(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5736445
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】高分子電解質薄膜の形成された固定相に、表面改質された金属ナノ粒子が固定化された触媒、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 31/28 20060101AFI20150528BHJP
B01J 31/10 20060101ALI20150528BHJP
C01B 15/029 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
B01J31/28 M
B01J31/10 M
C01B15/029
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-502455(P2013-502455)
(86)(22)【出願日】2011年3月25日
(65)【公表番号】特表2013-523434(P2013-523434A)
(43)【公表日】2013年6月17日
(86)【国際出願番号】KR2011002055
(87)【国際公開番号】WO2011122791
(87)【国際公開日】20111006
【審査請求日】2014年1月9日
(31)【優先権主張番号】10-2010-0027651
(32)【優先日】2010年3月29日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】507268341
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ヨン ミン
(72)【発明者】
【氏名】キュン・ヨン タック
(72)【発明者】
【氏名】キム・テ ジン
(72)【発明者】
【氏名】オ・ソン フン
(72)【発明者】
【氏名】リ・チャン ス
(72)【発明者】
【氏名】キム・ボ イェル
【審査官】
西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】
KIDAMBI, S. et al.,Selective Hydrogenation by Pd Nanoparticles Embedded in Polyelectrolyte Multilayers,J. Am. Chem. Soc.,2004年,Vol. 126,p. 2658-2659
【文献】
KIDAMBI, S. et al.,Multilayered Polyelectrolyte Films Containing Palladium Nanoparticles: Synthesis, Characterization, and Application in Selective Hydrogenation,Chem. Mater.,2005年,Vol. 17,p. 301-307
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素及び酸素から過酸化水素を製造することに使用される触媒であって、高分子電解質薄膜の形成された固定相(stationary phase)に、金属とリガンド物質が結合して形成され、該形成された金属ナノ粒子が陰電荷又は陽電荷を帯びるように表面改質された金属ナノ粒子が固定化された触媒。
【請求項2】
前記固定相がイオン交換樹脂であることを特徴とする、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記高分子電解質薄膜が陽イオン系及び陰イオン系高分子電解質からなることを特徴とする、請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
前記リガンド物質がドデシルスルフィド(Dodecyl sulfide)、TOP(Trioctyl phosphine)、PVP(Poly(vinylpyrrolidone))又はpoly(4−vinylpyridine)であることを特徴とする、請求項1に記載の触媒。
【請求項5】
前記陽イオン系高分子電解質がPAH(Poly(allyamine))、PDDA(Polydiallyldimethylammonium)、PEI(Poly(ethyleneimine))、又はPAMPDDA(Poly(acrlyamide−co−diallyldimethylammonium))であることを特徴とする、請求項3に記載の触媒。
【請求項6】
前記陰イオン系高分子電解質がPSS(Poly(4−styrenesulfonate))、PAA(Poly(acrylic acid))、PAM(Poly(acrylamide))、Poly(vinylphosphonic acid)、PAAMP(Poly(2−acrylamido−2−methyl−1−propanesulfonic acid))、PATS(Poly(anetholesulfonic acid))、又はPVS(Poly(vinyl sulfate))であることを特徴とする、請求項3に記載の触媒。
【請求項7】
前記高分子電解質薄膜の積層数が1〜9であることを特徴とする、請求項1に記載の触媒。
【請求項8】
前記高分子電解質の分子量の範囲が重量平均分子量1,000〜1,000,000であることを特徴とする、請求項1に記載の触媒。
【請求項9】
前記金属ナノ粒子がパラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、銀、オスミウム、ニッケル、銅、コバルト、チタニウム又はこれらの混合物であることを特徴とする、請求項1に記載の触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質薄膜の形成された固定相に、表面改質された金属ナノ粒子が固定化された触媒、及びその製造方法に係り、さらに詳しくは、イオン性高分子電解質薄膜の形成された固定相に、表面改質された金属ナノ粒子が固定化された触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、過酸化水素は、生産工程の90%以上がアントラキノン工程(Anthraquinone Process)によって生産されている。ところが、この工程は、水素化反応、酸化反応、抽出、浄化などの多数の反応段階を有し、各段階を経て行われる副反応により不純物が形成されて除去分離工程が要求される。また、生成された過酸化水素の濃度が低くて濃縮のための蒸留工程が求められる[J. M. Campos-Martin, G. Blanco-Brieva, J. L. G. Fierro, Angew. Chem. Int. Ed. , vol.45, pp.6962 (2006)]。
【0003】
かかる問題点を解決するための方法の一つとして、酸素と水素から過酸化水素を直接製造する反応に関する研究が行われているが、酸素と水素の混合物を使用することにより発生する爆発の危険性を持っている。このような問題と共に、過酸化水素の不安定性により生成後に水と酸素によく分解することや、使用される触媒が水の合成にも有用であるため過酸化水素合成過程で高い選択度を得難いことなどの問題点がある。よって、上述の問題点を解決するために、強酸及びハロゲン化物添加剤に関する研究が行われてきた。しかし、強酸及びハロゲン化物添加剤は反応器の腐食の問題を誘発し、固定相に固定化された金属を溶出させて触媒の活性を低下させるという問題点を持っている。また、過酸化水素の製造過程に分離及び生成過程を必要とする。
【0004】
過酸化水素の直接製造反応に用いられる触媒は、主に金、白金、パラジウムなどの貴金属を使用してきた[P. Landon, P.J. Collier, A.J. Papworth, C.J. Kiely, G.J. Hutchings, Chem. Commun., pp.2058, (2002); B.E. Solsona, J.K. Edwards, P. Landon, A.F. Carley, A. Herzing, C.J. Kiely, G.J. Hutchings, Chem. Mater., vol.18, pp.2689 (2006), J.K. Edwards, B. Solsona, E. Ntainjua N, A.F. Carley, A.A. Herzing, C.J. Kiely, G.J. Hutchings, Science, vol.323, pp.1037 (2009); S. Chinta, J.H. Lunsford, J. Catal., vol.225, pp.249 (2004); Y. Han, J.H. Lunsford, J. Catal., vol.230, pp.313, (2005); Q. Liu, J.H. Lunsford, J. Catal. vol.239, pp.237 (2006)]。
高価の貴金属を用いて触媒を製造するため、触媒を繰り返して使用することができるように製造する研究が共に求められた。これを解決するために、貴金属粒子を固定相に固定化して反応の際に溶出を防止するように製造する研究が行われてきた。過酸化水素の製造反応以外にも、貴金属を用いて触媒を製造する方法に関する研究においても、固定化方法に関する研究が行われてきた。
【0005】
固定化方法としては、固定相と触媒との間に作用する相互作用に応じて物理的吸着方法、捕獲(encapsulation)方法、共有結合方法及び静電気的結合方法などが行われてきた。
物理的吸着方法は、比較的容易な方法であって、ファンデルワールス結合(Vander Waals interaction)を用いた方法である。工程が容易であるが、触媒と固定相間の結合力が弱くて溶出が容易に起こりうる[G. Jacobs, F. Ghadiali, A. Pisanu, A. Borgna, W. E. Alvarez, D. E. Resasco, Applied Catalysis A, vol.188, pp.79 (1999)]。
捕獲方法は、活性触媒を高分子カプセル内に閉じ込めておく方法であって、反応物と生成物を分離して物質伝達抵抗を誘導することができ、触媒の再使用によく、高い触媒安定性を確保することができる。
共有結合方法は、固定相と触媒表面の官能基との強い共有結合によって固定する方法であって、触媒の溶出なしで高い安定性を確保することができるが、多段階の工程が要求される。また、触媒の活性点に結合する可能性があり、強い結合による触媒構造が変形する可能性がある[Y. Yamanoi, T. Yonezawa, N. Shirahata, H. Nishihara, Langmuir, vol.20, pp.1054 (2004)]。
静電気的結合方法は、触媒と支持体とのイオン結合を用いた方法であって、非常に簡便なので量産工程に適する。また、十分な静電気的結合の強度は触媒溶出を最小化することができ、触媒本来の構造を最大に維持することができて活性を保つことができる[S. Kidambi, J. Dai, J. Li, M. L. Bruening, J. Am. Chem. Soc. vol.126, pp.2658 (2004) ]。
前述したように、酸素と水素から直接過酸化水素を合成する技術における触媒に関する研究は、貴金属触媒を固定相に固定化して溶出を防止しながらも強酸及びハロゲン化物の添加を最小化することが可能な反応条件で高い効率を持つ触媒を開発しようと努力している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高分子電解質薄膜の形成された固定相に、表面改質された金属ナノ粒子が固定化された触媒を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記触媒を製造する方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記触媒の存在下で水素と酸素から過酸化水素を製造する方法を提供することを目的とする。
但し、本発明が解決しようとする技術的課題は上述した課題に限定されず、別のその他の技術的問題点は下記の記載から普遍的技術者に明確に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある観点によれば、高分子電解質薄膜の形成された固定相に、表面改質された金属ナノ粒子が固定化された触媒を提供する。
本発明の他の観点によれば、(a)固定相に第1高分子電解質溶液及び第2高分子電解質溶液と交互に混合して前記固定相に高分子薄膜を形成させる段階(但し、前記第1高分子電解質溶液及び第2高分子電解質溶液は、互いに異なる極性を示す陽イオン系又は陰イオン系電解質溶液である。)と、(b)均一なナノ粒子を形成した後、形成された金属ナノ粒子を陽イオン又は陰イオンを帯びるように表面改質する段階と、(c)(a)段階で生成された高分子電解質薄膜が形成された固定相を、前記(b)段階で得られた表面改質された金属ナノ粒子溶液に入れる段階とを含んでなる、高分子電解質薄膜の形成された固定相(stationary phase)に、表面改質された金属ナノ粒子が固定化された触媒を製造する方法を提供する。
本発明の別の観点によれば、前記触媒の存在下で水素と酸素から過酸化水素を製造する方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
高分子電解質薄膜の形成された固定相に、表面改質された金属ナノ粒子が固定化された触媒は、物理化学的に非常に安定な構造を持つので触媒の効果を高めることができ、金属ナノ粒子の溶出がなくて再使用性を高めることができ、酸添加なしで極少量のハロゲンイオンのみを添加しても直接的な酸素と水素の反応による過酸化水素の合成を高収率で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】表面改質された金属ナノ粒子を高分子電解質薄膜の形成された固定相に固定化した触媒を製造する方法を示す図である。
【
図2】金属前駆体とリガンド物質との反応によって均一な金属ナノ粒子を製造する方法を示す図である。
【
図3】金属ナノ粒子のリガンドを置換して表面に陰電荷を帯びるように改質する方法を示す図である。
【
図4】陰イオン交換樹脂の固定相上に陽イオン系高分子電解質を積層し、さらに陰イオン系高分子電解質を積層する方式を繰り返し行い、外郭の表面に陽イオン系高分子電解質が積層されるように高分子多層薄膜を形成した後、陰電荷に表面改質された金属ナノ粒子を固定化することを示す図である。
【
図5】均一に製造された金属ナノ粒子を透過電子顕微鏡を用いて分析した図である(2.1±0.2mm)。
【
図6】表面改質された金属ナノ粒子を透過電子顕微鏡を用いて分析した図である(2.4±0.1mm)。
【
図7】表面改質された金属ナノ粒子をゼータ電位測定器を用いて分析した図である(−33.09mV)。
【
図8】高分子電解質薄膜が形成された固定相(stationary phase)に、表面改質された金属ナノ粒子が固定化された(immobilized)触媒を、極低温薄片切断機を用いて切片にし、極低温電子顕微鏡を用いて分析した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をさらに具体的に説明する。
本発明の一実施例に係る触媒は、高分子電解質薄膜の形成された固定相に、表面改質された金属ナノ粒子が固定化された触媒である。
明細書の詳細な説明及び請求項において、「高分子電解質薄膜」とは、高分子電解質物質を用いてLbL(layer-by-layer)沈積技術によって形成された薄膜であって、高分子電解質層を意味し、薄膜は、特に指摘しない限り、単層形態のみならず、多層も含む。
【0011】
金属粒子はパラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、銀、オスミウム、ニッケル、銅、コバルト、チタニウム又はこれらの混合物であり、表面改質された金属ナノ粒子は陰電荷又は陽電荷を帯びる。
表面改質された金属ナノ粒子が高分子電解質薄膜の形成された固定相に固定化された触媒になると、固定相と高分子電解質多層薄膜との結合、及び高分子電解質多層薄膜のそれぞれの層と層との結合は、静電気的引力(electrostatic interaction)、水素結合(hydrogen bonding)、ファンデルワールス結合(Van der Waals interaction)又は共有結合(covalent bonding)などで行われ、物理化学的に非常に安定な構造を形成する。
【0012】
よって、本発明の触媒は、従来の技術で製造される金属を担持した触媒の最も大きい技術的問題点である、反応中の金属粒子の溶出現象を根本的に防ぐことができ、これによる触媒活性低下の発生を防止して経済的に非常に優れた触媒システムを実現する。
固定相は、陽イオン系又は陰イオン系高分子電解質が容易に吸着し得るように一定の電荷を有することが好ましい。固定相としては、酸性、中性又は塩基性無機物を使用することができ、好ましくは陰イオン系又は陽イオン系樹脂を使用することができる。
固定相は、陽イオン系又は陰イオン系高分子電解質が容易に吸着し得るように一定の電荷を有することが好ましい。よって、本発明の好適な一具現例によれば、固定相として使用される陽イオン系樹脂としては、側鎖にスルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、及びホスホン酸よりなる群から選ばれる陽イオン作用基を有する高分子樹脂を使用することができる。このような陽イオン作用基を有するイオン樹脂の例としては、フルオロ系高分子、ベンズイミダゾール系高分子、ポリイミド系高分子、ポリエーテルイミド系高分子、ポリフェニレンスルフィド系高分子、ポリスルホン系高分子、ポリエーテルスルホン系高分子、ポリエーテルケトン系高分子、ポリエーテル−エーテルケトン系高分子、及びポリフェニルキノキサリン系高分子の中から選ばれる1種以上を含むことができ、好ましくは、ポリ(ペルフルオロスルホン酸)、ポリ(ペルフルオロカルボン酸)、スルホン酸基を含むテトラフルオロエチレンとフルオロビニルエーテルの共重合体、脱フッ素化された硫化ポリエーテルケトン、アリールケトン、ポリ[2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンズイミダゾール]、及びポリ(2,5−ベンズイミダゾール)の中から選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0013】
固定相として使用される陰イオン系樹脂は、ハロゲン化合物、及び/又は重炭酸塩型陰イオン樹脂、炭酸塩型樹脂、水酸化物型樹脂又はこれらの混合物を含む。
例えば、本発明において、固定相として、スルホン酸官能基(SO
3-)を有する陰イオン系イオン交換樹脂を使用する場合、高分子電解質薄膜との強い結合が可能となる。このような高分子電解質薄膜に固定化された金属ナノ粒子は、高分子電解質薄膜と金属ナノ粒子を安定化するリガンドとの静電気的引力(electrostatic interaction)、水素結合(hydrogen bonding)、ファンデルワールス結合(Van der Waals interaction)又は共有結合(covalent bonding)などで非常に強く結合される。
高分子電解質薄膜は、陽イオン系及び陰イオン系高分子電解質からなり、陽イオン系又は陰イオン系高分子電解質の種類を多様に使用することにより、高分子電解質のイオン結合強度を調節することができる。
前記陽イオン系高分子電解質は、PAH(Poly(allyamine))、PDDA(Polydiallyldimethylammonium))、PEI(Poly(ethyleneimine))、又はPAMPDDA(Poly(acrlyamide-co-diallyldimethylammonium))が好ましいが、特に限定されるものではない。
陰イオン系高分子電解質は、PSS(Poly(4-styrenesulfonate))、PAA(Poly(acrylic acid))、PAM(Poly(acryl amide))、Poly(vinylphosphonic acid)、PAAMP(Poly(2-acrylamido-2-methyl-1-propanesulfonic acid))、PATS(Poly(anetholesulfonic acid))、又はPVS(Poly(vinyl sulfate))を使用することができる。
前記陰イオン系高分子電解質溶液の積層数によって水素イオン濃度が変わるので、積層数を調節して酸強度及び酸量を調節することができ、特にハロゲン陰イオン系の場合、陽イオン系高分子とイオン結合を形成しているので、積層数を調節してハロゲン量を調節することができる。
高分子電解質薄膜の積層数によって、固定される金属ナノ粒子の量が変わり、高分子電解質薄膜の積層は1〜9層が好ましいが、特に限定されるものではない。高分子電解質の分子量の範囲は重量平均分子量1,000〜1000,000を使用することができる。
【0014】
本発明の一具現例は、(a)固定相に第1高分子電解質溶液及び第2高分子電解質溶液と交互に混合して前記固定相に高分子薄膜を形成させる段階(但し、前記第1高分子電解質溶液及び第2高分子電解質溶液は、互いに異なる極性を示す陽イオン系又は陰イオン系電解質溶液である。)と、(b)均一なナノ粒子を形成した後、形成された金属ナノ粒子を陽イオン又は陰イオンを帯びるように表面改質する段階と、(c)(a)段階で生成された高分子電解質薄膜が形成された固定相を、前記(b)段階で得られた表面改質された金属ナノ粒子溶液に入れる段階とを含んでなる、高分子電解質薄膜の形成された固定相(stationary phase)に、表面改質された金属ナノ粒子が固定化された触媒を製造する方法を提供する。
前記(a)段階は、固定相に高分子電解質溶液が交互に積層されるように、互いに異なる極性を示す陽イオン系高分子電解質溶液及び陰イオン系高分子電解質溶液を混合する段階である。使用される陽イオン系及び陰イオン系高分子電解質は、前述した本発明の触媒を構成する高分子電解質と同様に使用することができる。
前記(b)段階で金属ナノ粒子を均一に形成した後、形成された金属ナノ粒子が陽イオン又は陰イオンを帯びるように表面を改質する段階である。金属ナノ粒子が陽イオン又は陰イオンを帯びるようにすることにより、高分子電解質薄膜に容易に固定されるように表面を改質する段階である。
【0015】
図1は表面改質された金属ナノ粒子を高分子電解質薄膜の形成された固定相に固定化して触媒を製造する方法を概略的に示しており、
図4は例示的に前記触媒を製造する方法を詳細に示している。
(b)段階における均一なナノ粒子の形成方法は、金属前駆体を熱分解することにより核を形成及び成長させ、核の周辺にリガンド物質が結合してナノ粒子を取り囲んで安定化させる過程によって行われる。
例えば、
図2に示すように、金属イオンとチオール官能基の含まれたリガンドに結合した金属前駆体を熱分解させると、金属イオンは還元過程を介してナノ粒子に形成され、リガンドはこのようなナノ粒子形成過程を安定化させ、ナノ粒子形成後のナノ粒子の凝集(aggregation)を防ぐ役割を果たす。
熱分解及び反応の時間、反応温度、金属前駆体とリガンド物質との比率を調節すると、ナノ粒子のサイズの調節が可能であり、均一なナノ粒子の形成が可能である。金属前駆体とリガンド物質との比率は適切な量に調節でき、特に限定されるものではない。
リガンド物質としてはドデシルスルフィド(Dodecyl sulfide)、TOP(Trioctyl phosphine)、PVP(Poly(vinylpyrrolidone))、poly(4-vinylpyridine)などを使用することができる。このようなリガンド物質は、金属との強い結合を形成することにより、ナノ粒子を形成し且つ安定性を高める。また、リガンド物質が疎水性の性質を持っているから、トルエンなどの疎水性有機溶媒に分散して溶液状態を維持する。
【0016】
前記で形成された金属ナノ粒子の表面は、疎水性の性質を持っているため、例えば担体などの固定相への固定化を行うためには、
図3に示すように金属ナノ粒子を安定化しながらも、リガンド末端を、陰電荷又は陽電荷に解離し易い官能基で置換する。表面改質のためのリガンド物質としては、陰電荷を帯びる物質又は陽電荷を帯びる物質を使用することができ、好ましくはMAA(Mercaptoacetic acid)、MPA(Mercaptopropionic acid)、PEI(polyethylenimine)を用いてリガンド末端をカルボキシル官能基で置換して表面を陰電荷とする。
金属ナノ粒子の表面改質段階で、金属ナノ粒子溶液と置換されるべきリガンド物質との比率は、特に限定されず、調節可能である。
リガンド物質の置換は、リガンド物質がナノ粒子の周辺に自発的に結合する結合力と位置交換反応(place-exchange reaction)によって行われる。また、表面改質されたナノ粒子は単純なリガンド間の置換によって行われるため、以前形成されたナノ粒子のサイズ及び性質を保つことができるので、ナノ粒子の特有の性質を維持して触媒の効果に影響を与えない。
また、表面改質された金属ナノ粒子の末端に陽電荷又は陰電荷の官能基を持っており、水溶液上に分散する。
【0017】
従来の技術として代表的な方法である、粒子を直接結合して触媒を製造する方法の場合、金属粒子のサイズ調節が難しく、均一相触媒の性質を維持し難いが、これに対し、本発明は、均一な金属ナノ粒子の表面改質と固定相上への高分子電解質薄膜の形成によって均一な金属ナノ粒子を固定相に固定化する製造方法を用いることにより、金属ナノ粒子が高分子電解質の薄膜に垂下する形で存在するので、均一相触媒の性質を保つことができ、金属ナノ粒子の溶出をなくすことができるという利点がある。
また、本発明の製造方法は、高分子薄膜の積層の際に、陽イオン系高分子薄膜/表面改質された金属ナノ粒子の組み合わせ、又は陰イオン系高分子薄膜/表面改質された金属ナノ粒子の組み合わせを用いて、それぞれ、陰イオンを表面に有する金属ナノ粒子又は陽イオン表面を有する金属ナノ粒子を一つの薄膜の形で使用することにより触媒の製造が可能であり、積層数によって表面のイオン密度が変わるので、固定化される金属ナノ粒子の量を調節することが可能である。
また、本発明の製造方法は、酸性を示す高分子電解質の積層数によって水素イオン濃度が変わるので、積層数を調節して酸強度及び酸量を調節し、或いはハロゲン陰イオンと塩を形成した形態の高分子電解質の積層回数を調節することにより、ハロゲン量を調節することが可能である。
【0018】
本発明の他の一具現例は、高分子電解質薄膜の形成された固定相に、表面改質された金属ナノ粒子が固定化された触媒を用いて、酸素と水素の直接反応から過酸化水素を製造する方法を含む。
前記過酸化水素の合成は、溶媒(反応媒質)としてメタノール、エタノール又は水を用いて液状反応で行うことができる。
反応物である酸素と水素は、爆発危険性を減らすために、窒素で希釈された混合ガスを用いることが好ましい。また、水素:酸素:窒素の体積比は3:40:57に維持し、反応に使用される全体ガス量と溶媒の速度比は3200程度を維持しながら、冷却水ジャケット付管状反応器を用いて反応圧力50Bar、反応温度25〜40℃を維持しながら反応を行うことがよい。
酸素と水素の反応から過酸化水素を製造する反応では、反応器の腐食を防止するために強酸添加なしで極少量のハロゲン添加剤のみを添加することが好ましく、ハロゲン添加剤としては、臭化水素酸(Hydrobromic acid)、臭化ナトリウム(Sodium Bromide:NaBr)、臭化カリウム(Potassium Bromide:KBr)などを使用することができる。ハロゲン添加剤の濃度は、溶媒として用いたメタノールの質量を基準として100ppm以下であることが好ましく、15ppmに設定することがさらに好ましい。
【実施例】
【0019】
以下、触媒の製造例、及び酸素と水素を反応物として用いて過酸化水素を直接製造する反応の触媒として前記触媒らを用いた実施例及び比較例によって、本発明をより詳細に説明する。
【0020】
実施例1:均一な金属ナノ粒子の合成
金属前駆体とリガンド物質の反応による均一なパラジウムナノ粒子を形成する方法は、次のとおりである。
まず、溶媒としてトルエン45mLをフラスコに仕込み、アルゴンガス雰囲気で温度を95℃まで上昇させる。金属前駆体としての酢酸パラジウム(palladium acetate)0.20gとリガンド物質としてのドデシルスルフィド(dodecyl sulfide)1.65gを5mLのトルエンに溶かしてフラスコに仕込み、1時間反応を行う。反応後、常温で溶液の温度を低めた後、回転濃縮器を用いて溶媒を除去し、アセトン30mLを入れて分散させた後、エペンチューブに分注してアセトンを用いて3回洗浄し、しかる後に、最終的にトルエン30mLに分散させて形成された金属ナノ粒子を得る。
図5は均一に製造された金属ナノ粒子を透過電子顕微鏡(2.1±0.2mm)を用いて分析した結果を示す。
【0021】
実施例2:金属ナノ粒子の表面改質
前記で形成された均一なナノ粒子の疎水性リガンド物質を、末端に官能基を有するリガンド物質で置換し、表面を改質する方法は、次のとおりである。
実施例1で形成された金属ナノ粒子溶液10mL及び置換されるべきリガンド物質MAA(Mercaptoacetic acid)10mLをバイアルに入れる。強い攪拌と共に、60℃で12時間反応を行う。反応後、トルエン2mLと蒸留水3mLをバイアルに入れて相分離させることにより、上層液としてのトルエンを除去する。
残りの表面改質された金属ナノ粒子溶液をエペンチューブに分注し、蒸留水を用いて3回洗浄する。洗浄後に得られた、表面改質された金属ナノ粒子溶液内に残っているMAAを濾過器によって除去し、最終的に蒸留水に分散させることにより、表面改質された金属ナノ粒子を得る。
図6は表面改質された金属ナノ粒子を透過電子顕微鏡(2.4±0.1nm)を用いて分析した結果を示し、
図7は表面改質された金属ナノ粒子をゼータ電位測定器(−33.09mV)を用いて分析した結果を示す。
【0022】
実施例3:固定相への高分子電解質薄膜の形成
スルホン酸官能基(SO
3―)を有する陰イオン系イオン交換樹脂上に高分子電解質薄膜を形成する方法は、次のとおりである。全ての過程は常温で行われる。
まず、20mM PAH(Poly(allylamine hydrochloride)、重量分子量200,000)水溶液と60mM PSS((Poly(4-styrene sulfonic acid)、重量分子量70,000)水溶液を製造した後、塩酸と水酸化ナトリウムを用いてpHを9に調整する。
スルホン酸官能基(SO
3−)を有する陰イオン系イオン交換樹脂10gを蒸留水100mLに仕込み、1時間洗浄することを3回繰り返し行う。洗浄した蒸留水を除去した後、スルホン酸官能基(SO
3−)を有する陰イオン系イオン交換樹脂入りのフラスコに20mM PAH水溶液100mLを入れ、20分間攪拌する。ビーカーに残っている溶液を除去した後、さらに蒸留水100mLに入れて5分間洗浄することを3回繰り返し行う。固定相に形成された高分子電解質薄膜の積層数は1である。
前記スルホン酸官能基(SO
3-)を有する陰イオン系イオン交換樹脂上にPAH層が形成された物質を60mM PSS水溶液100mLに入れ、20分間攪拌する。ビーカーに残っている溶液を除去した後、さらに蒸留水100mLに入れて5分間洗浄することを3回繰り返し行う。
【0023】
実施例4:固定相への高分子電解質多層薄膜の形成
前記実施例3と同様の過程を繰り返し行って高分子電解質薄膜の積層数が9となるようにする以外は、実施例3と同様にする。
【0024】
実施例5:高分子電解質薄膜が形成された固定相への、表面改質された金属ナノ粒子の固定化
高分子電解質薄膜の形成された陰イオン系イオン交換樹脂上に、表面改質された金属ナノ粒子を固定化する方法は、次のとおりである。全ての過程は常温で行われる。
スルホン酸官能基(SO
3-)を有する陰イオン系イオン交換樹脂上に高分子電解質薄膜が形成された固定相入りのフラスコに、表面改質された金属ナノ粒子600mgを入れ、24時間攪拌して反応させる。ビーカーに残っている溶液を除去した後、さらに蒸留水100mLに入れて5分間洗浄することを3回繰り返し行う。
【0025】
実施例6:高分子電解質多層薄膜が形成された固定相への、表面改質された金属ナノ粒子の固定化
前記実施例5の1層の高分子電解質薄膜の代わりに9層の高分子電解質多層薄膜が形成された固定相を使用する以外は、実施例5と同様にして固定化する。
図8は高分子電解質薄膜の形成された固定相(stationary phase)に固定化された(immobilized)表面改質金属ナノ粒子を極低温薄片切断機を用いて切片にし、これを極低温電子顕微鏡を用いて分析した結果を示す。
【0026】
実験例1:高分子電解質1層薄膜から形成された触媒の効率
前記実施例5で製造された触媒を用いて、酸素と水素の反応から過酸化水素を製造し、触媒の効率を確認した。
冷却ジャケット付管状反応器に触媒10ccを充填した後、1bar、反応温度30℃を維持した状態でメタノールを3時間入れて洗浄を行った。その後、溶媒をメタノールの代わりにHBr15ppmの含まれたメタノールで取り替えて入れ、反応圧力を50barに上げた後、水素:酸素:窒素の体積比を3:40:57、反応に使用される全体ガス量と溶媒の速度比を3200程度に維持した状態で反応を行った。反応後、過酸化水素の収率は滴定(titration)によって計算した。その結果を表1に示す。
【0027】
実験例2:高分子電解質9層薄膜から形成された触媒の効率
前記実施例6で製造した触媒を用いて酸素と水素の反応から過酸化水素を製造し、触媒の効率を確認した。
【0028】
【表1】