(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように酸素センサを用いる場合には、酸素センサの劣化などによる出力値の変化を補正する必要があることが知られている。特に、内燃機関の吸気系統にのみ酸素センサを配置する場合には、吸気系統および排気系統に酸素センサを配置する場合と比較して、酸素センサの出力に高い精度が求められ、補正の必要性が高くなっている。そのため、特許文献1に記載された技術においても、内燃機関の停止後に、酸素センサの出力値を補正する内容が開示されている。
【0008】
しかしながら、酸素センサの出力値の補正を行う際には、必ず電力の消費が行われ、車両の場合には、搭載されたバッテリから電力が供給される。特許文献1に記載されているように、内燃機関の停止後に補正を行う場合、バッテリの電力が十分でないと、酸素センサのヒータ駆動が十分できず、センサ素子温度を正確に制御できない等、正確な状態での補正が行えないおそれがあった。また、補正が行えた場合であっても、センサのヒータ駆動によりバッテリの電力が消耗するため、バッテリがあがりやすくなるおそれがあった。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、内燃機関に併設されたバッテリの電力消耗を抑制しつつ、ヒータ付き酸素センサの測定精度の悪化を抑制することができるセンサ制御装置およびセンサ制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明のセンサ制御装置は、内燃機関の吸入雰囲気中の酸素濃度を測定するセンサ素子と、該センサ素子を加熱するヒータとを備える酸素センサに接続されるセンサ制御装置であって、前記センサ素子から出力される前記酸素濃度に応じた出力信号を検出する検出部と、前記酸素濃度を算出する際に用いられる前記出力信号の補正係数の算出を行う演算部と、が設けられ、前記演算部には、前記内燃機関が前記アイドル運転状態であり、かつ、前記内燃機関の排気ガスの一部を前記吸入雰囲気中に還流させる排気ガス還流装置における、排気ガスの還流量を制御する制御弁の開度が前記所定開度未満である場合の前記吸入雰囲気中の酸素濃度が予め記憶され、前記演算部は、前記内燃機関が前記アイドル運転状態にあり、
前記アイドル運転状態が所定の期間継続していると判定したとき、かつ、前記制御弁の開度が前記所定開度未満のときに、前記補正係数の算出に用いられる補正情報の収集を行うことを特徴とする。
【0011】
本発明のセンサ制御装置によれば、内燃機関が運転中のときであって、吸入雰囲気中の酸素濃度を推定できる状態にあるときに、補正係数の算出に必要な補正情報の収集を行うようにしている。これにより、この補正情報を用いてセンサ素子の出力信号を補正するための補正係数を算出し、更新することができる。そのため、センサ素子の出力信号の値と、吸入雰囲気中の酸素濃度との対応関係に、センサ素子の劣化などによりズレが発生しても、演算部において算出された補正係数を用いて出力信号を補正する処理によって当該対応関係のズレを解消することができる。なお、本発明では、上述したように内燃機関が運転中のときに、演算部が補正係数の算出に用いられる補正情報を収集することに特徴があり、演算部にて出力信号の補正係数を算出し、更新するタイミングは、内燃機関が運転中のときであってもよいし、内燃機関が非運転の状態にときであってもよく、特に限定されるものではない。
【0012】
また、本発明のセンサ制御装置において演算部は、内燃機関によって発電機が駆動されて内燃機関に併設されたバッテリの充電が行われる間に上述の補正情報の収集を実行するため、内燃機関が停止している間に上述の補正情報の収集を実行する場合と比較して、バッテリの電力消耗を抑制することができる。なお、吸入雰囲気中の酸素濃度を推定できる特定状態は、言い換えると、演算部に予め記憶されている酸素濃度と、吸気雰囲気中の酸素濃度と、が同等とみなせる状態でもある。また、内燃機関の運転中とは、例えば、内燃機関がキーオフされておらず、内燃機関が駆動されている状態(アイドル運転状態を含む)を指すものであり、車両が内燃機関を搭載する場合にはその車両が走行しているか否かに関わらず、内燃機関が駆動している期間であれば運転中に含まれるものである。
【0016】
排気ガス還流装置の制御弁の開度が所定開度未満の状態であり、かつ、内燃機関の運転状態がアイドル運転状態にある状態にあ
り、アイドル運転状態が所定の期間継続していると判定したときに補正情報の収集を行うことにより、演算部に予め記憶された酸素濃度に基づいて、補正係数の算出をさらに正確に行うことができる。
【0017】
排気ガス還流装置の制御弁の開度が所定開度未満の状態にあるときに補正情報の収集を行うことにより、演算部に予め記憶された酸素濃度および制御弁の開度との関係に基づいて、補正係数の算出をより正確に行うことができる。言い換えると、演算部に予め記憶された酸素濃度と、吸入雰囲気中の酸素濃度とが一致するとみなせる状態において収集した補正情報に基づいて、補正係数を算出することができる。ここで、制御弁の開度が所定開度未満の状態とは、排気ガスの還流による吸入雰囲気中の酸素濃度の変化を実質的に考慮する必要がない状態を例示することができる。
内燃機関がアイドル運転されている場合には、内燃機関が高負荷状態で運転されている場合と比較して、内燃機関に吸入される吸入雰囲気の流量が少なくなる。すると、センサ素子が配置されている領域における吸入雰囲気の流速が遅くなり、かつ、吸入雰囲気の圧力が大気圧に近くなる。一般的に、センサ素子の出力の出力信号は、センサ素子温度の依存性があり、かつ、周囲の圧力の依存性がある。吸入雰囲気の流速を遅くすることにより、吸入雰囲気によって奪われるセンサ素子の熱量を減少させて、センサ素子の温度を所定の一定温度に制御しやすく、出力信号を安定させやすい。同様に、センサ素子の周囲の圧力を所定の一定圧力、つまり概略大気圧に制御することで、出力信号を安定させやすい。このように、出力信号を安定させた上で補正情報の収集を行うことで、より正確な補正係数の算出を行うことができる。
【0018】
さらに、内燃機関がアイドル運転されている場合とは、内燃機関にかかる負荷が少ない場合であり、内燃機関のシリンダとピストンとの隙間などから漏れる排気ガスであるブローバイガスが少ない場合である。ブローバイガスが吸入雰囲気中に混入すると、吸入雰囲気中の酸素濃度を推定する際の誤差の原因となる。内燃機関のアイドル運転時に補正情報の収集を行うことにより、例えば、内燃機関が高負荷条件下で運転している際に補正情報の収集を行う場合と比較して、ブローバイガスの影響を受けにくく、精度の高い補正係数を算出することができる。
【0019】
なお、本発明において「アイドル運転状態」とは、エンジンが有意の動力を出力することなく回転している状態をいう。具体的には、1)アクセルペダルが踏み込まれていないほぼ無負荷の状態にあること(トルクコンバータを通じての車輪へのトルク伝達による車両微速状態(いわゆるクリープ状態)を含む)、2)内燃機関が暖気運転状態であること、3)車両の変速段がニュートラル状態であること、等の条件のいずれかを満たした内燃機関の運転状態をいう。
【0020】
演算部は
、アイドル運転状態が所定の期間継続しているときに
、補正情報の収集を行うこ
とにより、センサ素子の出力信号がより安定した条件のもとで補正情報の収集を行え、また、内燃機関のシリンダとピストンとの隙間などから漏れる排気ガスであるブローバイガスが非常に少ない条件のもとで補正情報の収集を行え、より精度の高い補正係数の算出につなげることができる。
【0021】
上記発明において前記演算部に予め記憶された前記制御弁の開度が前記所定開度未満の状態における前記酸素濃度は、前記制御弁が閉じられた際の前記吸入雰囲気中の酸素濃度であり、前記演算部は、前記制御弁が閉じられた状態にあるときに、前記補正情報の収集を行うことが好ましい。
【0022】
このように、演算部に排気ガス還流装置の制御弁が閉じられた際の吸入雰囲気中の酸素濃度を予め記憶させ、上述の制御弁が閉じられた状態にある時に補正情報の収集を行うことで、補正係数の算出をさらに正確に行うことができる。制御弁が閉じられた状態とは、吸入雰囲気に還流する排気ガス量がない状態をいい、内燃機関の排気ガスの一部を前記吸入雰囲気中に還流させるための排気ガス還流装置における、排気ガスの一部を吸入雰囲気中に還流させる流路が制御弁によって全閉された状態をいう。言い換えると、吸入雰囲気の特定ガス濃度は、大気の特定ガス濃度と同じであると推定できる状態である。そのため、制御弁が閉じられた状態の吸入雰囲気中の特定ガス濃度は精度が高くなり、出力信号の補正の精度を高めることができる。
【0023】
上記発明において前記演算部には、前記特定状態における前記酸素濃度に対する前記センサ素子の前記出力信号である基準値が予め記憶され、前記演算部は、前記特定状態において検出された複数の前記出力信号を記憶するとともに、記憶された複数の前記出力信号の平均値を算出し、予め記憶された前記基準値と前記平均値との差が、所定範囲を逸脱した場合には、前記補正係数の更新処理を行うことが好ましい。
【0024】
このように、基準値と平均値の差が所定範囲を逸脱した場合にのみ、補正係数の更新処理を行うことにより、補正係数の過度な更新によって、却って酸素濃度の測定精度が低下するリスクを低減することができる。
【0025】
本発明のセンサ制御システムは、内燃機関の吸入雰囲気中の酸素濃度を測定するセンサ素子と、該センサ素子を加熱するヒータとを備える酸素センサと、前記内燃機関の運転中の状態に応じた状態信号を出力する状態測定部と、前記状態信号に基づいて前記内燃機関が前記特定状態にあるか否かを判定する判定部と、上記本発明に記載のセンサ制御装置と、が設けられ、前記センサ制御装置の演算部は、前記判定部による判定結果に基づいて、前記補正情報の収集を行うことを特徴とする。
【0026】
本発明のセンサ制御システムによれば、上記本発明のセンサ制御装置が設けられているため、内燃機関に併設されたバッテリの電力消耗を抑制しつつ、酸素センサの測定精度の悪化を抑制することができる。なお、内燃機関の運転中の状態に応じた状態信号としては、吸入雰囲気中の酸素濃度を推定できる信号であり、排気ガス還流装置における排気ガスの還流量を制御する制御弁の開度を示す信号や、エンジンの回転数に関する信号などを例示することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明のセンサ制御装置およびセンサ制御システムによれば、内燃機関が運転中のときであって、吸入雰囲気中の酸素濃度を推定できる状態にあるときに収集された補正情報に基づいて、補正係数の算出が行われるため、内燃機関に併設されたバッテリの電力消耗を抑制しつつ、ヒータ付き酸素センサの測定精度の悪化を抑制することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
〔第1の実施形態〕
この発明の第1の実施形態に係るセンサ制御システムについて、
図1から
図3を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るセンサ制御システム1の全体構成を説明する模式図である。
【0030】
本実施形態のセンサ制御システム1は、EGR装置(排気ガス還流装置)50を備える内燃機関であるディーゼルエンジン(以下、「エンジン」と表記する。)40に設けられるものであり、エンジン40の空燃比制御に用いられる吸入雰囲気中の酸素濃度を測定する酸素センサ10からの出力信号Ipおよびエンジン・コントロール・ユニット43に記憶された補正係数Ipcompに基づいて吸入雰囲気中の酸素濃度を求める演算処理を行うものである。
【0031】
さらに、センサ制御システム1は、酸素センサ10を構成するセンサ素子11の劣化などにより、演算処理により求められる酸素濃度の精度が低下した場合に、補正係数Ipcompの補正を行い、演算処理により求められる酸素濃度の精度の低下を抑制するものである。なお、センサ素子11の劣化による影響は、エンジン40を搭載した車両が数千kmから数万km走行して生じうる傾向があって、補正係数Ipcompの更新は、常時行われるものではない。
【0032】
センサ制御システム1には、酸素センサ10と、EGR装置50のEGRバルブ53の開度を検出するEGR開度センサ(状態測定部)20と、スロットルバルブ45の開度を検出するスロットル開度センサ(状態測定部)21と、エンジン40の回転数を検出する回転数センサ(状態測定部)30と、が主に設けられている。
【0033】
酸素センサ10は、エンジン40に吸入される雰囲気が流れる流路(換言すれば、エンジン40の燃焼室に吸気を供給する吸気通路)に設けられるものであり、吸入雰囲気中の酸素濃度を測定するセンサである。より具体的には、酸素センサ10は、エンジン40に吸入される大気(エア)と、EGR装置50によって還流された排気ガスとが合流した後の吸入雰囲気が流れるインテークマニホールド44に設けられるものである。なお、インテークマニホールド44におけるエアのみが流れる領域、言い換えると上流領域には、エアの流量を制御するスロットルバルブ45が設けられている。
【0034】
また、エンジン40には、吸入雰囲気と燃料との混合気が燃焼する複数のシリンダ41と、それぞれのシリンダ41に燃料を噴射するインジェクタ42と、エンジン40を制御するエンジン・コントロール・ユニット43(以下、「ECU43」と表記する。)が設けられている。
図1では、4つのシリンダ41を備えるエンジン40の例が示されているが、エンジン40に備えられるシリンダ41の数を特に限定するものではない。
【0035】
エンジン40には、上述のインテークマニホールド44が取り付けられているとともに、シリンダ41において混合気が燃焼した後の排気ガスが流れるエギゾーストマニホールド46が取り付けられている。エギゾーストマニホールド46には、排気ガスに含まれる酸素濃度を測定する排気酸素センサ47が配置されている。
【0036】
EGR装置50には、エギゾーストマニホールド46からインテークマニホールド44へ排気ガスの還流を可能に接続するEGR流路51と、EGR流路51を還流する排気ガスの温度を下げるEGRクーラ52と、EGR流路51を還流する排気ガスの流量を制御するEGRバルブ(制御弁)53と、が主に設けられている。
【0037】
図2は、
図1の酸素センサ10の構成を説明するブロック図である。
酸素センサ10には、
図2に示すように、吸入雰囲気中の酸素濃度を測定するセンサ素子11と、センサ素子11を加熱するためのヒータ17と、センサ素子11から出力された出力信号Ipの補正を行う酸素センサ制御部(酸素センサ制御装置)12と、が主に設けられている。
【0038】
センサ素子11は、吸入雰囲気中の酸素濃度に応じてリニアに出力信号Ipが変化するものであり、ジルコニアを主体にした酸素イオン伝導性の固体電解質層の表裏面に一対の電極を設定した酸素ポンプセル、及び、起電力検出セルを積層した2セル式の構成をなすものである。この2セル式のセンサ素子11は公知であるため詳細な説明は省略するが、概略は以下の通りである。酸素ポンプセルと起電力検出セルとの間に、中空の測定室と、この測定室に吸入雰囲気を取り込むための多孔質の拡散律速部とが形成されたスペーサ層を介在させ、2つのセルが積層される。酸素ポンプセルの一方の電極は測定室外に配置され、他方の電極は測定室内に配置される。また、起電力検出セルの一方の電極は測定室内に配置され、他方の電極は後述するヒータ17の積層によって外部の雰囲気から遮断され、基準となる酸素濃度雰囲気に晒される。そして、このセンサ素子11は、酸素センサ制御部12によって駆動制御(通電制御)される。具体的には、測定室内の酸素濃度に基づき起電力検出セルに生ずる起電力(電圧)が目標値となるように、酸素ポンプセルに供給するポンプ電流の通電状態を制御する。このとき、酸素ポンプセルに流れるポンプ電流が出力信号Ipとして出力され、この出力信号Ipが酸素濃度に応じたものとなる。
【0039】
また、ヒータ17は、センサ素子11の起電力検出セル側に積層されており、酸素ポンプセル及び起電力検出セルが活性化するように加熱される。このヒータ17は、アルミナを主体とする2つの絶縁層間に発熱抵抗体を封入した公知の構成からなる。
【0040】
酸素センサ制御部12は、センサ素子11、ヒータ17の駆動制御(通電制御)等を行うとともに酸素センサ10を構成するものである。また、酸素センサ制御部12は、センサ素子11から出力される出力信号Ipと吸入雰囲気中の酸素濃度との対応関係に変化が生じた際に、出力信号Ipの補正に用いられる補正係数Ipcompの更新を行うことで、当該対応関係の補正を行うものである。なお、酸素センサ制御部12によるセンサ素子11、ヒータ17の通電制御は公知の回路構成を用いて実行するものであるため、詳細な説明は省略する。
【0041】
この酸素センサ制御部12には、センサ素子11から出力された出力信号Ipを検出する検出部13と、ECU(判定部)43からアイドルスイッチ信号などの制御信号が入力される入力部14と、酸素濃度の算出に用いられる出力信号Ipに係る補正処理を実行する演算部15と、書き込み可能な不揮発性メモリ(EEPROM)である記憶部16と、が主に設けられている。
【0042】
検出部13はセンサ素子11の出力信号Ipを検出する回路を有するものであり、例えば、ノイズなどを取り除くフィルタ回路などを有するものである。検出部13において検出された出力信号Ipは、演算部15に入力されるようになっている。
【0043】
入力部14は、ECU43から出力される特定状態に係る制御信号、より具体的には、ECU43がEGR開度センサ20やスロットル開度センサ21から出力された開度信号(状態信号)や、回転数センサ30から出力された回転数信号(状態信号)に基づいて、酸素センサ10の周囲の吸入雰囲気中の酸素濃度が概略大気中の酸素濃度をみなせる特定状態にあると判定した際に出力される制御信号が入力されるものである。なお、本実施形態では、検出部13および入力部14を分けて配置した例に適用して説明しているが、両者を一体化したインタフェース部としてもよく、その構成を特に限定するものではない。
【0044】
演算部15は、CPU(中央演算処理ユニット)、ROM、RAM、入出力インタフェース等を有するマイクロコンピュータであり、ROMに記憶している制御プログラムを実行することにより、センサ素子11の出力信号Ipに係る補正係数Ipcompの算出や更新などの演算処理などを実行するものである。なお、演算部15における演算処理については後述する。
【0045】
EGR開度センサ20は、EGRバルブ53の開度を検出して、開度信号をECU43に出力するセンサである。スロットル開度センサ21は、スロットルバルブ45の開度を検出して、開度信号をECU43に出力するセンサである。EGR開度センサ20やスロットル開度センサ21としては、種々の測定形式のセンサを用いることができ、特に測定形式を限定するものではない。
【0046】
回転数センサ30は、エンジン40の回転数を検出して、回転数信号をECU43に出力するセンサである。回転数センサ30としては、種々の測定形式のセンサを用いることができ、特に測定形式を限定するものではない。
【0047】
次に、上記の構成からなるセンサ制御システム1におけるセンサ素子11の出力信号Ipから補正係数Ipcompを更新する補正処理ついて、
図3を参照しながら説明する。なお、補正係数Ipcompを用いて、センサ素子11の出力信号Ipから酸素濃度を算出する方法は、出力信号Ipに補正係数Ipcompを乗ずる公知の方法と同一であるため、その説明を省略する。
【0048】
センサ制御システム1に電力が供給されて補正係数Ipcompの補正処理が開始されると、演算部15は、
図3の補正係数Ipcompの補正処理を説明するフローチャートに示すように、演算部15の記憶部16に記憶されている最新の補正係数Ipcompを読み出す処理を実行する(S10)。なお、センサ制御システム1が初期の状態では、事前に設定された補正係数が最新の補正係数Ipcompとして記憶部16に記憶されている。
【0049】
次いで、演算部15は、演算部15の電源が投入されると、補正Ipサンプルの変数nの値を“1”にリセットする処理を実行し(S11)、補正Ip平均値の変数zの値を“1”にリセットする処理(S12)を実行する。さらに、演算部15は、センサ素子11が活性化されているか否かを示す活性フラグの値を“0”にクリアする処理を実行する(S13)。
【0050】
上述のS11からS13までの初期設定処理が終了すると、演算部15は、ECU43からエンジン40がアイドル運転状態であると判定した際に出力されるアイドルスイッチ信号が入力されたか否かの判定処理を実行する(S14)。ECU43におけるエンジン40がアイドル運転状態であるか否かの判定は、エンジン40が有意の動力を出力することなく回転している状態であるか否かを判定することにより行われる。具体的には、1)アクセルペダルが踏み込まれていないほぼ無負荷の状態にあること(トルクコンバータを通じての車輪へのトルク伝達による車両微速状態(いわゆるクリープ状態)を含む)、2)内燃機関が暖気運転状態であること、3)車両の変速段がニュートラル状態であること、等の条件のいずれかを満たしているか否かを判定することにより行われる。その他にも、エンジン40の運転状態が低回転かつ低負荷の状態であるか否かの判定に基づいて行われてもよい。具体的には、回転数センサ30から入力される回転数信号に基づいて低回転か否かが判定され、スロットル開度センサ21から入力されるスロットル開度信号に基づいて低負荷か否かが判定されてもよい。
【0051】
S14の判定において、アイドルスイッチ信号が入力されていないと判定された場合(NOの場合)には、演算部15は、上述のS10に戻り、再び上述の演算処理を繰り返す。
【0052】
その一方で、アイドルスイッチ信号が入力されていると判定された場合(YESの場合)には、演算部15は、センサ素子11が活性化されているか否かの判定処理を実行する(S15)。つまり、活性フラグの値が、センサ素子11が活性化されていないことを示す“0”か、活性化されていることを示す“1”であるかの判定処理を実行する。
【0053】
センサ素子11が活性化されていないと判定された場合(NOの場合)には、演算部15は、センサ素子11を加熱するヒータ17に対してセンサプリヒート制御処理を実行する(S16)。具体的には、センサ素子11の温度を、水が付着してもセンサ素子11が割れない程度の温度にまで加熱して保温するヒータ17への通電制御処理を実行する。
【0054】
センサプリヒート制御処理を実行した後、または、S15の判定処理において、センサ素子11が活性化されていると判定された場合(YESの場合)には、演算部15は、センサ素子11の温度が露点(Dew Point)を超えたか否かの判定処理を実行する(S17)。センサ素子11の温度が露点を超えていないと判定された場合(NOの場合)には、再びS17に戻り、センサ素子11の温度が露点を超えたか否かの判定処理を繰り返す。言い換えると、センサ素子11の温度が露点を超えるまで、S17の判定処理を繰り返す。
【0055】
センサ素子11の温度が露点を超えたと判定された場合には、演算部15は、ヒータ17に対してセンサ本通電処理を実行する(S18)。センサ本通電処理は、センサ素子11のインピーダンス(具体的には、起電力検出セルのインピーダンス)が、予め記憶された目標インピーダンスになるように、ヒータ17に供給する電力をPWM制御する処理のことである。言い換えると、センサ素子11の温度が、予め定められた目標温度に到達するようにヒータ17に供給される電力を制御する処理のことである。
【0056】
センサ本通電処理が開始されると、演算部15は、センサ素子11が活性化したか否かの判定処理を実行する(S19)。具体的には、センサ素子11(起電力検出セル)のインピーダンスと、予め記憶されている活性化に関する閾値とを比較して、センサ素子11が活性化したか否かの判定が行われる。なお、センサ素子11(起電力検出セル)のインピーダンスは、起電力検出セルに一定値の電流変化を与えたときに検出される電圧変化量に基づいて検出する公知の手法を採用することができる。S19の判定処理において、センサ素子11が活性化されていないと判定された場合(NOの場合)には、演算部15は、上述のS19に戻り、センサ素子11が活性化したか否かの判定処理を繰り返し実行する。
【0057】
S19の判定処理において、センサ素子11が活性化されていると判定された場合(YESの場合)には、演算部15は、活性フラグの値を、センサ素子11が活性化されたことを示す“1”とする処理を実行する(S20)。言い換えると、センサ素子11の活性経験を演算部15が認識する処理を実行する。
【0058】
その後、演算部15は、EGR装置50がOFFして十分な時間が経過したか否かの判定処理を実行する(S21)。言い換えると、EGR装置50のEGRバルブ53が閉じられてから、酸素センサ10の周囲を流れる吸入雰囲気における排気ガスの濃度が安定するまでの時間が経過したか否かの判定処理が実行される。具体的には、演算部15は、EGR開度センサ20から入力される開度信号に基づいて、EGR装置50がOFFしたか否かを判定する。さらに、EGR装置50がOFFしてから経過した時間を測定し、経過時間が十分な時間であるか否かの判定を行う。S21の判定処理において、十分な時間が経過していないと判定された場合(NOの場合)には、演算部15は、上述のS13に戻り、上述の処理を繰り返し実行する。
【0059】
S21の判定処理において、十分な時間が経過したと判定された場合(YESの場合)には、演算部15は、エンジン40のアイドル運転状態が所定の期間継続しているか否かの判定処理を実行する(S22)。言い換えると、酸素センサ10周囲の吸入雰囲気の圧力および流速が安定するまでの時間が経過したか否かの判定処理が実行される。具体的には、演算部15は、ECU43からアイドルスイッチ信号が継続して入力されている期間が所定の期間継続しているか、または、アイドルスイッチ信号が入力されてからの経過期間が所定の期間に達しているか否かの判定処理を行う。S22の判定処理において、アイドル運転状態が所定の期間継続していないと判定された場合(NOの場合)には、演算部15は、S13に戻り、上述の処理を繰り返し実行する。
【0060】
S22の判定処理において、アイドル運転状態が所定の期間継続していると判定された場合(YESの場合)には、演算部15は、補正係数の算出に用いられる出力信号Ipである、Ipnサンプル(補正情報)の取得処理を実行する(S23)。Ipnサンプルとして取得される出力信号Ipは、センサ素子11から出力された出力信号Ipであり、いわゆる生信号である。具体的には、取得された出力信号Ipは、Ipnサンプルとして記憶部16に記憶される。
【0061】
その後、演算部15は、補正Ipサンプルの変数nの値を更新する処理を実行する(S24)。具体的には、変数nの値を1つ増やす処理を実行する。変数nの値が更新されると、演算部15は、変数nの値が11に達したか否かの判定処理を実行する(S25)。言い換えると、補正Ipサンプルの取得回数が10回に達したか否かの判定処理を実行する。変数nの数が11に達していない場合(NOの場合)には、演算部15は、上述のS13に戻り、上述の処理を繰り返し実行する。
【0062】
変数nの数が11に達した場合(YESの場合)には、演算部15は、Ipnサンプルの平均値であるIpavzを演算により求める処理を実行する(S26)。具体的には、記憶部16に記憶された最新の10個のIpnの平均処理(相加平均処理)により平均値Ipavzが算出される。
【0063】
演算部15は、算出した平均値Ipavzを、記憶部16に記憶(ストア)する(S27)。その後、演算部15は、補正Ipサンプルの変数nの値を“1”にリセットする処理を実行し(S28)、補正Ip平均値の変数zを更新する処理を実行する(S29)。言い換えると、変数zの値を1つ増やす処理を実行する。
【0064】
その後、演算部15は、ECU43からエンジンキーがOFFの位置にあると判定された際に出力されるKey OFF信号が入力されたか否かの判定処理を実行する(S30)。Key OFF信号が入力されていないと判定された場合(NOの場合)には、演算部15は、上述のS13に戻り、上述の処理を繰り返し実行する。
【0065】
Key OFF信号が入力されていると判定された場合(YESの場合)には、演算部15は、補正係数Ipcompの値を更新する処理を開始する。まず、演算部15は、変数zの値が4に達したか否かの判定処理を実行する(S31)。言い換えると、記憶部16に記憶された平均値Ipavzの算出(取得)回数が3回に達したか否かの判定処理を実行する。変数zの数が4に達していない場合(NOの場合)には、演算部15は、補正係数Ipcompの更新処理を行わずに、本補正処理を終了する。一方、変数zの数が4に達した場合(YESの場合)には、記憶部16から最新の3個の平均値Ipavzを読み出し、平均値Ipavzを更に平均処理(相加平均処理)した平均値Ipavzaveを求める演算処理を実行する(S32)。
【0066】
平均値Ipavzaveが算出されると、演算部15は、平均値Ipavzaveに補正係数Ipcompを乗じた値と、予め演算部15に記憶された酸素濃度の値(基準値)との差(差の絶対値)である誤差が所定値である所定の範囲内(T1未満)であるか否かの判定処理を実行する(S33)。上述の誤差が所定の範囲内(T1未満)である場合(YESの場合)には、演算部15は、平均値Ipavzaveの値を0にクリアする処理を実行する(S34)。
【0067】
上述の誤差が所定の範囲外(T1以上)である場合(NOの場合)には、演算部15は、それまで用いてきた補正係数Ipcompの値を更新する処理を実行する(S35)。具体的には、予め演算部15に記憶された基準値を、平均値Ipavzaveで割ることにより、新たな補正係数Ipcompを算出する演算処理を実行し、新たな補正係数Ipcompを、それ以後に使用する補正係数Ipcompとして記憶部16に記憶させる(更新する)処理を実行する。以上により、センサ制御システム1における補正係数Ipcompの補正処理が完了する。
【0068】
上記の構成の酸素センサ制御部12を備えたセンサ制御システム1によれば、エンジン40の運転状態が運転中のときであって、吸入雰囲気中の酸素濃度を推定できる状態にあるとき(S21、S22のそれぞれの処理にて肯定判定されるとき)に収集されたIpnサンプルに基づいて、補正係数Ipcompの算出が行われる。そのため、センサ素子11の出力信号の値と、吸入雰囲気中の酸素濃度との対応関係に、センサ素子11の劣化などにより、ズレが発生しても、演算部15において算出された補正係数Ipcompを用いて出力信号Ipを補正する処理によって当該対応関係のズレを解消することができる。
【0069】
吸入雰囲気中の酸素濃度を推定できる特定状態を、EGR装置50のEGRバルブ53が閉じられている状態とすることにより、精度の高いIpnサンプルを収集することができる。
【0070】
つまり、EGRバルブ53が閉じられた状態とは、吸入雰囲気に還流する排気ガス量がない状態である。言い換えると、吸入雰囲気の酸素濃度は、大気の酸素濃度と同じであると推定できる状態である。そのため、EGRバルブ53が閉じられた状態の吸入雰囲気中の酸素濃度は精度が高くなり、精度の高いIpnサンプルを収集することができる。
【0071】
また、吸入雰囲気中の酸素濃度を推定できる特定状態を、エンジン40がアイドル運転状態とすることにより、精度の高いIpnサンプルを収集することができる。
つまり、エンジン40がアイドル運転されている場合には、エンジン40が高負荷状態で運転されている場合と比較して、エンジン40に吸入される吸入雰囲気の流量が少なくなる。すると、センサ素子11が配置されている領域における吸入雰囲気の流速が遅くなり、かつ、吸入雰囲気の圧力が大気圧に近くなる。一般的に、センサ素子11の出力の出力信号Ipは、センサ素子温度の依存性があり、かつ、周囲の圧力の依存性がある。吸入雰囲気の流速を遅くすることにより、吸入雰囲気によって奪われるセンサ素子11の熱量を減少させて、センサ素子11の温度を所定の一定温度に制御しやすく、出力信号Ipを安定させやすくなる。同様に、センサ素子11の周囲の圧力を所定の一定圧力、つまり概略大気圧に制御することで、出力信号Ipを安定させやすくなる。このように、出力信号Ipを安定させた上でIpnサンプルの収集を行うことで、より正確な補正を行うことができる。
【0072】
さらに、エンジン40がアイドル運転されている場合とは、エンジン40にかかる負荷が少ない場合であり、エンジン40のシリンダ41とピストンとの隙間などから漏れる排気ガスであるブローバイガスが少ない場合である。ブローバイガスが吸入雰囲気中に混入すると、吸入雰囲気中の酸素濃度を推定する際の誤差の原因となる。エンジン40のアイドル運転時にIpnサンプルの収集を行うことにより、例えば、エンジン40が高負荷条件下で運転している際にIpnサンプルの収集を行う場合と比較して、ブローバイガスの影響を受けにくく、精度の高い補正係数Ipcompを算出することができる。
【0073】
その他に、演算部15は、エンジン40の運転中にIpnサンプルの収集を実行するため、エンジン40が停止中にIpnサンプルを収集する場合と比較して、エンジン40の吸入雰囲気の状態が平衡状態になるまでの時間が短くなる。そのため、演算部15において補正係数Ipcompを算出するために必要な時間が短縮され、バッテリの電力消耗を抑制することができる。さらに、エンジン40によって発電機が駆動されてエンジン40に併設されたバッテリの充電が行われる間にIpnサンプルの収集を実行するため、エンジン40が停止している間にIpnサンプルの収集を実行する場合と比較して、バッテリの電力消耗を抑制することができる。
【0074】
予め演算部15に記憶された酸素濃度の値と平均値Ipavzaveに補正係数Ipcompを乗じた値の差が所定の範囲外(T1以上)である場合にのみ、補正係数Ipcompの更新処理を行うことにより、補正係数Ipcompの過度の更新によって、却って酸素濃度の測定精度が低下するリスクを低減することができる。
【0075】
なお、上述の実施形態のように、吸入雰囲気中の酸素濃度を推定できる場合として、EGR装置50のEGRバルブ53が閉じられている場合を用いてもよいし、EGRバルブ53の開度が、演算部15に予め記憶された酸素濃度と、吸入雰囲気中の酸素濃度とが一致するとみなせる所定開度未満の状態であってもよい。
【0076】
なお、上述の実施形態では、Key OFF信号が演算部15に入力された後、言い換えるとエンジン40が停止した後に、補正係数Ipcompの値を更新する処理を開始する例に適用して説明したが、エンジン40が運転中に補正係数Ipcompの値を更新する処理を開始してもよい。つまり、補正係数Ipcompを算出するために必要なIpnサンプルについてはエンジン40の運転中に収集することが不可欠であるが、Ipnサンプル(平均値Ipavzave)を用いて補正係数Ipcompを算出する処理のタイミングは、本実施形態において特に限定するものではない。
【0077】
さらに、上述の実施形態のように、1回のS33の判定結果に基づいて、補正係数Ipcompの値を更新する処理を実行(S35)してもよいし、
図4のフローチャートに示すように、S33の判定結果が3回NOになって初めて補正係数Ipcompの値を更新する処理を実行してもよい。具体的には、S33の判定結果がNOの場合に、NOと判定された回数mをカウントする処理を実行し(S41)、その後、NOと判定された回数mが3回以上であるか否かの判定処理を実行する(S42)。NOと判定された回数mが3回以上の場合には、補正係数Ipcompの値を更新する処理を実行する。NOと判定された回数mが3回未満の場合には補正処理を終了し、次回の補正処理を再び開始する。
【0078】
また、S33の判定結果がYESの場合には、平均値Ipavzaveの値を0にクリアする処理を実行(S34)したのち、S33の判定でNOと判定された回数mを0にクリアする処理が実行される(S43)。このようにすることで、誤判定によって補正係数Ipcompの値を更新する処理が実行されることを抑制できる。
【0079】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態に係るセンサ制御システムついて
図5を参照して説明する。本実施形態のセンサ制御システムの基本構成は、第1の実施形態と同様であるが、第1の実施形態とは、酸素センサ制御部が配置される位置が異なっている。よって、本実施形態においては、
図5を用いて酸素センサ制御部の配置についてのみを説明し、その他の説明を省略する。
【0080】
センサ制御システム101には、
図5に示すように、吸入雰囲気中の酸素濃度を測定するセンサ素子11及びヒータ17を備える酸素センサ110と、EGR装置50のEGRバルブ53の開度を検出するEGR開度センサ20と、スロットル開度センサ21と、エンジン40の回転数を検出する回転数センサ30と、センサ素子11から出力された出力信号Ipの補正を行う酸素センサ制御部(酸素センサ制御装置)112と、が主に設けられている。
【0081】
つまり、酸素センサ10にセンサ素子11および酸素センサ制御部12が備えられていた第1の実施形態に対して、本実施形態では、酸素センサ制御部112が酸素センサ110に備えられていない点が異なっている。本実施形態では、酸素センサ制御部112がエンジン40を制御するECU43に配置されている例に適用して説明する。
【0082】
酸素センサ制御部112は、第1の実施形態の酸素センサ制御部12と同様に、エンジン40の運転中にIpnサンプルの収集を行うものである。また、酸素センサ制御部112は、補正係数Ipcompの補正処理を行い、酸素濃度を正確に算出できるようにするものである。酸素センサ制御部112には、センサ素子11、ヒータ17の駆動制御(通電制御)を行う回路構成のほか、出力信号Ipを検出する検出部13と、入力部14と、出力信号Ipに係る補正処理を実行する演算部15と、記憶部16と、が主に設けられている(
図2参照)。
【0083】
上記の構成からなるセンサ制御システム101における補正係数Ipcompの補正処理ついては、第1の実施形態のセンサ制御システム1における補正処理と同様であるため、その説明を省略する。