(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
変速比を無段階に変化させることができるバリエータと、前記バリエータに対して直列に設けられる有段の副変速機構と、を備え、車両に搭載されて動力源の出力回転を変速し伝達する無段変速機の制御方法であって、
運転者からの変速指示が判定されると、予め設定されている複数のセレクト変速段から前記変速指示に対応した一つを選択し、選択されたセレクト変速段に対応する変速比を前記バリエータ及び前記副変速機構の全体の変速比であるスルー変速比の目標値として設定し、
前記変速指示がダウンシフトであって前記副変速機構の変速条件が成立する場合、スルー変速比が前記目標値となるように前記バリエータをダウンシフトさせるバリエータ変速と、前記バリエータのダウンシフト直後に前記副変速機構をダウンシフトさせながらスルー変速比を維持させるように前記バリエータをアップシフトさせる協調変速と、を行い、
前記車両がコースト走行時である場合、前記協調変速中に、前記動力源から前記無段変速機へ入力されるトルクを、前記ダウンシフト指示の判定前より増大させる、
無段変速機の制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、ある変速機構の「変速比」は、当該変速機構の入力回転速度を当該変速機構の出力回転速度で割って得られる値である。また、「最Low変速比」は当該変速機構の最大変速比を意味し、「最High変速比」は当該変速機構の最小変速比を意味する。
【0018】
図1は本実施形態に係る無段変速機を搭載した車両の概略構成図である。この車両は動力源としてエンジン1を備える。エンジン1の出力回転は、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータ2、第1ギヤ列3、無段変速機(以下、単に「変速機4」という。)、第2ギヤ列5、差動装置6を介して駆動輪7へと伝達される。第2ギヤ列5には駐車時に変速機4の出力軸を機械的に回転不能にロックするパーキング機構8が設けられている。
【0019】
また、車両には、エンジン1の動力の一部を利用して駆動されるオイルポンプ10と、オイルポンプ10からの油圧を調圧して変速機4の各部位に供給する油圧制御回路11と、油圧制御回路11を制御する変速機コントローラ12と、変速機コントローラ12からの指令に基づいてエンジン1のトルクを制御するエンジンコントローラ13と、が設けられている。
【0020】
各構成について説明すると、変速機4は、無段変速機構(以下、「バリエータ20」という。)と、バリエータ20に対して直列に設けられる副変速機構30とを備える。「直列に設けられる」とは同動力伝達経路においてバリエータ20と副変速機構30が直列に設けられるという意味である。副変速機構30は、この例のようにバリエータ20の出力軸に直接接続されていてもよいし、その他の変速ないし動力伝達機構(例えば、ギヤ列)を介して接続されていてもよい。
【0021】
バリエータ20は、プライマリプーリ21と、セカンダリプーリ22と、プーリ21、22の間に掛け回されるVベルト23とを備えるベルト式無段変速機構である。プーリ21、22は、それぞれ固定円錐板と、この固定円錐板に対してシーブ面を対向させた状態で配置され固定円錐板との間にV溝を形成する可動円錐板と、この可動円錐板の背面に設けられて可動円錐板を軸方向に変位させる油圧シリンダ23a、23bとを備える。油圧シリンダ23a、23bに供給される油圧を調整すると、V溝の幅が変化してVベルト23と各プーリ21、22との接触半径が変化し、バリエータ20の変速比vRatioが無段階に変化する。
【0022】
副変速機構30は前進2段・後進1段の変速機構である。副変速機構30は、2つの遊星歯車のキャリアを連結したラビニョウ型遊星歯車機構31と、ラビニョウ型遊星歯車機構31を構成する複数の回転要素に接続され、それらの連係状態を変更する複数の摩擦締結要素(Lowブレーキ32、Highクラッチ33、Revブレーキ34)とを備える。各摩擦締結要素32〜34への供給油圧を調整し、各摩擦締結要素32〜34の締結・解放状態を変更すると、副変速機構30の変速段が変更される。例えば、Lowブレーキ32を締結し、Highクラッチ33とRevブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は1速となる。Highクラッチ33を締結し、Lowブレーキ32とRevブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は1速よりも変速比が小さな2速となる。また、Revブレーキ34を締結し、Lowブレーキ32とHighクラッチ33を解放すれば副変速機構30の変速段は後進となる。なお、以下の説明では、副変速機構30の変速段が1速であるとき「変速機4が低速モードである」と表現し、2速であるとき「変速機4が高速モードである」と表現する。
【0023】
変速機コントローラ12は、
図2に示すように、CPU121と、RAM・ROMからなる記憶装置122と、入力インターフェース123と、出力インターフェース124と、これらを相互に接続するバス125とから構成される。
【0024】
入力インターフェース123には、アクセルペダルの開度(以下、「アクセル開度APO」という。)を検出するアクセル開度センサ41の出力信号、変速機4の入力回転速度(=プライマリプーリ21の回転速度、以下、「プライマリ回転速度Npri」という。)を検出するプライマリ回転速度センサ42pの出力信号、変速機4の出力回転速度(=セカンダリプーリ22の回転速度、以下、「セカンダリ回転速度Nsec」という。)を検出するセカンダリ回転速度センサ42sの出力信号、車両の走行速度(以下、「車速VSP」という。)を検出する車速センサ43の出力信号、変速機4の油温を検出する油温センサ44の出力信号、セレクトレバー45の位置を検出するインヒビタスイッチ46の出力信号、ブレーキペダルが踏み込まれていることを検出するブレーキスイッチ47の出力信号、ステアリングの周辺近傍に配設され、後述するマニュアルモードで変速段を選択するパドルスイッチ48の出力信号などが入力される。
【0025】
記憶装置122には、変速機4の変速制御プログラム、この変速制御プログラムで用いる変速マップ(
図3、
図4)が格納されている。CPU121は、記憶装置122に格納されている変速制御プログラムを読み出して実行し、入力インターフェース123を介して入力される各種信号に対して各種演算処理を施して変速制御信号及びエンジン制御信号を生成し、生成した変速制御信号及びエンジン制御信号を出力インターフェース124を介してそれぞれ油圧制御回路11及びエンジンコントローラ13に出力する。CPU121が演算処理で使用する各種値、その演算結果は記憶装置122に適宜格納される。
【0026】
油圧制御回路11は複数の流路、複数の油圧制御弁で構成される。油圧制御回路11は、変速機コントローラ12からの変速制御信号に基づき、複数の油圧制御弁を制御して油圧の供給経路を切り換えるとともにオイルポンプ10で発生した油圧から必要な油圧を調製し、これを変速機4の各部位に供給する。これにより、バリエータ20の変速比vRatio、副変速機構30の変速段が変更され、変速機4の変速が行われる。
【0027】
また、エンジンコントローラ13は、変速機コントローラ12からのエンジン制御信号に基づき、エンジン1のトルクを制御する。
【0028】
図3は変速機コントローラ12の記憶装置122に格納される変速マップの一例を示している。この変速マップは、セレクトレバー45がDレンジにあり、アクセル開度APO及車速VSPに基づき変速機4の変速、すなわちバリエータ20及び副変速機構30の変速が自動的に行われるモード(以下、「オートモード」という。)で使用されるマップである。
【0029】
この変速マップ上では変速機4の動作点が車速VSPとプライマリ回転速度Npriとに基づき決定される。変速機4の動作点と変速マップ左下隅の零点を結ぶ線の傾きが変速機4の変速比(バリエータ20の変速比vRatioに副変速機構30の変速比subRatioを掛けて得られる全体の変速比、以下、「スルー変速比Ratio」という。)を表している。この変速マップには、従来のベルト式無段変速機の変速マップと同様に、アクセル開度APO毎に変速線が設定されており、変速機4の変速はアクセル開度APOに応じて選択される変速線に従って行われる。なお、
図3には簡単のため、全負荷線(アクセル開度APO=8/8のときの変速線)、パーシャル線(アクセル開度APO=4/8のときの変速線)、コースト線(アクセル開度APO=0のときの変速線)のみが示されている。
【0030】
変速機4が低速モードのときは、変速機4はバリエータ20の変速比vRatioを最大にして得られる低速モード最Low線とバリエータ20の変速比vRatioを最小にして得られる低速モード最High線の間で変速することができる。このとき、変速機4の動作点はA領域とB領域内を移動する。一方、変速機4が高速モードのときは、変速機4はバリエータ20の変速比vRatioを最大にして得られる高速モード最Low線とバリエータ20の変速比vRatioを最小にして得られる高速モード最High線の間で変速することができる。このとき、変速機4の動作点はB領域とC領域内を移動する。
【0031】
副変速機構30の各変速段の変速比は、低速モード最High線に対応する変速比(低速モード最High変速比)が高速モード最Low線に対応する変速比(高速モード最Low変速比)よりも小さくなるように設定される。これにより、低速モードでとりうる変速機4のスルー変速比Ratioの範囲である低速モードレシオ範囲と高速モードでとりうる変速機4のスルー変速比Ratioの範囲である高速モードレシオ範囲とが部分的に重複し、変速機4の動作点が高速モード最Low線と低速モード最High線で挟まれるB領域にあるときは、変速機4は低速モード、高速モードのいずれのモードも選択可能になっている。
【0032】
変速機コントローラ12は、この変速マップを参照して、車速VSP及びアクセル開度APOに対応するスルー変速比Ratioを到達スルー変速比DRatioとして設定する。この到達スルー変速比DRatioは、当該運転状態でスルー変速比Ratioが最終的に到達すべき目標値である。そして、変速機コントローラ12は、スルー変速比Ratioを所望の応答特性で到達スルー変速比DRatioに追従させるための過渡的な目標値である目標スルー変速比tRatioを設定し、スルー変速比Ratioが目標スルー変速比tRatioに一致するようにバリエータ20及び副変速機構30を制御する。
【0033】
また、変速マップ上には副変速機構30の変速を行うモード切換変速線が低速モード最High線上に重なるように設定されている。モード切換変速線に対応するスルー変速比(以下、「モード切換変速比mRatio」という。)は低速モード最High変速比に等しい。
【0034】
そして、変速機4の動作点がモード切換変速線を横切った場合、すなわち、変速機4のスルー変速比Ratioがモード切換変速比mRatioを跨いで変化した場合は、変速機コントローラ12はモード切換変速制御を行う。このモード切換変速制御では、変速機コントローラ12は、副変速機構30の変速を行うとともに、バリエータ20の変速比vRatioを副変速機構30の変速比subRatioが変化する方向と逆の方向に変化させる協調変速を行う。
【0035】
協調変速では、変速機4のスルー変速比Ratioがモード切換変速比mRatioよりも大きい状態から小さい状態になったときは、変速機コントローラ12は、副変速機構30の変速段を1速から2速にアップシフト(1−2変速)させるとともに、バリエータ20の変速比vRatioを変速比大側に変化させる。逆に、変速機4のスルー変速比Ratioがモード切換変速比mRatioよりも小さい状態から大きい状態になったときは、変速機コントローラ12は、副変速機構30の変速段を2速から1速にダウンシフト(2−1変速)させるとともに、バリエータ20の変速比vRatioを変速比小側に変化させる。
【0036】
モード切換変速時、協調変速を行うのは、変速機4のスルー変速比Ratioの段差により生じる入力回転の変化に伴う運転者の違和感を抑えるためである。また、モード切換変速をバリエータ20の変速比vRatioが最High変速比のときに行うのは、この状態では副変速機構30に入力されるトルクがそのときにバリエータ20に入力されるトルクのもとでは最小になっており、この状態で副変速機構30を変速すれば副変速機構30の変速ショックを緩和することができるからである。
【0037】
図4は変速機コントローラ12の記憶装置122に格納される変速マップの一例を示している。この変速マップは、運転者がセレクトレバー操作又はパドル操作によって変速指示をした場合に、予め設定されている複数の変速段から変速指示に対応した一つが選択され、選択された変速段に変速比を固定するようにバリエータ20及び副変速機構30の少なくとも一方が制御されるモード(以下、「マニュアルモード」という。)において使用される。
【0038】
なお、マニュアルモードにおける変速段とは、変速マップ上に疑似的に設定された固定変速線のことを指すものであり、副変速機構30の変速段と区別するため、以下の説明では、マニュアルモードにおける変速機4の変速段をそれぞれM1速〜M7速と称する。
【0039】
図4に示すマニュアルモード変速マップには、低速モードの最Low線にほぼ沿うように設定されたM1速線と、高速モードの最High線よりLow側であって低速モード最High線よりHigh側に設定されたM7速線と、M1速線とM7速線との間に設定されたM2速線〜M6速線と、の合計7速分の変速線が設定されている。
【0040】
運転者は、マニュアルモードへの移行を希望する場合は、セレクトレバー45やパドル48等を操作して、マニュアルモードへの移行を指示する。これを受けて変速機コントローラ12は、変速マップを
図3のオートモードの変速マップから
図4のマニュアルモードの変速マップへと変更する。これにより、マニュアルモードに移行する。
【0041】
マニュアルモードに移行したとき、変速機コントローラ12は、まず、マニュアルモード変速マップのうち、現在の変速比に最も近いマニュアルモード変速線に変速比を変更する。または、マニュアルモードに移行したとき、現在の変速比を固定しておき、運転者から変速の指示があったときに、変速線に沿って変速させてもよい。
【0042】
マニュアルモードに移行後、運転者がセレクトレバー操作又はパドル操作によって所望の変速段(M1〜M7)を指示した場合は、変速機コントローラ12は、指示された変速段に変速比が固定されるように、
図4に示すマニュアルモード変速マップの所定の変速線上に動作点を移動させる。これにより、マニュアルモード変速が実現される。
【0043】
このマニュアルモードの変速線のうち、M1速線及びM2速線は、副変速機構30が低速モードの時にのみ実現可能であり、M7速線は、副変速機構30が高速モードのときにのみ実現可能である。また、M3速線、M4速線、M5速線及びM6速線は、副変速機構30が、低速モード及び高速モードのいずれの状態であっても実現可能である。
【0044】
したがって、副変速機構30が低速モード及び高速モードのいずれであっても実現可能な領域(B領域)に、副変速機構30を高速モードから低速モードへとダウンシフトさせる2−1DOWN線と、副変速機構30を低速モードから高速モードへとアップシフトさせる1−2UP線と、が設定されている。すなわち、2−1DOWN線はM3速とM4速との間に設定され、1−2UP線はM5速とM6速との間に設定される。
【0045】
副変速機構30が高速モードにある状態でかつM4速が選択されている場合に、運転者の指示によりM3速にダウンシフトが行われる場合、変速機コントローラ12は、今後、副変速機構30の変速が必要となるM2速に移行する可能性が高いと判断して、バリエータ20のみによるM4速からM3速に変速が行われた直後に、副変速機構30のダウンシフトを実行する。
【0046】
また、副変速機構30が低速モードにある状態でかつM5速が選択されている場合に、運転者の指示によりM6速にアップシフトが行われる場合、変速機コントローラ12は、今後、副変速機構30の変速が必要となるM7速に移行する可能性が高いと判断して、バリエータ20のみによるM5速からM6速に変速が行われた直後に、副変速機構30のアップシフトを実行する。
【0047】
すなわち、マニュアルモードでは、現在の変速段に対して、運転者の指示に基づいて変速された後の変速段のさらに一つ先の変速段が、副変速機構30を変速しないと実現できない変速段である場合、変速機コントローラ12は、運転者の変速指示に基づくバリエータ20の変速直後に、副変速機構30の変速を実行する。
【0048】
このように、変速線が2−1DOWN線又は1−2UP線を跨ぐ際の変速は、変速の応答性を高めるために、まず、バリエータ20を変速させてスルー変速比Ratioを目標スルー変速比tRatioへと追従させて、指示された変速段への変速を完了(以下、この変速を「バリエータ変速」という)した後に、バリエータ20と副変速機構30とでスルー変速比Ratioが変化しないように協調変速を行う。
【0049】
これにより、変速機の動作点が、高速モード最Low線と低速モード最High線で挟まれるB領域である場合、運転者の指示に基づく変速はバリエータ変速によって変速応答性を確保しつつ、次の変速で副変速機構30の変速が予測される場合は、協調制御によって予め副変速機構30を変速させておくことができる。したがって、その後の運転者の変速指示に基づく変速段に対応する変速比がA領域やC領域の変速比である場合は、既に副変速機構30の変速は完了しているので、バリエータ変速によって変速応答性を確保することができる。
【0050】
つまり、マニュアルモードにおいて、運転者の変速指示に基づいて変速を行う場合、スルー変速比Ratioは常にバリエータ変速によって変化させるので、変速パターン(M4速→M3速、M5速→M6速など)にかかわらず常に高い変速応答性を実現することができる。
【0051】
ここで、マニュアルモードにおいて運転者のシフト操作に応じてダウンシフトを行う場合であって、上述のようにバリエータ変速の直後に協調変速を行う場合(M4速→M3速変速の場合)、協調変速によって副変速機構30が低速モードへとダウンシフトされるのと同時にバリエータ20の変速比vRatioがHigh側に変化する。
【0052】
この協調変速によってスルー変速比Ratioは変化しないが、バリエータ20のセカンダリ回転速度、すなわち副変速機構30の入力回転速度が上昇する。よって、副変速機構30の締結側摩擦要素であるLowブレーキ32は協調変速前後の回転速度差を吸収しながら締結することで、変速前後でトルクの受け渡しが発生し、減速Gが生じる。
【0053】
特に、エンジントルクが負の値であるコースト走行中には、副変速機構30の変速がトルクフェーズ、イナーシャフェーズの順に行われるので、バリエータ変速直後の協調変速における副変速機構30のトルクフェーズでの減速Gの発生が、協調変速前のバリエータ変速によって生じる減速Gより遅れることとなり、減速Gが長引くことによる引き摺り感によって運転者に違和感を与える可能性がある。
【0054】
また、Lowブレーキ32の締結時間(解放状態から締結状態への移行に要する時間)を長くすることで、減速Gを小さくすることが可能であるが、この場合、Lowブレーキ32の摩擦材の発熱量が増加して摩擦材の耐久性が低下する可能性がある。
【0055】
反対に、Lowブレーキ32の締結時間を短くすることで摩擦材の発熱量を低下させることが可能であるが、単位時間当たりのエンジン回転速度の変動が大きくなり、運転者の意図しないショックが生じて運転性が悪化する可能性がある。
【0056】
そこで、本実施形態では以下のように制御している。
図5は変速機コントローラ12が実行する制御のうち、マニュアルモード時に変速機コントローラ12からエンジンコントローラ13へ指令を出力する制御の内容を示したフローチャートである。したがって、本フローチャート以外に、変速機コントローラ12から油圧制御回路11に指令を出力するフローチャートがあり、本フローチャートとは別に実行されている。なお、これらのフローチャートは一定時間(例えば、10msec)毎に繰り返し実行される。
【0057】
ステップS1において変速機コントローラ12は、変速機4がマニュアルモードであるか否かを判定する。変速機コントローラ12は、例えば、セレクトレバー45がMレンジにある場合又はパドルスイッチ48が操作された場合にマニュアルモードであると判定する。マニュアルモードであると判定されると処理がステップS2へ進み、マニュアルモードでないと判定されると処理が終了する。
【0058】
ステップS2において変速機コントローラ12は、運転者からのダウンシフト指示が入力されたか否かを判定する。変速機コントローラ12は、例えば、セレクトレバー45又はパドルスイッチ48がダウンシフト側に操作された場合、ダウンシフト指示が入力されたと判定する。ダウンシフト指示が入力されたと判定されると処理がステップS3へ進み、ダウンシフト指示が入力されていないと判定されると処理が終了する。
【0059】
ステップS3において変速機コントローラ12は、副変速機構30の2→1変速が必要であるか否かを判定する。変速機コントローラ12は、例えば、
図4に示すマニュアルモード時の変速マップ上で動作点が2−1DOWN線を跨ぐことになる変速、すなわちM4速からM3速への変速指示が入力された場合、副変速機構30の2→1変速が必要であると判定する。副変速機構30の2→1変速が必要であると判定されると処理がステップS4へ進み、副変速機構30の2→1変速が必要でないと判定されると処理が終了する。
【0060】
ステップS4において変速機コントローラ12は、パワーOFFであるか否かを判定する。変速機コントローラ12は、運転者がアクセルペダルを踏み込んでいない状態である車両のコースト走行時にパワーOFFであると判定する。なお、パワーOFFであることは、アクセルペダルを踏み込んでいるが、その踏み込み量が比較的小さいため、実質的にはコースト走行となる走行状態を含んでいてもよい。パワーOFFであると判定されると処理がステップS5へ進み、パワーOFFでないと判定されると処理が終了する。
【0061】
ステップS5において変速機コントローラ12は、ダウンシフト指示から所定のディレイ時間が経過したか否かを判定する。変速機コントローラ12は、例えば、ステップS2においてダウンシフト指示が入力されたと判定された場合にカウントを開始するタイマを備え、タイマ値が所定の値に達した場合、ダウンシフト指示から所定のディレイ時間が経過したと判定する。所定のディレイ時間は、ダウンシフト指示が入力されてから実際にバリエータ20の変速が開始されるまでの応答遅れを考慮して設定される微小時間である。ダウンシフト指示から所定のディレイ時間が経過したと判定されると処理がステップS6へ進み、ディレイ時間が経過していないと判定されると処理が終了する。
【0062】
ステップS6において変速機コントローラ12は、エンジンコントローラ13に対しエンジン1のトルクを増大させるトルクアップ要求を出力する。エンジンコントローラ13は、エンジン1の吸気量及び燃料噴射量を増大させることでトルクアップを行う。エンジン1のトルク増大量は、Lowブレーキ32の締結に際して摩擦材の耐久性の低下を抑制できる程度の値に設定される。
【0063】
トルク増大前のエンジントルクは負の値であるので、変速機コントローラ12は、トルク要求値を所定のショック防止上昇率で増加させる。これにより、エンジン1のトルク要求値が急激に上昇して、Lowブレーキ32の締結時に車両に加速Gが生じることを防止できる。
【0064】
ステップS7において変速機コントローラ12は、副変速機構30の2→1変速が終了したか否かを判定する。変速機コントローラ12は、副変速機構30のHighクラッチ33(解放側摩擦要素)とLowブレーキ32(締結側摩擦要素)との掛け替えが終了した(終了フェーズが完了した)時、副変速機構30の2→1変速が終了したと判定する。副変速機構30の2→1変速が終了したと判定されると処理がステップS8へ進み、副変速機構30の2→1変速が終了していないと判定されると処理がステップS6へ戻る。
【0065】
ステップS8において変速機コントローラ12は、ステップS6においてエンジンコントローラ13に対して出力したトルクアップ要求を解除する。このとき、変速機コントローラ12は、トルク要求値をトルクアップ前のエンジントルクまで所定のショック防止減少率で低下させる。トルク要求値が所定のショック防止減少率で低下することにより、エンジントルクが急激に低下することによる減速Gの発生を防止することができる。
【0066】
以上の処理をまとめると、変速機コントローラ12は、マニュアルモードにおいてパワーOFFダウンシフトが行われる場合であって、副変速機構30のダウンシフトが必要な場合には、バリエータ変速の開始時から協調変速の終了時点までエンジントルクを増大させる。
【0067】
図6は、マニュアルモードにおけるパワーOFFダウンシフト時の様子を示したタイムチャートである。
【0068】
時刻t1において、マニュアルモードで走行中にセレクトレバー45又はパドルスイッチ48が操作されてセレクト変速段がM4速からM3速に変更されると、M3速に対応する到達スルー変速比DRatioに基づいて決定された目標スルー変速比tRatioにスルー変速比Ratioが追従するように、バリエータ20の変速比vRatioがLow側に変化する。これにより、スルー変速比Ratioが変化してエンジン回転速度がM3速に対応するエンジン回転速度である到達回転速度まで上昇する。
【0069】
また、時刻t1において、副変速機構30の変速フェーズが、副変速機構30のダウンシフトの準備を開始する準備フェーズに移行する。準備フェーズでは、Lowブレーキ32の締結及びHighクラッチ33の解放を準備する。
【0070】
時刻t1から所定のディレイ時間が経過すると、トルクアップ要求が出力され、トルク要求値が所定のショック防止上昇率で上昇する。これに伴って、エンジントルクもトルク要求値に追従するように徐々に上昇する。
【0071】
トルクアップ要求は所定のディレイ時間が経過してから出力されるので、ダウンシフト指示が入力されてから実際にバリエータ20の変速が開始されるまでの応答遅れがあった場合に、車両の減速Gが低下して加速感が生じることによって運転者に違和感を与えることを防止することができる。
【0072】
さらに、トルク要求値は所定のショック防止上昇率で上昇させるので、バリエータ変速によってダウンシフト中であるにもかかわらず車両の加速感が生じて運転者に違和感を与えることを防止することができる。
【0073】
その後、スルー変速比Ratioが到達スルー変速比DRatioに達してバリエータ変速が完了する。これにより、ダウンシフトが完了し、運転者の変速指示通りのセレクト変速段(M3速)が実現される。
【0074】
時刻t2において、副変速機構30の変速フェーズが、締結側のLowブレーキ32と解放側のHighクラッチ33とでトルクの架け替えを行うトルクフェーズに移行する。これにより、Highクラッチ33への供給油圧が低下するとともにLowブレーキ32への供給油圧が上昇する。
【0075】
このとき、トルクアップ要求によってエンジントルクが増大しているので、Lowブレーキ32が締結する際に、Lowブレーキ32でバリエータ20側の回転速度を上昇させることによるイナーシャの発生を抑制して、車両の減速Gが増大することを抑制することができる。
【0076】
時刻t3において、副変速機構30の変速フェーズが、副変速機構30とバリエータ20とを変速するイナーシャフェーズに移行する。このイナーシャフェーズでは、副変速機構30を2速から1速にダウンシフトさせると同時に、バリエータ20の変速比vRatioを変速比小側に変速させる協調変速が行われる。これにより、Highクラッチ33が徐々に解放されるとともにLowブレーキ32が徐々に締結されて、副変速機構30の変速段が2速から1速へと徐々に移行する。
【0077】
このときもトルクフェーズと同様に、トルクアップ要求によってエンジントルクが増大しているので、Lowブレーキ32の締結が進行しても、それによるイナーシャの発生が抑制されて、車両の減速Gの増大を抑制することができる。
【0078】
時刻t4において、副変速機構30の変速フェーズが終了フェーズに移行する。
【0079】
時刻t5において、協調変速が終了すると、トルクアップ要求が解除され、トルク要求値がトルクアップ前のエンジントルクまで所定のショック防止減少率で低下する。これに伴って、エンジントルクもトルク要求値に追従するように徐々に低下する。
【0080】
トルク要求値は所定のショック防止減少率で低下させるので、ダウンシフトが完了しているにもかかわらず車両の減速感が生じて運転者に違和感を与えることを防止することができる。
【0081】
これにより、マニュアルモードにおけるパワーOFFダウンシフト時の処理が終了する。
【0082】
以上のように本実施形態では、マニュアルモードにおけるパワーOFFダウンシフト時であって協調変速中に、エンジントルクをダウンシフト指示が判定される前のトルクより増大させるので、協調変速時に副変速機構30のLowブレーキ32が協調変速前後の回転速度差を吸収することによる減速Gの発生を抑え、意図しない引き摺り感の発生を抑制することができる。さらに、減速Gの発生が抑制されることにより、協調変速時間を短縮できるとともに、摩擦材の耐力の低下を防止することができる。
【0083】
さらに、エンジン1のトルクアップを、バリエータ変速が開始されてから協調変速が終了するまでの間行うので、協調変速が行われている間により確実に減速Gの発生を抑えることができ、意図しない引き摺り感の発生を抑制することができる。
【0084】
さらに、運転者によって選択されたセレクト変速段が、変速指示前の副変速機構30の変速段で実現可能な最もLow側の変速段である場合、つまり、M4速からM3速へのダウンシフト指示があった場合に副変速機構30の2→1変速が必要であると判定され、この場合にエンジントルクを増大させるので、バリエータ変速の直後に協調変速が行わることでバリエータ変速時の減速感が協調変速時まで継続することによって引き摺り感が生じて運転者に違和感を与えることを防止することができる。
【0085】
さらに、変速機コントローラ12は、運転者からのダウンシフト指示が入力されてから所定のディレイ時間後にトルクを増大させるので、ダウンシフト指示が入力されてから実際にバリエータ20の変速が開始されるまでの応答遅れがあったとしても、車両の減速Gが低下して加速感が生じることによって運転者に違和感を与えることを防止することができる。
【0086】
さらに、変速機コントローラ12は、トルク要求値を所定のショック防止上昇率で増大させるので、バリエータ変速によってダウンシフト中であるにもかかわらず車両の加速感が生じることによって運転者に違和感を与えることを防止することができる。
【0087】
さらに、変速機コントローラ12は、トルク要求値を所定のショック防止減少率で低下させるので、ダウンシフトが完了しているにもかかわらず車両の減速感が生じることによって運転者に違和感を与えることを防止することができる。
【0088】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例を示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0089】
例えば、上記実施形態では、バリエータ20としてベルト式無段変速機構を備えているが、バリエータ20は、Vベルト23の代わりにチェーンベルトがプーリ21、22の間に掛け回される無段変速機構であってもよい。
【0090】
また、動力源としてエンジン1を備えているが、動力源はエンジン1にモータを組み合わせたもの、又は、モータ単体であってもよい。
【0091】
本願は2012年10月15日に日本国特許庁に出願された特願2012−227840に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。