(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
  水性インクジェット用インキ組成物の具体例は、顔料、顔料分散樹脂、樹脂微粒子(A)、水、親水性溶剤(B)を含む水性インクジェット組成物であって、
  樹脂微粒子(A)が、イオン性官能基を有さない芳香族エチレン性不飽和単量体(C)20〜70重量%;スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体(D)0.5〜3重量%と非イオン性の水溶性エチレン性不飽和単量体(E)0.1〜3重量%とからなる水溶性エチレン性不飽和単量体(F)0.6〜6重量%;架橋性エチレン性不飽和単量体(G)0.1〜10重量%、を含むエチレン性不飽和単量体を乳化重合してなり、
  親水性溶剤(B)がグリコール系溶剤(H)およびエチレングリコールエーテル系溶剤(I)を含む。
 
【0018】
  まず、樹脂微粒子(A)について説明する。
 
【0019】
  樹脂微粒子(A)はイオン性官能基を有さない芳香族エチレン性不飽和単量体(C)、水溶性エチレン性不飽和単量体(F)、架橋性エチレン性不飽和単量体(G)をラジカル重合開始剤によって乳化重合する事で得られる。
 
【0020】
  イオン性官能基を有さない芳香族エチレン性不飽和単量体(C)は乳化重合初期に粒子核形成を安定化させる働きをするものである。その構造中に、芳香族基を少なくとも1つ、及びエチレン性不飽和結合を1つ有する単量体であることが好ましい。
 
【0021】
  イオン性官能基としては、具体的には、アニオン性官能基としてカルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、およびそれらの塩などが挙げられ、カチオン性官能基としてアミノ基、その塩、および4級アンモニウム塩基などを挙げることができる。
 
【0022】
  イオン性官能基を有さない芳香族エチレン性不飽和単量体(C)としては例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシジエチレングリコールメタクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールメタクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールアクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールメタクリレート、フェニルアクリレート、フェニルメタクリレート等があげられる。
 
【0023】
  上記の中でも、重合時の安定性の観点から、スチレン、α−メチルスチレン、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、ビニルナフタレンが好ましい。
 
【0024】
  樹脂微粒子(A)を得るために用いられるエチレン性不飽和単量体の合計100重量%中、イオン性官能基を有さない芳香族エチレン性不飽和単量体(C)の含有量は、20〜80重量%であり、20〜70重量%が好ましい。含有量が20重量%未満であると乳化重合時の粒子核形成が不安定になり、インキ組成物の吐出安定性に影響をもたらす粗大粒子ならびに凝集物の発生が多くなってしまう。さらに印字物の光沢や明度にも悪影響を及ぼしてしまう。含有量が80重量%を超える場合にも、粒子核形成が不安定となり、粗大粒子ならびに凝集物が多くなる。また、樹脂微粒子(A)のグリコール系溶剤(H)ならびにエチレングリコールエーテル系溶剤(I)への経時安定性が低下してインキ組成物が増粘してしまう。
 
【0025】
  ここで言う「粗大粒子」とは個数カウント法で観測される粒子径が1μm以上の樹脂微粒子の事を言う。粗大粒子量が多いとノズル詰まりを起こし、インキの吐出性が著しく悪化する。
 
【0026】
  水溶性エチレン性不飽和単量体(F)は、その構造中にエチレン性不飽和結合を1つ有する単量体であって、スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体(D)と非イオン性の水溶性エチレン性不飽和単量体(E)とからなる。スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体(F)の優れたイオン解離性と、非イオン性の水溶性エチレン性不飽和単量体(E)の親水部の立体反発の相乗効果により、乳化重合時の粗大粒子や凝集物の発生が大幅に抑制される。また、得られる樹脂微粒子(A)が再溶解性に優れるので、ヘッドでのノズル詰まりを起こしにくい。さらに、グリコール系溶剤(H)ならびにエチレングリコールエーテル系溶剤(I)を大量に含む水性媒体中においても、樹脂微粒子(A)は経時で分散状態を損なう事なく安定に存在する事ができる。
 
【0027】
  ここで言う「水溶性」とは、25℃において水1L中に溶解するエチレン性不飽和単量体の量が10g以上である場合の事を言う。
 
【0028】
  なお、本明細書においては、スルホン酸基が塩基性物質などによって中和され、塩構造を有しているものも、スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体(D)に包含されるものとする。
 
【0029】
  スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体(D)としては、1以上のスルホン酸基、および1のエチレン性不飽和結合を有する単量体が好ましい。例えば、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸アンモニウム、スチレンスルホン酸リチウム、2−アクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸、メタリルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸、アリルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸アンモニウム、ビニルスルホン酸、アリルオキシベンゼンスルホン酸、アリルオキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、アリルオキシベンゼンスルホン酸アンモニウム等があげられる。
 
【0030】
  樹脂微粒子(A)を得るために用いられるエチレン性不飽和単量体の合計100重量%中、スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体(D)の含有量は、0.5〜3重量%であり、0.5〜1.5重量%が好ましい。含有量が0.5重量%未満であると、樹脂微粒子(A)のインキ組成物中での分散安定性が低下してしまう。含有量が3重量%を超えると、乳化重合時に凝集物が発生し、インキ組成物の吐出安定性に悪影響をもたらす上、印字物の耐水性、耐溶剤性が低下してしまう。また、印刷適性も低下する。
 
【0031】
  上記に挙げたスルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体の中でも、スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体(D)は、スチレンスルホン酸基を含有する事が好ましい。スチレンスルホン酸基を有するエチレン性不飽和単量体を使用する事により、樹脂微粒子(A)の粒子核成分がより安定化されるので、吐出性に悪影響をもたらす粗大粒子や凝集物の発生がさらに抑制され、インキ組成物の保存安定性も向上する。
 
【0032】
  スチレンスルホン酸基を含有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸アンモニウム、スチレンスルホン酸リチウム等が挙げられる。
 
【0033】
  非イオン性の水溶性エチレン性不飽和単量体(E)としては、その構造中に、少なくとも1つの非イオン性の水溶性置換基、及び1つのエチレン性不飽和結合を有することが好ましい。例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−プロポキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−ペントキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ(メトキシメチル)アクリルアミド、N−エトキシメチル−N−メトキシメチルメタアクリルアミド、N,N−ジ(エトキシメチル)アクリルアミド、N−エトキシメチル−N−プロポキシメチルメタアクリルアミド、N,N−ジ(プロポキシメチル)アクリルアミド、N−ブトキシメチル−N−(プロポキシメチル)メタアクリルアミド、N,N−ジ(ブトキシメチル)アクリルアミド、N−ブトキシメチル−N−(メトキシメチル)メタアクリルアミド、N,N−ジ(ペントキシメチル)アクリルアミド、N−メトキシメチル−N−(ペントキシメチル)メタアクリルアミ
ド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有エチレン性不飽和単量体;
  2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、アリルアルコール等のヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体;
  ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(日本油脂社製、ブレンマーPE−90、200、350、350G、AE−90、200、400等)ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート(日本油脂社製、ブレンマー50PEP−300、70PEP−350等)、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(日本油脂社製、ブレンマーPME−400、550、1000、4000等)等のポリエチレンオキサイド基含有エチレン性不飽和単量体;等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。これらは1種類または2種以上を併用して用いることができる。
 
【0034】
  上記の中でも、重合時の安定性の観点から、(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましい。
 
【0035】
  樹脂微粒子(A)を得るために用いられるエチレン性不飽和単量体の合計100重量%中、非イオン性の水溶性エチレン性不飽和単量体(E)の含有量は、0.1〜3重量%であり、0.1〜1.5重量%が好ましい。含有量が0.1重量%未満であると、樹脂微粒子(A)のインキ組成物中での分散安定性が低下してしまう。含有量が3重量%を超えると、樹脂微粒子(A)が増粘し、インキの吐出性に悪影響をもたらす。また、印字物の耐水性、耐溶剤性も低下してしまう。
 
【0036】
  水溶性エチレン性不飽和単量体(F)全体としては、樹脂微粒子(A)を得るために用いられるエチレン性不飽和単量体の合計100重量%中、0.6〜6重量%であり、0.6〜3.0重量%が好ましい。含有量が0.6重量%未満であると、樹脂微粒子(A)のインキ組成物中での分散安定性が低下してしまう。含有量が6重量%を超えると、樹脂微粒子(A)が増粘し、インキの吐出性に悪影響をもたらす。また、印字物の耐水性、耐溶剤性も低下してしまう。
 
【0037】
  架橋性エチレン性不飽和単量体(G)は樹脂微粒子内部を架橋する事で樹脂微粒子(A)のインキ組成物中での安定性をさらに向上させる働きをする。
 
【0038】
  架橋性エチレン性不飽和単量体(G)としては、例えば、アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジメタクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、アジピン酸ジビニル、イソフタル酸ジアリル、フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル等の2個以上のエチレン性不飽和基を有するエチレン性不飽和単量体;
  γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリブトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシメチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体;
  N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、アルキルエーテル化N−メチロール(メタ)アクリルアミド等のメチロール基含有エチレン性不飽和単量体が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。これらは1種類または2種以上を併用して用いることができる。
 
【0039】
  架橋性エチレン性不飽和単量体(G)の含有量は、樹脂微粒子(A)を得るために用いられるエチレン性不飽和単量体の合計100重量%中、0.1〜10重量%であり、0.4〜8.0重量%が好ましい。含有量が0.1重量%未満であると、インキ組成物の吐出安定性、保存安定性が悪化する。一方、含有量が10重量%を超えると、樹脂微粒子の造膜性が低下し、印字物の耐擦性、耐溶剤性が低下する。また、印字物の印刷適性や光沢、明度にも悪影響をおよぼす。
 
【0040】
  上記に挙げた架橋性エチレン性不飽和単量体の中でも、架橋性エチレン性不飽和単量体(G)は、アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体または2個以上のアリル基を有する単量体である事が好ましい。一般的に架橋性エチレン性不飽和単量体を使用すると、樹脂微粒子のインキ組成物中での安定性は増加するが、乾燥時の造膜性はやや低下してしまう傾向にある。しかしながら、これらの架橋性エチレン性不飽和単量体は、樹脂微粒子の乾燥時の造膜性を低下させる事がほとんど無く、グリコール系溶剤(H)ならびにエチレングリコールエーテル系溶剤(I)を含むインキ組成物中での安定性を向上させる事ができる。
 
【0041】
  アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体としては、例えば、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリブトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシメチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
 
【0042】
  2個以上のアリル基を有する単量体としては、例えば、イソフタル酸ジアリル、フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル等が挙げられる。
 
【0043】
  さらに、樹脂微粒子(A)を得るために用いられるエチレン性不飽和単量体には、上記のエチレン性単量体(C)、(F)、及び(G)の他に、エチレン性単量体(C)、(G)、及び(F)と共重合可能なエチレン性不飽和単量体が含有されてもよい。
 
【0044】
  エチレン性不飽和単量体(C)、(F)、及び(G)と共重合可能なエチレン性単量体としては例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、tーブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート等の直鎖または分岐アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;
  シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等の脂環式アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;
  トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート等のフッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;等が挙げられる。
 
【0045】
  これらのエチレン性不飽和単量体は1種を単独で使用しても、複数種を混合して用いても良い。
 
【0046】
  エチレン性単量体(C)、(G)、及び(F)と共重合可能なエチレン性不飽和単量体は、エチレン性不飽和単量体の合計100重量%中、70重量%以下の割合で用いることが好ましい。
 
【0047】
  上記に記載した範囲の各種エチレン性不飽和単量体を乳化重合させてなる樹脂微粒子(A)は、分散安定性に大変優れるため、粒子径を小さくかつ高固形分にしても水分散体が低粘度であり、ノズル詰まりの原因となる凝集物も非常に少ない。また、インキ組成物に使用されるグリコール系溶剤(H)およびエチレングリコールエーテル系溶剤(I)に対しても、混合時に凝集する事もなく、経時安定性に優れる。その一方で、乾燥時にはこれらの溶剤を含むインキ組成物中での造膜性が大変良好である事から、印字物は優れた塗膜耐性を発現する。
 
【0048】
  樹脂微粒子(A)の平均粒子径は、60〜250nmであることが好ましく、さらに好ましくは、60〜120nmの範囲である。平均粒子径が60nm以上であると樹脂微粒子(A)のインキ組成物中での保存安定性が非常に良好となる。平均粒子径が250nm以下だと、インキ組成物の吐出性が非常に優れ、樹脂微粒子(A)の造膜不良がなく、印字物の光沢や明度に悪影響を及ぼすことがない。
 
【0049】
  上記の平均粒子径とは樹脂微粒子水分散体の水希釈液にレーザー光を照射して、その散乱光から粒子のブラウン運動を検出する動的光散乱法により測定した値である。
 
【0050】
  樹脂微粒子(A)のガラス転移温度(Tg)は40〜120℃であることが好ましい。ガラス転移温度(Tg)が40℃以上であると、印字物の耐水性や耐溶剤性が十分に発現される。ガラス転移温度(Tg)が120℃以下だと、樹脂微粒子(A)の造膜性が良好で、印字物の耐擦性や耐水性、耐溶剤性に優れる。
 
【0051】
  上記のガラス転移温度(Tg)は、DSC(示差走査熱量計)を用いて求めた値である
  インキ調製時において、樹脂微粒子(A)は水分散体の形態で使用するわけであるが、樹脂微粒子(A)の水分散体は、25℃、固形分濃度(以下、固形分濃度を「NV」と略記する場合がある)40重量%の条件下において測定した粘度が、5〜200mPa・sである事が好ましい。粘度が5mPa・s以上の樹脂微粒子水分散体は、平均粒子径が60〜250nmの範囲に調製が容易である。粘度が200mPa・s以下だと、インキ組成物の増粘がなく、吐出性が優れ、印刷適性が良好ある。
 
【0052】
  本明細書において「粘度」とは、25℃、水分散体の固形分濃度40重量%の条件下において、二重円筒型粘度計(BL型粘度計)を用いて測定した値である。
 
【0053】
  固形分40重量%の樹脂微粒子水分散体の調製は、重合反応が完結した時の固形分濃度が40重量%になるように原料を仕込んでも良いし、高固形分となるように合成したものを水で40重量%まで希釈するか、もしくは低固形分となるように合成したものを、ストリッピング等の操作で40重量%まで濃縮して調製しても良い。
 
【0054】
  樹脂微粒子(A)について、固形分濃度30ppmの樹脂微粒子(A)水分散液における粒子径1μm以上の粗大粒子量が4×10
4個/cm
3以下である事が好ましい。
 
【0055】
  固形分濃度30ppmの水分散液における、粒子径が1μm以上の粗大粒子量が4×10
4個/cm
3以下だと、ヘッドがノズル詰まりを起こすことなく、インキの吐出性が良好である。
 
【0056】
  上記の粗大粒子量は、樹脂微粒子水分散体の水希釈液にレーザー光を照射して、その投影径の個数をカウントする方式により測定した値である。測定方法としては、例えば、Accusizer  SIS/SW788測定装置(インターナショナルビジネス株式会社製)を用い、合成により得られた固形分濃度40%の樹脂微粒子(A)を15000倍希釈することによって、固形分濃度30ppmの希釈液を得る。この希釈液を測定することによって粒子数を定量することができる。
 
【0057】
  樹脂微粒子(A)は、従来既知の乳化重合方法により合成される。
 
【0058】
  乳化重合の際に用いられる乳化剤としては、エチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤やエチレン性不飽和基を有しない非反応性乳化剤など、従来公知のものを任意に使用することができる。
 
【0059】
  エチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤はさらに大別して、アニオン系、非イオン系のノニオン系のものが例示できる。特にエチレン性不飽和基を有するアニオン系反応性乳化剤若しくはノニオン系反応性乳化剤を用いると、共重合体の分散粒子径が微細となるとともに粒度分布が狭くなるため、水性インクジェットインキ用バインダー樹脂として使用した際に耐摩擦性や耐アルコール性を向上することができ好ましい。このエチレン性不飽和基を有するアニオン系反応性乳化剤もしくはノニオン系反応性乳化剤は、1種を単独で使用しても、複数種を混合して用いても良い。
 
【0060】
  エチレン性不飽和基を有するアニオン系反応性乳化剤の一例として、以下にその具体例を例示するが、以下に記載するもののみを限定するものではない。前記乳化剤としては、アルキルエーテル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンKH−05、KH−10、KH−20、株式会社ADEKA製アデカリアソープSR−10N、SR−20N、花王株式会社製ラテムルPD−104など);
  スルフォコハク酸エステル系(市販品としては、例えば、花王株式会社製ラテムルS−120、S−120A、S−180P、S−180A、三洋化成株式会社製エレミノールJS−2など);
 アルキルフェニルエーテル系もしくはアルキルフェニルエステル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンH−2855A、H−3855B、H−3855C、H−3856、HS−05、HS−10、HS−20、HS−30、株式会社ADEKA製アデカリアソープSDX−222、SDX−223、SDX−232、SDX−233、SDX−259、SE−10N、SE−20N、など);
 (メタ)アクリレート硫酸エステル系(市販品としては、例えば、日本乳化剤株式会社製アントックスMS−60、MS−2N、三洋化成工業株式会社製エレミノールRS−30など);
 リン酸エステル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製H−3330PL、株式会社ADEKA製アデカリアソープPP−70など)が挙げられる。
 
【0061】
  ノニオン系反応性乳化剤としては、例えばアルキルエーテル系(市販品としては、例えば、株式会社ADEKA製アデカリアソープER−10、ER−20、ER−30、ER−40、花王株式会社製ラテムルPD−420、PD−430、PD−450など);
  アルキルフェニルエーテル系もしくはアルキルフェニルエステル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50、株式会社ADEKA製アデカリアソープNE−10、NE−20、NE−30、NE−40など);
  (メタ)アクリレート硫酸エステル系(市販品としては、例えば、日本乳化剤株式会社製RMA−564、RMA−568、RMA−1114など)が挙げられる。
 
【0062】
  樹脂微粒子(A)を乳化重合により得るに際しては、前記したエチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤とともに、必要に応じエチレン性不飽和基を有しない非反応性乳化剤を併用することができる。非反応性乳化剤は、非反応性アニオン系乳化剤と非反応性ノニオン系乳化剤とに大別することができる。
 
【0063】
  非反応性ノニオン系乳化剤の例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル類;
  ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類;
  ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエートなどのソルビタン高級脂肪酸エステル類;
  ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートなどのポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル類;
  ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレートなどのポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル類;
  オレイン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノグリセライドなどのグリセリン高級脂肪酸エステル類;
  ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ブロックコポリマー、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルなどを例示することができる。
 
【0064】
  また、非反応性アニオン系乳化剤の例としては、オレイン酸ナトリウムなどの高級脂肪酸塩類;
  ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルアリールスルホン酸塩類;
  ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸エステル塩類;
  ポリエキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類;
  ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩類;
  モノオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸ナトリウムなどのアルキルスルホコハク酸エステル塩およびその誘導体類;
  ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩類などを例示することができる。
 
【0065】
  乳化重合時に使用する乳化剤量はエチレン性不飽和単量体の合計100重量部に対して、0.5〜2.0重量部である事が好ましい。乳化剤量が0.5重量部以上だと、乳化重合時に樹脂微粒子(A)が安定し、ノズル詰まりの原因となる凝集物の発生が非常に少ない。一方で乳化剤量が2.0重量部以下だと、低分子量の溶出成分が少なく、印字物の塗膜耐性が優れる。
 
【0066】
  樹脂微粒子(A)水分散体の乳化重合に際して用いられる水性媒体としては、水が挙げられ、親水性の有機溶剤も本発明の目的を損なわない範囲で使用することができる。
 
【0067】
  樹脂微粒子(A)水分散体を得るに際して用いられる重合開始剤としては、ラジカル重合を開始する能力を有するものであれば特に制限はなく、公知の油溶性重合開始剤や水溶性重合開始剤を使用することができる。好ましくは、水溶性重合開始剤を使用する。
 
【0068】
  油溶性重合開始剤としては特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)、tert−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、ジ−tert−ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物;
  2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス−シクロヘキサン−1−カルボニトリルなどのアゾビス化合物を挙げることができる。これらは1種類または2種類以上を混合して使用することができる。これら重合開始剤は、エチレン性不飽和単量体100重量部に対して、0.1〜10.0重量部の量を用いるのが好ましい。
 
【0069】
  水溶性重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライドなど、従来既知のものを好適に使用することができる。
 
【0070】
  また、乳化重合を行うに際して、所望により重合開始剤とともに還元剤を併用することができる。これにより、乳化重合速度を促進したり、低温において乳化重合を行ったりすることが容易になる。このような還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、エルソルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、ホルムアルデヒドスルホキシラートなどの金属塩等の還元性有機化合物、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウムなどの還元性無機化合物、塩化第一鉄、ロンガリット、二酸化チオ尿素などを例示できる。これら還元剤は、エチレン性不飽和単量体100重量部に対して、0.05〜5.0重量部の量を用いるのが好ましい。なお、前記した重合開始剤によらずとも、光化学反応や、放射線照射等によっても重合を行うことができる。重合温度は各重合開始剤の重合開始温度以上とする。例えば、過酸化物系重合開始剤では、通常70℃程度とすればよい。重合時間は特に制限されないが、通常2〜24時間である。
 
【0071】
  さらに必要に応じて、緩衝剤として、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどが、また、連鎖移動剤としてのオクチルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシル、チオグリコール酸オクチル、ステアリルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン類が適量使用できる。
 
【0072】
  乳化重合終了後に得られた樹脂微粒子(A)水分散体について、塩基性化合物で中和することができる。中和する際、アンモニアもしくはトリメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミンなどのアルキルアミン類;
  2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノールなどのアルコールアミン類;
モルホリン
等の塩基で中和することができる。
 
【0073】
  水性インクジェット用インキ組成物の具体例は、顔料、顔料分散樹脂、樹脂微粒子(A)、水、親水性溶剤(B)を配合している。
 
【0074】
  水性インクジェット用インキ組成物中に、上記の樹脂微粒子(A)水分散体を固形分換算で1〜20重量%含有するのが好ましく、2〜15重量%使用するのがより好ましい。樹脂微粒子(A)水分散体が固形分換算で重量1%以上であると、被印刷体上と顔料粒子、もしくは顔料粒子同士の結着が良好となり、印字物の耐擦性や耐水性に優れる。一方、樹脂微粒子(A)水分散体が固形分換算で20重量%以下だと、インキ組成物の粘度が上昇することなく、吐出性が良好である。
 
【0075】
  顔料分散時に使用する顔料分散樹脂は、水系での分散安定化の観点から、カルボキシル基を有する水溶性樹脂が好ましい。例えば、アクリル系、スチレン−アクリル系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリウレタン系の樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、市販品を使用しても構わない。市販品としては、例えば、BASF社製JONCRYL67、JONCRYL678、JONCRYL586、JONCRYL611、JONCRYL683、JONCRYL690、JONCRYL57J、JONCRYL60J、JONCRYL61J、  JONCRYL62J、JONCRYL63J、JONCRYLHPD−96J、JONCRYL501J、JONCRYLPDX−6102B、ビックケミー社製DISPERBYK、DISPERBYK180、DISPERBYK187、DISPERBYK190、DISPERBYK191、DISPERBYK194、DISPERBYK2010、DISPERBYK2015、DISPERBYK2090、DISPERBYK2091、DISPERBYK2095、DISPERBYK2155、ゼネカ社製SOLSPERS41000、サートマー社製、SMA1000H、SMA1440H、SMA2000H、SMA3000H、SMA17352H等が挙げられる。
 
【0076】
  顔料分散樹脂は、顔料10重量部に対して、好ましくは0.5〜20重量部、より好ましくは1〜10重量部の範囲で用いられる。顔料分散樹脂が顔料10重量部に対して0.5重量部以上であると顔料分散安定性が良好で、インキ組成物の経時安定性が優れる。一方、顔料分散樹脂が顔料10重量部に対して20重量部以下だとインキ組成物の粘度が上昇することなく、吐出性が良好である。
 
【0077】
  顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、炭酸カルシウム等の無彩色の顔料または有彩色の有機顔料が使用できる。有機顔料としては、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザエロー、ベンジジンエロー、ピラゾロンレッドなどの不溶性アゾ顔料、リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2Bなどの溶性アゾ顔料、アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーンなどの建染染料からの誘導体、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系有機顔料、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタなどのキナクリドン系有機顔料、ペリレンレッド、ペリレンスカーレットなどのペリレン系有機顔料、イソインドリノンエロー、イソインドリノンオレンジなどのイソインドリノン系有機顔料、ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジなどのピランスロン系有機顔料、チオインジゴ系有機顔料、縮合アゾ系有機顔料、ベンズイミダゾロン系有機顔料、キノフタロンエローなどのキノフタロン系有機顔料、イソインドリンエローなどのイソインドリン系有機顔料、その他の顔料として、フラバンスロンエロー、アシルアミドエロー、ニッケルアゾエロー、銅アゾメチンエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等が挙げられる。
 
【0078】
  有機顔料をカラーインデックス(C.I.)ナンバーで例示すると、C.I.ピグメントエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86  93、109、110、117、120、125、128、129、137、138、139、147、148、150、151、153、154、155、166、168、180、185、C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、C.I.ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、177、180、192、202、206、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64、C.I.ピグメントグリーン7、36、C.I.ピグメントブラウン23、25、26等が挙げられる。
 
【0079】
  カーボンブラックの具体例としては、デグサ社製「Special  Black350、250、100、550、5、4、4A、6」「PrintexU、V、140U、140V、95、90、85、80、75、55、45、40、P、60、L6、L、300、30、3、35、25、A、G」、キャボット社製「REGAL400R、660R、330R、250R」「MOGUL  E、L」、三菱化学社製「MA7、8、11、77、100、100R、100S、220、230」「#2700、#2650、#2600、#200、#2350、#2300、#2200、#1000、#990、#980、#970、#960、#950、#900、#850、#750、#650、#52、#50、#47、#45、#45L、#44、#40、#33、#332、#30、#25、#20、#10、#5、CF9、#95、#260」等が挙げられる。
 
【0080】
  酸化チタンの具体例としては、石原産業社製「タイペークCR−50、50−2、57、80、90、93、95、953、97、60、60−2、63、67、58、58−2、85」「タイペークR−820,830、930、550、630、680、670、580、780、780−2、850、855」「タイペークA−100、220」「タイペークW−10」「タイペークPF−740、744」「TTO−55(A)、55(B)、55(C)、55(D)、55(S)、55(N)、51(A)、51(C)」「TTO−S−1、2」「TTO−M−1、2」、テイカ社製「チタニックスJR−301、403、405、600A、605、600E、603、805、806、701、800、808」「チタニックスJA−1、C、3、4、5」、デュポン社製「タイピュアR−900、902、960、706、931」などが挙げられる。イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックなどの有機顔料は、水性インクジェットインキ100重量%中に通常0.2〜15重量%、好ましくは0.5〜10重量%用いられる。また、白の酸化チタンの場合は通常5〜50重量%、好ましくは10〜45重量%の割合で配合することが好ましい。
 
【0081】
  親水性溶剤(B)は、グリコール系溶剤(H)ならびにエチレングリコールエーテル溶剤(I)を含む。
 
【0082】
  グリコール系溶剤(H)としては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ペンチレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、複数種を混合して用いても良い。
 
【0083】
  エチレングリコールエーテル系溶剤(I)としては、例えば、メチルグリコール、メチルジグリコール、メチルトリグリコール、イソプロピルジグリコール、ブチルグリコール、ブチルジグリコール、ブチルトリグリコール、イソブチルグリコール、イソブチルジグリコール、ヘキシルグリコール、ヘキシルジグリコール、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、複数種を混合して用いても良い。
 
【0084】
  親水性溶剤(B)は、上記以外にも、その他の親水性溶剤を含んでもよい。その他の親水性溶剤としては、メチルプロピレングリコール、メチルプロピレンジグリコール、メチルプロピレントリグリコール、プロピルプロピレングリコール、プロピルプロピレンジグリコール等のグリコールエーテル系溶剤;
  N−メチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、ε−カプロラクタム等のラクタム系溶剤;
  ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、出光製エクアミドM−100、エクアミドB−100等のアミド系溶剤等が挙げられる。
 
【0085】
  これらの溶剤はインキ組成物中で保湿剤成分ならびに浸透剤成分として添加される。グリコール系溶剤(H)は、インキの表面張力を下げる他に、樹脂微粒子(A)の乾燥性を改善する働きをする。グリコール系溶剤(H)を使用することにより、樹脂微粒子(A)の乾燥を防止し、インキ組成物のノズル詰まりを防止する。また、印刷適性も良好となる。
 
【0086】
  また、エチレングリコールエーテル溶剤(I)は、インキ自体の表面張力を下げ、難吸収性基材上でのインキ液滴の濡れ広がりを改善する他に、乾燥時の樹脂微粒子(A)の造膜を促進させる働きをする。エチレングリコールエーテル溶剤(I)を使用することにより、樹脂微粒子(A)の造膜性が非常に優れ印字物の塗膜耐性が良好となる。またインキの濡れ拡がりも防止するので印刷適性も大幅に向上する。これらの親水性溶剤を添加すると、難吸収性基材上へのインキ液滴の濡れ広がりが改善され、樹脂微粒子の分散安定性を維持して、さらに乾燥時に十分な造膜性を発現する。また、樹脂微粒子(A)は、これらの親水性溶剤に侵されて分散安定性が低下する事がほとんど無い。そのため、インキ組成物の保存安定性、吐出性には大変優れている。一方で、乾燥時には、樹脂微粒子(A)の造膜性が十分に促進されるので、印字物は良好な塗膜耐性を発現する。
 
【0087】
  水性インクジェット用インキ組成物100重量%中において、グリコール系溶剤(H)は、10〜40重量%含有していることが好ましく、10〜35重量%がより好ましい。グリコール系溶剤(H)の含有量が10重量%以上であると樹脂微粒子(A)がインキ組成物中で乾燥しにくく、ノズル詰まりが発生せず、印刷適性が優れる。一方、グリコール系溶剤(H)の含有量が40重量以下だと、印字物の乾燥性が良好で、塗膜耐性や印刷適性が優れる。
 
【0088】
  更に水性インクジェット用インキ組成物100重量%中において、エチレングリコールエーテル溶剤(I)を0.1〜15重量%含有していることが好ましく、より好ましくは0.1〜5重量%の範囲内である。エチレングリコールエーテル系溶剤(I)の含有量が0.1重量%以上であると、印刷適性が良好で、樹脂微粒子(A)の造膜性に優れ、印字物の密着性、耐擦性、耐水性、耐溶剤性が優れる。一方、エチレングリコールエーテル系溶剤(I)の含有量が15重量%以下だと、インキ組成物中での樹脂微粒子(A)の分散安定性が良好で、インキの保存安定性ならびに吐出性、印刷適性が良好である。
 
【0089】
  親水性溶剤(B)全体としては、水性インクジェット用インキ組成物100重量%中に通常10〜60重量%、好ましくは20〜50重量%用いられる。親水性溶剤(B)が10重量%以上だと、ノズルでのインキ組成物の乾燥がなく、吐出性が優れる。一方、親水性溶剤(B)が60重量%以下だと、印字物の乾燥性が優れ、密着性、耐擦性、耐水性、耐溶剤性等の塗膜耐性が良好である。
 
【0090】
  水性インクジェット用インキ組成物の製造方法は、特に限定されない。例えば、まず、上述の方法により樹脂微粒子(A)を含む樹脂微粒子(A)水分散体を作製する。また、顔料、顔料分散樹脂および水をよく混合して顔料分散液を作製する。次に、得られた樹脂微粒子(A)水分散体および顔料分散液を、水、親水性溶剤(B)とよく混合することにより水性インクジェット用インキ組成物を製造することができる。混合には、分散機、例えば、ペイントコンディショナーを用いることができる。
 
【0091】
  水性インクジェット用インキ組成物を好適に塗布し得る基材としては、例えば、上質紙等の浸透系基材、アート紙、コート紙、ポリ塩化ビニルシート等の非浸透系基材が挙げられる。
 
【0092】
  水性インクジェット用インキ組成物を用いたインクジェット印刷方式としてはオンデマンド型の記録ヘッドを有するインクジェット方式が挙げられる。オンデマンド型としては、例えばピエゾ方式、サーマルインクジェット方式、静電方式等が例示されるが、ピエゾ方式が最も好ましい。
 
【0093】
  また、水性インクジェット用インキ組成物を用いての印刷に際しては、印字物の乾燥性および耐性を補強する目的で、印字工程に必要に応じて加熱乾燥工程を導入することができる。加熱乾燥工程を導入することでバインダー樹脂組成物の成膜性も向上する場合があり、適度な加熱処理は好ましい。加熱処理工程は印刷工程(インクジェット印字速度)に影響のない程度に用いることができ、例えば、40〜100℃で1〜200秒の範囲で処理されることが一般的である。
 
【実施例】
【0094】
  以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を表す。
【0095】
  [合成例1]
  攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水55部と乳化剤としてアクアロンKH−10(第一工業製薬株式会社製)0.4部とを仕込んだ。
【0096】
  別途、2−エチルヘキシルアクリレート24部、メチルメタクリレート34部、スチレン34部、スチレンスルホン酸ナトリウム1.0部、アクリルアミド1.0部、ビニルトリエトキシシラン6.0部、イオン交換水30部および乳化剤としてアクアロンKH−10  0.6部をホモミキサーで攪拌混合して調製した乳化液を、5部分取して、上記の反応容器に加えた。
【0097】
  次に、内温を70℃に昇温し十分に窒素置換した後、過硫酸カリウムの5%水溶液4.0部、および無水重亜硫酸ナトリウムの1%水溶液5.0部を添加して重合を開始した。反応開始後、内温を75℃に保ちながら上記の乳化液の残りと過硫酸カリウムの5%水溶液1.5部、および無水重亜硫酸ナトリウムの1%水溶液5.8部を1.5時間かけて滴下し、さらに2時間攪拌を継続した。反応終了後、温度を30℃まで冷却し、ジメチルアミノエタノールを添加して、pHを8.9とした。さらにイオン交換水で固形分を40%に調整して樹脂微粒子(A)水分散体を得た。得られた樹脂微粒子(A)の平均粒子径は78nm、ガラス転移温度は45℃、樹脂微粒子(A)水分散体の粘度は42mPa・sであった。
【0098】
  [合成例2〜34]
  表1および表2に示す配合組成で、合成例1と同様の方法で合成し、樹脂微粒子(A)水分散体を得た。尚、合成例14では反応容器に仕込む乳化剤アクアロンKH−10の仕込み量を1.0部に、合成例16では0.1部に、合成例18では0.2部に変更して乳化重合をおこなった。得られた樹脂微粒子(A)水分散体の基礎物性として、凝集物の有無、粗大粒子量、ガラス転移温度(Tg)、平均粒子径、粘度について評価をおこなった。
【0099】
  [凝集物の有無]
  樹脂微粒子(A)水分散体を180メッシュ(100μm)のろ布で濾過し、合成時に発生する樹脂微粒子(A)水分散体1kg当たりの凝集物量を測定した。評価基準は以下の通りである。
【0100】
○:0.1g未満である
△:0.1g以上、0.3g未満である
×:0.3g以上である
  [粗大粒子量]
  樹脂微粒子(A)水分散体を15000倍に水希釈し、該希釈液約20mlを個数カウント方式粒子径測定装置(Accusizer  SIS/SW788測定装置、インターナショナルビジネス株式会社製)により測定をおこなった。この時得られた個数平均粒子径分布データ(ヒストグラム)をもとに、粒子径が1μm以上の粗大粒子量を算出した。
【0101】
  [ガラス転移温度(Tg)]
  ガラス転移温度(Tg)は、DSC(示差走査熱量計  TAインスツルメント社製)により測定した。樹脂微粒子(A)水分散体を乾固したサンプル約2mgをアルミニウムパン上で秤量し、該アルミニウムパンをDSC測定ホルダーにセットし、5℃/分の昇温条件にて得られるチャートの吸熱ピークを読み取り、ガラス転移温度(Tg)を得た。
【0102】
  [平均粒子径]
  樹脂微粒子(A)水分散体を500倍に水希釈し、該希釈液約5mlを動的光散乱測定法(測定装置はマイクロトラック(株)日機装製)により測定をおこなった。この時、得られた体積粒子径分布データ(ヒストグラム)のピークを平均粒子径とした。
【0103】
  [粘度]
  重円筒型粘度計(BL型粘度計  TOKIMEC製)で温度25℃、ローターNo.1、回転数30rpm、樹脂微粒子水分散体の固形分濃度40重量%の条件下において、樹脂微粒子(A)水分散体の粘度を測定した。
【表1】
【表2】
【0104】
  <濃縮顔料分散液の製造>
  [シアン顔料分散液の製造]
  顔料[Lionogen  Blue  7351東洋インキ社製]20部、顔料分散樹脂[BASF(株)社製  ジョンクリル61J、固形分30%水溶液]30部、イオン交換水29.3部、消泡剤[サーフィノール104E  日信化学工業製]0.5部をペイントコンディショナーにて2時間分散し、濃縮シアン顔料分散液を得た。
【0105】
  [マゼンタ顔料分散液の製造]
  顔料をFastogen  Super  Magenta  RGT  DIC社製  20部に変えた以外は、シアン顔料分散液と同様の方法で、濃縮マゼンタ顔料分散液を得た。
【0106】
  [イエロー顔料分散液の製造]
  顔料をNovoperm  Yellow  H2G  クラリアント社製  20部に変えた以外は、シアン顔料分散液と同様の方法で、濃縮マゼンタ顔料分散液を得た。
【0107】
  [ブラック顔料分散液の製造]
  顔料をPrintex  85  エボニックデグサ社製  20部に変えた以外は、シアン顔料分散液と同様の方法で、濃縮マゼンタ顔料分散液を得た。
【0108】
  [実施例1]
  合成例1で得られた樹脂微粒子水分散体12.5部に対して、上記のシアン顔料分散液20.0部、親水性溶剤としてプロピレングリコール28.0部、ヘキシルジグリコール2.0部、イオン交換水37.5部を加えた後、混練して水性インクジェット用インキ組成物を得た。同様の調製をマゼンタ顔料分散液、イエロー顔料分散液、ブラック顔料分散液のそれぞれについてもおこない、4色の水性インクジェット用インキ組成物を得た。
【0109】
  [実施例2〜30および比較例1〜22]
  表3および表4に示す配合組成で、実施例1と同様の方法で調製し、水性インクジェット用インキ組成物を得た。
【表3】
【0110】
【表4】
【0111】
【0112】
  [水性インクジェット用インキ組成物の評価]  
  上記で調製した4色の水性インクジェット用インキ組成物を、25℃環境下でセイコーアイ・インフォテック社製ソルベントインクインクジェットプリンタColor  Painter  64SPlusに充填し、基材に画像を印刷した。インキ組成物については、保存安定性、吐出性を評価した。印刷後、基材を80℃で3分ほど加熱処理して評価用印字物を得た。これを用いて、印刷適性、光沢、明度、密着性、耐擦性、耐水性、耐溶剤性の各種塗膜物性を評価した。表5および表6にその結果を示す。
【0113】
  [保存安定性]
  水性インクジェット用インキ組成物について、70℃、2週間の条件下で、粘度の経時変化を評価した。粘度はレオメーター(TAインスツルメンツ社製AR−2000)を使用して測定した。評価基準は以下の通りである。
【0114】
◎;インキの粘度変化が±10%未満である
○;インキの粘度変化が±10%以上、±15%未満である
△;インキの粘度変化が±15%以上、±20%未満である
×;インキの粘度変化が±20%以上である
  [吐出性]
  上記のプリンタにて、印字の待機中(室温、新しいインキが供給されない状態)に乾燥してノズル詰まりが発生するまでの時間を評価した。ここで言うノズル詰まりとは印字の待機中にノズルにインキが詰まって印字できなくなる状態の事を指す。ノズル詰まりがないと、吐出性が良好と言うことができる。評価基準は以下の通りである。
【0115】
◎:60分でノズル詰まりが発生しない
○:60分でノズル詰まりが発生する
△:30分でノズル詰まり発生する
×:10分でノズル詰まり発生する
  [印刷適性]
  上記のプリンタにて、コート紙(王子製紙製OKトップコート+)ならびに塩化ビニルシート(METAMARK社製  MD5)に印刷をおこなった。印刷したサンプルをルーペで観察し、ドットのつながりや色のムラなどを評価した。評価基準は以下の通りである。
【0116】
○:印刷品質が良好なもの
△:ある程度良好なもの
×:良好でないもの
  [光沢]
    評価用印字物(コート紙、インキはブラック)について、光沢計(BYK  Gardner社製  Micro−TRI−gloss)にて60°光沢を測定した。評価基準は以下の通りである。
【0117】
◎:光沢100以上である
○:光沢70以上、100未満である
△:光沢55以上、70未満である
×:光沢55未満である
  [明度]
評価用印字物(コート紙、インキはブラック)について、色差計(SE2000  日本電色製)で明度(L値)を測定した。評価基準は以下の通りである。
【0118】
○;L値が8.5未満である
△;L値が8.5以上、10未満である
×;L値が10以上である
  [密着性]
  評価用印字物(コート紙)の印字面にセロハンテープを貼り付けた後、低速で剥がした。評価基準は以下の通りである。
【0119】
○:剥離物がセロハンテープに付着していない
×:剥離物がセロハンテープに付着している
  [耐擦性]
  評価用印字物(コート紙)の印字面に学振耐摩試験機(テスター産業製  AB−301)で荷重200g/cm
2(接触面はコート紙)の条件で50回往復させて印字面の傷を評価した。評価基準は以下の通りである。
【0120】
○:傷が無い状態である
△:傷は有るが基材は見えない
×:傷が多く基材が見える
  [耐水性・耐溶剤性]
  水、水/エタノール混合溶剤(重量比:50/50)、エタノールのいずれかを綿棒に浸し、評価用印字物(コート紙)の印字面を5往復程ラビングした。評価基準は以下の通りである。
【0121】
○:侵食が無く、綿棒にインキが付着していない
△:綿棒にインキは付着するが、基材表面が見えない
×:綿棒にインキが付着し、基材表面も見える
【表5】
【表6】
【0122】
  表5および表6に示すように、実施例1〜30の水性インクジェット用インキ組成物はインキ物性(保存安定性、吐出性)、印字物の印刷適性、光沢、明度、各種塗膜物性(密着性、耐擦性、耐水性、耐溶剤性)全てにおいて優れている事がわかった。
【0123】
  一方、比較例1〜13,15〜16,18〜19、21〜22の水性インクジェット用インキ組成物によると、インキ物性が非常に劣っている。また、比較例17〜18,20,22の水性インクジェット用インキ組成物によると、印刷適正が非常に劣っている。さらに、比較例13,14,17の水性インクジェット用インキ組成物によると、塗膜物性が非常に劣っている。