバルク析出電位よりも低い第2の電位で停止する工程と;
前記基材に印加する電位を、負方向で第2の走査速度で走査する工程と;
前記負方向走査を、前記第1の電位で停止する工程と;
前記正方向及び負方向走査を、前記第1の電位と第2の電位の間で反復する工程とを包含し、
前記電位走査を、Cuを完全に脱離させるために十分に正の電位で停止する、
方法。
【請求項16】
前記基材を電解液に浸漬する工程の前に、前記基材上に一層までのCu単層を形成する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記基材がナノ粒子を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記ナノ粒子がコア−シェルナノ粒子である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記コアが非貴金属を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ナノ粒子が貴金属を含む、請求項17、18、又は19に記載の方法。
【請求項21】
前記Pt膜の厚さが準単層から多層の範囲である、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
前記第1の電位と第2の電位の間の正方向及び負方向の走査を所定回数反復する、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
電極を備えたエネルギー変換装置であって、前記電極が、Pt膜がその表面に形成されたナノ粒子を有し、前記Pt膜が、下記の工程:
前記ナノ粒子から構成される基材を、所定濃度の媒介成分のイオン及び所定濃度のPtカチオンを含む電解液に浸漬する工程と;
順方向電位走査を、前記媒介成分のバルク析出電位よりも高い第1の電位で開始する工程と;
前記ナノ粒子から構成される基材に印加する電位を、正方向に第1の走査速度で走査する工程と;
前記正方向走査を、前記媒介成分が除去され且つPtが残留する第2の電位で停止する工程と;
前記基材に印加する電位を、負方向に第2の走査速度で走査する工程と;
前記負方向走査を、前記第1の電位で停止する工程と;
前記正方向及び負方向の走査を、前記第1の電位と第2の電位の間で反復する工程
を包含する電着法により形成されているエネルギー変換装置であって、
前記電位走査を、前記媒介成分を完全に脱離させるために十分に正の電位で停止する、
エネルギー変換装置。
【請求項24】
前記基材を電解液に浸漬する工程の前に、前記基材上に一層までの前記媒介成分の単層を形成する、請求項23に記載のエネルギー変換装置。
【請求項25】
前記媒介成分が、Cu、Pb、Tl、及びBiからなる群より選ばれる請求項23に記載のエネルギー変換装置。
【請求項26】
前記第1の電位と第2の電位の間の正方向及び負方向の走査を、所定回数反復する請求項23に記載のエネルギー変換装置。
【請求項27】
基材上に電着により膜を形成する方法であって:
前記基材を、所定濃度の媒介成分のイオンと所定濃度の成膜材料のイオンとを含有する電解液に浸漬する工程と;
逆方向電位走査を、前記成膜材料のバルク析出電位よりも低い第1の電位で開始する工程と;
前記基材に印加する電位を、負方向に第1の走査速度で走査する工程と;
前記負方向走査を、前記媒介成分のバルク析出電位よりも高い第2の電位で停止する工程と;
前記基材に印加する電位を、正方向に第2の走査速度で走査する工程と;
前記正方向走査を、前記第1の電位で停止する工程と;
前記負方向及び正方向の走査を、前記第1の電位と第2の電位の間で反復する工程とを包含し、
前記電位走査を、前記媒介成分を完全に脱離させるために十分に正の電位で停止する、
方法。
【請求項28】
前記基材を電解液に浸漬する工程の前に、前記基材上に一層までの前記媒介成分の単層を形成する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記第1の走査速度及び第2の走査速度が経時的に一定である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
第1の走査速度が第2の走査速度に等しい、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記基材がナノ粒子を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
前記ナノ粒子がコア−シェルナノ粒子である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記コアが、非貴金属を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記ナノ粒子が、貴金属を含む、請求項31、32、又は33に記載の方法。
【請求項35】
前記媒介成分が金属を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項36】
前記媒介成分が、Cu、Pb、Tl、及びBiからなる群より選ばれる、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記成膜材料が貴金属である請求項27に記載の方法。
【請求項38】
前記成膜材料がPtである請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記膜の厚さが準単層から多層までである、請求項27に記載の方法。
【請求項40】
前記第1の電位と第2の電位の間の正方向及び負方向の走査を所定回数反復する、請求項27に記載の方法。
【請求項41】
基材上に電着によりPt膜を形成する方法であって:
前記基材を、所定濃度のCuカチオンと所定濃度のPtカチオンとを含有する電解液に浸漬する工程と;
負方向電位走査を、Ptのバルク析出電位よりも低い第1の電位で開始する工程と;
前記基材に印加する電位を、負方向に第1の走査速度で走査する工程と;
前記負方向走査を、Cuのバルク析出電位よりも高い第2の電位で停止する工程と;
前記基材に印加する電位を、正方向に第2の走査速度で走査する工程と;
前記正方向走査を、前記第1の電位で停止する工程と;
前記負方向及び正方向の走査を、前記第1の電位と第2の電位の間で反復する工程とを包含し、
前記電位走査を、Cuを完全に脱離させるために十分に正の電位で停止する、
方法。
【請求項42】
前記基材を電解液に浸漬する工程の前に、前記基材上に一層までのCuの単層を形成する、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記基材がナノ粒子を含む、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
前記ナノ粒子が、コア−シェルナノ粒子である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記コアが非貴金属を含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記ナノ粒子が貴金属を含む、請求項43、44、又は45に記載の方法。
【請求項47】
前記Pt膜の厚さが準単層から多層の範囲である、請求項41に記載の方法。
【請求項48】
前記第1の電位と第2の電位の間の負方向及び正方向の走査を、所定回数反復する請求項41に記載の方法。
【請求項49】
電極を含むエネルギー変換装置であって、前記電極が、Pt膜がその表面に形成されたナノ粒子を有し、前記Pt膜が、下記の工程:
前記ナノ粒子から構成される基材を、所定濃度の媒介成分のイオン及び所定濃度のPtカチオンを含有する電解液に浸漬する工程と;
負方向電位走査を、Ptのバルク析出電位よりも低い第1の電位において開始する工程と;
前記ナノ粒子から構成される基材に印加する電位を、負方向で第1の走査速度で走査する工程と;
前記負方向走査を、前記媒介成分のバルク析出電位よりも高い第2の電位で停止する工程と;
前記基材に印加する電位を、正方向で第2の走査速度で走査する工程と;
前記正方向走査を、前記第1の電位で停止する工程と;
前記負方向及び正方向の走査を、前記第1の電位と第2の電位の間で反復する工程
を包含する電着法により形成されたエネルギー変換装置であって、
前記電位走査を、前記媒介成分を完全に脱離させるために十分に正の電位で停止する、
エネルギー変換装置。
【請求項50】
前記基材を電解液に浸漬する工程の前に、前記基材上に一層までの前記媒介成分の単層を形成する、請求項49に記載のエネルギー変換装置。
【請求項51】
前記媒介成分が、Cu、Pb、Tl、及びBiからなる群より選択される、請求項49に記載のエネルギー変換装置。
【請求項52】
前記第1の電位と第2の電位の間の正方向及び負方向の走査を、所定回数反復する、請求項49に記載のエネルギー変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本願は、2008年6月23日に出願され、あたかも本明細書に完全に示されているように参照により援用される、米国仮特許出願第61/074,784号の優先権を主張する。
【0002】
政府の実施権の表明
本発明は、米国エネルギー省化学・材料科学部門から授与された補助金番号DE−AC02−98CH10886の下の政府の支援でなされた。米国政府は本発明に対し一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
I.発明の分野
本発明は、一般的には、極薄膜の成膜(deposition)の制御に関する。特に、本発明は、均一且つコンフォーマルな膜の原子レベルでの制御を用いる逐次積層(layer−by−layer)成長に関する。本発明はまた、コア粒子上での極薄シェルの形成並びにエネルギー変換装置におけるそのようなコア−シェル粒子の組み込みに関する。
【0004】
II.関連技術の背景
白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、及び関連する合金などの金属は、優れた触媒であることが知られている。燃料電池などの電気化学デバイスの電極に組み込まれたときに、これらの物質は電極表面において電気化学反応を加速するが、それら自体は全体の反応によって消費されないので、これらの物質は電極触媒として機能する。貴金属類は最良の電極触媒の一部であることが示されてきたが、市販のエネルギー変換装置にこれらを実装することの成功は、貴金属類のコストの高さにより、そしてこれと組み合わせた一酸化炭素(CO)被毒への感受性、繰返し使用下での安定性が乏しいこと、および酸素還元反応(ORR)の比較的遅い反応速度などの他の要因によって妨げられている。
【0005】
これらの問題に対処するための試みにおいて、様々なアプローチが利用されている。1つのアプローチは、ナノメートルスケールの寸法の金属粒子を形成することによって、反応のために利用可能な全表面積を増加させることを含む。さらに、Ptと安価な成分から構成される合金からナノ粒子を形成することによって、Ptなどのより高価な貴金属類の負荷量は更に低減されている。なお更なる改良は、コア粒子が、電極触媒として機能する異種物質の薄いシェルで被覆されたコア−シェルナノ粒子を形成することによって達成されている。このコアは、通常、製造が容易である安価な材料であるのに対して、このシェルはより触媒活性の高い貴金属を含む。1つの例は、Adzicらの米国特許第6,670,301号によって提供され、これは、炭素(C)基材によって担持された分散Ruナノ粒子上に、Pt薄膜を成膜するためのプロセスを開示している。別の例は、Adzicらの米国特許出願公開第2006/0135359号であり、これは、白金及び白金合金で被覆された、パラジウム及びパラジウム合金ナノ粒子を開示している。前述の各出願は、あたかも完全に本明細書中に示されるかのように、参照により援用される。これらのアプローチは、触媒活性がより高く、貴金属の負荷量がより少ない触媒を製造してきたが、電気化学エネルギー変換装置が、化石燃料ベースの従来の装置にとって替わる費用効率の高い代替品になるためには、なお更なる改良が必要である。
【0006】
ピーク活性レベルのコア−シェル粒子の実用的な合成は、シェル形成に対して原子レベルでの制御を提供する、費用効率の高いプロセスの開発を必要とする。このようなプロセスは、数ナノメートルまで微小なサイズを有する多数の三次元粒子上に、所望の材料の均一的且つコンフォーマルな原子層皮膜を形成できる必要がある。様々な金属の粒子上にPtの単層を成膜する1つの方法には、アンダーポテンシャル析出(UPD)による銅(Cu)などの金属の単原子層の初期の成膜が含まれる。この次に、例えば、Adzicらの米国特許出願公開第2007/0264189号に開示されるように、Ptなどのより貴な金属による下層のCu原子のガルバニ置換を行う。別の方法としては、例えば、Wangらの米国特許第7,507,495号に開示されるような、水素吸着によって誘導される、貴金属粒子上での金属原子の単層の成膜が挙げられる。前述の両方の文献は、あたかも本明細書中に完全に示されるかのように参照により援用される
【0007】
上記の両方の方法は、より貴な金属による吸着された原子のガルバニ置換を含むので、このように成膜された金属膜は、単一の単層に限られる。結果的に、単層一層よりも厚い層厚のシェルを形成することは実行可能ではない。この限界を克服するための試みにおいて開発された最近のアプローチは、より卑なコア上での貴金属イオンの拡散制御された水素還元を含む。このアプローチは、例えば、Y.Wangらにより、「Preparation Of Pd-Pt Bimetallic Colloids With Controllable Core/Shell Structures」、J.Phys.Chem.B,101,5301頁(1997年)に開示されており、この文献は、あたかも本明細書中に完全に示されるかのように、参照により援用される。しかし、この方法は、成膜された材料の触媒活性を厳しく阻害する有機溶媒の使用を含む。別の問題は、溶媒自体の残留物が、合成後に除去するのが困難であることである。
【発明の概要】
【0008】
上記及び他の検討課題を認識した上で、本発明者らは、均一且つコンフォーマルな極薄膜の三次元粒子上での成膜に対して、原子レベルでの制御を提供する、簡便かつ費用効率の高いプロセスを開発する必要があると決定した。上記の問題点、必要性、及び目標に鑑みて、本発明のある実施形態は、複数の粒子での均一且つ極薄の金属膜の成膜に対し、原子レベル制御を可能にする方法を提供することである。この方法は、準単層から多層までの範囲の厚さの被覆を有する膜の逐次積層成膜制御を可能にするだけでなく、ナノスケール範囲に到るサイズを有する三次元粒子の表面上での膜の均一性に対して原子レベルでの制御を可能にする。
【0009】
1つの実施形態において、これは、オーバーポテンシャル析出(overpotential deposition)(OPD)による極薄膜の成膜(deposition)を媒介するために、アンダーポテンシャル析出(underpotential deposition)(UPD)により成膜された物質の使用を含む方法によって達成される。この媒介成分のバルク析出電位(bulk deposition potential)と前記極薄膜のバルク析出電位との間の電位サイクルは、媒介成分の脱離及び成膜される材料の吸着の反復サイクルを生じる。この媒介成分は、先の層の完了前に後続の層上の成膜を阻害することによって膜成長を制御する。これにより、逐次積層に基づいて膜成長が起こり、原子レベルで滑らかな膜を所望の厚みで製造できる。特に好ましい実施形態において、上記UPD媒介成分はCuであり、OPDで成膜される材料はPtである。上記プロセスは、シェルの厚さが精密に調整されたコア−シェル粒子の形成のために特に有利である。
【0010】
別の実施形態において、上記膜成長方法は、好ましくはナノ粒子である複数の粒子上に極薄膜を成膜するために使用される。さらに別の実施形態において、上記粒子は、標的とされる厚さを有する貴金属の連続吸着層で被覆された遷移金属のコアを含むコア−シェル粒子である。上記コアは、好ましくは、球状又は楕円球状の形状であり、三直交方向の少なくとも一方向に沿った寸法が2〜100nmであり、即ち、ナノ粒子である。しかし、上記コアは、組成、サイズ、及び形状に関してはさほど限定されず、当該技術分野で周知であるような複数の形状及びサイズのいずれかを含んでもよい。これらには、球状、角錐状、棒状、立方体、管状、立方八面体などである粒子が挙げられるがこれらに限定されない。
【0011】
1つの実施形態において、上記方法は、所定濃度の媒介成分のイオン及び膜として成膜される材料の所定濃度のイオンを含有する電解液に上記ナノ粒子を浸漬する工程を包含する。好ましくは、成膜材料の濃度は、媒介成分の濃度よりも著しく低い。この実施形態において、媒介成分のバルク析出電位に対して正である第1の電位において成長が開始する。上記第1の電位は、好ましくは、媒介成分の単層のUPDによる形成するもののための電位よりも低いが、そのように限定されるわけではない。次いで、印加電位を正方向に第1の走査(sweep)速度で走査し、このことは、媒介成分の脱離、及び所望の材料の付随する成膜をもたらす。
【0012】
上記走査は、成膜される材料のバルク成膜電位よりも低い第2の電位において停止し、逆方向に第2の走査速度で走査を行う。上記第2の電位は、好ましくは、媒介成分がほぼ完全に除去される一方、成膜材料が残存する点である。上記逆方向走査は媒介成分の吸着を生じ、それにより、下位層の成膜が完了する前の所望の材料の成膜を妨害する。換言すれば、OPDによる膜成長は、媒介成分のUPDによって媒介される。所定の下限電位と上限電位との間で連続サイクルで印加電位を走査することによって、厚さに対して原子レベルの制御を伴う極薄膜の成膜が達成できる。成膜速度は、電位サイクル範囲と全体の走査速度の適切な選択を通して変動されてもよい。好ましい実施形態において、上記第1及び第2の走査速度は等しく、この走査速度は経時的に一定である。なお別の好ましい実施形態において、上記電位サイクルは、媒介成分を完全に除去するために十分に正である電位で停止される。
【0013】
なお別の実施形態において、上記方法は、上記電位走査の開始前に、粒子の表面上に、単層一層までの厚さである媒介成分の連続吸着層を最初に形成する工程を包含する。上記媒介成分の初期層は、好ましくは、UPDにより成膜されるが、他の膜成長技術が使用されてもよい。
【0014】
これらの実施形態において、初期電位走査は正方向であるが、これは、下限電位から正方向、または上限電位から負方向のいずれかで進行できる。負方向電位走査の間、媒介成分及び成膜材料とが基材上に共成膜するが、前者の方が優勢である。なぜなら、溶液中の媒介成分の方が有意により高濃度であるからである。このことは、成膜材料の三次元クラスターが形成される可能性を低くする。正方向電位走査では、媒介成分の原子が表面から脱離する。次いで、成膜される材料の個々の原子または小さな二次元クラスターは、高配位部位(highly coordinated sites)に拡散することが可能である。このような様式で、表層の空の部位は、後続の層が成膜される前に満たされる。
【0015】
好ましい実施形態において、上記シェルは遷移金属コア上に成膜されたPtの単層である。しかし、上記金属被覆層はPtに限定されず、複数の金属のいずれかを含んでもよく、ここで、表面Pt層は、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、レニウム(Re)、ロジウム(Rh)、Ru、及び/又はPdを含んでもよいがこれらに限定されない1種以上の遷移金属と合金を形成している。同様に、上記コアもまた、複数の遷移金属のいずれかを含有していてもよく、この遷移金属には、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、Ir、Pt、Os、Re、Rh、Au、又はRuが単独で又は合金としてのいずれかで含まれる。上記金属シェルは、金属又は合金の単一の単層に限定されないが、これはまた、金属又は合金の準単層又は多層から構成されてもよい。準単層は、不完全な表面被覆によって得られてもよいのに対して、多層は、反復電位サイクルによって得られてもよい。反復サイクルはまた、金属被覆層による下地基材の完全な被覆を確実にするためにも好ましい。上記媒介成分は、好ましくは、Cu、鉛(Pb)、タリウム(Tl)、又はビスマス(Bi)のいずれかであり、これらは、所定濃度のCu
2+、Pb
2+、Tl
1+、又はBi
3+として電解液中に存在する。
【0016】
膜成長の原子レベルでの制御の達成は、同時に、利用可能な触媒的に活性な表面積を最大にしながら、貴金属の負荷量の軽減を可能にする。UPD媒介逐次積層成長を使用して形成された極薄膜を有する粒子は、燃料電池や金属空気電池において、および腐食プロセスの間に、より効率的且つ費用効率の高い電気化学エネルギー変換を容易にする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、基本的な三電極式電気化学セルを示す。
【
図2】
図2Aは、カーボンに担持されたPt及びPd粒子上でのCuのアンダーポテンシャル析出のボルタンメトリー曲線を示す。
図2Bは、1、20、50、及び80サイクル後における、カーボン担持Pd及びPt粒子上でアンダーポテンシャル析出媒介されたPtの逐次積層成長後のボルタンメトリー特性の変化を図示する。
【
図3】
図3は、80、160、及び240サイクルにわたる、カーボン担持Pd粒子上でのPtの成膜後のボルタンメトリー特性の変化を示す。
【
図4】
図4は、カーボン担持Pd粒子上でのPtの単層の1層、2層、及び3層成膜後における酸化還元反応の活性レベルを示す。
【
図5】
図5は、アンダーポテンシャル析出媒介された逐次積層成長の間に行われる工程の順序を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
明瞭化の利益のために、本発明を説明するにあたり、以下の用語及び頭文字語は以下に提供されるように定義される:
頭文字語:
ALD:原子層堆積(Atomic Layer Deposition)
CVD:化学蒸着(Chemical Vapor Deposition)
ICP:誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma)
MBE:分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy)
NHE:標準水素電極(Normal Hydrogen Electrode)
OPD:オーバーポテンシャル析出(Overpotensial Deposition)
ORR:酸化還元反応(Oxidation Reduction Reaction)
PLD:パルスレーザー堆積(Pulsed Laser Deposition)
TEM:透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy)
UPD:アンダーポテンシャル析出(Underpotential Deposition)
定義:
吸着原子:下地基材の表面に位置する原子。
吸着層:基材の表面に吸着された原子の層。
二重層:二層の単層であって、一方の層が他方の層の上端に直接積層している層。
触媒作用:それ自体は反応によって消費されない物質(触媒)が、化学反応の反応速度を速めるプロセス。
電極触媒作用:それ自体は反応によって消費されない物質(電極触媒)が、電極表面での半電池反応を触媒するプロセス。
電着:電気メッキの別称。
電気メッキ:溶液からの所望の材料のカチオンを還元して、導電性基材を上記材料の薄膜で被覆するために電流を使用するプロセス。
単層:全ての利用可能な表面部位を占め、それゆえに、上記基材の露出した表面全体を被覆する、原子又は分子の単一の層。
多層:上記表面上の1層よりも多い原子又は分子の層であって、各層はそれぞれ直前の層の上端に逐次積層されて形成されている層。
ナノ粒子:ナノスケール寸法(即ち、1〜100nm)を有する任意の製造された構造又は粒子。
ナノ構造:ナノスケール寸法を有する任意の製造された構造。
貴金属:極めて安定であり且つ不活性な金属類であって、腐食又は酸化に対して耐性がある金属類。これらの貴金属類には、一般的に、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、及び金(Au)が含まれる。貴金属類は、不動態化層として頻繁に使用される。
非貴金属:貴金属ではない遷移金属。
オーバーポテンシャル析出:ある金属の還元のための平衡又はネルンスト電位に対して負の電位における1つの種の電着を含む現象。
レドックス反応:原子が酸化数の変化を受ける化学反応。これは、典型的には、1つの実体による電子の喪失、並びにそれに付随する、別の実体による電子の獲得を含む。
耐熱金属:並外れた耐熱性及び耐摩耗性を有するが、通常は耐酸化性及び耐食性が乏しい金属のクラス。これらには、通常、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、及びレニウム(Re)が含まれる。
準単層:表面の原子又は分子による被覆であって、単層には満たないもの。
遷移金属:周期表のd-ブロックにおける任意の元素であって、3族〜12族の元素が含まれる。
アンダーポテンシャル析出:ある金属の還元のための平衡又はネルンスト電位に対して正の電位における1つの種の電着を含む現象。
【0019】
本発明は、UPD電位サイクルを利用することにより、逐次積層ベースで、基材上への材料の薄い連続層の成膜が制御でき、基材上での極薄膜の拡散制御OPDの間に層間拡散速度を速めるという発見に基づく。説明のための例としてPd粒子を使用すると、CuのUPDは、Pd表面上でのPt原子のOPDを媒介するために使用されてもよい。1つの実施形態において、析出は、Cuの単層がPd表面を被覆する、バルクCu析出のために必要とされる、近傍の電位で開始する。このCu単層は、正方向電位走査中に部分的にはがれるので、Ptは拡散が制限された条件下で析出する。電位走査を逆転して負方向に進めると、析出したPt原子上でCu原子のUPDが起こり、それによって、第1の層の成膜が完成前に、2層目及びそれ以降のPt原子の原子層の核形成及び成長を妨げる。
【0020】
他の実施形態において、成長は、バルクPt析出電位よりも卑な電位で開始する。この場合、初期電位走査は負方向であり、バルクCu析出のために必要とされるものに対して正の電位でこの電位走査は逆転される。この初期負方向走査の間、CuとPtの両方がPd表面に共析出する。UPD析出/脱離の間のCuの役割は、Pt成膜速度を遅延させること、及びPt層間拡散速度を速めることである。結果として、各電位サイクルの間に加えられるPt原子は、よりエネルギー的に好ましい部位に移動することができ、それによって、Ptの逐次積層成長が可能となる。さらに、各電位サイクルの間の電流応答の観察は、Pt成膜プロセスのその場での(in situ)モニターとして役立つ。
【0021】
上記のようなCuに媒介されるPd基材上へのPtの成膜は、本発明の技術思想及び範囲を実証する具体例として本明細書を通して使用されているが、この材料系は、使用されてもよい適切な材料の多くの可能な組み合わせの単なる事例に過ぎないことが理解されるべきである。薄膜被覆層又はシェルの逐次積層成長を達成することが可能である任意の適切な代替的な材料系(例えば、基材、膜、および媒介成分の組み合わせ)が使用されてもよい。この材料系には、全ての金属類、並びに半導体類及びこれらの混合物又は合金が含まれる。
I.粒子合成
【0022】
最初に、適切な金属又は金属合金の粒子が、当該技術分野で周知である任意の技術を使用して調製される。しかし、本発明は、金属粒子への成膜に限定されず、半導体を含む、当該技術分野で周知である他の材料を含んでもよいことが理解される。更に、本明細書を通して記載されるように、基材は粒子に限定されるものではなく、当該技術分野で周知であるような任意の適切な基材を含んでもよい。所望の材料の薄膜が成膜されるのはこれらの粒子上である。これらの粒子は、全体として単一の成分または材料から構成されてもよく、または別の実施形態において、合金粒子であってもよい。合金粒子は、2種以上の元素金属の完全固溶体から形成される粒子として定義される。合金粒子は、好ましくは、遷移金属との合金である少なくとも1種の貴金属を含む。別の実施形態では、上記粒子はコア−シェル粒子であってもよい。好ましくは、上記コアが非貴金属遷移金属を含むのに対して、上記シェルは貴金属である。
【0023】
上記粒子は、好ましくは、球状又は楕円球状の形状であり、三直交方向の少なくとも一方向に沿ったサイズが2〜100nmの範囲であり、従って、ナノメートルスケール粒子又はナノ粒子である。しかし、上記粒子は、当該技術分野で周知であるような任意の形状、サイズ、及び構造をとってもよいことが理解されるべきである。これらには、分枝状、円錐状、角錐状、立方体状、円筒状、網状、繊維状、立方八面体、及び管状のナノ粒子が含まれるがこれらに限定されない。このサイズはナノメートル範囲に限定されるものではなく、マイクロメートルおよびミリメートルの範囲まで拡張されてもよいことがさらに理解される。このナノ粒子は、凝集または分散していてもよく、規則正しい配列を形成していてもよく、相互接続された網状構造体に加工されていてもよく、支持媒体上に形成されるかもしくは溶液中に懸濁されるかのいずれかであってもよく、そして均一または不均一なサイズ分布を有していてもよい。粒子の形状及びサイズは、好ましくは、表面触媒活性を最大にするように構成される。本明細書を通して、上記粒子は、主として、本質的には球状の形状であるナノ粒子として開示および説明される。
【0024】
ナノ結晶又は量子ドットとしても知られるナノ粒子は、トップダウンアプローチとボトムアップアプローチの両方を含む多くの様々な技術を使用して、広範な種々の材料から形成されてきた。前者の例には、標準的なフォトリソグラフィ技術、ディップペンナノリソグラフィー、及び集束イオンビームエッチングが含まれる。後者には、例えば、鋳型化した基材上への電着又は電気メッキ、適切なターゲットのレーザー切断、ナノワイヤの蒸気−液体−固体成長、並びに、熱蒸着、スパッタリング、化学蒸着(CVD)、又は適切なガス前駆体及び/若しくは固体ソースからの分子線エピタキシー(MBE)による表面ナノ構造の成長などの技術が含まれる。
【0025】
ナノ粒子はまた、微粉砕、粉砕、又は化学反応などの、従来的な粉体加工技術を使用して形成されてもよい。これらのプロセスの例には、ボールミル中での機械的粉砕、溶融金属を噴出口から強制的に高速で押し出すことによる微粒化、遠心粉砕、ゾルゲル法、又は液化した金属を蒸発させ、次いで不活性ガス気流中で過冷却することが含まれる。化学的な経路によって合成されるナノ粒子は、液相成長を含んでもよいが、ここでは、1つの例として、水素化ホウ素ナトリウム、スーパーヒドリド、ヒドラジン、又はクエン酸塩類が、非貴金属及び貴金属の塩を含有する水溶液又は非水溶液を還元するために使用されてもよい。或いは、上記の塩混合物は、H
2ガスを用いて150℃〜1,000℃の範囲の温度で還元されてもよい。粉体加工技術は、通常、所望のサイズ分布を有するナノメートルスケール粒子を大量に生産することが可能であるという点で有利である。
【0026】
上述のようなナノ粒子を形成する方法は、単なる例示であることが理解されるべきである。当該技術分野で周知であり、且つ、所望の形状、サイズ、及び組成を有するナノ粒子を形成可能である、複数の代替方法のいずれかが利用されてもよい。
II.アンダーポテンシャル析出で媒介される膜成長
【0027】
所望の形状、組成、及びサイズ分布を有するナノ粒子が一旦製造されると、次は所望の極薄膜が成膜されてもよい。以下に記載されるプロセスは、準単層から多層の範囲までの厚さを有する極薄膜の成膜を可能にし、これは原子レベルでの制御を伴う。このような様式で、原子表層という小さな部分の中で成膜が制御されてもよい。本明細書の目的のために、単層は、吸着原子を含む単一の層によって基材表面が完全に被覆される場合に形成され、この吸着原子は、下地基材の原子と化学的又は物理的な結合を形成する。上記表面が完全には被覆されていない場合(例えば、すべての表面部位が吸着原子によって占められているわけではない場合)、この表面被覆は「準単層」と称する。しかし、上記第1の層上に更なる層が成膜される場合は、多層被覆が生じる。二層が連続して形成される場合、この膜は二重層と称し、三層が連続して形成される場合、得られる膜は三重層と称し、以下同様である。本発明の根底にある材料化学は、三電極式電気化学セルの最初の説明を通じて最もよく理解されるかもしれない。その後で、アンダーポテンシャル析出が媒介する逐次積層成長を左右する原理を説明する。
A.電気化学セル
【0028】
三電極系(1)の基本設定を
図1に図示する。ここで、三電極とは、対極(2)、作用電極(3)、及び参照電極(4)として同定される。電解液(5)と作用電極(3)の露出表面との間に対象となる反応が起こる。作用電極(3)の電位を変化させること、及び得られた電流を測定することによって、電解液(5)の半電池反応性が測定される。対極(2)は、半電池の残りの半分として働き、作用電極(3)において付加又は除去される電子とのバランスをとる。
【0029】
作用電極(3)の電位を決定するためには、対極(2)の電位が分からなければならない。作用電極(3)で起こる酸化還元(redox)反応の完了は、必要な電流が流されることが許容されつつ、定電位が両方の電極において維持されることが必要である。実用上、このことは、二電極系を使用して達成することは極めて難しい。この問題は、参照電極(4)を導入して、電子を供給する役割と、二つの別個の電極間で参照電位を維持する役割とを分けることによって解決される可能性がある。参照電極(4)は、既知の還元電位を有する半電池である。これは、作用電極(3)の電位の測定及び制御の際の参照としての役割を果たす。参照電極(4)は、電解液への電流もしくは電解液からのいかなる電流も通さず;作用電極で起こる反応とバランスをとるために必要な電流は全て対極(2)を通して流れる。
【0030】
対極(2)の唯一の目的は、電解液(5)からの電流を流れさせることである。結果的に、対極(2)は、良導体であり、電解液と反応しないものである限り、ほぼ任意の物質であり得る。大部分の対極(2)は薄いPtワイヤから製造される。なぜなら、Ptワイヤは良導電体であり、電気化学には不活性だからである。参照電極(4)は、酸化還元反応に関与する各々の成分を一定の濃度で含有する酸化還元系によって通常達成される、安定でありかつ周知の電極電位を有する。例としては、標準水素電極(NHE)又は銀−銀塩化物(Ag/AgCl)参照電極が挙げられる。参照電極(4)は標準電位を提供し、それに対して作用電極(3)における電位が測定できる。
【0031】
代表的な設定において、三電極式電気化学セルの電極は、撹拌しない状態の所望の電解質の溶液中で静置される。電極電位を経時的に変化させること、及び生じる電流の流れを測定することによって、作用電極(3)の露出表面で起こる電気化学反応が制御及び分析できる。電位は参照電極(4)と作用電極(3)との間で測定されるのに対して、電流は作用電極(3)と対極(2)の間で測定される。通常、電位は経時的に直線的に変化され、その結果、電極表面における種の酸化又は還元が、線形ボルタンメトリー測定の間に実施されるのと同様に、電流信号の変化を通して分析できる。酸化は電流の増加として示されるのに対して、還元は電流信号の減少として示される。得られるピーク及びトラフは分析でき、この系の動力学及び熱力学に関する情報が抽出できる。電解液が酸化還元的に活性である場合、これは、可逆波を示す可能性があり、ここでは、電解液は順方向への線形走査の間に還元(又は酸化)され、そして電位が停止され、次いで逆方向に走査される場合、例えば、サイクリックボルタンメトリーの間には、予測可能な様式で電解液が酸化(又は還元)される。
【0032】
従来の電着法においては、溶液中に含まれるカチオンが、導電性基材を通した電流の流れによって還元される。基材表面において、電子は、溶液中のカチオンと結合し、それによって溶液中のカチオンを還元して、基材自体の表面上に薄膜を形成する。反応全体を進行させるためには、1つの電極におけるカチオンの還元が、第2の電極における酸化と釣り合わされなければならない。標準的な電気メッキ設定において、メッキされる部分はカソードであるのに対して、酸化はアノードで起こる。カソードは外部電源(例えば、
図1の部材(6))の負端子に接続され、一方、アノードは正端子に接続される。電源を作動させると、アノードを構成する物質が酸化されて正電荷を有するカチオンを形成し、一方、溶液中のカチオンは還元され、それによってカソードの表面にメッキされる。電気メッキセル中のカソード及びアノードは、
図1の三端子セルにおける作用電極(3)及び対極(2)にそれぞれ類似している。
【0033】
通常の金属については、その金属自体の析出が進行するために必要であるバルク析出電位(又はネルンスト電位)が一般的に存在する。特定の金属については、このバルク析出電位に対して正の電位で、その金属の単一の単層又は二重層を、異種金属の基材上に堆積することが可能であることが知られている。この場合、バルク析出が進行し得る前に、金属単層の形成が起こる。この現象はアンダーポテンシャル析出(UPD)として知られており、これは、吸着原子−基材結合が、吸着原子−吸着原子結合よりも強い場合に起こる。1つの例は、Brankovicらによって提供されており、これは、「Metal Monolayer Deposition by Replacement of Metal Adlayers on Electrode Surfaces」Surf.Sci.,474巻、L173(2001年)において、Pd基材上へのCuの吸着層を形成ためのUPDの使用を開示しており、この文献は、あたかも本明細書に完全に示されるかのように参照により援用される。UPDによる吸着層を形成するために使用されるプロセスは、通常可逆的である。印加電位を1つの方向で走査することによって、所望の材料の単層が成膜されてもよいのに対して、逆方向での走査は、このように形成された単層の脱離を生じる。
B.極薄膜成長
【0034】
上記UPD媒介成膜プロセスは、一連の電気化学反応を中心としており、これらの反応は、逐次的に行われる場合、標的とする表面被覆を有する極薄膜を生じる。1つの実施形態において、この手順は、基材への物質の吸着層の最初の形成を包含する。これは、好ましくはUPDにより達成されるが、他の成膜技術が使用されてもよい。本発明は、1つの例示的な実施形態の使用によって最も良好に例証される。従って、成膜プロセスは、
図2Aのサイクリックボルタンメトリー曲線によって示されるような、炭素担持Pt(Pt/C)及びPd(Pd/C)粒子上へのCu原子のUPDを参照して説明される。本明細書を通して、ボルタンメトリー曲線は、縦軸に平方センチメートルあたりのミリアンペア電流(mA/cm
2)で示し、横軸に印加電位をボルト(V)で示す。対極としてPtワイヤが使用され、参照電極としてAg/AgCl/(3M NaCl)電極が使用された。全ての報告された電位は標準水素電極(NHE)を参照としている。
【0035】
図2Aにおいて、破線は純硫酸(H
2SO
4)中のPd/Cのボルタンメトリー曲線を表すのに対して、実線及び点線は、50mM H
2SO
4及び50mM CuSO
4を含有する溶液中におけるPd/C及びPt/Cのボルタンメトリー曲線をそれぞれ表す。
図2Aに示される全ての試料に対して走査速度は30mV/sであった。Cu
2+を含有しない溶液中(破線)とCu
2+を含有する溶液中(実線)との間の、Pd/Cに対するボルタンメトリー曲線の差異は、Cu単層の堆積(deposition)が、Pd/C上で0.36から0.70Vまでの電位の範囲で起こることを示す。0.7Vより上では、両方の溶液中でPd表面の酸化が起こる。異種基材上にUPDに起因して生じるCuの成膜/剥離ピークのシフトを実証するために、Pt/Cに対するCuのUPDボルタンメトリー曲線は、Pd/Cに対するものと平行して提供される。Cuは、Pdとの間よりもPtとの間で強い結合を作るので、CuピークはPd上よりもPt上の方が高い電位にシフトする。
【0036】
Pd/C粒子又はPt/C粒子上へのPtの単層の成膜は、例えば、上記のようなCuの初期UPD、次いで、50mM H
2SO
4中1.0mM K
2PtCl
4から構成される別の溶液中での浸漬によって達成されてもよい。PtはCuよりも貴であるので、例えば、Adzicらの米国特許出願第2006/0135359号に記載されているように、Cu吸着原子はガルバニ置換を介してPtによって置き換えられる。しかし、このプロセスは、各UPD Cu層あたり一層のPt層の成膜に限定される。原子レベル制御を用いての更なるPt単層の成長は、CuとPtの両方の塩を含有する電解液を用いることによって得られてもよい。Cu及びPtのバルク析出電位間でのサイクルによって、CuのUPD及びPtのオーバーポテンシャル析出(OPD)を介したPt成長を媒介することが可能である。このプロセスは、カーボン担持Pdナノ粒子、Pd/C上へのPt単層の成長に関するボルタンメトリー曲線を示す
図2Bを参照して説明される。
図2Bにおけるプラス(+)符号は、Cu(360mV)及びPt(670mV)のバルク析出電位を同定する。
【0037】
1つの実施形態において、表面は、電位サイクルの開始に先立ち、好ましくはUPDによって成膜されたCuの初期層を有する。この例において、Pd/C(又はPt/C)粒子は、Cu原子の単層で被覆されている。この実施形態において、電位が連続的に増加するにつれて、Cu原子が表面から徐々に脱離し、溶液中に含まれるPt原子によって置き換えられる。
【0038】
UPD媒介成長は、50mM H
2SO
4、50mM CuSO
4、及び0.1mM K
2PtCl
4を含有する電解液中で、Cu及びPtのバルク析出電位間の電位サイクルによって、走査速度30mV/sで実行される。初期電位走査は、下限電位から正方向、又は上限電位から負方向のいずれかであり得る。負方向の電位走査の間、Cu及びPtはPd上に共析出し、前者の方が大部分である。なぜなら、溶液中のCu対Ptの濃度比は500:1であるからである。このことは、三次元的なPtクラスターを形成する可能性を低くする。この下限電位は、Cuのバルク析出電位よりも高く、好ましい実施形態においては、Cuの単層が表面に形成される電位よりも低い。この上限電位は、Ptのバルク析出電位よりも卑であり、好ましくは、Cuが表面から完全に除去される電位である。
【0039】
正方向の電位走査において、Cu原子が表面から脱離する。次いで、個々のPt原子または小さな二次元Ptクラスターは、高配位部位に拡散することができ、即ち、表層の表面に留まるのではなく、表層内の空の部位を満たす。電位サイクルの回数を重ねるにつれて電流が連続的に増加するが、このことは、Pdナノ粒子上のPtの被覆率が増すにつれて表面積が連続的に増加することを示している。一層のPt単層を得るために必要とされる電位サイクル数は、測定された表面積の増加率を、Pd粒子の平均粒径に基づく予測値とを比較することによって決定された。
【0040】
Cu−UPD媒介Pt成膜後の、粒子表面積の測定は、
図3を参照してここで説明される。ボルタンメトリー曲線は、0.1M HClO
4の溶液中、走査速度50mV/sで、80回、160回、及び240回の電位サイクルのUPD媒介Pt成膜後のPd/C粒子に関して得られた。より多くの回数の電位サイクルによって作製されたより厚いPtシェルを有する試料上の電流の増加は、Pd(コア)−Pt(シェル)ナノ粒子の表面積が著しく増加していることを示す。(
図3において点線で印を付けた)正方向電位走査において0.05Vから0.4Vまでの電流の積分は、表面からの水素脱離の電荷を生じ、これは、Pt−Pd/C粒子の表面積に比例する。直径5nmのPdコア上については、2単層及び3単層厚さのPtシェルの表面積は、ほぼ球状の粒子モデルに基づく一単原子層のPtシェルの表面積よりも21%及び44%大きいと予測される。水素チャージによって測定した面積比はこの予測値と一致する。加えて、析出したPtの量は、例えば、Pt対Pd比の誘電結合プラズマ(ICP)測定を実施することによって、電位サイクルの回数に正確に関連付けられてもよい。コア−シェル構造はまた、透過型電子顕微鏡法(TEM)によって直接的に調べられてもよい。これらの結果は、Ptシェルの厚さが、所定の回数の電位サイクルにわたるUPD媒介成膜によって、準単層から多層の厚さの範囲で容易に制御できることを実証する。
【0041】
上記に議論されたPt−Pd/C試料についてのORR活性は、回転円盤電極技術を使用して測定され、その結果は
図4に示される。Ptシェル厚みが増加することに伴う半波電位(プラス(+)符号)の正方向へのシフトは、ORR活性が、Ptシェル厚さを制御することによって調整でき、高い貴金属質量活性を達成し、且つ燃料電池の商品化のために決定的に重要である触媒耐久性を向上することを例証する。
【0042】
上記に記載されたUPD媒介プロセスは、Pd粒子上のPt成長に限定されるものではなく、UPD媒介物質としてのCuの使用にも限定されるものではないことが理解される。金属析出層は、任意の他の適切な金属、特に、Ir、Os、Re、Ru、Rh、Au、及び/又はPdなどの貴金属類から形成されてもよい。唯一の要件は、析出される金属が、対応する媒介物よりも高いバルク析出電位を有することである。1種より多くの貴金属を含有する溶液が、合金シェルを成膜するために使用されてもよい。さらに、媒介物それ自体が、UPDにより別の基材上に吸着層を形成可能でなければならない。
【0043】
極薄膜が成膜される基材を構成する粒子は、単一の材料からできていてもよく、二種以上の材料から形成された固溶体、例えば、PdCo、PdFe、又はAuNi二元合金等であってもよい。代替的な実施形態において、これらの粒子自体が、非貴金属遷移金属のコアを有するコア−シェル粒子を含み、例えば、Ni、Co、Fe、チタン(Ti)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、又はタンタル(Ta)が、金(Au)、Pd、又はPt等のより貴な金属で被覆されてもよい。例としては、合金粒子又はコア−シェル粒子のいずれかとしてのPdCo、PdFe、及びAuNiのコアが含まれる。
【0044】
UPD媒介逐次積層成長は、上記Pt−Pd/C系などの特定のコア−シェルナノ粒子電極触媒の形成のほぼ理想的な方法である。このプロセスは、準単層から多層の厚さの範囲の膜成長にわたって前例のない制御を提供し、その汎用性、再現性、及び原料の効率的利用性の点で有利である。Pt等のコストの高い貴金属が、バルク形態の代わりに準単層から多層レベルの薄膜として利用できるので、著しいコストの節減が達成できる。最終的な被覆粒子の触媒活性は、下層であるコア−シェル又は合金粒子の電子特性及び格子定数を操作することによって制御されてもよい。更に、UPD媒介逐次積層成長を使用して製造された粒子によって実証される高い面積−比活性は、コアシェル構造の最適化を通して、ORR電極触媒の活性、安定性、及びコストの総合的性能を最大限に達成することに貢献し得る。
【0045】
極薄膜のUPD媒介逐次積層成長の包括的説明は、
図5を参照して詳細に説明される。
図5に図示されたプロセスフローは、本発明の実施のための最良の形態を説明することを意図しており、本発明の技術思想及び範囲から逸脱しない、多くの可能なバリエーションが存在することが理解される。
III.実施例
【0046】
本発明の例示的な実施形態は、ここで、UPD媒介逐次積層成長のプロセス全体を示す
図5を参照して説明される。
図5に提供されるプロセスは、所望の材料の薄膜のUPD媒介成長を実施するために従う一般的プロセスフローの画像付き説明である。最初に、工程S1において適切な基材を調製する。この基材は、所望の材料の原子層がその上に形成できる任意の基材であってもよい。好ましい実施形態において、この基材は、球状のPdナノ粒子、又はPdシェル及びFe、Co、若しくはNiのコアを有する球状のコア−シェルナノ粒子を含む。このナノ粒子は、好ましくは、直径2〜10nmであって、上記I節に記載されたプロセス又は方法を含む、当該技術分野において周知であるような任意のプロセス又は方法を使用して形成させてもよい。
【0047】
UPD媒介逐次積層成長は、工程S2において、適切な媒介成分および薄膜として析出される材料の選択を通して達成することができる。媒介成分は、材料が析出されるバルク析出電位よりも低い電位でアンダーポテンシャル析出可能でなければならない。これは、上記二成分のバルク析出電位間で電位サイクルを容易にするためである。より詳細には、2つの主要な条件が満たされる必要がある。第1に、媒介成分は、アンダーポテンシャル析出を示さなければならない。いくつかの例には、Cu、鉛(Pb)、タリウム(Tl)、及びビスマス(Bi)が含まれる。第2に、成膜材料の濃度は、媒介成分の濃度よりも著しく低くあるべきであり、媒介成分のバルク析出電位は、上記吸脱着のプロセスにわたって原子レベルでの制御を提供するために十分な量だけ、成膜材料のバルク析出電位よりも、低くなければならない。
【0048】
選択的な工程S2Aにおいて、基材表面への媒介成分の一層の単層までの成膜を、電位サイクルの前に実施する。これは、好ましくは、UPDによって行うが、この技術に限定されない。他の可能性には、原子層堆積(ALD)、MBE、パルスレーザー堆積(PLD)、又はCVDが含まれる。この単層の形成は、順方向走査の間、媒介成分の脱離及び成膜材料の吸着を生じる。
【0049】
工程S3は、適切な電解液の選択及び調製を含み、並びに実施される電位サイクルの回数及び範囲の決定を含む。媒介材料及び成膜材料は、必要とされる濃度を有する電解液を形成するために溶液中に溶解できる適切な塩の形態で利用されなければならない。更に、これらの塩は、
図1に図示される電気化学セルのような装置を使用して可逆的な酸化還元電気化学反応を受けることが可能でなければならない。下限電位は、好ましくは、媒介成分のバルク析出電位よりも高く、なお、表面上へ媒介成分の単層の形成のための電位よりも低い。しかし、これらの電位よりも僅かに高い電位を使用してもよい。上限電位は、好ましくは、媒介成分が表面から完全に除去され、且つ成膜材料が残留する電位である。ある場合において、この電位は、成膜材料のバルク電位よりも有意に低いか又は高くてもよい。
【0050】
最終工程である工程S4には、実際の成膜プロセス自体が含まれる。被覆される基材を溶液中に浸漬し、所定の走査速度で、所定の最小値と最大値の間で印加電位サイクルを行う。電位サイクルは、好ましくは、媒介成分が完全に除去され且つ成膜材料が残留する電位で停止する。成膜後、基材を溶液から取り出し、脱イオン水ですすぎ、そして送風乾燥する。最終産物は薄膜を有する粒子を含み、その厚みは原子レベルで特定及び制御できる。
【0051】
好ましい応用において、本明細書に記載される上記プロセスを使用して被覆した粒子を、燃料電池のカソードとして用いてもよい。しかし、この応用は単なる例示であり、本発明の実施の1つの可能性を説明するために使用している。燃料電池カソードとしての実施は、例えば、Adzicらの米国特許出願第2006/0135,359号に記載されている。H
2センサ、電荷蓄積デバイス、腐食プロセスを含む用途、並びに種々の他の型の電気化学デバイス又は触媒デバイスを含んでもよいがこれらに限定されない多くの可能な用途が存在することが理解される。
【0052】
本発明は、本明細書中上記に特に示し且つ説明したものに限定されないことが当業者に認められる。むしろ、本発明の範囲は以下に続く特許請求の範囲によって定義される。上記の説明は、実施形態の実例の代表的なものにすぎないことがさらに理解されるべきである。読者の便宜のために、上記の説明は、可能な実施形態の代表的なサンプルに焦点を当てており、このサンプルは本発明の原理を教示するサンプルである。他の実施形態は、異なる実施形態の部分の異なる組み合わせから生じてもよい。
【0053】
上記の説明は、すべての可能なバリエーションを徹底的に列挙することが試みられたわけではない。代替の実施形態は、本発明の特定の部分のために提示されていなくてもよく、記載された部分の種々の組み合わせから生じてもよく、または、他の記載されていない代替の実施形態が一部のために利用可能であり得ることは、これらの代替の実施形態の放棄(disclaimer)とはみなされない。記載されていない実施形態の多くは添付の特許請求の範囲の文字通りの範囲内にあり、かつ他のものは均等であることが認められる。更に、本明細書を通して引用された全ての参考文献、刊行物、米国特許、及び米国特許出願公開は、あたかも全体が本明細書に示されるかのように、参照により本明細書中によって援用される。