(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5736458
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】血清内ダイオキシン類の新規生物学的検出方法、及びその代謝症候群及び関連症状に対する診断的使用
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20150528BHJP
C12Q 1/68 20060101ALI20150528BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20150528BHJP
G01N 33/566 20060101ALI20150528BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20150528BHJP
C12Q 1/66 20060101ALI20150528BHJP
C12Q 1/42 20060101ALI20150528BHJP
C12Q 1/48 20060101ALI20150528BHJP
C12Q 1/34 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12Q1/68 A
G01N33/53 J
G01N33/566
C12N15/00 AZNA
C12Q1/66
C12Q1/42
C12Q1/48 Z
C12Q1/34
【請求項の数】11
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-528112(P2013-528112)
(86)(22)【出願日】2011年9月6日
(65)【公表番号】特表2013-540433(P2013-540433A)
(43)【公表日】2013年11月7日
(86)【国際出願番号】KR2011006583
(87)【国際公開番号】WO2012033324
(87)【国際公開日】20120315
【審査請求日】2013年4月17日
(31)【優先権主張番号】10-2010-0088905
(32)【優先日】2010年9月10日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】510231569
【氏名又は名称】ユニバーシティ−インダストリー コオペレーション グループ オブ ギョンヒ ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY−INDUSTRY COOPERATION GROUP OF KYUNG HEE UNIVERSITY
(73)【特許権者】
【識別番号】513057418
【氏名又は名称】リー,ホン キュ
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100122389
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 栄一
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100171505
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 由美
(72)【発明者】
【氏名】リー,ホン キュ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨンミ
【審査官】
櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第05854010(US,A)
【文献】
特開2006−254714(JP,A)
【文献】
Kasai et al.,Analytical Biochemistry,Vol.337,p.84-88(2005)
【文献】
Denison et al.,The Journal of Biological Chemistry,Vol.263, No.33,p.17221-17224(1988)
【文献】
Lee et al.,Diabetes Care,Vol.29, No.7,p.1638-1644(2006)
【文献】
Emi et al.,The Journal of Biological Chemistry,Vol.271, No.7,p.3952-3958(1996)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00
G01N 33/50
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)1個以上の配列番号1で表されるダイオキシン反応要素(dioxin-responsive element,DRE)、プロモーター、及びレポーター遺伝子が作動可能に連結された遺伝子構築物を含有する組換えベクターを宿主細胞に導入して形質転換細胞を製造する工程と、
2)被検者から単離した血清を加熱不活性化(heat activation)してサンプルを調製する工程と、
3)工程1)で製造された形質転換細胞を工程2)で取得したサンプルと共に培養する工程と、
4)工程3)で培養された形質転換細胞内のレポーター遺伝子によって発現されるタンパク質の発現の有無を検出する工程
とを含む、血清内ダイオキシン類化合物の検出方法。
【請求項2】
前記ダイオキシン類化合物が、ポリ塩化ジベンゾダイオキシン類(polychlorinated dibenzodioxins;PCDDs)、ポリ塩化ジベンゾフラン類(Polychlorinated dibenzo-furans;PCDFs)、ポリ塩化ビフェニル類(PCBs)、及び多環芳香族炭化水素類(Polycyclic aromatic hydrocarcons;PAHs)からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
前記工程1)のダイオキシン反応要素が、3ないし4個含まれることを特徴とする、請求項1に記載の検出方法。
【請求項4】
前記工程1)のプロモーターが、マウス乳癌ウイルス(Mouse Mammary Tumor Virus, MMTV)プロモーター、SV40プロモーター、及びサイトメガロウイルス(cytomegalovirus, CMV)プロモーターからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の検出方法。
【請求項5】
前記工程1)のレポーター遺伝子が、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ及びβ−ガラクトシダーゼからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の検出方法。
【請求項6】
前記工程1)の宿主細胞が、哺乳動物の腫瘍細胞株であることを特徴とする、請求項1に記載の検出方法。
【請求項7】
前記宿主細胞が、マウスの肝臓癌細胞株であることを特徴とする、請求項6に記載の検出方法。
【請求項8】
前記工程2)の血清が、全血清(total serum)であることを特徴とする、請求項1に記載の検出方法。
【請求項9】
1)1個以上の配列番号1で表されるダイオキシン反応要素(DRE)、プロモーター、及びレポーター遺伝子が作動可能に連結された遺伝子構築物を含有する組換えベクターを宿主細胞に導入して形質転換細胞を製造する工程と、
2)糖尿病または代謝症候群に罹患していることが疑われる被検者から単離した血清を加熱不活性化してサンプルを調製する工程と、
3)工程1)で製造された形質転換細胞を工程2)で取得したサンプルと共に培養する工程と、
4)工程3)で培養された形質転換細胞内のレポーター遺伝子によって発現されるタンパク質の発現の有無を検出する工程、及び
5)前記工程4)でレポーター遺伝子発現が検出された場合、糖尿病または代謝症候群の発病可能性があると判定する工程
とを含む、糖尿病または代謝症候群の発病可能性予測方法。
【請求項10】
1)1個以上の配列番号1で表されるダイオキシン反応要素(DRE)、プロモーター、及びレポーター遺伝子が作動可能に連結された遺伝子構築物を含有する組換えベクターを宿主細胞に導入して形質転換細胞を製造する工程と、
2)糖尿病または代謝症候群に対する治療を受けた被検者から単離した血清を加熱不活性化してサンプルを調製する工程と、
3)工程1)で製造された形質転換細胞を工程2)で取得したサンプルと共に培養する工程と、
4)工程3)で培養された形質転換細胞内のレポーター遺伝子によって発現されるタンパク質の発現レベルを検出する工程、及び
5)前記工程4)で検出されたレポーター遺伝子の発現レベルが治療を受けていない血清で処理した対照群と比べて減少した場合、糖尿病または代謝症候群が緩和、改善または治療されたと判定する工程
とを含む、糖尿病または代謝症候群の予後モニタリング方法。
【請求項11】
前記工程2)の血清が、全血清であることを特徴とする、請求項9または10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血清内ダイオキシン類の新規生物学的検出方法、及びその代謝症候群及び関連症状に対する診断的使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
残留性有機汚染物質(persistent organic pollutants,POPs)は、自然界に存在しないかまたは極めて微量のみ存在し、大部分は人間が必要のために作り出した人為的有機化学物質であって、ダイオキシンがその代表的な例である。POPsが体内に流入すると容易には分解及び排泄されないで組織内に蓄積される。最近このような産業副産物、殺虫剤または薬品などを含む環境性化合物が、人間及び多様な野生種に潜在的な内分泌撹乱影響を与えることに対する世間の関心が高まった。そして、現在、ダイオキシン類、塩化ビフェニル類、有機リン剤など各種POPsの血中濃度がインシュリン抵抗症、糖尿病、肥満、異常脂質血症または高血圧の発生と関連性があることが報告されている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。
【0003】
一方、POPsの代表物質の一つであるダイオキシン系化合物は、環境ホルモン(environmental hormone)または内分泌撹乱物質(endocrine disrupter)と呼ばれ、世界的に問題視されている。特に、2,3,7,8-テトラクロロジベンゾパラダイオキシン(2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin,TCDD)は、環境ホルモンの中で最も毒性が強く、人間が合成した物質の中で最も毒性が強い化合物であって、化学的に非常に安定的で自然環境ではほとんど半永久的に存在し、体内に流入すると脂肪組織に蓄積して一部は小便及び胆汁に排泄されるが、容易には排泄または分解されないことが知られている。TCDDを処理したマウスで肝臓内ユビキノン(CoQ)が減少し、ATPの生成が抑制され(非特許文献4)、TCDDはAhR依存的ROSの生成を誘導してミトコンドリア膜電位(ΔΨm)の減少を引き起こすことにより、ミトコンドリアの機能を抑制して糖尿病を含む代謝症候群を誘発し得ることが報告された。
【0004】
ダイオキシンが細胞内に流入すると、ダイオキシンは細胞質内に存在するダイオキシン受容体(アリル炭化水素受容体(Arylhydrocarbon receptor),AhR)に特異的に結合する。このダイオキシン受容体複合体は、核内に流入して核内でARNT(AhR 核輸送体(nuclear translocator))と結合してDNA結合型に変わる。変換されたDNA結合型複合体は、特異遺伝子に強く結合するが、この特異結合遺伝子がダイオキシン反応要素(Dioxin Responsive Element,DRE)であり、DREにダイオキシン複合体が結合すると近接した反応遺伝子であるP4501A1が活性化されてシトクロムP4501A1酵素群の合成が誘導されて、これら合成された酵素によってダイオキシンの毒性が発現される。
【0005】
ヒトの血清内に存在するPOPsの中で、TCDDと同じ系統の化合物(TCDD Equivalent,TCDDEq)の濃度を測定することで、POPsによって誘発される疾病を有した患者を分類して、それら物質の除去と治療効果との相関性などの分析を実施することができる。ダイオキシンを測定する方法としては、器機分析法がよく用いられている。現在まで報告されたTCDDEq分析方法としては、ガスクロマトグラフィ/質量分析技法(GC/MS)及び細胞基盤分析法(cell-based assay)がある。前記GC/MS方法は、TCDDのような汚染物質の各種類別の濃度及び存在の有無の測定が可能であるが、高効率分析( ハイスループットアッセイ)のためには高い費用負担が伴い、分析のために多量の血清試料(25〜200ml)が必要とされる。一方、細胞基盤分析法としては、CALUX(Chemically Activated Luciferase Expression)分析法が従来から知られているが、これは生物学的定量法であって遺伝子組換えを通じて構築された細胞を用いて、ダイオキシン存在時にルシフェラーゼが分泌するシステムを通じてダイオキシン類化合物を検出することができる。DRE及びルシフェラーゼ遺伝子を有する細胞がダイオキシンに露出すると、細胞内のAhR、ARNTと結合したダイオキシンは核内のDREに結合し、それによってルシフェラーゼ発現遺伝子が誘導されながら露出したダイオキシンの量に比例して細胞内でルシフェラーゼが合成される。したがって、このルシフェラーゼの活性度変化をダイオキシンの検索指標に活用することになる。このような方法は、ダイオキシン類似化合物の測定が可能で、TCDD等価(TCDD Equivalency,TEQ)を測定することができる。しかし、現在の技術は分析時間が長く、ヒトの血清試料からヘキサンなどを使用して抽出または精製する過程が必要であり、多量の血清が必要となるのが実情である(最小1ml、一般的に10〜20ml)。また、 一時的にトランスフェクションする細胞株を使用すると、各分析間の偏差が大きくて信頼性に問題が発生し、試料の個数が多くなるほど処理速度及び信頼度はさらに減少するようになる。同時に、試料からダイオキシンを抽出する過程が必要である。すなわち、試料に有機溶媒を処理して脂肪を抽出して活性化した酸性シリカゲルカラムに通過させる脂肪精製過程を経てダイオキシンを抽出するものである。したがって、このようなダイオキシンの抽出及び精製過程のため、TCDD標準物質の分析値と血清中のTEQを定量した値に差がでるようになる(非特許文献5)。
【0006】
このように、既存の方法は高価の分析装備を必要とし、高度の試料精製のための複雑な前処理過程、それによる多量の有機溶媒、放射線標識物質など有毒試薬が必要となり分析時間も長いので、時間、労動力、検査費などの節減のためには、高い検出感度が保障されながら簡単な前処理、短時間内の検査及び定量が可能な生物学的検査法の開発及び応用が求められている。
【0007】
それで、本発明者らは、既存のPOPs測定方法の問題点を改善した容易で正確な高効率のPOPs検出方法を開発しようと研究した結果、血清試料使用時に血清からダイオキシンを精製するための前処理過程が求められる既存の測定方法とは異なり、全血清を使用することによって多数の試料を容易に正確に分析することができるのみならず、少量の血清試料を使用しても正確な分析が可能な差別化された生物学的検出方法を確立し、同時に、世界的に変異遺伝子及びそれを用いた発明が特許対象として許容されているので、DRE遺伝子を用いてダイオキシン類化合物の有無を判定することができることを明らかにすることによって本発明を完成した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Lee DHら,Diabetes Care,2006年,第29(7)巻,p.1638-44
【非特許文献2】Lee DHら,Diabetes Care,2007年Mar,第30(3)巻,p.622-8
【非特許文献3】Lee DHら,Diabetologia,2007年Sep,第50(9)巻,p.1841-51
【非特許文献4】Toxicol.Appl.Pharmacol.2006年,第217巻,p.363
【非特許文献5】Michael,H.ら,Toxicol.Sciences,2000年,第54巻,p.183-193
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、血清内ダイオキシン類の新規生物学的検出方法、及びその代謝症候群及び関連症状に対する診断的使用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、
1)1個以上の配列番号1で表されるダイオキシン反応要素(dioxin-responsive element,DRE)、プロモーター、及びレポーター遺伝子が作動可能に連結された遺伝子構築物を含有する組換えベクターを宿主細胞に導入して形質転換細胞を製造する工程、
2)工程1)で製造された形質転換細胞を被検者の血清で処理した後、培養する工程、
3)工程2)で培養された形質転換細胞内のレポーター遺伝子によって発現されるタンパク質の発現の有無を検出する工程、及び
4)前記工程3)でレポーター遺伝子の発現が検出された場合、血清にダイオキシン類化合物が含まれると判定する工程
を含む、血清内ダイオキシン類化合物の検出方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、
1)1個以上の配列番号1で表されるダイオキシン反応要素(DRE)、プロモーター、及びレポーター遺伝子が作動可能に連結された遺伝子構築物を含有する組換えベクターを宿主細胞に導入して形質転換細胞を製造する工程、
2)工程1)で製造された形質転換細胞を糖尿病または代謝症候群が疑われる被検者の血清で処理した後、培養する工程、
3)工程2)で培養された形質転換細胞内のレポーター遺伝子によって発現されるタンパク質の発現の有無を検出する工程、及び
4)前記工程3)でレポーター遺伝子発現が検出された場合、糖尿病または代謝症候群の発病可能性があると判定する工程
を含む、糖尿病または代謝症候群の発病可能性予測方法を提供する。
【0012】
同時に、本発明は、
1)1個以上の配列番号1で表されるダイオキシン反応要素(DRE)、プロモーター、及びレポーター遺伝子が作動可能に連結された遺伝子構築物を含有する組換えベクターを宿主細胞に導入して形質転換細胞を製造する工程、
2)工程1)で製造された形質転換細胞を糖尿病または代謝症候群に対する治療を受けた被検者の血清で処理した後、培養する工程、
3)工程2)で培養された形質転換細胞内のレポーター遺伝子によって発現されるタンパク質の発現レベルを検出する工程、及び
4)前記工程3)で検出されたレポーター遺伝子の発現レベルが治療を受けていない血清で処理した対照群と比べて減少した場合、糖尿病または代謝症候群が緩和、改善または治療されたと判定する工程
を含む、糖尿病または代謝症候群の予後モニタリング方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の環境ホルモン検出方法は、測定前に血清からダイオキシンを精製する過程が必要な既存の測定方法より改善されたもので、血清全体を使用することによって労動力及び時間を節減して、多数の試料を容易かつ正確に高い効率で分析することができ、ヘキサンで抽出する前処理過程がないので少量の血清試料を使用しても分析が可能であるので、血清内環境ホルモンの生物学的検出に有用に用いることができ、同時に、血清内に存在するダイオキシンのようなPOPsの存在有無を正確に判断することによって、特定POPsと患者の疾病因子間の相関性を研究して、それを疾病の発病予測及び治療の有無を判定することに有用に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】pCYP1A1−lucベクターのクローニングを示した図である。
【
図2】pCYP1A1−lucを安定的に発現するHepa1C1c7細胞株のコロニーを示した図である。
【
図3】pCYP1A1−lucを安定的に発現するHepa1C1c7細胞株において、インドール3カルビノールに対する反応検査結果を示した図である。
【
図4】pCYP1A1−lucを安定的に発現するHepa1C1c7細胞株において、2,3,7,8-テトラクロロジベンゾパラダイオキシン(TCDD)に対する反応検査結果を示した図である。
【
図5】ダイオキシン倍数誘導値の分布を示した図である。
【
図6】直線回帰法によって、ヒトの体重によるその血清内ダイオキシンの倍数誘導を分析した図である。
【
図7】直線回帰法によって、ヒトのbmiによるその血清内ダイオキシンの倍数誘導を分析した図である。
【
図8】直線回帰法によって、ヒトのwcによるその血清内ダイオキシンの倍数誘導を分析した図である。
【
図9】直線回帰法によって、ヒトのsbpによるその血清内ダイオキシンの倍数誘導を分析した図である。
【
図10】直線回帰法によって、ヒトのtgによるその血清内ダイオキシンの倍数誘導を分析した図である。
【
図11】直線回帰法によって、ヒトのfbsによるその血清内ダイオキシンの倍数誘導を分析した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、環境ホルモンによって発現が調節される組換えレポーター遺伝子を含有する形質転換細胞を用いた血清内環境ホルモンの生物学的検出方法を提供する。
【0017】
具体的に、前記検出方法は、
1)1個以上の配列番号1で表されるダイオキシン−反応要素(dioxin-responsive element,DRE)、プロモーター、及びレポーター遺伝子が作動可能に連結された遺伝子構築物を含有する組換えベクターを宿主細胞に導入して形質転換細胞を製造する工程、
2)工程1)で製造された形質転換細胞を被検者の血清で処理した後、培養する工程、
3)工程2)で培養された形質転換細胞内のレポーター遺伝子によって発現されるタンパク質の発現の有無を検出する工程、及び
4)前記工程3)でレポーター遺伝子の発現が検出された場合、血清にダイオキシン類化合物が含まれると判定する工程
を含むことが好ましいがそれに限定されない。
【0018】
前記ダイオキシン類化合物は、ポリ塩化ジベンゾダイオキシン類(polychlorinated dibenzodioxins;PCDDs)、ポリ塩化ジベンゾフラン類(Polychlorinated dibenzo-furans;PCDFs)、ポリ塩化ビフェニル類(PCBs)、多環芳香族炭化水素類(Polycyclic aromatic hydrocarcons;PAHs)、フラボノイド類または農薬(pesticides)に属するすべての化合物であることが好ましいがそれに限定されず、前記DREに結合して転写活性に影響を及ぼす環境ホルモンならすべて可能であり、ダイオキシンと類似の機能を有する化合物をすべて含むことができる。
【0019】
前記方法において、前記工程1)のダイオキシン反応因子は1個以上含まれ、3ないし4個であることが最も好ましいが、それに限定されない。
【0020】
前記方法において、前記工程1)のプロモーターは、マウス乳癌ウイルス(Mouse Mammary Tumor Virus, MMTV)プロモーター、SV40プロモーター、サイトメガロウイルス(cytomegalovirus, CMV)プロモーターからなる群から選択されるいずれか一つであることが好ましく、グルココルチコイド反応因子部位を除去したMMTV由来のプロモーターであることがさらに好ましいが、それに限定されない。
【0021】
前記プロモーターは、エンハンサー部位がない最小プロモーターであり得、レポーター遺伝子の転写活性レベルは、最小プロモーターの上部に隣接したエンハンサーまたはシス反応要素によって決定され得るので、転写活性に影響を及ぼす他の要素の効果は完全に除去することができる。
【0022】
前記方法において、前記工程1)のレポーター遺伝子はルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ及びβ−ガラクトシダーゼからなる群から選択されるいずれか一つであることが好ましく、活性分析の取り扱いやすさ及び敏感度の面でルシフェラーゼを用いることがさらに好ましいが、それに限定されない。
【0023】
前記形質転換細胞は、安定に発現する形質転換された細胞で、形質転換されたレポーターベクターが宿主の染色体に挿入されて宿主細胞の遺伝的レパートリーの安定した一部になるということを意味し、これによって形質転換されたレポーターベクター内の遺伝子の安定した発現が、最小30世代に渡って可能になり得る。
【0024】
前記工程1)の宿主細胞は真核細胞で、哺乳動物の細胞であることが好ましく、哺乳動物の腫瘍細胞株であることがさらに好ましく、マウスの肝臓癌細胞株、例えば、Hepa1c1c7であることがさらに好ましいが、それに限定されない。
【0025】
ダイオキシンが細胞内に流入すると、ダイオキシンは細胞質内に存在するダイオキシン受容体(Arylhydrocarbon receptor,AhR)に特異的に結合して、核内に流入したダイオキシン受容体複合体は、核内でARNT(AhR nuclear translocator)と結合してDNA結合型に変わるので、前記ARNT及びAhRを内因的に発現する細胞なら何でも前記宿主細胞として使用可能である。
【0026】
前記形質転換は、電気穿孔法、原形質融合、リン酸カルシウム(CaPO
4)沈澱法、塩化カルシウム(CaCl
2)沈澱法、シリコンカーバイド繊維を用いた撹拌またはリポフェクタミン媒介方法などを用いて行なうことができるが、それに限定されない。
【0027】
既存のダイオキシン類化合物の測定方法は、試料に有機溶媒を処理して脂肪を抽出して脂肪精製過程を経てダイオキシンを抽出する前処理過程が必要であるが、前記方法において、前記工程2)の血清は全血清(total serum)であり、血清全体を使用することができる。
【0028】
前記血清は、形質転換細胞に処理する前に形質転換細胞に対する血清の安全性のために加熱不活性化(heat activation)することが好ましいが、それに限定されない。
【0029】
本発明の具体的な実施例において、4個の配列番号1で表されるダイオキシン反応要素(DRE)結合部位(5’−TNGCGTG−3’)を含有するマウスCYP1A1プロモーター、及びマウス乳癌ウイルス(MMTV)の長い末端反復(LTR)を含有する組換えレポーター遺伝子ベクターを製造し(
図1参照)、これをマウス肝臓癌細胞株であるHepa1c1c7に形質転換して、前記組換えレポーター遺伝子を安定的に発現する細胞株を製造した(
図2参照)。前記製造された細胞株を対象に、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾ−p−ダイオキシン(TCDD)に対する反応検査を実施した。その結果、TCDDを処理しない対照群に比べて10ないし1000pM濃度のTCDDを処理した場合、顕著にルシフェラーゼ活性が増加することが示された(
図4参照)。そして、前記組換えレポーター遺伝子を安定的に発現する細胞株はTCDDに反応してルシフェラーゼ活性を効果的に示すことを確認した。
【0030】
本発明者らは、前記製造された細胞株を用いて、ヒトの血清試料内に存在するダイオキシン存在の有無を検出し、ダイオキシン程度と身体計測変数間の相関関係を分析した。血清試料を準備するために、97名の成人から得た血清試料を65℃で30分間熱処理不活性化(heat inactivation)して、細胞培養に対する安全性を付与する。前記熱処理不活性化は、血清を加熱して生物学的活性を消失させることを意味し、血清中には細胞増殖因子や血清タンパク質の外に体液性免疫を担当する因子の一つとして補体を含んでいる。多様な補体の中には、培養細胞を認識して細胞毒性を示すものが含まれていて、血清をそのまま培地に入れて培養に使用すると細胞増殖が抑制されたり死滅したりすることがあるので、安全性のために熱不活性化を実施した。
【0031】
前記のように準備した血清試料10μlを前記組換えレポーター遺伝子を安定的に発現する細胞株に処理してルシフェラーゼ分析を実施して、ルシフェラーゼ活性と身体計測変数間の相関性を分析した結果、97名のヒト血清試料に対するルシフェラーゼの倍数誘導値は2.00ないし3.00倍数区間に大部分分布し、約2.50ないし2.65倍数に最も高い割合で存在することが示された。倍数誘導値の平均値は約2.35倍数であることが確認された(
図5参照)。
【0032】
また、直線回帰法(linear regression)によってヒトの体重、体質量指数(bmi)、腰まわり(waist circumference, wc)、収縮期血圧(sbp)、拡張期血圧(dbp)、中性脂肪(トリグリセリド, TG)、または空腹時の血糖(fbs)指数とダイオキシンとの間に有意的な相関性があることを確認し、前記変数値が増加するほどダイオキシンの倍数値も増加する傾向を示した(
図6ないし11参照)。ダイオキシン倍数誘導値は、非飲酒及び非喫煙者に比べて飲酒及び喫煙者からさらに高く測定され、多変量解析を通じて相関性がある変数にすべて補正した結果、飲酒の有無のみが有意的な相関性が維持されることを確認した。また、耐糖能障害(IGT)及び空腹血糖障害(IFG)からなる糖調節障害(IGR)、糖尿病(DM)、及び正常耐糖能(NGT)において、NGTの血清に比べてIGRまたはDMの血清でルシフェラーゼ分析値が高く、IGR及びDM間には有意な差がなかった。代謝症候群要素(MetS component)個数によるダイオキシン倍数誘導を分析した結果、MetS要素数が増える程ダイオキシン倍数誘導値が増加し、MetS患者においては正常に比べてダイオキシン倍数誘導値が顕著に増加したことが示された。同時に、ダイオキシン倍数誘導の増加が代謝症候群または糖尿病に対する危険度にどのような相関性を有するのかを分析した結果、ダイオキシンの倍数誘導値が1増加する度に代謝症候群及び糖尿病危険がそれぞれ19.7倍及び11.9倍増加することが分析され、それをbmi指数に補正しても倍数誘導値が1ずつ増加する度に代謝症候群及び糖尿病がそれぞれ13倍及び8.7倍に増加し、年齢、性別及びbmiで補正しても倍数誘導値が増加すれば代謝症候群または糖尿病も増加することが確認された。
【0033】
このような結果を通じて、本発明と以前の報告の技術的特徴及び効果を比較してみると、下記の表1のように、先行文献ではCALUX分析システムを使用するため、ヘキサンのような有機溶媒を使用して血清からダイオキシンを抽出する前処理過程が伴った。一方、本発明は血清を簡単な加熱不活性化した後にすぐに分析することによって時間、費用及び労動力の節減という長所があった。また、分析に必要な血清の量においても、本発明のシステムでは先行文献に比べて約1/1000程度の血清で分析可能であることが確認され、さらに多い量を使用した先行文献と類似の敏感度を有する高効率の分析システムであることを立証した。
【表1】
【0034】
したがって、前記ダイオキシン類化合物の検出方法として確認されたダイオキシン類の血清内含量と身体の多くの変数の間には有意な相関性があることを確認したので、試料からダイオキシンを精製するための前処理過程が求められる既存の測定方法と異なり、血清全体を使用することによって労動力及び時間を節減して多数の試料を容易かつ正確に分析することができるのみならず、少量の血清試料を使用しても正確な分析が可能なので、環境ホルモンによって発現が調節される組換えレポーター遺伝子を含有する形質転換細胞株及び全血清(total serum)は、血清内環境ホルモンの生物学的検出に有用である。
【0035】
また、本発明はダイオキシン類化合物によって発現が調節される組換えレポーター遺伝子を含有する形質転換細胞を用いた、糖尿病または代謝症候群の発病可能性予測方法を提供する。
【0036】
具体的に、前記予測方法は、
1)1個以上の配列番号1で表されるダイオキシン反応要素(DRE)、プロモーター、及びレポーター遺伝子が作動可能に連結された遺伝子構築物を含有する組換えベクターを宿主細胞に導入して形質転換細胞を製造する工程と、
2)工程1)で製造された形質転換細胞を糖尿病または代謝症候群が疑われる被検者の血清で処理した後、培養する工程と、
3)工程2)で培養された形質転換細胞内のレポーター遺伝子によって発現されるタンパク質の発現の有無を検出する工程、及び
4)前記工程3)でレポーター遺伝子の発現が検出された場合、糖尿病または代謝症候群の発病可能性があると判定する工程
とを含むことが好ましいが、それに限定されない。
【0037】
同時に、本発明はダイオキシン類化合物によって発現が調節される組換えレポーター遺伝子を含有する形質転換細胞、及び全血清を用いた糖尿病または代謝症候群の予後モニタリング方法を提供する。
【0038】
具体的に、前記予後予測方法は、
1)1個以上の配列番号1で表されるダイオキシン反応要素(DRE)、プロモーター、及びレポーター遺伝子が作動可能に連結された遺伝子構築物を含有する組換えベクターを宿主細胞に導入して形質転換細胞を製造する工程と、
2)工程1)で製造された形質転換細胞を糖尿病または代謝症候群に対する治療を受けた被検者の血清で処理した後、培養する工程と、
3)工程2)で培養された形質転換細胞内のレポーター遺伝子によって発現されるタンパク質の発現レベルを検出する工程、及び
4)前記工程3)で検出されたレポーター遺伝子の発現レベルが治療を受けていない血清で処理した対照群と比べて減少した場合、糖尿病または代謝症候群が緩和、改善または治療されたと判定する工程
とを含むことが好ましいが、それに限定されない。
【0039】
前記方法において、前記工程1)のダイオキシン反応因子は1個以上含まれ、3ないし4個であることが最も好ましいが、それに限定されない。
【0040】
前記工程1)のプロモーターは、MMTV(Mouse Mammary Tumor Virus)プロモーター、SV40プロモーター、CMV(cytomegalovirus)プロモーターからなる群から選択されるいずれか一つであることが好ましく、MMTV由来のプロモーターであることがさらに好ましいが、それに限定されない。
【0041】
前記工程1)のレポーター遺伝子は、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ及びβ−ガラクトシダーゼからなる群から選択されるいずれか一つであることが好ましく、活性分析の取り扱いやすさ及び敏感度の面でルシフェラーゼを用いることがさらに好ましいが、それに限定されない。
【0042】
前記工程1)の宿主細胞は真核細胞で、哺乳動物の細胞であることが好ましく、哺乳動物の腫瘍細胞株であることがさらに好ましく、マウス肝臓癌細胞株、例えばHepa1c1c7であることがさらに好ましいがそれに限定されず、ARNT及びAhRを内因的に発現する細胞であれば何でも前記宿主細胞として使用可能である。
【0043】
前記形質転換は、電気穿孔法、原形質融合、リン酸カルシウム(CaPO
4)沈澱法、塩化カルシウム(CaCl
2)沈澱法、シリコンカーバイド繊維を用いた撹拌またはリポフェクタミン媒介された方法などを用いて行なうことができるが、それに限定されない。
【0044】
前記方法において、前記工程2)の血清は全血清であり、血清からダイオキシン類化合物を精製する前処理過程なしに、血清全体を使用することができる。
【0045】
前記血清は、形質転換細胞に処理する前に形質転換細胞に対する血清の安全性のために加熱不活性化することが好ましいが、それに限定されない。
【0046】
本発明者らは、ダイオキシン反応要素(DRE)結合部位、マウス乳癌ウイルス(MMTV)由来のプロモーター、その下部にルシフェラーゼ遺伝子を含有する組換えレポーター遺伝子ベクターが安定的に形質転換された細胞株を製造して、ヒトの血清内に存在するダイオキシンの有無と身体計測変数間の相関関係を分析した結果、ヒトの体重、bmi、wc、sbp、dbp、tgまたはfbs変数とダイオキシンの間に有意な相関性があることを確認し、耐糖性障害(IGT)及び空腹血糖障害(IFG)からなる糖調節障害(IGR)、糖尿病(DM)、及び正常耐糖能(NGT)とダイオキシン含量間の有意な相関性を立証し、特に、NGTの血清に比べてIGRまたはDM患者の血清においてルシフェラーゼ分析値が高いことを確認した。また、代謝症候群要素(MetS component)数が増加するほどダイオキシン倍数誘導値が増加し、MetS患者は正常人に比べてダイオキシン倍数誘導値が顕著に高いことを確認し、ダイオキシン倍数誘導の増加が代謝症候群または糖尿病に対する危険度を増加させることを確認した。
【0047】
したがって、ダイオキシン類の血清内含量と糖尿病または代謝性症候群間には有意な相関関係があることを確認したので、環境ホルモンによって発現が調節される組換えレポーター遺伝子を含有する形質転換細胞株及び全血清を用いた前記ダイオキシン類化合物の検出方法は、糖尿病または代謝症候群の発病可能性及び予後の予測に有用できる。
【0048】
以下、本発明を下記の実施例及び実験例によって詳細に説明する。
【0049】
但し、下記の実施例及び実験例は本発明の内容を例示するだけのものであって、発明の範囲が実施例及び実験例に限定されるのではない。
【実施例1】
【0050】
組換えレポーター遺伝子を安定的に発現する細胞株の製造
<1−1>組換えレポーター遺伝子ベクターの製造
pGudLuc1.1ベクターから、4個のDRE結合部位(AhR結合部位)(5’−TNGCGTG−3’)を有しているマウスCYP1A1プロモーター(482bp)、及びグルココルチコイド応答エレメント部位を除去したマウス乳癌ウイルス(MMTV)の長い末端反復(LTR)を含有する1.8kbのウイルスプロモーター断片をHindIII制限酵素で切断した後、HindIIIで切断したpGL3−basicベクターのHindIII部位にクローニングしてpCYP1A1−lucベクターを製造した(Hanら,BioFactors,2004年,第20巻,p.11-22)。プロモーターの方向はシーケンシングで確認した(
図1)。
【0051】
<1−2>組換えレポーター遺伝子を発現する形質転換細胞株の製造
1×10
5のマウス肝臓癌細胞株であるHepa1c1c7を6ウェルプレートに分注して、24時間培養して50%の密度になるようにした。前記実施例<1−1>で製造したpCYP1A1−lucベクター2μgとpcDNA3.1ベクター0.5μgを、血清及び抗生剤を含まない100μlのMEM−α培地に添加して10μlのSuperfect(Qiagen)と混合した後、常温で10分間反応させた。その後、10%牛胎児血清(FBS)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(P/S)を含んだ600μlのMEM−α培地を入れて混合した後、DPBSで洗浄したHepa1c1c7細胞に700μlのSuperfect−DNA反応液を入れて、37℃で3時間培養した。培養後、前記細胞をDPBSで洗浄し、10%FBS及び1%P/Sを含んだ新鮮な2mlのMEM−α培地に交換した。24時間後からG418 300μgを添加して、約3週間G418抵抗性細胞を選別した。コロニーが生成されると、それぞれのコロニーを60mm培養プレートに移した(
図2)。
【実施例2】
【0052】
組換えレポーター遺伝子を発現する形質転換細胞株に対する反応検査
<2−1>インドール3カルビノールを使用した反応検査
前記実施例<1−2>で製造したpCYP1A1−lucを安定的に発現する細胞株を60mm培養ディッシュに1×10
5の細胞数で分注して、48時間培養した。培養48時間後、0.5%charcoal-stripped FBSを含みフェノールレッドがないDMEM培地に交換して、インドール3カルビノールを0、0.01、0.1、1、10、及び100μMの濃度でそれぞれ4、8または24時間処理した。それぞれの処理時間後、細胞を回収してルシフェラーゼ分析を行なった。
【0053】
その結果、
図3のように、0.001ないし10μM濃度のインドール3カルビノール処理群は無処理群より濃度依存的にルシフェラーゼ活性が増加し、特に100μM濃度では約3倍以上ルシフェラーゼ活性が増加した。ここで、処理時間による有意な差は示されなかった(
図3)。
【0054】
<2−2>2,3,7,8−テトラクロロジベンゾ−p−ダイオキシン(TCDD)を使用した反応検査
前記実施例<1−2>で製造したpCYP1A1−lucを安定的に発現する細胞株を60mm培養ディッシュに2×10
5の細胞数で分注して、24時間培養した。培養24時間後、0.5% charcoal-stripped FBSを含みフェノールレッドがないDMEM培地に交換して、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾ−p−ダイオキシン(TCDD)を0、0.1、1、10、100、及び1000pMの濃度でそれぞれ4または8時間処理した。それぞれの処理時間後、細胞を回収してルシフェラーゼ分析を行なった。
【0055】
その結果、
図4のように、0.1または1pMのTCDDを処理した場合には、TCDDを処理しない対照群と類似のレベルのルシフェラーゼ活性を確認したが、10ないし1000pMのTCDDに対しては、対照群に比べて顕著にルシフェラーゼ活性が増加したことが示され、処理時間が長いほどルシフェラーゼ活性が多少増加したが顕著な差はなかった(
図4)。
【実施例3】
【0056】
ヒトの血清内に存在するダイオキシンの検出
<3−1>ヒト血清試料の準備
97名の成人から得た血清試料は、65℃で30分間熱不活性化して前処理した。このような過程は一般的な細胞培養方法において、熱処理による不活性化によって細胞培養に対する安全性を付与する。
【0057】
<3−2>ヒトの血清内ダイオキシンの検出及び身体変数による相関関係分析
前記実施例<1−2>で製造したpCYP1A1−lucを安定的に発現する細胞株5×10
4を96ウェルプレートに分注後、24時間培養した。培地をフェノールレッドがない90μl DMEM培地に交換して、最終濃度10%のヒト血清試料10μlを添加した後、24時間処理した。その後、各ウェルにある細胞をルシフェラーゼlysis buffer(Promega)で溶解した。各ウェルの細胞溶解物を1μlずつ96ウェルに移して、タンパク質をBCA法で定量した。残りの細胞溶解物は、Promegaルシフェラーゼ分析キットを用いたルシフェラーゼ分析に用いた。ルシフェラーゼ活性はタンパク質濃度に補正し、倍数誘導(fold induction)または%対照群としてその結果を表示した。
【0058】
その結果、
図5のように、97名のヒト血清試料に対する倍数誘導値は、2.00ないし3.00倍数区間に大部分分布してその外の区間では比較的低く、約2.50ないし2.65倍数に最も高い割合で存在することが示された。倍数誘導値の平均は、約2.35倍数であることが確認された(
図5)。
【0059】
また、ダイオキシンと多くの身体変数との相関関係を分析した結果、それぞれの変数に対するr及びP値が下記の表2のように示された。特に、
図6ないし11のように、直線回帰法によってヒトの体重、体質量指数(bmi)、腰まわり(wc)、収縮期血圧(sbp)、拡張期血圧(dbp)、中性脂肪(TG)、または空腹時の血糖(fbs)指数とダイオキシンとの間に有意な相関性があることを確認し、前記変数値が増加するほどダイオキシンの倍数値も増加する傾向を示した(
図6ないし11)。
【表2】
【0060】
また、飲酒及び喫煙の有無を基準に血清試料のダイオキシン倍数値を分析した結果、下記の表3及び表4のように、ダイオキシン倍数誘導値は飲酒及び喫煙者からさらに高く測定されることが確認された。
【表3】
【表4】
【0061】
また、多変量分析を実施した結果、下記の表5のように、相関性ある変数をすべて入力して補正した場合、飲酒有無のみが有意な相関性が維持されることを確認した。
【表5】
【0062】
また、正常耐糖能(NGT)、耐糖能障害(IGT)及び空腹血糖障害(IFG)からなる糖調節障害(IGR)、及び糖尿病(DM)によって、ダイオキシンに対するルシフェラーゼを分析した結果、下記の表6のように、NGTの血清に比べてIGRまたはDMの血清でルシフェラーゼ分析値が高く、IGR及びDM間には有意な差がなかった。
【表6】
【0063】
また、代謝症候群要素(MetS component)個数によるダイオキシン倍数誘導を分析した結果、下記の表7及び表8のように、MetS要素数が増えるほどダイオキシン倍数誘導値が増加することを確認し、MetS患者においては正常に比べてダイオキシン倍数誘導値が顕著に増加したことが示された。
【表7】
【表8】
【0064】
同時に、ダイオキシン倍数誘導の増加が代謝症候群または糖尿病に対する危険度にどのような相関性を有するのかを分析した結果、下記の表9ないし表11のように、ダイオキシン倍数誘導値が1増加する度に代謝症候群及び糖尿病危険がそれぞれ19.7倍及び11.9倍増加することが分析された。これをbmi指数に補正しても倍数誘導値が1ずつ増加する度に代謝症候群及び糖尿病がそれぞれ13倍及び8.7倍に有意に増加することが示され、年齢、性別及びbmiで補正しても代謝症候群または糖尿病が増加することが確認された。
【表9】
【表10】
【表11】
【産業上の利用可能性】
【0065】
前記のように、ダイオキシン類化合物によって発現が調節される組換えレポーター遺伝子を含有する形質転換細胞株を全血清(total serum)で処理する本発明の検出システムは、血清内ダイオキシンを容易かつ正確に高効率で検出することができるので、ダイオキシン類化合物と患者の疾病因子間の相関性を基にして、疾病の発病予測及び治療可否判定のための診断技術分野に利用できる。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]