特許第5736308号(P5736308)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5736308微生物活性向上剤、微生物活性向上方法及び生物学的廃棄物処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5736308
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】微生物活性向上剤、微生物活性向上方法及び生物学的廃棄物処理方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20150528BHJP
   C02F 11/02 20060101ALI20150528BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20150528BHJP
   C02F 3/00 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   C12N1/00 GZAB
   C12N1/00 S
   C02F11/02
   B09B3/00 A
   C02F3/00 D
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-519904(P2011-519904)
(86)(22)【出願日】2010年6月22日
(86)【国際出願番号】JP2010060559
(87)【国際公開番号】WO2010150784
(87)【国際公開日】20101229
【審査請求日】2012年7月13日
(31)【優先権主張番号】特願2009-147622(P2009-147622)
(32)【優先日】2009年6月22日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117499
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 誠
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 英樹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 庸平
(72)【発明者】
【氏名】野村 暢彦
(72)【発明者】
【氏名】豊福 雅典
【審査官】 鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−505419(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/146831(WO,A1)
【文献】 米国特許第06001868(US,A)
【文献】 特開2008−101014(JP,A)
【文献】 特開2006−102722(JP,A)
【文献】 特開2004−276017(JP,A)
【文献】 Int. J. Med. Microbiol.,2006年,Vol. 296,P. 83-91
【文献】 J. Org. Chem.,2002年,Vol. 67,P. 5850-5853
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00
C02F 11/00−11/20
B09B 1/00− 5/00
C07D 201/00−259/00
CA/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
MEDLINE/BIOSIS(STN)
PubMed
Thomson Innovation
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(g)で表される化合物:
(a)式(1)で表され、R〜Rが水素原子である化合物;
(b)式(1)で表され、R〜Rが水素原子であり、Rがメチル基である化合物;
(c)式(1)で表され、Rがメチル基であり、Rがヒドロキシル基であり、R〜Rが水素原子である化合物;
(d)式(2)で表され、R〜R12が水素原子である化合物;
(e)式(2)で表され、R、R〜R12が水素原子であり、Rが式(5)〜(7)のいずれかで表される基である化合物;
(f)式(3)で表され、R13〜R17が水素原子である化合物;
(g)式(4)で表され、R18がC10−15アルキル基又は2−オキソノニル基である化合物;
からなる群から選択される化合物をすべて含有する、微生物活性向上剤。
【化1】
【化2】
【請求項2】
以下の(a)〜(g)で表される化合物:
(a)式(1)で表され、R〜Rが水素原子である化合物;
(b)式(1)で表され、R〜Rが水素原子であり、Rがメチル基である化合物;
(c)式(1)で表され、Rがメチル基であり、Rがヒドロキシル基であり、R〜Rが水素原子である化合物;
(d)式(2)で表され、R〜R12が水素原子である化合物;
(e)式(2)で表され、R、R〜R12が水素原子であり、Rが式(5)〜(7)のいずれかで表される基である化合物;
(f)式(3)で表され、R13〜R17が水素原子である化合物;
(g)式(4)で表され、R18がC10−15アルキル基又は2−オキソノニル基である化合物;
からなる群から選択される化合物をすべて添加するステップを含む、微生物活性向上方法。
【化3】
【化4】
【請求項3】
以下の(a)〜(g)で表される化合物:
(a)式(1)で表され、R〜Rが水素原子である化合物;
(b)式(1)で表され、R〜Rが水素原子であり、Rがメチル基である化合物;
(c)式(1)で表され、Rがメチル基であり、Rがヒドロキシル基であり、R〜Rが水素原子である化合物;
(d)式(2)で表され、R〜R12が水素原子である化合物;
(e)式(2)で表され、R、R〜R12が水素原子であり、Rが式(5)〜(7)のいずれかで表される基である化合物;
(f)式(3)で表され、R13〜R17が水素原子である化合物;
(g)式(4)で表され、R18がC10−15アルキル基又は2−オキソノニル基である化合物;
からなる群から選択される化合物をすべて添加するステップを含む、生物学的廃棄物処理方法。
【化5】
【化6】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物活性向上剤、微生物活性向上方法及び生物学的廃棄物処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物の有機物分解能力により、工業排水、下水、し尿、浸出水、厨芥、家畜糞尿などの有機性廃棄物(汚濁物質)を浄化する生物学的廃棄物処理技術として、活性汚泥法やメタン発酵などが知られている。これらの生物学的廃棄物処理においては、廃棄物の分解に関与する微生物の活性が高いほど、また微生物の存在量が多いほど、生物学的廃棄物処理設備の能力が高い。
【0003】
生物学的廃棄物処理設備の反応槽内に有用微生物を高濃度に保持する方法として、付着担体法、包括担体法、自己造粒汚泥法、生物膜ろ過法、膜分離式活性汚泥法などの技術が開発されている(例えば特許文献1、2を参照)。これらの方法により、よりコンパクトな設備で生物学的廃棄物処理を行なうことが可能となっている。
【0004】
微生物の高濃度化のための別の方法として、処理対象汚濁物質の分解活性が特に高い微生物を土壌などから単離し、別途純粋培養したものを反応槽に添加する方法も開発されている。
【0005】
また、特許文献3には、微生物の情報伝達システムを調節するための特定化合物の使用が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−52486号公報
【特許文献2】特開2009−66505号公報
【特許文献3】特表2005−517635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、付着担体法、包括担体法、自己造粒汚泥法、生物膜ろ過法、膜分離式活性汚泥法などの方法では、経済的な制約内においての微生物の高濃度化に限界があるため、生物学的廃棄物処理設備で処理可能な廃棄物の量は、化学的酸素要求量(Chemical oxygen demand、COD)の容積負荷で、およそ10〜30kg/m/日が上限である。
【0008】
また、純粋培養した特定微生物を反応槽に添加する方法では、添加した微生物が反応槽における自然淘汰により死滅してしまう場合がほとんどである。そこで、単離した特定微生物を製剤化し、適宜添加し続けることで処理能力を維持することも行なわれているが、経済的な制約により用途は限られている。
【0009】
微生物の活性を高める方法として、栄養素を添加する方法もあるが、十分な栄養素を与えることは廃棄物を大量に添加することであり、生物学的廃棄物処理設備の意味を成さなくなるし、経済的にも成立しない。リン、窒素、金属などの微量成分の添加が実施される場合があるが、微生物活性の低下を防止する効果はあるものの、微生物活性が有意に向上するものではない。
【0010】
そこで、本発明では、従来の生物学的廃棄物処理設備の処理能力の向上の限界を上回る、処理能力の向上を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
1つの態様において、本発明は、以下の(a)〜(g)で表される化合物:
(a)式(1)で表され、R〜Rが水素原子である化合物;
(b)式(1)で表され、R〜Rが水素原子であり、Rがメチル基である化合物;
(c)式(1)で表され、Rがメチル基であり、Rがヒドロキシル基であり、R〜Rが水素原子である化合物;
(d)式(2)で表され、R〜R12が水素原子である化合物;
(e)式(2)で表され、R、R〜R12が水素原子であり、Rが式(5)〜(7)のいずれかで表される基である化合物;
(f)式(3)で表され、R13〜R17が水素原子である化合物;
(g)式(4)で表され、R18がC10−15アルキル基又は2−オキソノニル基である化合物;
からなる群から選択される化合物をすべて含有する、微生物活性向上剤。
【化1】
【0012】
【化2】
【0013】
上記の微生物活性向上剤を、生物学的廃棄物処理設備の反応槽にごく微量添加することにより、廃棄物の処理能力を向上させることが可能である。これにより、付着担体法、包括担体法、自己造粒汚泥法、生物膜ろ過法、膜分離式活性汚泥法、純粋培養した特定微生物を反応槽に添加する方法、栄養素を添加する方法などの従来の方法による、生物学的廃棄物処理設備の処理能力の向上の限界を上回る処理能力の向上を、低コストで実現することが可能である。
【0015】
後述するように、これらの化合物は、目的の汚濁物質の処理能力が高い汚泥から比較的簡便に調製することが可能である。また、汚濁物質の処理の破綻が起きた生物学的廃棄物処理設備であっても、その反応槽にごく微量添加することにより、廃棄物の処理能力を回復させ、更に向上させることが可能である。すなわち、通常では廃棄物の処理能力が低下する条件においても、高効率かつ安定した廃棄物の処理を実現することが可能である。
【0016】
別の態様において、本発明は、微生物の培養環境中(微生物が存在する環境中)に、上記の微生物活性向上剤の1種以上を添加するステップを含む、微生物活性向上方法を提供する。微生物が存在する環境とは、微生物を培養する培地;土壌;工業排水、下水、し尿、浸出水、厨芥及び家畜糞尿などの有機性廃棄物;生物学的廃棄物処理設備の反応槽;後述のバイオフィルムが形成されうる環境;に例示される環境を意味する。
【0017】
この方法により、例えば微生物のバイオフィルムの形成を制御することが可能となる。バイオフィルムとは、微生物により形成される構造体であり、基質に付着した微生物が、細胞外多糖又はEPS(Extracellar Polysaccaride S)と呼ばれる分泌物を分泌することにより形成される。例えば、医療においては、カテーテル内に黄色ブドウ球菌などがバイオフィルムを形成し、バイオフィルム内の微生物は、抗生物質や免疫に対する抵抗性が高いことから問題となる場合がある。
【0018】
例えば、日和見感染症におけるバイオフィルムの分解に関与する微生物の代謝活性を向上させることにより、結果としてバイオフィルムの形成を阻害し、抗生物質を病原菌に到達させることが可能となる。
【0019】
この微生物活性向上方法は、パイプラインなど、バイオフィルム形成が影響する様々な対象に適用できる。例えば、微生物電池においてはアノード及びカソードに緻密なバイオフィルムを形成させる技術に応用できる
【0020】
別の態様において、本発明は、生物学的廃棄物処理設備の汚泥に、上記の微生物活性向上剤の1種以上を添加するステップを含む、生物学的廃棄物処理方法を提供する。
【0021】
この方法により、従来の方法による、生物学的廃棄物処理設備の処理能力の向上の限界を上回る処理能力の向上を、低コストで実現することが可能である。
【0022】
別の態様において、本発明は、以下の(a)〜(g)で表される化合物:
(a)式(1)で表され、R〜Rが水素原子である化合物;
(b)式(1)で表され、R〜Rが水素原子であり、Rがメチル基である化合物;
(c)式(1)で表され、Rがメチル基であり、Rがヒドロキシル基であり、R〜Rが水素原子である化合物;
(d)式(2)で表され、R〜R12が水素原子である化合物;
(e)式(2)で表され、R、R〜R12が水素原子であり、Rが式(5)〜(7)のいずれかで表される基である化合物;
(f)式(3)で表され、R13〜R17が水素原子である化合物;
(g)式(4)で表され、R18がC10−15アルキル基又は2−オキソノニル基である化合物;からなる群から選択される化合物をすべて含有する微生物活性向上剤の製造のための使用を提供する。
【化3】
【0023】
【化4】
【発明の効果】
【0024】
本発明の微生物活性向上剤を、生物学的廃棄物処理設備の反応槽にごく微量添加することにより、従来の方法では実現不可能な程度の廃棄物の処理能力の向上を、低コストで実現することが可能となる。
【0025】
また、本発明の微生物活性向上方法により、微生物のバイオフィルムの形成を制御し、バイオフィルムの形成を阻害すること、微生物電池のアノード及びカソードに緻密なバイオフィルムを形成させることなどが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】汚泥負荷の推移を示すグラフである。
図2】COD除去率の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の微生物活性向上剤として、市販の化合物を用いることができる。あるいは、本発明の微生物活性向上剤は、市販の化合物を出発材料に用いて、公知の方法により化学合成することができる。微生物活性向上剤は上記式(1)〜(4)で表される化合物[式中、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基又はC1−6アルキル基を示し、R〜R17はそれぞれ独立に水素原子又は上記式(5)〜(7)のいずれかで表される基を示し、R18はオキソ基を有していてもよいC9−15アルキル基を示す。]又はその塩であってよい。
【0028】
上記式(1)のR〜Rで表される基において、C1−6アルキル基は直鎖状アルキル基であることが好ましく、メチル基であることが特に好ましい。また、上記式(4)のR18で表される基において、オキソ基を有していてもよいC9−15アルキル基は、直鎖状アルキル基であることが好ましく、オキソ基を有する場合には、オキソ基の数は1個であることが好ましく、2位の位置にオキソ基を有することが好ましい。
【0029】
微生物活性向上剤は、下記式(8)〜(21)で表される化合物又はその塩であることが、さらに好ましい。
【0030】
塩としては、酸付加塩及び塩基付加塩が挙げられる。酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、フッ化水素酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩等のハロゲン化水素酸塩;硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、燐酸塩、炭酸塩等の無機酸塩;メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩等の低級アルキルスルホン酸塩;ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩等のアリ−ルスルホン酸塩;及びフマル酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩等の有機酸塩を挙げることができる。塩基付加塩としては、例えばナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩;及びアンモニウム塩、グアニジン、トリエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の有機塩基による塩が挙げられる。
【0031】
別の方法として、本発明の微生物活性向上剤は、特定の微生物を培養して培地中にこれらの化合物を分泌させ、この培養液から抽出することにより調製することができる。上記の化合物を分泌する微生物としては、バークホルデリア、シュードモナス、ビブリオ、アエロモナス、バチルス、ストレプトマイセス、ストレプトコッカス、ラクトバチルスなどのグラム陰性菌が例示できる。
【0032】
本明細書において、微生物活性とは、微生物が特定の廃棄物(汚濁物質)を分解する活性をいう。微生物活性の向上とは、単位量の微生物が特定の汚濁物質を分解する能力が向上することをいう。また、微生物活性の低下とは、単位量の微生物が特定の汚濁物質を分解する能力が低下することをいう。汚濁物質としては、グルコース、マルトースなどの糖類;メタノールなどのアルコール類;ホルムアルデヒドなどのアルデヒド類;厨芥などの有機性固形物;でんぷん、タンパク質、アンモニア、硝酸塩、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが例示できるがこれに限定されない。
【0033】
本発明の微生物活性向上剤が有効に作用する微生物としては、ビブリオ、アエロモナス、ストレプトマイセス、ストレプトコッカス、ラクトバチルス、アルカリゲネス属(Alcaligenes)、ラルストニア(Ralstonia)、アクロモバクター属(Achromobacter)、ハロモナス(Halomonas)、バークホルデリア属(Burkholderia)、シュードモナス(Pseudomonas)、ロドバクター(Rhodobacter)、パラコッカス(Paracoccus)、スフィンゴバクテリウム属(Sphingobacterium)フラボバクテリウム(Flavobacterium)アシドバクテリウム属(Acidobacterium)、バチルス属(Bacillus)、アクロモバクター属(achromobacter)、アエロバクター属(aerobacter)、ブレビバクテリウム属(Brevibacterium)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、コマモナス属(Comamonas)、ミクロコッカス属(Micrococcus)、スピリラム属(Spirillum)、ズーグレア属(Zoogloea)、クロストリジウム属(Clostridium)、デハロコッカス属(Dehalococcoides)、アミノモナス属(Aminomonas)、ジオバクター属(Geobacter)、デサルホモナス属(Desulfuromonas)、デサルフォビブリオ属Desulfovibrio、シントロフォバクター属(Syntrophobacter)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、メタノバクテリウム属(Methanobacterium)、メサノスピリラム(Methanospirillum)属、メサノサルシナ属(Methanosarcina)、メタノリネア属(Methanolinea)メタノブレビバクター属(Methanobrevibacter)、メタノサエタ属(Methanosaeta)などが例示できる。
【0034】
汚泥の濃度はMLSS(Mixed liquor suspended solids;活性汚泥浮遊物質)で表される場合がある。MLSSの測定は、例えば、次の方法により行うことができる。まず、汚泥サンプルを遠心管にとり、3,000rpmで10分間遠心分離を行った後、上清を捨てる。次に、得られた沈殿物に水を加えて良く混合した後、再び上記と同様に遠心分離して上清を捨てる。得られた沈殿物を、予め秤量された蒸発皿に洗い入れ、乾燥機中で105〜110℃で半日乾燥する。続いて、デシケーター中で放冷後、秤量する。測定された質量から、空の蒸発皿の質量を除いた質量がMLSSである。
【0035】
CODは、例えばJISK0102に記載の方法により測定することができる。具体的には、測定対象の廃棄物(試料)に二クロム酸カリウムと硫酸を加え、還流冷却機を付けて2時間煮沸した後、消費した二クロム酸の量を求め、相当する酸素の量で表す。あるいは、携帯用多項目迅速水質分析計(HACH社製、型番DR/2400)を用いて、メーカーのマニュアルにしたがった方法によって測定してもよい。
【0036】
本発明の生物学的廃棄物処理方法は、通常の生物学的廃棄物処理方法に加えて、生物学的廃棄物処理設備の反応槽に、上記の微生物活性向上剤の1種以上を添加するステップを更に含むことにより実現できる。微生物活性向上剤は、生物学的廃棄物処理設備の反応槽に導入される廃棄物(排水)に添加してもよい。微生物活性向上剤は、化学合成した化合物として添加しても良いし、上記の特定のグラム陰性菌の微生物を培養した培養上清から抽出した抽出液を添加してもよい。微生物活性向上剤の1種類あたりの添加濃度は、反応槽における終濃度で、1nmol/Lから1mmol/Lであることが好ましく、10nmol/Lから100μmol/Lであることが更に好ましく、100nmol/Lから10μmol/Lの範囲であることが特に好ましい。1mmol/Lよりも高濃度添加してもよいがコスト的に不利になる場合がある。また、1nmol/Lよりも低濃度添加しても十分な微生物活性向上効果が得られない場合がある。
【0037】
本発明の微生物活性向上方法は、微生物の培養環境中に、上記の生物学的廃棄物処理方法と同様の微生物活性向上剤を同様の濃度で添加するステップを含むことにより実現することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例を示して、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲での種々の変更が可能である。
【0039】
(実施例1)(微生物活性向上剤を含む抽出液の調製)
十数か所のExpanded Granular Sludge Bed(EGSB)プラントから汚泥を採取し、表1に示す組成の廃棄物(人工排水)で馴養した。表1中のA溶液、B溶液及びC溶液の組成をそれぞれ表2〜4に示す。これらの汚泥の中から、最もメタン生成活性の高い汚泥を選択した。メタン生成活性の評価は、実施例2に記載する方法により行った。この汚泥中に含まれる、微生物から分泌された化合物を、液体クロマトグラフ飛行時間質量分析(LC−TOF−MS)により分析した。その結果、この汚泥中に、下記化学式(8)〜(21)で表される化合物が存在することが明らかとなった。各化合物の濃度をLC−TOF−MSのピーク面積から推定した結果、数百nmol/L〜数十μmol/Lであった。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
この汚泥を超音波洗浄器に入れ、25℃で10分間超音波で分散した後、105℃で5分間加熱し、エバポレータで濃縮することにより、下記化学式(8)〜(21)で表される化合物を抽出及び濃縮し、実施例1の抽出液とした。
【0045】
【化5】

【0046】
【化6】
【0047】
(実施例2)(汚泥のメタン生成活性の評価)
汚泥のメタン生成活性の評価は、メタン菌特有の酵素である、メチルコエンザイムMレダクターゼをコードするmcrA遺伝子をRT−PCRで定量することにより行った。メタン菌とは、嫌気条件でメタンを合成する微生物である。各汚泥サンプル中のmcrA遺伝子の存在量には、約10倍の差が見られた。mcrA遺伝子の存在量が最も多かった汚泥を、メタン生成活性の高い汚泥として選択した。
【0048】
(実施例3)(微生物活性向上剤の評価)
国内のEGSBプラントから汚泥を採取し、崩れた汚泥を篩で取り除き、グラニュール汚泥を調製した。グラニュール汚泥とは、微生物が粒状化した汚泥のことをいう。本実施例で使用したグラニュール汚泥の直径は約1〜3mmであった。このグラニュール汚泥に、グルコースを炭素源とするCOD 15000mg/Lの人工的な廃棄物(人工排水)を添加し、汚泥負荷0.3[COD(g)/MLSS(g)]の条件で、2ヶ月間馴養した。
【0049】
馴養したグラニュール汚泥を用いて、Upflow Anaerobic Sludge Blanket(UASB)装置で生物学的廃棄物処理を行った。使用したUASB装置は、容積1.5L、内径60mm、高さ1mの円筒形であった。上記のグラニュール汚泥500mlをUASB装置に仕込み、表5に示す組成の廃棄物(人工排水)を供給し、生物学的廃棄物処理を行った。表5中のA溶液、B溶液及びC溶液の組成は、それぞれ上述の表2〜4に示した。
【0050】
【表5】
【0051】
実験に用いた人工排水は、グルコースを唯一の炭素源としている。このため、グラニュール汚泥に対し急激な負荷を与えると、メタン発酵速度が酸生成速度に追いつかず、酪酸、プロピオン酸、酢酸などの低級脂肪酸が蓄積し、pH低下を引き起こして廃棄物の処理能力が低下する。本実施例においては、急激な負荷により処理能力が低下した状態を意図的に実現するために、通常よりも高い負荷を与えた。具体的には、通常は約0.3〜0.5[COD(g)/MLSS(g)]の汚泥負荷を与えるところ、本実験においては図1に示すように、約0.7〜1.1[COD(g)/MLSS(g)]の汚泥負荷を与えた。
【0052】
その結果、図2に示すように、実験開始から27日目で処理能力の低下が見られ、COD除去率が70%を下回った。図2において、COD除去率は、与えた負荷(COD)のうち、処理された汚濁物質の割合(%)を示す。この時、UASB装置で廃棄物処理後の処理水中の低級脂肪酸濃度は、酢酸1300mg/L、プロピオン酸1800mg/Lであった。
【0053】
上記の廃棄物の処理能力が低下した段階において、UASB装置に供給する人工排水に、実施例1の抽出液を添加した。添加割合は、人工排水1Lあたり10mLであった。
【0054】
実施例1の抽出液を添加した結果、約10日間で顕著な微生物活性の上昇が見られ、COD除去率は90%に達した。その後、汚泥負荷を更に上げても微生物活性の低下は見られず、COD除去率は95%にまで上昇した。図1に示すように、実施例1の抽出液の添加前のCOD除去率は約76〜88%であった。したがって、実施例1の抽出液の添加により、COD除去率が顕著に上昇した。この結果は、実施例1の抽出液に顕著な微生物活性向上効果があることを示す。人工排水に含まれる、上記式(8)〜(21)で表される各化合物の濃度は、数nmol/Lから数百nmol/Lの範囲であった。したがって、これらの化合物は非常に低濃度で微生物活性向上効果を示す。生物学的廃棄物処理の汚泥において、これらの化合物が、廃棄物の処理能力の向上に有効であることは、発明者らが初めて明らかにしたことである。また、本実施例において、20〜50kg/m/日の廃棄物処理が観察され、廃棄物の処理能力の向上が達成された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の微生物活性向上剤を、生物学的廃棄物処理設備の反応槽にごく微量添加することにより、従来の方法では実現不可能な程度の廃棄物の処理能力の向上を、低コストで実現することが可能となる。
【0056】
また、本発明の微生物活性向上方法により、微生物のバイオフィルムの形成を制御し、
バイオフィルムの形成を阻害すること、微生物電池のアノード及びカソードに緻密なバイ
オフィルムを形成させることなどが可能となる。
図1
図2