(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について図面を用いて説明をする。
図1は電子写真装置であるカラーの複合機(MFP:Multi Functional Peripheral)1を示す縦断面図である。複合機1は、プリンタ部2とスキャナ部3と原稿搬送部などを備える。なお、電子写真装置は複合機に限らずスキャナを有しない電子写真プリンタ単体であってもよい。
【0011】
プリンタ部2は、給紙部10と、レーザ光学ユニット20と、画像形成部50と、後で詳しく述べる、消色機能も兼ね備えた定着装置70と、搬送部80などを備える。
【0012】
給紙部10は、積層状に積み上げられた記録媒体を収納する複数の給紙カセット11と、この給紙カセット11に収納された記録媒体の最上層の記録媒体を画像形成部50に給紙するピックアップローラ12などを含む。
【0013】
画像形成部50は、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)の4組の画像形成ステーション60Y、60M、60C及び60Kと、各画像形成ステーション60Y、60M、60C及び60Kによって形成された消色トナー像を転写する中間転写ベルト51、中間転写ベルト51に所定の張力を与えるための複数のローラ52及び中間転写ベルト51を駆動するため駆動ローラ54、各画像形成ステーションなどを備える。また、画像形成部50は転写器である転写ローラ55を備えている。駆動ローラ54と転写ローラ55の間には中間転写ベルト51の一部を配置している。なお、以降特別な断りのない限り消色トナーを単にトナーと表記する。
【0014】
搬送部80は、ピックアップローラ12から繰り出された記録媒体Pを所定のタイミングで画像形成部50へ搬送を開始させるレジストローラ81と、レジストローラ81から繰り出された記録媒体Pを搬送する複数の搬送ローラ82などを有する。また、搬送部80はプリンタ部2の外部に記録媒体Pが排出される直前に排紙ローラ83を有し、排紙ローラ83によって排紙された記録媒体Pを受け取る排紙トレー84が、プリンタ部2の上面に形成されている。
【0015】
図2に一つの画像形成ステーション60の拡大図を示して、説明を続ける。画線形成ステーション60は、レーザ光学ユニット2から出射された光が照射される感光体61と、感光体61に一様な電荷を与える帯電器62と、内部にトナーを収納すると共に感光体61にトナーを供給する現像器63と、感光体61に供給されたトナーを中間転写ベルト51に転写する中間転写ローラ64と、中間転写ベルト51に転写されず感光体61に残ったトナーをクリーニングするクリーニングユニット65等を備える。各画像形成ステーション60Y、60M、60C、60Kはいずれも同一構成になっている。
【0016】
次に画像形成の作用について説明する。帯電器62は感光体61に一様な電荷を付与する。一様な電荷が与えられた感光体61は、レーザ光学ユニット20から出射された光によって潜像が作成される。現像器63は、感光体61にトナーを供給し、感光体61上にトナー像を形成する。現像器63により感光体61上に形成されたトナー像は、転写ローラ55によって中間転写ベルト51上に転写される。
【0017】
また、給紙カセット11からピックアップ12によって繰り出された記録媒体Pは、複数の搬送ローラ82によって搬送される。記録媒体Pは、転写ローラ55の位置に来たときに、中間転写ベルト51に形成されているトナー像を転写する。記録媒体Pに画像が転写された記録媒体Pは、更に搬送された後、定着装置70において定着され、排紙トレー84に排紙される。
【0018】
定着装置70の構造について詳しく説明する前に、以下の実施形態で用いるトナーの構成成分について述べる。本実施形態のトナーは少なくとも着色剤と結着樹脂とを含む。着色剤とは、トナーに色を付与する一種の化合物または組成物を言う。
【0019】
ここで用いるトナーは、特開2011−138132号公報に記載のような公知の方法で得ることができる。このような消色可能なトナー粒子は、通常のトナーと同様にキャリアと混合されて現像剤として構成され、例えば
図1に示した電子写真装置1の現像器63内に格納される。この現像剤またはトナーを別容器に格納し、電子写真装置の初回立ち上げ時に現像器内に供給されるようにしてもよい。
【0020】
画像形成のプロセスは、通常のトナーと同様に、感光体61の周りに、帯電器62、露光装置、現像器63、転写ローラ64、転写部材(中間転写ベルト51)が配置されている。帯電器62によって感光体61の表面が均一に帯電され、露光装置により画像情報が静電潜像として感光体61上に書き込まれ、現像器63からトナーが供給されて現像され、中間転写ベルト51によってトナー画像が感光体61の表面から記録媒体Pに転写される。
【0021】
現像器63の現像ローラにはDCまたはAC+DCの現像バイアスが印加されていてもよい。また、転写ローラ64にはそれぞれ適切な転写バイアスが印加されていても良い。転写器55には適切な転写バイアスが印加されていても良い。感光体61上に残るかもしれない転写残りトナーは、クリーニング部材によって感光体表面から除去され廃棄または現像器内に回収されても良い。クリーニング部材は無くても良い。また、感光体上に残った静電潜像は除電器によって除電されても良い。転写領域の下流に定着器が配置されている。
【0022】
定着装置については、後で詳しく説明する。加熱源は、ハロゲンランプ、誘導加熱装置などを用いることができる。後述するようにトナー像と接触するローラもしくはベルトの表面には厚さ50〜1000um、望ましくは100〜400umの弾性層が設けられる。
【0023】
弾性層としては、シリコ−ンゴム、発泡シリコンゴム、フッ素ゴム(FKM、FEPM、FFKM)、ウレタンゴム、発泡ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、発泡性ポリエチレン樹脂、発泡性ポリオレフィン樹脂、ニトリルゴム、水酸化ニトリルゴム、発泡性ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、エピクロルヒドリンゴム、などを用いることができる。
【0024】
次に、
図3及び
図4を用いて、本発明の実施形態で用いる定着装置における、定着温度と消色温度の関係について説明する。本発明で用いるトナーは、色素と着色剤と消去剤を有しており、通常色を有するが一定の温度を超える温度や溶剤によって消色する。
【0025】
図3に、定着装置におけるトナーの定着率と温度の関係を示す。横軸に温度(℃)をとり、縦軸に定着率を取っている。記録媒体に転写されるトナーは、ある一定の温度T1を超えないとこの記録媒体に十分な定着が行われない。この定着下限温度T1は、例えば70℃である。
【0026】
図4に着色剤の温度と発色性ヒステリシス特性の関係を示す。横軸に温度(℃)を取り、縦軸に色濃度を取っている。着色剤は常温では色を有しているが、その温度が所定温度T2を超えると急激に色濃度は小さくなり、所定の温度を以下に下がらないと、もとの色に戻らない。上記消色開始温度T2は例えば100℃であり、発色温度T3は例えばー10℃である。
【0027】
このような特性を有するトナーを、定着装置において十分安定して定着させる為には、トナーを定着下限温度T1以上でしかも消色開始温度T2より低くしなければならない。トナーは当然厚さを有するから、通常、加熱部材と接触する表面温度は高くなるが記録媒体に接する底部分の温度は低い。したがって、安定したトナーの定着を行うためには、上記定着下限温度T1と消色開始温度T2の間の温度差が、できる限り大きいことが望ましい。
【0028】
<第1の実施形態>
次に、定着装置70の第1の実施形態の詳細を、
図5を用いて説明する。この定着装置70は、大きくは加熱ローラ71と加圧側機構72から構成されている。加熱ローラ71は、中央に加熱源であるハロゲンランプ71hが設けられその外側に金属素管であるアルミ素管71aが設けられ、アルミ素管71aの表面にアルミより熱伝導率が劣るシリコンゴム層71bが設けられ、最表面にフッ素樹脂層71cが設けられている。すなわち、熱源のハロゲンランプ71hの外側に金属材料であるアルミ素管71aが設けられ、その外側に金属材料より、熱伝導率が劣り保温性が優れる弾性材であるシリコンゴム層71bが設けられている。加圧側機構72は、加圧側ローラ73と、加圧ローラ74と、テンションローラ75と、無端の加圧ベルト76から構成されている。
【0029】
加圧側加熱ローラ73は、内部にハロゲンランプ73hを有して。加圧ベルト76を加熱している。
【0030】
加圧ローラ74は、鉄心74a表面にシリコンゴム層74bが形成されていて、加圧ベルト76を介して、加熱ローラ71を押圧している。無端の加圧ベルト76の内側には加圧側加熱ローラ73と、加圧ローラ74とテンションローラ75が配置され、このテンションローラ75によって、無端の加圧ベルト76にテンションが加えられている。
【0031】
また、加圧側加熱ローラ73と、加圧ローラ74の間の加熱ローラ71側の無端の加圧ベルト76の部位は、所定距離、加熱ローラ71に接すると共に加熱ローラ71側に圧力をかけている。すなわち、加圧側機構72は、加熱ローラ71と対向し、その一部が加圧ローラ71を加圧する機能を有する。
【0032】
また、定着装置70は、ハロゲンランプ
71h,
73hに電力を供給するランプ電源77と、このランプ電源77からハロゲンランプ
71h,
73hに供給する電力を制御して加熱ローラ71及び加圧側加熱ローラ73の表面温度を変える電力制御部78と、を有する。電力制御部78は、記録媒体にトナー像を定着させる定着温度と前記トナー像を消色させる消色温度との間で温度制御することが可能な温度制御部を構成する。
【0033】
加熱ローラ71は、例えば肉厚1mm、外径45mmのアルミ素管71aの表面に厚さ200μmのシリコンゴム層71bが設けられ、最表面に厚さ30μmのフッ素樹脂層71cが保護層として形成されている。加熱ローラ71はその内部から例えば700Wのハロゲンランプ71hで加熱される。
【0034】
加圧ローラ74は、例えばφ20mmの鉄芯74a表面に厚さ2mmのシリコンゴム層74bが形成され、加熱ローラ71の中心部に向かって押圧される。加圧側加熱ローラ73は肉厚1mmのアルミ素管で構成され、その内部から例えば300Wのハロゲンランプ73hで加熱される。
【0035】
なお、
図5での各ローラ等のサイズを上記寸法に比例させて表示していない。これは構造を理解しやすくするためである。
【0036】
加圧ベルト76は、厚さ70μmのPI層上に150μm厚のシリコン(Si)ゴム弾性層、30μm厚のフッ素樹脂層が積層されたφ48mmのエンドレスベルトである。加熱ローラ72、加圧側加熱ローラ73、テンションローラ75を内包し、内側のテンションローラ75を外側に向かって
加圧ベルト76に押し当てることで
加圧ベルト76のテンションを保つ。
【0037】
また、加圧ベルト76の外表面側を加熱ローラ71に押し当てることにより、加熱ローラ71と加圧ベルト76によって形成される幅広い定着のためのニップ部NIPを形成している。ニップ部NIPは、加熱ローラ71と加圧ベルト76が接触している距離であって、加熱ローラ71と加圧ベルト76が接触する位置から、加熱ローラ71と加圧ローラ74の接触が終了するまでの間の部分の距離Nd1である。この間において記録媒体P及びこの上のトナーが加熱されて定着がなされる。このニップ部NIPが大きいと、記録媒体のトナー像が形成されている表面温度と裏面温度の差が小さくなり、温度制御の点から好ましい。このため、第1の実施形態では、加熱ローラ71の外周に沿って変形する無端の加圧ベルト76を採用している。
【0038】
加圧ベルト76は、加熱ローラ71、加圧側加熱ローラ73の回転に追随して、加圧ローラ74と同じ方向に移行回転する。トナーが転写された記録媒体は、トナー側を加熱ローラ71に接触させる向きで加熱ローラ71と加圧ベルト76の間のニップ部NIPに投入される。ニップ部NIPとして、例えば20mm程度取れるため、100mm/secのプロセス速度でも約200msecの間、加熱される。
【0039】
この定着装置70の加熱ローラ71に設けられたシリコンゴム層の厚さを0から1mmまで変化させて、トナー像が転写された記録媒体を通過させたときのトナー層の到達温度をシミュレーションによって計算した。この結果を
図6及び
図7に示す。
【0040】
図6、
図7において、横軸に加熱ローラ71のゴムの厚さ(μm)を取り、縦軸にニップ部NIPの入口温度(℃)を取っている。
図6は、弾性層として熱伝導率0.2W/mCのシリコンゴムを用いた場合、
図7は熱伝導率0.6W/mCのシリコンゴムを用いた
場合の例である。プロットされる点◆は、上限条件を、また点□は下限条件を表す。
【0041】
トナーが消色し始める条件を、トナー層表面温度が94℃に到達したときとしてそれを上限条件とし、トナーが実用上問題ない定着状態になる条件を、トナー層底面(記録媒体との境界面)温度が79℃に到達した時としてそれを下限条件とする。加熱ローラ71の表面と加圧ベルト76の表面がニップ入口で同温度となる条件で、定着器温度を変えて25℃の未定着トナー層(空気を約60%含むトナー粒子の層20μm厚)及び記録媒体(厚さ100μmの紙)を通過させ、ニップ部NIPの出口でのトナー層表面と底面の温度を計算し、上限条件及び下限条件となる定着器温度を求めた。
【0042】
なお、これらの上限及び下限の条件は、一実施例のトナーを用いて実験から求めたものであり、これに限定されるものではない。
【0043】
上限と下限の温度ができるだけ離れていることが望ましい条件であり、このようなゴム層がない場合、上限温度と下限温度の差が約11℃だった。
【0044】
これに対して、
図7に示すように熱伝導率が0.6W/mCで400μm厚のゴム層を設けることにより上限下限の温度差は約16℃まで広がった。一方、
図6に示すように、熱伝導率が0.2W/mCで400μm厚のゴム層を設けることにより、上限下限の温度差は約20℃にまで広がった。
【0045】
どちらの熱伝導率のゴム層でも、ゴム層を設けない従来の場合に比べて、ゴム層厚400μm程度までは、厚いほど上限下限の幅が広くなる。しかし、それ以上厚くしても上下限の幅はほとんど変わらないか、逆に狭くなることがわかった。
【0046】
また実際に、熱伝導率0.2W/mCのゴムを用いて層厚0、200μm、300μm、600μmの4種類の定着ローラを作成し実験を行った結果を
図8に示す。定着ローラ表面のニップ直前部温度をサーモビューアーで計測しながら消色トナーで形成した未定着画像を定着器に通し、画像反射濃度が消色しない最大値よりも20%消色した温度を上限、堅牢度試験機にて、こすった前後での画像の残存率(こすった後の画像濃度/こする前の画像濃度)が75%となる温度を下限とした。
【0047】
300μmと600μmではあまり差がなく計算結果をほぼ再現する傾向を示すと同時に、計算値よりも下限温度の上昇が穏やかで、更に広い上下限幅を確保できることが判明した。これは、ゴム層に弾性があるためにトナー層と密着しやすく、そのため熱伝導が良好に行われるため、より低温で定着できるようになると考えられる。
【0048】
これら
図6乃至
図8に示した結果より、弾性層の厚さは、100μm程度以上あれば、十分と考えられる。
【0049】
以上述べたように、トナーと接触する加熱面にゴム層を有しない従来の場合、上下限の幅が狭いため、連続通紙による定着器温度の低下や、小サイズ紙連続印字の際の紙領域外の温度上昇などの定着器における温度変動に対し、常に消色させずに定着させる温度を維持することが非常に困難となる。
【0050】
これに対してトナーと接触する加熱面に熱伝導率の低い弾性層を設ける構成をとることにより、安定して消色せずに定着させることができる。即ち、本発明の一実施形態によれば、定着温度の範囲を広げることが可能である。
【0051】
これは、熱伝導率が金属よりも劣るゴム層を設けたことにより、熱の伝わり方がゆっくりとなり、記録媒体の紙面に直交方向の温度分布が均一にできたことに起因する。記録媒体にカラー印刷などを行う場合にはトナー層が厚く付着する。
【0052】
トナー層が厚くなればなるほど、トナー層の深さ方向に温度分布が生じてしまい、表面温度が高いにも拘らず中間部分では温度が低い可能性があり、中間部分を定着温度まで上げた時、表面温度が上がりすぎて消色温度に到達しないことが好ましい。そのような意味で、定着温度の上限下限温度の幅が広い方が、安定した定着を行うことが可能となる。
【0053】
ここで、ローラ表面に設ける弾性層厚さの好ましい上限について述べる。金属素管上に弾性層を設けることで、接触するトナー層上部の温度上昇が緩やかになり、転写媒体との接触部であるトナー層下部の温度を定着可能温度まで上げても上部の温度が消色温度に到達することなく、消色トナーで可視画像を形成することができる。
【0054】
しかし、装置の小型化に伴い、ローラの径を小さくする方向にあり、回転方向の周の長さは形成する画像1枚分よりはるかに短くなってきている。例えば加熱ローラの径がφ50mmの場合、A3の大きさの転写紙を通すとすると、紙先端で接触した加熱ローラの1点は短時間に3回(複数回)、この転写紙と接触することになる。トナー層と接触し熱を与えて温度低下した加熱ローラの表面部分は、ニップ部を通過して1周し、またニップ部入口に戻るまでの時間内に初期の設定温度まで回復しなければならない。1周で温度が回復しなければ、3回の接触において後になるほど加熱ローラの表面温度が低下し、所望の温度までトナー層を昇温させることができなくなるおそれがある。このような現象は、熱伝導率が悪い部材ほど、昇温が難しい傾向がある。
【0055】
消色しない通常のトナーであれば、上限温度は高温オフセットが発生しないことが条件であり、バインダー樹脂の分子量の設計等により、かなり高温に設計することができるので、紙先端がニップ部に侵入する直前の温度をある程度高めに設定しておけば、加熱ローラの温度が多少低下しても紙後端まで問題なく定着させることができる。
【0056】
しかし、実施形態で用いる消色トナーは、定着下限温度と消色しない上限温度の幅が通常のトナーに比べてかなり狭いので、紙先端と後端の加熱ローラの温度差により、定着時に消色する部分が発生するおそれがある。
【0057】
上記弾性層は厚くするほど1周の回転の間に所定温度の回復までに時間がかかるので、弾性層の厚さに好ましい上限がある。
【0058】
上記
図5に示す構造の定着装置において、加熱ローラ71の径をφ50mm、ニップ部NIP幅20mm、プロセス速度135mm/secの場合の熱シミュレーションの計算結果を
図9に示す。横軸には弾性層の厚さ(μm)、縦軸には加熱ローラのニップ部入口における1周目に対する2周目の温度低下幅(℃)を示す。即ち、この図から温度低下幅は、400℃前後から、急激に低下していることが読み取れる。
【0059】
したがって、弾性層(ゴム層)の厚さのこの好ましい上限は400μm程度と考えられる。これ以下の厚さであれば、2度目の接触までの間に1度目の接触前とほぼ同程度の温度まで加熱ローラの温度が回復する。
【0060】
一方、実際に、
図9について述べた条件でA4サイズの通紙試験を行ったところ、ゴム層の厚さが、0、200、300μmの場合は50枚の連続印字を行っても定着不良は生じなかった。これに対して厚さ500μmのゴム層を表面に設けた場合には、10枚目に定着不良が発生し、これ以上高温に設定すると1枚目の消色が始まり、連続印字では、定着状態と消色しない状態を両立させることができなかった。
【0061】
製品設計上、取り得る他のサイズ、プロセス速度においてもニップ部NIP内の加熱により、トナー層を定着下限温度以上、消色上限温度以下に加熱できるように設計を行うと、弾性層400μmが加熱ローラ温度を保つ上限の厚さであることが計算により確認できている。
【0062】
この実施形態によれば、柔軟な加圧ベルト76を加熱ローラ71に当接しているので、ニップ部の幅を大きくとることができ、カラー印刷などのように、トナー層が厚くなるような場合においても、安定して定着を行うことができる。特に加熱ローラ71の径が大きい場合にはニップ部NIPの幅Nd1を大きくでき、安定して定着することが可能となる。
【0063】
これらの結果により、弾性層は、100μmから400μm程度の範囲内の厚さであることが望ましいことが理解される。
【0064】
この第1の実施形態では、加圧側機構72でも加圧側加熱ローラ73を利用したが、これは必須のものではなく、加圧側加熱ローラ73に代えて、単に加圧ローラ74相当のローラを配置させてもよい。
【0065】
第1の実施形態では、加圧側加熱ローラ73が無端の加圧ベルト76を加熱することにより、無端の加圧ベルト76が記録媒体Pからの熱を吸収させない機能を有している。
【0066】
<第2の実施形態>
上記第1の実施形態では、加圧ベルトを用いた定着装置について説明した。しかし、加熱ローラと加圧ローラを圧接するタイプの定着装置にも本発明を適用可能である。
【0067】
次に、このようなタイプの定着装置について説明する。この実施形態の定着装置の構造を示す断面図を
図10に示す。この定着装置91は、記録媒体上のトナー像と接触する管状の加熱ローラ92と、この加熱ローラ92に記録媒体の裏面から押圧される管状の加圧ローラ93と、を有する。加熱ローラ92及び加圧ローラ93内には、ハロゲンランプ92h,93hを有する。これらのハロゲンランプ92h,93hには、これらのランプに電力を供給するランプ電源97と、このランプ電源97からハロゲンランプ92h,93hに供給する電力を制御して加熱ローラ92及び加圧ローラ93の表面温度を変える電力制御部98とが接続されている。電力制御部98は、記録媒体にトナー像を定着させる定着温度と前記トナー像を消色させる消色温度との間で温度制御することが可能な温度制御部を構成する。
【0068】
加熱ローラ92は、例えば、アルミ製肉厚1.5mmのアルミ素管92aの表面に200μm厚のシリコンゴム層92b及び30μm厚のPFA層92cが形成された外径80mmのローラ形状を有しており、内部から500Wのハロゲンランプ92hで加熱される。
【0069】
加圧ローラ93は、例えば、SUSの肉厚1mmの素管93aの表面に、2mm厚のシリコンスポンジ層93bが形成され、内部から400wのハロゲンランプ93hで加熱される。
【0070】
これらの加熱ローラ92及び加圧ローラ93は、互いに押圧されて接触しており、幅Nd2が約6mmのニップ部NIPが形成されている。
【0071】
外周面の弾性材であるシリコンゴム層を設けることにより、外周面にある程度のニップ部NIPを形成することができ、記録媒体のトナー像が形成されている表面温度と裏面温度の差が小さくなる利点がある。
【0072】
加熱ローラ92と加圧ローラ93を30mm/secの速度で回転させることにより通過する記録媒体Pは、上記ニップ部において、約200msecの時間、加熱及び加圧され、記録媒体上のトナーはほぼ均一に加熱される。
【0073】
この実施形態では、加圧ローラ93で素管93aの上に設けている弾性層がゴムより柔らかいスポンジにより構成されているので、ニップ部を比較的、長く形成できる利点がある。
【0074】
上述の実施形態によれば、定着装置にトナー像が転写された記録媒体を通過させることで、消色することなく実用上問題ない定着状態に定着させることができた。
【0075】
上述の実施形態では、加熱ローラ、定着ローラの内部に設ける加熱源としてはハロゲンランプを用いる場合について述べたが、他の加熱源を用いてもよい。要するにこれらの加熱源は、ローラの表面が定着温度と、消色温度で変更できるものであればよい。
【0076】
本実施形態での電子写真装置は、消色トナーで画像形成を行うための装置であり、非消色トナーのみで画像形成を行うための画像形成装置は含まない。
【0077】
上述の実施形態によれば、消色トナーの定着を消色させることなく安定して行うことができる、電子写真装置が得られる。
【0078】
本発明のいくつかの実施形態を説明したがこれらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。