特許第5736348号(P5736348)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5736348
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】薄膜抵抗体温度センサとその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01K 7/18 20060101AFI20150528BHJP
   H01C 7/04 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   G01K7/18 B
   H01C7/04
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-139670(P2012-139670)
(22)【出願日】2012年6月21日
(65)【公開番号】特開2014-6052(P2014-6052A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2014年6月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】591020445
【氏名又は名称】立山科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095430
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 勲
(72)【発明者】
【氏名】植田 要治
(72)【発明者】
【氏名】若林 傑
(72)【発明者】
【氏名】木澤 裕志
【審査官】 平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−292120(JP,A)
【文献】 特開2011−247876(JP,A)
【文献】 特開2007−187562(JP,A)
【文献】 特開2009−85952(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00−19/00
H01C 7/02−7/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板上に白金薄膜により形成された抵抗体と、この抵抗体を被覆した結晶化ガラスから成るバリア層と、前記バリア層を覆った保護膜と、前記抵抗体の両端の接続端部に積層された電極パッドとを備え、前記バリア層は、Alが35質量%以上、SiOが10質量%以上25質量%以下であって、AlがCaO又はSrOよりも多い配合割合で存在する結晶化ガラスより成ることを特徴とする薄膜抵抗体温度センサ。
【請求項2】
前記バリア層は、前記抵抗体と前記電極パッドの前記抵抗体側の一部を覆うように積層されている請求項1記載の薄膜抵抗体温度センサ。
【請求項3】
前記バリア層は、Al−ZnO−SiO−CaO−BaOの各酸化物、又はAl−ZnO−SiO−SrO−BaOの各酸化物から成る材料である請求項1又は2記載の薄膜抵抗体温度センサ。
【請求項4】
前記バリア層は、CaAl若しくはSrAlのスピネル構造酸化物、又はCaAlとSrAlのスピネル構造酸化物を含む請求項3記載の薄膜抵抗体温度センサ。
【請求項5】
前記保護膜は、Si−Ba−Al−Zr系(質量割合50:20:10:10:他)のガラスセラミックスから成り、前記バリア層及び前記電極パッドとリード端子を覆っている請求項1記載の薄膜抵抗体温度センサ。
【請求項6】
絶縁基板上に白金薄膜により抵抗体を形成し、この抵抗体を、Alが35質量%以上、SiOが10質量%以上25質量%以下であって、AlがCaO又はSrOよりも多い配合割合で存在する結晶化ガラスで被覆してバリア層を形成し、この後、前記抵抗体の接続端部に電極パッド材料を塗布して熱処理し電極パッドを形成し、前記電極パッドにリード端子を溶接し、前記バリア層と前記電極パッドを覆って保護膜を形成することを特徴とする薄膜抵抗体温度センサの製造方法。
【請求項7】
前記バリア層の形成前に、前記抵抗体の抵抗値を調整するトリミングを行う請求項6記載の薄膜抵抗体温度センサの製造方法。
【請求項8】
前記バリア層は、前記抵抗体のトリミング箇所を除いて形成され、前記バリア層の形成後に前記抵抗体の抵抗値を調整するトリミングを行う請求項6記載の薄膜抵抗体温度センサの製造方法。
【請求項9】
前記リード端子は、溶接により前記電極パッドに接続する請求項6記載の薄膜抵抗体温度センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、絶縁基板表面に温度測定用の抵抗体として抵抗膜パターンを備えた薄膜抵抗体温度センサとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、温度測定用の抵抗膜パターンを備えた温度センサとして、例えば特許文献1に開示されているような構造の温度センサがあった。この温度センサは、電気絶縁性基板の表面上に、白金薄膜の抵抗体を有する温度センサであって、白金抵抗体のセンサ部分の損傷や汚染に対する保護のための中間層等を備えたものである。中間層は一つの拡散阻止層セラミックより成る。中間層の組成は、例えばAl,MgO,Taの群からの一種の酸化物から構成される。
【0003】
また、特許文献2に開示されているように、白金の抵抗膜パターンを酸化アルミニウムセラミックス又はガラスセラミックスを有するセラミックカバーの中間層により被覆したものも提案されている。セラミックカバーは、Alからなる薄膜で被覆し、前記膜上に石英ガラスセラミックス又はAlからなるセラミックカバーを石英ガラスセラミックスで結合したものである。特に、この石英ガラスセラミックスは、高純度石英セラミックス及びセラミックス成分からなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−81354号公報
【特許文献2】特開2009−85952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
白金の抵抗体パターンを用いた温度センサは、例えば自動車の排気ガス温度センサ等の過酷な環境で使用されるものがあり、そのような過酷な環境下では、保護膜や中間層から外気の硫黄酸化物や窒素酸化物等の汚染物質が侵入して、抵抗体と反応し、抵抗体の抵抗値を狂わせたり、シール材のシリコンと抵抗体の白金が反応してシリサイド化したりする場合があった。さらに、急激な温度変化により中間層にひび割れ等が生じ、汚染物質に抵抗体が曝され、抵抗体の白金と汚染物質が反応し、抵抗値が狂うこともある。
【0006】
この発明は、上記背景技術の問題点に鑑みて成されたもので、簡単な構成で、汚染物質に対する耐性が高く、耐久性もあり、測定精度も高い薄膜抵抗体温度センサとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、絶縁基板上に白金薄膜により形成された抵抗体と、この抵抗体を被覆した結晶化ガラスから成るバリア層と、前記バリア層を覆った保護膜と、前記抵抗体の両端の接続端部に積層された電極パッドとを備え、前記バリア層は、Alが35質量%以上、SiOが10質量%以上25質量%以下であって、AlがCaO又はSrOよりも多い配合割合で存在する結晶化ガラスより成る薄膜抵抗体温度センサである。
【0008】
前記バリア層は、前記抵抗体と前記電極パッドの前記抵抗体側の一部を覆うように積層されているものである。
【0009】
前記バリア層は、Al−ZnO−SiO−CaO−BaOの各酸化物、又はAl−ZnO−SiO−SrO−BaOの各酸化物から成る材料により構成されている。
【0010】
前記バリア層は、CaAl若しくはSrAlのスピネル構造酸化物、又はCaAlとSrAlのスピネル構造酸化物を含むものである。
【0011】
前記保護膜は、Si−Ba−Al−Zr系(質量割合50:20:10:10:他)のガラスセラミックスから成り、前記バリア層及び前記電極パッドとリード端子を覆っているものである。
【0012】
またこの発明は、絶縁基板上に白金薄膜により抵抗体を形成し、この抵抗体を、Alが35質量%以上、SiOが10質量%以上25質量%以下であって、AlがCaO又はSrOよりも多い配合割合で存在する結晶化ガラスで被覆してバリア層を形成し、この後、前記抵抗体の接続端部に電極パッド材料を塗布して熱処理し電極パッドを形成し、前記電極パッドにリード端子を溶接し、前記バリア層と前記電極パッドを覆って保護膜を形成する薄膜抵抗体温度センサの製造方法である。
【0013】
さらに、前記バリア層の形成前に、前記抵抗体の抵抗値を調整するトリミングを行うものである。
【0014】
前記バリア層は、前記抵抗体のトリミング箇所を除いて形成され、前記バリア層の形成後に前記抵抗体の抵抗値を調整するトリミングを行うものでも良い。
【0015】
また、前記リード端子は、溶接により前記電極パッドに接続するものである。
【発明の効果】
【0016】
この発明の薄膜抵抗体温度センサは、外気の汚染物質の侵入や温度変化による損傷を抑え、測定精度の低下を無くし、長期間に亘り正確な温度測定を可能にするものである。さらに、層構成が簡易であり、製造が容易でコストも抑えることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】この発明の一実施形態の薄膜抵抗体温度センサの縦断面図である。
図2】この実施形態の薄膜抵抗体温度センサの分解縦断面図である。
図3】この実施形態の薄膜抵抗体温度センサのバリア層を設けた状態の平面図である。
図4】この実施形態の薄膜抵抗体温度センサのバリア層とリード端子を設けた状態の平面図である。
図5】この実施形態の薄膜抵抗体温度センサの製造工程を示す斜視図である。
図6A】この発明の一実施例の薄膜抵抗体温度センサの抵抗値の経時変化量を示すグラフである。
図6B】従来の薄膜抵抗体温度センサの抵抗値の経時変化量を示すグラフである。
図7A】この発明の一実施例薄膜抵抗体温度センサにおいて、保護膜を設けない状態での抵抗値の経時変化量を示すグラフである。
図7B】従来の薄膜抵抗体温度センサにおいて、保護膜を設けない状態での抵抗値の経時変化量を示すグラフである。
図8】この発明の一実施例の薄膜抵抗体温度センサのバリア層のSiO配合割合と抵抗値の1000℃、1000時間での変化量を示すグラフである。
図9】この発明の一実施例の薄膜抵抗体温度センサのバリア層の成分組成の違いによる抵抗値の経時変化量を示すグラフである。
図10】この発明の一実施例の薄膜抵抗体温度センサのバリア層に、スピネル構造酸化物を含む場合の抵抗値の経時変化量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の実施の形態について説明する。図1図5は、この発明の一実施形態の薄膜抵抗体温度センサ10を示す。この薄膜抵抗体温度センサ10は、白金薄膜から成る抵抗体12が、例えばアルミナ等のセラミックス製の絶縁基板14上に形成されている。絶縁基板14は、焼成しても不純物の析出のない高純度のアルミナセラミックスの基板を用いる。また、高純度のアルミナセラミック基板は硬度が高く加工しにくく、コストもかかるので、一般的な純度96%程度のアルミナセラミック基板を用いることもできる。この場合、アルミナセラミック基板中の不純物であるMg、Ca、Na等が抵抗体12中に析出して、電気抵抗を増加させるので、絶縁基板14表面に図示しないアンダーコート膜を被覆すると良い。アンダーコート膜は、高純度のゾル状のアルミナ又はマグネシアをコーティングして形成する。
【0019】
抵抗体12の一対の接続端部12aには、各々電極パッド16が積層され、電極パッド16に、一対のリード端子18が接続されている。電極パッド16は、Ag、Pd、Pt、Auのうち少なくとも1種類を含むペースト化した導電性塗料を用いて形成されている。
【0020】
抵抗体12及び一対の電極パッド16の抵抗体側の一部にかけて、結晶化ガラスからなるバリア層20が積層されている。バリア層20の構成材料は、アルミナを主体とした成分で、且つベースとなる絶縁基板14と同様の主成分を有した材料とする。さらに、その構成成分比は、アルミナ(Al)を35%以上含み、CaAlか、CaAlのスピネル構造物、又はそれらの化合物、その他Al−Ca−Ba系からなる材料成分から成る。この材料は、負の熱膨張係数を持つ結晶(例えば、P−Ca−Ox,Si)をガラス中に分散させ、ガラスが持つ熱膨張を上記結晶の負の熱膨張で相殺し、バリア層20の温度変化による熱膨張を緩和するものである。
【0021】
具体的には、バリア層20の成分として、例えば、Al−ZnO−SiO−CaO−BaO系、Al−ZnO−SiO−SrO−BaO系の材料である。さらに、CaAl、SrAl、又はCaAlとSrAlの、各スピネル構造酸化物を含ものでも良い。なお、スピネル構造酸化物は、原料のAl,Ca,Srの上記酸化物が一部結晶構造が変わって置き換えられるが、最終組成は同じものである。
【0022】
これらの成分の幅は、次の通りである。Alが、35質量%〜80質量%、より好ましくは、35質量%〜50質量%。SiOが、10質量%〜25質量%、好ましくは15質量%〜20質量%、Al>(CaO又はSrO、及びその他のBa,Zn,Pの酸化物成分)である。Si量(SiOの質量)が10質量%よりも低い場合、ガラス膜になり難く、25質量%を超えると、抵抗値変化ΔRが大きくなるという問題がある。
【0023】
バリア層20の表面には、さらに保護膜22が積層されている。保護膜22は、例えばSi−Ba−Al−Zr系(質量割合50:20:10:10)や、Si−Ca−Al−Ba−Sr系(質量割合50:20:10:10:5)のガラスセラミックス、その他のアルミナ(Al)又は石英(SiO)のガラスセラミックスから成る。保護膜22は、バリア層20及び電極パッド16とリード端子18の溶接部18aを覆っている。
【0024】
次に、この実施形態の薄膜抵抗体温度センサ10の製造方法について、図5に基づいて説明する。まず、個々の絶縁基板14形状に分割するスリットが形成された大型のセラミック基板を用いて、表面にパターンニング用のレジストを塗布し、抵抗体12のパターンを露光して現像し、抵抗体12のパターンを形成する。この後、絶縁基板14表面に白金薄膜を形成する。白金薄膜は、蒸着やスパッタリング等の真空薄膜形成方法により均一な薄い膜を絶縁基板14上に形成する。この後、白金薄膜をリフトオフし、図5(a)に示すように、絶縁基板14表面に白金薄膜による抵抗体12のパターンを形成する。
【0025】
次に、図5(b)に示すように、リード端子18を接続するための電極パッド16を、抵抗体12の接続端部12aに厚膜印刷により形成し、熱処理する。厚膜印刷には、電極パッド16の形状に開口した図示しないマスクを用いる。熱処理は、950℃〜1050℃程度、好ましくは1000℃程度の一定の高温で処理し、抵抗体12の白金薄膜の結晶粒界を安定化させる。その後、更に950℃〜1050℃、好ましくは1000℃程度の高温域で熱処理を行い焼きなましを行うことで、後工程での処理における白金薄膜の電気特性のドリフトを抑制する。
【0026】
さらに、図5(b)に示すように、白金薄膜の抵抗値12を所定の抵抗値に規制するために、レーザートリミングにより、抵抗体12の調整部12bにトリミング溝13を形成する。
【0027】
この後、白金薄膜の抵抗体12上に、結晶化ガラスであるバリア層20の材料から成るペーストを、抵抗体12及び接続端部12aの電極パッド16の一部にかけて開口したマスク形状の、図示しないマスクを用いて塗布する。このマスクは、パッド部のマスキングマスクと兼用すると良い。マスクを用いてバリア層材料の塗布形成後、1100℃〜1200℃程度の温度で熱処理を行い、バリア層20とする。
【0028】
バリア層20の形成後、大型のセラミック基板を短冊状に分割する。分割は、1列状に電極パッド16の対が複数対並ぶ方向に行う。この後、電極パッド16にリード端子18を溶接する。溶接は、スポット溶接等により、各リード端子18毎に複数箇所に溶接部18aを形成する。このときリード端子18の端部は、バリア層20の端縁部に近接又は重なるようにして位置させる。
【0029】
この後、バリア層20を覆うように、保護膜22用のガラスセラミックペーストを、バリア層20を覆う大きさの開口を有した所定のマスクを用いて塗布し、さらに、電極パッド16とリード端子18を溶接接合した部分を被覆する様にして、ディスペンス等の方法により、溶接部18aを保護膜22用のガラスセラミックペーストで被覆する。この後、焼成して、保護膜22で電極パッド16とリード端子18の接続部を覆う。そして、ガラスセラミックペーストを1100℃〜1200℃程度の温度で熱処理し、保護膜22を形成する。
【0030】
熱処理後、短冊状の基板を個々の絶縁基板14毎にさらに分割して、個々の薄膜抵抗体温度センサ10とする。
【0031】
この実施形態の薄膜抵抗体温度センサ10は、保護膜22としてガラスセラミックスからなる緻密な材料が用いられているので、1000℃〜1200℃の高温環境下での使用ならびに、急激な温度変化にも耐えることができる。さらに、保護膜22の下層に、熱膨張が抑えられた結晶化ガラスからなるバリア層20を備えているので、急激な温度変化による保護膜22の熱膨張に対して、抵抗体12への歪みの影響を抑え、保護膜22のクラックから侵入する恐れのある外部環境中の不純物やガス分子等の汚染物質による抵抗体12への影響を抑えることができる。さらに、例えば自動車の排ガス環境での使用によるガス被毒(ガソリン中の硫黄成分等)或いは、内燃機関のシール剤等にあるSi(珪素)による被毒を、バリア層20により防止することができる。
【0032】
これらの被毒ガス成分である汚染物質は、白金の抵抗体12に接触すると、白金の触媒効果として積極的に汚染物質を吸収してしまい、センサの性能が劣化する。さらに、白金の活性効果により保護漠22中の二酸化珪素を熱解離して、白金と化合物を作りセンサ性能を失ってしまう恐れもある。バリア層20は、これらの汚染物質の感温膜である抵抗体12への到達、影響を阻止するものである。
【0033】
また、保護膜22から汚染物質がセンサ内へ侵入してきても、バリア層20中の成分であるアルミナ、酸化亜鉛が汚染物質を積極的に吸収し、抵抗体12への到達を阻止するものである。
【0034】
以上のメカニズムにより、この発明の薄膜抵抗体温度センサ10によれば、簡単な構造でコストを抑えつつ、センサの耐熱性及び耐久性を向上させることができるものである。
【0035】
さらに、バリア層20は、リード端子18との溶接部分の電極パッド16の部分を除き、白金の抵抗体12及びその接続端12aの一部を完全に覆う形で形成されているので、確実に抵抗体12が外部からの汚染物質に対して保護されている。しかも、電極パッド16にかかる形態でバリア層20が形成されているので、溶接時の印加電流により、バリア層20のガラス成分が溶融して固化し、リード端子18と電極パッド16部の接続強度が向上し、センサのリード端子接続強度が高くなり、リード端子18の接続不良の発生を抑え、溶接以降の後加工とライン稼働に支障を与えない。
【0036】
また、電極パッド16の形成時等の各熱処理により、抵抗体12の抵抗値のドリフトを最小減に抑えることができる。さらに、トリミング処理の前に、トリミング箇所を除いた部分のみにバリア層20を形成し、より正確なトリミングを行い、測定精度を向上させることも可能である。
【0037】
なお、この発明の薄膜抵抗体温度センサは、上記実施形態に限定されるものではなく、抵抗体のパターン形状やバリア層の形状、厚さ等は適宜設定可能なものである。保護膜の成分や層数も適宜設定可能である。
【実施例】
【0038】
次に、この発明の薄膜抵抗体温度センサの性能試験を行った結果について説明する。図6は、バリア層20として、Al−ZnO−SiO−CaO−BaO系の結晶化ガラス(Alが約50質量%、SiOが約20質量%、)を用いた際の薄膜抵抗体温度センサの完成品による1000℃エージング耐久テストを示す。図6(a)に示すように、この発明の実施例のセンサの場合は、1000時間後でも抵抗値変化ΔRは僅かであるが、図6(b)に示すように、従来の素子(バリア層は、酸化アルミセラミックス)による同様のテストの場合、時間の経過とともに抵抗値変化ΔRが大きくなり、ばらつきも大きくなっている。
【0039】
さらに、図7に、保護膜22を形成する前の薄膜抵抗体温度センサの性能試験を行った結果を示す。この場合の1000℃エージング耐久テストを行ったところ、図7(a)に示すように、この発明の実施例のセンサの場合は、1000時間後でも3%以内で抵抗値変化ΔRが収まっているが、保護膜のない従来例の素子の場合、図7(b)に示すように、時間の経過とともに抵抗値変化ΔRが大きくなり、ばらつきも大きくなっている。
【0040】
次に、バリア層中のSi配合量(SiO配合割合)についての性能評価を行った結果を図8に示す。抵抗値変化量ΔRは、1000℃、1000時間での変化量である。これより、最適Si量(SiO)は、10質量%〜25質量%(その時のAlの配合量は35質量%以上)、Si量が10質量%よりも低い場合、ガラス膜になり難くいという問題があり、30質量%で抵抗値変化ΔRが大きくなっていることから、25質量%を超えると好ましくないことが確認された。
【0041】
次に、バリア層中のAl,Zn成分の効果(Si被毒性物質を選択的に反応=触媒効果の利用)について、本願発明のAl−Zn−Si系の結晶化ガラス(質量割合50:15:20、他)と、本願発明の割合から外れたAl−Si−Ba系(割合30:20:30、他)、Si−Ca−Mg系(質量割合50:20:15、他)の結晶化ガラスのバリア層を形成したものの抵抗値変化ΔRの変化を図9に示す。
【0042】
Al−Si−Zn系は1000時間経過しても1%程度に抑えられているが、他の成分の場合、抵抗値変化ΔRが大きくなっていることが分かる。なお、ZnOの割合は、3%〜15%が望ましい。20質量%を超えるとガラスが軟化して耐熱性が低下するからである。
【0043】
次に、バリア層20中に、合成成分として複合スピネル酸化物(CaAl合成物、SrAl合成物)を含むものについての抵抗値変化ΔRの変化を図10に示す。
【0044】
この成分のバリア層を設けた薄膜抵抗体温度センサは、1000時間経過しても1%程度に抑えられていることが分かる。
【符号の説明】
【0045】
10 薄膜抵抗体温度センサ
12 抵抗体
14 絶縁基板
16 電極パッド
18 リード端子
20 バリア層
22 保護膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10