特許第5736392号(P5736392)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5736392弾性波素子と、これを用いたアンテナ共用器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5736392
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】弾性波素子と、これを用いたアンテナ共用器
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/145 20060101AFI20150528BHJP
   H03H 9/64 20060101ALI20150528BHJP
   H03H 9/72 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   H03H9/145 Z
   H03H9/64 Z
   H03H9/72
【請求項の数】16
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-551421(P2012-551421)
(86)(22)【出願日】2012年3月12日
(86)【国際出願番号】JP2012001682
(87)【国際公開番号】WO2012140831
(87)【国際公開日】20121018
【審査請求日】2013年11月6日
(31)【優先権主張番号】特願2011-88490(P2011-88490)
(32)【優先日】2011年4月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】514250975
【氏名又は名称】スカイワークス・パナソニック フィルターソリューションズ ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】清水 英仁
(72)【発明者】
【氏名】中村 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆裕
【審査官】 橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/001522(WO,A1)
【文献】 特開平07−283688(JP,A)
【文献】 特開2009−290914(JP,A)
【文献】 特開2007−104057(JP,A)
【文献】 国際公開第1996/010293(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/147787(WO,A1)
【文献】 米国特許第05113115(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/145
H03H 9/64
H03H 9/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1および第2の弾性波共振器を備えた弾性波素子であって、
前記第1の弾性波共振器の第1の複数電極指の延伸方向に対して垂直の方向と前記第1の複数電極指の配列方向とのなす角である第1のチルト角と、前記第2の弾性波共振器の第2の複数電極指の延伸方向に対して垂直の方向と前記第2の複数電極指の配列方向とのなす角である第2のチルト角とが異なり、
前記第1の弾性波共振器は前記弾性波素子の直列腕に接続された直列共振器であり、
前記第2の弾性波共振器は前記弾性波素子の並列腕に接続された並列共振器であり、
前記第1の弾性波共振器の共振周波数におけるパワーフロー角は、前記第2の弾性波共振器の反共振周波数におけるパワーフロー角よりも大きく、
前記第1のチルト角は前記第2のチルト角よりも大きい、弾性波素子。
【請求項2】
第1および第2の弾性波共振器を備えた弾性波素子であって、
前記第1の弾性波共振器の第1の複数電極指の延伸方向に対して垂直の方向と前記第1の複数電極指の配列方向とのなす角である第1のチルト角と、前記第2の弾性波共振器の第2の複数電極指の延伸方向に対して垂直の方向と前記第2の複数電極指の配列方向とのなす角である第2のチルト角とが異なり、
前記第1の弾性波共振器は前記弾性波素子の直列腕に接続された直列共振器であり、
前記第2の弾性波共振器は前記弾性波素子の並列腕に接続された並列共振器であり、
前記第1の弾性波共振器の共振周波数におけるパワーフロー角は、前記第2の弾性波共振器の反共振周波数におけるパワーフロー角よりも小さく、
前記第1のチルト角は前記第2のチルト角よりも小さい、弾性波素子。
【請求項3】
第1および第2の弾性波共振器を備えた弾性波素子であって、
前記第1の弾性波共振器の第1の複数電極指の延伸方向に対して垂直の方向と前記第1の複数電極指の配列方向とのなす角である第1のチルト角と、前記第2の弾性波共振器の第2の複数電極指の延伸方向に対して垂直の方向と前記第2の複数電極指の配列方向とのなす角である第2のチルト角とが異なり、
前記第1の弾性波共振器は前記弾性波素子の直列腕に接続された直列共振器であり、
前記第1のチルト角は、前記第1の弾性波共振器の共振周波数におけるパワーフロー角の±1°の範囲内である、弾性波素子。
【請求項4】
第1および第2の弾性波共振器を備えた弾性波素子であって、
前記第1の弾性波共振器の第1の複数電極指の延伸方向に対して垂直の方向と前記第1の複数電極指の配列方向とのなす角である第1のチルト角と、前記第2の弾性波共振器の第2の複数電極指の延伸方向に対して垂直の方向と前記第2の複数電極指の配列方向とのなす角である第2のチルト角とが異なり、
前記第2の弾性波共振器は前記弾性波素子の並列腕に接続された並列共振器であり、
前記第2のチルト角は、前記第2の弾性波共振器の反共振周波数におけるパワーフロー角の±1°の範囲内である、弾性波素子。
【請求項5】
第1および第2の弾性波共振器を備えた弾性波素子であって、
前記第1の弾性波共振器の第1の複数電極指の延伸方向に対して垂直の方向と前記第1の複数電極指の配列方向とのなす角である第1のチルト角と、前記第2の弾性波共振器の第2の複数電極指の延伸方向に対して垂直の方向と前記第2の複数電極指の配列方向とのなす角である第2のチルト角とが異なり、
前記第1および第2の弾性波共振器は前記弾性波素子の直列腕に接続された直列共振器であり、
前記第1の弾性波共振器の共振周波数におけるパワーフロー角は、前記第2の弾性波共振器の共振周波数におけるパワーフロー角よりも大きく、
前記第1のチルト角は、前記第2のチルト角よりも大きい、弾性波素子。
【請求項6】
第1および第2の弾性波共振器を備えた弾性波素子であって、
前記第1の弾性波共振器の第1の複数電極指の延伸方向に対して垂直の方向と前記第1の複数電極指の配列方向とのなす角である第1のチルト角と、前記第2の弾性波共振器の第2の複数電極指の延伸方向に対して垂直の方向と前記第2の複数電極指の配列方向とのなす角である第2のチルト角とが異なり、
前記第1および第2の弾性波共振器は前記弾性波素子の直列腕に接続された直列共振器であり、
前記第1の弾性波共振器の反共振周波数は前記第2の弾性波共振器の反共振周波数より低く、
前記第1の弾性波共振器の反共振周波数におけるグレーティングのパワーフロー角と前記第1のチルト角との差の絶対値は前記第2の弾性波共振器の反共振周波数におけるグレーティングのパワーフロー角と前記第2のチルト角との差の絶対値より小さい、弾性波素子。
【請求項7】
第1および第2の弾性波共振器を備えた弾性波素子であって、
前記第1の弾性波共振器の第1の複数電極指の延伸方向に対して垂直の方向と前記第1の複数電極指の配列方向とのなす角である第1のチルト角と、前記第2の弾性波共振器の第2の複数電極指の延伸方向に対して垂直の方向と前記第2の複数電極指の配列方向とのなす角である第2のチルト角とが異なり、
前記第1および第2の弾性波共振器は前記弾性波素子の並列腕に接続された並列共振器であり、
前記第1の弾性波共振器の反共振周波数におけるパワーフロー角は、前記第2の弾性波共振器の反共振周波数におけるパワーフロー角よりも小さく、
前記第1のチルト角は、前記第2のチルト角よりも小さい、弾性波素子。
【請求項8】
第1および第2の弾性波共振器を備えた弾性波素子であって、
前記第1の弾性波共振器の第1の複数電極指の延伸方向に対して垂直の方向と前記第1の複数電極指の配列方向とのなす角である第1のチルト角と、前記第2の弾性波共振器の第2の複数電極指の延伸方向に対して垂直の方向と前記第2の複数電極指の配列方向とのなす角である第2のチルト角とが異なり、
前記第1および第2の弾性波共振器は前記弾性波素子の並列腕に接続された並列共振器であり、
前記第1の弾性波共振器の共振周波数は前記第2の弾性波共振器の共振周波数より高く、
前記第1の弾性波共振器の共振周波数におけるグレーティングのパワーフロー角と前記第1のチルト角との差の絶対値は前記第2の弾性波共振器の共振周波数におけるグレーティングのパワーフロー角と前記第2のチルト角との差の絶対値より小さい、弾性波素子。
【請求項9】
第1の周波数帯を通過帯域とする第1の弾性波フィルタと、前記第1の周波数帯より高い第2の周波数帯を通過帯域とする第2の弾性波フィルタとを備えたアンテナ共用器であって、
前記第1の弾性波フィルタは、前記第1の弾性波フィルタの直列腕に接続された第1の弾性波共振器と前記第1の弾性波フィルタの並列腕に接続された第2の弾性波共振器とを有し、
前記第1の弾性波共振器の電極指の延伸方向に対して垂直の方向と当該電極指の配列方向とのなす角である第1のチルト角と、前記第1の弾性波共振器の反共振周波数におけるパワーフロー角との差の絶対値は、前記第2の弾性波共振器の電極指の延伸方向に対して垂直の方向と当該電極指の配列方向とのなす角である第2のチルト角と、前記第2の弾性波共振器の共振周波数におけるパワーフロー角との差の絶対値より小さい、アンテナ共用器。
【請求項10】
第1の周波数帯を通過帯域とする第1の弾性波フィルタと、前記第1の周波数帯より高い第2の周波数帯を通過帯域とする第2の弾性波フィルタとを備えたアンテナ共用器であって、
前記第2の弾性波フィルタは、前記第2の弾性波フィルタの直列腕に接続された第1の弾性波共振器と前記第2の弾性波フィルタの並列腕に接続された第2の弾性波共振器とを有し、
前記第2の弾性波共振器の電極指の延伸方向に対して垂直の方向と当該電極指の配列方向とのなす角である第1のチルト角と、前記第2の弾性波共振器の共振周波数におけるパワーフロー角との差の絶対値は、前記第1の弾性波共振器の電極指の延伸方向に対して垂直の方向と当該電極指の配列方向とのなす角である第2のチルト角と、前記第1の弾性波共振器の反共振周波数におけるパワーフロー角の差の絶対値より小さい、アンテナ共用器。
【請求項11】
第1の周波数帯を通過帯域とする第1の弾性波フィルタと、前記第1の周波数帯より高い第2の周波数帯を通過帯域とする第2の弾性波フィルタとを備えたアンテナ共用器であって、
前記第1の弾性波フィルタは、信号を受信する受信フィルタであって、前記第1の弾性波フィルタの直列腕に接続された複数の第1の弾性波共振器と前記第1の弾性波フィルタの並列腕に接続された第2の弾性波共振器とを有し、
前記第1の直列共振器のうち、入力側初段の直列共振器の電極指の延伸方向に対して垂直の方向と当該電極指の配列方向とのなす角である第1のチルト角と、当該入力側初段の直列共振器の共振周波数におけるパワーフロー角との差の絶対値は、前記第1の直列共振器のうち、入力側初段以外のいずれかの直列共振器の電極指の延伸方向に対して垂直の方向と当該電極指の配列方向とのなす角である第2のチルト角と、当該入力側初段以外の直列共振器の共振周波数におけるパワーフロー角との差の絶対値より小さい、アンテナ共用器。
【請求項12】
第1の周波数帯を通過帯域とする第1の弾性波フィルタと、前記第1の周波数帯より高い第2の周波数帯を通過帯域とする第2の弾性波フィルタとを備えたアンテナ共用器であって、
前記第2の弾性波フィルタは、信号を受信する受信フィルタであって、前記第2の弾性波フィルタの直列腕に接続された複数の第1の弾性波共振器と前記第2の弾性波フィルタの並列腕に接続された第2の弾性波共振器とを有し、
前記第1の直列共振器のうち、入力側初段の直列共振器の電極指の延伸方向に対して垂直の方向と当該電極指の配列方向とのなす角である第1のチルト角と、当該入力側初段の直列共振器の共振周波数におけるパワーフロー角との差の絶対値は、前記第1の直列共振器のうち、入力側初段以外のいずれかの直列共振器の電極指の延伸方向に対して垂直の方向と当該電極指の配列方向とのなす角である第2のチルト角と、当該入力側初段以外の直列共振器の共振周波数におけるパワーフロー角との差の絶対値より小さい、アンテナ共用器。
【請求項13】
トリプルローテーションのカット角を有する圧電基板をさらに含み、
前記第1の弾性波共振器及び前記第2の弾性波共振器は前記圧電基板上に形成される、請求項1から8のいずれか一項に記載の弾性波素子。
【請求項14】
前記圧電基板はニオブ酸リチウムである、請求項13に記載の弾性波素子。
【請求項15】
前記第2の弾性波フィルタは、前記第2の弾性波フィルタの直列腕に接続された第3の弾性波共振器と、前記第2の弾性波フィルタの並列腕に接続された第4の弾性波共振器とを有する、請求項9に記載のアンテナ共用器。
【請求項16】
前記第1の弾性波フィルタは、前記第1の弾性波フィルタの直列腕に接続された第3の弾性波共振器と、前記第1の弾性波フィルタの並列腕に接続された第4の弾性波共振器とを有する、請求項10に記載のアンテナ共用器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波素子と、これを用いたアンテナ共用器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、弾性表面波素子を用いたフィルタが、携帯電話等を中心に多く利用されている。一般に、このようなフィルタは、圧電基板上にIDT(櫛形電極)および反射器を設けた共振器によって構成される。このようなフィルタにおいて、弾性表面波デバイスは、周波数帯、システムにより求められる特性が異なるため、周波数帯、システムに適した圧電基板を用いることが重要となる。ここで周波数帯、通過帯域は弾性表面波速度および電気機械結合係数が大きく影響し、これらの特性は圧電基板の材料およびカット角に大きく依存する。
【0003】
これで圧電基板においては、弾性表面波の波面の進行方向に対して結晶の対称性が無い場合、波面の進行方向(位相の伝搬方向)とエネルギーの進行方向とが異なるビームステアリングと呼ばれる現象が生じる。この波面の進行方向とエネルギーの進行方向とのなす角はパワーフロー角と呼ばれている。パワーフロー角が大きい場合には、エネルギーの損失が発生するため、フィルタ特性が劣化する場合がある。そのため、パワーフロー角が零となるようなカット角を用いることが考えられるが、このようなカット角で最適な弾性表面波速度および電気機械結合係数が得られるとは限らない。そこで、ビームステアリングがある状態で、如何に損失を低減するかということが重要となる。
【0004】
これを実現したフィルタとして、特許文献1が開示するような共振器で構成されたフィルタが提案されている。図10に、このフィルタ900の上面図を示す。フィルタ900では、圧電基板910上に1対のIDT電極901および反射器902が形成されている。IDT電極901の複数の電極指903は、その延伸方向が弾性表面波の波面の進行方向であるX軸に直交して、互いに平行に並ぶ。また、これらの電極指903の配列の方向は、X軸に対してパワーフロー角ξだけ傾斜したX’軸に沿った方向となっている。また、IDTの両側に設けられた反射器902も、X’軸に沿って配置される。さらに、反射器902を構成する複数の導体ストリップ904は、その延伸方向がX軸に直交して、互いに平行に並び、その配列の方向はX’軸に沿った方向となっている。これにより、エネルギーの進行方向に沿って、電極指903の交差領域と、反射器902とを配置することになるため、エネルギーを閉じ込めることができ、損失を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3216137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一般的に、パワーフロー角ξは圧電基板の材料およびカット角により一意に決定されるものとされているため、パワーフロー角ξを有するとされる圧電基板を用いて、複数の共振器を有するフィルタを構成した場合には、全てのIDT電極の電極指および共振器の導体ストリップの配列方向は一律の角度ξだけ、弾性表面波の波面の進行方向から傾斜した構成となる。図11に、このようなフィルタ950の構成を模式的に示す。フィルタ950は、直列共振器955と並列共振器956とを有するラダー型フィルタである。直列共振器955のIDT電極951aの電極指953aおよび反射器952aの導体ストリップ954aの配列方向は、弾性表面波の波面の進行方向からパワーフロー角ξだけ傾斜している。また、並列共振器956のIDT電極951bの電極指953bおよび反射器952bの導体ストリップ954bの配列方向も、弾性表面波の波面の進行方向からパワーフロー角ξだけ傾斜している。
【0007】
発明者は、圧電基板上にIDT電極や反射器のようなグレーティングを配置した場合には、励起する弾性表面波の周波数によって、パワーフロー角が異なることを明らかにした。ここで、圧電基板のみの場合のパワーフロー角と、圧電基板にグレーティングを配置して弾性波素子を形成した場合の実際のパワーフロー角とを区別するために、前者を「圧電基板のパワーフロー角」、後者を「グレーティングのパワーフロー角」と定義することにする。また、IDT電極の電極指の延伸方向に対して垂直の方向と、電極指および反射器の導体ストリップの配列方向とがなす角を、チルト角と呼ぶことにする。
【0008】
このようにグレーティングのパワーフロー角が周波数依存性を持つことから、励起される弾性表面波の周波数によって最適なチルト角が異なることになる。すなわち、フィルタとして利用される共振器においては、共振周波数と反共振周波数とで、最もエネルギーを効果的に閉じ込め損失を低減できるチルト角が異なる。
【0009】
したがって、共振周波数でのグレーティングのパワーフロー角に合わせてチルト角を決定した場合には、共振周波数においては損失を低減することができるが、反共振周波数においてグレーティングのパワーフロー角とチルト角との間に差が生じるため、損失が発生することとなる。一般に、複数の共振器を用いてフィルタを構成する際には、一方の共振器では共振周波数での特性、他方の共振器では反共振周波数での特性が重要となるため、従来技術のように全ての共振器を圧電基板のパワーフロー角に合わせてチルト角を決定した場合には、一方の共振器の共振周波数での特性、もしくは他方の共振器の反共振周波数での特性、あるいはその双方が劣化し、結果的にフィルタ全体の特性が劣化することとなる。
【0010】
そこで本発明は、弾性表面波の波面の進行方向とエネルギーの進行方向が異なるビームステアリングを有する圧電基板を用いて弾性表面波フィルタを構成した場合に、フィルタ特性の劣化を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の局面は、第1および第2の弾性波共振器を備えた弾性波素子であって、第1の弾性波共振器の電極指の延伸方向に対して垂直の方向と当該電極指の配列方向とのなす角である第1のチルト角と、第2の弾性波共振器の電極指の延伸方向に対して垂直の方向と当該電極指の配列方向とのなす角である第2のチルト角とを異ならせた弾性波素子である。
【0012】
ここで、第1の弾性波共振器は直列腕に接続された直列共振器であり、第2の弾性波共振器は並列腕に接続された並列共振器であり、第1の弾性波共振器の共振周波数におけるパワーフロー角は、第2の弾性波共振器の反共振周波数におけるパワーフロー角よりも大きく、第1のチルト角は第2のチルト角よりも大きいことが好ましい。あるいは、第1の弾性波共振器の共振周波数におけるパワーフロー角は、第2の弾性波共振器の反共振周波数におけるパワーフロー角よりも小さく、第1のチルト角は第2のチルト角よりも小さくてもよい。
【0013】
あるいは、第1の弾性波共振器は直列腕に接続された直列共振器であり、第1のチルト角は、第1の弾性波共振器の共振周波数におけるパワーフロー角の±1°の範囲内であることが好ましい。あるいはまた、第2の弾性波共振器は並列腕に接続された並列共振器であり、第2のチルト角は、第2の弾性波共振器の反共振周波数におけるパワーフロー角の±1°の範囲内であることが好ましい。
【0014】
あるいは、第1および第2の弾性波共振器は直列腕に接続された直列共振器であり、第1の弾性波共振器の共振周波数におけるパワーフロー角は、第2の弾性波共振器の共振周波数におけるパワーフロー角よりも大きく、第1のチルト角は、第2のチルト角よりも大きいことが好ましい。
【0015】
あるいは、第1および第2の弾性波共振器は直列腕に接続された直列共振器であり、第1の弾性波共振器の反共振周波数は第2の弾性波共振器の反共振周波数より低く、第1の弾性波共振器の反共振周波数におけるグレーティングのパワーフロー角と第1のチルト角との差の絶対値は第2の弾性波共振器の反共振周波数におけるグレーティングのパワーフロー角と第2のチルト角との差の絶対値より小さいことが好ましい。
【0016】
あるいは、第1および第2の弾性波共振器は並列腕に接続された並列共振器であり、第1の弾性波共振器の反共振周波数におけるパワーフロー角は、第2の弾性波共振器の反共振周波数におけるパワーフロー角よりも小さく、第1のチルト角は、第2のチルト角よりも小さいことが好ましい。
【0017】
あるいは、第1および第2の弾性波共振器は並列腕に接続された並列共振器であり、第1の弾性波共振器の共振周波数は第2の弾性波共振器の共振周波数より高く、第1の弾性波共振器の共振周波数におけるグレーティングのパワーフロー角と第1のチルト角との差の絶対値は第2の弾性波共振器の共振周波数におけるグレーティングのパワーフロー角と第2のチルト角との差の絶対値より小さいことが好ましい。
【0018】
本発明の第2の局面は、第1の周波数帯を通過帯域とする第1の弾性波フィルタと、第1の周波数帯より高い第2の周波数帯を通過帯域とする第2の弾性波フィルタとを備えたアンテナ共用器であって、第1の弾性波フィルタは、直列腕に接続された第1の弾性波共振器と並列腕に接続された第2の弾性波共振器とを有し、第1の弾性波共振器の電極指の延伸方向に対して垂直の方向と当該電極指の配列方向とのなす角である第1のチルト角と、第1の弾性波共振器の反共振周波数におけるパワーフロー角との差の絶対値は、第2の弾性波共振器の電極指の延伸方向に対して垂直の方向と当該電極指の配列方向とのなす角である第2のチルト角と、第2の弾性波共振器の共振周波数におけるパワーフロー角との差の絶対値より小さい、アンテナ共用器である。
【0019】
本発明の第3の局面は、第1の周波数帯を通過帯域とする第1の弾性波フィルタと、第1の周波数帯より高い第2の周波数帯を通過帯域とする第2の弾性波フィルタとを備えたアンテナ共用器であって、第2の弾性波フィルタは、直列腕に接続された第1の弾性波共振器と並列腕に接続された第2の弾性波共振器とを有し、第2の弾性波共振器の電極指の延伸方向に対して垂直の方向と当該電極指の配列方向とのなす角である第1のチルト角と、第2の弾性波共振器の共振周波数におけるパワーフロー角との差の絶対値は、第1の弾性波共振器の電極指の延伸方向に対して垂直の方向と当該電極指の配列方向とのなす角である第2のチルト角と、第1の弾性波共振器の反共振周波数におけるパワーフロー角との差の絶対値より小さい、アンテナ共用器である。
【0020】
本発明の第4の局面は、第1の周波数帯を通過帯域とする第1の弾性波フィルタと、第1の周波数帯より高い第2の周波数帯を通過帯域とする第2の弾性波フィルタとを備えたアンテナ共用器であって、第1の弾性波フィルタは、信号を受信する受信フィルタであって、直列腕に接続された複数の第1の弾性波共振器と並列腕に接続された第2の弾性波共振器とを有し、第1の直列共振器のうち、入力側初段の直列共振器の電極指の延伸方向に対して垂直の方向と当該電極指の配列方向とのなす角である第1のチルト角と、当該入力側初段の直列共振器の共振周波数におけるパワーフロー角との差の絶対値は、第1の直列共振器のうち、入力側初段以外のいずれかの直列共振器の電極指の延伸方向に対して垂直の方向と当該電極指の配列方向とのなす角である第2のチルト角と、当該入力側初段以外の直列共振器の共振周波数におけるパワーフロー角との差の絶対値より小さい、アンテナ共用器である。
【0021】
本発明の第5の局面は、第1の周波数帯を通過帯域とする第1の弾性波フィルタと、第1の周波数帯より高い第2の周波数帯を通過帯域とする第2の弾性波フィルタとを備えたアンテナ共用器であって、第2の弾性波フィルタは、信号を受信する受信フィルタであって、直列腕に接続された複数の第1の弾性波共振器と並列腕に接続された第2の弾性波共振器とを有し、第1の直列共振器のうち、入力側初段の直列共振器の電極指の延伸方向に対して垂直の方向と当該電極指の配列方向とのなす角である第1のチルト角と、当該入力側初段の直列共振器の共振周波数におけるパワーフロー角との差の絶対値は、第1の直列共振器のうち、入力側初段以外のいずれかの直列共振器の電極指の延伸方向に対して垂直の方向と当該電極指の配列方向とのなす角である第2のチルト角と、当該入力側初段以外の直列共振器の共振周波数におけるパワーフロー角との差の絶対値より小さい、アンテナ共用器である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、弾性表面波の波面の進行方向とエネルギーの進行方向が異なるビームステアリングを有する圧電基板を用いて弾性表面波フィルタを構成した場合に、フィルタ特性の劣化を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係るフィルタの構成図である。
図2図2は、本発明の第1の実施形態に係るチルト角と反共振周波数におけるQ値との関係を示す図である。
図3図3は、本発明の第2の実施形態に係るフィルタの構成図である。
図4図4は、本発明の第2の実施形態に係るフィルタおよび共振器の周波数特性を示す図である。
図5図5は、本発明の第3の実施形態に係るフィルタの構成図である。
図6図6は、本発明の第3の実施形態に係るフィルタおよび共振器の周波数特性を示す図である。
図7図7は、本発明の第4の実施形態に係るフィルタの構成図である。
図8図8は、本発明の第5の実施形態に係るフィルタの構成図である。
図9図9は、本発明の第6の実施形態に係るフィルタの構成図である。
図10図10は、従来のフィルタの構成図である。
図11図11は、従来のフィルタの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係るラダー型フィルタ100の構成図である。ラダー型フィルタ100は、直列接続された直列共振器105および並列接続された並列共振器106により構成されている。これらの共振器の各IDT電極101a、101bの電極指103a、103bおよび、各反射器102a、102bの導体ストリップ104a、104bは、その延伸方向が弾性表面波の波面の進行方向であるX軸に直交して、互いに平行に並んでいる。また、これらの配列方向は、直列共振器105と並列共振器106とで異なり、それぞれチルト角τ1およびτ2の方向に沿っている。共振器ごとにチルト角が異なる点で、ラダー型フィルタ100は、従来のラダー型フィルタ950と異なる。
【0025】
ラダー型フィルタ100の圧電基板110としては、例えばニオブ酸リチウム(LiNbO3)系の圧電体が用いられ、オイラー角(φ,θ,ψ)は、(15°,85°,−15°)である。また、IDT電極101a、101bおよび反射器102a、102bとしては、例えば、アルミニウム、銅、銀、金、チタン、タングステン、モリブデン、白金、またはクロムからなる単体金属、もしくはこれらを主成分とする合金、またはこれらの金属を積層させた積層体からなる電極が用いられる。
【0026】
一般に、このようなトリプルローテーションのカット角の圧電基板においては、弾性表面波の波面の進行方向に対して結晶の対称性が無いため、位相の伝搬方向とエネルギーの進行方向とが異なるビームステアリングが生じる。さらに、このような圧電基板を用いて、圧電基板上にグレーティングを配置した場合には、周波数依存性を持つグレーティングのパワーフロー角を有することになる。本実施形態においては、共振周波数で1.4°、反共振周波数で−2.6°である。
【0027】
そこで、直列共振器105と並列共振器106のチルト角を異ならせることで、フィルタ特性の劣化を低減する。例えば、図1に示すように直列共振器105については、チルト角τ1を共振周波数でのグレーティングのパワーフロー角ξ1である1.4°に合わせ、並列共振器106については、チルト角τ2を反共振周波数でのグレーティングのパワーフロー角ξ2である−2.6°に合わせる構成とする。なお、図1ではチルト角τ1、τ2を誇張して示している。他の図も同様とする。この構成により、直列共振器105の共振周波数および並列共振器106の反共振周波数での損失を低減することができ、ラダー型フィルタ100のフィルタ特性の劣化を抑えることができる。
【0028】
なお、上記ではチルト角をグレーティングのパワーフロー角に一致させたが、厳密に一致させなくてもよい。図2に、チルト角と反共振周波数でのQ値であるQp値との関係の一例を示す。図2に示すようにチルト角がグレーティングパワーフロー角−2.6°から±1°以内の範囲であっても、Q値の最大値からの劣化を20%以内に抑えられる。また、このような角度範囲でなくとも、チルト角をパワーフロー角の一定範囲内に設定することでQ値を改善することができる。また、ここではチルト角をグレーティングのパワーフロー角に一致させた共振器をラダー型フィルタに適用する場合について説明したが、他のフィルタに適用しても同様の効果が得られる。
【0029】
また、各共振器を圧電基板に形成する際、各共振器の電極指の延伸方向が同一方向となるよう形成してもよく、共振器ごとに異なる方向となるよう形成してもよい。
【0030】
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、特に説明しない構成については、第1の実施形態と同様である。図3は本実施形態に係るラダー型フィルタ200の構成図である。ラダー型フィルタ200は、図3に示すように、圧電基板210上に、直列共振器205および並列共振器206と、その後段に、さらに直列共振器207および並列共振器208とを連続して配置することにより構成された、2段のラダー型フィルタである。一般に、2段のラダー型フィルタにおいて、初段の直列共振器の共振周波数と2段目の直列共振器の共振周波数は異なっている。
【0031】
ラダー型フィルタ200においても、直列共振器205および207の共振周波数は異なり、直列共振器205の共振周波数でのグレーティングのパワーフロー角ξ3と直列共振器207の共振周波数でのグレーティングのパワーフロー角ξ4も異なる。そこで、ラダー型フィルタ200では、直列共振器205と直列共振器207のチルト角τ3およびτ4を異ならせている。具体的には、図3に示すように、直列共振器205のチルト角τ3は直列共振器205の共振周波数でのグレーティングのパワーフロー角ξ3の値±1°以内の範囲に合わせ、直列共振器207のチルト角τ4は直列共振器207の共振周波数でのグレーティングのパワーフロー角ξ4の値±1°以内の範囲に合わせる。
【0032】
ラダー型フィルタ200では、直列共振器205の共振周波数が直列共振器207の共振周波数よりも高く、直列共振器205のチルト角τ3は、直列共振器207のチルト角τ4よりも大きくなる。これにより、直列共振器205および207のそれぞれの共振周波数でのビームステアリングによる損失を抑えることができるため、フィルタ特性の劣化を抑えることができる。なお、ここではラダーの段数が2段の場合を例に挙げて説明したが、3段以上の場合でも、各直列共振器のチルト角をそれぞれの共振周波数でのグレーティングのパワーフロー角の値±1°以内の範囲に合わせることで、同様の効果が得られる。
【0033】
また、図4は、直列共振器205の周波数特性と直列共振器207の周波数特性とラダー型フィルタ200の通過特性を示す図である。図4に示すように、直列共振器207の周波数特性を示す線は直列共振器205の周波数特性を示す線よりラダー型フィルタ200の通過帯域の内側に存在し、直列共振器207の反共振周波数は直列共振器205の反共振周波数より低いため、直列共振器207の周波数特性は直列共振器205の周波数特性よりラダー型フィルタ200の通過帯域の高域側の急峻性に大きく影響を及ぼす。よって、直列共振器207の反共振周波数でのQ値の劣化量を直列共振器205の反共振周波数でのQ値の劣化量より抑制するために、直列共振器207の反共振周波数におけるグレーティングのパワーフロー角とチルト角との差の絶対値を直列共振器205の反共振周波数におけるグレーティングのパワーフロー角とチルト角との差の絶対値より小さくすることが望ましい。これにより、ラダー型フィルタ200の通過帯域の高域側の急峻性が向上する。
【0034】
即ち、例えば、複数の直列共振器のうち、最も反共振周波数の低い直列共振器のチルト角をこの直列共振器の反共振周波数でのグレーティングのパワーフロー角の値±1°以内の範囲に合わせると共に、その他の直列共振器のチルト角をそれぞれの共振周波数でのグレーティングのパワーフロー角の値±1°以内の範囲に合わせることで、ラダー型フィルタ200のフィルタ特性の劣化の抑制と高域側の急峻性を両立させることができる。
【0035】
(第3の実施形態)
以下、本発明の第3の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、特に説明しない構成については、第1の実施形態と同様である。図5は本実施形態に係るラダー型フィルタ300の構成図である。ラダー型フィルタ300は、図5に示すように、圧電基板310上に、直列共振器305および並列共振器306と、その後段に、さらに直列共振器307および並列共振器308とを連続して配置することにより構成された、2段のラダー型フィルタである。
【0036】
ラダー型フィルタ300は、第2の実施形態におけるラダー型フィルタ200において、直列共振器のチルト角を0°とし、並列共振器のチルト角を異ならせたものである。一般に、2段のラダー型フィルタにおいて、初段の並列共振器の反共振周波数と2段目の並列共振器の反共振周波数は異なっている。ラダー型フィルタ300においても、並列共振器306および308の反共振周波数は異なっており、並列共振器306の反共振周波数でのグレーティングのパワーフロー角ξ5と並列共振器308の反共振周波数でのグレーティングのパワーフロー角ξ6も異なる。そこで、図5に示すように並列共振器306と並列共振器308のチルト角τ5およびτ6を異ならせている。具体的には、並列共振器306のチルト角τ5は並列共振器306の反共振周波数でのグレーティングのパワーフロー角ξ5の値±1°以内の範囲に合わせ、並列共振器308のチルト角τ6は並列共振器308の反共振周波数でのグレーティングのパワーフロー角τ6の値±1°以内の範囲に合わせる。
【0037】
ラダー型フィルタ300では、並列共振器306の反共振周波数が並列共振器308の反共振周波数よりも高く、並列共振器306のチルト角τ5は、並列共振器308のチルト角τ6よりも大きくなる。これにより、並列共振器306および308のそれぞれの反共振周波数でのビームステアリングによる損失を抑えることができるため、フィルタ特性の劣化を抑えることができる。なお、ここではラダーの段数が2段の場合を例に挙げて説明したが、3段以上の場合でも、各並列共振器のチルト角をそれぞれの反共振周波数でのグレーティングのパワーフロー角の値±1°以内の範囲に合わせることで、同様の効果が得られる。
【0038】
なお、ラダー型フィルタ300において、並列共振器306および308だけでなく、直列共振器305および307についても、各チルト角を、それぞれの共振周波数でのグレーティングのパワーフロー角の値±1°以内の範囲に合わせてもよい。
【0039】
また、図6は、並列共振器306の周波数特性と並列共振器308の周波数特性とラダー型フィルタ300の通過特性を示す図である。図6に示すように、並列共振器306の周波数特性を示す線は並列共振器308の周波数特性を示す線よりラダー型フィルタ300の通過帯域の内側に存在し、並列共振器306の共振周波数は並列共振器308の共振周波数より高いため、並列共振器306の周波数特性は並列共振器308の周波数特性よりラダー型フィルタ300の通過帯域の低域側の急峻性に大きく影響を及ぼす。よって、並列共振器306の共振周波数でのQ値の劣化量を並列共振器305の共振周波数でのQ値の劣化量より抑制するために、並列共振器306の共振周波数におけるグレーティングのパワーフロー角とチルト角との差の絶対値を並列共振器308の共振周波数におけるグレーティングのパワーフロー角とチルト角との差の絶対値より小さくすることが望ましい。これにより、ラダー型フィルタ300の通過帯域の低域側の急峻性が向上する。
【0040】
(第4の実施形態)
以下、本発明の第4の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、特に説明しない構成は、第1の実施形態1と同様である。図7は、本実施形態に係る共用器400の構成図である。図7に示すように、共用器400は、圧電基板410上に、第1の周波数帯を通過帯域とするラダー型フィルタ421および第2の周波数帯を通過帯域とするラダー型フィルタ422を形成して接続することで構成される。以下、第1の周波数帯は、第2の周波数帯より低周波数側にあるとする。これらの周波数帯の用途としては、例えば、第1の周波数帯を送信帯域、第2の周波数帯を受信帯域とすることが挙げられる。
【0041】
一般に、共用器においては、フィルタの通過特性とともに、アイソレーション特性が重要となる。すなわち第1の周波数帯の高周波側の減衰特性、および第2の周波数帯の低周波側の減衰特性が重要となる。ここで、ラダー型フィルタにおいては、フィルタ特性の低周波側の減衰極は並列接続共振器の反共振周波数によって、また高周波側の減衰極は直列接続共振器の反共振周波数によって構成される。したがって、第1の周波数帯を通過帯域とするラダー型フィルタ421としては、高周波数側の減衰極を構成する直列接続共振器の反共振周波数でのQ値が重要となる。
【0042】
共用器400では、ラダー型フィルタ421の直列共振器405と並列共振器406のチルト角τ7、τ8を異ならせ、かつ、直列共振器405の反共振周波数におけるグレーティングのパワーフロー角ξ7とチルト角τ7との差の絶対値を、並列共振器の共振周波数におけるグレーティングのパワーフロー角ξ8とチルト角τ8との差の絶対値より小さくしている。これにより、直列共振器405の反共振周波数における損失が優先的に低減されてQ値が改善され、ラダー型フィルタ401の高周波数側の減衰特性が向上する。このように、低帯域側の通過帯域を有するフィルタにおいて、アイソレーション特性に関わる高周波数側の減衰特性を改善することにより、共用器400のアイソレーション特性を改善することができる。
【0043】
なお、第1の周波数帯の通過帯域を形成するラダー型フィルタ421において、複数の直列共振器の反共振周波数が異なる場合、反共振周波数の相対的に低い直列共振器の周波数特性を示す線は反共振周波数の相対的に高い直列共振器の周波数特性を示す線よりラダー型フィルタ421の通過帯域の内側に存在し、反共振周波数の相対的に低い直列共振器の周波数特性は反共振周波数の相対的に高い直列共振器の周波数特性よりラダー型フィルタ421の通過帯域の高域側の急峻性に大きく影響を及ぼす。よって、反共振周波数の相対的に低い直列共振器の反共振周波数におけるグレーティングのパワーフロー角とチルト角との差の絶対値を反共振周波数の相対的に高い直列共振器の反共振周波数におけるグレーティングのパワーフロー角とチルト角との差の絶対値より小さくすることが望ましい。これにより、ラダー型フィルタ421の通過帯域の高域側の急峻性が向上する。
【0044】
(第5の実施形態)
以下、本発明の第5の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、特に説明しない構成は、第1の実施形態と同様である。上述したように、共用器においては、第1の周波数帯の高周波側の減衰特性だけでなく第2の周波数帯の低周波数側の減衰特性が重要となる。したがって、第2の周波数帯を通過帯域とするフィルタとしては、低周波側の減衰極を構成する並列接続共振器の共振周波数でのQ値が重要となる。
【0045】
図8は、本実施形態に係る共用器500の構成図である。共用器500は、第4の実施形態の共用器400において、第1の周波数帯を通過帯域とするラダー型フィルタの各共振器のチルト角を0°とし、第2の周波数帯を通過帯域とするラダー型フィルタの各共振器のチルト角を異ならせたものである。
【0046】
すなわち、図8に示すように、圧電基板510上に形成された第1の周波数帯を通過帯域とするラダー型フィルタ521の直列共振器505および並列共振器506のチルト角を0°とし、第2の周波数帯を通過帯域とするラダー型フィルタ522の直列共振器507と並列共振器508のチルト角をそれぞれτ9、τ10と異ならせ、かつ、並列共振器508の共振周波数におけるグレーティングのパワーフロー角ξ10とチルト角τ10との差の絶対値を、直列共振器507の反共振周波数におけるグレーティングのパワーフロー角ξ9とチルト角τ9との差の絶対値より小さくしている。これにより、並列共振器508の共振周波数における損失が優先的に低減されてQ値が改善され、ラダー型フィルタ522の低周波数側の減衰特性が向上する。このように、高帯域側の通過帯域を有するフィルタにおいて、アイソレーション特性に関わる低周波数側の減衰特性を改善することにより、共用器500のアイソレーション特性を改善することができる。
【0047】
なお、第1の周波数帯を通過帯域とするフィルタとして、第4の実施形態のラダー型フィルタ421を用い、第2の周波数帯を通過帯域とするフィルタとして、第5の実施形態のラダー型フィルタ522を用いた共用器を構成してもよい。この場合、共用器のアイソレーション特性をさらに改善することができる
【0048】
また、第1の周波数帯を通過帯域とするフィルタの低周波数側の減衰特性および第2の周波数帯を通過帯域とするフィルタの高周波数側の減衰特性の向上は、共用器のアイソレーション特性の改善に寄与しないものの、各フィルタに要求される帯域特性に応じて適宜実施することができる。例えば、第4の実施形態の第1の周波数帯を通過帯域とするラダー型フィルタ421において、直列共振器405の反共振周波数におけるグレーティングのパワーフロー角ξ7とチルト角τ7との差の絶対値と同程度に、並列共振器406の共振周波数におけるグレーティングのパワーフロー角ξ8とチルト角τ8との差の絶対値を小さくしてもよい。この場合、ラダー型フィルタ422の低周波数側の減衰特性が改善される。また、第5の実施形態の第2の周波数帯を通過帯域とするラダー型フィルタ522において、並列共振器508の共振周波数におけるグレーティングのパワーフロー角ξ10とチルト角τ10との差の絶対値と同程度に、直列共振器507の反共振周波数におけるグレーティングのパワーフロー角ξ9とチルト角τ9との差の絶対値を小さくしてもよい。この場合、ラダー型フィルタ522の高周波数側の減衰特性が改善される。
【0049】
なお、第2の周波数帯の通過帯域を形成するラダー型フィルタ522において、複数の並列共振器の共振周波数が異なる場合、共振周波数の相対的に高い並列共振器の周波数特性を示す線は共振周波数の相対的に低い並列共振器の周波数特性を示す線よりラダー型フィルタ522の通過帯域の内側に存在し、共振周波数の相対的に高い並列共振器の周波数特性は共振周波数の相対的に低い並列共振器の周波数特性よりラダー型フィルタ522の通過帯域の低域側の急峻性に大きく影響を及ぼす。よって、共振周波数の相対的に高い並列共振器の共振周波数におけるグレーティングのパワーフロー角とチルト角との差の絶対値を共振周波数の相対的に低い並列共振器の共振周波数におけるグレーティングのパワーフロー角とチルト角との差の絶対値より小さくすることが望ましい。これにより、ラダー型フィルタ522の通過帯域の高域側の急峻性が向上する。
【0050】
(第6の実施形態)
以下、本発明の第6の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、特に説明しない構成は、第1の実施形態と同様である。図9は、本実施形態に係る共用器600の構成図である。共用器600は、第1の周波数帯を通過帯域とするフィルタ621および第2の周波数帯を通過帯域とする2段のラダー型フィルタ622を接続することで構成される。フィルタ621は送信側のフィルタであり、ラダー型フィルタ622は受信側のフィルタである。フィルタ621は内部構成を図示しないが、上述した各実施形態におけるラダー型フィルタのいずれか、または、任意のフィルタを用いることができる。
【0051】
一般に、受信側のフィルタとして用いられる複数段のラダー型フィルタにおいては、初段の直列共振器に最も大きな電力が印加されることになる。したがって、耐電力性を確保するため、初段の直列共振器は、特に低損失であることが求められる。
【0052】
そのため、共用器600のラダー型フィルタ622の初段の直列共振器605の共振周波数におけるグレーティングのパワーフロー角ξ11とチルト角τ11との差の絶対値を、2段目の直列共振器607の共振周波数におけるグレーティングのパワーフロー角ξ12とチルト角τ12との差の絶対値よりも小さくしている。これにより、初段の直列共振器の損失を優先的に低減し、ラダー型フィルタ622の耐電力性を向上することができる。
【0053】
なお、第1の通過帯域を受信帯域、第2の通過帯域を送信帯域とする場合であっても、第1の周波数帯を通過帯域とするフィルタに、上述のラダー型フィルタ622を適用すれば同様の効果が得られる。
【0054】
また、ラダー型フィルタ622は、共用器の一部として利用するだけでなく、単体のフィルタとして利用することもできる。
【0055】
また、2段のラダー型フィルタの代わりに、3以上の段数のラダー型フィルタを用いてもよい。この場合、初段の直列共振器の共振周波数におけるグレーティングのパワーフロー角とチルト角との差の絶対値を、初段以外のいずれかの直列共振器の共振周波数におけるグレーティングのパワーフロー角とチルト角との差の絶対値よりも小さくすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、情報通信機器等に用いられる弾性素子において有用である。特に携帯電話等の電子機器に用いられる共用器に適用可能である。
【符号の説明】
【0057】
100、200、300、421、422、521、522、621、622、900、950 フィルタ
101a、101b、901、951a、951b IDT電極
102a、102b、902、952a、952b 反射器
103a、103b、903、953a、953b 電極指
104a、104b、904、954a、954b 導体ストリップ
105、205、207、305、307、405、407、505、507、605、607、955 直列共振器
106、206、208、306、308、406、408、506、508、956 並列共振器
110、210、310、410、510、910 圧電基板
400、500、600 共用器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11